説明

トナー用エステルワックス

【課題】耐ブロッキング性と保存安定性とを有し、かつ、昇温速度による融解挙動の変化が小さく、高速印刷時の画質に優れたトナー用エステルワックスの提供。
【解決手段】平均重合度が3〜10であり、かつ分子中の水酸基のうち二級水酸基が50%以上であるポリグリセリンと、直鎖飽和モノカルボン酸との反応により得られ、融点が40℃以上であるポリグリセリンエステルからなるトナー用エステルワックス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンターなどの電子写真法や静電記録法等で形成される静電荷の現像に用いられるトナーに対して好適に添加されるトナー用エステルワックスに関する。より詳細には、耐ブロッキング性と保存安定性とを有し、かつ、昇温速度による融解挙動の変化が小さく、高速印刷時の画質に優れたトナー用エステルワックスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複写機に求められる性能はより高度になっており、複写機の装置上の改良に加えて、それら装置に使用されるトナーについても、高性能なものが要求されている。例えば、環境意識の高まりから、消費電力を削減するために、定着温度を低温化することが求められている。また、印刷の高速化に伴い、低温定着と定着時間の短縮が必要とされている。さらに、高速印刷においても、画質の低下やばらつきが起きず、高画質が得られることも求められている。
【0003】
特許文献1には、トナーの定着温度を下げるために、トナー用ワックスとして軟化点の低いパラフィンワックスなどを使用する方法が開示されている。しかし、このような軟化点の低い物質をトナーに使用すると、保存中に凝集しやすくなり、耐ブロッキング性が低下することがある。
【0004】
特許文献2には、低温定着性と耐ブロッキング性を両立するトナーを得るために、トナー用離型剤としてグリセリンエステルやジグリセリンエステルを使用する方法が開示されている。しかし、グリセリンエステルやジグリセリンエステルは分子量が小さいため、トナー表面に染み出し易く、トナーの保存安定性が低下することがある。
【0005】
特許文献3には、低温定着性と耐ブロッキング性や保存安定性を両立するトナーを得るために、4官能から8官能までの多価アルコール混合物と脂肪酸との脂肪酸エステル化合物を含有するトナーが開示されている。また、特許文献4には、水酸基価が12〜30mgKOH/gであるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有するトナーが開示されている。しかし、これらのトナーは、低温定着や耐ブロッキング性に優れているが、高速印刷時の画質については、対応が十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−266753号公報
【特許文献2】特開平11−133657号公報
【特許文献3】特開2008−225094号公報
【特許文献4】特開2010−102024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐ブロッキング性と保存安定性とを有し、かつ、昇温速度による融解挙動の変化が小さく、高速印刷時の画質に優れたトナー用エステルワックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の問題について鋭意検討を重ねた結果、所定の割合で二級水酸基を含有する所定平均重合度のポリグリセリンと直鎖飽和モノカルボン酸から合成されるエステルワックスは、昇温速度が高速の場合でも融解熱が小さく、昇温速度による融解熱の変化も小さい。そのため、このエステルワックスをトナーに使用することにより、トナーに耐ブロッキング性や保存安定性が付与されるとともに、高速印刷時の画質に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、平均重合度が3〜10であり、かつ分子中の水酸基のうち二級水酸基が50%以上であるポリグリセリンと、直鎖飽和モノカルボン酸との反応により得られ、融点が40℃以上であるポリグリセリンエステルからなるトナー用エステルワックスである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のトナー用エステルワックスは、昇温速度が高速の場合でも融解熱が小さく、昇温速度による融解熱の変化も小さい。そのため、該ワックスを用いたトナーは、耐ブロッキング性と保存安定性を有し、かつ、高速印刷時の画質に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のトナー用エステルワックスは、特定のポリグリセリンと特定のカルボン酸を反応させて得られるエステル化合物であって、融点が40℃以上、好ましくは60℃以上である。融点が40℃未満であると、トナーの保存安定性が悪化することがある。なお、融点の上限は90℃以下、好ましくは75℃以下である。また、本発明においてエステルワックスの融点は、示差走査熱量分析における吸熱ピークのピークトップの温度である。
以下、このエステルワックスを構成する各成分と、その製法について詳細に説明する。
【0012】
〔ポリグリセリン〕
本発明に用いるポリグリセリンは、平均重合度が3〜10であり、好ましくは5〜7である。平均重合度が3未満の場合には、それを用いて得られるエステルワックスの分子量が小さく、高温保存時の保存安定性が低くなるおそれがある。平均重合度が10を超えると、ポリグリセリンの粘度が非常に高く、ハンドリングに問題が生じるおそれがある。また、ポリグリセリン分子中の全ての水酸基のうち二級水酸基が50%以上、好ましくは55%以上である。なお、ポリグリセリンの平均重合度は液体クロマトグラフィー/質量分析法により、二級水酸基の割合は炭素原子に対する核磁気共鳴スペクトル(NMR)により、それぞれ測定することができる。
【0013】
〔直鎖飽和モノカルボン酸〕
本発明に用いるカルボン酸は直鎖飽和モノカルボン酸である。具体的には、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等が挙げられる。これらカルボン酸は単独又は混合物で用いてもよい。これらカルボン酸の中で、炭素数が16〜30の直鎖飽和モノカルボン酸が好ましく、炭素数が16〜22の直鎖飽和カルボン酸が特に好ましい。カルボン酸の炭素数が16未満の場合には、エステルワックスの融点が低下し、該ワックスを含有するトナーの耐ブロッキング性や保存安定性が低下するおそれがある。また、炭素数が30を超えるカルボン酸は、入手が困難であり、価格も高くなるおそれがある。
【0014】
〔エステルワックス〕
本発明に用いるエステルワックスは、上記のポリグリセリンと上記のカルボン酸とを反応させて得られる。反応を効率よく十分に進めるために、触媒を使用することもできる。反応温度は、180℃〜250℃が好ましく、減圧反応を行なってもよい。反応温度が180℃より低い場合は、反応が十分に進まない場合がある。反応温度が250℃より高い場合は、得られるエステルワックスが着色するおそれがある。また、反応の後、脱酸や水洗などにより精製してもよい。
【0015】
本発明に用いるエステルワックスの酸価は、3mgKOH/g以下であることが好ましく、1mgKOH/g以下であることがより好ましい。酸価が3mgKOH/g以下の場合、該ワックスを含有するトナーの帯電性、耐ブロッキング性や保存安定性が良好となり得る。
【0016】
本発明に用いるエステルワックスの水酸基価は、水酸基価が10mgKOH/g以下であることが好ましく、7mgKOH/g以下であることがより好ましい。水酸基価が10mgKOH/g以下の場合、該ワックスを含有するトナーの帯電性、耐ブロッキング性や保存安定性が良好となり得る。
【0017】
本発明のトナー用エステルワックスは、バインダー樹脂、着色剤、荷電制御剤、離型剤などとともに配合され、通常の製法によってトナーが製造される。本発明のトナー用エステルワックスは、単独又は2種類以上混合して用いてもよい。
このようにして得られたトナー用エステルワックスは、昇温速度が高速の場合でも、融解熱が小さく、昇温速度による融解熱の変化も小さいという効果を有する。
【実施例】
【0018】
以下に本発明のエステルワックスの製造例を示し、本発明を具体的に説明する。なお、以下の実施例および比較例において「部」は質量部を示す。
【0019】
〔評価方法〕
本実施例および比較例で採用した各種評価の方法を次に示す。
〔ポリグリセリンの評価方法〕
(1)ポリグリセリン中の二級水酸基の割合:炭素原子に対する核磁気共鳴スペクトル(NMR)により測定した。ポリグリセリン500mgを重水2.8mLに溶解し、ゲートつきデカップリングにより13C−NMRを測定した。得られたピーク強度から二級水酸基の割合を算出した。
(2)ポリグリセリンの平均重合度:液体クロマトグラフィー/質量分析法により行なった。液体クロマトグラフィーは、カラムとしてTSKgelα−2500(7.8×300mm)、溶離液として水/アセトニトリル=7/3を用い、流量毎分0.8mL、試料濃度100ppm、注入量10μLで、40℃にて測定した。質量分析は、LCQ(サーモクエスト社製)を用い、m/z=90−2000の範囲で測定を行なった。
【0020】
〔エステルワックスの評価方法〕
(1)エステルワックスの酸価:JOCS(日本油化学会)2. 3. 1−96に準拠した。
(2)エステルワックスの水酸基価:JOCS(日本油化学会)2. 3. 6.2−96に準拠した。
(3)示差走査熱量分析によるエステルワックスの熱特性の測定:示差走査熱量分析計として、セイコーインスツル株式会社製の「DSC−6200」を使用した。測定は、約10mgのエステルワックスを試料ホルダーに入れ、レファレンス材料としてアルミナ10mgを用いて行い、0℃から150℃まで昇温して行なった。昇温速度が毎分2℃、毎分30℃の各々の測定を行なった。吸熱ピークの面積をサンプル量で除したものを融解熱とした。なお、測定の前に、0℃から150℃までの昇温工程と150℃から0℃までの冷却工程を経たサンプルを測定試料とした。
(4)エステルワックスの融点:上記(3)に示した、昇温速度毎分2℃の示差走査熱量分析における吸熱ピークのピークトップの温度を融点とした。
【0021】
〔実施例1(エステルワックスの製造例)〕
温度計、窒素導入管、攪拌器および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、表1および表2記載のポリグリセリン(1)100gとベヘニン酸565gを加え、窒素気流下、240℃で反応水を留去しつつ、16時間常圧で反応させた。得られたエステル粗生成物の重量は625gであり、酸価は5.0mgKOH/gであった。このエステル粗生成物625gにトルエン125gおよびエタノール38g(エステル化粗生成物100部に対し、トルエンは20部、エタノールは6部)を入れ、エステル粗生成物の酸価の1.5倍当量に相当する量の水酸化カリウムを含む10%水酸化カリウム水溶液を加え、70℃で30分間攪拌した。30分間静置して水層部を除去して脱酸工程を終了した。ついで、用いたエステル粗生成物100部に対して、20部のイオン交換水を入れて、70℃で30分間攪拌した後、30分間静置して水層部を分離・除去した。廃水のpHが中性になるまで水洗を4回繰り返した。残ったエステル層を170℃、1kPaの減圧条件下で溶媒を留去し、ろ過を行い、酸価0.3mgKOH/g、水酸基価3.0mgKOH/gのエステルワックス580gを得た。
【0022】
得られたワックスの示差走査熱量分析を行なったところ、融解熱は、昇温速度が毎分2℃の場合150mJ/mg、昇温速度が毎分30℃の場合147mJ/mgであり、昇温速度が高速の場合の融解熱が小さかった。すなわち、昇温速度による融解挙動の変化が小さかった。結果を表2 に示す
【0023】
〔実施例2〜5〕
表1および表2記載のポリグリセリン(1〜4)と、表2記載の直鎖飽和モノカルボン酸を用い、実施例1の製造例に準じてエステルワックスの製造を行なった。該ワックスについて、実施例1と同様に試験を行なった。結果を表2に示す。
【0024】
〔比較例1〜6〕
表1および表2記載のポリグリセリン(1、5〜7)やグリセリンと、表2記載の直鎖飽和モノカルボン酸を用い、実施例1の製造例に準じてエステルワックスの製造を行なった。該ワックスについて、実施例1と同様に試験を行なった。結果を表2に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
実施例1、2、4、5のエステルワックスは、昇温速度が低速の場合(毎分2℃)と比較して、昇温速度が高速の場合(毎分30℃)の融解熱が小さく、実施例3のエステルワックスは、昇温速度が低速の場合(毎分2℃)と昇温速度が高速の場合(毎分30℃)の融解熱が同等であった。すなわち、低速昇温での融解熱に対する高速昇温での融解熱の比が実施例1〜5のいずれも100以下であり、昇温速度による融解挙動の変化が小さかった。したがって、これらエステルワックスをトナーに使用すると、高速印刷においても、画質の低下やばらつきが起き難く、高画質を得ることが可能となる。
【0028】
一方、二級水酸基の割合が50%未満のポリグリセリン(5〜7)を使用して得られた比較例1〜4のエステルワックスと、ポリグリセリンの代わりにグリセリンを使用して得られた比較例6のエステルワックスは、昇温速度が低速の場合(毎分2℃)と比較して、昇温速度が高速の場合(毎分30℃)の融解熱が大きかった。すなわち、低速昇温での融解熱に対する高速昇温での融解熱の比が比較例1〜4,6のいずれも100を超え、昇温速度による融解挙動の変化が大きかった。したがって、これらエステルワックスをトナーに使用すると、高速印刷において、画質の低下やばらつきが起き易く、高画質を得ることが困難となる。
【0029】
比較例5のエステルワックスは、昇温速度が低速の場合(毎分2℃)と比較して、昇温速度が高速の場合(毎分30℃)の融解熱が小さかったが、融点が12.3℃と低く、室温にて液体であった。したがって、比較例5のエステルワックスをトナーに使用すると、保存中に凝集しやすくなり、耐ブロッキング性が低下することがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均重合度が3〜10であり、かつ分子中の水酸基のうち二級水酸基が50%以上であるポリグリセリンと、直鎖飽和モノカルボン酸との反応により得られ、融点が40℃以上であるポリグリセリンエステルからなるトナー用エステルワックス。

【公開番号】特開2012−203051(P2012−203051A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65013(P2011−65013)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】