ディスプレイ用反射防止シート
【課題】屋外を含む過酷な環境下においても、良好な透過率及び低反射率を有することにより、優れた透明性を発揮して良好な性能を期待できる反射防止シートを提供する。
【解決手段】PET、PEN、ガラスなどの透明基材シート10の片面に、反射防止膜11を形成する。当該反射防止膜11として、パーフルオロカーボン骨格を基本的な分子構造とし、C原子またはF原子の少なくともいずれかが欠損してなる部分領域を有する構成を持つ、フッ化炭素膜をスパッタリング法等で成膜する。「部分領域」とは、PTFEのパーフルオロカーボン骨格において存在していたC原子またはF原子が失われた結果、骨格のCF2構造が崩れている領域を示す。
【解決手段】PET、PEN、ガラスなどの透明基材シート10の片面に、反射防止膜11を形成する。当該反射防止膜11として、パーフルオロカーボン骨格を基本的な分子構造とし、C原子またはF原子の少なくともいずれかが欠損してなる部分領域を有する構成を持つ、フッ化炭素膜をスパッタリング法等で成膜する。「部分領域」とは、PTFEのパーフルオロカーボン骨格において存在していたC原子またはF原子が失われた結果、骨格のCF2構造が崩れている領域を示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディスプレイ用反射防止シート(透明シート)に関し、特に、シートの透明性を高度に向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、冷陰極管(CRT)、有機発光ディスプレイ(OLED)、電子ペーパーなど、様々なディスプレイが開発されている。これらはテレビの他、携帯電話、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)、ノートパソコン、OA・医療機器、POSレジスタ、券売機、カーナビゲーションシステム、FA機器、ディジタルサイネージ等としても利用され、民生または公共機関・学校・病院等を問わず、広く用いられている。
【0003】
一方、各種ディスプレイの表面には、入力手段として配設されるタッチパネルが広く普及している。
このようなディスプレイやタッチパネルには、画像表示面を保護するとともに、太陽光や室内照明等の外光が映り込んで画像表示性能が低下するのを防止する手段として、反射防止(AR)シートが設けられる(特許文献1参照)。光反射防止シートは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ガラス等の透明性に優れる基材を用いてなる。また、これらの基材の表面に、さらにフッ化マグネシウム(MgF2)等からなる反射防止膜を形成し、さらなる透明性の確保をねらった構成も開発されている。
【0004】
ディスプレイ用反射防止シートを用いると、外光の反射率(全光線反射率)を例えば3〜4%程度低減することができる。光このような反射防止手段は、ディスプレイの視認性を向上させるために必須の構成であると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4208981号公報
【特許文献2】特許3560655号公報
【特許文献3】特開2008−275918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来の反射防止シートや反射防止膜等の反射防止手段では、ユーザーに求められる十分な性能を達成できるとは言い難い。特にタッチパネルやディスプレイを屋外で使用する場合、外光の入射を受けやすいため、ディスプレイ面のさらなる反射防止を図ることが必要であり、透過率及び低反射率をさらに向上させる改善の余地が存在する。
【0007】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、従来に比べて良好な透過率(低反射率)を有することにより、優れた画像表示性能を期待することが可能な反射防止シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、透明な基材シートの片面に反射防止膜を形成してなる反射防止シートであって、前記反射防止膜は、炭素原子またはフッ素原子が欠損した部分領域を含む分子構造のパーフルオロカーボン骨格で構成されたフッ化炭素膜であるものとする。
ここで言う「部分領域」とは、PTFEのパーフルオロカーボン骨格において存在していたC原子またはF原子が失われた結果、骨格のCF2構造が崩れている領域を示す。
【0009】
ここで、前記部分領域には、フッ素原子の結合数が0、1、3のいずれかの炭素原子が含まれている構成とすることもできる。
また、前記フッ化炭素膜はXPS解析において、C1s結合エネルギーが284eV以上296eV以下の範囲に分布したスペクトルを有し、前記スペクトルは、289.5eVにおけるピークI1をCF結合、291.9eVにおけるピークI2をCF2結合、294eVにおけるピークI3をCF3結合としてそれぞれ波形分離される構成とすることもできる。
【0010】
この場合、式(3S3 + 2S2 + S1)/SCFsで求められる反射防止膜中のF原子/C原子の比が1.9未満である構成とすることもできる。但し、S1、S2、S3はそれぞれ半値幅を2.0eVとして求めたピークI1、I2、I3のピーク面積、SCFsは前記スペクトルの総面積とする。
また、フッ化炭素膜の屈折率が、基材シートの屈折率よりも低い構成とすることが望ましい。
【0011】
また、フッ化炭素膜の屈折率が1.33〜1.35であり、基材シートの屈折率が1.48〜1.66である構成とすることもできる。
また、フッ化炭素膜は、PTFEをターゲット源とする薄膜形成法により成膜することもできる。
或いはフッ化炭素膜は、PEをターゲット源とし、CF4を含むガスを成膜雰囲気とする薄膜形成法により成膜することもできる。
【0012】
さらに、本発明は、上記した本発明のいずれかの反射防止シートを面状部材の上方に配設した反射防止シート付タッチパネルとした。
さらに本発明は、上記した本発明のいずれかの反射防止シートをディスプレイ面の上方に配設した反射防止シート付LCD装置とした。
【発明の効果】
【0013】
本願発明者らが鋭意検討した結果、特定の条件により、PTFEをターゲット源とするスパッタリングによって形成されるフッ化有機化合物膜を反射防止膜に用いた場合、良好な透過率特性と低反射率特性が得られることを見出した。
本発明はこの知見に基づいてなされたものであり、上記フッ化有機化合物膜を反射防止膜として基材シートに配設することにより反射防止シートを構成している。
【0014】
このような構成を持つ本発明の反射防止シートでは、従来のPET、PEN、ガラス等を単体で用いる構成や、透明部材に反射防止膜を形成してなる構成に比べ、良好な透過率と低反射率を有している。このため、各種ディスプレイの表面やタッチパネルの面状部材に配設した場合には、これらを野外で使用する場合においても、外光反射を適切に防止し、優れた画像表示性能を期待することができる。
【0015】
なお、特許文献2には、無機物とフッ素樹脂材料をターゲット源とするスパッタリング法により成膜する方法が開示されているが、この方法で成膜される膜は無機物が主成分であり、本発明とは相違するものである。
また、特許文献3には、ヘキサフルオロプロピレンオキサイド(HFPO)をターゲット源とするスパッタリング法によりフッ素有機化合物膜を成膜する方法が開示されているが、これはPTFEを成膜する方法であり、しかも金属酸化物層上に成膜する点において、本発明と明確に異なる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態1の透明シートの構造を示す断面図である。
【図2】フッ化炭素膜の推測される化学構造及びPTFEの化学構造をそれぞれ示す図である。
【図3】反射防止シート付タッチパネルの構成を示す斜視図である。
【図4】反射防止シート及び偏光板をLCDに組み合わせたディスプレイ装置の構成を示す断面図である。
【図5】性能確認試験における、ゴニオメーターを用いた反射率及び透過率の測定方法を説明するための模式図である。
【図6】スライドガラス基材を用いた場合のサンプルの反射率及び透過率に関する特性を示すグラフである。
【図7】環状オレフィン基材を用いた場合のサンプルの反射率及び透過率に関する特性を示すグラフである。
【図8】PET基材を用いた場合のサンプルの反射率及び透過率に関する特性を示すグラフである。
【図9】PEN基材を用いた場合のサンプルの反射率及び透過率に関する特性を示すグラフである。
【図10】反射防止膜について行ったXPS解析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、当然ながら本発明はこれらの実施形式に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。
<実施の形態1>
(反射防止シート1の全体構成)
図1は、実施の形態1の反射防止シート1の構成を示す模式的な断面図である。反射防止シート1は、基材シート10の一方の面に反射防止膜11を配設して構成される。
(基材シート10)
基材シート10は、PET、PEN等の厚み200μmの透明なプラスチックシート(基材)である。基材シート10の反射防止膜が形成されていない表面(図中、下方の表面)は、タッチパネルや各種ディスプレイとの積層面として利用される。
【0018】
なお、基材シート10としては、上記の他、一般的な反射防止シートとして用いられる透明部材(例えばポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ノルボルネン等の環状オレフィン系樹脂、紫外線硬化アクリル樹脂等のいずれか、或いはガラス)を利用することもできる。
なお、基材シート10の屈折率は、PET、PENを用いた場合は約(1.64)程度、PCを用いた場合は約(1.59)、PMMAを用いた場合は約(1.51)程度に設定される。反射防止膜11による良好な透明性を得るためには、反射防止膜11よりも低い屈折率の基材シート10を用いることが好適である。
【0019】
(反射防止膜11)
反射防止膜11は、50〜150nm程度の膜厚を有するフッ化炭素膜である。ここで言う「フッ化炭素膜」とは、パーフルオロカーボン骨格を基本的な分子構造とし、C原子またはF原子の少なくともいずれかが欠損してなる部分領域を有する構成を持つ。ここで言う「パーフルオロカーボン骨格」は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を指す。
【0020】
この反射防止膜11は、具体的にはPTFEをターゲット源とし、Ar等の不活性ガスを成膜雰囲気とするスパッタリング法により成膜されたものである。或いは、別の成膜方法として、PEをターゲット源とし、CF4を含むガスを成膜雰囲気とする薄膜形成法により成膜することもできる。いずれの薄膜形成法による成膜においても、ターゲット源の材料またはガス中のC原子及びF原子等の結合が成膜中に照射される高エネルギーにより一旦切断され、基材シート上で各原子が再結合されて成膜されるが、一旦切断されたC原子及びF原子の一部が失われることで、再結合の際に前記部分領域を有する分子構造が形成されると考えられる。
【0021】
ここで反射防止膜11とPTFEの化学構造の違いを図2に示す。図2(a)は反射防止膜11を構成する化合物の化学構造を模式的に示したものである。図2(b)は、公知のPTFEの化学構造を示す。
なお、図2(a)は模式的な構造に過ぎず、ここでは膜中に存在する原子の種類や結合の例示として示している。膜の各種結合の位置や分子構造の特定については、今後の検討が必要である。
【0022】
図2(a)に示すように、フッ化炭素膜にはC原子、F原子がそれぞれ含まれており、この点ではPTFEのパーフルオロカーボン骨格と共通する。しかしながら化学構造的には、パーフルオロカーボン骨格に存在するはずのC原子、F原子が失われた部分領域が存在している。これにより、反射防止膜11中のC、Fの原子数比C:Fは、概ねC2:Fx(xは4未満の正の数)として表わされる。これを言い換えると、部分領域中には、1のC原子に対して結合するF原子の数が0.1、3のいずれか(すなわち、PTFEのように2ではない。3は分子鎖末端に存在する)であると言うことができる。
【0023】
(反射防止シートの効果について)
以上の構成を有する反射防止シート1では、反射防止膜11が透過率特性及び低反射率特性を有している。このため、反射防止シート1は、単体の基材シート、或いは基材シート上にMgF2等の従来の反射防止膜を形成してなる反射防止シートのいずれかを用いる場合に比べ、優れた透明性を発揮することができる。
【0024】
特に、上記したフッ化有機化合物を含んでなる反射防止膜11は、PTFEと共通する特性に加え、PTFEには見られない特有の光学特性として、高い透過率特性(低反射率特性)を併せ持っている。この反射防止膜11の屈折率としては、基材シート10の屈折率(1.51〜1.64程度)よりも低い1.34〜1.35程度に設定されている。
従って、反射防止シート1を各種ディスプレイの表面やタッチパネルの面状部材に配設した場合には、これらを野外で使用する場合においても外光反射を適切に防止し、ディスプレイ面への外光の映り込みを極力低減することで、優れた画像表示性能を期待することができる。
【0025】
(XPSを用いた反射防止膜11の測定について)
反射防止膜11の組成を示すC原子とF原子の比C2:Fxにおけるxの値は、XPSを用いた測定結果より以下のように求めることができる。
図10は、反射防止膜11をXPSで測定して得られた、C1s結合エネルギーが284eV以上296eV以下の範囲のスペクトルである。当図では、スペクトルの輪郭は測定データと包絡線の重なりとして表わしている。横軸付近に見える微弱な波形(点線)は、測定データと包絡線の差分を示す。
【0026】
図10に示すように、当該スペクトルの分布範囲では、PTFEにも見られるCF2結合と、PTFEには見られない結合に対応する、合計5つのピークI0〜I3が明瞭に判別できる。各ピークI0〜I3は、具体的には結合エネルギーの低い方から順にC−CH結合(285eV付近)、CFα結合(αは正数。287.3eV付近)、CF結合(289.5eV付近)、CF2結合(291.9eV付近)、CF3結合(294.0eV付近)のC1s軌道電子に対応すると考えられる。このように各ピークと結合基を対応付ける解釈は、パーフルオロカーボン骨格の各結合に対して各ピークを矛盾なく対応づけられるため合理的である。なお、各ピークI0〜I3の結合エネルギーの測定値は測定条件や装置特性等によって若干変化し、多少の誤差を生ずる場合がある。従って、上記測定値は実測値の一例として示している。
【0027】
PTFEを同様の条件のXPSで測定すれば、実質的にCF2結合に対応するI2のシングルピークのみを有するスペクトルが得られる。従って、XPSのスペクトルを見れば、本発明の反射防止膜11とPTFEとを区別することができる。また、XPS以外にもIRを用いて区別することもできるが、XPSを用いた方が確実である。
次にxを求める手法を説明する。まず、各ピークI0〜I3のそれぞれを半値幅2.0のピークに波形分離し、各々のピーク面積S0〜S3を算出する。ここで各ピーク面積S0〜S3は、反射防止膜11に存在する各結合の数に関係している。各ピークの半値幅を2.0eVとすることで、C1sスペクトルとずれの少ない波形分離ができる。
【0028】
次に、284eV以上296eV以下の範囲のスペクトルの総面積SCFSを式1より求める。
(式1) SCFS=S0+Sα+S1+S2+S3
次に炭素に対するフッ素の割合(F/C)を式2より求める。
(式2)F(原子数)/C(原子数)=(3S3 + 2S2 + S1)/SCFs
実際の演算結果として、xは1.9未満の値、一例として1.2〜1.8eVとなる。一方、PTFEではxはほぼ2.0程度(少なくとも1.9以上)であるため、本発明の反射防止膜11とは明瞭に区別できる。
【0029】
なお、ピーク面積はピーク強度と比例するため、式1〜3における各面積の項を強度の項に置き換えても同様の結果を得ることができる。
ここで、反射防止膜11中にはその他、ターゲット源の種類(水素成分を含むか否か)や成膜雰囲気の種類(酸素成分を含むか否か)等に起因して、C−H結合、C−O結合を含む場合があり、或いはC=C(二重)結合、C≡C(三重)結合等を含む場合もあると考えられる。
【0030】
このうちO原子は、主として反射防止膜11を薄膜形成法により成膜する際に、成膜雰囲気内に含まれる酸素成分が混入したものであると考えられる。
またH原子は、主としてPEをターゲット源とした場合に、PEに由来するH原子が混入したものや、成膜雰囲気中の水分(H2O分子)等に起因して混入したものであると考えられる。
【0031】
また、ここには図示しないが、反射防止膜11中には成膜時のスパッタリングによって生じたFラジカル、Oラジカルや、PTFE由来のパーフルオロカーボンが分断された低分子化合物等が含まれている可能性もある。
以下、本発明の別の実施の形態として、タッチパネルやディスプレイ装置への適用例を述べる。
【0032】
<実施の形態2>
図3は、本発明の実施の形態2にかかるインナータイプ抵抗膜式タッチパネル2(以下、「タッチパネル2」と言う。)の構成を示す組図である。
図3に示されるように、タッチパネル2は、上から順にHC板17、上部面状部材5A、抵抗膜13、スペーサー16、抵抗膜14、配線基板50、下部面状部材5Bを積層してなる。下部面状部材5Bの下には、粘着層12を介して実施の形態1の反射防止シート1が配設され、反射防止膜11が下面を向く順に積層されている。
【0033】
タッチパネル2は、いわゆる「4wire方式」と呼ばれる入力検出方法が採用されており、且つ各面状部材5Aにフィルム、5Bにガラス材料を用いた「F‐Gインナータイプ」と呼ばれる構成であって、ここでは車載用カーナビゲーションシステムへの用途を想定したものである。
抵抗膜13、14は、それぞれ上部面状部材5A、下部面状部材5Bの対向表面において、既知の抵抗値(面抵抗)を持つITO(Indium Tin Oxide)、アンチモン添加酸化錫、フッ素添加酸化錫、アルミニウム添加酸化亜鉛、カリウム添加酸化亜鉛、シリコン添加酸化亜鉛、カリウム添加酸化亜鉛、酸化亜鉛‐酸化錫系、酸化インジウム‐酸化錫系、或いはこれ以外の各種金属材料等の抵抗膜(透明導電膜)から構成されている。これらの材料を用いてCVD、真空蒸着、スパッタリング、イオンビーム等の方法により成膜することで、上記面状部材5A、5Bの表面に一様に所定面積の抵抗膜13、14が形成される。そして粘着材、粘着シート、プラスチックフィルム両面に粘着材層を有する両面テープ等からなる高さ約50μmのリブスペーサ18を設けることで、通常は当該抵抗膜13、14同士が一定間隔を置くように対向配置されている。
【0034】
抵抗膜13、14の成膜パターン例としては、各面状部材5A、5Bの対向表面において矩形状に形成させる。そして、形成した当該抵抗膜13、14のy軸或いはx軸に並行な一対の辺に沿って、それぞれ引き出し線131、132、141、142を配設することで、全体としてxy直交座標をなすよう形成する。引き出し線131、132、141、142には、電極端子131a、132a、141a、142aが設けられている。なお、133は、電極端子132aと引き出し線132を接続するための接続線である。
【0035】
一方、抵抗膜13、14の間には、フレキシブルコネクター50が所定の位置に介設される。当該フレキシブルコネクター50は、PET或いはポリイミド等の樹脂材料で作製されたフレキシブル基板501と、当該基板表面においてAu、Ag、Cu等の良好な導電性を持つ材料からなる配線502〜505が形成されてなる。配線502〜505には電極端子502a〜505aが形成されている。
【0036】
以上の構成で電気配線が為されたタッチパネル2での入力検出原理(4wire方式)は、駆動時において、まずy軸に沿った引き出し線131、132間に0〜5V程度の直流電圧を印加しておき、ユーザーによる入力がなされるとx軸に沿った引き出し線141、142を電圧検出電極としてy軸方向の位置データを獲得する。
次に、x軸に沿った引き出し線141、142間に電圧印加を行い、y軸に沿った引き出し線131、132を電圧検出電極とすることでx軸方向の位置データを獲得する。これによりxy両方の座標情報が得られる。タッチパネル2ではこのような検出ステップを交互に繰り返すことにより、逐次的にユーザーからの入力情報を獲得し、GUI(Graphical User Interface)としての機能が発揮される。
【0037】
さらに、上部面状部材5Aに対向する下部面状部材5Bの表面には、xy方向に沿ってマトリクス状に半球状の突起スペーサー16が一定間隔毎に配設され、抵抗膜13、14同士の不要な接触を抑制する構成となっている。当該突起スペーサー16は光硬化型のアクリル樹脂により作製可能であって、上部および下部面状部材5A、5Bの対向距離に合わせて、例えば高さ10μm、直径10μm〜50μmのサイズに設定されている。なお、当図では図示を容易にするために実際より突起スペーサー16のサイズを大きく表している。当該突起スペーサー16は、半球状以外の形状、例えば円錐状、もしくは円柱状等としてもよい。
【0038】
以上の構成を有するタッチパネル2では、その下面に反射防止シート1を配設している。このため、当該タッチパネル2を外光の入射量が比較的多い屋外で使用する場合(例えば駅における券売機のディスプレイ面への用途等)でも、画面への移り込みを抑制して、安定した画像表示性能を維持することができる。
なお、本発明を適用することが可能なタッチパネルは、図3に示す構成に限定されず、例えば下部面状部材5Bをフィルム基材で構成する、いわゆるF‐Fタイプに適用してもよい。
【0039】
また、上記F‐Gタイプの構成においては、ガラス基材の代わりに、ガラス板または樹脂板に上記面状部材のフィルム材料を適宜粘着材で貼着してなる積層体(F‐F‐Gタイプ、あるいはF‐F‐Pタイプとも称される)を配設するようにしてもよい。また、フィルムとガラス基材との積層枚数、積層順等についても適宜変更調整が可能である。
さらに本発明は、タッチパネル自体の入力方式としていずれの方式であってもよく、抵抗膜式以外の入力方式(静電容量式)の構成であってもよい。
【0040】
<実施の形態3>(LCD装置)
図4は、実施の形態3にかかるディスプレイ装置6の構成を示す、模式的な断面図である。
ディスプレイ装置6は、LCDユニット4の上に、偏光板ユニット3、HC層23、反射防止シート1を順次積層して構成される。
【0041】
LCDユニット4は、一対のガラス基板30、32の間にLCD31を介設してなる。LCD31は公知のTFT型であって、図3中、上から下に同順に、不図示の透明層、カラーフィルタ、液晶分子層、TFT基板、透明層が積層されたユニットで構成されている。なお、LCD31はTFT型以外、たとえば単純マトリクス型でもよい。また、LCDユニット4の積層構造も上記に限られない。
【0042】
偏光板ユニット3は、一対のTAC(トリアセチルセルロース)からなる透明基板20、22の間に、厚み200μmの染料系直線偏光板である偏光子21を介設し、上面側の透明基板22の表面にHC層23を形成してなる。偏光板ユニット4はLCDユニット4の上面に対し、粘着層12により貼着されている。これによりLCD内部に入射される可視光の反射光量を約半分以下にまで抑制することができる。
【0043】
HC層23の上面には、反射防止シート1が、基材シート10、反射防止膜11の順に積層されるように配設される。
このような構成を持つディスプレイ装置6では、偏光板ユニット3の上方に設けた反射防止シート1によって、外界からの入射光がディスプレイ面において反射するのが防止され、良好な透明性が発揮される。このため、偏光板ユニット3及びLCDユニット4による、優れた画像表示性能の発揮を期待することができる。
【0044】
なお、タッチパネル2に装着されるディスプレイはLCDに限らず、CRT、PDP等の他の種類のディスプレイであってもよい。
ここで実施の形態3のディスプレイ装置6に対し、実施の形態2のタッチパネル2を組み合わせることもできる。この場合、タッチパネル2の下面(反射防止膜11)を、ディスプレイ装置6の上面(反射防止膜11)と対向するように配設すれば、各反射防止膜11が外界から保護される構成を採ることもできる。
【0045】
<性能確認試験>
本発明の実施例を比較例とともに作製し、透過率及び反射率について調べた。
(実施例及び比較例の作製)
基材として、表1に示すようにクラウンガラス(基材1)、環状オレフィンとして日本ゼオン株式会社製「ゼオノアZF16」(基材2)、PETとして三菱ポリエステルフィルム株式会社製「O300E」(基材3)、PENとして帝人デュポン株式会社製「MX705」(基材4)のいずれかを用いた。ここで基材1では、塩基性成分がアルカリまたはアルカリ土類で構成されているクラウンガラスを使用した。
【0046】
【表1】
次に、基材1〜4を用い、実施例(フッ化有機化合物)及び比較例(MgF2)の反射防止膜をそれぞれスパッタリング法に基づき、それぞれの厚みが同順に64.4nm、55.7nmとなるように成膜した。スパッタリング条件は以下の表2に示すように設定した。ターゲット材質はPTFE(実施例)またはMgF2(比較例)とし、ターゲットサイズはいずれも5インチ×15インチのものを用いた。
【0047】
成膜手順として、基板を回転ドラム表面に設置し、スパッタ中は繰り返しターゲット直上を通過させた。本例ではドラムの直径は約400mm、ドラム回転数は約6rpmとし、スパッタ時間を15minに設定し、基板のターゲット直上の通過回数を90回とした。成膜厚みは、繰り返し干渉法を用いて測定した。
【0048】
【表2】
(測定手順)
本試験では、ゴニオメーターを用いて透過率及び反射率の測定を行った。
【0049】
まず、装置内サンプルをセットしない状態で、セット予定のサンプル表面へ光の入射角度θが90°になるように調整する。調整後に光を入射させ、ミラーM1で反射した光を検出器D1で捕捉してベースラインを測定する(図5(a))。
次に、装置内にサンプルを載置する。ミラーM1及び検出器D1を入射光θを0〜60°の間のいずれかの角度に設定し、入射光の波長を変化させて透過率を測定する。一方、ミラーM2及び検出器D2を用い、光の入射角度θを5°〜60°の間のいずれかの角度に設定し、入射光の波長を変化させて絶対反射率を測定する。本例では入射角を5°に固定した。
(試験結果)
基材1〜4ごとの実施例及び比較例の測定結果を図6〜9に示す。各図中、(a)は入射光の波長(横軸)に対する透過率(左縦軸)または反射率(右縦軸)の関係を示す。また、(b)は入射光の波長(横軸)に対する、反射率及び透過率の和の関係を示す。
【0050】
(1)透過率について
各図6〜9の(a)、(b)に示されるように、いずれの基材1〜4においても、実施例では、基材単体の透過率に比べ、反射防止膜を形成した構成で透過率の上昇が確認できた。一方、比較例では基材単体の透過率に比べて、反射防止膜を形成した場合の方が、透過率が低くなった。これらの各傾向は、入射光の波長が短いほど顕著に表れた。これらのことから、実施例の反射防止膜を設けた場合には、基材の材料によらず、一般に良好な透過率が確保できると予想される。
【0051】
また、比較例の反射防止膜は、目視ではやや黄色味に着色した透明膜として観察された。これは比較例の反射防止膜が、可視光の短波長(300〜400nm)領域において、光吸収を生じていることを示している。このように反射防止膜が少なくとも可視光領域で光吸収していることで、上記各図に示されたデータのように、比較例の透過率が基材の透過率よりも低くなったものと考えられる。
【0052】
(2)反射率について
一方、反射率の変化を考察すると、実施例及び比較例のいずれも、基材に対して各反射防止膜を形成することで、反射率の低減が図られている。これは基材よりも低屈折率を有する反射防止膜を形成したことが理由の一つと考えられる。
しかしながら、実施例による反射率の低減効果は、比較例による反射率の低減効果に比べて顕著であり、透過率の向上及び反射率の低減の総合評価において、実施例は比較例よりも良好な優位性を持っていると言える(図6〜9の(b)参照)。なお、実際に実施例で得られたフッ化炭素膜の屈折率をエリプソメーター(波長633nm)で測定したところ1.34であった。
(3)総合評価
透過率と反射率の合計値は、入射される光が無損失(基材と反射防止膜のいずれでも光吸収がない)場合は100%の値となるが、損失がある場合は100%未満の値となる。
【0053】
ここで上記の通り、実施例は良好な透過率を有しているため、図6〜9の(b)に示されるように、実施例は透過率及び反射率の合計値が、基材そのものの透過率及び反射率の合計の値とほぼ一致し、且つ、ほぼ100%の値を示した。一方の比較例では、反射防止膜を形成した場合に透過率が低下する分、透過率及び反射率の合計の値が、基材そのものの合計の値に比べて低下しているのが確認できた。
【0054】
以上の実験結果より、従来技術に対する本発明の優位性が確認された。
<その他の事項>
本発明の反射防止シートにおける基材は、上記各実施の形態に示すようなシート状に限定されない。例えばバルク状のガラス(例えばカメラ用レンズを構成するガラス製光学部品)を基材とすることもできる。この場合、いずれかのガラス製光学部品の表面に反射防止膜を形成し、別のガラス製光学部品を前記反射防止膜の上に重ね合わせることで、反射防止膜が外界と直接接するのが防止され、長期にわたって反射防止膜の剥離や傷を防ぐ保護効果を期待することもできる。
【0055】
上記実施の形態では、ターゲット源としてパーフルオロカーボン骨格を有する化合物(すなわちPTFE)を用いたスパッタリングにより反射防止膜を形成する例を示したが、本願発明者らの検討によれば、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等の材料をターゲット源とするスパッタリングによっても、パーフルオロカーボン骨格をターゲット源に用いた場合と同様に、反射防止特性及び透明性に優れる反射防止膜を得られる可能性がある。
【0056】
本発明の反射防止シートは、基材シートの両面に反射防止膜を形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の反射防止シートは、高い反射防止特性及び透明性を有するため、非常に幅広い用途に利用可能である。例示すると公共用・家庭用の各種ディスプレイやタッチパネル、光照射量が比較的多い屋外での用途(公共施設の表示装置)やカーナビゲーションシステム等)に適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 反射防止シート
2 タッチパネル
3 偏光板ユニット
4 LCDユニット
5A、5B 面状部材
6 ディスプレイ装置(タッチパネル付LCD装置)
10 基材シート
11 反射防止膜(フッ化炭素膜)
【技術分野】
【0001】
本発明はディスプレイ用反射防止シート(透明シート)に関し、特に、シートの透明性を高度に向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、冷陰極管(CRT)、有機発光ディスプレイ(OLED)、電子ペーパーなど、様々なディスプレイが開発されている。これらはテレビの他、携帯電話、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)、ノートパソコン、OA・医療機器、POSレジスタ、券売機、カーナビゲーションシステム、FA機器、ディジタルサイネージ等としても利用され、民生または公共機関・学校・病院等を問わず、広く用いられている。
【0003】
一方、各種ディスプレイの表面には、入力手段として配設されるタッチパネルが広く普及している。
このようなディスプレイやタッチパネルには、画像表示面を保護するとともに、太陽光や室内照明等の外光が映り込んで画像表示性能が低下するのを防止する手段として、反射防止(AR)シートが設けられる(特許文献1参照)。光反射防止シートは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ガラス等の透明性に優れる基材を用いてなる。また、これらの基材の表面に、さらにフッ化マグネシウム(MgF2)等からなる反射防止膜を形成し、さらなる透明性の確保をねらった構成も開発されている。
【0004】
ディスプレイ用反射防止シートを用いると、外光の反射率(全光線反射率)を例えば3〜4%程度低減することができる。光このような反射防止手段は、ディスプレイの視認性を向上させるために必須の構成であると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4208981号公報
【特許文献2】特許3560655号公報
【特許文献3】特開2008−275918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来の反射防止シートや反射防止膜等の反射防止手段では、ユーザーに求められる十分な性能を達成できるとは言い難い。特にタッチパネルやディスプレイを屋外で使用する場合、外光の入射を受けやすいため、ディスプレイ面のさらなる反射防止を図ることが必要であり、透過率及び低反射率をさらに向上させる改善の余地が存在する。
【0007】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、従来に比べて良好な透過率(低反射率)を有することにより、優れた画像表示性能を期待することが可能な反射防止シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、透明な基材シートの片面に反射防止膜を形成してなる反射防止シートであって、前記反射防止膜は、炭素原子またはフッ素原子が欠損した部分領域を含む分子構造のパーフルオロカーボン骨格で構成されたフッ化炭素膜であるものとする。
ここで言う「部分領域」とは、PTFEのパーフルオロカーボン骨格において存在していたC原子またはF原子が失われた結果、骨格のCF2構造が崩れている領域を示す。
【0009】
ここで、前記部分領域には、フッ素原子の結合数が0、1、3のいずれかの炭素原子が含まれている構成とすることもできる。
また、前記フッ化炭素膜はXPS解析において、C1s結合エネルギーが284eV以上296eV以下の範囲に分布したスペクトルを有し、前記スペクトルは、289.5eVにおけるピークI1をCF結合、291.9eVにおけるピークI2をCF2結合、294eVにおけるピークI3をCF3結合としてそれぞれ波形分離される構成とすることもできる。
【0010】
この場合、式(3S3 + 2S2 + S1)/SCFsで求められる反射防止膜中のF原子/C原子の比が1.9未満である構成とすることもできる。但し、S1、S2、S3はそれぞれ半値幅を2.0eVとして求めたピークI1、I2、I3のピーク面積、SCFsは前記スペクトルの総面積とする。
また、フッ化炭素膜の屈折率が、基材シートの屈折率よりも低い構成とすることが望ましい。
【0011】
また、フッ化炭素膜の屈折率が1.33〜1.35であり、基材シートの屈折率が1.48〜1.66である構成とすることもできる。
また、フッ化炭素膜は、PTFEをターゲット源とする薄膜形成法により成膜することもできる。
或いはフッ化炭素膜は、PEをターゲット源とし、CF4を含むガスを成膜雰囲気とする薄膜形成法により成膜することもできる。
【0012】
さらに、本発明は、上記した本発明のいずれかの反射防止シートを面状部材の上方に配設した反射防止シート付タッチパネルとした。
さらに本発明は、上記した本発明のいずれかの反射防止シートをディスプレイ面の上方に配設した反射防止シート付LCD装置とした。
【発明の効果】
【0013】
本願発明者らが鋭意検討した結果、特定の条件により、PTFEをターゲット源とするスパッタリングによって形成されるフッ化有機化合物膜を反射防止膜に用いた場合、良好な透過率特性と低反射率特性が得られることを見出した。
本発明はこの知見に基づいてなされたものであり、上記フッ化有機化合物膜を反射防止膜として基材シートに配設することにより反射防止シートを構成している。
【0014】
このような構成を持つ本発明の反射防止シートでは、従来のPET、PEN、ガラス等を単体で用いる構成や、透明部材に反射防止膜を形成してなる構成に比べ、良好な透過率と低反射率を有している。このため、各種ディスプレイの表面やタッチパネルの面状部材に配設した場合には、これらを野外で使用する場合においても、外光反射を適切に防止し、優れた画像表示性能を期待することができる。
【0015】
なお、特許文献2には、無機物とフッ素樹脂材料をターゲット源とするスパッタリング法により成膜する方法が開示されているが、この方法で成膜される膜は無機物が主成分であり、本発明とは相違するものである。
また、特許文献3には、ヘキサフルオロプロピレンオキサイド(HFPO)をターゲット源とするスパッタリング法によりフッ素有機化合物膜を成膜する方法が開示されているが、これはPTFEを成膜する方法であり、しかも金属酸化物層上に成膜する点において、本発明と明確に異なる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態1の透明シートの構造を示す断面図である。
【図2】フッ化炭素膜の推測される化学構造及びPTFEの化学構造をそれぞれ示す図である。
【図3】反射防止シート付タッチパネルの構成を示す斜視図である。
【図4】反射防止シート及び偏光板をLCDに組み合わせたディスプレイ装置の構成を示す断面図である。
【図5】性能確認試験における、ゴニオメーターを用いた反射率及び透過率の測定方法を説明するための模式図である。
【図6】スライドガラス基材を用いた場合のサンプルの反射率及び透過率に関する特性を示すグラフである。
【図7】環状オレフィン基材を用いた場合のサンプルの反射率及び透過率に関する特性を示すグラフである。
【図8】PET基材を用いた場合のサンプルの反射率及び透過率に関する特性を示すグラフである。
【図9】PEN基材を用いた場合のサンプルの反射率及び透過率に関する特性を示すグラフである。
【図10】反射防止膜について行ったXPS解析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、当然ながら本発明はこれらの実施形式に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。
<実施の形態1>
(反射防止シート1の全体構成)
図1は、実施の形態1の反射防止シート1の構成を示す模式的な断面図である。反射防止シート1は、基材シート10の一方の面に反射防止膜11を配設して構成される。
(基材シート10)
基材シート10は、PET、PEN等の厚み200μmの透明なプラスチックシート(基材)である。基材シート10の反射防止膜が形成されていない表面(図中、下方の表面)は、タッチパネルや各種ディスプレイとの積層面として利用される。
【0018】
なお、基材シート10としては、上記の他、一般的な反射防止シートとして用いられる透明部材(例えばポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ノルボルネン等の環状オレフィン系樹脂、紫外線硬化アクリル樹脂等のいずれか、或いはガラス)を利用することもできる。
なお、基材シート10の屈折率は、PET、PENを用いた場合は約(1.64)程度、PCを用いた場合は約(1.59)、PMMAを用いた場合は約(1.51)程度に設定される。反射防止膜11による良好な透明性を得るためには、反射防止膜11よりも低い屈折率の基材シート10を用いることが好適である。
【0019】
(反射防止膜11)
反射防止膜11は、50〜150nm程度の膜厚を有するフッ化炭素膜である。ここで言う「フッ化炭素膜」とは、パーフルオロカーボン骨格を基本的な分子構造とし、C原子またはF原子の少なくともいずれかが欠損してなる部分領域を有する構成を持つ。ここで言う「パーフルオロカーボン骨格」は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を指す。
【0020】
この反射防止膜11は、具体的にはPTFEをターゲット源とし、Ar等の不活性ガスを成膜雰囲気とするスパッタリング法により成膜されたものである。或いは、別の成膜方法として、PEをターゲット源とし、CF4を含むガスを成膜雰囲気とする薄膜形成法により成膜することもできる。いずれの薄膜形成法による成膜においても、ターゲット源の材料またはガス中のC原子及びF原子等の結合が成膜中に照射される高エネルギーにより一旦切断され、基材シート上で各原子が再結合されて成膜されるが、一旦切断されたC原子及びF原子の一部が失われることで、再結合の際に前記部分領域を有する分子構造が形成されると考えられる。
【0021】
ここで反射防止膜11とPTFEの化学構造の違いを図2に示す。図2(a)は反射防止膜11を構成する化合物の化学構造を模式的に示したものである。図2(b)は、公知のPTFEの化学構造を示す。
なお、図2(a)は模式的な構造に過ぎず、ここでは膜中に存在する原子の種類や結合の例示として示している。膜の各種結合の位置や分子構造の特定については、今後の検討が必要である。
【0022】
図2(a)に示すように、フッ化炭素膜にはC原子、F原子がそれぞれ含まれており、この点ではPTFEのパーフルオロカーボン骨格と共通する。しかしながら化学構造的には、パーフルオロカーボン骨格に存在するはずのC原子、F原子が失われた部分領域が存在している。これにより、反射防止膜11中のC、Fの原子数比C:Fは、概ねC2:Fx(xは4未満の正の数)として表わされる。これを言い換えると、部分領域中には、1のC原子に対して結合するF原子の数が0.1、3のいずれか(すなわち、PTFEのように2ではない。3は分子鎖末端に存在する)であると言うことができる。
【0023】
(反射防止シートの効果について)
以上の構成を有する反射防止シート1では、反射防止膜11が透過率特性及び低反射率特性を有している。このため、反射防止シート1は、単体の基材シート、或いは基材シート上にMgF2等の従来の反射防止膜を形成してなる反射防止シートのいずれかを用いる場合に比べ、優れた透明性を発揮することができる。
【0024】
特に、上記したフッ化有機化合物を含んでなる反射防止膜11は、PTFEと共通する特性に加え、PTFEには見られない特有の光学特性として、高い透過率特性(低反射率特性)を併せ持っている。この反射防止膜11の屈折率としては、基材シート10の屈折率(1.51〜1.64程度)よりも低い1.34〜1.35程度に設定されている。
従って、反射防止シート1を各種ディスプレイの表面やタッチパネルの面状部材に配設した場合には、これらを野外で使用する場合においても外光反射を適切に防止し、ディスプレイ面への外光の映り込みを極力低減することで、優れた画像表示性能を期待することができる。
【0025】
(XPSを用いた反射防止膜11の測定について)
反射防止膜11の組成を示すC原子とF原子の比C2:Fxにおけるxの値は、XPSを用いた測定結果より以下のように求めることができる。
図10は、反射防止膜11をXPSで測定して得られた、C1s結合エネルギーが284eV以上296eV以下の範囲のスペクトルである。当図では、スペクトルの輪郭は測定データと包絡線の重なりとして表わしている。横軸付近に見える微弱な波形(点線)は、測定データと包絡線の差分を示す。
【0026】
図10に示すように、当該スペクトルの分布範囲では、PTFEにも見られるCF2結合と、PTFEには見られない結合に対応する、合計5つのピークI0〜I3が明瞭に判別できる。各ピークI0〜I3は、具体的には結合エネルギーの低い方から順にC−CH結合(285eV付近)、CFα結合(αは正数。287.3eV付近)、CF結合(289.5eV付近)、CF2結合(291.9eV付近)、CF3結合(294.0eV付近)のC1s軌道電子に対応すると考えられる。このように各ピークと結合基を対応付ける解釈は、パーフルオロカーボン骨格の各結合に対して各ピークを矛盾なく対応づけられるため合理的である。なお、各ピークI0〜I3の結合エネルギーの測定値は測定条件や装置特性等によって若干変化し、多少の誤差を生ずる場合がある。従って、上記測定値は実測値の一例として示している。
【0027】
PTFEを同様の条件のXPSで測定すれば、実質的にCF2結合に対応するI2のシングルピークのみを有するスペクトルが得られる。従って、XPSのスペクトルを見れば、本発明の反射防止膜11とPTFEとを区別することができる。また、XPS以外にもIRを用いて区別することもできるが、XPSを用いた方が確実である。
次にxを求める手法を説明する。まず、各ピークI0〜I3のそれぞれを半値幅2.0のピークに波形分離し、各々のピーク面積S0〜S3を算出する。ここで各ピーク面積S0〜S3は、反射防止膜11に存在する各結合の数に関係している。各ピークの半値幅を2.0eVとすることで、C1sスペクトルとずれの少ない波形分離ができる。
【0028】
次に、284eV以上296eV以下の範囲のスペクトルの総面積SCFSを式1より求める。
(式1) SCFS=S0+Sα+S1+S2+S3
次に炭素に対するフッ素の割合(F/C)を式2より求める。
(式2)F(原子数)/C(原子数)=(3S3 + 2S2 + S1)/SCFs
実際の演算結果として、xは1.9未満の値、一例として1.2〜1.8eVとなる。一方、PTFEではxはほぼ2.0程度(少なくとも1.9以上)であるため、本発明の反射防止膜11とは明瞭に区別できる。
【0029】
なお、ピーク面積はピーク強度と比例するため、式1〜3における各面積の項を強度の項に置き換えても同様の結果を得ることができる。
ここで、反射防止膜11中にはその他、ターゲット源の種類(水素成分を含むか否か)や成膜雰囲気の種類(酸素成分を含むか否か)等に起因して、C−H結合、C−O結合を含む場合があり、或いはC=C(二重)結合、C≡C(三重)結合等を含む場合もあると考えられる。
【0030】
このうちO原子は、主として反射防止膜11を薄膜形成法により成膜する際に、成膜雰囲気内に含まれる酸素成分が混入したものであると考えられる。
またH原子は、主としてPEをターゲット源とした場合に、PEに由来するH原子が混入したものや、成膜雰囲気中の水分(H2O分子)等に起因して混入したものであると考えられる。
【0031】
また、ここには図示しないが、反射防止膜11中には成膜時のスパッタリングによって生じたFラジカル、Oラジカルや、PTFE由来のパーフルオロカーボンが分断された低分子化合物等が含まれている可能性もある。
以下、本発明の別の実施の形態として、タッチパネルやディスプレイ装置への適用例を述べる。
【0032】
<実施の形態2>
図3は、本発明の実施の形態2にかかるインナータイプ抵抗膜式タッチパネル2(以下、「タッチパネル2」と言う。)の構成を示す組図である。
図3に示されるように、タッチパネル2は、上から順にHC板17、上部面状部材5A、抵抗膜13、スペーサー16、抵抗膜14、配線基板50、下部面状部材5Bを積層してなる。下部面状部材5Bの下には、粘着層12を介して実施の形態1の反射防止シート1が配設され、反射防止膜11が下面を向く順に積層されている。
【0033】
タッチパネル2は、いわゆる「4wire方式」と呼ばれる入力検出方法が採用されており、且つ各面状部材5Aにフィルム、5Bにガラス材料を用いた「F‐Gインナータイプ」と呼ばれる構成であって、ここでは車載用カーナビゲーションシステムへの用途を想定したものである。
抵抗膜13、14は、それぞれ上部面状部材5A、下部面状部材5Bの対向表面において、既知の抵抗値(面抵抗)を持つITO(Indium Tin Oxide)、アンチモン添加酸化錫、フッ素添加酸化錫、アルミニウム添加酸化亜鉛、カリウム添加酸化亜鉛、シリコン添加酸化亜鉛、カリウム添加酸化亜鉛、酸化亜鉛‐酸化錫系、酸化インジウム‐酸化錫系、或いはこれ以外の各種金属材料等の抵抗膜(透明導電膜)から構成されている。これらの材料を用いてCVD、真空蒸着、スパッタリング、イオンビーム等の方法により成膜することで、上記面状部材5A、5Bの表面に一様に所定面積の抵抗膜13、14が形成される。そして粘着材、粘着シート、プラスチックフィルム両面に粘着材層を有する両面テープ等からなる高さ約50μmのリブスペーサ18を設けることで、通常は当該抵抗膜13、14同士が一定間隔を置くように対向配置されている。
【0034】
抵抗膜13、14の成膜パターン例としては、各面状部材5A、5Bの対向表面において矩形状に形成させる。そして、形成した当該抵抗膜13、14のy軸或いはx軸に並行な一対の辺に沿って、それぞれ引き出し線131、132、141、142を配設することで、全体としてxy直交座標をなすよう形成する。引き出し線131、132、141、142には、電極端子131a、132a、141a、142aが設けられている。なお、133は、電極端子132aと引き出し線132を接続するための接続線である。
【0035】
一方、抵抗膜13、14の間には、フレキシブルコネクター50が所定の位置に介設される。当該フレキシブルコネクター50は、PET或いはポリイミド等の樹脂材料で作製されたフレキシブル基板501と、当該基板表面においてAu、Ag、Cu等の良好な導電性を持つ材料からなる配線502〜505が形成されてなる。配線502〜505には電極端子502a〜505aが形成されている。
【0036】
以上の構成で電気配線が為されたタッチパネル2での入力検出原理(4wire方式)は、駆動時において、まずy軸に沿った引き出し線131、132間に0〜5V程度の直流電圧を印加しておき、ユーザーによる入力がなされるとx軸に沿った引き出し線141、142を電圧検出電極としてy軸方向の位置データを獲得する。
次に、x軸に沿った引き出し線141、142間に電圧印加を行い、y軸に沿った引き出し線131、132を電圧検出電極とすることでx軸方向の位置データを獲得する。これによりxy両方の座標情報が得られる。タッチパネル2ではこのような検出ステップを交互に繰り返すことにより、逐次的にユーザーからの入力情報を獲得し、GUI(Graphical User Interface)としての機能が発揮される。
【0037】
さらに、上部面状部材5Aに対向する下部面状部材5Bの表面には、xy方向に沿ってマトリクス状に半球状の突起スペーサー16が一定間隔毎に配設され、抵抗膜13、14同士の不要な接触を抑制する構成となっている。当該突起スペーサー16は光硬化型のアクリル樹脂により作製可能であって、上部および下部面状部材5A、5Bの対向距離に合わせて、例えば高さ10μm、直径10μm〜50μmのサイズに設定されている。なお、当図では図示を容易にするために実際より突起スペーサー16のサイズを大きく表している。当該突起スペーサー16は、半球状以外の形状、例えば円錐状、もしくは円柱状等としてもよい。
【0038】
以上の構成を有するタッチパネル2では、その下面に反射防止シート1を配設している。このため、当該タッチパネル2を外光の入射量が比較的多い屋外で使用する場合(例えば駅における券売機のディスプレイ面への用途等)でも、画面への移り込みを抑制して、安定した画像表示性能を維持することができる。
なお、本発明を適用することが可能なタッチパネルは、図3に示す構成に限定されず、例えば下部面状部材5Bをフィルム基材で構成する、いわゆるF‐Fタイプに適用してもよい。
【0039】
また、上記F‐Gタイプの構成においては、ガラス基材の代わりに、ガラス板または樹脂板に上記面状部材のフィルム材料を適宜粘着材で貼着してなる積層体(F‐F‐Gタイプ、あるいはF‐F‐Pタイプとも称される)を配設するようにしてもよい。また、フィルムとガラス基材との積層枚数、積層順等についても適宜変更調整が可能である。
さらに本発明は、タッチパネル自体の入力方式としていずれの方式であってもよく、抵抗膜式以外の入力方式(静電容量式)の構成であってもよい。
【0040】
<実施の形態3>(LCD装置)
図4は、実施の形態3にかかるディスプレイ装置6の構成を示す、模式的な断面図である。
ディスプレイ装置6は、LCDユニット4の上に、偏光板ユニット3、HC層23、反射防止シート1を順次積層して構成される。
【0041】
LCDユニット4は、一対のガラス基板30、32の間にLCD31を介設してなる。LCD31は公知のTFT型であって、図3中、上から下に同順に、不図示の透明層、カラーフィルタ、液晶分子層、TFT基板、透明層が積層されたユニットで構成されている。なお、LCD31はTFT型以外、たとえば単純マトリクス型でもよい。また、LCDユニット4の積層構造も上記に限られない。
【0042】
偏光板ユニット3は、一対のTAC(トリアセチルセルロース)からなる透明基板20、22の間に、厚み200μmの染料系直線偏光板である偏光子21を介設し、上面側の透明基板22の表面にHC層23を形成してなる。偏光板ユニット4はLCDユニット4の上面に対し、粘着層12により貼着されている。これによりLCD内部に入射される可視光の反射光量を約半分以下にまで抑制することができる。
【0043】
HC層23の上面には、反射防止シート1が、基材シート10、反射防止膜11の順に積層されるように配設される。
このような構成を持つディスプレイ装置6では、偏光板ユニット3の上方に設けた反射防止シート1によって、外界からの入射光がディスプレイ面において反射するのが防止され、良好な透明性が発揮される。このため、偏光板ユニット3及びLCDユニット4による、優れた画像表示性能の発揮を期待することができる。
【0044】
なお、タッチパネル2に装着されるディスプレイはLCDに限らず、CRT、PDP等の他の種類のディスプレイであってもよい。
ここで実施の形態3のディスプレイ装置6に対し、実施の形態2のタッチパネル2を組み合わせることもできる。この場合、タッチパネル2の下面(反射防止膜11)を、ディスプレイ装置6の上面(反射防止膜11)と対向するように配設すれば、各反射防止膜11が外界から保護される構成を採ることもできる。
【0045】
<性能確認試験>
本発明の実施例を比較例とともに作製し、透過率及び反射率について調べた。
(実施例及び比較例の作製)
基材として、表1に示すようにクラウンガラス(基材1)、環状オレフィンとして日本ゼオン株式会社製「ゼオノアZF16」(基材2)、PETとして三菱ポリエステルフィルム株式会社製「O300E」(基材3)、PENとして帝人デュポン株式会社製「MX705」(基材4)のいずれかを用いた。ここで基材1では、塩基性成分がアルカリまたはアルカリ土類で構成されているクラウンガラスを使用した。
【0046】
【表1】
次に、基材1〜4を用い、実施例(フッ化有機化合物)及び比較例(MgF2)の反射防止膜をそれぞれスパッタリング法に基づき、それぞれの厚みが同順に64.4nm、55.7nmとなるように成膜した。スパッタリング条件は以下の表2に示すように設定した。ターゲット材質はPTFE(実施例)またはMgF2(比較例)とし、ターゲットサイズはいずれも5インチ×15インチのものを用いた。
【0047】
成膜手順として、基板を回転ドラム表面に設置し、スパッタ中は繰り返しターゲット直上を通過させた。本例ではドラムの直径は約400mm、ドラム回転数は約6rpmとし、スパッタ時間を15minに設定し、基板のターゲット直上の通過回数を90回とした。成膜厚みは、繰り返し干渉法を用いて測定した。
【0048】
【表2】
(測定手順)
本試験では、ゴニオメーターを用いて透過率及び反射率の測定を行った。
【0049】
まず、装置内サンプルをセットしない状態で、セット予定のサンプル表面へ光の入射角度θが90°になるように調整する。調整後に光を入射させ、ミラーM1で反射した光を検出器D1で捕捉してベースラインを測定する(図5(a))。
次に、装置内にサンプルを載置する。ミラーM1及び検出器D1を入射光θを0〜60°の間のいずれかの角度に設定し、入射光の波長を変化させて透過率を測定する。一方、ミラーM2及び検出器D2を用い、光の入射角度θを5°〜60°の間のいずれかの角度に設定し、入射光の波長を変化させて絶対反射率を測定する。本例では入射角を5°に固定した。
(試験結果)
基材1〜4ごとの実施例及び比較例の測定結果を図6〜9に示す。各図中、(a)は入射光の波長(横軸)に対する透過率(左縦軸)または反射率(右縦軸)の関係を示す。また、(b)は入射光の波長(横軸)に対する、反射率及び透過率の和の関係を示す。
【0050】
(1)透過率について
各図6〜9の(a)、(b)に示されるように、いずれの基材1〜4においても、実施例では、基材単体の透過率に比べ、反射防止膜を形成した構成で透過率の上昇が確認できた。一方、比較例では基材単体の透過率に比べて、反射防止膜を形成した場合の方が、透過率が低くなった。これらの各傾向は、入射光の波長が短いほど顕著に表れた。これらのことから、実施例の反射防止膜を設けた場合には、基材の材料によらず、一般に良好な透過率が確保できると予想される。
【0051】
また、比較例の反射防止膜は、目視ではやや黄色味に着色した透明膜として観察された。これは比較例の反射防止膜が、可視光の短波長(300〜400nm)領域において、光吸収を生じていることを示している。このように反射防止膜が少なくとも可視光領域で光吸収していることで、上記各図に示されたデータのように、比較例の透過率が基材の透過率よりも低くなったものと考えられる。
【0052】
(2)反射率について
一方、反射率の変化を考察すると、実施例及び比較例のいずれも、基材に対して各反射防止膜を形成することで、反射率の低減が図られている。これは基材よりも低屈折率を有する反射防止膜を形成したことが理由の一つと考えられる。
しかしながら、実施例による反射率の低減効果は、比較例による反射率の低減効果に比べて顕著であり、透過率の向上及び反射率の低減の総合評価において、実施例は比較例よりも良好な優位性を持っていると言える(図6〜9の(b)参照)。なお、実際に実施例で得られたフッ化炭素膜の屈折率をエリプソメーター(波長633nm)で測定したところ1.34であった。
(3)総合評価
透過率と反射率の合計値は、入射される光が無損失(基材と反射防止膜のいずれでも光吸収がない)場合は100%の値となるが、損失がある場合は100%未満の値となる。
【0053】
ここで上記の通り、実施例は良好な透過率を有しているため、図6〜9の(b)に示されるように、実施例は透過率及び反射率の合計値が、基材そのものの透過率及び反射率の合計の値とほぼ一致し、且つ、ほぼ100%の値を示した。一方の比較例では、反射防止膜を形成した場合に透過率が低下する分、透過率及び反射率の合計の値が、基材そのものの合計の値に比べて低下しているのが確認できた。
【0054】
以上の実験結果より、従来技術に対する本発明の優位性が確認された。
<その他の事項>
本発明の反射防止シートにおける基材は、上記各実施の形態に示すようなシート状に限定されない。例えばバルク状のガラス(例えばカメラ用レンズを構成するガラス製光学部品)を基材とすることもできる。この場合、いずれかのガラス製光学部品の表面に反射防止膜を形成し、別のガラス製光学部品を前記反射防止膜の上に重ね合わせることで、反射防止膜が外界と直接接するのが防止され、長期にわたって反射防止膜の剥離や傷を防ぐ保護効果を期待することもできる。
【0055】
上記実施の形態では、ターゲット源としてパーフルオロカーボン骨格を有する化合物(すなわちPTFE)を用いたスパッタリングにより反射防止膜を形成する例を示したが、本願発明者らの検討によれば、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等の材料をターゲット源とするスパッタリングによっても、パーフルオロカーボン骨格をターゲット源に用いた場合と同様に、反射防止特性及び透明性に優れる反射防止膜を得られる可能性がある。
【0056】
本発明の反射防止シートは、基材シートの両面に反射防止膜を形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の反射防止シートは、高い反射防止特性及び透明性を有するため、非常に幅広い用途に利用可能である。例示すると公共用・家庭用の各種ディスプレイやタッチパネル、光照射量が比較的多い屋外での用途(公共施設の表示装置)やカーナビゲーションシステム等)に適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 反射防止シート
2 タッチパネル
3 偏光板ユニット
4 LCDユニット
5A、5B 面状部材
6 ディスプレイ装置(タッチパネル付LCD装置)
10 基材シート
11 反射防止膜(フッ化炭素膜)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な基材シートの片面に反射防止膜を形成してなる反射防止シートであって、
前記反射防止膜は、炭素原子またはフッ素原子が欠損した部分領域を含む分子構造のパーフルオロカーボン骨格で構成されたフッ化炭素膜である
ことを特徴とする反射防止シート。
【請求項2】
前記部分領域には、フッ素原子の結合数が0、1、3のいずれかの炭素原子が含まれている
ことを特徴とする請求項1に記載の反射防止シート。
【請求項3】
前記フッ化炭素膜はXPS解析において、
C1s結合エネルギーが284eV以上296eV以下の範囲に分布したスペクトルを有し、
前記スペクトルは、289.5eVにおけるピークI1をCF結合、291.9eVにおけるピークI2をCF2結合、294eVにおけるピークI3をCF3結合としてそれぞれ波形分離される
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の反射防止シート。
【請求項4】
式(3S3 + 2S2 + S1)/SCFs
で求められる反射防止膜中のF原子/C原子の比が1.9未満である
ことを特徴とする、請求項3に記載の反射防止シート。
但し、S1、S2、S3はそれぞれ半値幅を2.0eVとして求めたピークI1、I2、I3のピーク面積、SCFsは前記スペクトルの総面積とする。
【請求項5】
フッ化炭素膜の屈折率が、基材シートの屈折率よりも低い
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の反射防止シート。
【請求項6】
フッ化炭素膜の屈折率が1.33〜1.35であり、基材シートの屈折率が1.48〜1.66である
ことを特徴とする、請求項5に記載の反射防止シート。
【請求項7】
フッ化炭素膜は、PTFEをターゲット源とする薄膜形成法により成膜されている
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の反射防止シート。
【請求項8】
フッ化炭素膜は、PEをターゲット源とし、CF4を含むガスを成膜雰囲気とする薄膜形成法により成膜されている
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の反射防止シート。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載する反射防止シートを面状部材の上方に配設した
ことを特徴とする、反射防止シート付タッチパネル。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載する反射防止シートをディスプレイ面の上方に配設した
ことを特徴とする、反射防止シート付LCD装置。
【請求項1】
透明な基材シートの片面に反射防止膜を形成してなる反射防止シートであって、
前記反射防止膜は、炭素原子またはフッ素原子が欠損した部分領域を含む分子構造のパーフルオロカーボン骨格で構成されたフッ化炭素膜である
ことを特徴とする反射防止シート。
【請求項2】
前記部分領域には、フッ素原子の結合数が0、1、3のいずれかの炭素原子が含まれている
ことを特徴とする請求項1に記載の反射防止シート。
【請求項3】
前記フッ化炭素膜はXPS解析において、
C1s結合エネルギーが284eV以上296eV以下の範囲に分布したスペクトルを有し、
前記スペクトルは、289.5eVにおけるピークI1をCF結合、291.9eVにおけるピークI2をCF2結合、294eVにおけるピークI3をCF3結合としてそれぞれ波形分離される
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の反射防止シート。
【請求項4】
式(3S3 + 2S2 + S1)/SCFs
で求められる反射防止膜中のF原子/C原子の比が1.9未満である
ことを特徴とする、請求項3に記載の反射防止シート。
但し、S1、S2、S3はそれぞれ半値幅を2.0eVとして求めたピークI1、I2、I3のピーク面積、SCFsは前記スペクトルの総面積とする。
【請求項5】
フッ化炭素膜の屈折率が、基材シートの屈折率よりも低い
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の反射防止シート。
【請求項6】
フッ化炭素膜の屈折率が1.33〜1.35であり、基材シートの屈折率が1.48〜1.66である
ことを特徴とする、請求項5に記載の反射防止シート。
【請求項7】
フッ化炭素膜は、PTFEをターゲット源とする薄膜形成法により成膜されている
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の反射防止シート。
【請求項8】
フッ化炭素膜は、PEをターゲット源とし、CF4を含むガスを成膜雰囲気とする薄膜形成法により成膜されている
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の反射防止シート。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載する反射防止シートを面状部材の上方に配設した
ことを特徴とする、反射防止シート付タッチパネル。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載する反射防止シートをディスプレイ面の上方に配設した
ことを特徴とする、反射防止シート付LCD装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−63612(P2012−63612A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208253(P2010−208253)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】
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