説明

トナーの製造方法およびトナー

【課題】 高湿環境下においてトナーの帯電量を向上させることで、画像濃度の低下を抑制できるとともに、低湿環境下においてトナーの帯電量の必要以上の上昇を抑えることで、かぶりの発生を抑制することができるトナーの製造方法およびトナーを提供する。
【解決手段】 トナーの製造方法は、第1混練工程と第2混練工程と第3混練工程とを含む。第1混練工程は、第1結着樹脂と、着色剤と、ホウ素原子を中心原子とする錯体である第1帯電制御剤とを、加熱下で溶融混練して第1混練物を得る。第2混練工程では、第1結着樹脂よりも軟化温度の高い第2結着樹脂と、鉄原子を中心原子とする錯体である第2帯電制御剤とを、加熱下で溶融混練して第2混練物を得る。第3混練工程では、第1混練物と、第2混練物とを、加熱下で溶融混練する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーの製造方法およびトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を利用した画像形成装置では、たとえば帯電、露光、現像、転写、クリーニング、除電および定着の各工程を経ることにより画像が形成される。帯電工程で、回転駆動される感光体の表面を帯電装置によって均一に帯電し、露光工程で、帯電した感光体表面に露光装置によってレーザ光が照射され、感光体表面に静電潜像が形成される。次に現像工程で、感光体表面の静電潜像が現像装置によって現像剤を用いて現像されて感光体表面にトナー像が形成され、転写工程で、感光体表面のトナー像が転写装置によって記録媒体に転写される。その後、定着工程で、トナー像が記録媒体に定着される。また、画像形成動作後に感光体表面上に残留した転写残留トナーは、クリーニング工程で、クリーニング装置により除去されて所定の回収部に回収され、除電工程で、クリーニング後の感光体表面における残留電荷が、次の画像形成に備えるために、除電装置により除電される。記録媒体へのトナー像の転写は、中間転写媒体を介して行われることもある。
【0003】
このような画像形成装置に使用される現像剤としては、トナーのみからなる1成分現像剤と、トナーおよびキャリアからなる2成分現像剤とがある。
【0004】
これらの現像剤に用いられるトナーは、たとえば、混練粉砕法、ならびに懸濁重合法および乳化重合凝集法などの重合法によって製造される。
【0005】
混練粉砕法では、結着樹脂および着色剤を主成分とし、必要に応じて離型剤、帯電制御剤などを添加して混合したトナー原料を溶融混練し、冷却して固化させた後、粉砕および分級することでトナーを製造する。
【0006】
帯電制御剤は、トナーの帯電性を安定化させるために用いられる。帯電制御剤には、たとえば高湿環境下においてトナーの帯電量を向上させる効果、および低湿環境下においてトナーの帯電量の必要以上の上昇(チャージアップ)を抑える効果が求められるが、これらの2つの効果を発揮する帯電制御剤は、見つかっていない。
【0007】
特許文献1には、結着樹脂および着色剤などのトナー原料と、性質の異なる2種類の帯電制御剤とを溶融混練することで得られる、性質の異なる2種類の帯電制御剤を含有するトナーが開示されている。特許文献1に開示のトナーによれば、性質の異なる2種類の帯電制御剤を含有することで、適正な帯電量を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−53446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示のトナーは、適正な帯電量を安定して得ることはできない。その理由としては、特許文献1に記載のトナーの製造方法では、性質が異なる、すなわち、表面エネルギーや融点が異なり、結着樹脂への分散性が異なる2種類の帯電制御剤を、全トナー粒子中に均一に分散させることが難しく、特許文献1に開示のトナーは、2種類の帯電制御剤の含有比が、個々のトナー粒子でばらつきやすいためである。
【0010】
したがって、特許文献1に記載のトナーの製造方法では、高湿環境下においてトナーの帯電量を向上させる効果、および低湿環境下においてトナーの帯電量の必要以上の上昇を抑える効果という2つの効果が充分に発揮されるトナーを得ることはできない。
【0011】
本発明の目的は、高湿環境下においてトナーの帯電量を向上させることで、画像濃度の低下を抑制できるとともに、低湿環境下においてトナーの帯電量の必要以上の上昇を抑えることで、かぶりの発生を抑制することができるトナーの製造方法およびトナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、第1結着樹脂と、着色剤と、ホウ素原子を中心原子とする錯体である第1帯電制御剤とを、加熱下で溶融混練して第1混練物を得る第1混練工程と、
前記第1結着樹脂よりも軟化温度の高い第2結着樹脂と、鉄原子を中心原子とする錯体である第2帯電制御剤とを、加熱下で溶融混練して第2混練物を得る第2混練工程と、
前記第1混練物と、前記第2混練物とを、加熱下で溶融混練する第3混練工程と、を含むことを特徴とするトナーの製造方法である。
【0013】
また本発明は、第1結着樹脂と、着色剤と、ホウ素原子を中心原子とする錯体である第1帯電制御剤とを、加熱下で溶融混練して混練物を得る第1混練工程と、
前記混練物と、前記第1結着樹脂よりも軟化温度の高い第2結着樹脂と、鉄原子を中心原子とする錯体である第2帯電制御剤とを、加熱下で溶融混練する第2混練工程と、を含むことを特徴とするトナーの製造方法である。
【0014】
また本発明は、前記第1帯電制御剤が、ベンジル酸ホウ素錯体であることを特徴とする。
【0015】
また本発明は、前記第2帯電制御剤が、モノアゾ鉄錯体であることを特徴とする。
また本発明は、前記第1結着樹脂および第2結着樹脂が、バイオマス樹脂を含むことを特徴とする。
【0016】
また本発明は、前記トナーの製造方法によって製造されることを特徴とするトナーである。
【0017】
また本発明は、前記着色剤としてブラックトナー用の着色剤を含む黒色トナーであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、トナーの製造方法は、第1混練工程と第2混練工程と第3混練工程とを含む。第1混練工程は、第1結着樹脂と、着色剤と、ホウ素原子を中心原子とする錯体である第1帯電制御剤とを、加熱下で溶融混練して第1混練物を得る。第2混練工程では、第1結着樹脂よりも軟化温度の高い第2結着樹脂と、鉄原子を中心原子とする錯体である第2帯電制御剤とを、加熱下で溶融混練して第2混練物を得る。第3混練工程では、第1混練物と、第2混練物とを、加熱下で溶融混練する。
【0019】
ホウ素原子を中心原子とする錯体は、低湿環境下においてトナーの帯電量の必要以上の上昇を抑える効果を有し、凝集性が相対的に高い。鉄原子を中心原子とする錯体は、高湿環境下においてトナーの帯電量を向上させる効果を有し、凝集性が相対的に低い。
【0020】
このように、表面エネルギーや融点が異なり、結着樹脂への分散性が異なる第1帯電制御剤および第2帯電制御剤を、第1混練工程と第2混練工程とで別々に溶融混練することによって、それぞれの帯電制御剤に最適な条件で溶融混練することができる。そのため、第1帯電制御剤を第1結着樹脂に均一に分散させた第1混練物を得ることができ、第2帯電制御剤を第2結着樹脂に均一に分散させた第2混練物を得ることができる。第3混練工程で、第1混練物と第2混練物とを溶融混練することによって、全トナー粒子に第1帯電制御剤および第2帯電制御剤が均一に分散されたトナーを得ることができる。このようにして得られたトナーは、高湿環境下においてトナーの帯電量を向上させることで、画像濃度の低下を抑制できるとともに、低湿環境下においてトナーの帯電量の必要以上の上昇を抑えることで、かぶりの発生を抑制することができる。
【0021】
また本発明によれば、トナーの製造方法は、第1混練工程と第2混練工程とを含む。第1混練工程では、第1結着樹脂と、ホウ素原子を中心原子とする錯体である第1帯電制御剤とを、加熱下で溶融混練して混練物を得る。第2混練工程では、前記混練物と、第1結着樹脂よりも軟化温度の高い第2結着樹脂と、鉄原子を中心原子とする錯体である第2帯電制御剤とを、加熱下で溶融混練する。
【0022】
ホウ素原子を中心原子とする錯体は、低湿環境下においてトナーの帯電量の必要以上の上昇を抑える効果を有し、凝集性が相対的に高い。鉄原子を中心原子とする錯体は、高湿環境下においてトナーの帯電量を向上させる効果を有し、凝集性が相対的に低い。
【0023】
結着樹脂への分散性が相対的に低いホウ素原子を中心原子とする錯体を、結着樹脂への分散性が相対的に高い鉄原子を中心原子とする錯体よりも長い時間溶融混練することによって、全トナー粒子中に第1帯電制御剤および第2帯電制御剤が均一に分散されたトナーを得ることができる。このようにして得られたトナーは、高湿環境下においてトナーの帯電量を向上させることで、画像濃度の低下を抑制できるとともに、低湿環境下においてトナーの帯電量の必要以上の上昇を抑えることで、かぶりの発生を抑制することができる。
【0024】
また本発明によれば、第1帯電制御剤が、ベンジル酸ホウ素錯体である。高湿環境下においてトナーの帯電量を向上させることで、画像濃度の低下を抑制できるトナーを得ることができる。
【0025】
また本発明によれば、第2帯電制御剤が、モノアゾ鉄錯体である。低湿環境下においてトナーの帯電量の必要以上の上昇を抑えることで、かぶりの発生を抑制することができるトナーを得ることができる。
【0026】
また本発明によれば、第1結着樹脂および第2結着樹脂が、バイオマス樹脂を含むので、石油枯渇問題および二酸化炭素の排出量削減に対応したトナーを得ることができる。
【0027】
また本発明によれば、トナーは本発明のトナーの製造方法によって製造される。本発明のトナーの製造方法では、第1帯電制御剤および第2帯電制御剤を全トナー粒子中に均一に分散させることができるので、トナーは、高湿環境下においてトナーの帯電量を向上させることで、画像濃度の低下を抑制できるとともに、低湿環境下においてトナーの帯電量の必要以上の上昇を抑えることで、かぶりの発生を抑制することができる。
【0028】
また本発明によれば、トナーは、着色剤としてブラックトナー用の着色剤を含む黒色トナーである。鉄原子を中心原子とする錯体は黒色であり、トナーは鉄原子を中心原子とする錯体である第2帯電制御剤を含むので、ブラックトナー用の着色剤の含有量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施形態であるトナーの製造方法を示す工程図である。
【図2】本発明の第2の実施形態であるトナーの製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
1、トナー
本発明の実施の一形態であるトナーは、第1結着樹脂、第2結着樹脂、着色剤、第1帯電制御剤および第2帯電制御剤を含む。
【0031】
(結着樹脂)
第1結着樹脂および第2結着樹脂としては、熱可塑性樹脂であれば特に制限されるものではなく、様々な種類の熱可塑性樹脂を用いることが可能である。
【0032】
具体的には、アクリル系単量体と、メタクリル系単量体と、エチレン性不飽和酸単量体と、ビニルニトリル類と、ビニルエーテル類と、ビニルケトン類との共重合体を挙げることができる。
【0033】
アクリル系単量体としては、スチレン、パラクロロスチレン、およびα−メチルスチレン等のスチレン類と、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸ラウリル、およびアクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0034】
メタクリル系単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸ラウリル、およびメタクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。エチレン性不飽和酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、およびスチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。ビニルニトリル類としては、アクリロニトリル、およびメタクリロニトリル等が挙げられる。ビニルエーテル類としては、ビニルメチルエーテル、およびビニルイソブチルエーテル等が挙げられる。ビニルケトン類としては、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、およびビニルイソプロペニルケトン等が挙げられる。
【0035】
さらに熱可塑性樹脂として、エチレン、プロピレンおよびブタジエン等のオレフィン類等の単量体の単独重合体、それらの単量体を2種以上組み合せた共重合体が挙げられる。また、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、およびポリエーテル樹脂等の非ビニル縮合系樹脂、それらの樹脂の共存下でビニル系単量体を重合して得られるグラフト重合体、ならびに前記単独重合体、前記共重合体、前記非ビニル縮合系樹脂および前記グラフト重合体の混合物を挙げることができる。
【0036】
なお上述した様々な熱可塑性樹脂の中でポリエステル樹脂が低温定着性、および耐久性の点で優れている。
【0037】
また、第1結着樹脂および第2結着樹脂として、バイオマス樹脂を含む樹脂を用いることによって、石油枯渇問題および二酸化炭素の排出量削減に対応したトナーとすることができる。バイオマス樹脂は植物由来成分を含む樹脂であり、たとえばロジン由来の酸およびとうもろこし由来のアルコールを原料としたポリエステル樹脂、ならびにテルペンフェノール樹脂などが挙げられる。
【0038】
本実施形態において、第1結着樹脂は、第2結着樹脂よりも軟化温度の低い樹脂である。これは、第1結着樹脂は、低分子量成分が多い樹脂であり、第2結着樹脂は、高分子量成分が多い樹脂であるためである。
【0039】
第1結着樹脂の軟化温度は、90℃以上120℃以下が好ましく、第2結着樹脂の軟化温度は、120℃以上160℃以下が好ましい。そして、第1結着樹脂の軟化温度は、第2結着樹脂の軟化温度よりも30℃以上60℃以下の範囲で低い値に設定される。第1結着樹脂の重量平均分子量は3000以上7000以下が好ましい。第2結着樹脂の重量平均分子量は6000以上20000以下が好ましい。なお、第1結着樹脂および第2結着樹脂の軟化温度は、第1帯電制御剤および第2帯電制御剤の分散性の他に定着域にも影響を与え、第1結着樹脂および第2結着樹脂の軟化温度が上記範囲であることによって、定着域を広くすることができる。
【0040】
第1結着樹脂の酸価は、5mgKOH/g以上35mgKOH/g以下が好ましく、第2結着樹脂の酸価は、5mgKOH/g以上35mgKOH/g以下が好ましい。
【0041】
(着色剤)
着色剤としては、有機系、および無機系を問わず、様々な種類、および様々な色の着色剤を用いることが可能である。
【0042】
イエロートナー用の着色剤としては、たとえば、カラーインデックスによって分類されるC.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー5、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー15、およびC.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185などの有機系顔料、黄色酸化鉄および黄土などの無機系顔料、C.I.アシッドイエロー1などのニトロ系染料、C.I.ソルベントイエロー2、C.I.ソルベントイエロー6、C.I.ソルベントイエロー14、C.I.ソルベントイエロー15、C.I.ソルベントイエロー19、およびC.I.ソルベントイエロー21などの油溶性染料などが挙げられる。
【0043】
マゼンタトナー用の着色剤としては、たとえば、カラーインデックスによって分類されるC.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ソルベントレッド19、C.I.ソルベントレッド49、C.I.ソルベントレッド52、C.I.ベーシックレッド10、およびC.I.ディスパーズレッド15などが挙げられる。
【0044】
シアントナー用の着色剤としては、たとえば、カラーインデックスによって分類されるC.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ソルベントブルー55、C.I.ソルベントブルー70、C.I.ダイレクトブルー25、およびC.I.ダイレクトブルー86などが挙げられる。
【0045】
ブラックトナー用の着色剤としては、カーボンブラック、酸化銅、二酸化マンガン、アニリンブラック、活性炭、非磁性フェライト、磁性フェライト、およびマグネタイト等が挙げられる。
【0046】
本実施形態のトナーは、色が黒色である鉄原子を中心原子とする錯体を含むので、ブラックトナー用の着色剤の含有量を低減することができる。
【0047】
着色剤の含有量は、5重量%以上12重量%以下が好ましく、6重量%以上8重量%以下がより好ましい。
【0048】
(帯電制御剤)
本実施形態のトナーは、低湿環境下における帯電量が25μC/g以上35μC/g以下であり、高湿環境下における帯電量が20μC/g以上30μC/g以下であることが好ましい。
【0049】
上記のような帯電量を有するトナーとするため、本実施形態のトナーは、第1帯電制御剤および第2帯電制御剤が、全トナー粒子中に均一に分散されている。
【0050】
第1帯電制御剤は、ホウ素原子を中心原子とする錯体である。ホウ素原子を中心原子とする錯体としては、ベンジル酸ホウ素錯体が挙げられる。ベンジル酸ホウ素錯体としては、たとえば下記式で表される4−エチルベンジル酸ホウ素錯体が挙げられる。
【0051】
【化1】

【0052】
第2帯電制御剤は、鉄原子を中心原子とする錯体である。鉄原子を中心原子とする錯体としては、モノアゾ鉄錯体および下記式で表される鉄アゾ錯体が挙げられる。下記式中、a+b+cは1である。
【0053】
【化2】

【0054】
ホウ素原子を中心原子とする錯体は、低湿環境下においてトナーの帯電量が不所望に高くなることを抑制することができる。鉄原子を中心原子とする錯体は、高湿環境下におけるトナーの帯電量の低下を抑制することができる。したがって、ホウ素原子を中心原子とする錯体である第1帯電制御剤と、鉄原子を中心原子とする錯体である第2帯電制御剤とが全トナー粒子中に均一に分散された本実施形態のトナーは、低湿環境下において、不所望に高い帯電量の上昇を抑制し、画像濃度の低下を抑制することができるとともに、高湿環境下において、帯電量の低下を抑制し、かぶりの発生を抑制することができるので、帯電安定性が良好である。
【0055】
このような効果を発揮するためには、第1帯電制御剤および第2帯電制御剤のトナー中での分散径が最適な値であることも重要である。
【0056】
第1帯電制御剤および第2帯電制御剤がトナー中で最適な分散径であるか否かは、低湿環境下および高湿環境下におけるトナーの帯電量が上記範囲内であるかどうかで推測できる。低湿環境下および高湿環境下におけるトナーの帯電量が上記範囲内であれば、第1帯電制御剤および第2帯電制御剤がトナー中で最適な分散径であると推測できる。
【0057】
ホウ素原子を中心原子とする錯体である第1帯電制御剤は、相対的に凝集性が高く、鉄原子を中心原子とする錯体である第2帯電制御剤は、相対的に凝集性が低いので、第1帯電制御剤と第2帯電制御剤とは、結着樹脂への分散性が異なる。このように、結着樹脂への分散性が異なる2種類の帯電制御剤を、全トナー粒子中に均一に分散させることができるトナーの製造方法は、後述する。
【0058】
第1帯電制御剤の含有量は、第1結着樹脂100重量部に対して0.2重量部以上2.0重量部以下が好ましい。第2帯電制御剤の含有量は、第2結着樹脂100重量部に対して0.4重量部以上4.0重量部以下が好ましい。
【0059】
(その他のトナー成分)
本実施形態のトナーは、上述したトナー成分の他に、磁性粉および離型剤を必要に応じて配合することができる。
【0060】
磁性粉としては、マグネタイト、γ−ヘマタイト、および各種フェライト等の磁性体が挙げられる。
【0061】
離型剤としては、各種離型剤、特に低分子量ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリエチレン等のポリオレフィン系ワックスが挙げられる。これらの離型剤を用いることによって、本実施形態のトナーの定着性を向上させることができる。
【0062】
離型剤の含有量は、第1結着樹脂および第2結着樹脂の合計100重量部に対して1重量部以上10重量部以下が好ましい。
【0063】
トナーの体積平均粒子径は、5.0μm以上9.0μm以下が好ましい。トナーの変動係数は、15%以上30%以下が好ましい。
【0064】
2、トナーの製造方法
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態であるトナーの製造方法を示す工程図である。本実施形態のトナーの製造方法は、第1混合工程S1と、第1混練工程S2と、第2混合工程S3と、第2混練工程S4と、第3混合工程S5と、第3混練工程S6と、粉砕工程S7と、分級工程S8とを含む。
【0065】
(第1混合工程)
ステップS1の第1混合工程では、少なくとも第1結着樹脂と、着色剤と、第1帯電制御剤とを混合機により乾式混合して第1混合物を作製する。
【0066】
乾式混合に用いられる混合機としては、公知のものを使用でき、たとえば、ヘンシェルミキサー(商品名:FMミキサー、三井鉱山株式会社製)、スーパーミキサー(商品名、株式会社カワタ製)およびメカノミル(商品名、岡田精工株式会社製)などのヘンシェルタイプの混合装置、オングミル(商品名、ホソカワミクロン株式会社製)、ハイブリダイゼーションシステム(商品名、株式会社奈良機械製作所製)、ならびにコスモシステム(商品名、川崎重工業株式会社製)などが挙げられる。
【0067】
(第1混練工程)
ステップS2の第1混練工程では、混練機によって第1混合物を加熱下で溶融混練して、第1結着樹脂中に第1帯電制御剤が均一に分散された第1混練物を作製する。
【0068】
前述のように、第1結着樹脂は、第2結着樹脂よりも軟化温度が低く、相対的に低分子量成分が多い樹脂である。また、第1帯電制御剤は、相対的に凝集性が高い、ホウ素原子を中心原子とする錯体である。相対的に凝集性が高い第1帯電制御剤と、相対的に低分子量成分の多い第1結着樹脂とを溶融混練することによって、第1帯電制御剤を第1結着樹脂中に均一に分散させることができる。また、第1結着樹脂中における第1帯電制御剤の分散径を最適な分散径とすることができる。
【0069】
第1混練工程での混練温度は、100℃以上160℃以下が好ましい。第1混練工程での混練温度が100℃未満であると、第1結着樹脂中に第1帯電制御剤を均一に分散させることができない。第1混練工程での混練温度が160℃を超えると、第1結着樹脂の溶融粘度が低くなり、第1帯電制御剤などの分散性が悪くなる。
【0070】
また、第1混練工程での混練温度は、第1結着樹脂の軟化温度よりも高く、160℃以下がより好ましい。本工程では、相対的に低分子量成分が多い第1結着樹脂と、第1帯電制御剤とを溶融混練するので、第1結着樹脂にシェアをかけすぎると、第1結着樹脂の分子鎖が短くなるおそれがある。第1結着樹脂の軟化温度よりも高い温度で溶融混練を行うことによって、第1結着樹脂にかけるシェアを抑制しつつ、第1結着樹脂中に第1帯電制御剤を均一に分散させることができる。
【0071】
混練機としては公知のものを使用でき、たとえば、二軸押出し機、三本ロールおよびラボブラストミルなどの一般的な混練機を使用することができる。さらに具体的には、たとえば、TEM−100B(商品名、東芝機械株式会社製)、PCM−65/87、PCM−30(以上いずれも商品名、株式会社池貝製)などの1軸または2軸のエクストルーダ、ニーデックス(商品名、三井鉱山株式会社製)などのオープンロール方式の混練機が挙げられる。これらの中でも、オープンロール方式の混練機が好ましい。第2混合物は、複数の混練機を用いて溶融混練されても構わない。
混練機の回転速度は、200rpm以上400rpm以下が好ましい。
【0072】
(第2混合工程)
ステップS3の第2混合工程では、少なくとも第2結着樹脂と、第2帯電制御剤とを混合機により乾式混合して第2混合物を作製する。
【0073】
乾式混合に用いられる混合機としては、前述の第1混合工程で用いることができる混合機と同様の混合機を用いることができる。
【0074】
(第2混練工程)
ステップS4の第2混練工程では、混練機によって第2混合物を加熱下で溶融混練して、第2結着樹脂中に第2帯電制御剤が均一に分散された第2混練物を作製する。
【0075】
前述のように、第2結着樹脂は、第1結着樹脂よりも軟化温度が高く、相対的に高分子量成分が多い樹脂である。また、第2帯電制御剤は、相対的に凝集性が低く、鉄原子を中心原子とする錯体である。相対的に凝集性が低い第2帯電制御剤と、相対的に高分子量成分の多い樹脂とを溶融混練することによって、第2帯電制御剤を第2結着樹脂中に均一に分散させることができる。また、第2結着樹脂中における第2帯電制御剤の分散径を最適な分散径とすることができる。
【0076】
第2混練工程での混練温度は、120℃以上180℃以下が好ましい。第2混練工程での混練温度が120℃未満であると、第2結着樹脂中に第2帯電制御剤を均一に分散させることができない。第2混練工程での混練温度が180℃を超えると、第2結着樹脂の溶融粘度が低くなり、第2帯電制御剤などの分散性が悪くなる。
【0077】
また、第2混練工程での混練温度は、120℃以上、第2結着樹脂の軟化温度よりも低い温度以下がより好ましい。本工程では、相対的に高分子量成分が多い第2結着樹脂と、第2帯電制御剤とを溶融混練するので、第2帯電制御剤を均一に分散させるために、第2結着樹脂に充分なシェアをかける必要がある。第2結着樹脂の軟化温度よりも低い温度で溶融混練を行うことによって、第2結着樹脂に充分なシェアをかけることができ、第2結着樹脂中に第2帯電制御剤を均一に分散させることができる。
【0078】
混練機としては、前述の第1混練工程で用いることができる混練機と同様の混練機を用いることができる。混練機の回転速度は、200rpm以上400rpm以下が好ましい。
【0079】
(第3混合工程)
ステップS5の第3混合工程では、第1混練物と、第2混練物と、離型剤とを混合機により乾式混合して第3混合物を作製する。
【0080】
乾式混合に用いられる混合機としては、前述の第1混合工程および第2混合工程で用いることができる混合機と同様の混合機を用いることができる。
【0081】
(第3混練工程)
ステップS6の第3混練工程では、混練機によって第3混合物を加熱下で溶融混練して、第1結着樹脂および第2結着樹脂中に、第1帯電制御剤および第2帯電制御剤が均一に分散された第3混練物を作製する。
【0082】
第3混練工程での混練温度は、120℃以上180℃以下が好ましい。第3混練工程での混練温度が120℃未満であると、第1結着樹脂および第2結着樹脂中に、第1帯電制御剤および第2帯電制御剤を均一に分散させることができない。第3混練工程での混練温度が180℃を超えると、第1結着樹脂および第2結着樹脂の溶融粘度が低くなり、第1帯電制御剤および第2帯電制御剤などの分散性が悪くなる。
【0083】
混練機としては、前述の第1混練工程で用いることができる混練機と同様の混練機を用いることができる。混練機の回転速度は、200rpm以上300rpm以下が好ましい。
【0084】
(粉砕工程)
ステップS7の粉砕工程では、第3混練物を冷却して固化させ、冷却固化させた第3混練物を粉砕することによって、粉砕物を作製する。
【0085】
冷却固化された第3混練物は、まずハンマーミルまたはカッターミルなどによって、たとえば体積平均粒子径が100μm以上5mm以下程度である粗粉砕物にそれぞれ粉砕される。その後、得られた粗粉砕物は、所望の体積平均粒子径を有する所望の体積平均粒子径を有する粉砕物にまでそれぞれ微粉砕される。
【0086】
粗粉砕物の微粉砕には、たとえば、超音速ジェット気流を利用して粉砕するジェット式粉砕機、高速で回転する回転子であるロータと固定子であるライナとの間に形成される空間に、粗粉砕物を導入して粉砕する衝撃式粉砕機などを用いることができる。
【0087】
冷却固化された溶融混練物は、ハンマーミルまたはカッティングミルなどによる粗粉砕を経ることなく、直接ジェット式粉砕機または衝撃式粉砕機などにより粉砕されてもよい。
【0088】
(分級工程)
ステップS8の分級工程では、粉砕工程S7にて得られた粉砕物から、分級機で過粉砕トナー粒子および粗大トナー粒子を除去することによって、本発明のトナーを作製する。過粉砕トナー粒子および粗大トナー粒子は、回収し、他のトナーの製造に再利用するために使用することができる。
【0089】
分級には、遠心力による分級または風力による分級によって過粉砕トナー粒子および粗大トナー粒子を除去できる公知の分級機を使用することができ、たとえば、旋回式風力分級機(ロータリー式風力分級機)などを使用することができる。
【0090】
本工程では、分級条件を適宜調整することによって、分級後に得られるトナーの体積平均粒子径が6.0μm以上7.5μm以下となるように分級を行うことが好ましい。
【0091】
上述の適宜調整する分級条件とは、たとえば、旋回式風力分級機(ロータリー式風力分級機)における分級ロータの回転速度などである。
【0092】
このように、表面エネルギーや融点が異なり、結着樹脂への分散性が異なる第1帯電制御剤および第2帯電制御剤を、第1混練工程S2と第2混練工程S4とで別々に溶融混練することによって、それぞれの帯電制御剤に最適な条件で溶融混練することができる。そのため、第1帯電制御剤を第1結着樹脂に均一に分散させた第1混練物を得ることができ、第2帯電制御剤を第2結着樹脂に均一に分散させた第2混練物を得ることができる。第3混練工程S6で、第1混練物と第2混練物とを溶融混練することによって、全トナー粒子に第1帯電制御剤および第2帯電制御剤が均一に分散されたトナーを得ることができる。また、このトナーは、第1結着樹脂および第2結着樹脂中における第1帯電制御剤および第2帯電制御剤の分散径がそれぞれ最適な分散径である。したがって、上記の製造方法で得られたトナーは、高湿環境下においてトナーの帯電量を向上させることで、画像濃度の低下を抑制できるとともに、低湿環境下においてトナーの帯電量の必要以上の上昇を抑えることで、かぶりの発生を抑制することができる。
【0093】
<第2実施形態>
図2は、本発明の第2の実施形態であるトナーの製造方法を示す工程図である。本発明の第2の実施形態であるトナーの製造方法は、第1混合工程S11と、第1混練工程S12と、第2混合工程S13と、第2混練工程S14と、粉砕工程S15と、分級工程S16とを含む。
【0094】
(第1混合工程)
ステップS11の第1混合工程では、少なくとも第1結着樹脂と、着色剤と、第1帯電制御剤とを混合機により乾式混合して第1混合物を作製する。第1混合工程S11での混合方法および混合条件などは、前述の第1実施形態の第1混合工程S1と同様である。
【0095】
(第1混練工程)
ステップS12の第1混練工程では、混練機によって第1混合物を加熱下で溶融混練して、第1結着樹脂中に第1帯電制御剤が均一に分散された第1混練物を作製する。第1混練工程S12での混練方法および混練条件などは、前述の第1実施形態の第1混練工程S2と同様である。
【0096】
(第2混合工程)
ステップS13の第2混練工程では、第1混練物と、第2結着樹脂と、第2帯電制御剤と、離型剤とを混合機により乾式混合して第2混合物を作製する。第2混合工程での混合方法および混合条件などは、前述の第1実施形態の第2混合工程S3と同様である。
【0097】
(第2混練工程)
ステップS14の第2混練工程では、混練機によって第2混合物を混練機により溶融混練して、第1結着樹脂および第2結着樹脂中に、第1帯電制御剤および第2帯電制御剤が均一に分散された第2混練物を作製する。第2混練工程S14での混練方法および混練条件などは、前述の第1実施形態の第2混練工程S4と同様である。
【0098】
(粉砕工程)
ステップS15の粉砕工程では、第2混練物を冷却して固化させ、冷却固化させた第2混練物を粉砕することによって、粉砕物を作製する。粉砕工程S15での粉砕方法および粉砕条件などは、前述の第1実施形態の粉砕工程S7と同様である。
【0099】
(分級工程)
ステップS16の分級工程では、粉砕工程S15にて得られた粉砕物から、分級機で過粉砕トナー粒子および粗大トナー粒子を除去することによって、本発明のトナーを作製する。
【0100】
このように、結着樹脂への分散性が相対的に低いホウ素原子を中心原子とする錯体を、結着樹脂への分散性が相対的に高い鉄原子を中心原子とする錯体よりも長い時間溶融混練することによって、全トナー粒子中に第1帯電制御剤および第2帯電制御剤が均一に分散されたトナーを得ることができる。また、このトナーは、第1結着樹脂および第2結着樹脂中における第1帯電制御剤および第2帯電制御剤の分散径がそれぞれ最適な分散径である。したがって、上記の製造方法で得られたトナーは、高湿環境下においてトナーの帯電量を向上させることで、画像濃度の低下を抑制できるとともに、低湿環境下においてトナーの帯電量の必要以上の上昇を抑えることで、かぶりの発生を抑制することができる。
【0101】
(外添剤)
上記のようにして得られたトナーには、流動性の調整、感光体上へのトナー・フィルミングの防止、および感光体ドラム上の残留トナーのクリーニング性の向上を目的とする外添剤を外添させてもよい。
【0102】
外添剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、および酸化亜鉛等の無機酸化物と、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、およびスチレン等の化合物の単独、および共重合体樹脂微粒子と、フッ素樹脂微粒子、シリコーン樹脂微粒子、およびステアリン酸等の高級脂肪酸、およびその高級脂肪酸の金属塩と、カーボンブラック、フッ化黒鉛、炭化珪素、および窒化ホウ素等の薬剤を挙げることができる。
【0103】
外添剤の添加量は、第1結着樹脂および第2結着樹脂の合計100重量部に対して、0.5重量部以上5重量部以下が好ましい。
【0104】
(2成分現像剤)
本発明のトナーは、1成分現像剤として用いることができる。また、キャリアとともに2成分現像剤として用いることができる。
【0105】
キャリアとしては、この分野で常用されるものを用いることができる。たとえば、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、コバルト、マンガン、クロムなどからなる単独または複合フェライトおよびキャリアトナー母粒子を被覆物質で表面被覆した樹脂被覆キャリア、または樹脂に磁性を有する粒子を分散させた樹脂分散型キャリア等を挙げることができる。
【0106】
被覆物質としては、特に限定されるものではなく、公知のものを用いることができる。たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、モノクロロトリフルオロエチレン重合体、ポリフッ化ビニリデン、シリコン樹脂、ポリエステル樹脂、ジターシャーリーブチルサリチル酸の金属化合物、スチレン系樹脂、アクリル樹脂、ポリアシド、ポリビニルラール、ニグロシン、アミノアクリレート樹脂、塩基性染料、塩基性染料のレーキ物、シリカ微粉末、アルミナ微粉末等を挙げることができる。また、樹脂分散型キャリアに用いられる樹脂としては、特に限定されるものではないが、たとえば、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、およびフェノール樹脂等を挙げることができる。いずれも、トナー成分に応じて適宜選択することが好ましく、1種を単独で用いてもよいし、または2種以上を併用してもよい。
【0107】
2成分現像剤において、キャリアに対するトナーの被覆率は、40%以上80%以下が好ましい。
【実施例】
【0108】
次に実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り特に本実施例に限定されるものではない。
【0109】
[物性値測定方法]
実施例、および比較例における各物性値は、以下に示すようにして測定した。
【0110】
〔結着樹脂の軟化温度(T1/2)〕
流動特性評価装置(商品名:フローテスターCFT−500C、株式会社島津製作所製)を用い、試料1gをシリンダに挿入し、ダイから押出されるように荷重10kgf/cm(0.980665MPa)を与えながら、昇温速度毎分6℃(6℃/min)で加熱し、ダイから試料の半分が流出したときの温度を軟化温度として求めた。ダイには、口径1mm、長さ1mmのものを用いた。
【0111】
〔結着樹脂の酸価〕
酸価は中和滴定法によって測定した。THF50mlに試料5gを溶解させ、指示薬としてフェノールフタレインのエタノール溶液を数滴加えた後、0.1モル/lの水酸化カリウム(KOH)水溶液で滴定を行なった。試料溶液の色が無色から紫色に変化した点を終点とし、終点に達するまでに要した水酸化カリウム水溶液の量と滴定に供した試料の重量とから、酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0112】
〔結着樹脂の重量平均分子量(Mw)〕
GPC装置(商品名:HLC−8220GPC、東ソー株式会社製)を用い、温度40℃において、試料の0.25重量%のテトラヒドロフラン(以下、「THF」と記す)溶液を試料溶液とし、試料溶液の注入量を200μlとして、分子量分布曲線を求めた。得られた分子量分布曲線から、重量平均分子量Mwを求めた。なお、分子量校正曲線は標準ポリスチレンを用いて作成した。
【0113】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計(商品名:DSC220、セイコー電子工業株式会社製)を用い、試料1gを温度20℃から昇温速度毎分10℃で200℃まで昇温させ、次いで200℃から20℃に急冷させる操作を2回繰返し、DSC曲線を測定した。2回目の操作で測定されるDSC曲線の融解に相当する吸熱ピークの頂点の温度を離型剤の融点として求めた。
【0114】
〔トナーの体積平均粒子径および変動係数(CV値)〕
電解液(商品名:ISOTON−II、ベックマン・コールター株式会社製)50mlに、試料20mgおよびアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム1mlを加え、超音波分散器(商品名:UH−50、株式会社エスエムテー製)によって、超音波周波数20kHzで3分間分散処理して、測定用試料を調製した。この測定用試料について、粒度分布測定装置(商品名:MultisizerIII、ベックマン・コールター株式会社製)を用い、アパーチャ径100μm、測定粒子数50000カウントの条件下に測定を行い、体積粒度分布から体積平均粒子径を求めた。また、体積粒度分布における標準偏差(μm)を求めて、下記式(1)に基づいて変動係数(CV値、%)を算出した。変動係数は、その値が小さいほど、粒度分布幅が狭いことを意味する。
CV値(%)={体積粒度分布における標準偏差(μm)
/体積平均粒径(μm)}×100 …(1)
【0115】
〔実施例1〕
(第1混合工程)
ポリエステル樹脂(軟化温度(T1/2):105℃、重量平均分子量:5000、酸価:10mgKOH/g)81.25重量部と、カーボンブラック(商品名:MA−77、三菱化学株式会社製)17.5重量部と、ベンジル酸ホウ素錯体(商品名:LR−147、日本カーリット株式会社製)1.25重量部とを、ヘンシェルミキサー(商品名:FM20C、三井鉱山株式会社製)にて10分間混合し、第1混合物を得た。
【0116】
(第1混練工程)
2軸混練機(商品名:PCM−37、株式会社池貝製)を用い、設定温度120℃、供給量5kg/h、回転速度400rpmの条件で第1混合物を溶融混練して第1混練物を得た。
【0117】
(第2混合工程)
ポリエステル樹脂(軟化温度(T1/2):145℃、重量平均分子量:15000、酸価:10mgKOH/g)97.35重量部と、モノアゾ鉄錯体(商品名:T159、保土谷化学工業株式会社製)2.65重量部とを、ヘンシェルミキサー(商品名:FM20C、三井鉱山株式会社製)にて10分間混合し、第2混合物を得た。
【0118】
(第2混練工程)
2軸混練機(商品名:PCM−37、株式会社池貝製)を用い、設定温度140℃、供給量5kg/h、回転速度400rpmの条件で第2混合物を溶融混練して第2混練物を得た。
【0119】
(第3混合工程)
第1混練物40重量部と、第2混練物56.5重量部と、離型剤(ポリエチレンワックス、商品名:PW−600、ベーカーペトロライト社製、融点(Tm):87℃)3重量部とを、ヘンシェルミキサー(商品名:FM20C、三井鉱山株式会社製)にて10分間混合し、トナー原料混合物を得た。
【0120】
(第3混練工程)
2軸混練機(商品名:PCM−37、株式会社池貝製)を用い、設定温度140℃、供給量5kg/h、回転速度400rpmの条件でトナー原料混合物を溶融混練して第3混練物を得た。
【0121】
(粉砕工程および分級工程)
第3混練物を室温まで冷却して固化した後、カッターミル(商品名:VM−16、オリエント株式会社製)で粗粉砕した。次いで、粗粉砕によって得られた粗粉砕物をカウンタージェットミル(商品名:AFG、ホソカワミクロン株式会社製)によって微粉砕した後、得られた粉砕物をロータリー式分級機(商品名:TSPセパレータ、ホソカワミクロン株式会社製)によって分級して、未外添トナーを得た。
【0122】
(外添工程)
未外添トナー100重量部に対して、シランカップリング剤とジメチルシリコーンオイルとで表面処理した疎水性シリカ微粉体(BET比表面積:140m/g)1.2重量部、シランカップリング剤で表面処理した疎水性シリカ微粉体(BET比表面積:30m/g)0.8重量部、および酸化チタン(BET比表面積:130m/g)0.5重量部を添加し、ヘンシェルミキサー(商品名:FMミキサ、三井鉱山株式会社製)で混合することによって実施例1のトナーを得た。実施例1のトナーの体積平均粒径は7.0μm、変動係数(CV値)は25%であった。
【0123】
〔実施例2〕
(第1混合工程)
ポリエステル樹脂(軟化温度(T1/2):105℃、重量平均分子量:5000、酸価:10mgKOH/g)81.25重量部と、カーボンブラック(商品名:MA−77、三菱化学株式会社製)17.5重量部と、ベンジル酸ホウ素錯体(商品名:LR−147、日本カーリット株式会社製)1.25重量部とを、ヘンシェルミキサー(商品名:FM20C、三井鉱山株式会社製)にて10分間混合し、第1混合物を得た。
【0124】
(第1混練工程)
2軸混練機(商品名:PCM−37、株式会社池貝製)を用い、設定温度120℃、供給量5kg/h、回転速度400rpmの条件で第1混合物を溶融混練して第1混練物を得た。
【0125】
(第2混合工程)
第1混練物40重量部と、ポリエステル樹脂(軟化温度(T1/2):145℃、重量平均分子量:15000、酸価:10mgKOH/g)55重量部と、モノアゾ鉄錯体(商品名:T159、保土谷化学工業株式会社製)1.5重量部と、離型剤(ポリエチレンワックス、商品名:PW−600、ベーカーペトロライト社製、融点(Tm):87℃)3重量部とを、ヘンシェルミキサー(商品名:FM20C、三井鉱山株式会社製)にて10分間混合し、第2混合物を得た。
【0126】
(第2混練工程)
2軸混練機(商品名:PCM−37、株式会社池貝製)を用い、設定温度140℃、供給量5kg/h、回転速度400rpmの条件で第2混合物を溶融混練して第2混練物を得た。
【0127】
(粉砕工程、分級工程および外添工程)
第2混練物を用いて、実施例1と同様に粉砕工程、分級工程および外添工程を行うことによって、実施例2のトナーを得た。実施例2のトナーの体積平均粒径は6.9μm、変動係数(CV値)は24%であった。
【0128】
〔実施例3〕
第2混合工程において、商品名がT159のモノアゾ鉄錯体(保土谷化学工業株式会社製)の代わりに、商品名がT129のモノアゾ鉄錯体(保土谷化学工業株式会社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例3のトナーを得た。実施例3のトナーの体積平均粒径は6.8μm、変動係数(CV値)は25%であった。
【0129】
〔実施例4〕
第1混合工程において、商品名がLR−147のベンジル酸ホウ素錯体(日本カーリット株式会社製)の代わりに、商品名がDL−N31のベンジル酸ホウ素錯体(湖北鼎龍化学有限公司製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例4のトナーを得た。実施例4のトナーの体積平均粒径は7.1μm、変動係数(CV値)は23%であった。
【0130】
〔実施例5〕
第1混練工程の設定温度を130℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例5のトナーを得た。実施例5のトナーの体積平均粒径は6.8μm、変動係数(CV値)は25%であった。
【0131】
〔実施例6〕
第1混練工程の設定温度を130℃に変更したこと以外は実施例2と同様にして実施例6のトナーを得た。実施例6のトナーの体積平均粒径は7.1μm、変動係数(CV値)は24%であった。
【0132】
〔比較例1〕
ポリエステル樹脂(軟化温度(T1/2):105℃、重量平均分子量:5000、酸価:10mgKOH/g)34.5重量部と、カーボンブラック(商品名:MA−77、三菱化学株式会社製)7重量部と、ベンジル酸ホウ素錯体(商品名:LR−147、日本カーリット株式会社製)0.5重量部と、ポリエステル樹脂(軟化温度(T1/2):145℃、重量平均分子量:15000、酸価:10mgKOH/g)55重量部と、モノアゾ鉄錯体(商品名:T159、保土谷化学工業株式会社製)1.5重量部と、離型剤(ポリエチレンワックス、商品名:PW−600、ベーカーペトロライト社製、融点(Tm):87℃)3重量部とを、ヘンシェルミキサー(商品名:FM20C、三井鉱山株式会社製)にて10分間混合し、トナー原料混合物を得た。
【0133】
2軸混練機(商品名:PCM−37、株式会社池貝製)を用い、設定温度140℃、供給量5kg/h、回転速度400rpmの条件でトナー原料混合物を溶融混練してトナー原料混練物を得た。
【0134】
このトナー原料混練物を用いて、実施例1と同様に粉砕工程、分級工程および外添工程を行うことによって、比較例1のトナーを得た。比較例1のトナーの体積平均粒径は6.9μm、変動係数(CV値)は25%であった。
【0135】
(2成分現像剤の作製)
キャリアに対するトナーの被覆率が60%となるように、実施例および比較例のトナーとキャリアとをV型混合器混合機(商品名:V−5、株式会社特寿工作所製)にてそれぞれ20分間混合して、2成分現像剤を作製した。キャリアとしては、体積平均粒径45μmのフェライトコアキャリアを用いた。
【0136】
[評価]
上記2成分現像剤を用いて、以下の評価を行った。
【0137】
〔画像濃度、かぶり〕
複合機(商品名:MX−2700、シャープ株式会社製)の黒色現像ユニットを用いて、温度5℃・湿度10%の環境下(低温低湿環境下)および温度30℃・湿度85%の環境下(高温高湿環境下)のそれぞれの環境下で、印字面積5%の画像をモノクロモードで10000枚連続印字した。低温低湿環境下で印字する際、500枚おきに印字画像の画像濃度を測定した。高温高湿環境下で印字する際、500枚おきに印字画像のかぶり値を測定した。なお、画像濃度の測定には、分光測色濃度計(エックスライト株式会社製)を用い、かぶり値の測定には、ZE 2000(日本電飾株式会社製)を用いた。
【0138】
画像濃度の評価基準は以下のとおりである。
○:良好。画像濃度が1.4以上である。
△:実使用上問題なし。画像濃度が1.3以上1.4未満である。
×:不良。印字かすれが判る。画像濃度が1.3未満である。
【0139】
かぶりの評価基準は以下のとおりである。
○:良好。かぶり値が0.5未満である。
△:実用上問題なし。かぶり値が0.5以上1.0未満である。
×:不良。かぶり値が1.0以上である。
【0140】
〔定着域〕
上記複写機を改造したものを用いて、記録媒体である記録用紙(商品名:PPC用紙SF−4AM3、シャープ株式会社製)に、縦20mm、横50mmの長方形状のべた画像部を含むサンプル画像を、べた画像部における未定着状態でのトナーの記録用紙への付着量が0.5mg/cmになるように調整して未定着画像を形成し、上記複写機を改造した複写機を用いて作製した外部定着器を用いて定着画像を作成した。定着プロセス速度は124mm/秒とし、定着ローラの温度を130℃から5℃刻みで温度を上げ、コールドオフセット現象もホットオフセット現象も起こらない温度域である定着幅を求めた。
【0141】
また、ホットオフセット現象およびコールドオフセット現象の発生は、定着時にトナーが記録用紙に定着せずに定着ローラに付着したままローラが一周した後に記録用紙に付着することで判断した。
【0142】
定着域の評価基準は次のとおりである。
○:良好。定着幅が50℃以上である。
△:実使用上問題なし。定着幅が30℃以上50℃未満である。
×:不良。定着幅が30℃未満である。
【0143】
〔帯電安定性〕
トナー2.8gと体積平均粒径45μmのフェライトコアキャリア37.2gとを50mlのポリエチレン容器に入れて、温度5℃・湿度10%の環境下(低温低湿環境下)、に24時間暴露させた後、密閉してボールミル(商品名:ANZ−51S、日陶科学株式会社製)を用いて、300rpmで30分間撹拌し、210HS−ZA(トレック株式会社製)にて、帯電量を測定した。同様にして、温度30℃・湿度85%の環境下(高温高湿環境下)に24時間暴露させた後の帯電量を測定した。下記式(2)によって表される変動割合によって、帯電安定性を評価した。
変動割合 ={(高温高湿下に暴露後の帯電量)
/(低温低湿下に暴露後の帯電量)}×100 …(2)
【0144】
帯電安定性の評価基準は以下のとおりである。
○:良好。変動割合が30%未満である。
△:実使用上問題なし。変動割合が30%以上50%未満である。
×:不良。変動割合が50%以上である。
【0145】
〔総合判定〕
上記評価の評価結果から、総合評価を行った。総合評価基準は以下のとおりである。
◎:良好。すべての評価結果が○である。
○:実使用上問題なし。評価結果に×がなく、△が少なくとも1つある。
×:不良。評価結果に×がある。
評価結果および総合評価結果を表1に示す。
【0146】
【表1】

【0147】
表1の結果から、実施例のトナーは、2種類の帯電制御剤を均一に分散させることができるので、良好な結果が得られることがわかる。
【0148】
比較例1のトナーは、2種類の帯電制御剤を均一に帯電させることができず、画像濃度および帯電安定性が低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1結着樹脂と、着色剤と、ホウ素原子を中心原子とする錯体である第1帯電制御剤とを、加熱下で溶融混練して第1混練物を得る第1混練工程と、
前記第1結着樹脂よりも軟化温度の高い第2結着樹脂と、鉄原子を中心原子とする錯体である第2帯電制御剤とを、加熱下で溶融混練して第2混練物を得る第2混練工程と、
前記第1混練物と、前記第2混練物とを、加熱下で溶融混練する第3混練工程と、を含むことを特徴とするトナーの製造方法。
【請求項2】
第1結着樹脂と、着色剤と、ホウ素原子を中心原子とする錯体である第1帯電制御剤とを、加熱下で溶融混練して混練物を得る第1混練工程と、
前記混練物と、前記第1結着樹脂よりも軟化温度の高い第2結着樹脂と、鉄原子を中心原子とする錯体である第2帯電制御剤とを、加熱下で溶融混練する第2混練工程と、を含むことを特徴とするトナーの製造方法。
【請求項3】
前記第1帯電制御剤が、ベンジル酸ホウ素錯体であることを特徴とする請求項1または2に記載のトナーの製造方法。
【請求項4】
前記第2帯電制御剤が、モノアゾ鉄錯体であることを特徴とする1〜3のいずれか1つに記載のトナーの製造方法。
【請求項5】
前記第1結着樹脂および第2結着樹脂が、バイオマス樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のトナーの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のトナーの製造方法によって製造されることを特徴とするトナー。
【請求項7】
前記着色剤としてブラックトナー用の着色剤を含む黒色トナーであることを特徴とする請求項6に記載のトナー。

【図1】
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【図2】
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