説明

デカール装置およびプリンタ

【課題】紙媒体の湿気状態に応じた適切なデカールを行うことができるデカール技術を提供する。
【解決手段】紙媒体が有する湿気量を決定付ける条件である湿度条件を取得する湿度条件取得部91と、湿度条件に基づいて矯正力の大きさを決定する矯正力決定部92と、決定された矯正力を紙媒体に対して付与することにより紙媒体のカール状の変形を矯正する矯正部63と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙媒体が有するカール状の変形を矯正するデカール技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ロール状の紙媒体は巻き癖を有しているため、そのような紙媒体にプリントを行った場合に、カール状の変形が生じることが知られている。特に、インクジェット等の方式のプリンタでは乾式のプリンタに比べてカールが顕著に現れる。
【0003】
このような紙媒体のカールを矯正(以下、デカールと称する)するための装置として、ペーパーを下流側へ搬送する搬送ローラと、搬送ローラとともにペーパーを挟持し且つ搬送ローラの周りに移動可能に設けられたデカールローラと、搬送ローラに対するデカールローラの相対位置を、ペーパーをデカールしながら搬送するデカール位置と、ペーパーをデカールしないで搬送する搬送位置と、ペーパーの圧着を解除する圧着解除位置とに変更するローラ位置変更手段を備えたデカール機構がある(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1のデカール機構では、ペーパーをデカールする際には、搬送ローラに対するデカールローラの相対位置をデカール位置に変位させ、ペーパーに対して矯正力を付与している。一方、デカールする必要がない場合には、搬送ローラに対するデカールローラの相対位置を圧着解除位置に変位させている。
【0005】
また、ペーパーのカールの強さはロール状に巻かれていた際の軸芯との距離に依存しているため、この特許文献1のデカール機構では、デカールするペーパーがロール状に巻かれていた際に、巻き芯に近いほど矯正力を強くすることにより、ペーパーが有するカールの強さに応じたデカールを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−179416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1のデカール機構ではペーパーが有しているカールの強さに応じて矯正力を変更することにより、適切なデカールを実現している。しかしながら、カールの強さが依存するのは、ロール状に巻かれていた際の巻き芯からの距離だけでなく、例えば、カールの強さは紙媒体が有する湿気にも大きく依存している。特許文献1のデカール機構ではこのような因子に対する検討が行われていない。
【0008】
本発明の目的は、このような課題に鑑み、紙媒体の湿気状態に応じた適切なデカールを行うことができるデカール技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明のデカール装置は、紙媒体に対して当該紙媒体が有するカール状の変形を矯正するための矯正力を付与する矯正部を備えたデカール装置であって、前記紙媒体が有する湿気を決定付ける条件である湿度条件を取得する湿度条件取得部と、前記湿度条件に基づいて前記矯正力の大きさを決定する矯正力決定部と、を備えている。
【0010】
この構成では、紙媒体が有する湿気量を決定付ける条件である湿度条件に基づいて紙媒体に与える矯正力を決定している。これにより、紙媒体が有する湿気に応じた矯正力を与えることができる。
【0011】
紙媒体が有する湿気量を決定付ける因子は様々なものがある。例えば、紙媒体はその周囲の湿気を吸湿するため、周囲の湿度は紙媒体が有する湿気量を決定付ける因子となる。そのため、本発明のデカール装置の好適な実施形態の一つでは、前記湿度条件には前記紙媒体周囲の湿度が含まれる。これにより、紙媒体が吸湿したその周囲湿気を考慮した矯正力によりデカールを行うことができる。
【0012】
また、このようなデカール装置はプリンタにも適用することができる。例えば、デカール装置を備えたプリンタであって、プリント媒体としての前記紙媒体に対してインクによるプリントを行うプリント部を備え、前記湿度条件には前記プリントに用いたインク量が含まれる。
【0013】
プリント媒体としての紙媒体に対してインクによりプリントを行う場合には、そのインクの量が紙媒体の湿気量を決定付けている。したがって、プリントに用いたインク量に基づけば適切な矯正力を決定することができる。
【0014】
一般的に、プリントに使用されるインク量は部分的に異なっている。そのため、湿気によるカールの強さも部分的に異なるおそれがある。そのため、本発明のプリンタの好適な実施形態の一つでは、前記矯正力決定部は、前記プリント媒体のプリント面を複数の領域に分割し、当該領域に対して使用した前記インク量に基づいて当該領域に対する前記矯正力の大きさを決定する。
【0015】
この構成では、プリント媒体のプリント面を複数の領域に分割し、その領域毎にインクの使用量に基づいた矯正力を決定している。これにより、各領域に適した矯正力を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るプリンタの斜視図である。
【図2】本発明に係るプリンタの断面図である。
【図3】実施例1における制御部の機能部を表す機能ブロック図である。
【図4】実施例1における処理の流れを表すフローチャートである。
【図5】矯正力補正テーブルの例である。
【図6】デカール機構の拡大図である。
【図7】実施例2における制御部の機能部を表す機能ブロック図である。
【図8】実施例2における処理の流れを表すフローチャートである。
【図9】乾燥力テーブルの例である。
【図10】矯正力補正テーブルの例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔外観構成〕
以下に図面を用いて本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明に係るプリンタPの斜視図であり、図2は断面図である。プリンタPは、筐体1の上面に外部搬送機構2を備えている。この外部搬送機構2は、筐体1の側面にソータ3を備えている。また、外部搬送機構2の後上部にはプリントされたプリント媒体Sとしての紙媒体(以下、プリント媒体Sと称する)が排出される排出口4が備えられている。排出口4から排出されたプリント媒体Sは、外部搬送機構2上に載置され、その後外部搬送機構2の搬送ベルト2bが駆動されることによりプリント媒体Sがソータ3側に搬送され、ソータ3の集積板3b上に集積される。なお、ソータ3には、搬送されたプリント媒体Sの搬送方向へのはみ出しを防ぎ、プリント媒体Sを集積板3b上に落下させる当たり部材3aが備えられている。
【0018】
〔マガジン〕
筐体1の内部下方には、ロール状のプリント媒体Sを収容する2つのマガジンMが収容されている。このマガジンMを出し入れ可能にするために、筐体1の前面下方には前面ドア5が備えられている。オペレータ等は、各々の前面ドア5を開放することにより、対応する位置に収容されているマガジンMにアクセスすることができる。
【0019】
本実施形態におけるマガジンMの内部には、ロール状のプリント媒体Sを回転可能に保持する2つの軸芯Rが備えられており、各マガジンMは最大2つのロール状のプリント媒体Sを収容可能となっている。なお、一のマガジンMに2つのロール状のプリント媒体Sを収容する場合、収容された状態でのプリント媒体Sの間の距離はプリント媒体Sのサイズに関係なく一定となっており、搬送およびプリントの際にもこの間隔は維持されている。
【0020】
ロール状のプリント媒体SをマガジンMに収容する際には、軸芯Rをロール状のプリント媒体Sの巻芯に通し、軸芯RをマガジンMの内部に設けられた軸芯受部材(図示せず)に支持されるようにセットする。なお、マガジンMは、軸芯Rの軸芯方向がプリンタPの左右方向と一致するようにセットされる。また、マガジンMの内部には、ガイドローラ11および一対の搬送ローラ12が備えられている。ロール状のプリント媒体Sは、ガイドローラ11により搬送方向が上方(搬送ローラ12の方向)に変更され、搬送ローラ12により挟持搬送され、マガジンMの上方に設けられた開口13から第1搬送部20を介してプリント部30側に送り出される。
【0021】
また、本実施形態のロール状のプリント媒体Sには、製品番号を表す情報(以下、製品番号情報と称する)が付されており、マガジンMにはその製品番号情報を取得する製品番号情報読取部14が備えられている。製品番号情報としてはバーコードやRFIDタグ等を用いることができ、製品番号情報読取部14としてはそのバーコードリーダやRFIDリーダ等、使用する製品番号情報に適したデバイスを用いればよい。製品番号情報読取部14が読取った製品番号は制御部Cに入力される。
【0022】
〔第1搬送部〕
マガジンMから後述するプリント部30にプリント媒体Sを搬送するための第1搬送部20が備えられている。
【0023】
上述したように、本実施形態におけるプリンタPには2つのマガジンMが備えられている。そのため、第1搬送部20には、プリント媒体Sをガイドするガイド部材21が備えられている。図2に示すように、このガイド部材21は、逆Y字形状をしており、下側のマガジンMからのプリント媒体Sを案内する第1ガイド部21a,上側のマガジンMからのプリント媒体Sを案内する第2ガイド部21b,第1ガイド部21aまたは第2ガイド部21bにより案内されたプリント媒体Sをプリント部30側に案内する主ガイド部21cから構成されている。
【0024】
ガイド部材21により下方から案内されたプリント媒体Sは、一の駆動ローラ22と2つの従動ローラ23とにより、搬送方向が水平方向に変更され、プリント部30側へと搬送される。
【0025】
〔プリント部〕
プリント部30には、搬送されてくるプリント媒体Sの上方にプリントヘッド31、プリント媒体Sの下方に吸着部32が備えられている。本実施形態におけるプリントヘッド31は、インクジェット型に構成されている。そのため、プリントヘッド31はインクを吐出する複数のインク吐出部31aを備えている。
【0026】
また、吸着部32は上面(プリント媒体S側)に複数の開口が設けられており、プリント媒体Sに対して負圧を生じさせるよう構成されている。プリント媒体Sは、この負圧により吸着部32上部に吸着されるため、安定したプリントを行うことができる。
【0027】
〔第2搬送部〕
プリント部30の下流には、プリント部30によりプリントされたプリント媒体Sを排出口4に搬送するための第2搬送部が設けられている。
【0028】
第2搬送部はプリント媒体Sを水平方向に搬送する横搬送部40と、横搬送部40から搬送されるプリント媒体Sを上方(排出口4側)に搬送する縦搬送部60と、搬送方向を水平方向から垂直方向に転換する方向転換部50を備えている。
【0029】
〔横搬送部〕
横搬送部40には、プリントされたプリント媒体Sを水平方向に挟持搬送するための複数対の搬送ローラ41が備えられている。また、横搬送部40の搬送経路中にはプリントされたプリント媒体Sを所定のサイズに切断するカッター42が備えられている。カッター42は、プリント媒体Sを挟むように上刃42aと下刃42bとを備えており、上刃42aを上下動させることによりプリント媒体Sを切断する。
【0030】
〔方向転換部〕
方向転換部50は、横搬送部40により水平方向に搬送されたプリント媒体Sが縦搬送部60側に搬送されるように、プリント媒体Sの搬送方向を転換するものである。方向転換部50は、プリント媒体Sを案内するガイド部材51と、プリント媒体Sを挟持搬送する一対の挟持ローラ52とを備えている。ガイド部材51は1対のガイド板51aから構成されており、プリント媒体Sは1対のガイド部材51の間を案内される。案内されたプリント媒体Sは、ガイド部材51の挟持ローラ52により挟持される。なお、ガイド部材51および一対の挟持ローラ52は、下側の挟持ローラの回転軸52aを中心として揺動可能に支持されている。
【0031】
ガイド板51aには、横搬送部40から搬送されるプリント媒体Sの受け入れが容易となるように、横搬送部40側に広がる傾斜面51cが形成されている。この傾斜面51cにより、横搬送部40側に広がる開口部53が形成される。
【0032】
ガイド部材51は、横搬送部40から搬送されるプリント媒体Sを受け入れる際には、ガイド板51aが水平、すなわち、開口部53が横搬送部40側に開口するように、回転軸52a周りに揺動される制御が行われる。この状態で、横搬送部40の搬送ローラ41が駆動されると、プリント媒体Sはガイド板51a間の隙間に案内される。このとき、挟持ローラ52も搬送ローラ41と同方向(以下、正転方向と称する)に駆動される。
【0033】
図示しないセンサにより、プリント媒体Sの後端(搬送方向下流側の端部)が横搬送部40の最も下流側の搬送ローラ41を通過したことが検知されると、ガイド板51aが垂直、すなわち、開口部53が縦搬送部60側に開口するように、回転軸52a周りに揺動される。このとき、挟持ローラ52の上側のローラも揺動するため、この状態で挟持ローラ52は水平方向に並んだ状態となる。なお、揺動途中では、挟持ローラ52の回転は停止しており、プリント媒体Sの挟持状態を維持している。
【0034】
ガイド部材51および挟持ローラ52の揺動が完了すると、挟持ローラ52は正転方向と逆方向(以下、逆転方向と称する)に回転駆動される。これにより、挟持しているプリント媒体Sは縦搬送部60に受け渡される。
【0035】
〔縦搬送部〕
縦搬送部60は、プリント媒体Sを上方に挟持搬送するための複数対の搬送ローラ61、プリント媒体Sを排出口4側に案内するガイドローラ62を備えている。
【0036】
上述したように方向転換部50により搬送方向の転換が行われるため、プリント媒体Sが縦搬送部60によって搬送される際には、プリントされた面が筐体1の背面側に向いた状態となっている。
【0037】
搬送ローラ61により上方に搬送されたプリント媒体Sは、ガイドローラ62によって搬送方向が水平となるように案内され、デカール機構63に到達する。
【0038】
〔乾燥部〕
乾燥部70は、プリント媒体Sを乾燥させるために縦搬送部60の搬送経路背面側に備えられている。本実施形態の乾燥部70は、熱風によりプリント媒体Sを乾燥させている。そのため、乾燥部70の筐体71の内部にはファン72と熱源73とが備えられている。ファン72が発生し、熱源73により暖められた風は筐体71の開口部71aを介してプリント媒体Sのプリント面に到達する。この風により、プリント媒体Sのプリント面の乾燥が行われる。
【0039】
〔デカール機構〕
矯正部としてのデカール機構63は、2つの下側ローラ63aと1つの上側ローラ63bとにより構成されている。通常状態では、上側ローラ63bは搬送方向下流側の下側ローラ63aの上部に位置している(図6の実線)。一方、プリント媒体Sのカールを矯正する際には、上側ローラ63bは下側ローラ63aの間に位置するように制御が行われる(図6の一点鎖線)。プリント媒体Sは元々ロール状であるため、巻き癖を有しており、インクを吹き付けることよって、その巻き癖が顕著に現れる傾向がある。特に画像プリントではプリント媒体Sの全面にインクが吹き付けられるため、カールは顕著となる。そのため、デカール機構63に到達した状態では、プリント媒体Sは上に凸となるようにカールしている。したがって、上述のように上側ローラ63bを制御することにより、プリント媒体Sのカールを矯正する方向への力を作用させることができる。
【0040】
このようにして搬送されたプリント媒体Sは、排出口4から排出されて搬送装置2の搬送ベルト2b上に載置され、搬送ベルト2bを駆動することにより集積板3b上に集積される。
【実施例1】
【0041】
〔制御部〕
筐体1の内部には、CPUを中核として構成された制御部Cが備えられている。制御部Cは、各種ローラの駆動やプリントの実行、搬送ベルト2bの駆動等、プリンタP全体の動作制御を行う機能を有している。また、図3に示すように、本実施例の制御部Cには、プリント媒体Sが有する湿気量を決定付ける条件である湿度条件を取得する湿度条件取得部91、湿度条件に基づいてプリント媒体Sのカールをデカールするための矯正力を決定する矯正力決定部92、矯正力決定部92により決定された矯正力に応じてデカール機構63を制御するデカール機構制御部93を備えている。
【0042】
湿度条件取得部91は、温湿度計80から温度および湿度(以下、環境温湿度と称する)を取得する。本実施形態では、プリント媒体Sは乾燥部70による乾燥が行われているため、プリント媒体Sの湿気に起因するカールはその後の再吸湿が原因であると考えられる。そのため、図2に示すように、温湿度計80は乾燥部70とデカール機構63との間の搬送経路近傍に設けられている。湿度条件取得部91により取得された環境温湿度は矯正力決定部92に送られる。
【0043】
矯正力決定部92は、環境温湿度に基づいてデカール機構63がプリント媒体Sに与える矯正力の大きさを決定する。矯正力決定部92により決定された矯正力はデカール機構制御部93に送られ、デカール機構63はその矯正力に応じてデカール機構63を制御する。
【0044】
図4は、本実施例の処理の流れを表すフローチャートである。なお、本実施例では、プリント処理が行われる都度、環境温湿度を取得し、矯正力を決定する構成とするが、環境温湿度の取得は所定の間隔で行う構成としても構わない。
【0045】
上述したように、制御部Cはプリントの実行や搬送を制御しているためプリントや搬送の状況、プリントに用いられているプリント媒体SがいずれのマガジンMに収容されているものであるか等の情報は管理できている。これを前提として以下の説明を行う。
【0046】
制御部Cは、プリント部30によるプリント処理および第2搬送機構の搬送状態を監視し、少なくともプリント媒体Sがデカール機構63に到達する前に、湿度条件取得部91に対して環境温湿度を取得するよう指示を与える。また、矯正力決定部92に対しては、現在のプリントに使用されたプリント媒体Sの製品番号を通知する。
【0047】
まず、制御部Cからの指示を受けた湿度条件取得部91は、温湿度計80から環境温湿度としての温度および湿度を取得し(#01)、矯正力決定部92に送信する。
【0048】
一方、矯正力決定部92は、まず制御部Cから取得したプリント媒体Sの製品番号に基づいて基礎となる矯正力(以下、基礎矯正力と称する)を決定する(#02)。一般的にカールの強さはプリント媒体Sの材質等により異なっている。そのため、図3に示すように、矯正力決定部92にはプリント媒体Sの製品番号と基準の環境温湿度におけるそのプリント媒体Sに対して必要な矯正力の強さとが関連付けられたテーブル(以下、基礎矯正力テーブル92aと称する)を記憶している。矯正力決定部92は、制御部Cから取得したプリント媒体Sの製品番号をキーとしてこの基礎矯正力テーブル92aから基礎矯正力を取得する。
【0049】
次に、矯正力決定部92は湿度条件取得部91から取得した環境温湿度に基づいて基礎矯正力の補正量を決定する(#03)。本実施例では、図3に示すように、矯正力決定部92には環境温湿度と矯正力の補正量とを関連付けた矯正力補正テーブル92bを備えている。図5は、矯正力補正テーブル92bの例である。この例では、基礎矯正力の補正量は温度と湿度との関数となっており、温度は基準温度範囲を中心として低温と高温の3つの範囲に分割されている。一方、湿度は基準湿度を中心として低湿と高湿の3つの範囲に分割されている。したがって、矯正力決定部92は環境温湿度の温度と湿度とがいずれの範囲に属しているかを決定すれば、矯正力補正テーブル92bから補正量を決定することができる。
【0050】
矯正力決定部92は、基礎矯正力に対して補正量分の補正を行い最終的な矯正力を決定し(#04)、デカール機構制御部93に送る。
【0051】
デカール機構制御部93は、取得した矯正力に応じてデカール機構63を制御する(#05)。本実施例では、デカール機構63の上側ローラ63bの位置を制御することにより矯正力を制御している。図6は、デカール機構63の拡大図である。図に示すように、上側ローラ63bは矯正力0%位置から矯正力100%位置まで変位可能に構成されている。矯正力0%位置では上側ローラ63bは搬送方向下流側の下側ローラ63aの真上に位置しており、デカール機構63により挟持搬送されるプリント媒体Sに対する矯正力は作用しない。一方、上側ローラ63bが搬送方向上流側に変位するに連れてプリント媒体Sに対する矯正力は大きくなり、矯正力100%位置で矯正力は最大となっている。したがって、デカール機構制御部93は矯正力に応じて上側ローラ63bの位置を変位させる。なお、上側ローラ63bを変位させる機構は特開2009−179416号公報に記載されている機構等により実現することができる。
【0052】
このように、本実施例ではプリント媒体Sの周囲の少なくとも湿度に基づいた矯正力の制御を行うことができる。
【実施例2】
【0053】
本実施例では、プリントに用いたインク量を加味した矯正力の制御を行うものである。また、併せてプリントに用いたインク量に応じた乾燥力の制御も行っている。
【0054】
図7は、本実施例の制御部Cの機能ブロック図である。図に示すように、本実施例の制御部Cの機能部は乾燥力決定部94および乾燥制御部95を備えている点において実施例1の機能部と異なっている。以下の説明では実施例1と同様の機能部に関しては詳細な説明は省略する。
【0055】
乾燥力決定部94は、プリントに用いたインク量に応じて乾燥部70の乾燥力を決定する。本実施例では、乾燥力決定部94は、乾燥力を決定するためにインク量と乾燥力の関係を規定した乾燥力テーブル94aを備えている。図9は乾燥力テーブル94aの例である。乾燥力決定部94は、プリントに使用したインクの量が少、標準、多のいずれであるかを判定し、乾燥力テーブル94aからそのインク量に合った乾燥力を決定する。
【0056】
乾燥制御部95は、乾燥力決定部94により決定された乾燥力に応じて乾燥部70を制御する。乾燥力の制御方法としては、ファン72を制御する風量制御や、熱源73を制御する温度制御がある。また、縦搬送部60の搬送速度を制御することにより乾燥時間を制御しても構わない。
【0057】
また、本実施例の矯正力補正テーブル92bは、図5に示す環境温湿度と矯正力の補正量とを関連付けたテーブルに加えて、図10に示すようなインク量と矯正力の補正量を関連付けたテーブルが含まれている。
【0058】
図8は本実施例の処理の流れを表すフローチャートである。#11から#13までの処理は図4における#01から#03までの処理と同じであるため詳細な説明は省略するが、ここまでの処理により基礎矯正力および環境温湿度に基づく補正量が決定される。
【0059】
次に、湿度条件取得部91は、湿度条件の一つとしてプリントに使用されたインク量を取得する(#14)。本実施例では、制御部Cがプリント部30の制御を行っているため、使用されたインク量は制御部Cから取得することができる。取得されたインク量は、矯正力決定部92および乾燥力決定部94に送られる。
【0060】
インク量を取得した乾燥力決定部94は、そのインク量が少、標準、多のいずれであるかを判定し、その判定結果と乾燥力テーブル94aとから乾燥力を決定する(#15)。決定された乾燥力は乾燥制御部95に送られる。
【0061】
一方、乾燥制御部95ではプリントされたプリント媒体Sが搬送されてくるのを待ち、プリント媒体Sが乾燥範囲内に到達すると、取得した乾燥力となるように乾燥部70を制御する(#16)。
【0062】
また、インク量を取得した矯正力決定部92は、そのインク量が少、標準、多のいずれであるかを判定し、その判定結果と矯正力補正テーブル92bとから矯正力の補正量を決定する(#17)。その後、基礎矯正力に対して、環境温湿度に応じた補正量とインク量に応じた補正量を適用して最終的な矯正力を決定する(#18)。決定した矯正力はデカール機構制御部93に送られる。
【0063】
矯正力を取得したデカール機構制御部93は、実施例1と同様の制御によりデカール機構63を制御し、プリント媒体Sに矯正力を作用させデカールを行う(#19)。
【0064】
このように、本実施例では、環境温湿度だけでなくインク量に応じて矯正力を調整することができるため、各々のプリント媒体Sの状態に適したデカールを行うことができる。
【0065】
〔別実施形態〕
(1)上述の実施形態では、温度と湿度とに基づいて矯正力の補正量を決定したが、湿度のみに基づいて矯正力の補正量を決定する構成としても構わない。
【0066】
(2)実施例2の形態において、プリント媒体Sを複数の領域に分割し、その各々の領域のインク量に基づいて、各々の領域に対する矯正力の補正量を決定するように構成しても構わない。例えば、プリント媒体Sを搬送方向に沿って先端、中央、後端の領域に分割することができる。このとき、デカール機構63の近傍にセンサを配置しておき、プリント媒体Sとデカール機構63との位置関係を特定しつつ、プリント媒体Sの各領域応じた矯正力を作用させるよう構成すると好適である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、紙媒体のカールを矯正するデカール装置を備えたプリンタ等に利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
C:制御部
P:プリンタ
S:プリント媒体(紙媒体)
30:プリント部
63:デカール機構(矯正部)
91:湿度条件取得部
92:矯正力決定部
93:デカール機構制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙媒体に対して当該紙媒体が有するカール状の変形を矯正するための矯正力を付与する矯正部を備えたデカール装置であって、
前記紙媒体が有する湿気量を決定付ける条件である湿度条件を取得する湿度条件取得部と、
前記湿度条件に基づいて前記矯正力の大きさを決定する矯正力決定部と、を備えたデカール装置。
【請求項2】
前記湿度条件には前記紙媒体周囲の湿度が含まれることを特徴とする請求項1記載のデカール装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のデカール装置を備えたプリンタであって、
プリント媒体としての前記紙媒体に対してインクによるプリントを行うプリント部を備え、
前記湿度条件には前記プリントに用いたインク量が含まれることを特徴とするプリンタ。
【請求項4】
前記矯正力決定部は、前記プリント媒体のプリント面を複数の領域に分割し、当該領域に対して使用した前記インク量に基づいて当該領域に対する前記矯正力の大きさを決定することを特徴とする請求項3記載のプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−195316(P2011−195316A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66531(P2010−66531)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(311001347)NKワークス株式会社 (96)
【Fターム(参考)】