説明

トイレ用介助装置

【課題】老人や身体障害者等が安心してトイレを利用することができるトイレ用介助装置を提供する。
【解決手段】便器4の左右を前後移動する左右の可動ベース22L、22R間に支架される手摺り部材23と、便器4の左右側方に配され、手摺り部材23と同期して前後移動する左右の足載せ台24L、24Rとを設けて、手摺り部材23および足載せ台24L、24Rを前後移動させることで、安定した状態で便器4の手前位置と着座位置との間を移動することができるようにすると共に、手摺り部材23を上下動させることで、容易に便器4に座ったり便器4から立上がったりすることができるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレにおいて、高齢者や身体障害者等のトイレの使用を介助するためのトイレ用介助装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高齢者や身体障害者等が使用するトイレには、トイレの使用者が把持するための固定式の手摺りが設けられている。しかしながら、高齢者等の体力のない使用者のなかには、固定式の手摺りだけでは、便器に座ったり便器から立上がったりする動作や、用を足すときに便座に座ったままの姿勢を保持することが難しい場合があり、この様なときには介助者が必要となる。この場合、介助者は、トイレの使用者を抱きかかえて便器に座らせたり便器から立上げたりすることになるが、この動作は使用者の略全体重が介助者にかかるため、介助者にとっても多大の労力を必要とし、負担が大きいという問題がある。
そこで従来、身体障害者のトイレの使用を介助するためのトイレ用介助装置として、駆動部の駆動に基づいて前後移動、上下移動、及び支柱回りに回転する可動アームを設け、該可動アームで使用者の脇の下を支持しながら便器へ誘導できるようにした技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
また、便座に座った姿勢を安定させるために前方手摺りを設けると共に、該前方手摺りを、便器の前方を塞ぐ使用姿勢と、上方に起立する起立姿勢とに変姿できるようにした技術も知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−232998号公報
【特許文献2】特開2011−19804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記特許文献1のものでは、トイレ用介助装置を使用する場合に、使用者は、可動アームに脇の下を支持された状態で足を床に置く構成になっている。このため使用者は、駆動部の駆動により前後移動したり回転したりする可動アームの動きに合わせて、使用者自身も前後移動したり回転しながらトイレに誘導されることになる。しかしながら、この様に可動アームの動きに合わせて自身も動く動作、特に、可動アームの回転に合わせて自身も回転する動作は、高齢者や身体障害者にとって困難な場合が多く、このため、使用者が可動アームに引きずられてしまう惧れがあって、安心して利用することができないという問題がある。
一方、特許文献2のものでは、使用姿勢の前方手摺りによって便座に座った姿勢を安定させることができる一方、便座に座ったり便座から立上がったりする場合には、起立姿勢の前方手摺りに掴まることができることになるが、高齢者等の腕力のない使用者は、起立姿勢の前方手摺りに掴まっても座ったり立上がったりする動作は困難であって、依然として介助者の労力を要するという問題があり、これらに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、トイレに設置されるトイレ用介助装置であって、該トイレ用介助装置は、便器の左右側方に配設される左右のガイドレールと、該左右のガイドレールにガイドされて便器の左右を前後方向に移動する左右の可動ベースと、該左右の可動ベース間に上下動自在に支架され、左右の可動ベースと一体的に前後移動する手摺り部材と、便器の左右側方に配され、前記手摺り部材と同期して前後移動する左右の足載せ部材と、前記手摺り部材および左右の足載せ部材を前後方向に移動せしめる第一駆動装置と、手摺り部材を上下動せしめる第二駆動装置とを具備することを特徴とするトイレ用介助装置である。
請求項2の発明は、請求項1において、手摺り部材は、トイレの使用者の上肢を支持する手摺り部と、該手摺り部の下方に配され、使用者の腹部を支持する腹部支持部とを備えることを特徴とするトイレ用介助装置である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、第一駆動装置の駆動に基づき手摺り部材および左右の足載せ部材が前後移動することになり、而して、トイレの使用者は、手摺り部材に体が支持され、且つ、左右の足載せ部材に足を載せた安定状態で、便器の手前位置と所定の着座位置との間を移動することができる。また、第二駆動装置の駆動に基づき手摺り部材をトイレの手前位置で上下動させることにより、トイレの使用者が車椅子2の使用者の場合に、車椅子2への乗降が容易になる。さらに、手摺り部材を着座位置で上下動させることにより、手摺り部材に体が支持された安定状態で容易に便器に座ったり便器から立上がったりすることができると共に、手摺り部材に体が支持された安定状態で用を足すことができる。この結果、高齢者や身体障害者等でも安心してトイレを使用することができると共に、介助者の介助を必要とする場合でも、介助者の労力を大幅に軽減することができる。
請求項2の発明とすることにより、使用者は、上肢だけでなく腹部も手摺り部材によって支持される安定且つ楽な姿勢で、トイレを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】トイレの室内を示す斜視図である。
【図2】(A)、(B)は水平姿勢時、前傾姿勢時の乗降支援装置を示す図である。
【図3】(A)、(B)はトイレ用介助装置の一部切欠き平面図、一部切欠き側面図である。
【図4】(A)、(B)は閉姿勢時、開姿勢時の便器の平面図である。
【図5】(A)、(B)は閉姿勢時、開姿勢時の便器の背面図である。
【図6】乗降支援装置、トイレ用介助装置、便器の使用手順を示す図である。
【図7】乗降支援装置、トイレ用介助装置、便器の使用手順を示す図である。
【図8】乗降支援装置、トイレ用介助装置、便器の使用手順を示す図である。
【図9】乗降支援装置、トイレ用介助装置、便器の使用手順を示す図である。
【図10】乗降支援装置、トイレ用介助装置、便器の使用手順を示す図である。
【図11】乗降支援装置、トイレ用介助装置、便器の使用手順を示す図である。
【図12】(A)、(B)は乗降支援装置、トイレ用介助装置、便器の使用手順を示す図である。
【図13】第二の実施の形態における足載せ部材を示す斜視図である。
【図14】第二の実施の形態における足載せ部材を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1〜図12において、1は車椅子2への乗降を支援するための乗降支援装置、3はトイレの使用を介助するためのトイレ用介助装置であって、これら乗降支援装置1及びトイレ用介助装置3は、共にトイレに設置されている。尚、以下の説明において、便宜上、便器4の奥側を前側とし、便器4の手前側を後側とする。また、本実施の形態では、車椅子2の使用者がトイレを使用する設定になっているが、車椅子2の使用者、つまりトイレの使用者を単に使用者と称し、また、該使用者を介助する人を介助者と称する。
【0009】
ここで、前記車椅子2の構造について簡単に説明すると、本実施の形態に用いられる車椅子2は汎用のものであって、骨組となる車体フレーム5に、使用者が座するシート部6及び背凭れ部7が取付けられていると共に、左右一対の前輪8及び後輪9が回転自在に軸承されている。さらに車椅子2には、介助者が把持するハンドル10、車椅子2の使用者が足を掛けるフットレスト11、後輪9の回転を規制するブレーキ12等が具備されている。
【0010】
一方、前記乗降支援装置1は、使用者の車椅子2への乗降を支援するための装置であるが、該乗降支援装置1は、後述する座板13、第一エアシリンダ14等の部材を用いて構成されている。
【0011】
前記座板13は、車椅子2が搭乗できる広さを有する矩形状のものであって、該座板13の前端部は、便器4の後側(手前側)のトイレ床面15に形成された凹部16の前端部に、支軸17を介して揺動自在に支持されている。そして座板13は、上記支軸17を軸として上下揺動することにより、その上面がトイレの床面15と同レベル高さになる(座板13の上面と床面15とが面一状になる)水平姿勢と、前端側が床面15と同レベル高さで後端側が床面15よりも高位になる前傾姿勢とに変姿可能に構成されている。
【0012】
ここで、前記凹部16は、水平姿勢の座板13との間に殆ど間隙を生じないよう座板13と同形状の矩形状に形成されていると共に、凹部16の深さは座板13の板厚と略同寸法に設計されている。これにより、水平姿勢の座板13は、その下面が凹部16の底面16aに当接支持される状態で、上面がトイレの床面15と面一状になるように構成されている。
【0013】
さらに、前記凹部16の底面16aには、第一エアシリンダ14が収納される凹状の収納部16bが形成されている。上記第一エアシリンダ14は、本実施の形態では左右一対設けられていて、シリンダ筒14aの基端部が収納部16bの底部に支持され、また、ピストンロッド14bの先端部が座板13の下面後部にブラケット18を介して支持されている。そして、この第一エアシリンダ14の伸縮作動によって、座板13を前述した水平姿勢と前傾姿勢とに変姿させることができるようになっている。
【0014】
前記第一エアシリンダ14の伸縮作動は、後述する遠隔操作器19に配置された座板用スイッチ19aの「ON」、「OFF」切換え操作に基づいて行なわれるように構成されている。つまり、水平姿勢の座板13を前傾姿勢にする場合には、座板用スイッチ19aを「ON」側に切り換えることにより第一エアシリンダ14が伸長し、これにより座板13の後部側が上動して前傾姿勢に変姿する一方、前傾姿勢の座板13を水平姿勢にする場合には、座板用スイッチ19aを「OFF」側に切り換えることにより第一エアシリンダ14が縮小し、これにより座板13の後部側が下動して水平姿勢に変姿するようになっている。
【0015】
また、前記座板13の前端部には、座板13に搭乗した車椅子2の前輪8に当接することで座板13の前傾姿勢時に車椅子2の前方への移動を規制するためのストッパ20が固設されている。該ストッパ20は、本実施の形態では、座板13の左右方向略全長に亘る状態で座板13の上面から上方に向けて突出するように設けられているが、該ストッパ20の高さは、座板13上の車椅子2のフットレスト11の高さ位置よりも低くなるように設定されており、これにより、前輪8がストッパ20に当接する前にフットレスト11がストッパ20に当らないようになっていると共に、前輪8がストッパ20に当接している状態でフットレスト11がストッパ20の前方に位置するようになっている。
【0016】
そして、使用者が車椅子2から降りる場合には、水平姿勢の座板13上に車椅子2を搭乗させ、しかる後に座板13を前傾姿勢に変姿させると、該座板13の変姿と共に車椅子2が前傾姿勢になって、使用者が座しているシート部6も前側が低く後側が高い前傾姿勢になる。これにより、使用者の腰の位置が高くなって、車椅子2からの降車が容易になる。また、使用者が車椅子2に乗る場合には、空の車椅子2を水平姿勢の座板13上に搭乗させてから座板13を前傾姿勢に変姿させると、該座板13の変姿と共に車椅子2も前傾姿勢になり、これにより、車椅子2のシート部6も前側が低く後側が高い前傾姿勢になって、車椅子2への乗車が容易になる。尚、後述するように、車椅子2に乗降する際に使用者が上肢を掛けやすい位置に手摺り部34が配置されていて、該手摺り部34に上肢を凭せかけながら車椅子2に乗降することができるようになっている。
【0017】
一方、前記トイレ用介助装置3は、使用者のトイレの使用を介助するための装置であるが、該トイレ用介助装置3は、左右のガイドレール21L、21R、左右の可動ベース22L、22R、手摺り部材23、左右の足載せ台(本発明の左右の足載せ部材に相当する)24L、24R等の部材を用いて構成されている。
【0018】
前記左右のガイドレール21L、21Rは、便器4の前後方向に延びる断面凹溝形状のものであって、便器4の左右側方に配されている。この左右のガイドレール21L、21Rの溝内には、前後方向に長尺で、且つ、外周面に螺子溝が刻設された左右の駆動螺子26L、26Rが、軸芯回り方向に回転自在な状態で支持されている。該左右の駆動螺子26L、26Rの前端部は、左右の傘歯ギア27L、27Rを介してモータ28の出力軸28aに連結されており、而して、モータ28の正逆駆動に伴い左右の駆動螺子26L、26Rが軸芯回り方向に正逆回転する構成になっている。尚、前記モータ28は便器4の前方に配されている。また、モータ28、モータ28の出力軸28a、および傘歯ギア27L、27R は、カバー29によって覆蓋されている。
【0019】
さらに、左右のガイドレール21L、21Rの溝内には、前記左右の駆動螺子26L、26Rの外周面の螺子溝に螺合する左右のスライダー30L、30Rが、前後方向には移動自在で、且つ、左右方向及び上下方向には移動規制された状態で嵌合されている。該左右のスライダー30L、30Rの上部には、左右のガイドレール21L、21Rの溝上方に突出する連結杆31を介して左右の可動ベース22L、22Rが一体的に連結されている。而して、モータ28の正逆駆動に伴い左右の駆動螺子26L、26Rが軸芯回り方向に正逆回転したときに、これに伴い左右のスライダー30L、30Rが左右のガイドレール21L、21Rの溝内を前後方向に移動し、これと一体的に左右の可動ベース22L、22Rが前後移動する構成になっている。尚、本実施の形態では、モータ28が正回転することにより左右の可動ベース22L、22Rが前方に移動し、また、モータ28が逆回転することにより左右の可動ベース22L、22Rが後方に移動するように構成されている。また、前記モータ28、左右の傘歯ギア27L、27R、左右の駆動螺子26L、26R、左右のスライダー30L、30R、および左右の可動ベース22L、22Rは、本発明の第一駆動装置を構成する。
【0020】
前記左右の可動ベース22L、22Rは、左右のガイドレール21L、21Rの上方に配されており、前述したように、モータ28の正逆駆動に伴い前後移動する構成になっているが、該左右の可動ベース22L、22Rには、便器4に対向する側の面に、使用者が足を載せるための左右の足載せ台24L、24Rが固定支持されている。そして、該左右の足載せ台24L、24Rは、前記可動ベース22L、22Rの前後移動と一体的に、便器4の左右側方において後述する後方位置と前方位置との間を前後移動する構成になっている。
【0021】
さらに、前記左右の可動ベース22L、22Rの上面部には左右の第二エアシリンダ32L、32R(本発明の第二駆動装置に相当する)が支持されており、該左右の第二エアシリンダ32L、32Rを介して、左右の可動ベース22L、22R間に手摺り部材23が上下動自在に支架されている。該手摺り部材23は、左右の第二エアシリンダ32L、32Rにそれぞれ支持される四角枠形状の左右の支持フレーム33L、33Rと、該左右の支持フレーム33L、33Rを構成する前側フレーム33La、33Ra間に支架され、使用者の上肢を支持する手摺り部34と、該手摺り部34の下方において前側フレーム33La、33Ra間に支架され、使用者の腹部を支持する腹部支持部35とを備えている。そして、該手摺り部材23は、前記左右の可動ベース22L、22Rの前後移動と一体的に、後述する後方位置と前方位置との間を前後移動する一方、後方位置、前方位置の各位置において、前記左右の第二エアシリンダ32L、32Rの伸縮作動に基づき、後述する上側位置と下側位置との間を上下移動する構成になっている。尚、前記手摺り部34には、クッション部材が巻装されており、また、腹部支持部35はクッション部材を用いて形成されている。
【0022】
ここで、前記手摺り部材23および左右の足載せ台24L、24Rは、共に可動ベース22L、22Rの前後移動と一体的に前後移動するものであり、而して、手摺り部材23と左右の足載せ台24L、24Rとは同期して前後移動するようになっているが、これら手摺り部材23と左右の足載せ台24L、24Rの前後移動、および手摺り部材23の上下移動は、遠隔操作器19の操作に基づいて行なわれるように構成されている。該遠隔操作器19は、本実施の形態では、手摺り部材23の上部に着脱自在に取り付けられていると共に、前記第一エアシリンダ14、左右の第二エアシリンダ32L、32R、モータ28、および後述する左右の第三エアシリンダ42L、42Rの各駆動機構部(図示せず)に制御信号を発信する発信器(図示せず)を備えている。さらに、遠隔操作器19には、前述した座板用スイッチ19aや、音声を受信するマイク19bが設けられていると共に、これら座板用スイッチ19aの操作やマイク19bが受信した音声に基づいて発信器に発信指令を出力する制御部19cが設けられている。そして、第一エアシリンダ14の伸縮作動は、前述したように、座板用スイッチ19aの「ON」、「OFF」切換え操作に基づいて行なわれるようになっているが、左右の第二エアシリンダ32L、32Rの伸縮作動、モータ28の正逆駆動、および後述する左右の第三エアシリンダ42L、42Rの伸縮作動は、マイク19bが受信した音声に基づいて行なわれるように構成されている。つまり、手摺り部材23および左右の足載せ台24L、24Rが後方位置に位置しているときに、「前進」の音声をマイク19bが受信することによりモータ28が正回転し、これに伴い左右の可動ベース22L、22Rが前方に移動することで手摺り部材23および左右の足載せ台24L、24Rが前方位置まで移動する一方、手摺り部材23および左右の足載せ台24L、24Rが前方位置に位置しているときには、「後進」の音声を受信することによりモータ28が逆回転し、これに伴い左右の可動ベース22L、22Rが後方に移動することで手摺り部材23および左右の足載せ台24L、24Rが後方位置まで移動するようになっている。また、手摺り部材23が下側位置に位置しているときには、「上」の音声をマイク19bが受信することにより左右の第二エアシリンダ32L、32Rが伸長し、これにより手摺り部材23が上側位置まで上動する一方、手摺り部材23が上側位置に位置しているときには、「下」の音声を受信することにより左右の第二エアシリンダ32L、32Rが縮小し、これにより手摺り部材23が下側位置まで下動するようになっている。尚、前記遠隔操作器19に設けられる制御部19cは、モータ28の正逆駆動中、つまり、手摺り部材23および左右の足載せ台24L、24Rの前後移動中には、「上」、「下」の音声を受信しても発信器に発信指令を出力しないように設定されており、これにより手摺り部材23の上下移動は、前方位置および後方位置でのみ行なわれるようになっている。さらに、「ストップ」の音声をマイク19bが受信した場合には、モータ28の回転、および左右の第二エアシリンダ32L、32Rの伸縮作動を停止させる制御信号が出力されるようになっている。また、マイク19bが受信した音声に基づいて行なわれる左右の第三エアシリンダ42L、42Rの伸縮作動については、後述する。
【0023】
そして、前記手摺り部材23は、後方位置のときには、便器4の後側(手前側)で、且つ、前記乗降支援装置1を構成する座板13の前方に位置するように設定されている。さらに、該後方位置において手摺り部材23が下側位置のときには、前記乗降支援装置1を使用して車椅子2から降りた中腰姿勢の使用者が手摺り部34に上肢を凭せかけやすい位置となるように設定されている。そして、該下側位置の手摺り部34に使用者が上肢を凭せかけた状態で手摺り部材23を上側位置まで上動させることで、使用者を容易に立上がらせることができるようになっていると共に、立上がった使用者の体を、上側位置の手摺り部材23の手摺り部34および腹部支持部35によって支持できるようになっている。
【0024】
一方、左右の足載せ台24L、24Rは、後方位置のときには、前記上側位置の手摺り部材23に支持された使用者が足を載せやすい位置に位置している。そして、該左右の足載せ台24L、24Rに足を載せ、しかる後、手摺り部材23および足載せ台24L、24Rを前方位置まで移動させることによって、使用者を、手摺り部材23に体が支持されたままの安定姿勢で所定の着座位置まで移動させることができるようになっている。
【0025】
さらに、手摺り部材23および足載せ台24L、24Rを前方位置まで移動させた後、該前方位置で手摺り部材23を下側位置まで下動させることにより、使用者は、手摺り部材23に体が支持されたままの安定姿勢で容易に便器4に座ることができるようになっていると共に、該安定姿勢で用を足すことができるようになっている。
【0026】
さらに、使用者が用を足した後は、手摺り部材23を上側位置まで上動させることにより、使用者は手摺り部材23に体が支持されたままの安定姿勢で、容易に便器4から立上がることができるようになっている。さらに、手摺り部材23および足載せ台24L、24Rを後方位置まで移動させ、足載せ台24L、24Rから足を降ろした後に、手摺り部材23を下側位置まで下動させることで、使用者は手摺り部材23に体が支持されたままの安定姿勢で中腰姿勢になり、これにより、介助者が使用者の腰を少し支えるだけで、前述した前傾姿勢の車椅子2に座らせることができるようになっている。
【0027】
一方、前記便器4は、便器本体39と、該便器本体39の上部に装着される便座40とを用いて構成されているが、便器本体39の外形は、前面部39a、後面部39b、左面部39c、右面部39dにより長方形状に形成されている。また、便座40は、左右一対の分割便座40L、40Rに二分割されている。これら左右の分割便座40L、40Rは、左右対称形状をしており、座面となる上面部40La、40Raと、該上面部40La、40Raの左右外方側縁部から垂下される左右の側面部40Lb、40Rbとを備えていると共に、上面部40La、40Raの前端部は、左右のピン軸41L、41Rを介して便器本体39の前面部39aの上面に左右方向揺動自在に軸支されている。
【0028】
さらに、42L、42Rは左右の第三エアシリンダであって、これら左右の第三エアシリンダ42L、42Rは、基端側が便器本体39の後面部39bにブラケット43を介して支持される一方、先端側が左右の分割便座40L、40Rの側面部40Lb、40Rbの後端部に支持されている。そして、これら左右の第三エアシリンダ42L、42Rを伸縮させることによって左右の分割便座40L、40Rがピン軸41L、41Rを軸として左右方向に揺動し、これによって左右の分割便座40L、40Rは、上面部40La、40Raの後端側同士が当接する閉姿勢と、上面部40La、40Raの後端側同士が離間する開姿勢とに変姿する構成になっている。そして、使用者が便座40に着座した状態で左右の分割便座40L、40Rを閉姿勢から開姿勢に変姿させることによって、使用者のお尻を自然に広げることができるようになっている。
【0029】
前記左右の分割便座40L、40Rの閉姿勢と開姿勢との変姿は、前述した遠隔操作器19の操作に基づいて行なわれるように構成されている。つまり、左右の分割便座40L、40Rが閉姿勢のときに、「開」の音声をマイク19bが受信することにより左右の第三エアシリンダ42L、42Rが伸長し、これに伴い左右の分割便座40L、40Rが開姿勢に変姿する一方、左右の分割便座40L、40Rが閉姿勢のときに、「閉」の音声をマイク19bが受信することにより左右の第三エアシリンダ42L、42Rが縮小し、これに伴い左右の分割便座40L、40Rが閉姿勢に変姿するようになっている。尚、「ストップ」の音声をマイク19bが受信した場合には、制御部19cから左右の第三エアシリンダ42L、42Rの伸縮作動を停止させる制御信号が出力されるようになっている。
【0030】
次いで、前記乗降支援装置1、トイレ用介助装置3、便器4の使用手順について説明する。まず、トイレを使用する前は、座板13は水平姿勢に、手摺り部材23は後方位置で且つ下側位置に、左右の足載せ台24L、24Rは後方位置に、便座40は閉姿勢にしておく。そして、トイレを使用する場合には、まず、トイレ床面15を走行させて水平姿勢の座板13上に車椅子2を載せ、該車椅子2の前輪8をストッパ20に当接させた状態で、車椅子2のブレーキ12をかける(図6参照)。しかる後、介助者が遠隔操作器19の座板用スイッチ19aを「ON」側に切り換える。これにより、座板13が前傾姿勢に変姿すると共に、該座板13の変姿により車椅子2も前傾姿勢になって、車椅子2に座している使用者も腰の位置が高い前傾姿勢になる(図7参照)。
【0031】
次いで、使用者の足を車椅子2のフットレスト11からトイレ床面15に降ろし、さらに介助者が使用者の腰を後側から少し持ち上げて車椅子2から降ろしながら、使用者の上肢を、後方位置で且つ下側位置に位置している手摺り部材23の手摺り部34に凭せかける(図8参照)。
【0032】
次いで、介助者が「上」と発声して、手摺り部材23を上側位置まで上動させる。これにより使用者が立上ると共に、立上がった使用者の体は、上側位置の手摺り部材23の手摺り部34および腹部支持部35によって支持される。しかる後、座板用スイッチ19aを「OFF」側に切換えて座板13を水平姿勢に変姿させ、車椅子2を座板13上から退かす。さらに介助者は、前記立上がった使用者のズボンや下着を脱がして、足から抜く(図9参照)。そして、使用者の足を、後方位置に位置している左右の足載せ台24L、24Rに載せる。
【0033】
次いで、介助者が「前進」と発声して、手摺り部材23および左右の足載せ台24L、24Rを前方位置まで移動させることにより、使用者は所定の着座位置まで移動する。このとき、使用者は手摺り部材23に体が支持された安定状態で移動すると共に、便座40は閉姿勢になっているため、使用者の着座位置までの移動は妨げられない(図10参照)。
【0034】
次いで、介助者が「下」と発声して、手摺り部材23を下側位置まで下動させる。これにより使用者は、体が手摺り部材23に支持された安定姿勢で便座40に着座する(図11、図12(A)参照)。
【0035】
次いで、介助者が「開」と発声して、便座40を開姿勢に変姿させる。これにより、便座40に着座した使用者のお尻が自然に広がり、この状態で、使用者は用を足す(図12(B)参照)。使用者が用を足した後は、介助者が必要に応じて後始末を行なう。
【0036】
次いで、介助者が「上」と発声して、手摺り部材23を上側位置まで上動させる。これにより使用者は、体が手摺り部材23に支持された安定姿勢で便座40から立上がる。しかる後、介助者が「閉」と発声して、便座40を閉姿勢に変姿させる。
【0037】
次いで、介助者が「後進」と発声して、手摺り部材23および左右の足載せ台24L、24Rを後方位置まで移動させる。しかる後、使用者の体を手摺り部材23に凭せかけたままの状態で、使用者の足を左右の足載せ台24L、24Rからトイレ床面15に降ろし、さらに、使用者にズボンや下着を穿かせる。
【0038】
次いで、車椅子2を座板13上に載せてから、座板用スイッチ19aを「ON」側に切り換えて座板13を前傾姿勢に変姿させる。しかる後、介助者が「下」と発声して、手摺り部材23を下側位置まで下動させる。これにより、使用者は、上肢が手摺り部34に支持された状態で中腰状態になるが、該中腰状態の使用者の腰を支持しながら、前傾姿勢の座板13上の車椅子2に使用者を座らせる。
【0039】
次いで、座板用スイッチ19aを「OFF」側に切り換えて座板13を水平姿勢に変姿させる。しかる後、車椅子2を走行させてトイレから出室する。このとき、座板13は水平姿勢に、手摺り部材23は後方位置で且つ下側位置に、左右の足載せ台24L、24Rは後方位置に、便座40は閉姿勢になっており、そのまま次の使用者が前述した手順でトイレを使用することができるようになっている。
【0040】
叙述の如く構成された本形態において、トイレには、高齢者や身体障害者等のトイレの使用を介助するためのトイレ用介助装置3が設けられているが、該トイレ用介助装置3は、便器4の左右側方に配設される左右のガイドレール21L、21Rと、該左右のガイドレール21L、21Rにガイドされて便器4の左右を前後方向に移動する左右の可動ベース22L、22Rと、該左右の可動ベース22L、22R間に上下動自在に支架され、左右の可動ベース22L、22Rと一体的に前後移動する手摺り部材23と、便器4の左右側方に配され、前記手摺り部材23と同期して前後移動する左右の足載せ台24L、24Rと、前記手摺り部材23および左右の足載せ台24L、24Rを前後方向に移動せしめる第一駆動装置(モータ28、左右の傘歯ギア27L、27R、左右の駆動螺子26L、26R、左右のスライダー30L、30R、および左右の可動ベース22L、22R)と、手摺り部材23を上下動せしめる第二駆動装置(左右の第二エアシリンダ32L、32R)とを具備している。
【0041】
而して、第一駆動装置の駆動に基づき手摺り部材23および左右の足載せ台24L、24Rを前後移動させることで、トイレの使用者は、手摺り部材23に体が支持され、且つ、左右の足載せ台24L、24Rに左右の足を載せた安定状態で、便器4の手前位置と所定の着座位置との間を移動することができる。また、第二駆動装置の駆動に基づき手摺り部材23をトイレの手前位置で上下動させることにより、トイレの使用者が車椅子2の使用者の場合に、車椅子2への乗降が容易になる。さらに、手摺り部材23を着座位置で上下動させることにより、手摺り部材23に体が支持された安定状態で容易に便器4に座ったり便器4から立上がったりすることができると共に、手摺り部材23に体が支持された安定状態で用を足すことができる。この結果、高齢者や身体障害者等でも安心してトイレを使用することができると共に、介助者の介助を必要とする場合でも、介助者の労力を大幅に軽減することができる。
【0042】
しかもこのものにおいて、前記手摺り部材23は、トイレの使用者の上肢を支持する手摺り部34と、該手摺り部34の下方に配され、使用者の腹部を支持する腹部支持部35とを備えているから、使用者は、手摺り部材23によって上肢だけでなく腹部も支持された安定且つ楽な姿勢で、トイレを使用することができる。
【0043】
尚、本発明は、上記実施の形態に限定されないことは勿論であって、上記実施の形態では、左右の足載せ部材として、左右の可動ベースに固定支持された左右の足載せ台を用いたが、図13、図14に示す第二の実施の形態の如く、ベルトコンベア式のものとすることもできる。つまり、第二の実施の形態のものでは、左右の足載せ部材として、駆動プーリ46L、46Rと従動プーリ47L、47Rとの間に懸回される無端環状の左右の可動ベルト48L、48Rが用いられていると共に、該左右の可動ベルト48L、48Rは、左右のガイドレール21L、21Rと便器4の間において、移動方向が便器4の前後方向を向き、且つ、上面がトイレの床面15と面一状になるように配設されている。さらに、前記駆動プーリ46L、46Rは、減速機構(図示せず)を介してモータ28の出力軸28aに連動連結されており、而して、モータ28の正逆駆動に基づき駆動プーリ46L、46Rが正逆回転することで、左右の可動ベルト48L、48Rが便器4の左右を前後方向に移動するようになっている。この場合に、前記減速機構は、手摺り部材23の前後移動と左右の可動ベルト48L、48Rの前後移動とが同期するように、モータ28の回転速度を減速して駆動プーリ46L、46Rに伝達するように構成されている。そして、この第二の実施の形態のものにおいても、トイレの使用者は、手摺り部材23に体が支持され、且つ、左右の可動ベルト48L、48Rに足を載せた安定状態で、便器4の手前位置と所定の着座位置との間を移動できることになるが、このものでは、可動ベルト48L、48Rの上面をトイレの床面15と面一状にすることができるため、使用者が足を載せやすいという利点がある。尚、第二の実施の形態において、前記図1〜図12に示した実施の形態のものと同一のものについては、同一の符号を附すと共に説明を省略する。
【0044】
また、手摺り部材、足載せ部材を前後方向に移動せしめる第一駆動装置、および手摺り部材を上下動せしめる第二駆動装置としては、上記実施の形態に限定されることなく種々の駆動装置を用いることができるが、例えば、第二駆動装置として油圧シリンダやモータ等を用いても良い。
【0045】
さらに、上記実施の形態において、第一および第二駆動装置は、介助者の音声に基づいて遠隔操作器19から制御信号が発信されることで駆動する構成になっているが、使用者自身の音声であっても勿論よく、また、音声ではなくスイッチ等の操作に基づいて第一駆動装置および第二駆動装置を駆動させる構成にすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、老人や身体障害者等がトイレを使用する場合に、該トイレの使用を介助するためのトイレ用介助装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
3 トイレ用介助装置
4 便器
21L、21R 左右のガイドレール
22L、22R 左右の可動ベース
23 手摺り部材
24L、24R 左右の足載せ台
26L、26R 左右の駆動螺子
27L、27R 左右の傘歯ギア
28 モータ
30L、30R 左右のスライダー
32L、32R 左右の第二エアシリンダ
34 手摺り部
35 腹部支持部
46L、46R 駆動プーリ
48L、48R 左右の可動ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トイレに設置されるトイレ用介助装置であって、該トイレ用介助装置は、便器の左右側方に配設される左右のガイドレールと、該左右のガイドレールにガイドされて便器の左右を前後方向に移動する左右の可動ベースと、該左右の可動ベース間に上下動自在に支架され、左右の可動ベースと一体的に前後移動する手摺り部材と、便器の左右側方に配され、前記手摺り部材と同期して前後移動する左右の足載せ部材と、前記手摺り部材および左右の足載せ部材を前後方向に移動せしめる第一駆動装置と、手摺り部材を上下動せしめる第二駆動装置とを具備することを特徴とするトイレ用介助装置。
【請求項2】
請求項1において、手摺り部材は、トイレの使用者の上肢を支持する手摺り部と、該手摺り部の下方に配され、使用者の腹部を支持する腹部支持部とを備えることを特徴とするトイレ用介助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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