説明

ディーゼル燃料製造システムおよびディーゼル燃料製造方法

【課題】製造システムの温度制御を効果的に行え、触媒を全体的に再生可能な、接触分解法によるディーゼル燃料製造システムを提供する。
【解決手段】原料タンクから供給される原料油を炭化水素からなる分解油に変換するための触媒を有する反応器と、反応器で得られた分解油から軽質油を分離する第1分留器と、第1分留器で得られた軽質油から軽油留分を回収する第2分留器と、第2分留器で回収された軽油留分を冷却して製品油にする冷却器と、原料タンクから反応器に供給される原料油を、冷却器、第2分留器および第1分留器の順に熱媒体として利用してから反応器に供給可能にする原料油供給ラインを備え、原料油供給ラインは、原料油を下流側に供給するための原料油供給ポンプと、冷却器と第2分留器との間に設置されて原料油を加熱する第1予熱器と、第2分留器と第1分留器との間に設置されて原料油を加熱する第2予熱器とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒を用いて製造するディーゼル燃料の製造システムおよびディーゼル燃料の製造方法に関する。特に、ディーゼル燃料の製造原料として、廃食油、植物系油脂、動物系油脂、各種鉱物油を単体または混合して用いることが可能な、接触分解法によるバイオディーゼル燃料の製造システムおよびバイオディーゼル燃料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃食油などの油脂類を用いた軽油代替燃料化技術として、エステル交換法(FAME)が実用化され広く採用されている(例えば、特許文献1)。しかしエステル交換法は反応速度が遅く、石油由来のメタノールが必要であり、また、副生成物であるグリセリンの処理や水洗工程で発生する排水処理などの問題がある。
【0003】
また、他の方法として水素化法がある(例えば、特許文献2)。この水素化法は、反応速度が速く、軽油としての品質は高いものの、水素源や高圧ガス設備を必要とし、さらに副生成物として水が発生することや、合成油がパラフィンであることから低温流動性が劣るなどの問題がある。
【0004】
また、他の方法として流動床式接触分解(FCC)法がある(例えば、特許文献3)。この方法による廃食油の改質は、循環流動床などの大規模設備が必要であり、FCC触媒であるゼオライト(USY型など)を使用する場合、接触分解(クラッキング)が進みすぎ、ガス、ナフサの収率は高いが、軽油分が少なくなる問題がある。
【0005】
また、他の方法として接触分解法がある(例えば、特許文献4)。接触分解法は、固体触媒の作用により油脂のエステル結合部を開裂する脱炭酸分解反応により、軽油状の炭化水素、二酸化炭素、プロパンなどの軽質ガスに分解するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−1856号公報
【特許文献2】特開2007−153928号公報
【特許文献3】特開2007−177193号公報
【特許文献4】特開2006−28570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の接触分解法では、固体触媒を反応温度に加温する必要があり、また、反応器で得られたガス成分から最終製品であるディーゼル燃料を得るために、分留器や冷却器を備える必要がある。そして、最終の製品品質や収率などの性能や安定運転を確保するためには、反応器やその後段の分留器、冷却器等を所定温度に制御する必要がある。これら装置の温度制御のために、加熱媒体および冷却媒体が必要になる。また、分留器や冷却器における冷却熱量は熱ロスとして廃棄されるため熱利用性に問題がある。また、加熱工程や冷却工程とが混在しているため消費熱量が大きくなるという問題がある。
【0008】
また、触媒で反応が進むと反応器中の触媒にコーク等が堆積するため、反応器に空気(酸素)を供給し、コークを燃失させて触媒を再生する必要がある。しかし、固定床の反応器において空気を供給すると、局所的なコーク燃焼による温度上昇が生じる場合があり、かかる場合に、触媒の耐熱温度以下となるように空気量を絞る必要があるが、一方で、空気量を絞ると熱分散が抑制されるため、いっそう局所的な触媒の再生しかできなくなる。
【0009】
そこで、本発明は、上記技術の有する問題点・状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、製造システムの温度制御を効果的に行え、また触媒を全体的に再生可能な、接触分解法によるディーゼル燃料製造システムおよびディーゼル燃料製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のディーゼル燃料製造システムは、
原料油を貯留する原料タンクと、
前記原料タンクから供給される前記原料油を炭化水素からなる分解油に変換するための触媒を有する反応器と、
前記反応器で得られた前記分解油から軽質油を分離する第1分留器と、
前記第1分留器で得られた前記軽質油から軽油留分を回収する第2分留器と、
前記第2分留器で回収された軽油留分を冷却して製品油にする冷却器と、
前記原料タンクから前記反応器に供給される前記原料油を、前記冷却器、前記第2分留器および第1分留器の順に熱媒体として利用してから前記反応器に供給可能にする原料油供給ラインを備え、
前記原料油供給ラインは、
前記原料油を下流側に供給するための原料油供給ポンプと、
前記冷却器と前記第2分留器との間に設置されて前記原料油を加熱する第1予熱器と、
前記第2分留器と前記第1分留器との間に設置されて前記原料油を加熱する第2予熱器と、を有する。
【0011】
以上の構成によれば、第1分留器、第2分留器および冷却器を熱交換できる構造とし、熱媒体として原料油を用い、冷却器、第2分留器および第1分留器の順に熱利用する構成としたことで、分留器と冷却器の冷却熱量により原料油の予熱量をまかなうことができ、消費熱量を低減できる。また、原料油の予熱により、各分留器内の温度幅が小さくなるとともに、運転立ち上げ時から定常運転まで安定した温度制御が可能となる。
【0012】
本発明において原料油は、例えば、廃食油、植物系油脂、動物系油脂、各種鉱物油を単体または混合したものである。廃食油としては、例えば、てんぷら油、から揚げ油等である。植物系油脂としては、菜種油、大豆油、ゴマ油、紅花油、綿実油、米油、落花生油、ひまわり油、とうもろこし油、オリーブ油、パーム油、ココナッツ油、ジャトロファ油、ピーナッツ油等が挙げられる。動物系油脂としては、例えば、牛脂(ヘット)、豚油(ラード)等が挙げられる。鉱物油としては、炭化水素系の各種鉱物油が挙げられる。固体触媒による接触分解法においては、原料油を予め加熱することが好ましい。その予熱温度は、原料油が気化しない温度範囲であって、効率良く触媒反応が行われる温度範囲が好ましく、例えば、200〜400℃の温度範囲、好ましくは、300〜350℃の温度範囲である。原料油を予熱して液体のまま触媒反応温度域にしているため、気化による酸化劣化がないので好ましい。
【0013】
接触分解法で用いられる触媒は、固体触媒である。固体触媒としては、例えば、ゼオライト、イオン交換樹脂、石灰、クレー、金属酸化物、金属炭酸塩、SiO−MgOやSiO−CaO等の複合酸化物または担持金属酸化物等が挙げられ、特にSiO−MgOの担持金属酸化物が好ましい。このSiO−MgOの担持金属酸化物を用いた場合、得られるディーゼル燃料(軽油)の収率が60%以上となり好ましい。また、固体触媒を固定する方法は特に制限されず、固定部材に固体触媒を固定して、固定式触媒反応器を構成する。
【0014】
そして、原料油が固定式触媒反応器で反応することで得られた分解油を第1分留器、第2分留器による2段階の分留を行う。第1分留器の分留温度範囲は高く、第2分留器の分留温度範囲はそれよりも低い分留温度範囲である。第1分留器の分留温度範囲は、軽油以上の沸点成分を分離させるのに好ましい温度範囲がよく、例えば、250℃〜360℃の温度範囲が好ましく、300℃がより好ましい。また、第2分留器の分留温度範囲は、軽油以下の沸点成分を分離させるのに好ましい温度範囲がよく、例えば、120℃〜200℃の温度範囲が好ましく、140℃〜170℃の温度範囲がより好ましい。また、分解油の保有熱量によりそのまま分留することが好ましい。例えば、第1分留器に供給される分解油ガスの温度を第1分留器での温度低下を考慮した350℃以上とし、第2分留器に供給される軽質油ガスの温度を第2分留器での温度低下を考慮した温度範囲になるように構成してもよい。この2段階の分留によって、燃焼性ガス成分、ナフサ・灯油・軽油、残渣(コーク)等の炭化水素油を連続的に分留する。
【0015】
そして、第2分留器で得られた軽油留分(ガス状)を冷却して液体の製品油(ディーゼル燃料)を得る。本発明によって製造されたディーゼル燃料は、JIS K2204規格に合致した軽油であり、従来のバイオディーゼル燃料(BDF)、軽油代替燃料とは区別される。
【0016】
また、上記発明の一実施形態において、前記第1予熱器で前記原料油の加熱温度を所定範囲に制御する第1温度制御部と、
前記第2予熱器で前記原料油の加熱温度を所定範囲に制御する第2温度制御部と、をさらに備える。
【0017】
この構成によれば、例えば、運転の立ち上げ時に、第1、第2予熱器のそれぞれにおいて原料油を所定温度に加熱し、第2分留器、第1分留器、反応器の順に供給することができるため、各分留器で必要とされる温度範囲の熱媒体を効果的に供給でき、かつ反応器へ供給される原料の温度を触媒反応に適したものにできる。例えば、立ち上げ時に、常温の原料油を第2予熱器で150〜240℃に加熱し、第1予熱器で250〜350℃に加熱する。
【0018】
第1、第2温度制御部は、例えば、各種温度センサー、サーモスタット、サイリスタ、温度指示調節計、情報処理装置(制御プログラムを含む)、専用制御回路、ファームウエア等を単独であるいはそれらの組み合わせで構成され、予熱器の制御部へON/OFF信号、PID信号等の加熱するか否かの制御信号(情報)を出力する。温度センサーは、例えば、第1、第2予熱器内部、第1、第2予熱器の前段・後段の原料油供給ライン、第1、第2分留器内部等に設置できる。
【0019】
また、上記発明の一実施形態において、前記第1温度制御部は、前記第2分留器内の温度を検出する第1温度検出器を備え、前記第1温度検出器の温度に応じて、前記第1予熱器で前記原料油の加熱温度を所定範囲に制御し、
前記第2温度制御部は、前記第1分留器内の温度を検出する第2温度検出器を備え、前記第2温度検出器の温度に応じて、前記第2予熱器で前記原料油の加熱温度を所定範囲に制御する。
【0020】
この構成によれば、例えば、定常運転時に、第1分留器、第2分留器の温度が所定範囲になるように好適に温度制御をおこなえる。各分留器の温度が所定範囲温度を超えた場合に、各予熱器で原料油を加熱せずに(あるいは加熱温度を下げて)、冷却媒体として機能させることができ、または、各分留器の温度が所定範囲温度未満にならないように、各予熱器で原料油を加熱して、加熱媒体として機能させることができる。
【0021】
また、上記発明の一実施形態において、前記第2分留器で前記軽質油から前記軽油留分を回収した残りの分留残り分を燃焼するための燃焼器と、
前記燃焼器で前記分留残り分を燃焼して排出される燃焼排ガスの一部を前記反応器へ前記触媒の再生のために供給する燃焼排ガス供給ラインと、
前記反応器内の温度を検出する反応器用温度検出器と、
前記反応器用温度検出器で検出された温度に応じて、前記燃焼排ガス供給ラインに設置された送り込み手段による燃焼排ガス供給量を制御するガス供給量制御部と、をさらに備える。
【0022】
この構成によれば、第2分留器で分離された分留残り分(例えば、可燃性ガス、ナフサ、灯油等)を燃焼器で燃焼して得た燃焼排ガス(空気よりも酸素濃度が低いガス)の一部を触媒の再生空気として利用することができる。酸素(O)以外の燃焼排ガス成分が冷却媒体として作用するため、再生空気量を増やすことができ、結果として、触媒の再生を迅速に行える。再生空気量を増やすことにより流速が増加し、触媒層へのガス拡散が促進され、触媒全体が均等に再生可能となる。また、コーク燃焼による触媒の温度上昇が抑えられるため、温度制御がしやすく、また安定した温度制御が可能となる。燃焼排ガスを利用しており、空気を希釈して再生空気として利用しなくてよい。また、反応器用温度検出器で触媒の燃焼温度を検出しながら、ガス供給制御部によって触媒の耐熱温度以下となるように燃焼排ガスを供給できる。
【0023】
送り込み手段として、例えば、ファンが挙げられる。ガス供給量制御部は、例えば、触媒の燃焼温度を検出する温度センサーを有し、この検出結果に応じて、ファンの回転数を調整し、燃焼ガス供給量を制御したり、流量調整弁を制御する。
【0024】
また、上記発明の一実施形態において、前記反応器は、第1反応器および第2反応器を有し、
前記反応器用温度検出部は、前記第1反応器内の温度を検出する第3温度検出器と、前記第2反応器内の温度を検出する第4温度検出器とを有し、
前記原料油供給ラインにおいて、前記第1反応器または前記第2反応器へ前記原料油の供給を切り替える原料油供給切替部と、
前記第1反応器から前記第1分留器への第1分解油ガスラインと、前記第2反応器から前記第1分留器への第2分解油ガスラインと、
前記燃焼排ガスラインにおいて、前記第1反応器または前記第2反応器へ前記燃焼排ガスの供給を切り替える燃焼排ガス供給切替部と、
前記第1反応器または前記第2反応器のいずれか一方で、前記原料油を前記触媒で分解させ、その他方で、前記触媒の再生を行うように、前記原料油供給切替部と前記燃焼排ガス供給切替部とを制御する制御部と、をさらに備え、
前記ガス供給量制御部は、前記第3温度検出器あるいは第4温度検出器で検出された温度に応じて、前記燃焼排ガス供給ラインに設置された送り込み手段による燃焼排ガス供給量を制御する。
【0025】
この構成によれば、触媒による原料油の接触分解と、触媒の再生を同時並行的に行えるため、ディーゼル燃料の連続製造が可能となる。
【0026】
また、他の本発明のディーゼル燃料製造方法は、
原料油を触媒に接触させて炭化水素からなる分解油に変換する接触分解工程と、
前記接触分解工程で得られた前記分解油から軽質油を分離する第1分留工程と、
前記第1分留工程で得られた前記軽質油から軽油留分を回収する第2分留工程と、
前記第2分留工程で回収された軽油留分を冷却して製品油にする冷却工程と、
前記接触分解工程に供給される前記原料油を、前記冷却工程、前記第2分留工程および第1分留工程の順に熱媒体として利用してから前記接触分解工程に供給可能にする原料油供給工程とを備え、
前記原料油供給工程は、
前記第2分留工程へ供給される前記原料油を所定範囲温度に加熱する第1予熱工程と、
前記第1分留工程へ供給される前記原料油を所定範囲温度に加熱する第2予熱工程と、を有する。
【0027】
この構成によれば、熱媒体として原料油を用い、冷却工程、第2分留工程および第1分留工程の順に熱利用する構成としたことで、分留工程と冷却工程の冷却熱量により原料油の予熱量をまかなうことができ、消費熱量を低減できる。また、原料油の予熱により、各分留器内の温度幅が小さくなるとともに、運転立ち上げ時から定常運転まで安定した温度制御が可能となる。
【0028】
また、上記発明の一実施形態において、前記第2分留工程で前記軽質油から前記軽油留分を回収した残りの分留残り分を燃焼する燃焼工程と、
前記燃焼工程で前記分留残り分を燃焼して排出される燃焼排ガスの一部を前記接触分解工程で用いられた前記触媒を再生するために供給する触媒再生工程と、を有し、
前記触媒再生工程は、
前記燃焼排ガスの供給量を制御するガス供給量制御工程を有する。
【0029】
この構成によれば、分留残り分を燃焼して排出される燃焼排ガス(空気よりも酸素濃度が低いガス)の一部を触媒の再生空気として利用することができる。酸素(O)以外の燃焼排ガス成分が冷却媒体として作用するため、再生空気量を増やすことができ、結果として、触媒の再生を迅速に行える。再生空気量を増やすことにより流速が増加し、触媒層へのガス拡散が促進され、触媒全体が均等に再生可能となる。また、コーク燃焼による触媒の温度上昇が抑えられるため、温度制御がしやすく、また安定した温度制御が可能となる。また、触媒の温度を検出し、検出した温度に応じて、ガス供給量を制御して、触媒がその耐熱温度を超えないようにすることが好ましい。
【0030】
また、上記発明の一実施形態において、前記接触分解工程は、それぞれ交互に前記原料油を前記触媒で接触分解させるための第1反応工程および第2反応工程とを有し、
前記第1反応工程と前記第2反応工程とのいずれか一方工程が前記原料油を前記触媒で接触分解させている間に、その他方工程で用いられた前記触媒に対し前記触媒再生工程を行う。
【0031】
この構成によれば、触媒による原料油の接触反応工程と、触媒を再生する触媒再生工程とを同時並行的に行えるため、ディーゼル燃料の連続製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施形態1のディーゼル燃料製造システムの一例を説明するための図である。
【図2】実施形態2のディーゼル燃料製造システムの一例を説明するための図である。
【図3】実施形態3のディーゼル燃料製造システムの一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(実施形態1)
実施形態1に係わるディーゼル燃料製造システムの一例を図1を用いて説明する。ディーゼル燃料製造システムは、原料油を貯留する原料タンク1と、原料タンク1から供給される原料油を炭化水素からなる分解油に変換するための触媒を有する反応器5と、反応器5で得られた分解油から軽質油を分離する第1分留器6と、第1分留器6で得られた軽質油から軽油留分を回収する第2分留器7と、第2分留器7で回収された軽油留分を冷却して製品油にする冷却器8と、冷却器8で冷却されて液体となった製品油(ディーゼル燃料)を貯蔵する製品油タンク9を有する。そして、原料タンク1から反応器5に供給される原料油を、冷却器8、第2分留器7および第1分留器6の順に熱媒体として利用してから反応器5に供給可能にする原料油供給ラインLを備えている。この原料油供給ラインLにおいて、前段供給ラインL1は、原料油を下流側に供給するための原料油供給ポンプ2および冷却器8を通過し、中段の供給ラインL2は、冷却器8と第2分留器7との間に設置されて原料油を加熱する第1予熱器3および第2分留器7を通過し、後段の供給ラインL3は、第2分留器7と第1分留器6との間に設置されて原料油を加熱する第2予熱器4および第1分留器6を通過する。
【0034】
立ち上げ時は、原料油供給ラインLの配管、各機器の温度が常温であるため、第1、第2予熱器3、4で、原料油を所定温度範囲になるように加熱する。定常運転時は、第1、第2分留器6、7内の温度、原料油の反応器5投入温度が所定温度を維持するように、第1、第2予熱器3、4を稼働または停止させて原料油の温度を制御する。
【0035】
例えば、原料タンク1の原料油は常温(周辺環境温度)であり、常温のまま冷却器8の熱媒体として送られ、ここで、第2分留器7で得られた軽油留分(例えば150〜200℃)と熱交換されて第1予熱器3に送られる。冷却器8を通過し第1予熱器3に送られる原料油の温度は、例えば50〜80℃である。次いで、原料油は、第1予熱器3で加熱され(あるいは加熱されずに)、第2分留器7の熱媒体として送られ、ここで、第2分留器7内のガス成分(軽質油ガス)と熱交換されて第2予熱器4に送られる。第2分留器7を通過して第2予熱器4に送られる原料油の温度は、例えば150〜240℃である。次いで、原料油は、第2予熱器4で加熱され(あるいは加熱されずに)、第1分留器6の熱媒体として送られ、ここで、第1分留器6内のガス成分(分解油ガス)と熱交換されて反応器5に送られる。第1分留器6を通過し反応器5へ送られる原料油の温度は、例えば300〜350℃である。次いで、反応器5内の温度を例えば400〜450℃にして、原料油を固体触媒51に接触させて触媒反応を行い、これで得た分解油ガスは分解油ガスライン10を通じて第1分留器6へ送られる。第1分留器6に送られる分解油ガスの温度は、例えば380〜420℃である。次いで、分解油ガスは、第1分留器6内で分留されて軽質油ガスが得られ、この軽質油ガスは軽質油ガスライン11を通じて第2分留器7へ送られる。第2分留器7へ送られる軽質油ガスの温度は、例えば250〜300℃である。次いで、軽質油ガスは、第2分留器7内で分留されて軽油留ガスが得られ、この軽油留ガスは軽油留ガスライン12を通じて冷却器8に送られる。冷却器8に送られる軽油留ガスの温度は、例えば150〜200℃である。次いで、軽油留ガスは、冷却器8内で冷却されて液体の製品油(ディーゼル燃料)が得られ、この製品油は、製品油ライン121を通じて製品油タンク9に送られて回収される。
【0036】
第1、第2予熱器3、4の加熱源は、特に制限されず、例えば電気ヒーター、バーナー、または熱風、スチーム、廃ガス廃熱等を用いた熱交換器等で実現できる。
【0037】
冷却器8は、特に制限されず、ガスを液体に冷却するための装置である。
【0038】
反応器5は、その内部に固体触媒51を充填している。図1では、反応器5の下部に固体触媒51が固定されて、固体触媒51の上部から原料油が供給される。原料油が固体触媒51と接触分解反応して、炭素数9〜20のオレフィン・パラフィンを主成分とする炭化水素混合物(分解油)が得られる。また、反応器5は、その内部温度や固体触媒51の温度を、触媒反応温度域(例えば、400〜450℃)にするための加熱手段を備えることが好ましい。加熱手段としては、特に制限されず、例えば、電気ヒーター、バーナー、または熱風、スチーム、廃ガス廃熱等を用いた熱交換器等が挙げられる。また、反応器5で発生した分解油を後段に搬送するためのキャリアガスとして、例えば窒素ガス、水蒸気、オフガス等の不活性ガスを用いることが好ましい。このキャリアガスは、運転中連続して供給されてもよく、運転状況に応じて供給されてもよい。
【0039】
第1分留器6には、温度センサー(例えば、熱電対、測温抵抗体等)が取り付けられ、この温度センサーで検出された信号がTIC(温度指示調節計)30に送られ、TIC30から第2予熱器4の加熱源制御部へON/OFF信号を出力し、原料油の温度を適正温度範囲にすべく加熱あるいは冷却して第1分留器6内における熱交換を適正に行わせる。
【0040】
また、第2分留器7にも、温度センサー(例えば、熱電対、測温抵抗体等)が取り付けられ、この温度センサーで検出された信号がTIC(温度指示調節計)20に送られ、TIC20から第1予熱器3の加熱源制御部へON/OFF信号を出力し、原料油の温度を適正温度範囲にすべく加熱あるいは冷却して第2分留器7内における熱交換を適正に行わせる。
【0041】
第1分留器6において、分解油ガスを軽質油ガスと残液に分離し、この残液は、残液ライン101を通じて反応器5に返送し、再度反応原料として用いることも可能である。また、第2分留器7において、軽質油ガスを軽油留分と分留残り分(例えば、可燃性ガス、ナフサ、灯油等)とに分離し、この分留残り分は分留残り分ライン13を通じて第2分留器7から排出されて、例えば、バーナー等の燃焼器で燃焼される。
【0042】
また、原料油中の異物を除去する除去手段をさらに有してもいてもよい。原料油中の異物を除去することで、異物が固体触媒51に付着することによる接触分解反応の効率低下を防止できるため好ましい。除去手段としては、ろ過器が好ましい。ろ過性能としては、0.5μm〜5μm程度のフィルターで構成することができ、1μm程度が好ましい。異物としては、てんぷら油中の天カス等が挙げられる。原料油を予めろ過器でろ過してから原料油タンク1に貯蔵しておくことでもよく、原料油供給ラインLにろ過器を設置していてもよい。
【0043】
(実施形態2)
実施形態2の製造システムを図2を参照して説明する。実施形態1の図1と同じ符号は、同じ機能構成であるため、その説明は省略し、実施形態1と異なる特徴について詳細に説明する。実施形態2は、原料油の接触分解反応を停止し、固定触媒51の再生を行う。固体触媒の再生に、燃焼排ガスの一部を利用することで、固体触媒の耐熱温度を超える局所的な過大燃焼を抑制し、固体触媒51を全体的に効果的に再生できる。
【0044】
燃焼器14は、第2分留器7で軽質油から軽油留分を回収した残りの分留残り分(ナフサ、可燃性ガス等)を燃焼する。この分留残り分は分留残り分ライン13を通じて第2分留器7から排出されて、燃焼器14に送られ、ここで燃焼される。燃焼器14は、例えばバーナー等である。
【0045】
燃焼器14で分留残り分を燃焼して燃焼排ガスを燃焼排ガスライン15を通じて排出する。燃焼排ガスの一部は、燃焼排ガスライン15から分岐した燃焼排ガス供給ライン151を通じて、反応器5へ送られ、固定触媒51の再生のために用いられる。
【0046】
再生時には、反応器5の加熱源(ヒータ等)をOFFにして燃焼排ガスを送りこみ、固体触媒を再生するために燃焼させる。燃焼排ガス供給ライン151にはファン16が設置されており、ファン16を稼働させることで燃焼排ガスの一部を反応器5へ送り込む。反応器5には温度センサー(反応器用温度検出器に相当する)が取り付けられ、この温度センサーで検出された信号がTIC40に送られ、TIC40からファン16の制御部へ信号を出力し、ファン16の回転速度(流速)を調整し、ファン16による燃焼排ガスの送り込み量(燃焼排ガス供給量)を制御する(ガス供給量制御部に相当する)。また、ガス供給量制御部として、ファン16の制御とともに、あるいは別に流量制御弁を制御する構成でもよい。再生処理時に温度センサーで固体触媒51の温度がその耐熱温度以下(例えば700℃以下)となるように温度制御(燃焼排ガスの供給量が制御)される。
【0047】
反応器5の固体触媒51を燃焼させることで、排ガス(再生排ガス)が生じる。この排ガスは、排ガスライン18を通じて燃焼器14に送られ、ここで燃焼処理することが好ましい。
【0048】
また、燃焼排ガスは、その酸素濃度が1〜10%、好ましくは5〜10%の範囲になるように燃焼器14において燃焼制御されることが望ましい。かかる場合に、例えば、燃焼排ガスライン15に酸素濃度センサー(不図示)を取り付けて、この酸素濃度センサーからの信号に応じて、燃焼器14の制御部が燃焼状態を制御する。
【0049】
また、燃焼排ガスの温度は、触媒に付着しているコークの燃焼を維持できるように、また触媒が過熱しないように、200〜500℃、好ましくは200〜300℃の範囲で反応器5に供給することが望ましい。
【0050】
(実施形態3)
実施形態3の製造システムを図3を参照して説明する。実施形態2の図2と同じ符号は、同じ機能構成であるため、その説明は省略し、実施形態2と異なる特徴について詳細に説明する。
【0051】
図3では、2基の反応器5a、5bが並列に配置されている。反応器5aで固体触媒51aによる接触分解反応をさせて分解油の生成を行い、他方の反応器5bで固体触媒51bに付着した可燃性付着物(コーク)を燃焼させて固体触媒51bの再生処理をしている。
【0052】
さて、反応器5aにおいて分解油の接触反応効率が低下した場合や一定期間稼働した場合に、反応器5aの固定触媒51aを再生し、他方の反応器5bで原料油の接触分解を行わせたい。かかる場合に、原料油供給ラインLに取り付けられている原料油供給切替部50で、反応器5aから反応器5bへ原料油の供給を切り替える。原料油供給切替部50は、例えば、流路切替弁等で構成される。そして、分解油ガスは、反応器5aから第1分留器6へ通じる第1分解油ガスライン10aから切り替わり、第2分解油ガスライン10bを通じて反応器5bから第1分留器6へ送られる。また、燃焼排ガスライン151に取り付けられている燃焼排ガス供給切替部50で、反応器5bから反応器5aへ燃焼排ガスの供給を切り替える。原料油供給切替部50と燃焼排ガス供給切替部60とは、制御部(不図示)の指令によって制御される。なお、制御部は、例えば、オペレータからの入力指示を受け付けることで、各切替部50、60に指令を行う構成でもよく、タイマーにより自動的に各切替部に指令を行う構成でもよい。
【0053】
また、各反応器5a、5bには、温度センサーが取り付けられ、この温度センサーで検出された信号がそれぞれのTIC40、41に送られる。触媒再生中の反応器に接続されたTIC40あるいはTIC41からファン16の制御部へ信号を出力し、ファン16の回転速度(流速)を調整し、ファン16による燃焼排ガスの送り込み量(燃焼排ガス供給量)が制御される。
【0054】
また、制御部は、原料油の投入量とそれに対し得られた製品油の回収量とを比較判断し、収率の低下が閾値以下になった際に、反応器内の固体触媒を燃焼再生するように制御することが好ましい。この制御部は、情報処理装置、ファームウエアあるいは専用回路等で構成可能であり、情報処理装置の場合、制御手順を記述したプログラムとそれを格納するメモリと演算部であるCPU、メインメモリ等のハードウエア資源との協働作用によって実現される。閾値は、予め設定され、例えば、収率の10%低下値を用いることができる。
【0055】
(製造方法)
本発明のディーゼル燃料の製造方法について以下に説明する。本製造方法は、上記実施形態1〜3の製造システムで好適に実行される。本製造方法は、原料油を触媒に接触させて炭化水素からなる分解油に変換する接触分解工程と、接触分解工程で得られた分解油から軽質油を分離する第1分留工程と、第1分留工程で得られた軽質油から軽油留分を回収する第2分留工程と、第2分留工程で回収された軽油留分を冷却して製品油(ディーゼル燃料)にする冷却工程と、接触分解工程に供給される原料油を、冷却工程、第2分留工程および第1分留工程の順に熱媒体として利用してから接触分解工程に供給可能にする原料油供給工程とを備える。そして、原料油供給工程は、第2分留工程へ供給される原料油を所定範囲温度に加熱する第1予熱工程と、第1分留工程へ供給される原料油を所定範囲温度に加熱する第2予熱工程とを有する。
【0056】
また、第2分留工程で軽質油から軽油留分を回収した残りの分留残り分を燃焼する燃焼工程と、燃焼工程で分留残り分を燃焼して排出される燃焼排ガスの一部を接触分解工程で用いられた触媒を再生するために供給する触媒再生工程とを有する。そして、触媒再生工程は、燃焼排ガスの供給量を制御するガス供給量制御工程を有する。
【0057】
また、接触分解工程は、それぞれ交互に原料油を触媒で接触分解させるための第1反応工程および第2反応工程とを有し、第1反応工程と第2反応工程とのいずれか一方工程が原料油を触媒で接触分解させている間に、その他方工程で用いられた触媒に対し触媒再生工程を行う。
【符号の説明】
【0058】
1 原料油タンク
2 原料油ポンプ
3 第1予熱器
4 第2予熱器
5 反応器
6 第1分留器
7 第2分留器
8 冷却器
9 製品油タンク
14 燃焼器
16 ファン
51 固体触媒
L 原料油供給ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料油を貯留する原料タンクと、
前記原料タンクから供給される前記原料油を炭化水素からなる分解油に変換するための触媒を有する反応器と、
前記反応器で得られた前記分解油から軽質油を分離する第1分留器と、
前記第1分留器で得られた前記軽質油から軽油留分を回収する第2分留器と、
前記第2分留器で回収された軽油留分を冷却して製品油にする冷却器と、
前記原料タンクから前記反応器に供給される前記原料油を、前記冷却器、前記第2分留器および第1分留器の順に熱媒体として利用してから前記反応器に供給可能にする原料油供給ラインを備え、
前記原料油供給ラインは、
前記原料油を下流側に供給するための原料油供給ポンプと、
前記冷却器と前記第2分留器との間に設置されて前記原料油を加熱する第1予熱器と、
前記第2分留器と前記第1分留器との間に設置されて前記原料油を加熱する第2予熱器と、を有する、ディーゼル燃料製造システム。
【請求項2】
前記第1予熱器で前記原料油の加熱温度を所定範囲に制御する第1温度制御部と、
前記第2予熱器で前記原料油の加熱温度を所定範囲に制御する第2温度制御部と、をさらに備える請求項1に記載のディーゼル燃料製造システム。
【請求項3】
前記第1温度制御部は、前記第2分留器内の温度を検出する第1温度検出器を備え、前記第1温度検出器の温度に応じて、前記第1予熱器で前記原料油の加熱温度を所定範囲に制御し、
前記第2温度制御部は、前記第1分留器内の温度を検出する第2温度検出器を備え、前記第2温度検出器の温度に応じて、前記第2予熱器で前記原料油の加熱温度を所定範囲に制御する請求項2に記載のディーゼル燃料製造システム。
【請求項4】
前記第2分留器で前記軽質油から前記軽油留分を回収した残りの分留残り分を燃焼するための燃焼器と、
前記燃焼器で前記分留残り分を燃焼して排出される燃焼排ガスの一部を前記反応器へ前記触媒の再生のために供給する燃焼排ガス供給ラインと、
前記反応器内の温度を検出する反応器用温度検出器と、
前記反応器用温度検出器で検出された温度に応じて、前記燃焼排ガス供給ラインに設置された送り込み手段による燃焼排ガス供給量を制御するガス供給量制御部と、をさらに備える請求項1から3のいずれか1項に記載のディーゼル燃料製造システム。
【請求項5】
前記反応器は、第1反応器および第2反応器を有し、
前記反応器用温度検出部は、前記第1反応器内の温度を検出する第3温度検出器と、前記第2反応器内の温度を検出する第4温度検出器とを有し、
前記原料油供給ラインにおいて、前記第1反応器または前記第2反応器へ前記原料油の供給を切り替える原料油供給切替部と、
前記第1反応器から前記第1分留器への第1分解油ガスラインと、前記第2反応器から前記第1分留器への第2分解油ガスラインと、
前記燃焼排ガスラインにおいて、前記第1反応器または前記第2反応器へ前記燃焼排ガスの供給を切り替える燃焼排ガス供給切替部と、
前記第1反応器または前記第2反応器のいずれか一方で、前記原料油を前記触媒で分解させ、その他方で、前記触媒の再生を行うように、前記原料油供給切替部と前記燃焼排ガス供給切替部とを制御する制御部と、をさらに備え、
前記ガス供給量制御部は、前記第3温度検出器あるいは第4温度検出器で検出された温度に応じて、前記燃焼排ガス供給ラインに設置された送り込み手段による燃焼排ガス供給量を制御する請求項4に記載のディーゼル燃料製造システム。
【請求項6】
原料油を触媒に接触させて炭化水素からなる分解油に変換する接触分解工程と、
前記接触分解工程で得られた前記分解油から軽質油を分離する第1分留工程と、
前記第1分留工程で得られた前記軽質油から軽油留分を回収する第2分留工程と、
前記第2分留工程で回収された軽油留分を冷却して製品油にする冷却工程と、
前記接触分解工程に供給される前記原料油を、前記冷却工程、前記第2分留工程および第1分留工程の順に熱媒体として利用してから前記接触分解工程に供給可能にする原料油供給工程とを備え、
前記原料油供給工程は、
前記第2分留工程へ供給される前記原料油を所定範囲温度に加熱する第1予熱工程と、
前記第1分留工程へ供給される前記原料油を所定範囲温度に加熱する第2予熱工程と、を有する、ディーゼル燃料製造方法。
【請求項7】
前記第2分留工程で前記軽質油から前記軽油留分を回収した残りの分留残り分を燃焼する燃焼工程と、
前記燃焼工程で前記分留残り分を燃焼して排出される燃焼排ガスの一部を前記接触分解工程で用いられた前記触媒を再生するために供給する触媒再生工程と、を有し、
前記触媒再生工程は、
前記燃焼排ガスの供給量を制御するガス供給量制御工程を有する、請求項6に記載のディーゼル燃料製造方法。
【請求項8】
前記接触分解工程は、それぞれ交互に前記原料油を前記触媒で接触分解させるための第1反応工程および第2反応工程とを有し、
前記第1反応工程と前記第2反応工程とのいずれか一方工程が前記原料油を前記触媒で接触分解させている間に、その他方工程で用いられた前記触媒に対し前記触媒再生工程を行う請求項7に記載のディーゼル燃料製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−162649(P2012−162649A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24095(P2011−24095)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【Fターム(参考)】