説明

データ通信システム及びデータ通信方法

【課題】多重反射による通信障害を防ぎ、良好にデータ通信を行うことが可能なデータ通信システム及びデータ通信方法を提供する。
【解決手段】本発明では、送信端末51が、キャリア波を一定複数周期連ねてなる単位キャリア波D7を生成し、その単位キャリア波D7を送信端末51毎に異なる配列パターンに並べて、デジタル伝送データD1の1ビットより短い単位キャリア波列信号D8を生成する。そして、その単位キャリア波列信号D8をデジタル伝送データD1の2値が反転する度に送信する。一方、受信端末60は、単位キャリア波列信号D8の受信タイミング毎に受信タイミング信号D9を生成しかつ、同一種類の単位キャリア波列信号D8の受信タイミング信号D9を集め、それら受信タイミング信号D9に応じて2値を反転させてデジタル伝送データD1を復元する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2値で構成された複数ビットかつシリアルのデジタル伝送データを、複数の送信端末と受信端末との間で、キャリア波を用いて変復調して送受信するデータ通信システム及びデータ通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の送信端末を区別してデータ通信するシステムとして、TSS(Time Sharing System)や、DSL(Digital Subscriber Line)が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。また、変復調の方法としては、ASK(Amplitude Shift Keying)や、FSK(Frequency Shift Keying)が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−284800号公報(請求項2)
【特許文献2】特開2003−116186号公報(段落[0014]、図2)
【非特許文献1】「JIS工業用語大辞典 第5版」2001年3月30日発行、発行所及び著者:財団法人日本規格協会(955頁、1063頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、送信端末から送信された信号波は、伝搬空間の境界部分(壁等)や伝送路の端末等で多重反射し、その結果、反射伝播時間だけずれた第1次の反射波、第2次の反射波、・・・が発生する。そして、従来のTSS又はDSLで、従来のASK又はFSKの変復調を行った場合には、正規の信号波と第1次、第2次、・・の反射波とが重なって区別し難くなり、通信障害を起こす場合があった。特に、車両内の伝送路のように比較的短い伝送路を通してデータ通信を行う場合に、上記した多重反射による通信障害が多発していた。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、多重反射による通信障害を防ぎ、良好にデータ通信を行うことが可能なデータ通信システム及びデータ通信方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係るデータ通信システム(50,50R)は、2値で構成された複数ビットかつシリアルのデジタル伝送データ(D1)を、複数の送信端末(51,51R,70,70R)と受信端末(60,60R,70,70R)との間で、キャリア波を用いて変復調して送受信するデータ通信システム(50,50R)において、送信端末(51,51R,70,70R)には、キャリア波を一定複数周期連ねてなる単位キャリア波(D7)を生成し、その単位キャリア波(D7)を送信端末(51,51R,70,70R)毎に異なる配列パターンに並べて、デジタル伝送データ(D1)の1ビットより短い単位キャリア波列信号(D8)を生成する端末識別情報付加部(54,56)と、デジタル伝送データ(D1)の2値が反転するタイミングを検出し、それら2値が反転する度に、端末識別情報付加部(54,56)に単位キャリア波列信号(D8)を送信させる送信タイミング決定部(53)とが備えられ、受信端末(60,60R,70,70R)には、単位キャリア波列信号(D8)の受信タイミング毎に受信タイミング信号(D9)を生成しかつ、同一種類の単位キャリア波列信号(D8)の受信タイミング信号(D9)を集める受信タイミング分別部(63〜66)と、集められた同一種類の受信タイミング信号(D9)に応じて2値を反転させてデジタル伝送データ(D1)を復元するデジタルデータ復元部(67)とが備えられたところに特徴を有する。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載のデータ通信システム(50,50R)において、端末識別情報付加部(54,56)には、予め設定された端末識別コード(D4)に応じてパルスを配列して識別パルス列(D3)を生成する識別パルス生成部(54)と、その識別パルス列(D3)を単位キャリア波列信号(D8)にAM変調するAM変調部(56)とが備えられ、受信タイミング分別部(63〜66)には、単位キャリア波列信号(D8)を識別パルス列(D3)にAM復調するAM復調部(63)が備えられたところに特徴を有する。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載のデータ通信システム(50,50R)において、送信端末(51,51R,70,70R)及び受信端末(60,60R,70,70R)は、車両(10)に搭載され、端末識別情報付加部(54,56)は、単位キャリア波(D7)の長さを20[ns]未満とし、単位キャリア波(D7)同士の間隔を20[ns]以上にするところに特徴を有する。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れかに記載のデータ通信システム(50R)において、送信端末(51R)及び受信端末(60R)は、車両(10)に搭載され、車両(10)のうち、エンジン(12)、シャーシ(11)を含みかつタイヤ(15)によって大地(100)から絶縁された車両グランド部(GND)に対向配置された送信側対向導電部材(51T)を送信端末(51R)に設けると共に、その送信端末(51R)は、送信側対向導電部材(51T)と車両グランド部(GND)との間に電圧を印加しかつその電圧を送信する情報に応じて変化させることで、車両グランド部(GND)の表面全体に発生する電界を変化させるように構成され、車両グランド部(GND)に対向配置された受信側対向導電部材(60T)を受信端末(60R)に設けると共に、その受信端末(60R)は、車両グランド部(GND)と受信側対向導電部材(60T)との間の電位差の変化に基づいて情報を受信するように構成されたところに特徴を有する。
【0009】
請求項5の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載のデータ通信システム(50R)において、送信端末(51R)及び受信端末(60R)は、車両(10)のうち金属壁(14W)で囲まれたエンジンルーム(14A)、乗客ルーム(14B)を含む複数のボックスルーム(14A,14B,14C)に分けて配置され、隣り合ったボックスルーム(14A,14B,14C)を区画する金属壁(14W)に連絡孔(14D)が貫通形成され、連絡孔(14D)に挿通されて、隣り合ったボックスルーム(14A,14B,14C)の間で無線信号を中継する無線中継端末(73)が設けられたところに特徴を有する。
【0010】
請求項6の発明は、請求項1乃至5の何れかに記載のデータ通信システム(50,50R)において、複数の送信端末(51,51R,70,70R)は、TSS方式で受信端末(60,60R,70,70R)に単位キャリア波列信号(D8)を送信するところに特徴を有する。
【0011】
請求項7の発明に係るデータ通信方法は、2値で構成された複数ビットかつシリアルのデジタル伝送データ(D1)を、複数の送信端末(51,51R,70,70R)と受信端末(60,60R,70,70R)との間で、キャリア波を用いて変復調して送受信するデータ通信方法において、送信端末(51,51R,70,70R)が、キャリア波を一定複数周期連ねてなる単位キャリア波(D7)を生成し、その単位キャリア波(D7)を送信端末(51,51R,70,70R)毎に異なる配列パターンに並べて、デジタル伝送データ(D1)の1ビットより短い単位キャリア波列信号(D8)を生成すると共に、その単位キャリア波列信号(D8)をデジタル伝送データ(D1)の2値が反転する度に送信し、受信端末(60,60R,70,70R)が、単位キャリア波列信号(D8)の受信タイミング毎に受信タイミング信号(D9)を生成しかつ、同一種類の単位キャリア波列信号(D8)の受信タイミング信号(D9)を集め、それら受信タイミング信号(D9)に応じて2値を反転させてデジタル伝送データ(D1)を復元するところに特徴を有する。
【0012】
請求項8の発明は、請求項7に記載のデータ通信方法において、送信端末(51,51R,70,70R)及び受信端末(60,60R,70,70R)を車両(10)に搭載し、単位キャリア波(D7)の長さを20[ns]未満とし、単位キャリア波(D7)同士の間隔を20[ns]以上にするところに特徴を有する。
【0013】
請求項9の発明は、請求項7又は8に記載のデータ通信方法において、送信端末(51R)及び受信端末(60R)を車両(10)に搭載し、車両(10)のうち、エンジン(12)、シャーシ(11)を含みかつタイヤ(15)によって大地(100)から絶縁された車両グランド部(GND)に対向配置される送信側対向導電部材(51T)を送信端末(51R)に設けておき、その送信端末(51R)にて、送信側対向導電部材(51T)と車両グランド部(GND)との間に印加する電圧を送信する情報に応じて変化させることで、車両グランド部(GND)の表面全体に発生する電界を変化させ、車両グランド部(GND)に対向配置された受信側対向導電部材(60T)を受信端末(60R)に設けておき、その受信端末(60R)にて、車両グランド部(GND)と受信側対向導電部材(60T)との間の電位差の変化に基づいて情報を受信するところに特徴を有する。
【0014】
請求項10の発明は、請求項7乃至9の何れかに記載の記載のデータ通信方法において、送信端末(51R)及び受信端末(60R)を、車両(10)のうち金属壁(14W)で囲まれたエンジンルーム(14A)、乗客ルーム(14B)を含む複数のボックスルーム(14A,14B,14C)に分けて配置し、隣り合ったボックスルーム(14A,14B,14C)を区画する金属壁(14W)に連絡孔(14D)を貫通形成してそこに無線中継端末(73)を挿通し、その無線中継器(73)にて隣り合ったボックスルーム(14A,14B,14C)の間で無線信号を中継するところに特徴を有する。
【0015】
請求項11の発明は、請求項7乃至10の何れかに記載のデータ通信方法において、複数の送信端末(51,51R,70,70R)からTSS方式で受信端末(60,60R,70,70R)に単位キャリア波列信号(D8)を送信するところに特徴を有する。
【0016】
請求項12の発明は、請求項7乃至11の何れかに記載のデータ通信方法において、送信端末(51,51R,70,70R)と受信端末(60,60R,70,70R)を車両(10)に搭載すると共に、車両(10)に備えた電源ライン(23)に単位キャリア波(D7)を伝搬させて送受信を行うところに特徴を有する。
【0017】
請求項13の発明は、請求項12に記載のデータ通信方法において、車両(10)に備えた直流電源回路(17)の正負の出力電極の一方を、エンジン(12)、シャーシ(11)その他の導電部材が互いに導通してなる車両グランド部(GND)に接続する一方、正負の出力電極の他方を電源ライン(23)に接続し、電源ライン(23)と車両グランド部(GND)との間に単位キャリア波(D7)を電圧信号として印加するところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0018】
[請求項1及び7の発明]
請求項1及び7の発明によれば、各送信端末(51,51R,70,70R)は、デジタル伝送データ(D1)の2値が反転するタイミングで、各送信端末(51,51R,70,70R)の識別情報を含んだ単位キャリア波列信号(D8)を送信する。このとき、複数の送信端末(51,51R,70,70R)が同時に送信を行うと、複数種類の単位キャリア波列信号(D8)が混在した状態になる。これに対し、受信端末(60,60R,70,70R)は、単位キャリア波列信号(D8)の受信タイミング毎に受信タイミング信号(D9)を生成しかつ、同一種類の単位キャリア波列信号(D8)の受信タイミング信号(D9)を集める。そして、集められた同一種類の受信タイミング信号(D9)に応じて2値を反転させてデジタル伝送データ(D1)を復元する。これにより、受信端末(60,60R,70,70R)は、複数の送信端末(51,51R,70,70R)が略同時に送信されたデジタル伝送データ(D1)を、送信端末(51,51R,70,70R)毎に区別して受信することができる。
【0019】
ここで、本発明では、送信端末(51,51R,70,70R)と受信端末(60,60R,70,70R)との間では、デジタル伝送データ(D1)が、単位キャリア波列信号(D8)の集合体に変換されて伝送されることになる。その単位キャリア波列信号(D8)は、デジタル伝送データ(D1)の1ビットより短い。また、その単位キャリア波列信号(D8)は、それよりさらに短い単位キャリア波(D7)を並べてなる。即ち、本発明では、デジタル伝送データ(D1)が、その送信データの1ビットに比べて極めて短い単位キャリア波(D7)に分解されて送信される。これにより、単位キャリア波(D7)が多重反射して第1次の反射波、第2次の反射波、・・が発生した場合に、正規の単位キャリア波(D7)と反射波とを容易に区別することができる。即ち、本発明によれば、多重反射による通信障害を防ぎ、良好にデータ通信を行うことが可能になる。
【0020】
なお、本発明では、受信端末(60,60R,70,70R)は、複数の送信端末(51,51R,70,70R)からのデジタル伝送データ(D1)に対してそれぞれ応答するものであってもよいし、複数の送信端末(51,51R,70,70R)のうち予め定めた所定の送信端末(51,51R,70,70R)からのデジタル伝送データ(D1)に対してのみ応答し、その他の送信端末(51,51R,70,70R)からのデジタル伝送データ(D1)を無視(破棄)する構成にしてもよい。
【0021】
[請求項2の発明]
請求項2の構成によれば、受信端末(60,60R,70,70R)において、識別パルス列(D3)に含まれる端末識別コード(D4)をデジタルデータとして取り出すことができる。そして、同一種類の単位キャリア波列信号(D8)毎に受信タイミング信号(D9)を集める際に、デジタルデータの端末識別コード(D4)同士を比較すればよいので、そのデータの比較処理が容易になる。
【0022】
[請求項3及び8の発明]
本願発明者が鋭意研究した結果、車両(10)内の伝送路に単位キャリア波(D7)を伝搬させた場合に、単位キャリア波(D7)は、20[ns]の間隔をあければ、反射波は正規の単位キャリア波(D7)と明確に区別できるレベルに減衰することが分かった。これに対し、請求項3及び8の発明によれば、単位キャリア波(D7)の長さを20[ns]未満とし、単位キャリア波(D7)同士の間隔を20[ns]以上にすることで、車内で良好なデータ通信を行うことができるようになる。
【0023】
[請求項4及び9の発明]
請求項4及び9の発明によれば、送信端末(51R)に備えた送信側対向導電部材(51T)と受信端末(60R)に備えた受信側対向導電部材(60T)とが車両グランド部(GND)に対して対向配置される。そして、送信端末(51R)が、送信側対向導電部材(51T)と車両グランド部(GND)との間に電圧を印加しかつその電圧を送信する情報に応じて変化させる。これにより、車両グランド部(GND)の表面全体に発生した電界が変化し、受信側対向導電部材(60T)と車両グランド部(GND)との間に発生する電位差も変化する。その電位差の変化に基づいて受信端末(60R)が電界から情報を取得する。
【0024】
このように、本発明のデータ通信システム(50R)は、電波ではなく、車両グランド部(GND)を伝送路として利用してその車両グランド部(GND)における離れた2位置の送信端末(51R)及び受信端末(60R)の間でデータ通信を行うものなので、電波障害を抑えることができかつ消費電力が低減し、さらに空中への電波の輻射を要しないので従来より低い周波数でデータ通信が可能になる。
【0025】
[請求項5及び10の発明]
請求項5及び請求項10の発明によれば、車両(10)のうち金属壁(14W)で囲まれた複数のボックスルーム(14A,14B,14C)の間で無線中継器(73)が無線信号を中継するので、複数のボックスルーム(14A,14B,14C)に分けて送信端末(51R)及び受信端末(60R)を配置してもそれら送信端末(51R)と受信端末(60R)との間で通信を行うことができる。
【0026】
[請求項6及び11の発明]
請求項6及び11の発明によれば、複数の送信端末(51,51R,70,70R)からTSS方式で受信端末(60,,60R,70,70R)に単位キャリア波列信号(D8)を送信するので、単位キャリア波列信号(D8)同士の干渉を確実に防ぐことができる。
【0027】
[請求項12及び13の発明]
請求項12の発明によれば、車両(10)に備えた電源ライン(23)にデジタル伝送データ(D1)を伝搬させて送受信を行うので、別途、通信ラインを設けた場合に比べて省スペース化が図られる。この場合、請求項13の発明のように、車両(10)に備えた直流電源回路(17)の正負の出力電極の一方を車両グランド部(GND)に接続する一方、正負の出力電極の他方を電源ライン(23)に接続すれば、直流電源回路(17)の正負1対の出力電極に正負1対の電源ライン(23)を接続する場合に比べて、より一層の省スペース化が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
[第1実施形態]
以下、車両に搭載された本発明のデータ通信システムに係る一実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。図1に示した本実施形態の車両10は、例えば、シャーシ11、エンジン12、車軸13、車両筐体ボディ14等の導電部品が導通して車両グランド部GNDを構成している。そして、タイヤ15によって車両グランド部GNDが大地100から絶縁されている。
【0029】
車両グランド部GNDには、車両10に備えた直流電源回路17の正負の出力電極のうち負側の出力電極が接続されている。また、直流電源回路17の正側の出力電極は、電源ライン23に接続されている。その直流電源回路17の1対の入力電極には、バッテリー16の正負の両極が接続され、そのバッテリー16の負極は車両グランド部GNDにも接続されている。そして、直流電源回路17が、バッテリー16の出力を所定の電圧に変圧して電源ライン23と車両グランド部GNDとの間に出力している
【0030】
電源ライン23と車両グランド部GNDとの間には、ワイパーモータ30、ヘッドライト31、ドアロック32等を作動させるための各駆動回路30A,31A,32Aが並列接続されている。そして、メインコントローラ27に備えた操作スイッチの操作、或いは、車両10に備えた雨滴センサ34、光度センサ35、車速センサ36等の検出結果に応じてメインコントローラ27から各駆動回路30A,31A,32Aに制御信号が出力され、ワイパーモータ30、ヘッドライト31、ドアロック32等が駆動される。このような信号の送受信を行うために各センサ34,35,36等の信号処理回路34A,35A,36Aには送信端末51が備えられ、各駆動回路30A,31A,32Aには受信端末60が備えられ、さらに、メインコントローラ27には送受信端末70が備えられている。そして、これら送信端末51と受信端末60と送受信端末70とから本発明に係るデータ通信システム50が構成されている。
【0031】
図2に示すように、送信端末51は、CPU52と反転検出部53と識別パルス生成部54とAM変調部56とを備えている。なお、本実施形態では、識別パルス生成部54とAM変調部56とによって本発明に係る「端末識別情報付加部」が構成されている。反転検出部53が、本発明に係る「送信タイミング決定部」に相当する。
【0032】
CPU52は、図5(A)に示すように、「1」と「0」の2値で構成された複数ビットかつシリアルのデジタル伝送データD1に制御情報等を含めて出力する。ここで、デジタル伝送データD1の1ビット長は略100[μs]になっている。
【0033】
図2に示された送信端末51の反転検出部53は、CPU52が出力したデジタル伝送データD1のうち「1」と「0」とが反転するタイミング(即ち、デジタル伝送データD1のエッジ部分)を検出して図5(B)に示した反転タイミング信号D2を出力する。
【0034】
図2に示した識別パルス生成部54は、図5(B)に示した反転タイミング信号D2をトリガーにして図5(D)に示した識別パルス列D3を出力する。ここで、各送信端末51には、それぞれ端末同士を区別するための端末識別コードがメモリ52M(図2参照)に記憶されている。そして、CPU52が端末識別コードを例えば図5(C)に示すように、10ビットシリアルのIDデータD4にして識別パルス生成部54に付与する。このときのIDデータD4の1ビット長は、例えば、20[ns]であり、全長が略200[ns]になっている。このIDデータD4を受け取った識別パルス生成部54は、IDデータD4のうち「1」と「0」とが反転するタイミング(即ち、エッジ部分)で、パルス幅が例えば6[ns]の検出パルスD5を発生させて、IDデータD4の全体に対応した複数の検出パルスD5から前記した識別パルス列D3(図5(D)参照)を生成する。
【0035】
なお、識別パルス列D3は、図2に示したローパスフィルタ54Fで、例えば、150[MHz]に帯域制限され、この結果、識別パルス列D3を構成する各検出パルスD5のパルス幅は6[ns]になる。
【0036】
AM変調部56は、ローパスフィルタ54Fを通過した識別パルス列D3を取得し、発振回路56Aが出力する所定の周波数(例えば、520〜680[MHz])のキャリア波を用いて識別パルス列D3をAM変調する。これにより、図5(E)に示すように、キャリア波を、検出パルスD5のパルス幅に相当する6[ns]に区切った単位キャリア波D7が複数生成されて並び、単位キャリア波列信号D8になる。そして、単位キャリア波列信号D8が、バッファ回路57と出力回路58を通して電源ライン23と車両グランド部GNDとの間に電圧信号として出力される。
【0037】
また、本実施形態のデータ通信システム50では、各端末51,60,70を同期させてTSS方式で複数の送信端末51が単位キャリア波列信号D8を送信するようになっている。詳細には、図6(A)と図6(C)と図6(E)とに対比して示すように、複数の送信端末51のCPU52は、所定時間(200[ns])以上、出力タイミングをずらしてデジタル伝送データD1を出力する。従って、第1〜第3の送信端末51が出力した各デジタル伝送データD1a〜D1cの2値反転部(エッジ部)も互いにずれる。この結果、図6(B)と図6(D)と図6(F)とに対比して示すように、第1〜第3の各送信端末51の単位キャリア波列信号D8a〜D8cが互いにずれて出力され、図6(G)に示すように、第1〜第3の送信端末51が単位キャリア波列信号D8a〜D8cを同時に出力しても、単位キャリア波列信号D8a〜D8c同士が重なることを確実に防ぐことができる。
【0038】
なお、本実施形態の送信端末51では、CPU52から出力された1ビット長、略100[μs]のデジタル伝送データD1が、200[ns]のデータ長の単位キャリア波列信号D8の集合体になり、それら各単位キャリア波列信号D8は100μsの整数倍のタイミングで送信出力されるので、デジタル伝送データD1の全データ長に対する単位キャリア波列信号D8の時間占有率を1/500に低下させることができる。これにより、前記したTSS方式を採用しなくても、例えば50対の送信端末と受信端末が同時に通信をする場合、電源ライン23を監視しながら(CD:carrier Detection)、ある端末識別コードの単位キャリア波列信号D8を検知してから、しばらく経過した後に、自身の端末識別コードの単位キャリア波列信号D8の宣言を行うことによっても複数の送信端末51からの送信データの干渉を避けることができる。
【0039】
図3には、受信端末60の構成が示されている。受信端末60は、AM復調部63、識別コード解読部64、コード分別部65、タイミング信号生成部66、デコーダ67及びCPU68を備えている。なお、本実施形態では、識別コード解読部64とコード分別部65とタイミング信号生成部66とによって本発明に係る「受信タイミング分別部」が構成されている。
【0040】
受信端末60は、電源ライン23に伝搬する単位キャリア波列信号D8を、受信回路61のトランスで整合し、バンドパスフィルタ61Fで帯域制限した後、増幅器62で増幅させてAM復調部63に取り込む。そして、AM復調部63は、取り込んだ単位キャリア波列信号D8に含まれるAM変調の周波数(520〜680[MHz])の単位キャリア波D7の位相を検出し、その位相を基準として単位キャリア波列信号D8をAM復調して識別パルス列D3を生成する。
【0041】
ここで、AM復調部63は、振幅レベル及びデータ長がそれぞれ所定の基準時以上である場合に、正規の単位キャリア波D7としてAM復調し、それ以外は、反射波又はノイズとして破棄する。なお、予め決められた所定の送信端末51と所定の受信端末60との間で単位キャリア波D7の同期を採る構成としておき、正しく同期した場合の単位キャリア波D7の位相と、実際に検出された単位キャリア波D7の位相との比較を行い、それらが所定の基準値より大きくはずれた場合には、データを破棄するようにしてもよい。
【0042】
識別コード解読部64は、識別パルス列D3に含まれる識別コードを解読する。ここで、受信端末60が、予め決められた1つの送信端末51からの信号のみを処理する設定とした場合には、そのような受信端末60の識別コード解読部64は、識別コードが、自身の受信端末60向けの情報であり、且つ、正規のタイムインターバル(前記した識別コードのIDデータD4が例えば70kbpsであれば、タイムインターバルは14.2857μs)であることを確認する。そして、これら条件を満足した場合に、受信データをコード分別部65に付与し、そうでない場合には、データを破棄する。一方、受信端末60が、複数の送信端末51からの信号を処理する設定とした場合には、そのような受信端末60の識別コード解読部64は、複数種類の識別コードの受信データを全てコード分別部65に付与する。
【0043】
コード分別部65では、同じ識別コード毎に識別パルス列D3を集めて、同一種類の識別パルス列D3が並んだパルス列集合体を生成する。そして、タイミング信号生成部66が、パルス列集合体に含まれる全ての識別パルス列D3における例えば先頭位置に対応させて受信タイミング信号D9(図3参照)を生成する。この受信タイミング信号D9は、図5(B)に示した反転タイミング信号D2と同じになる。そして、デジタルデータ復元部67が、それら受信タイミング信号D9毎に、「1」と「0」の2値を反転させてデジタル伝送データD1(図5(A)参照)を復元する。
【0044】
このように復元したデジタル伝送データD1を識別コード解読部64で解読した端末識別コードと共にCPU68に取り込む。これにより、受信端末60のCPU68が、何れの送信端末51又は送受信端末70からのデジタル伝送データD1であるかの端末識別情報と共に制御情報を取得して、それに対する応答等の処理を行うことができる。
【0045】
送受信端末70は、図4に示すように、上記した送信端末51と同構造の送信処理回路51Xと、上記した受信端末60と同一構造の受信処理回路60Xとを備え、それら送信処理回路51Xと受信処理回路60Xとの間でCPU71を兼用した構造になっている。
【0046】
本実施形態の構成に関する説明は以上である。次に、本実施形態の作用効果について説明する。車両10を走行させると車速センサ36が車速を常時検出し、その検出結果が図示しないスピードメータに表示される。また、ヘッドライト31を自動点灯に設定しておくと、光度センサ35により回りが暗くなったことを検出したときにヘッドライト31が自動的に点灯する。これらの場合、車速センサ36及び光度センサ35の検出結果が、各信号処理回路36A,35Aから送信される。
【0047】
詳細には、車速センサ36に係る送信端末51のCPU52が、車速情報を含んだデジタル伝送データD1を出力し、そのデジタル伝送データD1を構成する2値が反転するタイミングで、その送信端末51の識別コードを含んだ単位キャリア波列信号D8を送信端末51から電源ライン23に出力する。また、光度センサ35に係る送信端末51のCPU52は、光度情報を含んだデジタル伝送データD1を出力し、そのデジタル伝送データD1を構成する2値が反転するタイミングで、その送信端末51の識別コードを含んだ単位キャリア波列信号D8を送信端末51から電源ライン23に出力する。その他の送信端末51(送信端末51として機能する送受信端末70も含む)も必要な情報を含んだ単位キャリア波列信号D8を随時電源ライン23に出力する。
【0048】
また、受信端末60(受信端末60として機能する送受信端末70も含む)は、電源ライン23に伝送される信号を常時取り込んでいる。ここで、複数の送信端末51が同時に送信を行うと、図6(G)に示すように、複数種類の単位キャリア波列信号D8a,D8b,D8c、・・・・が混在した状態になる。これに対し、各受信端末60は、単位キャリア波列信号D8を受信してから、同一種類の単位キャリア波列信号D8毎に受信タイミングを決め(即ち、同一種類の単位キャリア波列信号D8毎に前記した受信タイミング信号D9を集め)、それら受信タイミングに応じて2値を反転させて各送信端末51のデジタル伝送データD1を復元する。これにより、受信端末60が、複数の各送信端末51からの情報を区別して処理することができる。
【0049】
そして、受信端末60として機能したメインコントローラ27の送受信端末70は、光度センサ35からのデジタル伝送データD1と車速センサ36からのデジタル伝送データD1とを例えば同時に受信し、メインコントローラ27が図示しないスピードメータに車速を表示すると共に、ヘッドライト31の点灯指令を出力する。すると、点灯指令情報を含んだデジタル伝送データD1が単位キャリア波列信号D8に変換されて送信出力され、これをヘッドライト31の駆動回路31Aに備えた受信端末60が受信する。そして、駆動回路31Aの図示しないスイッチをオンしてヘッドライト31が点灯される。
【0050】
このように本実施形態のデータ通信システム50によれば、受信端末60と複数の送信端末51との間で同時にデータ通信を行うことができる。ここで、受信端末60と送信端末51との伝送路(電源ライン23)上では、デジタル伝送データD1は、単位キャリア波列信号D8の集合体で構成されることになる。その単位キャリア波列信号D8はデジタル伝送データD1の1ビットより短い。そして、その単位キャリア波列信号D8は、それよりさらに短い単位キャリア波D7を並べてなる。即ち、本実施形態のデータ通信システム50では、デジタル伝送データD1が、その送信データの1ビットに比べて極めて短い単位キャリア波D7に分解されて送信される。これにより、単位キャリア波D7が多重反射して第1次の反射波、第2次の反射波、・・が発生した場合に、正規の単位キャリア波D7と反射波とを容易に区別することができる。そして、後述する実施例でも確認できるように、本実施形態では、単位キャリア波D7の幅を20[ns]以下とし、単位キャリア波D7同士の間隔を20[ns]以上にしたので、正規の単位キャリア波D7と反射波とを明確に区別できるようになる。これにより、本実施形態のデータ通信システム50では、多重反射による通信障害を防ぎ、良好にデータ通信を行うことが可能になる。
【0051】
また、本実施形態では、インパルス信号とも言える6[ns]の検出パルスD5を、さらにAM変調している。ここで、検出パルスD5を単発のインパルス信号として電源ライン23に出力することも考えられる。しかしながら、6[ns]の単発のインパルス信号に含まれる周波数成分は、DC〜150[MHz]にも及び、シャーシ11の不連続性に起因する多重反射による周波数ディップが避けられない。また、DC〜150[MHz]の比較的低周波数領域では、伝搬損失が劣化し難く、反射波も強力に戻ってきて、正規の送信波に足し合わされることになる。これらに対し、本実施形態では、インパルス信号とも言える6[ns]の検出パルスD5を、例えば520〜680[MHz]でAM変調することで、早いタイミングで反射波の減衰を促すことができる。これにより多重反射による周波数ディップが軽減される効果と相まって、車両グランド部GNDを伝送路として使うことができる。そして、本実施形態のように電源ライン23及び車両グランド部GNDを伝送路として利用すれば、別途、通信ラインを設けた場合に比べて省スペース化が図られる。なお、実験した結果、一般車両の場合には、520〜680[MHz]で良好にデータ通信を行うことができることを確認することができた。
【0052】
ところで、車体10の電源ライン23や制御配線を含むメタルワイヤー、及び、車両筐体ボディ14には妨害インパルスが存在する。それは、モータやイグニッションシステムやソレノイド、リレー等の大電流のオンオフの繰り返しによってもたらされるもので、ほとんどは、0.5〜数μsの幅を持つリンギングインパルスであり、繰り返し周波数は数十〜数百μs(あるいは単にワンインパルス)と長い。しかしながら、車両10の電源ライン23に乗る妨害インパルスは、広い周波数帯域に分布している。このことは、車体通信を使った伝送システムの場合、如何なる周波数帯域を使おうと、周波数フィルタリング機能では通信エラーを避けることは出来ないことを意味する。そして、従来では、伝送エラーを避けるためには、妨害インパルスが含む最低周波数よりも更に低い周波数レートで伝送するしかないと考えられており、そのためには、データの伝送速度を1[kbps]以下にしなくてはならないボトルネックがあった。
【0053】
これに対し、本実施形態のデータ通信システム50によれば、複数の単位キャリア波D7を所定の配列パターンで並べて単位キャリア波列信号D8としたので、妨害インパルスによる波形と、単位キャリア波列信号D8の波形とを容易に区別することができ、伝送エラーを最小にすることができる。また、妨害インパルスと単位キャリア波列信号D8とは非同期に発生するので、単位キャリア波列信号D8同士の位相を同期させること、及び、単位キャリア波D7の変調のキャリア周期の位相を同期させることによって、容易に妨害インパルスとが識別可能になる。
【0054】
なお、本実施形態の送信端末51と受信端末60との間で、例えば、双方向プロトコルによってマスターとスレーブがハンドシェイクしながら伝送を確立すれば、妨害インパルスの影響をさらに低減することができる。
【0055】
[第2実施形態]
本実施形態のデータ送信システム50Rは、図7〜図10に示されており、前記第1実施形態とは、単位キャリア波列信号D8の伝送原理が異なる。即ち、本実施形態では、各送信端末51Rが車両グランド部GNDの表面近傍に単位キャリア波列信号D8に応じて変化する電界を発生させ、受信端末60Rがその電界の変化に基づいて単位キャリア波列信号D8を受信する構成になっている。
【0056】
以下、第1実施形態と同じ構成に関しては、同一部位に同一符号を付して重複した説明は省略し、第1実施形態と異なる構成に関してのみ説明する。
【0057】
図7に示すように、本実施形態の各送信端末51Rには、それぞれ対向電極板51T(本発明に係る「送信側対向導電部材」に相当する)が備えられ、その対向電極板51Tは、図8に示すように、送信端末51Rのうちバッファ回路57の出力部にローパスフィルター57Fを介して接続されている。そして、対向電極板51Tは、車両グランド部GNDに対して絶縁状態に対向配置され、送信端末51Rが作動すると、対向電極板51Tと車両グランド部GNDとの間に、単位キャリア波列信号D8の振幅に応じた電圧が印加される。
【0058】
図7に示すように、各受信端末60Rにも対向電極板60T(本発明に係る「受信側対向導電部材」に相当する)が備えられている。その対向電極板60Tは、図9に示すように、受信端末60Rのうち増幅器62の入力部にハイインピーダンスフィルター80を介して接続されている。そして、対向電極板60Tも、車両グランド部GNDに対して絶縁状態に対向配置されている。
【0059】
ハイインピーダンスフィルター80は、図10に示されており、電圧フォロア回路81を入力側に備えている。この電圧フォロア回路81は、接合型FET82(以下、単にFET82という)のソースフォロア回路であって、FET82のソースに車両グランド部GNDが接続されると共に、FET82のゲートに対向電極板60Tが接続されている。即ち、電圧フォロア回路81に対向電極板60Tと車両グランド部GNDとの間の電位差が入力されている。この電圧フォロア回路81を設けたことで、受信端末60Rの入力インピーダンスが高くなり、対向電極板60Tと車両グランド部GNDとの間に電位差が発生しても、それらの間に流れ得る電流は極めて小さくなる。これにより、電界によって発生した電位差を低減することなく、電界から情報を取得することができる。また、電圧フォロア回路81の出力は、図9に示すように、増幅器62を介してAM復調部63に取り込まれている。
【0060】
なお、送受信端末70Rは、送信端末51Rに相当する送信回路と受信端末60Rに相当する受信回路とを併せ持った構造になっている。
【0061】
このように、本実施形態の構成によれば、送信端末51Rが単位キャリア波列信号D8の振幅に応じた電圧を車両グランド部GNDと対向電極板51Tの間に印加することで、車両グランド部GND全体の周囲に電界が発生する。そして、受信端末60Rがその電界の変化に基づいて単位キャリア波列信号D8を受信することができる。このように本実施形態では、車両グランド部GND全体の周囲に発生した電界を利用して通信を行うので、空中伝搬する電波を用いるものに比べて、低電流でデータ通信が可能になり、消費電力を低減させることができる。また、通信可能な範囲が、車両グランド部GNDの周囲内壁側に限定されるので、電磁波シールドを設けずに電波障害の発生を防ぐことができる。さらに、車両10が有する車両グランド部GNDを利用するので、新たに通信ケーブルを設ける必要がなく、設置も容易である。
【0062】
[第3実施形態]
本実施形態のデータ送信システム50Rは、図11及び図12に示されており、前記第2実施形態を車両10の構造に応じて改良したものである。
【0063】
本実施形態の車両10の車両筐体ボディ14は、図11に示すように、エンジンルーム14Aと乗客ルーム14Bとトランクルーム14Cとの3つの部屋に金属壁14Wにて区画されている。特に、エンジンルーム14Aとトランクルーム14Cは、全体が金属壁14Wにて覆われ、内部がシールドされた状態になっている。このため、エンジンルーム14A及びトランクルーム14C内には、乗客ルーム14B内で発生させた電界信号が伝達され難くなっている。そこで、本実施形態では、エンジンルーム14Aと乗客ルーム14Bとの間と、乗客ルーム14Bとトランクルーム14Cとの間とにそれぞれ電界中継装置73(本発明に係る「無線中継器」に相当する)を設けることで車両筐体ボディ14内の何れの2位置間でも電界を用いてデータ通信を行えるようになっている。
【0064】
具体的には、図12に示すように、電界中継装置73は、1対の中継端末72,72を中継ケーブル73Cで接続してなる。各中継端末72は、第2実施形態で説明した送信端末51R及び受信端末60Rと同一の構造を有する送信処理回路51Y及び受信処理回路60Yとを有している。そして、中継ケーブル73Cが、一方の中継端末72の送信処理回路51Yと他方の中継端末72の受信処理回路60Yとを接続すると共に、他方の中継端末72の送信処理回路51Yと一方の中継端末72の受信処理回路60Yとを接続している。これにより、一方の中継端末72の受信処理回路60Yが受信した電界信号を、他方の中継端末72の送信処理回路51Yから送信することができかつ、他方の中継端末72の受信処理回路60Yが受信した電界信号を、一方の中継端末72の送信処理回路51Yから送信することができるようになっている。
【0065】
そして、図11に示すように、一方の電界中継装置73を構成する1対の中継端末72,72が、エンジンルーム14A内と乗客ルーム14B内とに分けて配置され、それらエンジンルーム14Aと乗客ルーム14Bとを区画する金属壁14Wに形成された連絡孔14Dに電界中継装置73が挿通されている。これと同様に、他方の電界中継装置73を構成する1対の中継端末72,72が乗客ルーム14B内とトランクルーム14C内とに分けて配置され、金属壁14Wに形成された連絡孔14Dに電界中継装置73が挿通されている。これにより、エンジンルーム14Aと乗客ルーム14Bとトランクルーム14Cの何れのルーム間でも、送信端末51Rと受信端末60Rと送受信端末70Rの間で電界信号を用いてデータ通信を行うことができる。
【0066】
[実施例1]
前記第1実施形態の送信端末51を実際に作製し、前記第1実施形態におけるIDデータD4として、1ビット長が20[ns]のデジタルシリアルデータ「0011110000」を生成した。そして、そのIDデータD4の「0」と「1」とが2箇所の反転するタイミングで幅6[ns]の前記第1実施形態における検出パルスD5を発生させて、2つの検出パルスD5からなるパルス列を前記第1実施形態の識別パルス列D3として生成した。そして、その識別パルス列D3を、550[MHz]でAM変調して2つの単位キャリア波D7からなる単位キャリア波列信号D8を生成し、送信端末51の出力部分で単位キャリア波列信号D8の波形を実測した。その実測結果が、図13に示されている。
【0067】
そして、この単位キャリア波列信号D8を、実際の車両(乗用車)の電源ラインと車両グランド部との間に電圧信号として印加し、そこから離れた位置で、電源ラインと車両グランド部との間の電圧波形を実測した。その実測結果が図14に示されている。
【0068】
ここで、上記した「0011110000」のIDデータD4は、1ビット長が20[ns]であるから、エッジ部の間隔は80[ns]になり、それが図13において単位キャリア波列信号D8を構成する1対の単位キャリア波D7,D7の80[ns]の間隔として現れている。また、単位キャリア波D7の幅は、図13からも6[ns]程度になっている。これと図14の波形を照らし合わせると、正規の単位キャリア波D7,D7が最も大きな波形(図14におけるW1,W1)として現れ、その隣に時間をずらして第1の反射波W2、第2の反射波W3が現れていることがわかる。また、全体に亘ってノイズ波W4が乗っていることも分かる。そして、単位キャリア波D7,D7は、反射波W2,W3及びノイズ波W4から容易に区別可能であることが分かる。
【0069】
また、この実施形態のように550[MHz]の単位キャリア波D7では、図14からも分かるように、20[ns]以上のタイムインターバルがあれば、その後の反射波は振幅レベルが充分劣化することがわかる(すなわち、往復を考えると約3〜4[m])。従って、一般的な車両10のサイズでは、50[Mbps]相当の識別コードを送れることになる。
【0070】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0071】
(1)前記第1実施形態では、送信端末51が、識別パルス列D3を生成してから、その識別パルス列D3をAM変調して単位キャリア波列信号D8を生成していたが、図15に示すように、各送信端末51に固有の単位キャリア波列信号D8を出力する識別波出力回路を設けておき、デジタル伝送データD1の2値の反転タイミングで識別波出力回路を駆動して、単位キャリア波列信号D8を出力するように構成してもよい。
【0072】
(2)前記第1〜第3の各実施形態に係るデータ通信システム50,50Rは、車両10に搭載されていたが、本発明に係るデータ通信システムは、車両以外のものに設置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1実施形態に係るデータ通信システムを搭載した車両の概念図
【図2】送信端末の構成を示した概念図
【図3】受信端末の構成を示した概念図
【図4】送受信端末の構成を示した概念図
【図5】デジタル伝送データ等の構造を示したタイムチャート
【図6】複数のデータが送信された場合のタイムチャート
【図7】第2実施形態に係るデータ通信システムを搭載した車両の概念図
【図8】送信端末の構成を示した概念図
【図9】受信端末の構成を示した概念図
【図10】ハイインピーダンスフィルターの回路図
【図11】第3実施形態の車両の概念図
【図12】電界中継装置の概念図
【図13】実施例1で実測した送信端末の送信波形
【図14】その受信波形
【図15】変形例のデジタル伝送データ等の構造を示したタイムチャート
【符号の説明】
【0074】
10 車体
11 シャーシ
12 エンジン
13 車軸
14 車両筐体ボディ
17 直流電源回路
23 電源ライン
50,50R データ送信システム
51,51R 送信端末
53 反転検出部
54 識別パルス生成部
56 AM変調部
60,60R 受信端末
60T 対向電極板
60X,60Y 受信処理回路
63 AM復調部
64 識別コード解読部
65 コード分別部
66 タイミング信号生成部
67 デジタルデータ復元部
70,70R 送受信端末
72 中継端末
73 電界中継装置
73C 中継ケーブル
80 ハイインピーダンスフィルター
D1,D1a〜D1c デジタル伝送データ
D2 反転タイミング信号
D3 識別パルス列
D4 IDデータ(端末識別コード)
D7 単位キャリア波
D8,D8a〜D8c 単位キャリア波列信号
GND 車両グランド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2値で構成された複数ビットかつシリアルのデジタル伝送データ(D1)を、複数の送信端末(51,51R,70,70R)と受信端末(60,60R,70,70R)との間で、キャリア波を用いて変復調して送受信するデータ通信システム(50,50R)において、
前記送信端末(51,51R,70,70R)には、
前記キャリア波を一定複数周期連ねてなる単位キャリア波(D7)を生成し、その単位キャリア波(D7)を前記送信端末(51,51R,70,70R)毎に異なる配列パターンに並べて、前記デジタル伝送データ(D1)の1ビットより短い単位キャリア波列信号(D8)を生成する端末識別情報付加部(54,56)と、
前記デジタル伝送データ(D1)の2値が反転するタイミングを検出し、それら2値が反転する度に、前記端末識別情報付加部(54,56)に前記単位キャリア波列信号(D8)を送信させる送信タイミング決定部(53)とが備えられ、
前記受信端末(60,60R,70,70R)には、
前記単位キャリア波列信号(D8)の受信タイミング毎に受信タイミング信号(D9)を生成しかつ、同一種類の前記単位キャリア波列信号(D8)の前記受信タイミング信号(D9)を集める受信タイミング分別部(63〜66)と、
集められた同一種類の前記受信タイミング信号(D9)に応じて2値を反転させて前記デジタル伝送データ(D1)を復元するデジタルデータ復元部(67)とが備えられたことを特徴とするデータ通信システム(50,50R)。
【請求項2】
前記端末識別情報付加部(54,56)には、予め設定された端末識別コード(D4)に応じてパルスを配列して識別パルス列(D3)を生成する識別パルス生成部(54)と、その識別パルス列(D3)を前記単位キャリア波列信号(D8)にAM変調するAM変調部(56)とが備えられ、
前記受信タイミング分別部(63〜66)には、前記単位キャリア波列信号(D8)を前記識別パルス列(D3)にAM復調するAM復調部(63)が備えられたことを特徴とする請求項1に記載のデータ通信システム(50,50R)。
【請求項3】
前記送信端末(51,51R,70,70R)及び前記受信端末(60,60R,70,70R)は、車両(10)に搭載され、
前記端末識別情報付加部(54,56)は、前記単位キャリア波(D7)の長さを20[ns]未満とし、前記単位キャリア波(D7)同士の間隔を20[ns]以上にすることを特徴とする請求項1又は2に記載のデータ通信システム(50,50R)。
【請求項4】
前記送信端末(51R)及び前記受信端末(60R)は、車両(10)に搭載され、
前記車両(10)のうち、エンジン(12)、シャーシ(11)を含みかつタイヤ(15)によって大地(100)から絶縁された車両グランド部(GND)に対向配置された送信側対向導電部材(51T)を前記送信端末(51R)に設けると共に、その送信端末(51R)は、前記送信側対向導電部材(51T)と前記車両グランド部(GND)との間に電圧を印加しかつその電圧を送信する情報に応じて変化させることで、前記車両グランド部(GND)の表面全体に発生する電界を変化させるように構成され、
前記車両グランド部(GND)に対向配置された受信側対向導電部材(60T)を前記受信端末(60R)に設けると共に、その受信端末(60R)は、前記車両グランド部(GND)と前記受信側対向導電部材(60T)との間の電位差の変化に基づいて前記情報を受信するように構成されたことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のデータ通信システム(50R)。
【請求項5】
前記送信端末(51R)及び前記受信端末(60R)は、車両(10)のうち金属壁(14W)で囲まれたエンジンルーム(14A)、乗客ルーム(14B)を含む複数のボックスルーム(14A,14B,14C)に分けて配置され、
前記隣り合ったボックスルーム(14A,14B,14C)を区画する金属壁(14W)に連絡孔(14D)が貫通形成され、
前記連絡孔(14D)に挿通されて、隣り合った前記ボックスルーム(14A,14B,14C)の間で無線信号を中継する無線中継端末(73)が設けられたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のデータ通信システム(50R)。
【請求項6】
前記複数の送信端末(51,51R,70,70R)は、TSS方式で前記受信端末(60,60R,70,70R)に前記単位キャリア波列信号(D8)を送信することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のデータ通信システム(50,50R)。
【請求項7】
2値で構成された複数ビットかつシリアルのデジタル伝送データ(D1)を、複数の送信端末(51,51R,70,70R)と受信端末(60,60R,70,70R)との間で、キャリア波を用いて変復調して送受信するデータ通信方法において、
前記送信端末(51,51R,70,70R)が、前記キャリア波を一定複数周期連ねてなる単位キャリア波(D7)を生成し、その単位キャリア波(D7)を前記送信端末(51,51R,70,70R)毎に異なる配列パターンに並べて、前記デジタル伝送データ(D1)の1ビットより短い単位キャリア波列信号(D8)を生成すると共に、その単位キャリア波列信号(D8)を前記デジタル伝送データ(D1)の2値が反転する度に送信し、
前記受信端末(60,60R,70,70R)が、前記単位キャリア波列信号(D8)の受信タイミング毎に受信タイミング信号(D9)を生成しかつ、同一種類の前記単位キャリア波列信号(D8)の受信タイミング信号(D9)を集め、それら受信タイミング信号(D9)に応じて2値を反転させて前記デジタル伝送データ(D1)を復元することを特徴とするデータ通信方法。
【請求項8】
前記送信端末(51,51R,70,70R)及び前記受信端末(60,60R,70,70R)を車両(10)に搭載し、前記単位キャリア波(D7)の長さを20[ns]未満とし、前記単位キャリア波(D7)同士の間隔を20[ns]以上にすることを特徴とする請求項7に記載のデータ通信方法。
【請求項9】
前記送信端末(51R)及び前記受信端末(60R)を車両(10)に搭載し、
前記車両(10)のうち、エンジン(12)、シャーシ(11)を含みかつタイヤ(15)によって前記大地(100)から絶縁された車両グランド部(GND)に対向配置される送信側対向導電部材(51T)を前記送信端末(51R)に設けておき、その送信端末(51R)にて、前記送信側対向導電部材(51T)と前記車両グランド部(GND)との間に印加する電圧を送信する情報に応じて変化させることで、前記車両グランド部(GND)の表面全体に発生する電界を変化させ、
前記車両グランド部(GND)に対向配置された受信側対向導電部材(60T)を前記受信端末(60R)に設けておき、その受信端末(60R)にて、前記車両グランド部(GND)と前記受信側対向導電部材(60T)との間の電位差の変化に基づいて前記情報を受信することを特徴とする請求項7又は8に記載のデータ通信方法。
【請求項10】
前記送信端末(51R)及び前記受信端末(60R)を、車両(10)のうち金属壁(14W)で囲まれたエンジンルーム(14A)、乗客ルーム(14B)を含む複数のボックスルーム(14A,14B,14C)に分けて配置し、
前記隣り合ったボックスルーム(14A,14B,14C)を区画する金属壁(14W)に連絡孔(14D)を貫通形成してそこに無線中継端末(73)を挿通し、その無線中継器(73)にて隣り合った前記ボックスルーム(14A,14B,14C)の間で無線信号を中継することを特徴とする請求項7乃至9の何れかに記載の記載のデータ通信方法。
【請求項11】
前記複数の送信端末(51,51R,70,70R)からTSS方式で前記受信端末(60,60R,70,70R)に前記単位キャリア波列信号(D8)を送信することを特徴とする請求項7乃至10の何れかに記載のデータ通信方法。
【請求項12】
前記送信端末(51,51R,70,70R)と前記受信端末(60,60R,70,70R)を車両(10)に搭載すると共に、前記車両(10)に備えた電源ライン(23)に前記単位キャリア波(D7)を伝搬させて送受信を行うことを特徴とする請求項7乃至11の何れかに記載のデータ通信方法。
【請求項13】
前記車両(10)に備えた直流電源回路(17)の正負の出力電極の一方を、エンジン(12)、シャーシ(11)その他の導電部材が互いに導通してなる車両グランド部(GND)に接続する一方、前記正負の出力電極の他方を前記電源ライン(23)に接続し、前記電源ライン(23)と前記車両グランド部(GND)との間に前記単位キャリア波(D7)を電圧信号として印加することを特徴とする請求項12に記載のデータ通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−160543(P2008−160543A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347848(P2006−347848)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000204033)太平洋工業株式会社 (143)
【出願人】(501383440)有限会社アイ・アール・ティー (10)
【Fターム(参考)】