説明

データ処理方法及びデータ処理装置、並びに診断方法及び診断装置

【課題】 データ処理方法及びデータ処理装置、並びに診断方法及び診断装置に関し、複数の動作モードで動作しうる機械等の対象体の各パラメータについてより正確に診断できるようにする。
【解決手段】 検出手段1a〜1dが、n個のパラメータの値からなる正常時データセットを各動作モード毎にそれぞれ複数組検出する。また、自己組織化マップ形成手段2が、これら正常時データセットを用いて各動作モード毎に自己組織化マップを形成する。さらに、異常時データ作成手段7が、正常時データセットの各パラメータの値を変動ベクトルによって増減させて、仮想的な異常時データセットを1つの正常時データセットにつき変動ベクトルの数だけ作成する。そして、運転モード比率算出手段8が、各自己組織化マップの中から、異常時データセットに対して最も類似度が高いものを各異常時データセットについて求め、各変動ベクトル毎に異常時運転モード比率ベクトルを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の動作モードで動作しうる対象体、特に油圧ショベル等の作業機械に生じる異常状態を判定するのに用いて好適の、データ処理方法及びデータ処理装置、並びに診断方法及び診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の機械類のメンテナンスでは、機械類に故障が発生してから修復する事後保全や、機械類の使用時間を基準にした画一的な予防保全が一般に行なわれている。事後保全では、修理に大幅な時間やコストがかかってしまい、また、予防保全では、画一的な処理のため、不必要な部品やオイルの廃棄が発生し顧客の費用負担が増大し、また、労働集約型からくる高コスト化という問題があったが、今後はこうした従来のメンテナンスから脱却して、予知保全への転換を図っていく必要がある。
【0003】
予知保全とは、稼動時の負荷・環境情報、過去のメンテナンス歴データベース、故障物理の理解などから、推論により健全度を診断して劣化・余寿命を予測することで、機械の異常を早期に発見して安全な動作環境を提供するものである。
例えば特許文献1には、建設機械などの作業車両の異常診断装置に関し、作業機械(油圧ショベル)の車体に、油圧ポンプの吐出圧を検出する圧力センサと、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサと、油圧回路内の油温を検出する油温センサと、これら各センサからの検出情報をネットワーク管制局へ無線送信を行なう通信装置とをそなえ、監視局(作業機械の管理者の事務所など)では、前記ネットワーク管制局からインターネットを介して作業機械の各検出情報を得て、これら各検出情報に基づいて作業機械の異常を診断する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、バッチプラントや連続系プラント等の固定機械設備の異常検出装置に関し、対象プラントが正常状態であるときの正常データを予め収集しておき、この正常データをもとに自己組織化マップ(Self-Organizing Map)を用いて正常データの特徴を抽出し、これをもとに各出力ユニット間の距離関係を表す特徴マップを形成し正常状態モデルとして記憶しておき、この正常状態モデルと未知の入力データ(入力ベクトル)とに基づいて前記対象プラントの異常を検出する技術が開示されている。ここで、上記の正常状態モデルとは、例えば図20に示すように多次元データを可視化2次元マップに変換したもので〔ここでは多次元データが符号R1〜R5の領域で示される5つのクラスタ(集合体)に分類(クラス分け)されている〕、この正常状態モデルと同等の特徴を有するとみなされる場合に入力データは正常データであると判断する。この特許文献2の技術によれば、多次元の入力データに関する総合的な異常検知をリアルタイムに実現することができる。
【特許文献1】特開2002−323013号公報
【特許文献2】特開平11−338848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば上述したような油圧ショベル等の作業機械では、エンジンの回転数,油圧ポンプの吐出圧,油圧回路内の油温の他に、例えば、車体の前進・後進或いは旋回を制御する作動圧,バケットを制御するバケットシリンダの作動圧,スティックを制御するスティックシリンダの作動圧,ブームを制御するブームシリンダの作動圧などの多次元のパラメータ(検出要素)が存在する。
【0006】
また、作業機械は、一連の作業を行なう場合、種々の運転動作(即ち、運転モード)が組み合わされて作業が行なわれる。例えば、作業機械により、堆積した土砂をトラックのベッセル(荷台)上に積み込む作業の場合、おおまかに次の4つの運転モードに分離できる。すなわち、「バケットで土砂をすくい始めてからすくい終わるまでの動作(運転モード1)」、「土砂をすくった後、車体を旋回させて、土砂を保持したバケットをトラックのベッセルの上方まで運ぶ動作(運転モード2)」、「バケットを開いて土砂のベッセル上への移載を開始してから土砂の移載が完了するまでの動作(運転モード3)」、「バケットを堆積した土砂の位置まで戻して運転モード1に入るまでの動作(運転モード4)」の4つのモードである。
【0007】
つまり、各パラメータ値は、このようなそれぞれの運転モードに応じて変化するものであるが、各パラメータ値を別個に分析しても正確な異常診断を行なえない場合が多い。例えば、1つ1つのパラメータ値が全て正常範囲内にあるとしても、よりマクロ的に見た場合、現在の運転動作が上記4つの運転モードのどれにも当てはまらないという場合も生じ得る。この場合、現在の運転動作は未知の運転モードである、或いは何かしら異常が発生しているものと認められる。
【0008】
したがって、機械の診断を行なう場合には、現在の運転動作が、予め分類された運転モードに当てはまるか否かを判定して、当てはまらない場合には、上記の運転モードとは異なる運転モードである又は異常が発生していると判定することで、より早期に異常を発見できるものと考えられる。このため、診断対象となる機械について、起こりうる全ての運転モードを予め正確に認識しておけば、多次元のパラメータ値から現在の運転動作はどの運転モードの動作なのかをリアルタイムに判定することができる。
【0009】
このような視点から上述の従来の技術を検討すると、特許文献2の技術の自己組織化マップを用いれば、パラメータが多次元であっても機械の各運転モードを分類することが可能であると考えられる。
しかし、機械の運転モードが多数存在する場合には、1つの2次元自己組織化マップ内にこれら運転モード数と略同数のクラスタが形成されることになるため、各クラスタの面積が小さくなっていき隣接するクラスタとのオーバーラップが強くなり境界が不明確になってしまう。このため、正確な診断を行なうことができない。また、どの計測データ、即ちどのパラメータにどの程度の劣化や異常の兆候が生じているのかを予測することまでは困難である。
【0010】
なお、ここでは作業機械を例にとって説明したが、上述したような診断装置は、作業機械等の機械類への適用だけに限定せずに、動作(或いは変動)を複数の動作モード(或いは変動モード)で分類できる多くの診断対象(対象体)にも適用することが考えられる。
本発明は、上述の課題に鑑み創案されたもので、複数の動作モードで動作しうる機械等の対象体の各パラメータについてより正確に診断できるようにした、データ処理方法及びデータ処理装置、並びに診断方法及び診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このため、請求項1記載の本発明のデータ処理方法は、複数の動作モードで動作しうる対象体の正常状態における予備運転時において、該動作に応じて変動するn個のパラメータの値(P1,P2,…,Pn)からなる正常時データセット(di=[P1,P2,…,Pn])を、各動作モード毎にそれぞれ複数組(D組;[d1,d2,…,dD])検出する正常時データ検出ステップと、該正常時データ検出ステップで検出した上記の複数組の正常時データセットを用いて上記の各動作モード毎にそれぞれ個別の分離モデルとしての自己組織化マップを形成する自己組織化マップ形成ステップと、該正常時データ検出ステップで検出した該正常時データセットの各パラメータの値を、該パラメータの数と同数の変動値からなり互いに異なる複数個(E個)の変動ベクトルによって増減させることで、該対象体の異常発生時における仮想的な異常時データセットを上記の1つの正常時データセットにつき該変動ベクトルの数(E)だけ作成する異常時データ作成ステップと、該自己組織化マップ形成ステップで形成した上記の各動作モード毎の自己組織化マップの中から、該異常時データ作成ステップで作成した該異常時データセットに対して最も類似度が高い自己組織化マップを上記の各異常時データセットについて求め、上記の各変動ベクトル毎に、上記の全運転モードに対する各運転モードの比率を表す異常時運転モード比率ベクトルを算出する異常時運転モード比率算出ステップとをそなえたことを特徴としている。
【0012】
請求項2記載の本発明の診断方法は、請求項1記載のデータ処理方法により得られた上記の各変動ベクトルと上記の各異常時運転モード比率ベクトルとの対応関係を用いて該対象体の診断を行うことを特徴としている。
請求項3記載の本発明の診断方法は、請求項2記載の方法において、該対象体の実稼動時において、上記のn個のパラメータの値(P1,P2,…,Pn)からなる実稼動時データセット(di=[P1,P2,…,Pn])を、各動作モード毎にそれぞれ複数組検出する実稼動時データ検出ステップと、該自己組織化マップ形成ステップで求めた上記の各動作モード毎の自己組織化マップの中から、該実稼動時データ検出ステップで検出した該実稼動時データセットに対して最も類似度が高い自己組織化マップを上記の各実稼動時データセットについて求め、上記の全運転モードに対する各運転モードの比率を表す実稼動時運転モード比率ベクトルを算出する実稼動時運転モード比率算出ステップと、該異常時運転モード比率算出ステップで求めた上記の各異常時運転モード比率ベクトルのうち、該実稼動時運転モード比率算出ステップで算出した該実稼動時運転モード比率ベクトルに最も類似度が高い変動ベクトルを選択し、該選択した異常時運転モード比率ベクトルに対応する変動ベクトルの各変動値を求める変動値算出ステップとをそなえたことを特徴としている。
【0013】
請求項4記載の本発明のデータ処理装置は、複数の動作モードで動作しうる対象体の該動作に応じて変動するn個のパラメータの値(P1,P2,…,Pn)からなるデータセット(di=[P1,P2,…,Pn])を、各動作モード毎にそれぞれ検出する検出手段と、該対象体の正常状態における予備運転時に該検出手段により検出された複数組(D組;[d1,d2,…,dD])の上記のデータセットを用いて上記の各動作モード毎にそれぞれ個別の分離モデルとしての自己組織化マップを形成する自己組織化マップ形成手段と、該自己組織化マップ形成手段により形成された上記の各動作モード毎の自己組織化マップの中から、入力されたデータセットに対して最も類似度が高い自己組織化マップを選出し、上記の複数組のデータセットに対して上記の全運転モードに対する各運転モードの比率を表す運転モード比率ベクトルを算出する運転モード比率算出手段と、該対象体の正常状態における予備運転時に該検出手段により検出された該データセットの各パラメータの値を、該パラメータの数と同数の変動値からなり互いに異なる複数個(E個)の変動ベクトルによって増減させることで、該対象体の異常発生時における仮想的な異常時データセットを上記の1つのデータセットにつき該変動ベクトルの数(E)だけ作成する異常時データ作成手段とをそなえ、該運転モード比率算出手段は、該異常時データ作成手段により該異常時データセットが入力されると、該自己組織化マップ形成手段により形成された上記の各動作モード毎の自己組織化マップの中から、該異常時データセットに対して最も類似度の高い自己組織化マップを選出し、上記の複数組の異常時データセットに対して上記の全運転モードに対する各運転モードの比率を表す異常時運転モード比率ベクトルを算出するように機能することを特徴としている。
【0014】
請求項5記載の本発明の診断装置は、請求項1記載のデータ処理装置と、該対象体の実稼動時に、該検出手段により検出された実稼動時データセットを複数組取得するとともに、該運転モード比率算出手段により算出された上記の各動作モード毎の自己組織化マップのうち該実稼動時データセットに対して最も類似度が高い自己組織化マップを上記の各実稼動時データセット毎に求め、上記の全運転モードに対する各運転モードの比率を表す実稼動時運転モード比率ベクトルを取得し、該運転モード比率算出手段により算出された上記の各異常時運転モード比率ベクトルのうち、上記の実稼動時運転モード比率ベクトルに最も類似度が高い変動ベクトルを選択し、該選択した異常時運転モード比率ベクトルに対応する変動ベクトルの各変動値を求めることにより該対象体の異常を判定する判定手段とをそなえたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、異常時運転モード比率ベクトルと、各パラメータの値を増減させる変動ベクトルとの対応関係を用いて対象体の異常を判定することができるので、各パラメータについてより正確に診断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
図1及び図2は本発明の一実施形態にかかる診断装置を説明するための図であって、図1はそのブロック図、図2はその処理を示すフローチャートである。本診断装置は、例えば作業機械等の機械類に備えられ、機械類のどの部分にどの程度の劣化や異常の兆候が生じているかを診断するものである。以下では、一例として作業機械の油圧ショベルに適用した場合の診断装置について説明する。なお、本診断装置の適用対象はこれに限定されるものではなく、複数の動作モード(変動モード)で動作(変動)しうる種々の対象体全てに適用できる。
【0017】
図1に示すように、本診断装置は、油圧ショベルに備えられた複数のセンサ(検出手段)1a〜1dと、自己組織化マップ形成手段2,記憶部3,判定手段4,異常時データ作成手段7,運転モード比率算出手段8に相当する各機能を有するECU(電子コントロールユニット)5と、表示装置6とを主に備えて構成されている。なお、ECU5は、入出力装置,処理プログラムを内蔵した記憶装置(RAM,ROM等),中央処理装置(CPU)等を備えて構成される。また、上記のセンサ1a〜1d,自己組織化マップ形成手段2,異常時データ作成手段7及び運転モード比率算出手段8によりデータ処理装置が構成されている。
【0018】
センサ1a〜1dは、油圧ショベルに関する各パラメータ(変動要素)に対応して備えられ、複数の動作モードで動作しうる油圧ショベルの動作時に、油圧ショベルの動作に応じて変動する各パラメータ値を各動作モード毎に検出するようになっている。なお、センサ1a〜1dは、対応するパラメータの値を直接検出するもののほか、ある検出データを演算等によって処理して、対応するパラメータの値を推定値として求めるものも含む。
【0019】
また、ここでいう油圧ショベルに関するパラメータとは、例えばエンジン回転数,燃料消費量,油圧ポンプ圧力(1つ又は複数の油圧ポンプ圧力),油圧回路内の油温,車体の前進・後進或いは旋回を制御する作動圧,バケットを制御するバケットシリンダの作動圧,スティックを制御するスティックシリンダの作動圧,ブームを制御するブームシリンダの作動圧などの油圧ショベルの動作に応じて変動する各要素のことをいう。
【0020】
本診断装置では、これらのパラメータのうち代表としてエンジン回転数,燃料消費量,油圧ポンプ圧力の値を検出するセンサ1a〜1dが備えられている。すなわち、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ1aと、燃料消費量を検出する燃料消費量センサ1bと、油圧ショベルの左側及び右側の油圧ポンプ圧力をそれぞれ検出する左油圧ポンプ圧力センサ1c,右油圧ポンプ圧力センサ1dとの4つのセンサ1a〜1dを備えている。もちろん、上述したようなバケットシリンダ,スティックシリンダ,ブームシリンダ等の作動圧を検出するセンサを設けても良い。
【0021】
自己組織化マップ形成手段2では、エンジン回転数センサ1a,燃料消費量センサ1b,左油圧ポンプ圧力センサ1c,右油圧ポンプ圧力センサ1dにより検出された複数組のパラメータ値に基づく検出データをトレーニングデータ(Training Data)として、油圧ショベルの各動作モードに対応してそれぞれ個別の分離モデルとして自己組織化マップ(Self-Organizing Map、以下、SOMともいう)を形成するようになっている。
【0022】
ここで、油圧ショベルの各動作モードとは、ある一定の決まった動作(特定の動作)のことをいい、例えば、堆積した土砂をトラックのベッセル(荷台)上に積み込むという一連の作業は、おおまかに次の4つの運転モード(動作モード)に分離できる。すなわち、「バケットで土砂をすくい始めてからすくい終わるまでの動作(運転モード1)」、「土砂をすくった後、車体を旋回させて、土砂を保持したバケットをトラックのベッセル上方まで運ぶ動作(運転モード2)」、「バケットを開いて土砂のベッセル上への移載を開始してから土砂の移載が完了するまでの動作(運転モード3)」、「バケットを堆積した土砂の位置まで戻して運転モード1に入るまでの動作(運転モード4)」の4つのモードである。本実施形態では、上記の他に「アイドリング(待機状態)(運転モード0)」のモードを含む5つの運転モードで油圧ショベルが動作する場合について説明する。
【0023】
また、自己組織化マップとは、一般には、多次元データを2次元空間で表して可視化した認識モデルのことをいうが、2次元空間に表さなくても、多次元データ自体を、予め用意されたクラスにクラス分け(分類)する際の1つの手段として用いることができる。
ここで、一般的なクラス分けについて説明する。計測によって取得したD組のデータ集団(又はデータ群ともいう){d1,d2,・・・,di,・・・,dD}の各データ点(又はデータセットともいう)di(i=1,2,・・・,D)は、あるクラスCj(j=1,2,・・・,z)を特徴付けるn個のパラメータ値(計測特性値)から成っている。すなわち、di=[P1,P2,・・・,Pn]とする。クラス分けを行なうには、このあるデータ点diのn個のパラメータ値を読み取ることだけで、各データ点diをある正しいクラスに当てはめることのできる技術(モデルとそれに対応したアルゴリズム)が必要となる。
【0024】
このためには、まず、“答え(即ち、実際のクラス)”が分かっているトレーニングデータに基づいて初期知識を構築する必要がある。トレーニングデータは、自己組織化マップ(認識モデル)を学習する(即ち、徐々に自己組織化マップをアップデートする)ために使用され、この学習を繰り返す手法は“教師あり学習”と呼ばれる。こうして得られた自己組織化マップを、クラス分け問題を解く手段として用いる。
【0025】
なお、自己組織化マップを構築するとき、正確なトレーニングデータを多量に用いれば用いるほど、より正確な自己組織化マップを構築することができるが、トレーニングデータの量がある程度に達したら、それ以上データ量を増やしても、自己組織化マップの精度向上は僅かになってしまうため、トレーニングデータの入力回数は所定の回数に設定するのが好ましい。また、ここでいう「クラス」は、本実施形態における「運転モード」に対応するものである。
【0026】
さて、上述したように、本診断装置では、このような自己組織化マップを、油圧ショベルの各動作モードに対応してそれぞれ個別の「分離モデル(Separation Model)」として形成するようになっている。
つまり、各クラスCj(C1,C2,・・・,Cz)のそれぞれに対して1つの自己組織化マップSOMj(SOM1,SOM2,・・・,SOMz)を形成する。従って、本実施形態では、5つのクラス(運転モード)のそれぞれに対して1つの自己組織化マップを形成する。そして、分離モデルとしての各自己組織化マップをそれぞれ、ある1つの運転モードのみを明確に代表する多量のトレーニングデータを使って学習を実施する。このような学習により構築された各自己組織化マップはそれぞれ1つの運転モードを明確に認識できる“よく訓練されたエキスパート(Local and well trained Expert)”として機能する。このため、複数の動作モードで動作しうる対象体の各動作モードを正確に認識することができる。
【0027】
なお、1つの自己組織化マップは1つの運転モードのみを学習するものであり、他の運転モードに対しては学習していないので、1つの自己組織化マップが他の運転モードの知識を同時に特徴づけるものではない。
また、自己組織化マップ形成手段2に入力される4つのセンサ1a〜1dからの検出データは、油圧ショベルの瞬間の状態を示す4個(n個)のパラメータ値d(k)自体と、油圧ショベルの瞬間の変化状態を示す4個(n個)のパラメータ値の時間微分値(パラメータ値の変化率などの時間微分相当値も含む)Δd(k)とを含み、これら4個のパラメータ値d(k)自体と4個のパラメータ値の時間微分値Δd(k)とを合わせた8次元(2n次元)データとして構成されている。
【0028】
このように、自己組織化マップ形成手段2では、現時刻のパラメータ値d(k)だけでなく、現時刻のパラメータ値d(k)と現時刻よりも前の時刻のパラメータ値d(k−1)との差、即ちΔd(k)=d(k)−d(k−1)、をも含んだトレーニングデータに基づいて自己組織化マップを形成するようになっている。
現時刻のパラメータ値d(k)のみでは油圧ショベルの全体の動的な稼動に対し十分な代表的情報を得ることができないが、上述のようにΔd(k)を考慮に入れることで、各運転モードに対し特徴となりうる検出データ軌跡の傾向をより正確に把握することができるので、より精度の高い自己組織化マップを形成することが可能となる。
【0029】
この手法によれば、d(k)とΔd(k)というダブルサイズの自己組織化マップを形成する必要があり長い学習時間を要することになるが、この計算は自己組織化マップを学習する際に一度実行するだけでよいので、油圧ショベル作動中に運転モードを判定する際には何ら装置の負担にはならない。
また、自己組織化マップ形成手段2は、8次元(2n次元)空間内に所定数のニューロンをランダムに初期配置し、上記のトレーニングデータを用いて学習させ、トレーニングデータ点とニューロンとの距離が最小のニューロンを勝者ニューロンとして各トレーニングデータ点に対する勝者ニューロンを決定して自己組織化マップの候補を形成し、上記の自己組織化マップ候補の形成を複数回(所定数)実施して得られる複数の自己組織化マップ候補の中からトレーニングデータ特性に最も近い特性のものを自己組織化マップとして選定するようになっている。
【0030】
つまり、自己組織化マップ形成手段2は、上記の各自己組織化マップ候補について、トレーニングデータ点と上記の各勝者ニューロンとの距離の平均値と、トレーニングデータ点と上記の各勝者ニューロンとの距離の標準偏差とを演算し、平均値及び標準偏差の何れについても最も小さい自己組織化マップ候補を自己組織化マップとして選定するようになっている。なお、ここでいう勝者ニューロンとは、勝者ニューロン履歴のある(即ち、一度でも勝者ニューロンになったことのある)全てのニューロンのことをいう。また、このとき、自己組織化マップ形成手段2は、上記の平均値及び標準偏差の何れについても最も小さい自己組織化マップ候補がない場合には、平均値が最も小さい自己組織化マップ候補を自己組織化マップとして選定するようになっている。
【0031】
さらに、自己組織化マップ形成手段2では、上記の選定した自己組織化マップ中のニューロンのうち、一度も勝者ニューロンとならなかったニューロンを消去するようになっている。
なお、このような自己組織化マップの学習は、油圧ショベルで実際の作業を行なう前に、或いは実際の作業とは切り分けて(本実施形態では、これを油圧ショベルの「オフライン状態」或いは「正常状態における予備運転時」ともいう)予め行なっておくことが好ましい。したがって、例えば、油圧ショベルが製品として出荷される前に、出荷後行なわれるであろう一連の動作に沿って油圧ショベルを実験的に正常運転状態(異常が全くない状態)で動作させ、自己組織化マップ形成手段2により各運転モード毎に自己組織化マップを形成し、記憶部3に記憶させておけばよい。
【0032】
異常時データ作成手段7は、油圧ショベルの正常状態における予備運転時に、センサ1a〜1dにより検出されたデータ点の各パラメータの値を、これらパラメータの数と同数の変動値(変動率ともいう)からなり互いに異なる複数個(E個)の変動ベクトルによって増減させることで、油圧ショベルの異常発生時における仮想的な異常時データ点を1つの検出データ点につき変動ベクトルの数(E)だけ作成するようになっている。
【0033】
運転モード比率算出手段8は、自己組織化マップ形成手段2により形成された各運転モード毎の自己組織化マップの中から、入力されたデータ点に対して最も類似度が高い自己組織化マップを選出し、複数組のデータ点に対して全運転モードに対する各運転モードの比率を表す運転モード比率ベクトルを算出するようになっている。また、運転モード比率算出手段8は、異常時データ作成手段7により異常時データ点が入力されると、自己組織化マップ形成手段2により形成された各運転モード毎の自己組織化マップの中から、異常時データ点に対して最も類似度の高い自己組織化マップを選出し、上記の複数組の異常時データ点に対して、全運転モードに対する各運転モードの比率を表す異常時運転モード比率ベクトルを算出するように機能している。
【0034】
判定手段4は、油圧ショベルの実稼動時に、センサ1a〜1dにより検出された実稼動時データ点を複数組取得するようになっている。また、判定手段4は、運転モード比率算出手段8により算出された各運転モード毎の自己組織化マップのうち実稼動時データ点に対して最も類似度が高い自己組織化マップを各実稼動時データ点毎に求め、全運転モードに対する各運転モードの比率を表す実稼動時運転モード比率ベクトルを取得する。そして、判定手段4は、運転モード比率算出手段8により算出された各異常時運転モード比率ベクトルのうち、実稼動時運転モード比率ベクトルに最も類似度が高い変動ベクトルを選択し、この選択した異常時運転モード比率ベクトルに対応する変動ベクトルの各変動値を求めることにより油圧ショベルの異常を判定するようになっている。
【0035】
表示装置6は、判定手段4における判定結果を表示できるようになっている。
本実施形態に係る診断装置は、上述のように構成されており、その処理は図2に示すフローに沿って実行される。以下、図2に示すフロー、即ち、自己組織化マップ形成ステップ(ステップW1),異常時データ作成ステップ(ステップW2),運転モード比率算出ステップ(ステップW3),判定ステップ(ステップW4)について説明する。
【0036】
(1)自己組織化マップ形成ステップ
まず、図2に示す自己組織化マップ形成ステップ(ステップW1)について説明する。
この自己組織化マップ形成ステップでは、自己組織化マップ形成手段2により、油圧ショベルの各運転モードを明確に表わす分離モデルとしての自己組織化マップを各運転モード毎に1つずつ形成する。この自己組織化マップ形成ステップの処理は、前述したように油圧ショベルのオフライン状態で行われ、さらに詳細には図3に示すように、データ作成用検出ステップ(ステップS100),演算ステップ(ステップS110),形成ステップ(ステップS120)からなる。
【0037】
データ作成用検出ステップ(ステップS100)では、油圧ショベルの各運転モードについてそれぞれ多量且つ信頼性の高い検出データを取得する。つまり、本実施形態では、各運転モード毎に、4つのセンサ1a〜1dから各パラメータ値をそれぞれ複数組検出する。ここで、現時刻kでのパラメータ値をd(k)とする。
演算ステップ(ステップS110)では、データ作成用検出ステップにおいて検出された各パラメータ値をそれぞれ処理して各パラメータ値の時間微分値〔パラメータ値の変化率(例えば検出周期時間など単位時間での変化量)などの時間微分相当値も含む〕Δd(k)を算出する。
【0038】
形成ステップ(ステップS120)では、データ作成用検出ステップで取得した複数組のパラメータ値d(k)と、演算ステップで算出した複数組のパラメータ値の時間微分値Δd(k)とに基づく検出データ{d(k);Δd(k)}をトレーニングデータとして、各運転モード毎に分離モデルとしての自己組織化マップを形成する。
図4は、油圧ショベルを運転モード1〜4からなる一連の運転動作を繰り返し行なったときのセンサ1a〜1dのパラメータ値を示しており、横軸は共通の時間目盛になっている。この図4からもわかるように、同一運転モードでは同一のパラメータ値(波形)が得られるのが理想的であるが、実際には同一の運転モードであってもパラメータ値が異なる場合がある。したがって、このオフライン処理において大量且つ信頼性のあるトレーニングデータを用いて自己組織化マップを繰り返し学習させていくことにより、各運転モードの特徴をより明確に表わす自己組織化マップを形成することができるのである。
【0039】
このようにして各運転モードに対してそれぞれ1つの代表的な自己組織化マップを得るのであるが、この学習コンセプトの中には次のような特徴がある。すなわち、各自己組織化マップは1つの運転モードのみに対して学習するので、一般に知られている自己組織化マップのソフトウエアを使って表現されるような2次元マップのグラフ上にニューロンの位相学的距離(近傍)を示す必要がない。本実施形態に係る自己組織化マップにおいては、8次元空間にあるニューロンの分布〔ここでは“雲(C1oud)”と称する〕を得ることで十分である。
【0040】
次に、形成ステップのより具体的な計算処理について説明する。
図5に示すように、まず、8次元空間内に所定数のニューロンをランダムに配置する(ステップS200。第1ステップ)。そして、8次元空間内の各検出データ点(このオフライン処理においては自己組織化マップを形成するためのトレーニングデータとして扱われる)に対して、それぞれ各ニューロンとの距離を求める(ステップS210)。その後、上記の距離が最小であるニューロンを勝者ニューロンと決定する。また、このとき、この勝者ニューロンだけでなく、勝者ニューロンの近傍のニューロンも同時に学習させる。
【0041】
ここで、最小の距離(Minimum Distance)MDを、i番目の検出データ点と2n次元空間内における各ニューロンとの間の距離の最小値と定義する。例えば、j番目のニューロンとの距離が最小である場合、この最小であるj番目のニューロンを勝者ニューロンと呼ぶ。この最小距離MDは次式(1)で表される。
【0042】
【数1】

【0043】
ここで、r(i,j)は、i番目の検出データ点とj番目のニューロンとの間の距離を示す。また、一般的な自己組織化マップのアルゴリズムにおいて知られているように、距離r(i,j)をユーグリッド距離として計算する。なお、TDはトレーニングデータの数(組)を表わしている。
その後、複数組についてすべて学習を実施したか否かを判定し(ステップS230)、まだ実施していない場合(NOの場合)はステップS210へ移る。一方、すべて実施完了した場合(YESの場合)はステップS240へ移り、1つの自己組織化マップ候補を形成する。なお、この時点で得られた自己組織化マップは、必ずしも1つの運転モードを明確に表わすベストな自己組織化マップとはいえないため、1つの候補として扱う。また、ステップS210〜ステップS240が第2ステップであり、自己組織化マップ候補形成ステップは上記の第1ステップと第2ステップとからなる。
【0044】
さて、上記の計算処理により、ある1つの運転モードに対して1つの自己組織化マップ候補が形成されたわけであるが、本実施形態では、ある1つの運転モードの特徴を明確に表わすより精度の高いベストな自己組織化マップを得るために、1つの運転モードについて複数の自己組織化マップ候補を形成し、これら複数の自己組織化マップ候補の中からベストなものを選定するようにしている。したがって、ステップS250では、予め自己組織化マップを形成する前に決めておいた所定数の自己組織化マップ候補を形成したか否かを判定し、NOの場合はステップS200に移ってさらにもう1つ自己組織化マップ候補を形成し、YESの場合は、ステップS260へ移る。
【0045】
ステップS260(選定ステップ)では、各候補の中からトレーニングデータ特性に最も近い特性のものを自己組織化マップとして選定する。ここで、このステップS260においてどのようにベストな自己組織化マップを選定するのかをより詳しく説明する。
まず、2n次元空間内のニューロン分布を特徴づける重要なパラメータとして、平均最小距離(Average Minimum Distance)AVminと、最小距離MDの標準偏差(Standard Deviation)STdevとがある。
【0046】
図6は、一例として、2n次元空間内における10個の検出データ点(オフライン処理ではトレーニングデータとして扱っているので、図6ではトレーニングデータ点として示している)d1〜d10と7個のニューロンn1〜n7との間の最小距離MDを視覚的に示すものであるが、平均最小距離AVminはこれら最小距離MDの平均値である。この平均最小距離AVminは次式(2)で表される。
【0047】
【数2】

【0048】
また、標準偏差STdevも、平均最小距離AVminの式と同様に、公知の式〔次式(3)〕により求めることができる。
【0049】
【数3】

【0050】
図5に示すステップS260では、このようにして求めた平均最小距離AVminと標準偏差STdevとに基づいて、複数の候補として算出された自己組織化マップのうちどの自己組織化マップがトレーニングデータ特性に最も近いかを判定する。このとき、平均最小距離AVmin及び標準偏差STdevの何れについても最も小さい自己組織化マップ候補を、トレーニングデータ特性に最も近いベストな自己組織化マップとして選定する。
【0051】
なお、平均最小距離AVmin及び標準偏差STdevの何れについても最も小さい自己組織化マップ候補がない場合には、平均最小距離AVminが最も小さい自己組織化マップ候補を自己組織化マップとして選定する。これにより、最もよく検出データ(トレーニングデータ)の特徴を表わした自己組織化マップを選定することができる。
また、ステップS270(アイドリングニューロン消去ステップ)において、上記の選定した自己組織化マップ中のニューロンのうち一度も勝者ニューロンにならなかったニューロン(ここでは“アイドリングニューロン(Idling Neuron)”と称する)を消去する。例えば図6には2つのアイドリングニューロンn3,n7が示されているが、ここではこれらアイドリングニューロンn3,n7を自己組織化マップの学習後に消去するのである。このようなアイドリングニューロンの概念を適用することで、トレーニングデータ特性を、ニューロン数を大幅に減少させた自己組織化マップで表わすことができるので、自己組織化マップを記憶しておくための容量を少なくでき、この後この自己組織化マップを用いた計算の処理時間を短縮できる。
【0052】
本実施形態で説明するように、1つの運転モードに対して1つの自己組織化マップ(分離モデル)を使うことのメリットは、この1つの運転モードを特徴づける膨大な検出データ点を、数を大幅に減少させたニューロンに近似することで記憶容量を少なくできることである。
図7(a)〜(d)は運転モード1に対する検出データ点のグラフであって、(a)はエンジン回転数P1と左油圧ポンプ圧力P3との関係、(b)はエンジン回転数P1と右油圧ポンプ圧力P4との関係、(c)は左油圧ポンプ圧力P3と右油圧ポンプ圧力P4との関係、(d)はエンジン回転数P1と燃料消費量P2との関係を示している。なお、図7(a)〜(d)の各自己組織化マップ(分離モデル)は8次元であるので、実際には8次元空間に勝者ニューロンが位置したマップとして形成される。
【0053】
また、図8(a)〜(d)は運転モード2に対する検出データ点のグラフである。図8の(a)〜(d)も、各自己組織化マップ(分離モデル)は8次元であるので、実際には8次元空間に勝者ニューロンが位置したマップとして形成される。
また、図9(a)〜(d)は、運転モード1のベストな自己組織化マップを示すものである。なお、図9中の小さい点印は、運転モード1の検出データ点を、大きい点印は、完全な学習及びアイドリングニューロンの消去を行なった後のニューロンを示している。
【0054】
これと同様に、図10(a)〜(d)は、運転モード2のベストな自己組織化マップを示すものである。なお、図10中の小さい点印は、運転モード2の検出データ点を、大きい点印は、完全な学習及びアイドリングニューロンの消去を行なった後のニューロンを示している。これら図9(a)〜(d)及び図10(a)〜(d)から、ニューロンが主にデータ密度の最も高い領域に配置されていることが容易に分かる。
【0055】
(2)異常時データ作成ステップ
次に、図2に示す異常時データ作成ステップ(ステップW2)について説明する。
この処理は、前述した自己組織化マップ形成ステップと同様に、油圧ショベルのオフライン状態で行なわれる。具体的には、異常時データ作成手段7が、各センサ1a〜1dから油圧ショベルの正常運転状態時のデータ(正常時データ)を取得し、この取得した正常時データの各検出データ点を、予め設定した変動率で変動させて、油圧ショベルの異常発生時における仮想的なデータ(異常時データ)を作成する。なお、上記の正常時データとして、前述した自己組織化マップ形成ステップで検出した正常運転状態時の検出データをそのまま用いてもよい。
【0056】
正常時データのデータ点d(k)=[d1(k),d2(k),…,dn(k)](n:パラメータの総数)に対する異常時データは、下式(4)により求めることができる。
【0057】
【数4】

【0058】
つまり、本実施形態のように、パラメータ数nがエンジン回転数P1,燃料消費量P2,左油圧ポンプ圧力P3,右油圧ポンプ圧力P4の4つの場合で、「−0.2(即ち「−20%」)」,「−0.1(即ち「−10%」)」,「0(即ち「0%」であり、変動させない)」,「+0.1(即ち「+10%」)」,「+0.2(即ち「+20%」)」の5つの変動率αからなる変動パラメータベクトル(単に変動ベクトルともいう)で検出データ点(正常時データ点)を変動させた場合、正常運転状態時における1つの検出データ点に対して、5×5×5×5=625通りの異常時データ点が作成される。図11は、一例として、パラメータ数nが4つ、変動率αが5つのレベルの場合の異常時データ点の作成時に用いられる変換テーブル(以下、これを「変動パラメータベクトルモデルマップ」という)を示している。図11中、P1はエンジン回転数、P2は燃料消費量,P3は左油圧ポンプ圧力、P4は右油圧ポンプ圧力を示し、ID(Identification Number)は625通りの変動ベクトルのそれぞれに付した番号を示している。例えば図11に示す変動パラメータベクトルモデルマップでは、ID=「1」は、エンジン回転数P1のみを変動率α=「−0.2」で変動させるものであり、ID=「2」は、燃料消費量P2のみを変動率α=「+0.2」で変動させるものであり、ID=「625」は、右油圧ポンプ圧力P4のみを変動率α=「+0.2」で変動させるものである。
【0059】
異常時データ作成手段7は、このような変動パラメータベクトルモデルマップを用いて、ここでは正常時データの各検出データ点をそれぞれ625組の仮想的な異常時データ点に変換する。つまり、例えば、正常時データが1000組(D=1000)の検出データ点(正常時データ点)からなるものであれば、1000×625組の異常時データ点からなる異常時データが作成されることになる。
【0060】
(3)運転モード比率算出ステップ
次に、図2に示す運転モード比率算出ステップ(ステップW3)について説明する。
この処理は、前述した自己組織化マップ形成ステップと同様に、油圧ショベルのオフライン状態で行なわれる。具体的には、運転モード比率算出手段8が、まず、異常時データ作成手段7により作成された異常時データの各異常時データ点に対し、自己組織化マップ形成手段2により形成された各運転モードの自己組織化マップを用いて運転モード認識を行なう。このため、運転モード比率算出手段8は、各異常時データ点がそれぞれどの運転モードの自己組織化マップと最も類似しているかを計算し、最も類似性の高い自己組織化マップに対応する運転モードを求める。
【0061】
詳細には図12に示すように、まず、ある1つの異常時データ点と各運転モードの自己組織化マップとの類似度合いSD(Similarity Degree)を求める(ステップS500)。この類似度合いSDを計算する手法は種々あるが、本実施形態では、ユーグリッド距離、即ち、異常時データ点と自己組織化マップ内の勝者ニューロンとの距離を使って求める。
【0062】
また、このようにして得られた類似度合いSDを平均最小距離AVminで除算し、異常時データ点と自己組織化マップの勝者ニューロンとの間の相対距離RD(=SD/AVmin)を求める。なお、ここでいう勝者ニューロンとは、異常時データ点(1個)に対し距離の最も短いニューロンのことをいう。この相対距離RDの計算を、5つの自己組織化マップの全てに対してそれぞれ行なう(ステップS510)。
【0063】
そして、上述のように算出された相対距離RDが、自己組織化マップに対し、所定値(1+β)以下、即ちRD≦1+β(βは予め決められた閾値)であるか否かを判定し(ステップS520)、所定値以下であれば、この自己組織化マップに適合すると判定する(ステップS530)。このようにして、各異常時データ点は、適合する自己組織マップに対応した運転モードに分類される。
【0064】
一方、相対距離RDが所定値以上であれば、この自己組織化マップには適合しないと判定する(ステップS540)。即ち、この場合、異常時データ点は、どの運転モードにも分類できないことを意味している。なお、上記の所定値(1+β)を適宜設定しておくことで、検出データ点が自己組織化マップに適合するか否かの判定基準を状況に応じて決定することができる。
【0065】
運転モード比率算出手段8は、このような判定を、1つの異常時データ点に対し、5つの各自己組織化マップについて行ない、適合する自己組織化マップが複数ある場合(即ち、適合する運転モードが複数ある場合)には、相対距離RDが最も小さい自己組織化マップを選択し、この自己組織化マップに対応する運転モードとして認識する。また、適合する自己組織化マップが1つもない場合(即ち、適合する運転モードが1つもない場合)には、モード判定ができなかったものとし、例えばこの場合は「未知の運転モード」として認識しておく。
【0066】
また、運転モード比率算出手段8は、上記のように運転モード認識を行なった後、全運転モードに対する各運転モードの比率を表す運転モード比率ベクトル(異常時運転モード比率ベクトル)を算出する。この運転モード比率ベクトルVは、下式(5)により求めることができる。
【0067】
【数5】

【0068】
図13は、図11に示す変動パラメータベクトルモデルマップに対応する運転モード比率ベクトルモデルマップの一例を示す。なお、図13中、M0はアイドリング(待機)の運転モードを示し、M1〜M4はそれぞれ上述した運転モード1〜4を示している。なお、「Fail」は上記のいずれのモードにも当てはまらない比率を示している。
図13に示す例では、運転モード2及び運転モード3の比率については省略しているが、例えばID=「1」の変動ベクトルにより作成される異常時データ点の場合、運転モード0の比率は「0.185」、運転モード1の比率は「0.148」、運転モード4の比率は「0.188」、Failの比率は「0.068」となることがわかる。なお、これら全比率を足せば「1.000」となる。前述したように例えば正常時データ点が1000個であったとすれば、例えばID=「1」の場合、運転モード0と認識された異常時データ点は185個、運転モード1と認識された異常時データ点は148個、運転モード4と認識された異常時データ点は188個、Failと認識された異常時データ点は68個であることを示している。
【0069】
ここで、図14及び図15に、一例として、異常時データの運転モード比率を示す。図14は、エンジン回転数P1のみを「−0.25」〜「+0.25」まで「0.05」単位で変動させた時の運転モード比率を示している。この図14からわかるように、エンジン回転数P1の変動率が「0」の場合には、運転モード2,運転モード3,運転モード4,運転モード1,運転モード0の順に運転モード比率が大きくなることがわかる。また、このとき、Failの比率は0であるが、エンジン回転数P1を変動させると各運転モード比率が変化し、特にエンジン回転数が大きく下がると(変動率αが「−0.2」よりも小さくなると)、Failの比率が運転モード1〜4よりも大きくなることがわかる。
【0070】
また、図15は燃料消費量P2のみを「−0.25」〜「+0.25」まで「0.05」単位で変動させた時の運転モード比率を示している。この図15からわかるように、燃料消費量P2の変動率が「0」の場合には、運転モード2,運転モード3,運転モード4,運転モード1,運転モード0の順に運転モード比率が大きくなることがわかる。また、このとき、Failの比率は0であるが、燃料消費量P2を変動させると各運転モード比率が変化し、特に燃料消費量の変動率の大小に連動して運転モード2の比率(図14に示すM2)が大きく変化することがわかる。
【0071】
図16は、変動率αを「−0.2」〜「+0.2」まで「0.1」単位で変動させた時の運転モード1及び運転モード2の比率をプロット(図16中、小さい点)した図である。また、図16中の大きな点は、正常時データ点(即ち、各パラメータ値の変動率αを全て「0」としたとき)における運転モード1及び運転モードの比率をプロットしたものである。この図16から、各異常時データ点における運転モード比率は、正常時データ点における運転モード比率を示す点(図16中、大きな点)の周囲に広がって分布することがわかる。
【0072】
(4)判定ステップ
次に、図2に示す判定ステップ(ステップW4)について説明する。上述した(1)〜(3)の処理は油圧ショベルの診断を行なうための前処理であったが、この判定ステップは、実際に油圧ショベルの診断を行なう処理であり、この処理は、油圧ショベルが出荷された後に行われる(本実施形態では、これを油圧ショベルの「オンライン状態」という)。具体的には、図17に示すように、まず、油圧ショベルを実稼動させて、各センサ1a〜1dにより4個のパラメータ値、即ち検出データ(実稼動時データ)をそれぞれ検出する(ステップS600)。このような検出データを、例えば1日分取得し、記憶部3に記憶しおく。
【0073】
次に、運転モード比率算出手段8が、検出データ点と各運転モードの自己組織化マップとの類似度合いSD(Similarity Degree)を求める(ステップS610)。この類似度合いSDを計算する手法は種々あるが、本実施形態では、ユーグリッド距離、即ち、検出データ点と自己組織化マップ内の勝者ニューロンとの距離を使って求める。
また、このようにして得られた類似度合いSDを平均最小距離AVminで除算し、検出データ点と自己組織化マップの勝者ニューロンとの間の相対距離RD(=SD/AVmin)を求める。なお、ここでいう勝者ニューロンとは、検出データ点(1個)に対し距離の最も短いニューロンをいう。この相対距離RDの計算を、5つの自己組織化マップの全てに対してそれぞれ行なう(ステップS620)。
【0074】
そして、上述のように算出された相対距離RDが、自己組織化マップに対し、所定値(1+γ)以下、即ちRD≦1+γ(γは予め決められた閾値)であるか否かを判定し(ステップS630)、所定値以下であれば、この自己組織化マップに適合すると判定し(ステップS640)、相対距離RDが所定値以上であれば、この自己組織化マップには適合しないと判定する(ステップS650)。即ち、上記の検出データ点は、どの運転モードにも分類できないことを意味している。なお、上記の所定値(1+γ)を適宜設定しておくことで、検出データ点が自己組織化マップに適合するか否かの判定基準を状況に応じて決定することができる。
【0075】
運転モード比率算出手段8は、このような判定を5つの各自己組織化マップについて行ない、適合する自己組織化マップが複数ある場合(即ち、適合する運転モードが複数ある場合)には、相対距離RDが最も小さい自己組織化マップを選択し、この自己組織化マップに対応する運転モードとして認識する。また、適合する自己組織化マップが1つもない場合(即ち、適合する運転モードが1つもない場合)には、モード判定ができなかったものとし、例えばこの場合は「未知の運転モード」として認識する。
【0076】
また、運転モード比率算出手段8は、上記のように各検出データ点について運転モード認識を行なった後、その1日の全運転モードに対する各運転モードの比率を表す運転モード比率ベクトル(実稼動時運転モード比率ベクトル)を求める。
そして、判定手段4が、運転モード比率算出手段8により求められた実稼動時運転モード比率ベクトルが、図2に示すステップW3で求めた異常時運転モード比率ベクトル(図13参照)のうち、どの運転モード比率ベクトルに最も近い(即ち類似度が高い)かをユーグリッド距離により選ぶ。
【0077】
次に、判定手段4は、上記のように選んだ運転モード比率ベクトルに対応した変動パラメータベクトルを、図2に示すステップW2で求めた変動パラメータベクトルモデルマップ(図11参照)から求める。すなわち、このようにして求めた運転モード比率ベクトルの各パラメータの変動率αから、当該1日の油圧ショベルの稼動において、どのパラメータ(エンジン回転数,燃料消費量,左油圧ポンプ圧力,右油圧ポンプ圧力のいずれか)にどの程度の変動が生じているかを判定することで、機械の劣化や異常の兆候を予測する。また、表示装置6が、この予測結果を表示し、機械の劣化や異常の兆候を報知するようになっている。
【0078】
上述したように、本実施形態にかかる診断装置及び診断方法では、図18に示すように、油圧ショベルの例えば出荷前の正常運転状態時(オフライン状態時)に各パラメータの正常時データを取得し、この正常時データと変動パラメータベクトルモデルマップとを用いて異常時運転モード比率ベクトルモデルマップを作成しておく。そして、機械が出荷されて実際に現場で稼動しているとき(オンライン状態時)に各パラメータの実稼動時データを取得し、この実稼動時データを用いて実稼動時運転モード比率ベクトルを求め、この実稼動時運転モード比率ベクトルに最も近いベクトルを、上記オフライン状態で作成した異常時運転モード比率ベクトルモデルマップから選択し、この選択したベクトルに対応する変動パラメータベクトルを変動パラメータベクトルモデルマップから求める。そして、このようにして求めた変動パラメータベクトルの変動率(具体的には、変動パラメータベクトルの各パラメータの変動率)から各パラメータの変動量を予測することで、機械の劣化や異常の兆候を予測することができる。
【0079】
また、図18に示すように、オフライン状態時に、予め各変動パラメータベクトル毎に具体的な異常個所(例えばターボチャージャ,オイルポンプ,インジェクターなど)を特定しておき、各変動パラメータベクトルに対応した異常データベースを用意しておけば、より具体的な異常個所を予測することが可能になる。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0080】
例えば、本実施形態では、複数の動作モードで動作しうる対象体として油圧ショベルを例に説明したが、対象体はこれに限定されるものではなく、例えばトラック・バス,船舶等の乗物類、及び、産業機械をはじめとした各種機械類の動作の良否判定等に広く適用できるほか、動植物等の生命体の良否判定等や、天候或いは地球等の天体の変化の推定などにも適用できる。
【0081】
また、本実施形態では、診断装置を油圧ショベルに設けて油圧ショベル側で一括して診断を行なう構成について説明したが、図19に示すように、例えば油圧ショベル等の移動機械にパラメータを検出するセンサだけを設け、この移動機械を所有する事業所に、本実施形態で説明した自己組織化マップ形成手段2,記憶部3,判定手段4,異常時データ作成手段7,運転モード比率算出手段8及び表示装置6を備えたコンピュータ等を設置し、センサからの検出データを無線通信等により上記のコンピュータに送信して表示することで、移動機械が遠隔地にある場合でも事業所側で容易に診断を行なうことが可能となる。なお、図19では、移動機械と事業者との間に管理システムを介在した例を示している。従来より、特に作業機械,トラック・バス,船舶等のような移動機械を対象にした場合、地理的分散による非効率性もあってメンテナンスの高度化及び高効率化のニーズが高いが、本発明の診断装置を上述のように構成すれば、このようなニーズにも対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施形態に係る診断装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る診断方法を示すフローチャートである。
【図3】自己組織化マップ形成ステップの具体的な処理を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係る油圧ショベルの運転モード1〜4に対する各センサの出力値を示すグラフである。
【図5】自己組織化マップ形成ステップの具体的な処理を示すフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態に係る自己組織化マップ内のトレーニングデータ点(検出データ点)とニューロンとの間の最小距離を視覚的に示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る自己組織化マップを説明するための図で、(a)〜(d)は運転モード1のトレーニングデータによって形成された自己組織化マップである。
【図8】本発明の一実施形態に係る自己組織化マップを説明するための図で、(a)〜(d)は運転モード2のトレーニングデータによって形成された自己組織化マップである。
【図9】本発明の一実施形態に係る自己組織化マップを説明するための図で、(a)〜(d)は運転モード1のトレーニングデータ(図中の小さい点印)と、完全な学習及びアイドリングニューロンの消去を行なった後のニューロン(図中の大きい点印)の配置を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る自己組織化マップを説明するための図で、(a)〜(d)は運転モード2のトレーニングデータ(図中の小さい点印)と、完全な学習及びアイドリングニューロンの消去を行なった後のニューロン(図中の大きい点印)の配置を示す図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る変動パラメータベクトルモデルマップを示す図である。
【図12】図2に示す運転モード比率算出の具体的な処理を示すフローチャートである。
【図13】本発明の一実施形態に係る運転モード比率ベクトルモデルマップを示す図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る異常時データのパラメータP1についての運転モード比率を示す図である。
【図15】本発明の一実施形態に係る異常時データのパラメータP2についての運転モード比率を示す図である。
【図16】本発明の一実施形態に係る運転モード1,2の比率をプロットした図である。
【図17】判定ステップの具体的な処理を示すフローチャートである。
【図18】本発明の一実施形態に係る診断方法を説明するための概略図である。
【図19】本発明の変形例としての診断装置を示す図である。
【図20】従来の自己組織化マップ(可視化2次元マップ)を示す図である。
【符号の説明】
【0083】
1a エンジン回転数センサ(検出手段)
1b 燃料消費量センサ(検出手段)
1c 左油圧ポンプ圧力センサ(検出手段)
1d 右油圧ポンプ圧力センサ(検出手段)
2 自己組織化マップ形成手段
3 記憶部
4 判定手段
5 ECU(電子コントロールユニット)
6 表示装置
7 異常時データ作成手段
8 運転モード比率算出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の動作モードで動作しうる対象体の正常状態における予備運転時において、該動作に応じて変動するn個のパラメータの値(P1,P2,…,Pn)からなる正常時データセット(di=[P1,P2,…,Pn])を、各動作モード毎にそれぞれ複数組(D組;[d1,d2,…,dD])検出する正常時データ検出ステップと、
該正常時データ検出ステップで検出した上記の複数組の正常時データセットを用いて上記の各動作モード毎にそれぞれ個別の分離モデルとしての自己組織化マップを形成する自己組織化マップ形成ステップと、
該正常時データ検出ステップで検出した該正常時データセットの各パラメータの値を、該パラメータの数と同数の変動値からなり互いに異なる複数個(E個)の変動ベクトルによって増減させることで、該対象体の異常発生時における仮想的な異常時データセットを上記の1つの正常時データセットにつき該変動ベクトルの数(E)だけ作成する異常時データ作成ステップと、
該自己組織化マップ形成ステップで形成した上記の各動作モード毎の自己組織化マップの中から、該異常時データ作成ステップで作成した該異常時データセットに対して最も類似度が高い自己組織化マップを上記の各異常時データセットについて求め、上記の各変動ベクトル毎に、上記の全運転モードに対する各運転モードの比率を表す異常時運転モード比率ベクトルを算出する異常時運転モード比率算出ステップとをそなえた
ことを特徴とする、データ処理方法。
【請求項2】
請求項1記載のデータ処理方法により得られた上記の各変動ベクトルと上記の各異常時運転モード比率ベクトルとの対応関係を用いて該対象体の診断を行う
ことを特徴とする、診断方法。
【請求項3】
該対象体の実稼動時において、上記のn個のパラメータの値(P1,P2,…,Pn)からなる実稼動時データセット(di=[P1,P2,…,Pn])を、各動作モード毎にそれぞれ複数組検出する実稼動時データ検出ステップと、
該自己組織化マップ形成ステップで求めた上記の各動作モード毎の自己組織化マップの中から、該実稼動時データ検出ステップで検出した該実稼動時データセットに対して最も類似度が高い自己組織化マップを上記の各実稼動時データセットについて求め、上記の全運転モードに対する各運転モードの比率を表す実稼動時運転モード比率ベクトルを算出する実稼動時運転モード比率算出ステップと、
該異常時運転モード比率算出ステップで求めた上記の各異常時運転モード比率ベクトルのうち、該実稼動時運転モード比率算出ステップで算出した該実稼動時運転モード比率ベクトルに最も類似度が高い変動ベクトルを選択し、該選択した異常時運転モード比率ベクトルに対応する変動ベクトルの各変動値を求める変動値算出ステップとをそなえた
ことを特徴とする、請求項2記載の診断方法。
【請求項4】
複数の動作モードで動作しうる対象体の該動作に応じて変動するn個のパラメータの値(P1,P2,…,Pn)からなるデータセット(di=[P1,P2,…,Pn])を、各動作モード毎にそれぞれ検出する検出手段と、
該対象体の正常状態における予備運転時に該検出手段により検出された複数組(D組;[d1,d2,…,dD])の上記のデータセットを用いて上記の各動作モード毎にそれぞれ個別の分離モデルとしての自己組織化マップを形成する自己組織化マップ形成手段と、
該自己組織化マップ形成手段により形成された上記の各動作モード毎の自己組織化マップの中から、入力されたデータセットに対して最も類似度が高い自己組織化マップを選出し、上記の複数組のデータセットに対して上記の全運転モードに対する各運転モードの比率を表す運転モード比率ベクトルを算出する運転モード比率算出手段と、
該対象体の正常状態における予備運転時に該検出手段により検出された該データセットの各パラメータの値を、該パラメータの数と同数の変動値からなり互いに異なる複数個(E個)の変動ベクトルによって増減させることで、該対象体の異常発生時における仮想的な異常時データセットを上記の1つのデータセットにつき該変動ベクトルの数(E)だけ作成する異常時データ作成手段とをそなえ、
該運転モード比率算出手段は、
該異常時データ作成手段により該異常時データセットが入力されると、該自己組織化マップ形成手段により形成された上記の各動作モード毎の自己組織化マップの中から、該異常時データセットに対して最も類似度の高い自己組織化マップを選出し、上記の複数組の異常時データセットに対して上記の全運転モードに対する各運転モードの比率を表す異常時運転モード比率ベクトルを算出するように機能する
ことを特徴とする、データ処理装置。
【請求項5】
請求項1記載のデータ処理装置と、
該対象体の実稼動時に、該検出手段により検出された実稼動時データセットを複数組取得するとともに、該運転モード比率算出手段により算出された上記の各動作モード毎の自己組織化マップのうち該実稼動時データセットに対して最も類似度が高い自己組織化マップを上記の各実稼動時データセット毎に求め、上記の全運転モードに対する各運転モードの比率を表す実稼動時運転モード比率ベクトルを取得し、該運転モード比率算出手段により算出された上記の各異常時運転モード比率ベクトルのうち、上記の実稼動時運転モード比率ベクトルに最も類似度が高い変動ベクトルを選択し、該選択した異常時運転モード比率ベクトルに対応する変動ベクトルの各変動値を求めることにより該対象体の異常を判定する判定手段とをそなえた
ことを特徴とする、診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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