説明

トナーの製造方法およびトナー、現像剤、現像装置ならびに画像形成装置

【課題】 トナー母粒子表面に樹脂微粒子が均一に膜化した膜状態の良好なトナーを短時間で収率よく製造できるトナーの製造方法およびその製造方法で製造されるトナー、前記トナーを含む現像剤、前記現像剤を用いる現像装置および画像形成装置を提供する。
【解決手段】 トナーの製造方法は、樹脂微粒子付着工程と、噴霧工程と、膜化工程とを含む。噴霧工程で、第1噴霧手段による噴霧液体の噴霧に加え、その噴霧開始時から下記式(1)を満たす追加噴霧時間T1までの間、第2噴霧手段から下記式(2)を満たす追加ガス体積量Kとなる量の噴霧液体を粉体流路内に追加で噴霧する。
0.2τ≦T1≦τ(τ=V/Fair) …(1)
0.6κ≦K≦1.6κ(κ=(Fin/Fair)×V) …(2)
(Finは、ガス体積流量を示し、Fairは粉体流路内から排出される空気の空気体積流量を示し、Vは粉体流路内の容積を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーの製造方法およびその製造方法で製造されたトナー、前記トナーを含む現像剤、ならびに前記現像剤を用いる現像装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トナー粒子などの粉体粒子の特性を向上させることを目的として、粉体粒子の表面を被覆材料で被覆する表面改質処理が行われており、被覆材料を粉体粒子表面に固着させ固定化する方法が検討されてきた。
【0003】
具体的な表面改質処理の方法としては、スクリュー、ブレード、ロータなどの回転撹拌手段で機械的撹拌力を付与することによって粉体流過路内で粉体粒子を流動させ、流動状態にある粉体粒子にスプレーノズルから被覆材料を噴霧する方法が知られている。たとえば特許文献1には、周速度5〜160m/secで回転撹拌手段を回転させて、装置内において粉体粒子を流動させ、この流動状態にある粉体粒子にスプレーノズルから液体を噴霧することによって、前記液体に含まれる微小固体粒子を粉体粒子表面に固着させる、または前記液体に含まれる被覆材料の膜を粉体粒子表面に形成する粉体粒子の表面改質方法が開示されている。特許文献1に開示の表面改質方法によれば、微小固体粒子または被覆材料と粉体粒子との密着性を高めることができ、かつ表面改質処理に要する時間を短縮することができる。
【0004】
【特許文献1】特公平5−10971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の方法では、特定の時間内に一定量の前記液体を噴霧することで装置内の前記液体のガス濃度を徐々に上昇させて所望の値に近付けているため、装置サイズが大型化すると、装置内の液体ガス濃度を所望の濃度にするために長い時間が必要となる。粉体粒子が液体ガスに曝される時間が長くなると、粉体粒子形状の変形、粉体粒子の凝集、ならびに粉体粒子および被覆材料の装置内壁への付着を招いて所望の表面改質処理を施した粉体粒子を得られないという問題が発生するおそれがある。また、所望の表面改質処理を施した粉体粒子の収率が低下するという問題が発生するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、トナー母粒子表面に樹脂微粒子が均一に膜化した膜状態の良好なトナーを短時間で収率よく製造できるトナーの製造方法およびその製造方法で製造されるトナー、前記トナーを含む現像剤、前記現像剤を用いる現像装置および画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、回転羽根を周設した回転盤および回転軸を含む回転撹拌手段が回転している粉体流路内にトナー母粒子および樹脂微粒子を投入して、粉体流路内で流動させ、トナー母粒子表面に樹脂微粒子を付着させる樹脂微粒子付着工程と、
第1噴霧手段および第2噴霧手段を用いて、流動状態にあるトナー母粒子および樹脂微粒子にそれらの粒子を可塑化させる効果のある噴霧液体をキャリアガスによって粉体流路内に噴霧しつつ、粉体流路内でガス化した噴霧液体およびキャリアガスを含む空気を粉体流路外に排出する噴霧工程と、
トナー母粒子表面に付着した樹脂微粒子が膜化するまで回転撹拌手段の回転を続けてトナー母粒子および樹脂微粒子を粉体流路内で繰り返し循環させる膜化工程とを含み、
噴霧工程で、第1噴霧手段による噴霧液体の噴霧に加え、その噴霧開始時から下記式(1)を満たす追加噴霧時間T1までの間、第2噴霧手段から下記式(2)を満たす追加ガス体積量Kとなる量の噴霧液体が粉体流路内に追加で噴霧されることを特徴とするトナーの製造方法である。
0.2τ≦T1≦τ(τ=V/Fair) …(1)
0.6κ≦K≦1.6κ(κ=(Fin/Fair)×V) …(2)
(Finは、第1噴霧手段から粉体流路内に噴霧される噴霧液体の噴霧速度に、その噴霧液体がガス化したときの体積量を掛けることで求められるガス体積流量を示し、Fairは粉体流路内から排出される空気の空気体積流量を示し、Vは粉体流路内の容積を示す。)
【0008】
また本発明は、回転羽根を周設した回転盤および回転軸を含む回転撹拌手段が回転している粉体流路内にトナー母粒子および樹脂微粒子を投入して、粉体流路内で流動させ、トナー母粒子表面に樹脂微粒子を付着させる樹脂微粒子付着工程と、
噴霧手段を用いて、流動状態にあるトナー母粒子および樹脂微粒子にそれらの粒子を可塑化させる効果のある噴霧液体をキャリアガスによって粉体流路内に噴霧しつつ、粉体流路内でガス化した噴霧液体およびキャリアガスを含む空気を粉体流路外に排出する噴霧工程と、
トナー母粒子表面に付着した樹脂微粒子が膜化するまで回転撹拌手段の回転を続けてトナー母粒子および樹脂微粒子を粉体流路内で繰り返し循環させる膜化工程とを含み、
噴霧工程で、噴霧手段による噴霧開始時から下記式(3)を満たす増加噴霧時間T2の間、下記式(4)を満たす増加ガス体積量kとなる量だけ噴霧手段からの噴霧量を増加させることを特徴とするトナーの製造方法である。
0.2τ≦T2≦τ(τ=V/Fair) …(3)
0.6κ≦k≦1.6κ(κ=(Fin/Fair)×V) …(4)
(Finは、噴霧液体が増加なく粉体流路内に噴霧されるときの噴霧速度に、その噴霧液体がガス化したときの体積量を掛けることで求められるガス体積流量を示し、Fairは粉体流路内から排出される空気の空気体積流量を示し、Vは粉体流路内の容積を示す。)
【0009】
また本発明は、膜化工程の時間が、10分間以上45分間以下であることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、噴霧液体は、ガス化した際のLEL濃度が1.7体積%以上6.7体積%以下のアルコールであることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、噴霧液体は、分子中の炭素の数が3個以下の低級アルコールであることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、前記トナーの製造方法によって製造されることを特徴とするトナーである。
【0013】
また本発明は、前記トナーを含むことを特徴とする現像剤である。
また本発明は、前記トナーとキャリアとから成る2成分現像剤であることを特徴とする。
【0014】
また本発明は、前記現像剤を用いて、像担持体に形成される潜像を現像してトナー像を形成することを特徴とする現像装置である。
【0015】
また本発明は、潜像が形成される像担持体と、
像担持体に潜像を形成する潜像形成手段と、
前記現像装置とを備えることを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、トナーの製造方法は樹脂微粒子付着工程と噴霧工程と膜化工程とを含む。樹脂微粒子付着工程は、回転羽根を周設した回転盤および回転軸を含む回転撹拌手段が回転している粉体流路内にトナー母粒子および樹脂微粒子を投入して、トナー母粒子表面に樹脂微粒子を付着させる。噴霧工程は、流動状態にあるトナー母粒子および樹脂微粒子に、それらの粒子を可塑化させる噴霧液体を第1噴霧手段からキャリアガスによって噴霧しつつ、粉体流路内でガス化した噴霧液体およびキャリアガスを含む空気を粉体流路外に排出する。膜化工程は、トナー母粒子表面に付着した樹脂微粒子が膜化するまで回転撹拌手段の回転を続けてトナー母粒子および樹脂微粒子を粉体流路内において繰り返し循環させる。噴霧工程で、第1噴霧手段による噴霧液体の噴霧に加え、その噴霧開始時から上記式(1)を満たす追加噴霧時間T1までの間、第2噴霧手段から上記式(2)を満たす追加ガス体積量Kとなる量の噴霧液体が粉体流路内に追加で噴霧される。
【0017】
噴霧液体がガス化した液体ガスが粉体流路内に存在しない状態から、粉体流路内に噴霧液体を供給するにあたって、一定量の噴霧液体を特定の時間をかけて噴霧し粉体流路内の液体ガス濃度を徐々に上昇させ所望の値に近づける方法では、装置サイズが大型化する、すなわち粉体流路内の容積が大きくなるほど粉体流路内の液体ガス濃度を所望の濃度にするのに長い時間を要するため、トナー粒子の形状の変形およびトナー粒子間の凝集を招き、所望のトナーを得ることができない。
【0018】
粉体流路内のガス濃度を一定にするために必要な噴霧液体の噴霧量は、装置サイズ、目的の噴霧濃度、噴霧時間、処理量等により異なるが、噴霧工程において、第1噴霧手段による噴霧に加え、粉体流路内のガス濃度を素早く所望の濃度にするために必要な量の噴霧液体を、装置サイズすなわち粉体流路内の容積に応じて第2噴霧手段で追加供給することによって、粉体流路内におけるガス濃度の立ち上りを改善することができ、膜形成を短時間で行うことが可能になるので、トナー粒子の形状の変形およびトナー粒子間の凝集を抑制できる。またトナー母粒子表面で樹脂微粒子が均一に膜化できるので、膜質の向上を図ることができる。このような方法でトナーを製造することによって、粗大粒子の発生を抑制でき、膜質の良好なトナーを安定して得ることができる。
【0019】
また、トナー母粒子および樹脂微粒子の材料選択性が広くトナーの帯電特性や流動性を設計する際の自由度が大きく、またトナー母粒子に低融点の材料を使用した際にも保存安定性が悪化することのないトナーを安定して製造することができる。
【0020】
また本発明によれば、トナーの製造方法は樹脂微粒子付着工程と噴霧工程と膜化工程とを含む。樹脂微粒子付着工程は、回転羽根を周設した回転盤および回転軸を含む回転撹拌手段が回転している粉体流路内にトナー母粒子および樹脂微粒子を投入して、トナー母粒子表面に樹脂微粒子を付着させる。噴霧工程は、流動状態にあるトナー母粒子および樹脂微粒子に、それらの粒子を可塑化させる噴霧液体を噴霧手段からキャリアガスによって噴霧しつつ、粉体流路内でガス化した噴霧液体およびキャリアガスを含む空気を粉体流路外に排出する。膜化工程は、トナー母粒子表面に付着した樹脂微粒子が膜化するまで回転撹拌手段の回転を続けてトナー母粒子および樹脂微粒子を粉体流路内において繰り返し循環させる。噴霧工程で、噴霧手段による噴霧開始時から上記式(3)を満たす増加噴霧時間T2の間、上記式(4)を満たす増加ガス体積量kとなる量だけ噴霧手段からの噴霧量を増加させることを特徴とする。
【0021】
噴霧液体がガス化した液体ガスが粉体流路内に存在しない状態から、粉体流路内に噴霧液体を供給するにあたって、一定量の噴霧液体を特定の時間をかけて噴霧し粉体流路内の液体ガス濃度を徐々に上昇させ所望の値に近づける方法では、装置サイズが大型化する、すなわち粉体流路内の容積が大きくなるほど粉体流路内の液体ガス濃度を所望の濃度にするのに長い時間を要するため、トナー粒子の形状の変形およびトナー粒子間の凝集を招き、所望のトナーを得ることができない。
【0022】
粉体流路内のガス濃度を一定にするために必要な噴霧液体の噴霧量は、装置サイズ、目的の噴霧濃度、噴霧時間、処理量等により異なるが、噴霧工程において、粉体流路内のガス濃度を素早く所望の濃度にするために必要な量の噴霧液体を、装置サイズすなわち粉体流路内の容積に応じて増加させることによって、粉体流路内におけるガス濃度の立ち上りを改善することができ、膜形成を短時間で行うことが可能になるので、トナー粒子の形状の変形およびトナー粒子間の凝集を抑制できる。またトナー母粒子表面で樹脂微粒子が均一に膜化できるので、膜質の向上を図ることができる。このような方法でトナーを製造することによって、粗大粒子の発生を抑制でき、膜質の良好なトナーを安定して得ることができる。
【0023】
また、トナー母粒子および樹脂微粒子の材料選択性が広くトナーの帯電特性や流動性を設計する際の自由度が大きく、またトナー母粒子に低融点の材料を使用した際にも保存安定性が悪化することのないトナーを安定して製造することができる。
【0024】
また本発明によれば、膜化工程の時間が、10分間以上45分間以下である。追加で噴霧液体を噴霧することで膜形成の時間を短くできる本発明において噴霧工程の時間を10分間以上45分間以下とすることによって、トナー粒子の形状の変形およびトナー粒子間の凝集を避ける効果を顕著に発現させることができる。したがって、粗大粒子の発生を抑制でき、膜質の良好なトナーをより安定して得ることができる。
【0025】
また本発明によれば、噴霧液体は、ガス化した際のLEL濃度が1.7体積%以上6.7体積%以下のアルコールである。LEL濃度が1.7体積%より低いアルコールは、トナー母粒子および樹脂微粒子を可塑化させる能力が低すぎて、トナー母粒子表面に対する樹脂微粒子の膜化が好適に進行せず、膜化に要する時間が長くなり過ぎる。そのため、トナー粒子の形状の変形やトナー粒子間の凝集を招き、所望の形状や粒子径を有するトナーを高い収率で得ることができなくなってしまう。また、LEL濃度が6.7体積%より高いアルコールを用いた場合には、トナー母粒子および樹脂微粒子の可塑化が強くなり過ぎて、トナー母粒子同士あるいは樹脂微粒子同士の固着や凝集が発生して、所望の粒子径を有するトナーを高い収率で得ることができなくなってしまう。
【0026】
また本発明によれば、噴霧液体は、分子中の炭素の数が3個以下の低級アルコールである。液体がこのような炭素数の低級アルコールであることによって、被覆材料である樹脂微粒子のトナー母粒子に対する濡れ性を高めることができるので、トナー母粒子の表面全面または大部分に樹脂微粒子を付着させることができ、また付着した樹脂微粒子の変形および膜化が容易となる。また分子中の炭素の数が3個以下の低級アルコールは蒸気圧が大きいので、噴霧液体をトナー母粒子および樹脂微粒子から除去するときの乾燥時間を短縮することができ、トナー母粒子同士の凝集を抑制することができる。したがって、粗大粒子の発生を抑制でき、膜質の良好なトナーをより一層安定して得ることができる。
【0027】
また本発明によれば、トナーは本発明のトナーの製造方法で製造される。本発明の製造方法で製造されたトナーは、粗大粒子がなく、膜質が良好である。またトナー母粒子に低融点の材料を使用していたとしても保存安定性が良好である。このようなトナーを用いて画像を形成することによって、長期間に渡って良好なトナー像を形成することができる。
【0028】
また本発明によれば、現像剤は本発明のトナーを含む。本発明のトナーは、低温定着させるために低融点のトナー母粒子を使用しても保存安定性の悪化がないので、高温雰囲気下で使用した場合にも、現像槽内での流動性悪化が軽減され、長期間に渡って良好な現像性を確保することができる現像剤とすることができる。
【0029】
また本発明によれば、現像剤は本発明のトナーとキャリアとを含む2成分現像剤である。低温定着させるために低融点のトナー母粒子を使用した場合にも保存安定性の悪化がない本発明のトナーを含むので、キャリアへのトナースペントによる帯電付与能力の低下を防止し、長期間に渡って良好な現像性を確保することができる2成分現像剤とすることができる。
【0030】
また本発明によれば、現像装置は本発明の現像剤を用いてトナー像を形成する。本発明の現像剤を用いて現像を行うことによって、長期間に渡って像担持体表面に良好なトナー像を安定して形成することができる現像装置とすることができる。
【0031】
また本発明によれば、画像形成装置は、本発明の現像装置を用いて画像形成を行う。これによって、長期間に渡って良好な画像を安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
1、トナーの製造方法
図1は、本発明の第1の実施形態であるトナーの製造方法の手順の一例を示すフローチャートである。図1に示すように、本発明の第1の実施形態であるトナーの製造方法は、トナー母粒子を作製するトナー母粒子作製工程S1と、樹脂微粒子を調製する樹脂微粒子調製工程S2と、樹脂微粒子でトナー母粒子表面を被覆する被覆工程S3とを含む。
【0033】
(1)トナー母粒子作製工程S1
ステップS1のトナー母粒子作製工程では、樹脂微粒子によって被覆されるべきトナー母粒子を作製する。トナー母粒子は、少なくとも結着樹脂および着色剤を含む粒子である。トナー母粒子の作製方法は特に限定されず、公知の方法によって作製することができる。たとえば、粉砕法などの乾式法、ならびに懸濁重合法、乳化凝集法、分散重合法、溶解懸濁法および溶融乳化法などの湿式法が挙げられる。以下、粉砕法でトナー母粒子を作製する方法を記載する。
【0034】
(粉砕法によるトナー母粒子の作製方法)
粉砕法によるトナー母粒子の作製では、結着樹脂、着色剤およびその他の添加剤を含むトナー組成物を混合機で乾式混合した後、混練機で溶融混練する。溶融混練によって得られる混練物を冷却固化し、冷却固化した固化物を粉砕機で粉砕する。その後、必要に応じて分級などの粒度調整を行うことによってトナー母粒子が得られる。
【0035】
混合機としては公知のものを使用でき、たとえば、ヘンシェルミキサ(商品名、三井鉱山株式会社製)、スーパーミキサ(商品名、株式会社カワタ製)およびメカノミル(商品名、岡田精工株式会社製)などのヘンシェルタイプの混合装置、オングミル(商品名、ホソカワミクロン株式会社製)、ハイブリダイゼーションシステム(商品名、株式会社奈良機械製作所製)、ならびにコスモシステム(商品名、川崎重工業株式会社製)などが挙げられる。
【0036】
混練機としても公知のものを使用でき、たとえば二軸押出し機、三本ロールおよびラボブラストミルなどの一般的な混練機を使用できる。さらに具体的には、たとえば、TEM−100B(商品名、東芝機械株式会社製)、PCM−65/87およびPCM−30(以上いずれも商品名、株式会社池貝製)などの1軸または2軸のエクストルーダ、ならびにニーデックス(商品名、三井鉱山株式会社製)などのオープンロール方式の混練機が挙げられる。これらの中でも、オープンロール方式の混練機が好ましい。
【0037】
粉砕機としては、たとえば超音速ジェット気流を利用して粉砕するジェット式粉砕機、および高速で回転する回転子(ロータ)と固定子(ライナ)との間に形成される空間に固化物を導入して粉砕する衝撃式粉砕機が挙げられる。
【0038】
分級には、遠心力による分級または風力による分級によって過粉砕トナー母粒子を除去できる公知の分級機を使用することができ、たとえば旋回式風力分級機(ロータリー式風力分級機)などが挙げられる。
【0039】
(トナー母粒子原料)
前述のように、トナー母粒子は、結着樹脂および着色剤を含む。結着樹脂としては特に限定されず、黒トナー用またはカラートナー用の公知の結着樹脂を用いることができるが、たとえばポリスチレンおよびスチレン−アクリル酸エステル共重合樹脂などのスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ならびにエポキシ樹脂などが挙げられる。また結着樹脂の原料モノマー混合物に離型剤を混合し、重合反応を行って得られる樹脂を用いてもよい。結着樹脂は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0040】
上記結着樹脂の中でも、ポリエステルは、透明性に優れ、トナー母粒子に良好な粉体流動性、低温定着性および二次色再現性などを付与できるので、カラートナー用の結着樹脂に好適である。ポリエステルとしては公知のものを使用でき、たとえば多塩基酸と多価アルコールとの重縮合物などが挙げられる。
【0041】
多塩基酸としては、ポリエステル用モノマーとして知られるものを使用でき、たとえば、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、無水トリメリト酸、ピロメリト酸およびナフタレンジカルボン酸などの芳香族カルボン酸類、無水マレイン酸、フマル酸、琥珀酸、アルケニル無水琥珀酸およびアジピン酸などの脂肪族カルボン酸類、ならびにこれら多塩基酸のメチルエステル化物などが挙げられる。多塩基酸は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0042】
多価アルコールとしても、ポリエステル用モノマーとして知られるものを使用でき、たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリンなどの脂肪族多価アルコール類、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールAなどの脂環式多価アルコール類、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などの芳香族系ジオール類などが挙げられる。多価アルコールは1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0043】
多塩基酸と多価アルコールとの重縮合反応は常法に従って実施でき、たとえば、有機溶媒の存在下または非存在下および重縮合触媒の存在下に、多塩基酸と多価アルコールとを接触させることによって行われ、生成するポリエステルの酸価、軟化温度などが所定の値になったところで終了する。これによって、ポリエステルが得られる。多塩基酸の一部に、多塩基酸のメチルエステル化物を用いると、脱メタノール重縮合反応が行われる。この重縮合反応において、多塩基酸と多価アルコールとの配合比、反応率などを適宜変更することによって、たとえば、ポリエステルの末端のカルボキシル基含有量を調整でき、ひいては得られるポリエステルの特性を変性できる。また多塩基酸として無水トリメリト酸を用いると、ポリエステルの主鎖中にカルボキシル基を導入することによっても、変性ポリエステルが得られる。ポリエステルの主鎖および/または側鎖にカルボキシル基、スルホン酸基などの親水性基を結合させ、水中での自己分散性ポリエステルも使用できる。またポリエステルとアクリル樹脂とをグラフト化して用いてもよい。
【0044】
結着樹脂は、ガラス転移点が30℃以上80℃以下であることが好ましい。結着樹脂のガラス転移点が30℃未満であると、画像形成装置内部においてトナーが熱凝集するブロッキングを発生しやすくなり、保存安定性が低下するおそれがある。結着樹脂のガラス転移点が80℃を超えると、記録媒体へのトナーの定着性が低下し、定着不良が発生するおそれがある。
【0045】
着色剤としては、電子写真分野で常用される有機系染料、有機系顔料、無機系染料、無機系顔料などを使用できる。
【0046】
黒色の着色剤としては、たとえば、カーボンブラック、酸化銅、二酸化マンガン、アニリンブラック、活性炭、非磁性フェライト、磁性フェライトおよびマグネタイトなどが挙げられる。
【0047】
黄色の着色剤としては、たとえば、黄鉛、亜鉛黄、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、ミネラルファストイエロー、ニッケルチタンイエロー、ネーブルイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローG、ベンジジンイエローGR、キノリンイエローレーキ、パーマネントイエローNCG、タートラジンレーキ、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185などが挙げられる。
【0048】
橙色の着色剤としては、たとえば、赤色黄鉛、モリブデンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、インダスレンブリリアントオレンジRK、ベンジジンオレンジG、インダスレンブリリアントオレンジGK、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43などが挙げられる。
【0049】
赤色の着色剤としては、たとえば、ベンガラ、カドミウムレッド、鉛丹、硫化水銀、カドミウム、パーマネントレッド4R、リソールレッド、ピラゾロンレッド、ウオッチングレッド、カルシウム塩、レーキレッドC、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキ、ブリリアントカーミン3B、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222などが挙げられる。
【0050】
紫色の着色剤としては、たとえば、マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキなどが挙げられる。
【0051】
青色の着色剤としては、たとえば、紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩素化物、ファーストスカイブルー、インダスレンブルーBC、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60などが挙げられる。
【0052】
緑色の着色剤としては、たとえば、クロムグリーン、酸化クロム、ピクメントグリーンB、マイカライトグリーンレーキ、ファイナルイエローグリーンG、C.I.ピグメントグリーン7などが挙げられる。
【0053】
白色の着色剤としては、たとえば、亜鉛華、酸化チタン、アンチモン白、硫化亜鉛などの化合物が挙げられる。
【0054】
着色剤は1種を単独で使用でき、または2種以上の異なる色のものを併用できる。また同色であっても、2種以上を併用できる。着色剤の使用量は特に制限されないけれども、好ましくは結着樹脂100重量部に対して5重量部以上20重量部以下、さらに好ましくは5重量部以上10重量部以下である。
【0055】
着色剤は、結着樹脂中に均一に分散させるために、マスターバッチ化して用いてもよい。また2種以上の着色剤を複合粒子化して用いてもよい。複合粒子は、たとえば、2種以上の着色剤に適量の水、低級アルコールなどを添加し、ハイスピードミルなどの一般的な造粒機で造粒し、乾燥させることによって製造できる。マスターバッチまたは複合粒子は、乾式混合の際にトナー組成物に混入させる。
【0056】
トナー母粒子には、結着樹脂および着色剤の他に電荷制御剤が含まれてもよい。電荷制御剤としてはこの分野で常用される正電荷制御用および負電荷制御用の電荷制御剤を使用できる。
【0057】
正電荷制御用の電荷制御剤としては、たとえば、ニグロシン染料、塩基性染料、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩、アミノピリン、ピリミジン化合物、多核ポリアミノ化合物、アミノシラン、ニグロシン染料およびその誘導体、トリフェニルメタン誘導体、グアニジン塩およびアミジン塩などが挙げられる。
【0058】
負電荷制御用の電荷制御剤としては、オイルブラック、スピロンブラックなどの油溶性染料、含金属アゾ化合物、アゾ錯体染料、ナフテン酸金属塩、サリチル酸およびその誘導体の金属錯体および金属塩(金属はクロム、亜鉛、ジルコニウムなど)、ホウ素化合物、脂肪酸石鹸、長鎖アルキルカルボン酸塩、樹脂酸石鹸などが挙げられる。電荷制御剤は1種を単独で使用でき、または必要に応じて2種以上を併用できる。電荷制御剤の使用量は特に制限されず広い範囲から適宜選択できるけれども、好ましくは、結着樹脂100重量部に対して0.5重量部以上3重量部以下である。
【0059】
またトナー母粒子には、結着樹脂および着色剤の他に離型剤が含まれてもよい。離型剤としてはこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、パラフィンワックスおよびその誘導体、マイクロクリスタリンワックスおよびその誘導体などの石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックスおよびその誘導体、ポリオレフィンワックス(ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなど)およびその誘導体、低分子量ポリプロピリンワックスおよびその誘導体、ポリオレフィン系重合体ワックス(低分子量ポリエチレンワックスなど)およびその誘導体などの炭化水素系合成ワックス、カルナバワックスおよびその誘導体、ライスワックスおよびその誘導体、キャンデリラワックスおよびその誘導体、木蝋などの植物系ワックス、蜜蝋、鯨蝋などの動物系ワックス、脂肪酸アミド、フェノール脂肪酸エステルなどの油脂系合成ワックス、長鎖カルボン酸およびその誘導体、長鎖アルコールおよびその誘導体、シリコーン系重合体、高級脂肪酸などが挙げられる。誘導体には、酸化物、ビニル系モノマーとワックスとのブロック共重合物、ビニル系モノマーとワックスとのグラフト変性物などが含まれる。ワックスの使用量は特に制限されず広い範囲から適宜選択できるけれども、好ましくは結着樹脂100重量部に対して0.2〜20重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部、特に好ましくは1.0〜8.0重量部である。
【0060】
(トナー母粒子)
トナー母粒子作製工程S1を経て得られるトナー母粒子は、体積平均粒径が4μm以上8μm以下であることが好ましい。トナー母粒子の体積平均粒径が4μm以上8μm以下であると、高精細な画像を長期間に渡って安定して形成することができる。またこの範囲まで小粒径化することによって、少ない付着量でも高い画像濃度が得られ、トナー消費量を削減できる効果も生じる。トナー母粒子の体積平均粒径が4μm未満であると、トナー母粒子の粒径が小さくなりすぎるので、高帯電化および低流動化が起こるおそれがある。この高帯電化および低流動化が発生すると、感光体にトナーを安定して供給することができなくなり、地肌かぶりおよび画像濃度の低下などが発生するおそれがある。トナー母粒子の体積平均粒径が8μmを超えると、トナー母粒子の粒径が大きくなりすぎるので、形成画像の層厚が高くなり著しく粒状性を感じる画像となって高精細な画像を得ることができない。またトナー母粒子の粒径が大きくなることによって比表面積が減少し、トナーの帯電量が小さくなる。トナーの帯電量が小さくなると、トナーが感光体に安定して供給されず、トナー飛散による機内汚染が発生するおそれがある。
【0061】
(2)樹脂微粒子調製工程S2
ステップS2の樹脂微粒子調製工程では、乾燥された樹脂微粒子を調製する。樹脂微粒子の乾燥方法としてはどのような方法を用いてもよく、たとえば熱風受熱式乾燥、伝導伝熱式乾燥、遠赤外線乾燥、マイクロ波乾燥などの方法を用いて乾燥樹脂微粒子を得ることができる。樹脂微粒子は、後述の被覆工程S3において、トナー母粒子表面を被覆する材料として用いられる。トナー母粒子表面を被覆する膜化材料として樹脂微粒子を用いることによって、たとえば現像剤の保存中にトナー母粒子に含まれる離型剤などの低融点成分の溶融によるトナー凝集の発生を防止することができる。また、樹脂微粒子の形状がトナー母粒子表面に残るので、平滑な表面を有するトナーと比べて、クリーニング性に優れるトナーを得ることができる。
【0062】
(樹脂微粒子の調製方法)
樹脂微粒子は、たとえば、樹脂微粒子原料である樹脂をホモジナイザーなどで乳化分散させ細粒化することによって得ることができる。また樹脂のモノマー成分の重合によっても得ることができる。
【0063】
(樹脂微粒子原料)
樹脂微粒子原料として用いられる樹脂としては、たとえば、一般的なトナー原料に用いられる樹脂を用いることができ、ポリエステル、アクリル樹脂、スチレン樹脂およびスチレン−アクリル共重合体などが挙げられる。樹脂微粒子は、上記例示した樹脂の中でも、アクリル樹脂、スチレン−アクリル共重合体を含むことが好ましい。アクリル樹脂、スチレン−アクリル共重合体は、軽量で高い強度を有し、さらに透明性も高く安価で粒子径の揃った粒子を得やすいなど多くの利点を有する。
【0064】
樹脂微粒子原料として用いられる樹脂としては、トナー母粒子に含まれる結着樹脂と同じ種類の樹脂であってもよく、違う種類の樹脂であってもよいけれども、トナー母粒子の表面改質を行う点において、違う種類の樹脂が用いられることが好ましい。樹脂微粒子原料として用いられる樹脂としてトナー母粒子と異なる種類の樹脂が用いられる場合、樹脂微粒子原料として用いられる樹脂の軟化温度が、トナー母粒子に含まれる結着樹脂の軟化温度よりも高いことが好ましい。これによって、本実施形態で製造されたトナーは、保存中にトナー同士が融着することなく、保存安定性を向上させることができる。また樹脂微粒子原料として用いられる樹脂の軟化温度は、トナーが使用される画像形成装置にもよるけれども、80℃以上140℃以下であることが好ましい。このような温度範囲の樹脂を用いることによって、保存安定性と定着性とを兼ね備えたトナーが得られる。
【0065】
(樹脂微粒子)
樹脂微粒子は、体積平均粒径がトナー母粒子の平均粒径よりも充分に小さいことが必要であり、0.05μm以上1μm以下が好ましい。また樹脂微粒子の体積平均粒径は、0.1μm以上0.5μm以下がさらに好ましい。樹脂微粒子の体積平均粒径が0.05μm以上1μm以下であることによって、好適な大きさの突起部がトナーの被覆層表面に形成される。これによって本実施形態で製造されるトナーは、クリーニング時にクリーニングブレードに引っ掛かり易くなるので、クリーニング性が向上する。
【0066】
(3)被覆工程S3
ステップS3の被覆工程では、樹脂微粒子でトナー母粒子表面を被覆する。まず、本工程で使用されるトナーの製造装置について記載する。ステップS3の被覆工程では、たとえば図2に示すトナーの製造装置201を用い、ステップS1のトナー母粒子作製工程で作製したトナー母粒子表面にステップS2の樹脂微粒子調製工程で調製した樹脂微粒子を付着させて、前記装置内での循環と撹拌による衝撃力との相乗効果でトナー母粒子表面に樹脂膜を形成する。
【0067】
(トナーの製造装置)
図2は、本発明の第1の実施形態であるトナーの製造方法で用いるトナーの製造装置201の構成を示す正面図である。図3は、図2に示すトナーの製造装置201を切断面線A200―A200からみた概略断面図である。トナーの製造装置201は、粉体流路202と、噴霧手段203と、回転撹拌手段204と、図示しない温度調整用ジャケットと、粉体投入部206と、粉体回収部207とを含んで構成される。回転撹拌手段204と、粉体流路202とは循環手段を構成する。
【0068】
〔粉体流路〕
粉体流路202は、撹拌部208と、粉体流過部209とから構成される。撹拌部208は、内部空間を有する円筒形状の容器状部材である。撹拌部208には、開口部210,211が形成される。開口部210は、撹拌部208の軸線方向一方側の面208aにおける略中央部において、撹拌部208の面208aを含む側壁を厚み方向に貫通するようにして形成される。開口部211は、撹拌部208の前記軸線方向一方側の面208aに垂直な側面208bにおいて、撹拌部208の側面208bを含む側壁を厚み方向に貫通するようにして形成される。粉体流過部209は、一端が開口部210と接続され、他端が開口部211と接続される。これによって撹拌部208の内部空間と粉体流過部209の内部空間とが連通され、粉体流路202が形成される。トナー母粒子、樹脂微粒子および気体はこの粉体流路202を流過する。粉体流路202は、トナー母粒子および樹脂微粒子が流動する方向である粉体流動方向が一定の方向となるように設けられる。
【0069】
〔回転撹拌手段〕
回転撹拌手段204は、回転軸218と、円盤状の回転盤219と、複数の撹拌羽根220とを含む。回転軸218は、撹拌部208の軸線に一致する軸線を有しかつ撹拌部208の軸線方向他方側の面208cに、面208cを含む側壁を厚み方向に貫通するように形成される貫通孔221に挿通されるようにして設けられる。回転軸218は、回転軸218を駆動する部分である図示しない回転軸部において、図示しないモータによって軸線回りに回転する円柱棒状部材である。回転盤219は、その軸線が回転軸218の軸線に一致するように回転軸218によって支持され、回転軸218の回転に伴って回転する円盤状部材である。複数の撹拌羽根220は、回転盤219の周縁部分によって支持され、回転盤219の回転に伴って回転する。回転撹拌手段204が回転することで発生する空気の流れによって、トナー母粒子および樹脂微粒子などの粉体が粉体流路202内で流動する。
【0070】
回転軸部からは、空気を粉体流路202内に向けて流すことができる。粉体流路202内の空気および液体ガスは、ガス排出部222から排出される。このようにガス排出部222から排出される空気および液体ガスを排出エアと呼ぶ。ガス排出部222では、排出エアの流量を調整可能である。ガス排出部222は複数設けてもよい。
【0071】
回転軸218は、最外周における周速度を50m/sec以上にして回転可能である。最外周とは、回転軸218の軸線方向に垂直な方向において、回転軸218との距離がもっとも長い回転撹拌手段204の部分である。
【0072】
〔噴霧手段〕
噴霧手段は、第1噴霧手段203aと第2噴霧手段203bとを含む。以下、第1噴霧手段203aと第2噴霧手段203bとをまとめて噴霧手段203と記載することがある。第1噴霧手段203aは、粉体流路202の粉体流過部209において、トナー母粒子および樹脂微粒子の流動方向における開口部211に最も近い側の粉体流過部に設けられる。第1噴霧手段203aは、噴霧液体を貯留する図示しない液体貯留部と、キャリアガスを供給する図示しないキャリアガス供給部と、液体とキャリアガスとを混合し、得られる混合物を粉体流路202内に存在するトナー母粒子に液体の液滴を噴霧する第1二流体ノズル205aとを含む。第1二流体ノズル205aは、粉体流路202の外壁に形成される開口に挿通されて設けられる。第2噴霧手段203bとしては、第1噴霧手段203aと同じ構造のものを用いることができる。この場合、第2噴霧手段は粉体流過部209内に取り付けることが好ましく、たとえば粉体流過部209内において第1噴霧手段203aより下流に取り付ける。
【0073】
噴霧手段で噴霧される液体(以下「噴霧液体」ともいう)としてはトナー母粒子および樹脂微粒子を可塑化させる効果のある液体を用いる。噴霧液体については後で詳しく記載する。キャリアガスとしては、圧縮エアなどを用いることができる。
【0074】
〔温度調整用ジャケット〕
温度調整手段である図示しない温度調整用ジャケットは、粉体流路202の外側の少なくとも一部に設けられ、前記ジャケット内部の空間に冷却媒または加温媒を通して粉体流路202内および回転撹拌手段204の温度を所定の温度に調整する。本実施形態において、温度調整用ジャケットは粉体流路202の外側全体に設けられることが好ましい。
【0075】
〔粉体投入部および粉体回収部〕
粉体流路202の粉体流過部209には、粉体投入部206と、粉体回収部207とが接続される。図4は、粉体投入部206および粉体回収部207の周りの構成を示す正面図である。粉体投入部206は、トナー母粒子および樹脂微粒子を供給する図示しないホッパと、ホッパと粉体流路202とを連通する供給管212と、供給管212に設けられる電磁弁213とを備える。ホッパから供給されるトナー母粒子および樹脂微粒子は、電磁弁213によって供給管212内の流路が開放されている状態において、供給管212を介して粉体流路202に供給される。粉体流路202に供給されたトナー母粒子および樹脂微粒子は、回転撹拌手段204による撹拌によって、一定の粉体流動方向に流過する。また電磁弁213によって供給管212内の流路が閉鎖されている状態においては、トナー母粒子および樹脂微粒子は粉体流路202に供給されない。
【0076】
粉体回収部207には、回収タンク215と、回収タンク215と粉体流路202とを連通する回収管216と、回収管216に設けられる電磁弁217とを備える。電磁弁217によって回収管216内の流路が開放されている状態において、粉体流路202を流過するトナー粒子は回収管216を介して回収タンク215に回収される。また電磁弁217によって回収管216内の流路が閉鎖されている状態において、粉体流路202を流過するトナー粒子、トナー母粒子および樹脂微粒子は回収されない。
【0077】
(被覆工程)
このようなトナーの製造装置201を用いる被覆工程S3は、温度調整工程S3aと、樹脂微粒子付着工程S3bと、噴霧工程S3cと、膜化工程S3dと、回収工程S3eとを含む。
【0078】
〔温度調整工程S3a〕
ステップS3aの温度調整工程では、回転撹拌手段204を回転させながら、粉体流路202内および回転撹拌手段204の温度を所定の温度に調整する。その方法として、粉体流路202の外側に配設した温度調整用ジャケットに水などの媒体を流す。粉体流路202内の温度が好適でないと、後述の樹脂微粒子付着工程S3bにおいて投入されるトナー母粒子および樹脂微粒子が粉体流路内壁に付着しやすくなり、また樹脂微粒子の膜化が円滑に進まないおそれがある。粉体流路202内および回転撹拌手段204が所定の温度に調整されることよって、トナー母粒子および樹脂微粒子が軟化変形しない温度以下に制御することができ、トナー母粒子への樹脂微粒子の付着および膜化が円滑に進む。また粉体流路内壁への付着力が低減するので、トナー母粒子および樹脂微粒子の粉体流路内壁への付着を抑えることができ、トナー母粒子および樹脂微粒子によって粉体流路内が狭くなることを防止できる。したがって、トナー母粒子表面が樹脂微粒子で均一に被覆されたクリーニング性に優れるトナーを高い収率で製造することができる。
【0079】
また、後述の噴霧工程S3cおよび膜化工程S3dにおいては、トナー母粒子、樹脂微粒子および液体にかかる温度にばらつきが少なくなり、トナー母粒子および樹脂微粒子の安定な流動状態を保つことが可能となる。
【0080】
被覆工程S3では、合成樹脂などからなるトナー母粒子および樹脂微粒子が通常粉体流路内の内壁に何度も衝突し、衝突の際に、衝突エネルギーの一部が熱エネルギーに変換され、トナー母粒子および樹脂微粒子に蓄積される。衝突回数が増加するとともに、それらの粒子に蓄積される熱エネルギーが多くなり、やがてトナー母粒子および樹脂微粒子は軟化して粉体流路の内壁に付着するが、前述のように前記ジャケット内部の空間に冷却媒または加温媒を通して温度調整することによって、過度の温度上昇によるトナー母粒子および樹脂微粒子の粉体流路内壁への付着を抑えることができ、噴霧手段から噴霧される液体が粉体流路内に蓄積することによるトナー母粒子および樹脂微粒子の粉体流路内への付着およびそれによる粉体流路内の閉塞を抑えることができる。したがって、トナー母粒子に樹脂微粒子が均一に被覆し、樹脂層で被覆されたクリーニング性に優れるトナーを高い収率で製造することができる。
【0081】
噴霧手段203より下流の粉体流過部209内部では、噴霧された液体が乾燥せずに残存している状態にあり、温度が適正でないと乾燥速度が遅くなり液体が滞留しやすく、これにトナー母粒子が接触すると、粉体流路202内壁にトナー母粒子が付着しやすくなる。これがトナー母粒子の凝集発生源になりうる。開口部210付近の内壁では、粉体流過部209を流過して開口部210から撹拌部208に流入するトナー母粒子と、回転撹拌手段204による撹拌で撹拌部208内を流動するトナー母粒子とが衝突しやすい。これによって、衝突したトナー母粒子が開口部210付近に付着しやすい。したがってこのようなトナー母粒子が付着しやすい部分を温度調整用ジャケットで温度調整することによって、粉体流路202内壁に対するトナー母粒子の付着を一層確実に防止することができる。
【0082】
〔樹脂微粒子付着工程S3b〕
ステップS3bの樹脂微粒子付着工程では、トナー母粒子表面に樹脂微粒子を付着させる。具体的には、所定の温度に調整され、回転撹拌手段204の回転軸218が回転している粉体流路202内に、粉体投入部206からトナー母粒子および樹脂微粒子を供給する。粉体流路202に供給されたトナー母粒子および樹脂微粒子は、回転撹拌手段204によって撹拌され、粉体流路202の粉体流過部209を矢符214方向に流過する。これによって、樹脂微粒子がトナー母粒子表面に付着する。
【0083】
〔噴霧工程S3c〕
ステップS3cの噴霧工程では、表面に樹脂微粒子が付着した流動状態にあるトナー母粒子に、トナー母粒子および樹脂微粒子を溶解せず、可塑化させる効果のある噴霧液体を噴霧手段から噴霧する。噴霧液体の噴霧は、粉体流路202においてトナー母粒子表面および樹脂微粒子の流動速度が安定してから開始することが好ましい。こうすることで、トナー母粒子および樹脂微粒子に噴霧液体を均一に噴霧することができるので、被覆層が均一に被覆したトナーの収率を向上させることができる。
【0084】
噴霧液体は、送液ポンプによって一定流量で噴霧手段に送液される。噴霧手段から噴霧された噴霧液体は、粉体流路内において充分に速い時間でガス化し、ガス化した噴霧液体は樹脂微粒子が付着したトナー母粒子表面に展延する。これによってトナー母粒子および樹脂微粒子が可塑化する。粉体流路202内においてはガス化した噴霧液体と、キャリアガスなどの他の気体とが混合した状態で存在する。
【0085】
噴霧液体は、噴霧後にトナー母粒子および樹脂微粒子から除去される必要があるので、沸点が低く気化しやすいものを用いる。気化しやすく、かつトナー母粒子および樹脂微粒子を溶解せず可塑化させる効果のある噴霧液体としては、充分に速い時間でガス化するような有機溶剤が用いられる。これらガス化した有機溶剤を管理運用する手法においては、爆発限界濃度が知られている。これは空気と気化した有機溶剤とが混合することで爆発が起きる範囲を示しており、その爆発下限界をLEL濃度とよぶ。本実施形態において、このLEL濃度を体積濃度として有機溶剤の気化したガス固有の特性として扱う。通常LEL濃度は空気と混合して爆発する範囲を示すものとするが、本実施形態においてはガス固有の限界体積濃度を示す値として用い、窒素等の非爆発気体と混合した際にも同様にガス固有のLEL濃度として扱う。
【0086】
このような有機溶剤としては、低級アルコールを含む液体が挙げられる。低級アルコールとしては、たとえば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられるが、これらの中でも3級以下のアルコールが好ましい。噴霧液体がこのような低級アルコールを含むことによって、被覆材料である樹脂微粒子のトナー母粒子に対する濡れ性を高めることができ、トナー母粒子の表面全面または大部分に樹脂微粒子を付着させて、変形および膜化させることが容易となる。また低級アルコールは粘度が小さく蒸気圧が大きいので、噴霧液体を除去するときの乾燥時間をより一層短縮することができる。さらに噴霧手段203から噴霧されるときの噴霧液体の液滴径が粗大化することなく、微細な液滴径での噴霧および均一な液滴径での噴霧が可能となる。トナー母粒子と液滴との衝突時には、液滴の微細化がさらに促進されるので、トナー母粒子および樹脂微粒子表面を均一にぬらし、馴染ませて、衝突エネルギーとの相乗効果で樹脂微粒子を軟化し、均一性に優れたトナーを得ることができる。なお、噴霧液体の粘度は、25℃において測定される。液体の粘度は、たとえば、コーンプレート型回転式粘度計によって測定することができる。
【0087】
また噴霧液体は、ガス化した際のLEL濃度が1.7体積%以上6.7体積%以下のアルコールであることが好ましい。LEL濃度が1.7体積%より低いアルコールは、トナー母粒子および樹脂微粒子を可塑化させる能力が低すぎて、トナー母粒子表面に対する樹脂微粒子の膜化が好適に進行せず、膜化に要する時間が長くなり過ぎる。そのため、トナー粒子の形状の変形やトナー粒子間の凝集を招き、所望の形状や粒子径を有するトナーを高い収率で得ることができなくなってしまう。また、LEL濃度が6.7体積%より高いアルコールを用いた場合には、トナー母粒子および樹脂微粒子の可塑化が強くなり過ぎて、トナー母粒子同士あるいは樹脂微粒子同士の固着や凝集が発生して、所望の粒子径を有するトナーを高い収率で得ることができなくなってしまう。
【0088】
噴霧手段から噴霧された噴霧液体は粉体流路202内でガス化するので、噴霧液体を粉体流路202内に噴霧し、エアによって粉体流路202外に排出させるという動作を充分な時間をかけて行うと、ガス化した噴霧液体(以下「液体ガス」とも記載する)のガス濃度は粉体流路202内で一定となる。本工程および後述の膜化工程S3dで、トナー母粒子および樹脂微粒子を充分に可塑化するためには、粉体流路202内のガス濃度が一定であることが必要である。また、粉体流路202内のガス濃度を一定に保つことによって、保たない場合より、噴霧液体の乾燥速度を速めることができるので、未乾燥の液体が残存しているトナー粒子が他のトナー粒子に付着することを防止することができ、トナー粒子の凝集を一層抑制することができる。したがって、被覆層が均一に被覆したトナーの収率をより一層向上させることができる。液体ガスおよびキャリアガスを含む空気は、ガス排出部222を通って粉体流路202外へ排出される。
【0089】
本実施形態では、第1噴霧手段203aおよび第2噴霧手段203bの2つの噴霧手段203を用い、第1噴霧手段203aでは本工程全般に渡って噴霧が行われる。第2噴霧手段203bからは、第1噴霧手段203aからの噴霧に加えてその噴霧開始時から下記式(1)を満たす追加噴霧時間T1までの間に噴霧が行われる。そのとき第2噴霧手段203bからは、下記式(2)を満たす追加ガス体積量Kとなる量の噴霧液体が粉体流路内に追加で噴霧される。
0.2τ≦T1≦τ(τ=V/Fair) …(1)
0.6κ≦K≦1.6κ(κ=(Fin/Fair)×V) …(2)
【0090】
Finは、噴霧液体がガス化したときの体積量から求められるガス体積流量を示す。この体積量は、噴霧液体の種類によって異なる。ガス体積流量は、第1噴霧手段203aから粉体流路内に噴霧される噴霧液体の噴霧速度に、噴霧液体がガス化した体積量を掛けることで求められる。本実施形態において、噴霧速度とは、時間あたりの平均噴霧量から算出する。噴霧は間欠で行っても連続で行ってもよいが、キャリアガスの流量は固定しておき、定量ポンプなどで噴霧液体の流量を調節することで噴霧液体の噴霧量を制御すると機構的にも簡単である。Fairは粉体流路内から排出される空気の空気体積流量を示し、Vは粉体流路内の容積を示す。噴霧液体がガス化した体積量(以下「ガス化容積」とも記載する)は、噴霧液体を構成する分子の分子量で噴霧液体の重量を除し、22.4Lを掛けることによって求める。追加ガス体積量Kは、第2噴霧手段203bからの噴霧液体の噴霧量にガス化容積を掛けることで求められる。なお、第2噴霧手段203bから噴霧される噴霧液体は、霧状でもガス化した状態でもよい。
【0091】
第1噴霧手段203aおよび第2噴霧手段203bの2つの噴霧手段203を用いる理由を以下に記載する。
【0092】
1つの噴霧手段を用いて一定量の噴霧液体の噴霧を行う場合、粉体流路内のガス濃度Dの時間変化は、粉体流路内容積Vを利用して、下記式(5)のように表すことができる。
V(dD/dt)=Fin−D×Fair …(5)
【0093】
噴霧開始から充分な時間が経過すると、供給されるガス量と排出されるガス量とが釣合うので、粉体流路内のガス濃度Dは時間変化がなく一定となることから式(5)は(左辺)=0となる。このときのガス濃度をD∞とすると、
D∞=Fin/Fair …(6)
となる。つまり、液体ガスの供給量と排出量とが一定になる。左辺は粉体流路202内に蓄えられている液体ガス量(VD)の時間変化を表す。ガス濃度D∞と、粉体流路内容積Vとによって表される次の値を粉体流路内ガス定量κと表す。
κ=D∞×V
【0094】
ここで、上記式(5)の時間微分方程式を解くに当たり、変数A、変数Bおよび変数τを用いて以下のような式(7)を仮定する。
D=A×exp(−t/τ)+B …(7)
【0095】
式(7)が初期条件および式(5)を満たすように変数を決定していく。
まず、時間tが無限大のとき、DがD∞に収束することから、下記式(7a)が求められる。
B=D∞ …(7a)
【0096】
次に、時間tが0のとき、D=0となることから、下記式(7b)が求められる。
0=A+B
A=−B …(7b)
【0097】
式(7a),(7b)を式(7)に代入すると、下記理論式(8)が導かれる。
D=D∞{1−exp(−t/τ)} …(8)
【0098】
式(8)の微分方程式を求め、上記式(5)と係数を見比べることによって収速時間τを決定する。
【0099】
式(8)のexp(−t/τ)について解くと下記式(8a)となる。
exp(−t/τ)=1−(D/D∞) …(8a)
【0100】
式(8a)のガス濃度Dを時間tで微分すると、下記式(8b)となる。
(dD/dt)=(D∞/τ)exp(−t/τ) …(8b)
【0101】
式(8a)を式(8b)に代入してexp(−t/τ)を消去し、両辺に粉体流路内容積Vを掛けてV(dD/dt)としてまとめると、下記式(9)が求められる。
V(dD/dt)=V(D∞/τ){1−(D/D∞)} …(9)
【0102】
式(9)の係数と上記式(5)の係数と見比べる。
式(5)はV(dD/dt)=Fin−D×Fairであることから、下記式(10),(11)が導かれる。
【0103】
ガス濃度Dに関係する項について、−V(D∞/τ)×(D/D∞)=−D×Fair
…(10)
ガス濃度Dに関係しない項について、V(D∞/τ)=Fin …(11)
式(10)を計算すると下記式(10a)となる。
τ=V/Fair …(10a)
【0104】
式(10a)を上記式(11)に代入すると、上記式(6)となる。
D∞=(Fin/V)τ=(Fin/Fair)
【0105】
したがって、上記式(8)D=D∞{1−exp(−t/τ)}が上記式(5)の解となることが示される。
【0106】
しかしながら、上記理論式(8)は、実際のガス濃度とずれを生じ、ガス濃度が一定になるまでには必ず理論式(8)よりも長い時間を必要とする。このずれは、主に、粒子に向けて噴霧液体を噴霧していることから、トナー母粒子などの粒子表面および内部に噴霧液体がトラップされ蒸発しないか、または蒸発に時間がかかるために生じるものと考えられる。だが、噴霧開始から充分な時間が経過し、収束した際のガス濃度は理論式(8)のD∞にほぼ一致する。
【0107】
トナーの製造装置を大型化すると、理論式(8)などから分かるように、粉体流路内容積Vが大きくなることで収束時間τが長くなることから、液体ガスが存在しない状態から粉体流路内のガス濃度を一定にするためにはより長い時間が必要となる。特に上記のようにポンプで一定量の噴霧液体を送りガス化させる場合には、粉体流路内のガス化濃度はなかなか安定せず処理のために必要な実行濃度がすぐに得られない。そうなると、トナー粒子の形状の変形およびトナー粒子間の凝集を招き、所望のトナーを得ることができなくなる。
【0108】
粉体流路内のガス濃度を一定にするために必要な噴霧液体の噴霧量は、装置サイズ、目的の噴霧濃度、噴霧時間、処理量等により異なるが、噴霧工程において、第1噴霧手段203aによる噴霧に加え、粉体流路内のガス濃度を素早く所望の濃度にするために必要な量の噴霧液体を、装置サイズすなわち粉体流路内の容積に応じて第2噴霧手段203bで追加供給することによって、粉体流路内におけるガス濃度を理論式(8)に近づけてガス濃度の立ち上りを改善することができ、膜形成を短時間で行うことが可能になるので、トナー粒子の形状の変形およびトナー粒子間の凝集を抑制できる。またトナー母粒子表面で樹脂微粒子が均一に膜化できるので、膜質の向上を図ることができる。このような方法でトナーを製造することによって、粗大粒子の発生を抑制でき、膜質の良好なトナーを安定して得ることができる。また本発明では、噴霧工程S3cの途中で噴霧液体の噴霧量を変えるが、このように2つの噴霧手段を用いることによって噴霧液体の噴霧量を制御しやすくすることができる。
【0109】
また、トナー母粒子および樹脂微粒子の材料選択性が広くトナーの帯電特性や流動性を設計する際の自由度が大きく、またトナー母粒子に低融点の材料を使用した際にも保存安定性が悪化することのないトナーを安定して製造することができる。
【0110】
二流体ノズル205の軸線の方向である液体噴霧方向と、粉体流路202においてトナー母粒子および樹脂微粒子が流動する方向である粉体流動方向との成す角度θは、0°以上45°以下が好ましい。θがこのような範囲内であると、噴霧液体の液滴が粉体流路内壁で反跳することが防止され、樹脂膜が被覆されたトナー母粒子の収率を一層向上させることができる。角度θが45°を超えると、噴霧液体の液滴が粉体流路内壁で反跳しやすくなり、噴霧液体が滞留しやすくなってトナー粒子の凝集が発生し、収率が悪化する。
【0111】
噴霧手段203で噴霧した液体の拡がり角度φは、20°以上90°以下であることが好ましい。拡がり角度φがこの範囲から外れると、トナー母粒子に対する噴霧液体の均一な噴霧が困難となるおそれがある。
【0112】
ガス排出部222において濃度センサで測定される液体ガスの濃度は、3%程度であることが好ましい。液体ガスの濃度が3%程度であることによって、噴霧液体の乾燥時間を短くすることができるので、噴霧液体が残存している未乾燥のトナー粒子が他のトナー粒子に付着することを一層防止することができ、トナー粒子の凝集を防止することができる。またガス排出部222における液体ガスの濃度は、濃度センサで0.1%以上3.0%以下であることがさらに好ましい。噴霧速度がこのような範囲であると、生産性を低下させることなく、トナー粒子の凝集をより一層防止することができる。
【0113】
本実施形態のように2つの噴霧手段を用いる代わりに、噴霧手段を1つだけ用い、その噴霧手段による噴霧開始時から下記式(3)を満たす増加噴霧時間T2の間、下記式(4)を満たす増加ガス体積量kとなる量だけ噴霧手段からの噴霧量を増加させることによっても本発明の目的を達成することができる。
0.2τ≦T2≦τ(τ=V/Fair) …(3)
0.6κ≦k≦1.6κ(κ=(Fin/Fair)×V) …(4)
【0114】
Finは、噴霧液体が増加なく粉体流路内に噴霧されるときの噴霧速度に、噴霧液体がガス化したときの体積量を掛けることで求められるガス体積流量を示す。Fairは粉体流路内から排出される空気の空気体積流量を示し、Vは粉体流路内の容積を示す。増加ガス体積量kは、噴霧液体の増加させた噴霧量にガス化容積を掛けることで求められる。
【0115】
〔膜化工程S3d〕
ステップS3dの膜化工程では、噴霧液体を噴霧しつつ、トナーの製造装置201による循環と撹拌による衝撃力との相乗効果、さらに撹拌による熱的エネルギーによって、樹脂微粒子を軟化させて連続した膜とし、トナー母粒子に樹脂膜が形成されるまで所定温度で回転撹拌手段204の撹拌を続け、トナー母粒子および樹脂微粒子を粉体流路内において繰り返し循環させる。
【0116】
〔回収工程S3e〕
ステップS3eの回収工程では、噴霧液体の噴霧を終了し、回転撹拌手段204の回転を停止させて、粉体回収部207からトナー母粒子表面に樹脂膜が形成されたトナーを装置外に排出し、回収する。
【0117】
以上のようにして本発明のトナーが製造されるが、ステップS3a〜S3eを含む被覆工程S3において、回転撹拌手段204の最外周の周速度は、30m/sec以上に設定されることが好ましく、50m/sec以上に設定されることがさらに好ましい。回転撹拌手段204の最外周における周速が30m/sec以上であることによって、トナー母粒子を孤立流動させることができる。最外周における周速度が30m/sec未満であると、トナー母粒子および樹脂微粒子を孤立流動させることができないためトナー母粒子に樹脂膜を均一に被覆することができなくなる。
【0118】
被覆工程S3において、粉体流路202内の温度は、トナー母粒子のガラス転移温度以下に設定されることが好ましく、30℃以上トナー母粒子のガラス転移温度以下であることがさらに好ましい。粉体流路202内の温度がトナー母粒子のガラス転移温度を超えると、粉体流路202内でトナー母粒子が軟化し過ぎ、トナー母粒子の凝集が発生するおそれがある。また粉体流路202内の温度が30℃未満であると、分散液の乾燥速度が遅くなり生産性が低下するおそれがある。したがってトナー母粒子の凝集を防止するために、粉体流路202および回転撹拌手段の温度をトナー母粒子のガラス転移温度以下に維持すべく、内径が粉体流路管の外径よりも大きい温度調整用ジャケットを粉体流路管および回転撹拌手段204の外側の少なくとも一部に配設してその空間に冷却媒または加温媒を通じて温度調整する機能を備えた装置を設けることが必要である。なお、粉体流路202内の温度は、トナー母粒子の流動によって、粉体流路202内のどの部分においてもほぼ均一となる。
【0119】
前述のように、回転撹拌手段204は、回転軸218の回転に伴って回転する回転盤219を含むが、トナー母粒子および樹脂微粒子は、回転盤219に対して垂直に衝突することが好ましく、回転盤219に対して垂直に回転軸218と衝突することがより好ましい。これによって、トナー母粒子および樹脂微粒子が回転盤219に対して平行に衝突するよりトナー母粒子および樹脂微粒子を充分に撹拌することができるので、トナー母粒子に樹脂微粒子をより均一に被覆することができ、被覆層が均一に被覆したトナーの収率をより一層向上させることができる。
【0120】
このようなトナーの製造装置201としては、上記の構成に限定されることなく、種々の変更が可能である。たとえば、温度調整用ジャケットは粉体流過部209と撹拌部208との外側の全面に設けられてもよく、粉体流過部208または撹拌部208の外側の一部に設けられてもよい。粉体流過部209と撹拌部208との外側の全面に温度調整用ジャケットが設けられると、トナー母粒子の粉体流路202内壁への付着を一層確実に防止することができる。
【0121】
トナーの製造装置201は、市販品の撹拌装置と噴霧手段とを組合せて得ることもできる。粉体流路および回転撹拌手段を備える市販の撹拌装置としては、たとえば、ハイブリダイゼーションシステム(商品名、株式会社奈良機械製作所製)などが挙げられる。このような撹拌装置内に液体噴霧ユニットを取付けることによって、この撹拌装置を本発明のトナーの製造方法に用いるトナーの製造装置として用いることができる。
【0122】
2、トナー
本発明の第2の実施形態であるトナーは、第1の実施形態であるトナーの製造方法で製造される。本発明の製造方法で製造されたトナーは、粗大粒子がなく、膜質が良好である。またトナー母粒子に低融点の材料を使用していたとしても保存安定性が良好である。このようなトナーを用いて画像を形成することによって、長期間に渡って良好なトナー像を形成することができる。
【0123】
本発明のトナーには、外添剤が添加されてもよい。外添剤としては公知のものを使用でき、たとえば、シリカおよび酸化チタンなどが挙げられる。また、これらはシリコーン樹脂、シランカップリング剤などによって表面処理されていることが好ましい。外添剤の使用量は、トナー100重量部に対して1〜10重量部であることが好ましい。
【0124】
3、現像剤
本発明の第3の実施形態である現像剤は、第2の実施形態であるトナーを含む。本発明のトナーは、低温定着させるために低融点のトナー母粒子を使用しても保存安定性の悪化がないので、本実施形態の現像剤は、高温雰囲気下で使用した場合にも、現像槽内での流動性悪化が軽減され、長期間に渡って良好な現像性を確保することができる。
【0125】
本実施形態の現像剤は、1成分現像剤としても2成分現像剤しても使用することができる。1成分現像剤として使用する場合、キャリアを用いることなくトナー単体で使用する。また1成分現像剤として使用する場合、ブレードおよびファーブラシを用い、現像スリーブで摩擦帯電させてスリーブ上にトナーを付着させることによってトナーを搬送し、画像形成を行う。
【0126】
2成分現像剤として使用する場合、本発明のトナーをキャリアとともに用いる。低温定着させるために低融点のトナー母粒子を使用した場合にも保存安定性の悪化がない本発明のトナーを含むので、本発明の2成分現像剤は、キャリアへのトナースペントによる帯電付与能力の低下を防止し、長期間に渡って良好な現像性を確保することができる。
【0127】
(キャリア)
キャリアとしては、公知のものを使用でき、たとえば、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、コバルト、マンガン、クロムなどからなる単独または複合フェライト、キャリアコア粒子を被覆物質で表面被覆した樹脂被覆キャリア、および樹脂に磁性を有する粒子を分散させた樹脂分散型キャリアなどが挙げられる。被覆物質としては公知のものを使用でき、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、モノクロロトリフルオロエチレン重合体、ポリフッ化ビニリデン、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ジターシャーリーブチルサリチル酸の金属化合物、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド、ポリビニルブチラール、ニグロシン、アミノアクリレート樹脂、塩基性染料、塩基性染料のレーキ物、シリカ微粉末、アルミナ微粉末などが挙げられる。また樹脂分散型キャリアに用いられる樹脂としても特に制限されないけれども、たとえば、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、およびフェノール樹脂などが挙げられる。いずれも、トナー成分に応じて選択することが好ましく、1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0128】
キャリアの形状は、球形または扁平形状が好ましい。またキャリアの粒径は特に制限されないけれども、高画質化を考慮すると、好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは20〜50μmである。さらにキャリアの抵抗率は、好ましくは10Ω・cm以上、さらに好ましくは1012Ω・cm以上である。
【0129】
キャリアの体積抵抗率は、キャリアを0.50cmの断面積を有する容器に入れてタッピングした後、容器内に詰められた粒子におもりで1kg/cmの荷重を掛け、おもりと底面電極との間に1000V/cmの電界が生ずる電圧を印加したときの電流値を読み取って得られる値である。体積抵抗率が低いと、現像スリーブにバイアス電圧を印加した場合にキャリアに電荷が注入され、感光体にキャリア粒子が付着し易くなる。またバイアス電圧のブレークダウンが起こり易くなる。
【0130】
キャリアの磁化強さ(最大磁化)は、好ましくは10〜60emu/g、さらに好ましくは15〜40emu/gである。磁化強さは現像ローラの磁束密度にもよるけれども、現像ローラの一般的な磁束密度の条件下においては、10emu/g未満であると磁気的な束縛力が働かず、キャリア飛散の原因となるおそれがある。また磁化強さが60emu/gを超えると、キャリアの穂立ちが高くなり過ぎるので、非接触現像では、像担持体と非接触状態を保つことが困難になる。また接触現像ではトナー像に掃き目が現れ易くなるおそれがある。
【0131】
2成分現像剤におけるトナーとキャリアとの使用割合は特に制限されず、トナーおよびキャリアの種類に応じて適宜選択できるけれども、樹脂被覆キャリア(密度5〜8g/cm2)を例にとれば、現像剤中に、トナーが現像剤全量の2〜30重量%、好ましくは2〜20重量%含まれるように、トナーを用いればよい。また2成分現像剤において、トナーによるキャリアの被覆率は、40〜80%であることが好ましい。
【0132】
4、画像形成装置
図5は、本発明の第4の実施形態である画像形成装置100の構成を模式的に示す断面図である。画像形成装置100は、複写機能、プリンタ機能およびファクシミリ機能を併せ持つ複合機であり、伝達される画像情報に応じて、記録媒体にフルカラーまたはモノクロの画像を形成する。すなわち、画像形成装置100においては、コピアモード(複写モード)、プリンタモードおよびFAXモードという3種の印刷モードを有しており、図示しない操作部からの操作入力、パーソナルコンピュータ、携帯端末装置、情報記録記憶媒体またはメモリ装置を用いた外部機器からの印刷ジョブの受信などに応じて、図示しない制御部によって、印刷モードが選択される。
【0133】
画像形成装置100は、像担持体である感光体ドラム11と、画像形成部2と、転写手段3と、定着手段4と、記録媒体供給手段5と、排出手段6とを含む。画像形成部2を構成する各部材および転写手段3に含まれる一部の部材は、カラー画像情報に含まれるブラック(b)、シアン(c)、マゼンタ(m)およびイエロー(y)の各色の画像情報に対応するために、それぞれ4つずつ設けられる。ここでは、各色に応じて4つずつ設けられる各部材は、各色を表すアルファベットを参照符号の末尾に付して区別し、総称する場合は参照符号のみで表す。
【0134】
画像形成部2は、帯電手段12と、露光ユニット13と、現像装置14と、クリーニングユニット15とを含む。帯電手段12および露光ユニット13は、潜像形成手段として機能する。帯電手段12、現像装置14およびクリーニングユニット15は、感光体ドラム11まわりに、この順序で配置される。帯電手段12は、現像装置14およびクリーニングユニット15よりも鉛直方向下方に配置される。
【0135】
感光体ドラム11は、図示しない回転駆動手段によって、軸線回りに回転駆動可能に設けられ、その表面部に静電潜像が形成されるローラ状部材である。感光体ドラム11の回転駆動手段は、中央処理装置(Central Processing Unit;CPU)によって実現される
制御手段で制御される。感光体ドラム11は、図示しない導電性基体と、導電性基体の表面に形成される図示しない感光層とを含んで構成される。導電性基体は種々の形状を採ることができ、たとえば、円筒状、円柱状、薄膜シート状などが挙げられる。これらの中でも円筒状が好ましい。導電性基体は導電性材料によって形成される。
【0136】
導電性材料としては、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、アルミニウム、銅、真鍮、亜鉛、ニッケル、ステンレス鋼、クロム、モリブデン、バナジウム、インジウム、チタン、金、白金などの金属、これらの2種以上の合金、合成樹脂フィルム、金属フィルムまたは紙などのフィルム状基体にアルミニウム、アルミニウム合金、酸化錫、金および酸化インジウムなどの1種または2種以上からなる導電性層を形成してなる導電性フィルム、ならびに導電性粒子および/または導電性ポリマーを含有する樹脂組成物などが挙げられる。導電性フィルムに用いられるフィルム状基体としては、合成樹脂フィルムが好ましく、ポリエステルフィルムが特に好ましい。また、導電性フィルムにおける導電性層の形成方法としては、蒸着、塗布などが好ましい。
【0137】
感光層は、たとえば、電荷発生物質を含む電荷発生層と、電荷輸送物質を含む電荷輸送層とを積層することによって形成される。その際、導電性基体と電荷発生層または電荷輸送層との間には、下引き層を設けることが好ましい。下引き層を設けることによって、導電性基体の表面に存在する傷および凹凸を被覆して、感光層表面を平滑化でき、また、繰り返し使用時における感光層の帯電性の劣化を防止する、低温および/または低湿環境下において感光層の帯電特性を向上させるといった利点が得られる。また最上層に感光体表面保護層を設けた耐久性の大きい三層構造の積層感光体であっても良い。
【0138】
電荷発生層は、光照射によって電荷を発生する電荷発生物質を主成分とし、必要に応じて公知の結着樹脂、可塑剤、増感剤などを含有する。電荷発生物質としては、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ペリレンイミド、ペリレン酸無水物などのペリレン系顔料、キナクリドン、アントラキノンなどの多環キノン系顔料、金属および無金属フタロシアニン、ハロゲン化無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料、スクエアリウム色素、アズレニウム色素、チアピリリウム色素、ならびにカルバゾール骨格、スチリルスチルベン骨格、トリフェニルアミン骨格、ジベンゾチオフェン骨格、オキサジアゾール骨格、フルオレノン骨格、ビススチルベン骨格、ジスチリルオキサジアゾール骨格またはジスチリルカルバゾール骨格を有するアゾ顔料などが挙げられる。これらの中でも、無金属フタロシアニン顔料、オキソチタニルフタロシアニン顔料、フローレン環および/またはフルオレノン環を含有するビスアゾ顔料、芳香族アミンからなるビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料などは高い電荷発生能を有し、高感度の感光層を得るのに適する。電荷発生物質は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。電荷発生物質の含有量は特に制限はないけれども、電荷発生層中の結着樹脂100重量部に対して好ましくは5重量部以上500重量部以下、さらに好ましくは10重量部以上200重量部以下である。電荷発生層用の結着樹脂としてもこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリカーボネート、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール、ポリアリレート、ポリアミドおよびポリエステルなどが挙げられる。結着樹脂は1種を単独で使用でき、または必要に応じて2種以上を併用できる。
【0139】
電荷発生層は、電荷発生物質、結着樹脂および必要に応じて可塑剤、増感剤などのそれぞれ適量を、これらの成分を溶解または分散し得る適切な有機溶媒に溶解または分散して電荷発生層塗液を調製し、この電荷発生層塗液を導電性基体表面に塗布し、導電性基体表面を乾燥させることによって形成できる。このようにして得られる電荷発生層の膜厚は特に制限されないが、好ましくは0.05μm以上5μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上2.5μm以下である。
【0140】
電荷発生層の上に積層される電荷輸送層は、電荷発生物質から発生する電荷を受け入れて輸送する能力を有する電荷輸送物質および電荷輸送層用の結着樹脂を必須成分とし、必要に応じて公知の酸化防止剤、可塑剤、増感剤、潤滑剤などを含有する。電荷輸送物質としてはこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ポリ−N−ビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリ−γ−カルバゾリルエチルグルタメートおよびその誘導体、ピレン−ホルムアルデヒド縮合物およびその誘導体、ポリビニルピレン、ポリビニルフェナントレン、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、9−(p−ジエチルアミノスチリル)アントラセン、1,1−ビス(4−ジベンジルアミノフェニル)プロパン、スチリルアントラセン、スチリルピラゾリン、ピラゾリン誘導体、フェニルヒドラゾン類、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルアミン系化合物、テトラフェニルジアミン系化合物、トリフェニルメタン系化合物、スチルベン系化合物、3−メチル−2−ベンゾチアゾリン環を有するアジン化合物などの電子供与性物質、フルオレノン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、インデノチオフェン誘導体、フェナンスレンキノン誘導体、インデノピリジン誘導体、チオキサントン誘導体、ベンゾ[c]シンノリン誘導体、フェナジンオキサイド誘導体、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、プロマニル、クロラニル、ならびにベンゾキノンなどの電子受容性物質などが挙げられる。電荷輸送物質は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。電荷輸送物質の含有量は特に制限されないけれども、好ましくは電荷輸送物質中の結着樹脂100重量部に対して10重量部以上300重量部以下、さらに好ましくは30重量部以上150重量部以下である。
【0141】
電荷輸送層用の結着樹脂としては、この分野で常用されかつ電荷輸送物質を均一に分散できるものを使用でき、たとえば、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリビニルブチラール、ポリアミド、ポリエステル、ポリケトン、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスルホン樹脂、およびこれらの共重合樹脂などが挙げられる。これらの中でも、成膜性、得られる電荷輸送層の耐摩耗性、電気特性などを考慮すると、ビスフェノールZをモノマー成分として含有するポリカーボネート(以後「ビスフェノールZ型ポリカーボネート」と称す)、ビスフェノールZ型ポリカーボネートと他のポリカーボネートとの混合物が好ましい。結着樹脂は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0142】
電荷輸送層には、電荷輸送物質および電荷輸送層用の結着樹脂と共に、酸化防止剤が含まれるのが好ましい。酸化防止剤としてもこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ビタミンE、ハイドロキノン、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール、パラフェニレンジアミン、アリールアルカンおよびその誘導体、有機硫黄化合物、ならびに有機燐化合物などが挙げられる。酸化防止剤は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。酸化防止剤の含有量は特に制限されないけれども、電荷輸送層を構成する成分の合計量の0.01重量%以上10重量%以下、好ましくは0.05重量%以上5重量%以下である。
【0143】
電荷輸送層は、電荷輸送物質、結着樹脂および必要に応じて酸化防止剤、可塑剤、増感剤などのそれぞれ適量を、これらの成分を溶解または分散し得る適切な有機溶媒に溶解または分散して電荷輸送層用塗液を調製し、この電荷輸送層用塗液を電荷発生層表面に塗布し、電荷発生層表面を乾燥させることによって形成できる。このようにして得られる電荷輸送層の膜厚は特に制限されないが、好ましくは10μm以上50μm以下、さらに好ましくは15μm以上40μm以下である。
【0144】
1つの層に、電荷発生物質と電荷輸送物質とが存在する感光層を形成することもできる。その場合、電荷発生物質および電荷輸送物質の種類、含有量、結着樹脂の種類、その他の添加剤などは、電荷発生層および電荷輸送層を別々に形成する場合と同様でよい。
【0145】
本実施の形態では、前述のような、電荷発生物質および電荷輸送物質を用いる有機感光層を形成してなる感光体ドラムを用いるけれども、それに代えて、シリコンなどを用いる無機感光層を形成してなる感光体ドラムを使用することもできる。
【0146】
帯電手段12は、感光体ドラム11を臨み、感光体ドラム11の長手方向に沿って感光体ドラム11表面から間隙を有して離隔するように配置され、感光体ドラム11表面を所定の極性および電位に帯電させる。帯電手段12には、帯電ブラシ型帯電器、チャージャ型帯電器、鋸歯型帯電器またはイオン発生装置などを使用できる。本実施の形態では、帯電手段12は感光体ドラム11表面から離隔するように設けられるけれども、それに限定されない。たとえば、帯電手段12として帯電ローラを用い、帯電ローラと感光体ドラムとが圧接するように帯電ローラを配置してもよく、帯電ブラシ、磁気ブラシなどの接触帯電方式の帯電器を用いてもよい。
【0147】
露光ユニット13は、露光ユニット13から出射される各色情報の光が、帯電手段12と現像装置14との間を通過して感光体ドラム11の表面に照射されるように配置される。露光ユニット13は、画像情報を該ユニット内でブラック、シアン、マゼンタおよびイエローの各色情報の光に分岐し、帯電手段12によって一様な電位に帯電された感光体ドラム11表面を各色情報の光で露光し、その表面に静電潜像を形成する。露光ユニット13には、たとえば、レーザ照射部および複数の反射ミラーを備えるレーザスキャニングユニットを使用できる。他にもLEDアレイ、または液晶シャッタと光源とを適宜組み合わせたユニットを用いてもよい。
【0148】
クリーニングユニット15は、現像装置14によって、感光体ドラム11表面に形成させたトナー像を記録媒体に転写した後に、感光体ドラム11の表面に残留するトナーを除去し、感光体ドラム11の表面を清浄化する。クリーニングユニット15には、たとえば、クリーニングブレードなどの板状部材が用いられる。本実施形態の画像形成装置においては、感光体ドラム11として、有機感光体ドラムが用いられ、有機感光体ドラムの表面は樹脂成分を主体とするものであるので、帯電装置によるコロナ放電によって発生するオゾンの化学的作用で有機感光体ドラムの表面の劣化が進行しやすい。ところが、劣化した表面部分はクリーニングユニット15による擦過作用を受けて摩耗し、徐々にではあるが劣化した表面部分が確実に除去される。したがって、オゾンなどによる表面の劣化の問題が実際上解消され、長期間にわたって、帯電動作による帯電電位を安定に維持することができる。本実施の形態ではクリーニングユニット15を設けるけれども、それに限定されず、クリーニングユニット15を設けなくてもよい。
【0149】
画像形成部2によれば、帯電手段12によって均一な帯電状態にある感光体ドラム11の表面に、露光ユニット13から画像情報に応じた信号光を照射して静電潜像を形成し、これに現像装置14からトナーを供給してトナー像を形成し、このトナー像を中間転写ベルト25に転写した後に、感光体ドラム11表面に残留するトナーをクリーニングユニット15で除去する。この一連のトナー像形成動作が画像を形成するために繰り返し実行される。
【0150】
転写手段3は、感光体ドラム11の上方に配置され、中間転写ベルト25と、駆動ローラ26と、従動ローラ27と、ブラック、シアン、マゼンタおよびイエローの各色の画像情報にそれぞれ対応する4つの中間転写ローラ28と、転写ベルトクリーニングユニット29と、転写ローラ30とを含む。中間転写ベルト25は、駆動ローラ26と従動ローラ27とに張架され、ループ状の移動経路を形成する無端ベルト状部材であり、矢符Bの方向に回転駆動する。駆動ローラ26は図示しない駆動手段によってその軸線回りに回転駆動可能に設けられ、その回転駆動によって、中間転写ベルト25を矢符B方向へ回転駆動させる。従動ローラ27は駆動ローラ26の回転駆動に従動回転可能に設けられ、中間転写ベルト25が弛まないように一定の張力を中間転写ベルト25に付与する。中間転写ローラ28は、中間転写ベルト25を介して感光体ドラム11に圧接し、かつ図示しない駆動手段によってその軸線回りに回転駆動可能に設けられる。中間転写ローラ28は、前述のように転写バイアスを印加する図示しない電源が接続され、感光体ドラム11表面のトナー像を中間転写ベルト25に転写する機能を有する。
【0151】
中間転写ベルト25が、感光体ドラム11に接しながら感光体ドラム11を通過する際、中間転写ベルト25を介して感光体ドラム11に対向配置する中間転写ローラ28から、感光体ドラム11表面のトナーの帯電極性とは逆極性の転写バイアスが印加され、感光体ドラム11の表面に形成されたトナー像が中間転写ベルト25へ転写される。フルカラー画像の場合、各感光体ドラム11で形成される各色のトナー画像が、中間転写ベルト25に順次重ねて転写されることによって、フルカラートナー像が形成される。
【0152】
転写ベルトクリーニングユニット29は、中間転写ベルト25を介して従動ローラ27に対向し、中間転写ベルト25の外周面に接触するように設けられる。感光体ドラム11との接触によって中間転写ベルト25に付着するトナーは、記録媒体を汚染する原因となるので、転写ベルトクリーニングユニット29が中間転写ベルト25表面のトナーを除去し回収する。
【0153】
転写ローラ30は、中間転写ベルト25を介して駆動ローラ26に圧接し、図示しない駆動手段によって軸線回りに回転駆動可能に設けられる。転写ローラ30と駆動ローラ26との圧接部、すなわち転写ニップ部において、中間転写ベルト25に担持され、搬送されるトナー像が、後述する記録媒体供給手段5から送給される記録媒体に転写される。トナー像を担持する記録媒体は、定着手段4に送給される。
【0154】
転写手段3によれば、感光体ドラム11と中間転写ローラ28との圧接部において感光体ドラム11から中間転写ベルト25に転写されるトナー像が、中間転写ベルト25の矢符B方向への回転駆動によって転写ニップ部に搬送され、そこで記録媒体に転写される。
【0155】
定着手段4は、転写手段3よりも記録媒体の搬送方向下流側に設けられ、定着ローラ31と加圧ローラ32とを含む。定着ローラ31は図示しない駆動手段によって回転駆動可能に設けられ、記録媒体に担持される未定着トナー像を、構成するトナーを加熱して溶融させることによって記録媒体に定着させる。定着ローラ31の内部には図示しない加熱手段が設けられる。加熱手段は、定着ローラ31表面が所定の温度(以後「加熱温度」ともいう)になるように定着ローラ31を加熱する。加熱手段には、たとえば、ヒータ、ハロゲンランプなどを使用できる。加熱手段は、後記する定着条件制御手段によって制御される。定着条件制御手段による加熱温度の制御については、後に詳述する。
【0156】
定着ローラ31表面近傍には図示しない温度検知センサが設けられ、温度検知センサは定着ローラ31の表面温度を検知する。温度検知センサによる検知結果は、後記する制御手段の記憶部に書き込まれる。加圧ローラ32は定着ローラ31に圧接するように設けられ、加圧ローラ32の回転駆動に従動回転可能に支持される。定着ローラ31からの熱によってトナーが溶融し、トナー像が記録媒体に定着する際に加圧ローラ32はトナーと記録媒体とを押圧することによって、トナー像の記録媒体への定着を補助する。定着ローラ31と加圧ローラ32との圧接部が定着ニップ部である。
【0157】
定着手段4によれば、転写手段3においてトナー像が転写された記録媒体が、定着ローラ31と加圧ローラ32とによって挟持され、定着ニップ部を通過する際に、トナー像が加熱下に記録媒体に押圧されることによって、トナー像が記録媒体に定着され、画像が形成される。
【0158】
記録媒体供給手段5は、自動給紙トレイ35と、ピックアップローラ36と、搬送ローラ37と、レジストローラ38、手差給紙トレイ39を含む。自動給紙トレイ35は画像形成装置100の鉛直方向下部に設けられ、記録媒体を貯留する容器状部材である。記録媒体には、たとえば普通紙、カラーコピー用紙、オーバーヘッドプロジェクタ用シート、葉書などがある。ピックアップローラ36は、自動給紙トレイ35に貯留される記録媒体を1枚ずつ取り出し、用紙搬送路S1に送給する。搬送ローラ37は互いに圧接するように設けられる一対のローラ部材であり、記録媒体をレジストローラ38に向けて搬送する。レジストローラ38は互いに圧接するように設けられる一対のローラ部材であり、搬送ローラ37から送給される記録媒体を、中間転写ベルト25に担持されるトナー像が転写ニップ部に搬送されるのに同期して、転写ニップ部に送給する。手差給紙トレイ39は、手動動作によって記録媒体を画像形成装置100内に取り込む装置であり、手差給紙トレイ39から取り込まれる記録媒体は、搬送ローラ37によって用紙搬送路S2内を通過し、レジストローラ38に送給される。記録媒体供給手段5によれば、自動給紙トレイ35または手差給紙トレイ39から1枚ずつ供給される記録媒体を、中間転写ベルト25に担持されるトナー像が転写ニップ部に搬送されるのに同期して、転写ニップ部に送給する。
【0159】
排出手段6は、搬送ローラ37と、排出ローラ40と、排出トレイ41とを含む。搬送ローラ37は、用紙搬送方向において定着ニップ部よりも下流側に設けられ、定着手段4によって画像が定着された記録媒体を排出ローラ40に向けて搬送する。排出ローラ40は、画像が定着された記録媒体を、画像形成装置100の鉛直方向上面に設けられる排出トレイ41に排出する。排出トレイ41は、画像が定着された記録媒体を貯留する。
【0160】
画像形成装置100は、図示しない制御手段を含む。制御手段は、たとえば、画像形成装置100の内部空間における上部に設けられ、記憶部と演算部と制御部とを含む。制御手段の記憶部には、画像形成装置100の上面に配置される図示しない操作パネルを介する各種設定値、画像形成装置100内部の各所に配置される図示しないセンサなどからの検知結果、および外部機器からの画像情報などが入力される。また、各種手段を実行するプログラムが書き込まれる。各種手段とは、たとえば、記録媒体判定手段、付着量制御手段、定着条件制御手段などである。記憶部には、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、リードオンリィメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)およびハードディスクドライブ(HDD)などが挙げられる。外部機器には、画像情報の形成または取得が可能であり、かつ画像形成装置100に電気的に接続可能な電気・電子機器を使用でき、たとえば、コンピュータ、デジタルカメラ、テレビ、ビデオレコーダ、DVDレコーダ、HD DVD、ブルーレイディスクレコーダ、ファクシミリ装置、携帯端末装置などが挙げられる。演算部は、記憶部に書き込まれる各種データ(画像形成命令、検知結果、画像情報など)および各種手段のプログラムを取り出し、各種判定を行う。制御部は、演算部の判定結果に応じて該当装置に制御信号を送付し、動作制御を行う。制御部および演算部は中央処理装置(CPU、Central Processing Unit)を備えるマイクロコン
ピュータ、マイクロプロセッサなどによって実現される処理回路を含む。制御手段は、前述の処理回路とともに主電源を含み、電源は制御手段だけでなく、画像形成装置100内部における各装置にも電力を供給する。
【0161】
5、定着装置
図6は、図5に示す画像形成装置100に備わる現像装置14を模式的に示す概略図である。現像装置14は、現像槽20とトナーホッパ21とを含む。現像槽20は感光体ドラム11表面を臨むように配置され、感光体ドラム11の表面に形成される静電潜像にトナーを供給して現像し、可視像であるトナー像を形成する容器状部材である。現像槽20は、その内部空間にトナーを収容しかつ現像ローラ50、供給ローラ51、撹拌ローラ52などのローラ部材を収容して回転自在に支持する。また、ローラ状部材の代わりにスクリュー部材を収容してもよい。本実施形態の現像装置14は、トナーとして、前述の実施の一形態のトナーを現像槽20に収容する。
【0162】
現像槽20の感光体ドラム11を臨む側面には開口部53が形成され、この開口部53を介して感光体ドラム11に対向する位置に現像ローラ50が回転駆動可能に設けられる。現像ローラ50は、感光体ドラム11との圧接部または最近接部において感光体ドラム11表面の静電潜像にトナーを供給するローラ状部材である。トナーの供給に際しては、現像ローラ50表面にトナーの帯電電位とは逆極性の電位が現像バイアス電圧(以下、単に「現像バイアス」とする)として印加される。これによって、現像ローラ50表面のトナーが静電潜像に円滑に供給される。さらに、現像バイアス値を変更することによって、静電潜像に供給されるトナー量、すなわち静電潜像のトナー付着量を制御できる。
【0163】
供給ローラ51は現像ローラ50を臨んで回転駆動可能に設けられるローラ状部材であり、現像ローラ50周辺にトナーを供給する。
【0164】
撹拌ローラ52は供給ローラ51を臨んで回転駆動可能に設けられるローラ状部材であり、トナーホッパ21から現像槽20内に新たに供給されるトナーを供給ローラ51周辺に送給する。トナーホッパ21は、その鉛直方向下部に設けられるトナー補給口54と、現像槽20の鉛直方向上部に設けられるトナー受入口55とが連通するように設けられ、現像槽20のトナー消費状況に応じてトナーを補給する。またトナーホッパ21を用いず、各色トナーカートリッジから直接トナーを補給するよう構成してもよい。
【0165】
以上のように、現像装置14は、本発明の現像剤を用いて潜像を現像するので、感光体ドラム11に高精細なトナー像を安定して形成することができる。したがって、長期間に渡って像担持体表面に良好なトナー像を安定して形成することができる現像装置14とすることができる。
【0166】
また本発明によれば、潜像が形成される感光体ドラム11と、感光体ドラム11に潜像を形成する帯電手段12および露光ユニット13と、前述のように、高精細なトナー像を感光体ドラム11に形成可能な本発明の現像装置14とを備えて画像形成装置100が実現される。このような画像形成装置100で画像を形成することによって、長期間に渡って良好な画像を安定して得ることができる。
【実施例】
【0167】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。以下において、「部」および「%」は特に断らない限りそれぞれ「重量部」および「重量%」を意味する。実施例および比較例において用いられる結着樹脂およびトナー母粒子のガラス転移温度、結着樹脂の軟化温度、離型剤の融点、ならびにトナー母粒子の体積平均粒径は以下のようにして測定した。
【0168】
[結着樹脂およびトナー母粒子のガラス転移温度]
示差走査熱量計(商品名:DSC220、セイコー電子工業株式会社製)を用い、日本工業規格(JIS)K7121−1987に準じ、試料(結着樹脂またはトナー母粒子)1gを昇温速度毎分10℃で加熱してDSC曲線を測定した。得られたDSC曲線のガラス転移に相当する吸熱ピークの高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、ピークの立ち上がり部分から頂点までの曲線に対して勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度をガラス転移温度(Tg)として求めた。
【0169】
[結着樹脂の軟化温度]
流動特性評価装置(商品名:フローテスターCFT−100C、株式会社島津製作所製)において、荷重20kgf/cm(9.8×10Pa)を与えて試料(結着樹脂)1gがダイ(ノズル口径1mm、長さ1mm)から押出されるように設定し、昇温速度毎分6℃で加熱し、試料の半分量がダイから流出したときの温度を求め、軟化温度(Tm)とした。
【0170】
[離型剤の融点]
示差走査熱量計(商品名:DSC220、セイコー電子工業株式会社製)を用い、試料(離型剤)1gを温度20℃から昇温速度毎分10℃で200℃まで昇温させ、次いで200℃から20℃に急冷させる操作を2回繰返し、DSC曲線を測定した。2回目の操作で測定されるDSC曲線の融解に相当する吸熱ピークの頂点の温度を離型剤の融点として求めた。
【0171】
[トナー母粒子、トナーおよび外添トナーの体積平均粒径]
電解液(商品名:ISOTON−II、ベックマン・コールター社製)50mlに、試料(トナー母粒子)20mgおよびアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム1mlを加え、超音波分散器(商品名:卓上型2周波超音波洗浄器VS−D100、アズワン株式会社製)によって超音波周波数20kHzで3分間分散処理して測定用試料を調製した。この測定用試料について、粒度分布測定装置(商品名:MultisizerIII、ベックマン・コールター社製)を用い、アパーチャ径:100μm、測定粒子数:50000カウントの条件下に測定を行い、試料粒子の体積粒度分布から体積平均粒径を求めた。
【0172】
[樹脂微粒子の体積平均粒径]
レーザ回折・散乱法粒度分布測定装置(商品名:マイクロトラックMT3000、日機装株式会社製)を用いて測定を行った。測定試料(樹脂微粒子)の凝集を防ぐため、ファミリーフレッシュ(花王株式会社製)を含む水溶液中に測定試料(微粒子や非球形粒子)が分散した分散液を投入し撹拌した後、前記装置に注入し、2回測定を行ってその平均値を求めた。測定条件は、測定時間を30秒とし、粒子屈折率を1.4とし、粒子形状を非球形とし、溶媒を水とし、溶媒屈折率を1.33とした。測定試料の体積粒度分布を測定し、測定結果から累積体積分布における小粒径側からの累積体積が50%になる粒径を粒子の体積平均粒子径(μm)として算出した。
【0173】
まず、噴霧工程における噴霧液体の増加および追加の有無、ならびに噴霧する時間を評価する実施例および比較例について記載する。
【0174】
(実施例1−a)
〔トナー母粒子作製工程S1〕
トナー母粒子原料およびその添加量を以下とする。
・ポリエステル樹脂(商品名:ダイヤクロン、三菱レイヨン株式会社製、ガラス転移温度55℃、軟化温度130℃) 87.5%(100部)
・着色剤(C.I.Pigment Blue 15:3) 5.0%(5.7部)
・離型剤(カルナウバワックス、融点82℃) 6.0%(6.9部)
・帯電制御剤(商品名:ボントロンE84、オリエント化学工業株式会社)
1.5%(1.7部)
【0175】
以上の各構成成分を、ヘンシェルミキサ(商品名:FM20C、三井鉱山株式会社製)にて前混合した後、二軸押出混練機(商品名:PCM65、株式会社池貝製)にて溶融混練した。この溶融混練物をカッティングミル(商品名:VM−16、オリエント株式会社製)で粗粉砕した後、ジェットミル(ホソカワミクロン株式会社製)にて微粉砕し、さらに風力分級機(ホソカワミクロン株式会社製)で分級し、体積平均粒径が6.5μmであり、ガラス転移温度が56℃のトナー母粒子を作製した。
【0176】
〔樹脂微粒子調製工程S2〕
スチレンとアクリル酸ブチルとを重合したものを凍結乾燥し、樹脂微粒子として、体積平均粒径が0.1μmであるスチレン−ブチルアクリレート共重合体微粒子A(ガラス転移温度72℃、軟化温度126℃)を得た。
【0177】
〔被覆工程S3〕
図2に示す装置に準ずるハイブリダイゼーションシステム(商品名:NHS−3型、株式会社奈良機械製作所製)に、噴霧手段として二流体ノズルを取付けた装置(装置M)によって、上記で作製したトナー母粒子600重量部と樹脂微粒子60重量部とを10分間撹拌混合後、エタノールを噴霧して膜化を行い、その後エタノール噴霧を停止して5分間撹拌することで実施例1−aのトナーを得た。
【0178】
この装置内部で空気が循環する範囲の内容積、すなわち粉体流路内の容積は、26.8Lである。粉体流路内へは、回転軸部および1つの二流体ノズルから空気を流した。1つの二流体ノズルは、図3に示す第1二流体ノズル205aと同じ位置に設けた。回転軸部において、圧力を制御して粉体流路内より高圧に保ち、回転軸部から粉体流路内に流す空気流量を毎分5Lに調節した。
【0179】
このときの収束時間τは、τ=V/Fairよりτ=2.68分である。1つの二流体ノズルからは10分間エタノールを噴霧した(変動噴霧時間T3を10分間とした)。噴霧液体の増加がないときの噴霧速度は毎分0.5gとした。噴霧を開始して時間が充分に経過したときのガス濃度D∞は、D∞=(Fin/Fair)より、D∞=2.43vol%である。これらの値を用いて計算すると、粉体流路内ガス定量κは、κ=D∞Vより0.65Lとなる。
【0180】
二流体ノズルによる噴霧の開始から増加噴霧時間T2=0.6τの間は、粉体流路内ガス定量κに対して1.2κの増加ガス体積量kとなる量だけエタノールの噴霧量を増加させた。増加ガス体積量kとなる量のエタノールの増加噴霧速度Faは0.2κ/τに設定した。この増加噴霧速度Faと噴霧液体の増加がないときの噴霧速度とを合わせた値が増加噴霧時間T2における噴霧速度となる。
【0181】
噴霧手段としては液体噴霧ユニットを用いた。液体噴霧ユニットとしては、市販品を用いることができ、液体を送液ポンプ(商品名:SP11−12、株式会社フロム製)を通して二流体ノズル(商品名:HM−6型、扶桑精機株式会社製)に定量送液するように接続したものを使用した。液体の噴霧速度およびガス排出速度は市販のガス検知器(商品名:XP−3110、新コスモス電機株式会社製)を使用して観察した。
【0182】
温度調整用ジャケットは、粉体流過部および撹拌部壁面の全面に設けた。粉体流路には温度センサを取り付けた。粉体流過部および撹拌部の温度を55℃になるように調整した。前記装置において、トナー母粒子表面への樹脂微粒子付着工程でハイブリダイゼーションシステムの回転撹拌手段の最外周における周速度を100m/secとした。噴霧工程および膜化工程でも周速度を100m/secとした。また液体噴霧方向と、粉体流動方向とのなす角度(以下「噴霧角度」という)が平行(0°)になるように、二流体ノズルの取付け角度を設定した。
【0183】
(実施例2−a)
粉体流路内容積が異なるハイブリダイゼーションシステムに、二流体ノズルを取付けた装置(装置L)を用いたこと以外は実施例1−aと同様にして実施例2−aのトナーを得た。この装置内部で空気が循環する範囲の内容量、すなわち粉体流路内の容積Vは、39.7Lである。このときの収束時間τは、τ=V/Fairより3.97分である。ガス濃度D∞は、D∞=(Fin/Fair)より、D∞=2.43vol%として与えられる。これらを用いて計算すると、粉体流路内ガス定量κはκ=D∞Vより、κ=0.97Lとなる。
【0184】
増加噴霧時間T2=0.6τの間に、粉体流路内ガス定量κに対して1.2κの増加ガス体積量kとなる量だけエタノールの噴霧量を増加させた。その時の増加噴霧速度Faは2κ/τに設定した。
【0185】
(比較例1−a)
エタノールの噴霧量を増加させないこと以外は実施例1と同様にして比較例1のトナーを得た。
【0186】
(比較例2−a)
エタノールの噴霧量を増加させないこと以外は実施例2と同様にして比較例2のトナーを得た。
【0187】
(実施例1−b〜e、実施例2−b〜e、比較例1−b〜e、比較例2−b〜e)
実施例1,2および比較例1,2における噴霧手段の変動噴霧時間T3を10分間から20分間、30分間、45分間、60分間に変更することで、実施例1−b〜1−e、実施例2−b〜2−e、比較例1−b〜1−e、比較例2−b〜2−eのトナーをそれぞれ作製した。
上記実施例および比較例で用いた装置および変動噴霧時間T3を表1にまとめた。
【0188】
【表1】

【0189】
変動噴霧時間T3を60分間とした実施例1−e,2−e、比較例1−e,2−eにおける粉体流路内のガス濃度Dの変化を図7に示す。なお、変動噴霧時間T3が60分間より短い実施例および比較例でもおおよそ図7と同じようなガス濃度の変化を示す。
【0190】
図7に示すように、実施例ではガス濃度が比較例より早く一定濃度に達する。特に粉体流路内容積が大きい実施例2と比較例2とを比べた場合には一定濃度に達するまでの時間に大きな差がある。
上記実施例および比較例で得られたトナーを用いて以下のような評価を行った。
【0191】
〈粗粉含有率〉
実施例および比較例のトナーの粒度分布を用い、大粒径粒子、すなわち粗粉の含有率を評価した。電解液(商品名:ISOTON−II、ベックマン・コールター社製)50mlに、トナー20mgおよびアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム1mlを加え、超音波分散器(商品名:卓上型2周波超音波洗浄器VS−D100、アズワン株式会社製)によって超音波周波数20kHzで3分間分散処理して測定用試料を調製した。この測定用試料について、粒度分布測定装置(商品名:MultisizerIII、ベックマン・コールター社製)を用い、アパーチャ径:100μm、測定粒子数:50000カウントの条件下に測定を行い、トナーの体積粒度分布から粒子径が12μm以上となる粗粉の割合を求め、これを粗粉含有率とした。この割合が小さいほどトナー粒子同士の凝集が発生せずトナーとして望ましい特性であるといえる。
【0192】
粗粉含有率の評価基準は以下のとおりである。
◎:粗粉なし。粗粉含有率が1%未満である。
○:粗粉微量。粗粉含有率が1%以上3%未満である。
△:粗粉少量。粗粉含有率が3%以上10%未満である。
×:粗粉多量。粗粉含有率が10%以上である。
【0193】
〈被覆均一性〉
高温保存後におけるトナーの凝集物の有無によって被覆均一性を評価した。トナー20gをポリ容器に密閉し、50℃で48時間放置した後、トナーを取り出して230メッシュのふるいに掛けた。ふるい上に残存するトナーの重量を測定し、この重量のトナー全重量に対する割合である残存量を求め、下記の基準で評価した。数値が低いほど、トナーがブロッキングを起こさず、保存性が良好であることを示す。
【0194】
被覆均一性の評価基準は以下のとおりである。
◎:凝集なし。残存量が1%未満である。
○:凝集微量。残存量が1%以上3%未満である。
△:凝集少量。残存量が3%以上20%未満である。
×:凝集多量。残存量が20%以上である。
粗粉含有率および被覆均一性の評価結果を表2に示す。
【0195】
【表2】

【0196】
粗大含有率の評価において、変動噴霧時間T3を長くするほど粗大粒子が増大する傾向が見られる。被覆均一性の評価において、変動噴霧時間T3を長くするほど被覆均一性が良くなる傾向がみられるが、実施例では噴霧時間が短くても好適な被覆均一性を示した。
【0197】
〈変動噴霧時間T3に関するトナーの総合評価〉
上記粗粉含有率および被覆均一性の評価に基づき、実施例および比較例の総合評価を行った。まず、粗粉含有率および被覆均一性の評価結果である◎、○、△、×において、◎を3点、○を2点、△を1点、×を0点として得点に換算した。次に実施例1−a〜1−eの得点を足して実施例1の総合評価得点とした。同様にして実施例2および比較例1,2の総合評価得点を求めた。これらの総合評価得点および下記総合評価基準を用いて総合評価を行った。
【0198】
総合評価結果は以下のとおりである。
◎:非常に良好。総合評価得点が25点を超える。
○:良好。総合評価得点が20点を超え、25点以下である。
△:やや不良。総合評価得点が15点を超え、20点以下である。
×:不良。総合評価得点が10点以下である。
評価結果を表3に示す。
【0199】
【表3】

【0200】
表3の結果から、本発明のトナーの製造方法で製造すれば噴霧する時間の長さに関わらず性能の良好なトナーを製造することが可能で、特に噴霧する時間が短くても性能の良いトナーを製造できることがわかる。
【0201】
次に、噴霧液体の増加ガス体積量kとその増加噴霧時間T2との関係を評価する実施例および比較例を記載する。
【0202】
(実施例3〜6)
増加ガス体積量kとその増加噴霧時間T2とが表4に示す値となるように調整すること以外は実施例2−cと同様にして実施例3〜6のトナーを得た。
【0203】
(比較例3〜6)
増加ガス体積量kとその増加噴霧時間T2とが表4に示す値となるように調整すること以外は実施例2−cと同様にして比較例3〜6のトナーを得た。
【0204】
実施例2−c、実施例3〜6、比較例3〜6の増加ガス体積量kと増加噴霧時間T2との関係を表4に示す。
【0205】
【表4】

【0206】
実施例3〜6、比較例3〜6のトナーを用いて粗粉含有率および被覆均一性の評価を行った。粗粉含有率および被覆均一性の評価方法は、実施例1,2および比較例1,2の粗粉含有率および被覆均一性の評価方法と同じである。
【0207】
〔増加ガス体積量kと増加噴霧時間T2との関係についてのトナーの総合評価〕
粗大粒子と被覆均一性との評価結果に基づき、実施例3〜6、比較例3〜6のトナーの総合評価を行った。
【0208】
総合評価の基準は、粗大粒子または被覆均一性のうち最悪の基準を総合評価の指標とした。
【0209】
【表5】

【0210】
表5の結果から、増加ガス体積量kが0.6κ以上1.6κ以下であり、かつ増加噴霧時間T2が0.2τ以上1.0τ以下の間に噴霧量を増加させる必要があることが分かる。この範囲内であれば、粗大粒子が少なく、被覆均一性に優れたトナーを安定して製造できることが確認できた。
【0211】
(実施例7)
被覆工程S3で、噴霧手段として第1噴霧手段および第2噴霧手段の2つの噴霧手段を用い、粉体流路内へ回転軸部および2つの二流体ノズルから空気を流したこと以外は実施例5と同様にして実施例7のトナーを得た。第1噴霧手段である第1二流体ノズルは図3に示す第1二流体ノズル205aの位置に設け、第2噴霧手段である第2二流体ノズルは図3に示す第2二流体ノズル205bの位置に設けた。第1二流体ノズルからは噴霧工程S3全域に渡って一定量で30分間噴霧液体の噴霧を行った(定量噴霧時間T4を30分間とした)。第2二流体ノズルには第1二流体ノズルと同じ構成の二流体ノズルを用い、第2二流体ノズルからは、第1二流体ノズルの噴霧開始から追加噴霧時間T1=0.2τ(分間)の間のみ1.6κの追加ガス体積量Kとなる量のエタノールを噴霧した。
【0212】
回転軸部において、圧力を制御して回転軸部を粉体流路内より高圧に保ち、回転軸部から粉体流路内に流す空気流量を毎分5Lに調節した。第1二流体ノズルのキャリアガス流量は毎分2.5Lに調節した。第2二流体ノズルも同様に毎分2.5Lに調節した。2つの二流体ノズルからの空気流量と回転軸部からの空気流量とを合計して毎分10Lを排出エアとして装置外へ排出した。
【0213】
この実施例7で得られたトナーについて、上記の実施例および比較例と同様の方法で粗粉含有率および被覆均一性を評価した。その評価結果を表6に示す。
【表6】

表6から、2つの噴霧手段を利用することによって粗粉含有率が改善されたことが示された。
【0214】
次に噴霧液体の物性を評価するための実施例について記載する。
(実施例8)
噴霧液体としてエタノールの代わりにメタノールを用いること以外は実施例1−cと同様にして実施例8のトナーを得た。メタノールのLEL濃度は6.7vol%である。
【0215】
(実施例9)
噴霧液体としてエタノールの代わりにプロパノールを用いること以外は実施例1−cと同様にして実施例9のトナーを得た。プロパノールのLEL濃度は2.0vol%である。
【0216】
(実施例10)
噴霧液体としてエタノールの代わりに2−ブタノールを用いること以外は実施例1−cと同様にして実施例10のトナーを得た。2−ブタノールのLEL濃度は1.7vol%である。
【0217】
(実施例11)
噴霧液体としてエタノールの代わりに1−ブタノールを用いること以外は実施例1−cと同様にして実施例11のトナーを得た。1−ブタノールのLEL濃度は1.4vol%である。
【0218】
実施例8〜11のトナーについて、粗粉含有率および被覆均一性を評価した。粗粉含有率および被覆均一性の評価方法は、上記の実施例および比較例の粗粉含有率および被覆均一性の評価方法と同じである。評価結果を表7に示す。
【0219】
【表7】

【0220】
表7に記載のLEL濃度係数Xとは、X={(単位時間あたりに噴霧される噴霧液体のガス化容積)/(粉体流路内容積V)}×100/(噴霧液体のLEL濃度)で表わされる値である。
【0221】
表7の結果から、特にLEL濃度が1.7vol%以上6.7vol%以下のとき、好適なトナーが製造できることが分かる。さらに3級以下の低級アルコールである、メタノール、エタノール、プロパノールを使用することで粗大粒子の生成も抑制され、さらに好適なトナーを製造することができる。
【0222】
上記の実施例および比較例の製造方法で、マゼンダ、シアン、イエローのカラートナーをそれぞれ作製した。これらを含むカラー現像剤をそれぞれ用いてクリーニング性、帯電安定性および濃度均一性を評価した。
【0223】
(実施例12)
〔マゼンタトナーの作製〕
トナー母粒子作製工程S1でトナー母粒子の組成を以下の組成にしたこと以外は実施例2−cと同様にしてマゼンタトナーを作製した。
【0224】
トナー母粒子原料およびその添加量は以下のようにした。
・ポリエステル樹脂(商品名:ダイヤクロン、三菱レイヨン株式会社製、ガラス転移温度55℃、軟化温度130℃) 87.5%(100部)
・マゼンタ顔料…C.I.ピグメントレッド122〔Toner Magenta E-02 (クラリアントジャパン株式会社製)〕 5.0%(5.7部)
・離型剤(カルナウバワックス、融点82℃) 6.0%(6.9部)
・帯電制御剤(商品名:ボントロンE84、オリエント化学工業株式会社)
1.5%(1.7部)
【0225】
〔シアントナーの作製〕
トナー母粒子作製工程S1でトナー母粒子の組成を以下の組成にしたこと以外は実施例2−cと同様にしてシアントナーを作製した。
【0226】
トナー母粒子原料およびその添加量は以下のようにした。
・ポリエステル樹脂(商品名:ダイヤクロン、三菱レイヨン株式会社製、ガラス転移温度55℃、軟化温度130℃) 87.5%(100部)
・シアン顔料…C.I.ピグメントブルー15:3〔Hosteaperm Blue B2G(クラリアントジャパン株式会社製)〕 5.0%(5.7部)
・離型剤(カルナウバワックス、融点82℃) 6.0%(6.9部)
・帯電制御剤(商品名:ボントロンE84、オリエント化学工業株式会社)
1.5%(1.7部)
【0227】
〔イエロートナーの作製〕
トナー母粒子作製工程S1でトナー母粒子の組成を以下の組成にしたこと以外は実施例2−cと同様にしてイエロートナーを作製した。
【0228】
トナー母粒子原料およびその添加量は以下のようにした。
・ポリエステル樹脂(商品名:ダイヤクロン、三菱レイヨン株式会社製、ガラス転移温度55℃、軟化温度130℃) 87.5%(100部)
・イエロー顔料…C.I.ピグメントイエロー74〔FAST YELLOW FGOK(山陽色素株式会社製)〕 5.0%(5.7部)
・離型剤(カルナウバワックス、融点82℃) 6.0%(6.9部)
・帯電制御剤(商品名:ボントロンE84、オリエント化学工業株式会社)
1.5%(1.7部)
【0229】
上記3色のカラートナーをまとめて実施例12のトナーと呼ぶ。以下のクリーニング性、帯電安定性および濃度均一性の評価において、上記3色のカラートナーをそれぞれ用い、これらをまとめて実施例12のトナーとして評価した。
【0230】
(実施例13)
実施例2−cの方法の代わりに実施例3の方法を用いたこと以外は実施例12と同様にしてマゼンタトナー、シアントナーおよびイエロートナーを作製し、それらをまとめて実施例13のトナーとした。
【0231】
(実施例14)
実施例2−cの方法の代わりに実施例4の方法を用いたこと以外は実施例12と同様にしてマゼンタトナー、シアントナーおよびイエロートナーを作製し、それらをまとめて実施例14のトナーとした。
【0232】
(実施例15)
実施例2−cの方法の代わりに実施例5の方法を用いたこと以外は実施例12と同様にしてマゼンタトナー、シアントナーおよびイエロートナーを作製し、それらをまとめて実施例15のトナーとした。
【0233】
(実施例16)
実施例2−cの方法の代わりに実施例6の方法を用いたこと以外は実施例12と同様にしてマゼンタトナー、シアントナーおよびイエロートナーを作製し、それらをまとめて実施例16のトナーとした。
【0234】
(実施例17)
実施例2−cの方法の代わりに実施例7の方法を用いたこと以外は実施例12と同様にしてマゼンタトナー、シアントナーおよびイエロートナーを作製し、それらをまとめて実施例17のトナーとした。
【0235】
(比較例7)
実施例2−cの方法の代わりに比較例2の方法を用いたこと以外は実施例12と同様にしてマゼンタトナー、シアントナーおよびイエロートナーを作製し、それらをまとめて比較例7のトナーとした。
【0236】
(比較例8)
実施例12で作製した3色のカラートナー母粒子をそのまま3色のトナーとした。これらのトナーをまとめて比較例8のトナーとした。
【0237】
これらのカラートナーに以下の操作を行い、外添カラートナーとした。
上記カラートナー100部に、表面改質剤として1次粒子の平均粒径が12nmの疎水性シリカ微粒子1.3部と、1次粒子の平均粒径が200nmの疎水性シリカ微粒子0.5部と、1次粒子の平均粒径が30nmの疎水性チタン酸化物0.6重量部とを加え、ヘンシェルミキサ(商品名:FM20C、三井鉱山株式会社製)を用いて回転部材の周速を35m/sとして3分間混合し、外添カラートナーを得た。
【0238】
このようにして得られた実施例および比較例の外添カラートナーと、体積平均粒子径が60ミクロンであるシリコーンコートフェライトコアキャリアとをトナー濃度が5%となるように調整して混合することによって、実施例および比較例の2成分現像剤を作製した。
【0239】
[クリーニング性]
実施例および比較例の2成分現像剤を市販の2成分現像装置を有する複写機(商品名:MX−2300G、シャープ株式会社製)にそれぞれ投入し、印字率が5%のチャートを1000枚連続して印字した後、感光体表面にフィルミングが発生しているか否かを目視によって確認した。
【0240】
クリーニング性の評価基準は以下のとおりである。
○:良好。全色ともフィルミングの発生が確認されない。
△:やや不良。1色のみフィルミングの発生が確認される。
×:不良。2色以上でフィルミングの発生が確認される。
【0241】
[帯電安定性]
帯電安定性は上記チャートの印字後に2成分現像剤の帯電量を測定することで行った。帯電量を各色で比較し、最少となるトナー帯電量と、最大となるトナーの帯電量との差である帯電量差ΔQc(μC/g)によって評価した。これによって、同一の被覆条件で樹脂微粒子を被覆したトナー母粒子の色の違いによる特性差を確認した。
【0242】
帯電安定性の評価基準は次のとおりである。
○:良好。帯電量差が5μC/g以下である。
△:実使用上問題なし。帯電量差が5μC/gを超えて7μC/g以下である。
×:不良。帯電量差が7μC/gを超える。
【0243】
[濃度均一性]
上記複写機における1万枚耐刷時の濃度むらを測定することで濃度均一性を評価した。濃度むらは以下のような方法で測定した。
【0244】
周方向に連続してパッチを5つ等間隔に印字し、それらの画像濃度IDをX−Riteを用いて測定し、同一色のパッチ中における最大の濃度と最少の濃度との差である濃度差ΔIDを求めることによって濃度均一性を評価した。評価に使用する濃度差ΔIDは3色中から最大のものを用いた。
【0245】
濃度均一性の評価基準は次のとおりである。
○:良好。濃度差が0.2以下である。
△:実使用上問題なし。濃度差が0.2を超えて0.3以下である。
×:不良。濃度差が0.3を超える。
【0246】
[2成分現像剤の総合評価]
上記のクリーニング性と帯電安定性と濃度均一性との評価結果に基づき総合評価を行った。
【0247】
総合評価基準は次のとおりである。
○:良好。クリーニング性、帯電安定性および濃度均一性の評価結果が全て○である。
△:やや不良。クリーニング性、帯電安定性および濃度均一性の評価結果に×がなく△が1つ以上存在する。
×:不良。クリーニング性、帯電安定性および濃度均一性の評価結果に×が存在する。
結果を表8に示す
【0248】
【表8】

【0249】
以上の結果から、本発明によりカプセル化を行うことにより現像剤としての特性が向上し、特にトナー母剤の色材による差が解消できることが分かる。また比較例2と実施例を比較することにより、本発明により膜化不良の微粒子によるクリーニング性への悪影響が減少することでクリーニング性が向上し、また粗大粒子が減ることから濃度均一性の向上も確認できた確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0250】
【図1】本実施形態のトナーの製造方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明の第1の実施形態であるトナーの製造方法で用いるトナーの製造装置201の構成を示す正面図である。
【図3】図2に示すトナーの製造装置201を切断面線A200―A200からみた概略断面図である。
【図4】粉体投入部206および粉体回収部207まわりの構成を示す正面図である。
【図5】本発明の第4の実施形態である画像形成装置100の構成を模式的に示す断面図である。
【図6】図5に示す画像形成装置100に備わる現像装置14を模式的に示す概略図である。
【図7】実施例1−e,2−e、比較例1−e,2−eにおける粉体流路内のガス濃度Dの変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0251】
201 トナーの製造装置
202 粉体流路
203 噴霧手段
204 回転撹拌手段
206 粉体投入部
207 粉体回収部
220 撹拌羽根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転羽根を周設した回転盤および回転軸を含む回転撹拌手段が回転している粉体流路内にトナー母粒子および樹脂微粒子を投入して、粉体流路内で流動させ、トナー母粒子表面に樹脂微粒子を付着させる樹脂微粒子付着工程と、
第1噴霧手段および第2噴霧手段を用いて、流動状態にあるトナー母粒子および樹脂微粒子にそれらの粒子を可塑化させる効果のある噴霧液体をキャリアガスによって粉体流路内に噴霧しつつ、粉体流路内でガス化した噴霧液体およびキャリアガスを含む空気を粉体流路外に排出する噴霧工程と、
トナー母粒子表面に付着した樹脂微粒子が膜化するまで回転撹拌手段の回転を続けてトナー母粒子および樹脂微粒子を粉体流路内で繰り返し循環させる膜化工程とを含み、
噴霧工程で、第1噴霧手段による噴霧液体の噴霧に加え、その噴霧開始時から下記式(1)を満たす追加噴霧時間T1までの間、第2噴霧手段から下記式(2)を満たす追加ガス体積量Kとなる量の噴霧液体が粉体流路内に追加で噴霧されることを特徴とするトナーの製造方法。
0.2τ≦T1≦τ(τ=V/Fair) …(1)
0.6κ≦K≦1.6κ(κ=(Fin/Fair)×V) …(2)
(Finは、第1噴霧手段から粉体流路内に噴霧される噴霧液体の噴霧速度に、その噴霧液体がガス化したときの体積量を掛けることで求められるガス体積流量を示し、Fairは粉体流路内から排出される空気の空気体積流量を示し、Vは粉体流路内の容積を示す。)
【請求項2】
回転羽根を周設した回転盤および回転軸を含む回転撹拌手段が回転している粉体流路内にトナー母粒子および樹脂微粒子を投入して、粉体流路内で流動させ、トナー母粒子表面に樹脂微粒子を付着させる樹脂微粒子付着工程と、
噴霧手段を用いて、流動状態にあるトナー母粒子および樹脂微粒子にそれらの粒子を可塑化させる効果のある噴霧液体をキャリアガスによって粉体流路内に噴霧しつつ、粉体流路内でガス化した噴霧液体およびキャリアガスを含む空気を粉体流路外に排出する噴霧工程と、
トナー母粒子表面に付着した樹脂微粒子が膜化するまで回転撹拌手段の回転を続けてトナー母粒子および樹脂微粒子を粉体流路内で繰り返し循環させる膜化工程とを含み、
噴霧工程で、噴霧手段による噴霧開始時から下記式(3)を満たす増加噴霧時間T2の間、下記式(4)を満たす増加ガス体積量kとなる量だけ噴霧手段からの噴霧量を増加させることを特徴とするトナーの製造方法。
0.2τ≦T2≦τ(τ=V/Fair) …(3)
0.6κ≦k≦1.6κ(κ=(Fin/Fair)×V) …(4)
(Finは、噴霧液体が増加なく粉体流路内に噴霧されるときの噴霧速度に、その噴霧液体がガス化したときの体積量を掛けることで求められるガス体積流量を示し、Fairは粉体流路内から排出される空気の空気体積流量を示し、Vは粉体流路内の容積を示す。)
【請求項3】
膜化工程の時間が、10分間以上45分間以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のトナーの製造方法。
【請求項4】
噴霧液体は、ガス化した際のLEL濃度が1.7体積%以上6.7体積%以下のアルコールであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のトナーの製造方法。
【請求項5】
噴霧液体は、分子中の炭素の数が3個以下の低級アルコールであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のトナーの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のトナーの製造方法によって製造されることを特徴とするトナー。
【請求項7】
請求項6に記載のトナーを含むことを特徴とする現像剤。
【請求項8】
前記トナーとキャリアとから成る2成分現像剤であることを特徴とする請求項7に記載の現像剤。
【請求項9】
請求項7または8に記載の現像剤を用いて、像担持体に形成される潜像を現像してトナー像を形成することを特徴とする現像装置。
【請求項10】
潜像が形成される像担持体と、
像担持体に潜像を形成する潜像形成手段と、
請求項9に記載の現像装置とを備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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