説明

ディジタルホログラフィ像再生方法及びプログラム

【課題】ディジタルホログラフィ法で動的な被写体を容易に計測できるようにする。
【解決手段】ディジタルホログラフィ像再生において、チルト位相シフトホログラフィ法により4つの位相シフト量で得られた観測ホログラム画像を入力し、次に、ある位相シフト量について4画素おきに得られているホログラム画像において、観測データが欠落している画素の画像データを、物体光と参照光の干渉縞の光強度を表す波動光学の式に基づいて推定する。次に、観測データと推定データとからなる複素振幅ホログラムにおいて、背景雑音を除去する。そして、背景雑音を除去した複素振幅ホログラムから再生像空間内の再生光分布を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相シフト法を用いるディジタルホログラフィにおける像再生に関する。
【背景技術】
【0002】
微小な粒子・液滴などを3次元で計測する手法として、従来のホログラフィ法に代わり、ディジタルホログラフィ法が主流になっている(Ulf Schnars and Werner Jueptner, Digital Holography, Springer (2005) pp.107-111)。ディジタルホログラフィ法では、カメラなどで観測ホログラムを直接コンピュータに取り込み、コンピュータ内で仮想的かつ数値的に像再生を行う。ディジタルホログラフィ法の光学系としては、−1次、0次、+1次の回折光を完全に分離できる位相シフトホログラフィ法(特開平10−268740号公報)が広く用いられている。位相シフトホログラフィ法では、参照波の位相は、初期位相値を0としたときにたとえば0、π/2、πおよび3π/2の異なる位相値にシフトされる。この参照波と物体波とを同時に撮像面に照射することによって観測ホログラムを生成する。こうして得られる複数位相での観測ホログラムから物体波の位相データと物体波の振幅データとを演算し、演算した物体波の位相データと物体波の振幅データとから物体波データを構成し、この物体波データを変換して再生像を演算する。これにより、−1次、0次、+1次の回折光を完全に分離でき、再生像にいわゆるゴースト像が伴わないので、高精度の再生像を生成できる。この方法では、物体光と参照光との交叉角度を大きくしなくてもよく、物体波と参照波とは撮像面にほぼ同一入射角で照射される。
【0003】
しかし、位相シフトホログラフィ法では、参照光の位相をシフトさせて4枚のホログラムを撮影する必要があるため、動的な被写体(たとえば移動する粒子・液滴)の撮影には適さない、という問題があった。これを克服するために、所定の位相差を与える位相シフトアレイデバイスを使用する光学系(特開2005−283683号公報)が提案されているが、これには位相シフトアレイデバイスの開発が難しいという問題がある。
【0004】
別のアプローチとして、受光素子表面に対して参照光の入射角を傾けて斜めに入射させることで、ホログラムの干渉パターンを検出する受光素子表面での参照光の位相を、ある周期で変化させる光学系が提案されている(3次元画像コンファレンス2007、P-14)。このチルト位相シフトホログラフィ法では、たとえば参照光の位相周期を4画素とすると、位相の異なる4つの観測ホログラム画像を瞬時に撮影できる。このとき、同じ位相周期に対する干渉パターンは4画素おきに記録されている。記録されていない画素のデータは、3次補間により求められている。
【0005】
ホログラム画像の再生方法としては、再生像を光強度で算出する方法(Digital Holography, Springer (2005) pp.107-111)が用いられている。また、特開2007−263864号公報では、背景部の位相を基準として相対的な位相値から像を再生する位相再生法が提案されている。
【0006】
動的な被写体、たとえば移動する粒子・液滴、をディジタルホログラフィ法で測定する場合、光学系には、上述のチルト位相シフトホログラフィ法が最適であると考えられる。これは、シングルショットでの撮影が可能であるからである。しかし、チルト位相シフトホログラフィ法で高精度の計測を行うためには改良すべき問題がある。
【特許文献1】特開平10−268740号公報
【特許文献2】特開2005−283683号公報
【特許文献3】特開2007−263864号公報
【非特許文献1】Ulf Schnars and Werner Jueptner, Digital Holography, Springer, pp.107-111 (2005)
【非特許文献2】峠裕之ほか、3次元画像コンファレンス2007、P-14(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ディジタルホログラフィ法で動的な被写体を容易に計測できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るディジタルホログラフィ像再生方法では、チルト位相シフトホログラフィ法により4つの位相シフト量で得られた観測ホログラムを入力し、次に、ある位相シフト量について4画素おきに得られている観測ホログラムにおいて、観測データが欠落している画素の画像データを、物体光と参照光の干渉縞の光強度を表す波動光学の式に基づいて推定し、次に、観測データと推定データとからなる複素振幅ホログラムにおいて、背景雑音を除去する。そして、背景雑音を除去した複素振幅ホログラムから再生像空間内の再生光分布を算出する。ここで、上述の画像データの推定と背景雑音の除去は、少なくとも一方を実行する。
【0009】
本発明に係るディジタルホログラフィ像再生プログラムは、チルト位相シフトホログラフィ法により4つの位相シフト量で得られた観測ホログラムを入力するステップと、ある位相シフト量について4画素おきに得られているホログラム画像において、観測データが欠落している画素の画像データを、物体光と参照光の干渉縞の光強度を表す波動光学の式に基づいて推定するステップと、次に、観測データと推定データとからなる複素振幅ホログラムにおいて、背景雑音を除去するステップと、次に、背景雑音を除去した複素振幅ホログラムから再生像空間内の再生光分布を算出するステップとをコンピュータに実行させるためのプログラムである。ここで、上述の画像データの推定のステップと背景雑音の除去のステップは、少なくとも一方を実行する。
【発明の効果】
【0010】
チルト位相シフトホログラフィ法により得られる観測ホログラムにおいて、観測データが欠落している画素のホログラムデータを、波動光学理論(物体光と参照光の干渉縞の光強度を表す式)に基づいて理論的に近似するので、複素振幅ホログラムがより正確に推定できた。
チルト位相シフトホログラフィ法により得られる複素振幅ホログラム、特にその位相情報に生じる背景雑音を除去することにより像再生の精度が大きく向上した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して発明の実施の形態を説明する。
ホログラム画像の再生方法として、本発明者らは位相再生法(特開2007−263864号公報)を提案しているが、本発明の実施形態では、入力ホログラムの前処理を行うことにより、チルト位相シフトホログラフィ法における像再生の精度を向上する。
【0012】
像再生と計測は、コンピュータにより図1に示すような手順で行われる。まず、観測された画像(観測ホログラム)を入力する(S10)。次に、後で詳しく説明するように、観測ホログラムから4つの異なる位相シフト量のホログラム画像を生成し(S12)、さらに、得られたホログラム画像において背景雑音(背景むら)を除去する(S14)。次に、こうして前処理して得られた複素振幅ホログラムを用いて、再生光の照射を数値的に計算して、再生像空間内の再生光分布を算出する(S16)。「再生光分布」とは、光振幅またはそれから導出される光強度、位相などのさまざまな量をいう。次に、再生画像を基にして被写体についての計測データを得る。この例では、動的な被写体の1例である微小な噴霧粒子(高密度粒子場)を被写体としてホログラム画像が撮影されている。ここで、再生画像より、各噴霧粒子の空間位置を計測し(S18)、粒子空間位置における再生像から粒径を計測する(S20)。そして、各種物理量(粒子の数密度、粒径、空間位置など)を出力する(S22)。ビデオカメラを利用すると時系列的解析ができる。この計測処理についてはここでは説明を省略する。
【0013】
参照光をチルトさせる光学系に、動的な被写体の計測を可能にする上述の位相再生法を適用する場合、背景においてホログラムデータ、特にその位相情報に大きなむらが生じ、計測精度が大きく低下するという問題があった。これは、参照光のチルト角の誤差や、撮像素子面に固有のむらなどに起因するものである。特に、背景むら(背景雑音)が振動によって大きく変動する場合、その除去が困難であった。この背景雑音は、チルト位相シフトホログラフィ法で目立つため除去する必要がある。また、チルト入射する光学系では、隣り合う画素ごとに位相をπ/2ずつシフトさせたホログラム画像を撮影するため、各位相のホログラムデータは4画素おきとなり、それぞれの画像では4列ごとに3列の情報の欠落した画素が生じる。このため記録データが欠けている画素について適切な情報を得る必要性があった。
【0014】
そこで、本実施形態では、チルト式位相シフトホログラフィ法により得られたデータの再生において、得られた観測ホログラムの前処理において次の2つの手法を導入する。まず観測ホログラムを各位相シフト量の画像に4分割する手順において、4画素おきにしか得られない観測データを用いて、補間すべき3画素すべての光強度値(ホログラムデータ)を、単純に線形補間または曲面補間などをするのではなく、3画素のうちの中央の画素の光強度値を波動光学の基本式を用いて理論的に近似する(S12)。これにより、推定すべき3画素のホログラムデータの精度を改善できる。次に、背景雑音の除去については、ホログラム面における複素振幅ホログラムが位相シフトホログラフィ法に基づき求められるので、この情報を用いて背景のホログラムにおける位相分布を予め求めておく(S14)。再生光分布の算出(S16)においては、その基準値からの位相ずれ量を使用して複素振幅ホログラムの位相を修正する。
【0015】
以下に、位相再生法について詳細に説明する。まず位相シフトホログラフィ法とチルト位相シフトホログラフィ法について説明する。
【0016】
位相シフトホログラフィ法は、インライン法において0次像と共役像が重なって再生されてしまう現象を回避する方法として提案された。図2に、位相シフトホログラフィ法のための光学系を示す。まずレーザ10で生成された光線は、空間フィルタ12を通りコリメートレンズ14により平行にされた後、ハーフミラー16に入射して2方向に分けられる。物体光側の光は、フルミラー18により反射され、被写体20を透過する。物体光は、さらに、ハーフミラー24を透過して、デジタルカメラ26内の撮像素子(CCD,NMOSなど)に入射する。一方、参照光はハーフミラー16を透過し、フルミラー22とハーフミラー24により反射されて、デジタルカメラ26内の撮像素子に入射する。ここで、従来の位相シフトホログラフィ法の場合は、フルミラー22にピエゾ素子(PZT)を使用して参照光の光路長を変化させる。これにより参照光の位相をシフトさせて複数位相でのホログラムを順次記録する。これに対して、チルト位相シフトホログラフィ法の光学系では、参照光の光路に設けられるフルミラー22の位置を傾けて、参照光と物体光とを互いに非平行にしてデジタルカメラ26に入射させる。たとえば、図3に示すように、撮像素子の入射面(xy面)に対して、参照光をx軸方向に角度θ傾けて入射し、参照光の位相周期を4画素とする。これにより、参照光の位相は初期位相を0とすると画素ごとに0,π/2、π、3π/2と変化し、1回の撮影で4つの位相の観測ホログラムが得られる。ただし、同じ位相のデータは4画素ごとに記録されている。
【0017】
コンピュータ30は、デジタルカメラ26内の撮像素子で記録された観測ホログラム画像を入力して、被写体の像を再生する。ここで、コンピュータ30は通常のコンピュータと同様の構成を備える。全体を制御するCPU32は、キーボードなどの入力手段34,プリンタ、表示装置などの出力手段36、外部との入出力インタフェース38、ハードディスク装置などの記憶装置40に接続される。記憶装置40には、各種プログラムと各種データが記憶されるが、その中には、観測ホログラムデータを処理する像再生プログラムを含む画像処理プログラム42や、ホログラムデータ44,再生像データ46が含まれる。
【0018】
以下に、参照光の位相を画素ごとに0、π/2、π、3π/2だけシフトさせて得られる4枚のホログラム画像を用いる位相シフトホログラフィ法について説明する。物体光と参照光を干渉させて形成される干渉縞の光強度Iは一般に次の式(1)のように表される。

ここで、I、Φo、Aはそれぞれホログラム面での各空間位置(x,y)における平均光強度、物体光と参照光の位相差、光強度振幅を表す。参照光の位相シフト量がΔφとなると式(2)のようになる。

したがって、それぞれの位相シフト量における光強度分布Ii(i=1,2,3,4)は式(3)のように表すこともできる。

【0019】
これらよりホログラム面での平均光強度I0、物体光と参照光の位相差Φo、光強度振幅Aはそれぞれ以下の式(4)〜(6)で導出できる。





【0020】
これらの式から上述の4枚の位相シフトホログラム画像を用いて平均光強度I0、位相差Φo、光強度振幅Aを求めることができる。ここでは、ディジタルホログラムを用いて「光振幅」を直接計算しているが、一般的には目的に応じて光振幅から導出されるいずれかの再生光分布を計算すればよい。「再生光分布」とは、光振幅またはそれから導出される光強度、位相などのさまざまな量をいう。
【0021】
以上に説明したように、チルト式位相シフトホログラフィ法において、4つの位相でのホログラム画像が同時に得られ、同じ位相のデータは4画素ごとに記録される。次に、チルト式位相シフトホログラフィ法において取得した観測ホログラムの前処理(図1、S12およびS14)について説明する。(以下では、各画素の光強度値をホログラムデータという。)
【0022】
まず、1つの位相シフト量のデータについて、観測データが欠けている3つの画素のホログラムデータを波動光学の基本式により理論的に推定する推定補間(図1、S12)のプログラムの手順について説明する。ただしこの推定補間手法は位相の4分割のときのみ可能であり、3分割の場合には適応できない。図4に示されるように、1つの位相での観測データは4画素ごとに得られるので、観測ホログラムのデータを位相シフト量に応じて4分割する(S120)。次に、ある位相シフト量の場合に、観測データが欠けている3画素のうち中央の1画素のみ、シフト量の異なるホログラムデータを用いてホログラムデータを波動光学に基づいて理論的に推定し(S122)、次に、残りの2画素のホログラムデータはたとえば線形補間により求める(S124)。これを、すべての位相シフト量の場合におこなう。
【0023】
推定補間についてさらに説明すると、たとえば注目画素を位相シフト量πの画素とし、位相0のホログラムデータIの補間を行う場合について説明する。注目画素の位置を(x,y)とする。注目画素のホログラムデータIは既知である。まず、推定補間を行う画素のホログラムデータの平均値I(x,y)を式(4)により求める。ただし同じ位置でのホログラムデータはわからないため、式(4)の代わりに以下の近似式(7)を用いて、両隣の画素の観測ホログラムのデータI(x-1,y)、I(x+1,y)より光強度分布の平均値I(x,y)を求める。

式(7)では、隣接した画素のホログラムデータを用いて算出した平均値は変わらないという仮定の元に平均値Iを求めている。ここで、位相シフト量πの画素の位置を(x,y)で表しているので、位相シフト量π/2、3π/2の画素の位置は、(x-1,y)、(x+1,y)である。式(4)から以下の関係が成り立つ。

I3は既知であるので、IからI(x,y)が求まる。その後、残りの2画素のホログラムデータを、隣接する2画素のホログラムデータを基に補間(たとえば線形補間)を行って、求める。これらの操作は他の位相値でのホログラムデータI,I,Iでも同様に行うことができる。こうして、観測データが欠落していたすべての画素の補間データが得られる。上述の画像データの推定を一般的に表現すると、ある位相シフト量でのホログラム画像のホログラムデータI(x,y)(i=1,2,3または4)についての平均値I(x,y)の式I(x,y)=(If(i+2)(x,y)+If(i)(x,y))/2を、I(x,y)=(If(i+2)(x−1,y)+If(i)(x+1,y))/2と近似して(ただしf(i)はiを4で割った余りに1を加えた整数)、平均値を観測データより算出する。そして、観測データが欠けている3画素位置のうち中央の画素位置のホログラムデータIf(i+1)(x,y)を、2I(x,y)−I(x,y)として算出する。次に、観測データが欠けている残りの2画素位置のホログラムデータを補間により求める。
【0024】
次に、背景雑音の除去(図1、S14)について説明する。チルト式位相シフトによる4分割ホログラム画像には背景に大きな波長の縞が認められることがある。これは光学系の調整のずれが生むものであり、光振幅分布として表される複素振幅ホログラムに直接影響を及ぼし、特に相対位相による再生像の背景が空間的に著しく変化し、動く被写体(粒子)の検出を困難にする。しかし、この背景むらは、背景画像を取得しておくことで排除することが可能である。図5に示すプログラムのように、背景画像の位相分布φ(x、y)を求め(S140)、修正位相分布φ(x、y)は単純に背景画像のホログラムの位相分布との差として求める(S142)。すなわち、修正位相分布は、式(9)において

と表される。なお、ここではすべての画素位置で差を求めたが、いくつかの代表的画素位置に関して差を求めてもよい。
【0025】
図6に背景雑音除去の数値シミュレーション結果の1例を示す。(a)が背景処理をしない場合、(b)が背景処理を施した場合である。それぞれのホログラム面での位相分布を比較すると、背景処理の効果が大きいことが確認できる。
【0026】
一方、一般に光学系支持部が振動の影響を受けるため、上述の背景処理では背景画像自体が取得できない場合がある。そのような場合、式(10)に示すように、振動の影響を時系列ホログラムから排除する。この方法は、カメラが撮像素子に対して垂直方向に一定量だけ変位していることを前提に位相を補正するものであり、時刻tにおける補正された位相φ'o(x,y,t)で表される。ただし、Δφo(t)は背景画像の位相φ(x,y)に対する時刻tでの位相補正量を表す。そして、式(9)と同様に背景の位相との差を取り、背景雑音の除去を行う。この式(10)において、Nxは画像横軸方向の計算点列数であり、Nyは画像縦軸方向の計算点行数である。

具体的な計算手順では、図7のプログラムに示すように、各時刻で、4枚の位相シフト量の異なるホログラムから、時刻tでの複数位置で複素振幅ホログラムの位相分布φo(xi,yi,t)を計算し(S141)、同様に、粒子のない背景ホログラム画像から複数位置で複素振幅ホログラムの位相分布φb(xi,yi)を計算する(S143)。そして、それらの差の平均値として、背景の画像の複素振幅ホログラムの位相φb(xi,yi)に対する時刻tでの位相補正量Δφo(t)を得る(S144)。この位相補正量Δφo(t)を差し引いて、背景の複素振幅ホログラムの位相分布に近い分布となるよう各時刻の複素振幅ホログラムの位相分布φo(x,y,t)を補正して、各時刻の位相分布φ'o(x,y,t)を得る(S146)。次に、背景画像の複素振幅ホログラムの位相分布φb(x,y)に対する各時刻の複素振幅ホログラムの位相分布φ'o(x,y,t)の補正後の差である位相分布φγ(x,y,t)を算出する(S148)。そして、差を取った位相分布に基づく複素振幅ホログラムを用いて数値像を再生する(S16)。
【0027】
図8は、振動の影響が顕著な時系列観測ホログラム画像に対して、背景雑音除去の効果を検討した結果である。位相(phase)を、ある時系列のホログラム画像(横軸の数値は画像の時系列を表す)について求めた。画像中心(256,256)と少しはずれた位置(100,100)とにおける位相の時間変化を、振動補正の前と後で比較している。白抜きシンボルで示した補正後の結果φ'o(x,y,t)は、強制振動を与えた画像番号13前後を除いてほぼ一定になっており、背景処理にかけられるよう補正できていることがわかる。
【0028】
従来は、ディジタルホログラフィによる高密度粒子場の計測は困難であった。本実施形態の手法を用いると、被写体が、現在まで計測が困難であった高密度の噴霧された燃料である場合でも、高密度燃料噴霧の生成状態をとらえることができ、燃料微粒化のためのエンジン部品改善に大きな効果をもたらした。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】位相再生法を用いた計測プログラムのフローチャート
【図2】位相シフトホログラフィ法のための光学系の図
【図3】チルト位相シフトホログラフィ法における参照光のずれを示す図
【図4】推定補間のプログラムのフローチャート
【図5】背景雑音除去の第1のプログラムのフローチャート
【図6】背景雑音除去の数値シミュレーション結果を示す図
【図7】背景雑音除去の第2のプログラムのフローチャート
【図8】振動の影響排除の効果を示すグラフ
【符号の説明】
【0030】
26 デジタルカメラ、 30 コンピュータ、 32 CPU、 40 記憶装置、 42 画像処理プログラム、 44 ホログラムデータ, 46再生像データ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チルト位相シフトホログラフィ法により4つの位相シフト量で得られた観測ホログラムを入力し、
ある位相シフト量について4画素おきに得られている観測ホログラムにおいて、観測データが欠落している画素のデータを、物体光と参照光の干渉縞の光強度を表す波動光学の式に基づいて推定し、
次に、観測データと推定データとからなる複素振幅ホログラムにおいて、背景雑音を除去し、
次に、背景雑音を除去した複素振幅ホログラムから再生像空間内の再生光分布を算出する
ディジタルホログラフィ像再生方法。
【請求項2】
上記画像データの推定において、
位相シフト量を0、π/2、π、3π/2としたときの画素位置(x、y)での注目画素の光強度をI(x,y)、I(x,y)、I(x,y)、I(x,y)で表したとき、ある位相シフト量での観測ホログラムの光強度データI(x,y)(i=1,2,3または4)についての平均光強度I(x,y)の式I(x,y)=(If(i+2)(x,y)+If(i)(x,y))/2を、I(x,y)=(If(i+2)(x−1,y)+If(i)(x+1,y))/2と近似して(ただしf(i)はiを4で割った余りに1を加えた整数)、平均光強度を観測データより算出し、
観測データが欠けている3画素位置のうち中央の画素位置の光強度If(i+1)(x,y)を、2I(x,y)−I(x,y)として算出し、
観測データが欠けている残りの2画素位置の光強度を補間により求める、
請求項1に記載のディジタルホログラフィ像再生方法。
【請求項3】
上記背景雑音の除去において、
被写体のない背景ホログラム画像の光強度を観測し、
次に、上記複素振幅ホログラムのデータと観測された背景ホログラム画像のデータとの差を求める、
請求項1または2に記載のディジタルホログラフィ像再生方法。
【請求項4】
各時刻において得られた上記複素振幅ホログラムのデータについて、
各時刻で、複数画素位置で上記複素振幅ホログラムのデータと背景ホログラム画像のデータとの差を求め、差の平均値を求め、
次に、その平均値を差し引かれた上記複素振幅ホログラムデータと背景ホログラムデータとの差を求める、
請求項3に記載のディジタルホログラフィ像再生方法。
【請求項5】
チルト位相シフトホログラフィ法により4つの位相シフト量で得られた観測ホログラム画像を入力し、
観測ホログラム画像において、背景雑音を除去し、
次に、背景雑音を除去した複素振幅ホログラムから再生像空間内の再生光分布を算出する
ディジタルホログラフィ像再生方法。
【請求項6】
チルト位相シフトホログラフィ法により4つの位相シフト量で得られた観測ホログラムを入力し、
ある位相シフト量について4画素おきに得られている観測ホログラムにおいて、観測データが欠落している画素の画像データを、物体光と参照光の干渉縞の光強度を表す波動光学の式に基づいて推定し、
次に、観測データと推定データとからなる複素振幅ホログラムから再生像空間内の再生光分布を算出する
ディジタルホログラフィ像再生方法。
【請求項7】
チルト位相シフトホログラフィ法により4つの位相シフト量で得られた観測ホログラム画像を入力するステップと、
ある位相シフト量について4画素おきに得られているホログラム画像において、観測データが欠落している画素の画像データを、物体光と参照光の干渉縞の光強度を表す波動光学の式に基づいて推定するステップと、
次に、観測データと推定データとからなる複素振幅ホログラムにおいて、背景雑音を除去するステップと、
次に、背景雑音を除去した複素振幅ホログラムから再生像空間内の再生光分布を算出するステップと
をコンピュータに実行させるためのディジタルホログラフィ像再生プログラム。
【請求項8】
上記画像データの推定のステップにおいて、
位相シフト量を0、π/2、π、3π/2としたときの画素位置(x、y)での注目画素の光強度をI(x,y)、I(x,y)、I(x,y)、I(x,y)で表したとき、ある位相シフト量での観測ホログラムの光強度データI(x,y)(i=1,2,3または4)についての平均光強度I(x,y)の式I(x,y)=(If(i+2)(x,y)+If(i)(x,y))/2を、I(x,y)=(If(i+2)(x−1,y)+If(i)(x+1,y))/2と近似して(ただしf(i)はiを4で割った余りに1を加えた整数)、平均光強度を観測データより算出するステップと、
観測データが欠けている3画素位置のうち中央の画素位置の光強度If(i+1)(x,y)を、2I(x,y)−I(x,y)として算出するステップと、
観測データが欠けている残りの2画素位置の光強度を補間により求めるステップとを含む、
請求項7に記載のディジタルホログラフィ像再生プログラム。
【請求項9】
上記背景雑音の除去のステップは、
被写体のない背景のホログラムの光強度を求めるステップと、
次に、得られた上記ホログラムデータと背景ホログラムデータとの差を求めるステップとを含む、
請求項7または8に記載のディジタルホログラフィ像再生プログラム。
【請求項10】
上記背景雑音の除去のステップは、
各時刻において得られた観測ホログラムについて、
各時刻で、複数画素位置で上記ホログラムデータと背景ホログラム画像データとの差を求め、差の平均値を求めるステップと、
次に、その平均値を差し引かれた上記ホログラムデータと背景ホログラムデータとの差を求めるステップとを含む、
請求項9に記載のディジタルホログラフィ像再生プログラム。
【請求項11】
チルト位相シフトホログラフィ法により4つの位相シフト量で得られた観測ホログラムを入力するステップと、
次に、観測ホログラムから得られた複素振幅ホログラムにおいて、背景雑音を除去するステップと、
次に、背景雑音を除去した複素振幅ホログラムから再生像空間内の再生光分布を算出するステップと
をコンピュータに実行させるためのディジタルホログラフィ像再生プログラム。
【請求項12】
チルト位相シフトホログラフィ法により4つの位相シフト量で得られた観測ホログラム画像を入力するステップと、
ある位相シフト量について4画素おきに得られているホログラム画像において、観測データが欠落している画素の画像データを、物体光と参照光の干渉縞の光強度を表す波動光学の式に基づいて推定するステップと、
次に、得られた複素振幅ホログラムから再生像空間内の再生光分布を算出するステップと
をコンピュータに実行させるためのディジタルホログラフィ像再生プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−2840(P2010−2840A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163362(P2008−163362)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年 2月14日 国立大学法人京都工芸繊維大学主催の「京都工芸繊維大学 平成19年度 修士論文公聴会」においてプレゼンテーションデータをもって発表
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】