説明

ディスプレイ用部材の製造方法。

【課題】感光性ペースト法による誘電体層と隔壁の生産性に優れた形成方法を提供し、高精細かつ安価なディスプレイ部材を実現、提供する。
【解決手段】ガラス基板上に電極および該電極を覆う誘電体層、該誘電体層上に配置された隔壁を有するディスプレイ用部材の製造方法であって、基板上に電極または電極前駆体を形成し、少なくともガラス粉末を含む無機成分および酸性基を有する感光性化合物を含む有機成分からなり、前記無機成分に銅化合物を含有する感光性ペーストを該電極または電極前駆体を覆うように塗布し、乾燥し、パターン露光し、アルカリ水溶液を用いて現像し、焼成することにより該誘電体層と該隔壁を一括形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精細かつ安価なディスプレイ用部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイ(以下PDPとする)、電界放射ディスプレイ、蛍光表示管、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、発光ダイオードなどの平面ディスプレイの開発が急速に進められている。このうち、PDPは、前面ガラス基板と背面ガラス基板との間に備えられた放電空間内で対向するアノード電極とカソード電極間にプラズマ放電を生じさせ、上記放電空間内に封入されているガスから発生した紫外線を、放電空間内に設けた蛍光体に照射することにより表示を行うものである。PDPや蛍光表示管などのガス放電タイプのディスプレイは、各駆動電極(走査・維持電極、アドレス電極)間、及び、電極と放電空間を絶縁し、放電を維持するための誘電体層を必要とする。さらに、誘電体層上に放電空間を仕切るための絶縁性の隔壁を必要とする。
【0003】
従来、このような誘電体層および隔壁を形成する方法として、誘電体ペーストを用いてダイコート法、スクリーン印刷法などにより所定の膜厚の誘電体層を形成した後、隔壁ペーストを用いてサンドブラスト法、エッチング法、型転写(インプリント)法、フォトリソグラフィ法(感光性ペースト法)などにより隔壁を形成する方法が知られている。これらの中でも感光性ペースト法は特にコストメリットの高い手法である(特許文献1、2参照)。
【0004】
従来手法では、誘電体層と隔壁を異なるペーストを用いて個別に形成しなければならず、ペーストの種類が多く、工程数が多いため高コストであるという問題がある。この問題を解決するため、誘電体層と隔壁を一括形成する方法が提案されている(特許文献3〜5参照)。特許文献3〜5では、サンドブラスト法、エッチング法、型転写法を用いて誘電体層と隔壁の一括形成を実現しているが、従来技術の中でコストメリットの高い手法である感光性ペースト法では、一括形成が困難であり実現できていなかった。
【特許文献1】特開平9−310030号公報
【特許文献2】特開2007−183595号公報
【特許文献3】特開2005−231127号公報
【特許文献4】特開2007−12622号公報
【特許文献5】特開平11−283506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、上記従来技術の問題点に着目し、高精細かつ安価なディスプレイ部材を実現、提供することにある。具体的には、感光性ペースト法による誘電体層と隔壁の生産性に優れた形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は以下の構成を有する。
(1)ガラス基板上に電極および該電極を覆う誘電体層、該誘電体層上に配置された隔壁を有するディスプレイ用部材の製造方法であって、基板上に電極または電極前駆体を形成し、該電極または電極前駆体を覆うように、ガラス粉末を含む無機成分および酸性基を有する感光性化合物を含む有機成分からなり、前記無機成分に銅化合物を含有する感光性ペーストの塗膜を設け、パターン露光し、アルカリ水溶液を用いて現像し、焼成することにより該誘電体層と該隔壁を一括形成することを特徴とするディスプレイ用部材の製造方法。
(2)前記感光性ペーストに含まれる銅化合物が、酸化物換算で全無機成分中0.001〜3重量%であることを特徴とする(1)に記載のディスプレイ用部材の製造方法。
(3)前記感光性ペーストが、平均粒子径0.01〜10μmの酸化銅(II)粒子を含有することを特徴とする(1)または(2)に記載のディスプレイ用部材の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、感光性ペーストを用いて誘電体層と隔壁を一括形成することにより、誘電体層と高精細隔壁を低コストで形成できる。それゆえ、高精細かつ安価なディスプレイ用部材を実現、提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のディスプレイ用部材の製造方法に用いるガラス基板としては、ソーダガラスや耐熱ガラスである“PP8”(日本電気硝子株式会社製)、“PD200”(旭硝子株式会社製)を用いることができる。ガラス基板のサイズは特に限定はなく、厚みは1〜5mmのものを用いることができる。
【0009】
本発明のディスプレイ用部材の製造方法においては、まず、基板上に電極または電極前駆体を形成する。ここで、電極または電極前駆体とは、印刷法、スラリー法、蒸着法、スパッタリング法、スリットダイコート法、スピンコーティング法等の成膜技術を利用し、例えばフォトリソグラフィ法により所望のパターンを形成したものである。例を挙げると、PDP前面板電極では、酸化インジウム錫(ITO)、酸化錫、酸化亜鉛などの導電性金属酸化物からなる幅広の透明電極上に、細幅の銀またはクロム−銅−クロム電極を積層させた走査・維持電極であり、PDP背面板電極では、銀やアルミニウム、クロム、ニッケルなどの金属からなるアドレス電極、あるいは銀やアルミニウム、クロム、ニッケルなどの金属ならびにバインダー樹脂等の有機成分を含むアドレス電極前駆体を指す。
【0010】
本発明では、電極を覆う誘電体層と該誘電体層上に形成される隔壁を一括形成することが特徴である。ここでいう誘電体層とは、例えば、PDP前面板では走査・維持電極上に一般的には厚み10〜40μmで形成される透明誘電体層を指し、PDP背面板ではアドレス電極上に一般的には厚み5〜20μmで形成される誘電体層を指す。また、ここでいう隔壁とは、例えば、PDP前面板では前記透明誘電体層上にクロストーク防止のために一般的には高さ5〜40μm、頂部幅10〜200μmで形成されるパターン化された凹凸形状を有する誘電体層を指し、PDP背面板では前記誘電体層上に放電空間を仕切るための一般的には高さ50〜200μm、頂部幅20〜100μm、アスペクト比1〜5で形成される隔壁を指す。
【0011】
本発明では、誘電体層と隔壁を一括形成するために、感光性ペーストを用いることが必須である。
【0012】
本発明でいう感光性ペーストとは、乾燥塗膜に対し活性光線を照射することによって、照射部分が光架橋、光重合、光解重合、光変性などの反応を通し化学構造が変化して現像液による現像が可能になるようなペーストをいう。本発明は特に、活性光線の照射により照射部分が現像液に不溶となり、しかる後現像液によって非照射部分のみを除去することによってパターン形成を行うことが可能なネガ型感光性ペーストとすることにより良好な特性を得ることができる。ここで言う活性光線とはこのような化学反応を起こさせる250〜1100nmの波長領域の光線を指す。
【0013】
本発明では、基板上に形成した電極または電極前駆体を覆うように感光性ペーストの塗膜を形成した後、パターン露光、現像、焼成することにより誘電体層と隔壁を一括形成する。感光性ペーストの塗膜は、感光性ペーストをバーコーター、ロールコーター、スリットダイコーター、ブレードコーター、スクリーン印刷等により塗布した後に乾燥して形成しても良いし、転写シート法により圧着させ形成しても良い。
【0014】
次に感光性ペーストの塗膜にパターン露光を行う。露光は通常のフォトリソグラフィで行われるように、フォトマスクを介して露光する方法が一般的である。また、フォトマスクを用いずに、レーザー光などで直接描画する方法を用いてもよい。露光装置としては、ステッパー露光機、プロキシミティ露光機などを用いることができる。この際使用される活性光源は、例えば、近紫外線、紫外線、電子線、X線、レーザー光などが挙げられる。これらの中で紫外線が最も好ましく、その光源として、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ハロゲンランプ、殺菌灯などが使用できる。これらのなかでも、超高圧水銀灯が好適である。露光条件は乾燥塗膜の厚みにより異なるが、通常、1〜100mW/cmの出力の超高圧水銀灯を用いて0.01〜30分間露光を行う。
【0015】
露光後、露光部分と未露光部分の現像液に対する溶解度の差を利用して現像を行うが、通常、浸漬法やスプレー法、ブラシ法等で行う。現像液としては感光性ペースト中の有機成分が溶解可能である有機溶媒を用いることができるが、本発明においては感光性ペースト中にカルボキシル基などの酸性基を有する感光性化合物を用い、アルカリ水溶液を用いて現像を行う。アルカリ水溶液としては水酸化ナトリウムや、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム水溶液等を使用できるが、有機アルカリ水溶液を用いた方が焼成時にアルカリ成分を除去しやすいので好ましい。有機アルカリとしては、一般的なアミン化合物を用いることができる。具体的にはテトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンなどが挙げられる。
【0016】
アルカリ水溶液の濃度は通常0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜1質量%である。アルカリ濃度が低すぎれば可溶部が除去されにくく、アルカリ濃度が高すぎればパターンを剥離させたり腐食させたりするおそれがあり好ましくない。また、現像時の現像温度は20〜50℃で行うことが工程管理上好ましい。
【0017】
従来、隔壁形成に用いられてきた感光性ペーストは、少なくともガラス粉末を含む無機成分と感光性化合物を含む有機成分から成り、さらに必要に応じて、無機成分としてフィラー、有機成分として非感光性ポリマ成分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、有機染料、光重合開始剤、増感剤、増感助剤、可塑剤、増粘剤、分散剤、沈殿防止剤などの添加剤成分を加えた組成からなるものである。その例として、上述の特許文献1および2記載の感光性ペーストが挙げられる。本発明における感光性ペーストは、必須成分である酸性基を有する感光性化合物、および、銅化合物を除いた成分に関しては特許文献1、2に記載された感光性ペーストと同様の成分を用いることができる。
【0018】
本発明における感光性化合物とは、感光性モノマ、感光性オリゴマ、感光性ポリマのうち少なくとも1種類から選ばれた化合物である。感光性化合物に含有する酸性基とは、アルカリ水溶液との反応により、酸性基がイオン化などして感光性化合物がアルカリ水溶液に可溶化し、アルカリ現像を可能とする官能基である。具体的には、カルボキシル基やフェノール性水酸基、酸無水物などが挙げられる。
【0019】
酸性基を有する感光性化合物として、酸性基を有する感光性ポリマを例に挙げ説明する。酸性基を有する感光性ポリマとしては、アクリル系共重合体を好ましく用いることができる。アクリル系共重合体とは、共重合成分に少なくともアクリル系モノマを含む共重合体であり、アクリル系モノマの具体的な例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、アリルアクリレート、ベンジルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、ブトキシトリエチレングリコールアクリレート、シクロへキシルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、グリセロールアクリレート、グリシジルアクリレート、ヘプタデカフロロデシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、イソボニルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、イソデキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、メトキシエチレングリコールアクリレート、メトキシジエチレングリコールアクリレート、オクタフロロペンチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ステアリルアクリレート、トリフロロエチルアクリレート、アクリルアミド、アミノエチルアクリレート、フェニルアクリレート、1−ナフチルアクリレート、2−ナフチルアクリレート、チオフェノールアクリレート、ベンジルメルカプタンアクリレートなどのアクリル系モノマ、及びこれらのアクリレートをメタクリレートに代えたものなどが挙げられる。アクリル系モノマ以外の共重合成分としては、炭素−炭素2重結合を有する化合物が使用可能であるが、好ましくはスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレンなどのスチレン類や、1−ビニル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0020】
アクリル系共重合体に酸性基を付与するためには、モノマとして不飽和カルボン酸等の不飽和酸を加えることにより達成される。不飽和酸の具体的な例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、酢酸ビニル、またはこれらの酸無水物が挙げられる。これらを付加した後のポリマの酸価は50〜150の範囲であることが好ましい。
【0021】
アクリル系共重合体を感光性ポリマとするには、側鎖または分子末端に炭素−炭素2重結合を有する基を付加させればよい。炭素−炭素2重結合を有する基としては、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基等が挙げられる。このような官能基をアクリル系共重合体に付加させるには、アクリル系共重合体中のメルカプト基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基に対して、グリシジル基やイソシアネート基と炭素−炭素2重結合有する化合物や、アクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライドまたはアリルクロライドを付加反応させる方法がある。グリシジル基と炭素−炭素2重結合を有する化合物としては、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アリルグリシジルエーテル、グリシジルエチルアクリレート、クロトニルグリシジルエーテル、グリシジルクロトネート、グリシジルイソクロトネートなどが挙げられる。イソシアネート基と炭素−炭素2重結合を有する化合物としては、アクリロイルイソシアネート、メタクリロイルイソシアネート、アクリロイルエチルイソシアネート、メタクリロイルエチルイソシアネート等が挙げられる。
【0022】
本発明では、感光性ペーストの無機成分に銅化合物を含有することが必須である。感光性ペーストに銅化合物を含有させる方法としては、銅化合物を構成成分として含むガラス粉末やフィラーをペーストに添加しても良いし、酸化物、塩、もしくは錯体として銅化合物を別途添加しても良い。銅化合物の例としては、酸化銅(I)、酸化銅(II)、塩化銅(I)、塩化銅(II)、硫化銅、硫酸銅、酢酸銅(I)、酢酸銅(II)、硝酸銅(II)、銅アセチルアセトナト錯体、テトラアンミン銅錯体などが挙げられる。取り扱いの容易さから、銅化合物を構成成分として含むガラス粉末やフィラーとして添加するか、酸化銅(II)として添加することが好ましい。
【0023】
本発明で用いる感光性ペーストは、各成分を所定の組成となるように調合した後、3本ローラーなどの混練機器を用いて本混練を行って、均質分散し作製する。また、本混練を終えた感光性ペーストを適宜、濾過、脱泡しておくことも好ましい。
【0024】
図2に従来の銅化合物を含有しない感光性ペーストを用いた誘電体層と隔壁を一括形成法を示す。まず、基板(図2a)上に、感光性ペースト塗膜を設け(図2b)、フォトマスクを介して露光する(図2c)。その後、現像時に未露光部分が溶解する深さが現像時間に比例することを利用し、図1に示す乾燥塗膜厚みX、誘電体層乾燥膜厚みY、未露光部分溶解時間Tを用いて一括形成のための現像時間tを下式(1)により求め、現像する(図2d)。このように、感光性ペーストの溶解を途中で止めることにより、一括形成を試みることはできるが、現像時間が長くなると電極が露出してしまったり(図2e)、現像時間のばらつきにより誘電体層の膜厚ばらつきを生じたりするなど、現像マージンが狭いという問題があるため誘電体層と隔壁を一括形成することは困難であった。
【0025】
t=T(X−Y)/X (1)
本発明では、感光性ペーストが銅化合物を含有することで、現像時に未露光部分の溶解が特定の膜厚を残して停止(残膜)するため、現像時間のばらつきによる誘電体層の膜厚ばらつきを抑えることができ、従来技術の問題点である狭い現像マージンを解決できることを見出した。図3に本発明の誘電体層と隔壁の一括形成法を示す。基板(図3a)上に、感光性ペースト塗膜を設け(図3b)、フォトマスクを介して露光する(図3c)。その後、現像工程で、特定の膜厚を残して溶解が停止するため誘電体層と隔壁を一括形成できる(図3d)。このような顕著な効果が発現する理由は明らかではないが、以下のような機構が考えられる。
【0026】
現像時にアルカリ水溶液が直接接触する乾燥塗膜上部から未露光部分の溶解が進行するが、この時に同時にアルカリ水溶液が膜内部にまで徐々に浸み込んでいく。浸み込んだアルカリ水溶液が銅化合物および酸性基を有する感光性化合物と反応することで、アルカリ水溶液に不溶な化合物が生成する。現像開始直後は、アルカリ水溶液の浸み込みは少なく未露光部分の溶解が優先的に進行するが、現像時間の経過とともに膜の底部では、アルカリ水溶液に不溶な化合物が充分に生成するため、ある特定の時間を過ぎてからは、未露光部分が全く現像されなくなるというものである。
【0027】
本発明では、感光性ペーストに含まれる銅化合物が、酸化物換算で全無機成分中0.001〜3重量%であることが好ましい。0.001重量%より少ないと、現像時に未露光部分の残膜が起こりにくく、所望の効果が得られないため好ましくない。3重量%より多いと、現像時の膜の不溶化反応が早く進行し、隔壁高さが低くなるため好ましくない。より好ましくは0.001〜0.5重量%であり、さらに好ましくは0.001〜0.05重量%である。無機成分中の銅化合物の割合は、ペースト作成時の各成分の配合量から算出することができるが、感光性ペーストを塗布、乾燥して得られるペースト乾燥膜もしくは乾燥膜を焼成することによって得られるペースト焼成膜を元素分析することによっても求めることができる。例えば、ペースト焼成膜を誘導結合プラズマ発光分析法(ICP−AES)や蛍光X線分析などにより定量的に元素分析し、無機成分中の銅化合物の割合を求めることができる。
【0028】
本発明では、感光性ペーストが平均粒子径0.01〜10μmの酸化銅(II)粒子を含有することが好ましい。平均粒子径は重量分布曲線における50%粒子径(d50)であり、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、日機装製「MT3300」)を用いて評価することができる。平均粒子径が0.01μm未満では、酸化銅粒子をペーストに均一に分散するのが困難であり、凝集物により隔壁および誘電体層の表面平滑性が落ちるため好ましくない。平均粒子径が10μmより大きいと、隔壁および誘電体層の表面平滑性が落ちるため好ましくない。より好ましくは0.02〜1μmであり、さらに好ましくは0.02〜0.1μmである。表面平滑性は、例えば、JIS B0601に準じて、カットオフ値を0.25mmとし、測定長を1.25mmとした時の十点平均高さRzJISを測定し、評価すればよい。RzJISは10μm以下であることが好ましい。10μmより大きいと、パネル化時あるいはパネル化後に前面板隔壁あるいは前面板誘電体と背面板隔壁が接触し、隔壁の欠けを生じ、画素が欠損するおそれがある。より好ましくは、3μm以下である。
【0029】
本発明におけるガラス粉末としては、低軟化点ガラス粉末であることが好ましく、公知のガラス絶縁材料が適用できるが、例えば鉛ホウ珪酸系ガラスや、ビスマスホウ珪酸系ガラス、亜鉛ホウ珪酸系ガラスなどのガラスを用いることができる。本発明において低軟化点ガラス粉末とは、荷重軟化温度が400〜600℃の範囲であるガラス粉末を指す。荷重軟化温度がこの範囲にあることで焼結時にパターンの変形がなく、溶融性も適切となるためである。ガラス粉末の荷重軟化温度は、例えば、TMA(熱機械分析)により測定することができる。
【0030】
また、低軟化点ガラス粉末の無機成分に占める割合は60体積%〜100体積%が好ましい。含有割合が60体積%より小さくなると、焼成時の焼結が困難になり、焼成後のパターンの空隙率が大きくなるため好ましくない。
【0031】
低軟化点ガラス粉末の粒子径は、作製しようとするパターンの形状を考慮して選ばれるが、重量分布曲線における50%粒子径(平均粒子径:d50)が0.1〜3.0μm、最大粒子経(トップサイズ:dmax)が10μm以下であることが好ましい。
【0032】
好ましく使用できる低軟化点ガラス粉末は例えば酸化物表記で下記の組成を有するものである。
酸化リチウム、酸化ナトリウムまたは酸化カリウム 3〜15質量%
酸化ケイ素 5〜30質量%
酸化ホウ素 20〜45質量%
酸化亜鉛 1〜50質量%
酸化アルミニウム 0〜25質量%
酸化マグネシウムまたは酸化カルシウム 0〜15質量%
酸化ジルコニウム 0〜2質量%
酸化バリウムまたは酸化ストロンチウム 0〜10質量%
酸化銅 0〜5質量%
本発明では、無機成分としてフィラーを添加しても好ましい。本発明におけるフィラーとは、隔壁の強度を改善するために添加されるものであり、焼成温度でも溶融流動しにくい無機粉末を指す。具体的には、600℃以下で軟化点や融点、分解温度を有さず、600℃において固体として存在するような無機粉末をいう。フィラーとして、荷重軟化温度が600〜1200℃である高軟化点ガラス粉末や、コーディエライト、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニアなどのセラミックス粉末から選ばれた少なくとも1種を用いることができる。重量分布曲線における50%粒子径(平均粒子径:d50)や平均屈折率の調節のしやすさの点から高軟化点ガラス粉末の使用が好ましい。
【0033】
フィラーは感光性ペースト中への分散性や充填性、露光時の光散乱の抑制を考慮し、平均粒子径0.1〜3.0μmであるものを好ましく使用することができる。フィラーの無機成分に占める割合は0〜40体積%が好ましい。40体積%より多い場合は形成するパターンの緻密性が低下しやすくなるので好ましくない。
【0034】
好ましく使用できる高軟化点ガラス粉末は例えば酸化物表記で下記の組成を有するものである。
酸化リチウム、酸化ナトリウムまたは酸化カリウム 0〜5質量%
酸化ケイ素 15〜50質量%
酸化ホウ素 5〜20質量%
酸化亜鉛 0〜20質量%
酸化アルミニウム 10〜50質量%
酸化マグネシウムまたは酸化カルシウム 1〜15質量%
酸化バリウムまたは酸化ストロンチウム 0〜10質量%
酸化銅 0〜5質量%
本発明では、感光性ペーストを用いて露光、現像を含む工程により誘電体層と隔壁を一括形成した後、焼成する。焼成は焼成炉で行い、焼成雰囲気や温度は、ペーストや基板の種類により異なるが、空気中や窒素、水素等の雰囲気下で焼成する。焼成炉としては、バッチ式の焼成炉やローラー搬送式の連続型焼成炉を用いることができる。焼成温度は、使用する樹脂が十分に脱バインダーする温度で行うのがよい。一般的には、430〜650℃で焼成を行う。焼成温度が低すぎると樹脂成分が残存しやすく、高すぎるとガラス基板に歪みが生じ割れてしまうことがあり好ましくない。
【実施例】
【0035】
以下に本発明について実施例を用いて具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。まず、電極パターン付き基板の作製方法について説明する。
(電極パターン付き基板の作製方法)
厚さ1.8mmの42インチサイズのソーダライムガラス板1上に、感光性銀ペーストを用いて銀電極パターン2を形成した。感光性銀ペーストの組成は、次の通りとした。
銀粉末:三井金属鉱業株式会社製SPN10J、73.0重量部
ガラス粉末:ガラス転移点460℃、軟化点495℃のビスマスホウ珪酸ガラス、2.5重量部
感光性ポリマ:メタクリル酸/メタクリル酸メチル/スチレン=40/40/30からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.4当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させたもの(重量平均分子量43000、酸価100)
感光性モノマ:トリメチロールプロパントリアクリレート、3.9重量部
光重合開始剤:2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1(チバスペシャリティーケミカルズ社製IC369)。
分散剤:ソルスパース20000、0.5重量部
有機溶媒:γ−ブチロラクトン、2.0重量部
スクリーン印刷法(印刷版:SUS製325メッシュ/インチ)によりガラス板上に、感光性銀ペーストを塗布し、120℃で10分乾燥した。露光・現像によりPDP背面板アドレス電極のディメンジョン(幅40μm、ピッチ160μm)あるいはPDP前面板バス電極のディメンジョン(幅55μm、ピッチ480μm)の電極パターンを形成した後、最高温度590℃(最高温度保持時間18分)で焼成することにより、ガラス基板上に電極を形成した。
(実施例1〜7)
以下の手順により誘電体層と隔壁を一括形成した。
(a)感光性ペーストの作製
感光性ペーストは以下の要領で作製した。感光性モノマ、感光性ポリマ、光重合開始剤、増感剤、酸化防止剤および紫外線吸収剤を表1記載の量秤量した後、溶媒としてγ−ブチロラクトンを適宜添加して粘度を調整した。次に、表2に記載した比率で無機成分を調整し、固形分中の無機成分が表2記載の割合となるように添加した後3本ローラー混練機にて混練し、感光性ペーストとした。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
隔壁用感光性ペーストに用いた原料は次の通りである。
感光性モノマM−1:トリメチロールプロパントリアクリレート
感光性モノマM−2:テトラプロピレングリコールジメタクリレート
感光性ポリマ:メタクリル酸/メタクリル酸メチル/スチレン=40/40/30からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.4当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させたもの(重量平均分子量43000、酸価100)
光重合開始剤:2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1(チバスペシャリティーケミカルズ社製IC369)。
増感剤:2,4−ジエチルチオキサントン
酸化防止剤:1,6−ヘキサンジオール−ビス[(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
紫外線吸収剤:スダンIV(東京応化工業株式会社製、吸収波長;350nmおよび520nm)
低軟化点ガラス粉末G−1:酸化リチウム7質量%、酸化ケイ素22質量%、酸化ホウ素33質量%、酸化亜鉛3質量%、酸化アルミニウム19質量%、酸化マグネシウム6質量%、酸化バリウム5質量%、酸化カルシウム5質量%(ガラス転移温度491℃、d50:2μm)
低軟化点ガラス粉末G−2:酸化亜鉛40質量%、酸化ホウ素34質量%、酸化珪素11質量%、酸化カリウム12質量%、酸化ナトリウム2.5質量%、酸化銅0.5質量%(ガラス転移温度563℃、d50:3μm)
フィラー:酸化カリウム1質量%、酸化ケイ素38質量%、酸化ホウ素9質量%、酸化亜鉛2質量%、酸化アルミニウム34質量%、酸化マグネシウム5質量%、酸化バリウム5質量%、酸化カルシウム4質量%、酸化チタン2質量%(ガラス転移温度670℃、d50:2μm)
(b)誘電体層と隔壁の一括形成
電極を形成したガラス基板の全面に、感光性ペーストを表3記載の乾燥塗膜厚みになるようにスリットダイコーターにて塗布し、100℃で90分熱風乾燥機を用いて乾燥した。次に露光マスクを介して露光を行った。露光マスクは、表3記載のプラズマディスプレイにおけるストライプ状の隔壁パターン形成が可能になるように設計したクロムマスクである。露光は、50mW/cmの出力の超高圧水銀灯で表3記載の露光量で紫外線露光を行った。その後、モノエタノールアミン0.2質量%水溶液のシャワーで現像した。現像の条件出しのため、隔壁に剥がれや蛇行などの欠陥が生じるまでの時間T1を測定した。その後、現像開始直後からT1までの間で現像時間を20点振って現像を行い、サンプルを所定温度に保持して脱バインダーした後、590℃で20分間焼成し、評価用基板を得た。評価用基板を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、S−2400)による断面観察により、焼成後の隔壁高さ、誘電体層厚みを測定し、誘電体層厚みが変わらなくなり始めた現像時間T2を求めた。この時、誘電体層と隔壁を一括形成できる現像マージンをT1−T2で示した。ここで定義した現像マージンは、所望の隔壁高さ、誘電体層厚みを実現できる現像時間範囲と同義である。表3に記載の隔壁高さ、誘電体層厚みは、時間T2〜T1の範囲で現像を行ったときの値である。現像マージンが10秒以上である場合を○、10秒より短い場合を×として、評価した。また、評価用基板をJIS B0601に準じて、カットオフ値を0.25mmとし、測定長を1.25mmとしてサーフコム(東京精密株式会社製)で測定し、隔壁頂部の十点平均高さRzJISを求めた。
【0039】
実施例1、3、4、6、7では、現像マージンが20秒以上あり現像マージンが広いことを確認できた。また、いずれも誘電体層および隔壁の表面にはクラックは認められず、表4記載の隔壁高さ、誘電体層厚みのPDP背面板に好適なディスプレイ部材を形成できた。
【0040】
実施例2では、現像マージンが120秒であり現像マージンが広いことを確認できた。また、誘電体層3および隔壁4の表面にはクラックは認められず、表4記載の隔壁高さ、誘電体層厚みのPDP前面板に好適なディスプレイ部材を形成できた。
【0041】
実施例5では、現像マージンが120秒であり現像マージンが広いことを確認できた。また、誘電体層3および隔壁4の表面にはクラックは認められず、表4記載の隔壁高さ、誘電体層厚みのディスプレイ部材を形成できた。
(比較例1)
表1、2に記載の組成で実施例1と同様に感光性ペーストを作製した。作製した感光性ペースト用いて、実施例1と同様に乾燥塗膜の形成、露光を行った。露光後、モノエタノールアミンの0.2質量%水溶液のシャワーで現像し、未露光部分溶解時間を測定し、実施例1と同様の隔壁高さ、誘電体層厚みを形成できる現像時間を(1)式で計算した。その後、計算した現像時間付近で現像時間を2秒間隔で20点振ってサンプルを作製し、実施例1と同様に焼成し、RzJISおよび隔壁高さ、誘電体層厚みをもとめた。隔壁高さが100μmの隔壁と、誘電体層厚みが10μmの誘電体層を一括形成できた現像時間範囲を現像マージンとして求めた。
【0042】
比較例1では、現像マージンが4秒であり、現像マージンが非常に狭く、誘電体層と隔壁の一括形成は困難であった。
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係るディスプレイ用部材の断面図である。
【図2】従来の感光性ペーストを用いた誘電体層と隔壁の一括形成法を示す工程図である。
【図3】本発明の誘電体層と隔壁の一括形成法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0046】
X:乾燥塗膜厚み
Y:誘電体層乾燥膜厚み
T:未露光部分溶解時間
t:現像時間
1:ガラス板
2:電極パターン
3:誘電体層
4:隔壁
5:感光性ペースト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板上に電極および該電極を覆う誘電体層、該誘電体層上に配置された隔壁を有するディスプレイ用部材の製造方法であって、基板上に電極または電極前駆体を形成し、該電極または電極前駆体を覆うように、ガラス粉末を含む無機成分および酸性基を有する感光性化合物を含む有機成分からなり、前記無機成分に銅化合物を含有する感光性ペーストの塗膜を設け、パターン露光し、アルカリ水溶液を用いて現像し、焼成することにより該誘電体層と該隔壁を一括形成することを特徴とするディスプレイ用部材の製造方法。
【請求項2】
前記感光性ペーストに含まれる銅化合物が、酸化物換算で全無機成分中0.001〜3重量%であることを特徴とする請求項1に記載のディスプレイ用部材の製造方法。
【請求項3】
前記感光性ペーストが、平均粒子径0.01〜10μmの酸化銅(II)粒子を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のディスプレイ用部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−86718(P2010−86718A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252823(P2008−252823)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】