説明

トナー用ポリエステルの製造方法

【課題】優れた低温定着性を有し、耐刷時にも良好なベタ画像追従性を維持することができ、保存安定性にも優れ、臭気の発生も低減されるトナー用ポリエステルの製造方法を提供すること。
【解決手段】工程(a)及び(b):
(a) 重合禁止剤の存在下、ロジンと不飽和カルボン酸とを反応させて、変性ロジンを含むヨウ素価が120gI2/100g以下の反応混合物を得る工程、
(b) 工程(a)で得られた反応混合物を含有するカルボン酸成分と脂肪族多価アルコールを含有するアルコール成分とを縮重合させてポリエステルを得る工程
を含むトナー用ポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられるトナーの結着樹脂として用いられるトナー用ポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術の発展に伴い、低温定着性や保存性(耐ブロッキング性)に優れたトナーが要求されており、ポリエステル中に不飽和ジカルボン酸成分にて変性されたロジン類を使用した非線状架橋型ポリエステル樹脂を含有したトナーが報告されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平4−70765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、近年の印刷機の更なる高速化・省エネ化により、従来のトナー用結着樹脂では市場の要求に対しては不十分であることが判明した。即ち、定着工程での定着時間の短縮化及び定着機での加熱温度の低温化により、より優れた低温定着性が求められている。
【0004】
また、特許文献1で用いられているロジン類は低温定着性の向上には有効であるものの、耐刷時の画像安定性(耐刷時のベタ画像追従性に変化が無い)及び保存安定性に対してはさらなる改善が求められるとともに、ロジンの種類によっては臭気が発生しやすいという欠点も有している。
【0005】
本発明の課題は、優れた低温定着性を有し、耐刷時にも良好なベタ画像追従性を維持することができ、保存安定性にも優れ、臭気の発生も低減されるトナー用ポリエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、工程(a)及び(b):
(a) 重合禁止剤の存在下、ロジンと不飽和カルボン酸とを反応させて、変性ロジンを含むヨウ素価が120gI2/100g以下の反応混合物を得る工程、
(b) 工程(a)で得られた反応混合物を含有するカルボン酸成分と脂肪族多価アルコールを含有するアルコール成分とを縮重合させてポリエステルを得る工程
を含むトナー用ポリエステルの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により得られるポリエステルを結着樹脂として含有したトナーは、優れた低温定着性を有し、耐刷時にも良好なベタ画像追従性を維持することができ、保存安定性にも優れ、臭気の発生も低減されるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、トナー用ポリエステルの製造において、下記の工程(a)及び(b)を含む点に特徴を有する。
(a) 重合禁止剤の存在下、ロジンと不飽和カルボン酸とを反応させて、変性ロジンを含むヨウ素価が120gI2/100g以下の反応混合物を得る工程、
(b) 工程(a)で得られた反応混合物を含有するカルボン酸成分と脂肪族多価アルコールを含有するアルコール成分とを縮重合させてポリエステルを得る工程
【0009】
従来使用されている変性ロジンは、「変性ロジン」であっても、実質的には変性されていない、又は変性度が不足しており、変性ロジンによる低温定着性向上の効果が十分に得られない。これに対し、本発明では、ロジンの不飽和結合の減少とともに低下するヨウ素価を変性度の尺度として変性ロジンを製造することにより、実質的に変性度の高い変性ロジンを含む、ヨウ素価120gI2/100g以下の反応混合物を得ることができ、かかる変性ロジンをカルボン酸成分として用いることにより低温定着性に対してより高い効果が得られる。さらに、分子的に嵩高く、反応性の低い変性ロジンを用いても、アルコール成分として分子的にコンパクトで反応性が高い脂肪族多価アルコールと反応させることにより、変性ロジンをポリエステル中に十分に取り込むことができる。また、不飽和カルボン酸により変性された変性ロジンは、不飽和カルボン酸の化学構造が起因しているためか、耐刷時にも良好なベタ画像追従性を維持することができ、画質を安定に維持することもできるという効果も得られる。
【0010】
工程(a)は、重合禁止剤の存在下、ロジンと不飽和カルボン酸とを反応させて、変性ロジンを含むヨウ素価が120gI2/100g以下の反応混合物を得る工程である。ロジンと不飽和カルボン酸とを反応させることにより、ロジンに、不飽和カルボン酸が付加反応し、具体的には、ロジンの主成分の中で共役二重結合を有するレポピマール酸、アビエチン酸、ネオアビエチン酸及びパラストリン酸と、不飽和カルボン酸とによる加熱下でのディールス-アルダー(Diels-Alder)反応又はエン反応を経て、変性ロジンが得られる。
【0011】
本発明において、不飽和カルボン酸との反応に供するロジンは、松類から得られる天然ロジン、異性化ロジン、二量化ロジン、重合ロジン、不均化ロジン等の、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、デヒドロアビエチン酸、レポピマール酸等を主成分とするロジンであれば、公知のロジンを特に限定することなく使用できるが、色目の観点から、天然ロジンパルプを製造する工程で副産物として得られるトール油から得られるトールロジン、生松ヤニから得られるガムロジン、松の切株から得られるウッドロジン等の天然ロジンが好ましく、低温定着性の観点からトールロジンがより好ましい。
【0012】
本発明における変性ロジンは、加熱下でのディールス-アルダー反応を経て得られるため臭気の原因となる不純物が低減されており、臭気が少ないものであるが、さらに臭気を低減し保存性を向上させる観点から、精製工程により不純物が低減された精製ロジンを不飽和カルボン酸と反応させた変性ロジンがより好ましい。
【0013】
本発明における精製ロジンは、精製工程により不純物が低減されたロジンであり、ロジンを精製することにより、ロジンに含まれる不純物が除去される。主な不純物としては、2-メチルプロパン、アセトアルデヒド、3-メチル-2-ブタノン、2-メチルプロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、n-ヘキサナール、オクタン、ヘキサン酸、ベンズアルデヒド、2-ペンチルフラン、2,6-ジメチルシクロヘキサノン、1-メチル-2-(1-メチルエチル)ベンゼン、3,5-ジメチル2-シクロヘキセン、4-(1-メチルエチル)ベンズアルデヒド等が挙げられる。本発明においては、これらのうち、ヘキサン酸、ペンタン酸及びベンズアルデヒドの3種類の不純物の、ヘッドスペースGC-MS法により揮発成分として検出されるピーク強度を精製ロジンの指標として用いることができる。なお、不純物の絶対量ではなく特定の揮発成分を指標とするのは、本発明における精製ロジンの使用が、ロジンを使用した従来のポリエステルに対して、臭気の改良を課題の1つとしていることによる。
【0014】
即ち、本発明における精製ロジンとは、後述のヘッドスペースGC−MS法の測定条件において、ヘキサン酸のピーク強度が0.8×107以下であり、ペンタン酸のピーク強度が0.4×107以下であり、ベンズアルデヒドのピーク強度が0.4×107以下であるロジンをいう。さらに、保存性及び臭気の観点から、ヘキサン酸のピーク強度は、0.6×107以下が好ましく、0.5×107以下がより好ましい。ペンタン酸のピーク強度は、0.3×107以下が好ましく、0.2×107以下がより好ましい。ベンズアルデヒドのピーク強度は、0.3×107以下が好ましく、0.2×107以下がより好ましい。
【0015】
さらに、保存性及び臭気の観点から、上記3種の物質に加え、n-ヘキサナールと2-ペンチルフランが低減されていることが好ましい。n-ヘキサナールのピーク強度は、1.7×107以下が好ましく、1.6×107以下がより好ましく、1.5×107以下がさらに好ましい。また、2-ペンチルフランのピーク強度は1.0×107以下が好ましく、0.9×107以下がより好ましく、0.8×107以下がさらに好ましい。
【0016】
ロジンの精製方法としては、公知の方法が利用可能であり、蒸留、再結晶、抽出等による方法が挙げられ、蒸留によって、精製するのが好ましい。蒸留の方法としては、例えば特開平7−286139号公報に記載されている方法が利用でき、減圧蒸留、分子蒸留、水蒸気蒸留等が挙げられるが、減圧蒸留によって精製するのが好ましい。例えば、蒸留は通常6.67kPa以下の圧力で200〜300℃のスチル温度で実施され、通常の単蒸留をはじめ、薄膜蒸留、精留等の方法が適用され、通常の蒸留条件下では仕込みロジンに対し2〜10重量%の高分子量物がピッチ分として除去されると同時に2〜10重量%の初留分を除去する。
【0017】
変性前のロジンの軟化点は、50〜100℃が好ましく、60〜90℃がより好ましく、65〜85℃がさらに好ましい。本発明におけるロジンの軟化点とは、後述記載の方法により、ロジンを一度溶融させ、温度25℃、相対湿度50%の環境下で1時間自然冷却させた後に測定される軟化点を意味する。
【0018】
さらに、不飽和カルボン酸との反応に供する変性前のロジンの酸価は、100〜200mgKOH/gが好ましく、130〜180mgKOH/gがより好ましく、150〜170mgKOH/gがさらに好ましい。
【0019】
不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等が挙げられ、ロジンとの反応性の観点から、フマル酸、アクリル酸及びイタコン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましく、イタコン酸がより好ましい。イタコン酸は、特異な分子構造しており、フマル酸、アクリル等の不飽和カルボン酸と比較して、2つのカルボキシル基の配置が離れているため、アルコールとの反応性がより高まると考えられる。
【0020】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル又はメタクリルを意味する。従って、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリル酸で変性された変性ロジンとしては、ディールス-アルダー(Diels-Alder)反応又はエン反応における反応活性の観点から、立体障害の少ないアクリル酸で変性されたアクリル酸変性ロジンが好ましい。
【0021】
本発明は、ロジンと不飽和カルボン酸の反応を、重合禁止剤の存在下で行う点に1つの特徴を有する。本発明は、ロジンと不飽和カルボン酸の反応をヨウ素価を指標として行うが、ヨウ素価は不飽和結合の減少に伴って低下するため、ロジンと不飽和カルボン酸の反応だけでなく、不飽和カルボン酸同士の付加重合によってもヨウ素価は減少する。そこで、本発明では、重合禁止剤を用いることにより、不飽和カルボン酸同士の付加重合を抑制して、ロジンと不飽和カルボン酸との反応を促進し、変性度の高い変性ロジンを得ることができる。
【0022】
重合開始剤としては、フェノール類が好ましく、2価のフェノール及び水酸基に対して少なくともオルト位に置換基を有するフェノール性化合物(以下、ヒンダードフェノールという)がより好ましく、ヒンダードフェノールがさらに好ましい。
【0023】
2価のフェノールとは、ベンゼン環に、OH基が2個結合したものであり、他の置換基がついていない化合物を意味し、ハイドロキノンが好ましい。
【0024】
ヒンダードフェノールとしては、モノ-t-ブチル-p-クレゾール、モノ-t-ブチル-m-クレゾール、t-ブチルカテコール、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、2,5-ジ-t-アミルハイドロキノン、プロピルガレード、4,4’-メチレンビス(2,6-t-ブチルフェノール)、4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ブチルヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、オクタデシル-3-(4-ハイドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、ジステアリル(4-ハイドロキシ-3-メチル-5-t-ブチル)ベンジルマロネート、6-(4-ハイドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-2,4-ビスオクチルチオ-1,3,5-トリアジン、2,6-ジフェル-4-オクタデカノキシフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール)、2,2’-ジハイドロキシ-3,3’-ジ-(α-メチルシクロヘキシル)-5,5’-ジメチルジフェニルメタン、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、トリス[β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、1,3,5-トリス(2,6-ジメチル-3-ハイドロキシ-4-t-ブチルベンジル)イソシアヌレート、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシフェノール)イソシアヌレート、1,1,3’-トリス(2-メチル-4-ハイドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、2,6-ビス(2’-ハイドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシハイドロシンナメート)、ヘキサメチレングルコールビス[β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコールビス[β-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等が挙げられ、これらの中では、ホモポリマーの生成を抑制する観点から、t-ブチルカテコール及び2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノンが好ましく、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノンがより好ましい。
【0025】
重合禁止剤の使用量は、ロジンと不飽和カルボン酸の総量100重量部に対して、0.001〜0.5重量部が好ましく、0.003〜0.1重量部がより好ましく、0.005〜0.1重量部がさらに好ましい。
【0026】
ロジンと不飽和カルボン酸との反応は、重合禁止剤の存在下、ヨウ素価を指標に行う以外は特に限定されないが、例えば、ロジン、不飽和カルボン酸及び重合禁止剤を混合し、180〜260℃程度、好ましくは180〜210℃に加熱することで、ディールス-アルダー反応又はエン反応により、ロジンに含まれる共役二重結合を有する酸に不飽和カルボン酸を付加させて、変性ロジンを得ることができる。
【0027】
ロジンと不飽和カルボン酸との割合は、ポリエステルの分子量を高め、またポリエステルのガラス転移点を高める観点から、ロジン100モルに対して、不飽和カルボン酸が10〜80モルが好ましく、15〜70モルがより好ましく、30〜60モルがさらに好ましい。
【0028】
工程(a)により得られる変性ロジンを含む反応混合物のヨウ素価は、ポリエステルの分子量を高め、またポリエステルのガラス転移点を高める観点から、120gI2/100g以下であり、100gI2/100g以下が好ましく、95gI2/100g以下がより好ましく、90gI2/100g以下がさらに好ましい。また、ヨウ素価は、反応性の観点、及び反応の進行に伴って得られる変性ロジンが嵩高くなり、立体障害となって変性ロジンのポリエステルへの導入率が下がることから、40gI2/100g以上が好ましく、50gI2/100g以上がより好ましい。
【0029】
続いて、工程(a)で得られた反応混合物を含有するカルボン酸成分と脂肪族多価アルコールを含有するアルコール成分とを縮重合させてポリエステルを得る工程(b)を行う。工程(a)により得られた変性ロジンを含む反応混合物は、そのまま使用してもよく、さらに蒸留等の操作を経て精製して使用してもよいが、本発明では、工程(a)における反応を、反応物のヨウ素価を監視しながら行い、工程(a)において、変性ロジンを含むヨウ素価が120gI2/100g以下となった反応混合物を含む反応容器に、工程(a)で得られた反応混合物以外のカルボン酸成分と脂肪族多価アルコールを含有するアルコール成分とを添加して、工程(b)を行うことが好ましい。工程(a)から工程(b)に移る際には、反応混合物を冷却することなく、工程(a)と同一反応容器中で工程(b)の縮重合反応を行うことが好ましい。これにより、より高い生産効率でポリエステルを得ることができる。即ち、得られた反応混合物を一旦冷却し、固化させた後、工程(b)に進む場合、まず冷却に時間を要する。また、固化させる際に粉砕等を行うと、変性ロジンを含む反応混合物の粉砕は、フィッツミル等の通常の粉砕機では、粉砕工程中、粉砕機内で融着を起こすケースが多く、粉砕工程に多大な労力を必要とすることがある。簡便なピンクラッシャー等で粗割りすることで、粉砕を容易にすることも可能であるが、この場合、粉砕された反応混合物の粒径が大きく、フレーク状のものとなり、工程(b)に進んだ際に、反応混合物の溶融溶解に長時間を要することもある。また、工程(a)で得られた反応混合物を冷却することなく、反応系内の温度を(反応混合物の軟化点−10)℃以上の温度で保持した後に、工程(b)に移る方法もあるが、ロジンの溶融状態での保持にかかるエネルギー等の生産効率を考慮すると、工程(a)の後は、より速やかに、好ましくは、工程(a)の反応終了後10時間以内に、より好ましくは5時間以内に、さらに好ましくは2時間以内に工程(b)に移ることが好ましい。これらの観点から、工程(a)の後、反応系内の温度が好ましくは(反応混合物の軟化点(Tm)−10)℃以上、より好ましくはTm以上、さらに好ましくは(Tm+10)℃以上の温度である間に工程(b)に移り、かかる温度以上で、工程(a)で得られた反応混合物以外のカルボン酸成分と脂肪族多価アルコールを含有するアルコール成分とを添加して、工程(b)を行うことが好ましく、工程(a)から工程(b)に移るに際しては、反応系内温度の保持、冷却等の温度制御操作は行わないことがより好ましい。
【0030】
工程(a)で得られた反応混合物の含有量は、カルボン酸成分中、トナーの低温定着性の観点から、5重量%以上が好ましく、8重量%以上がより好ましく、10重量%以上がさらに好ましい。また、保存性の観点からは、85重量%以下が好ましく、70重量%以下がより好ましく、60重量%以下がさらに好ましく、50重量%以下がさらに好ましい。これらの観点から、前記反応混合物の含有量は、カルボン酸成分中、5〜85重量%が好ましく、5〜70重量%がより好ましく、8〜60重量%がさらに好ましく、10〜50重量%がさらに好ましい。
【0031】
カルボン酸成分に含有される、工程(a)で得られた反応混合物以外のカルボン酸化合物としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n-ドデシルコハク酸、n-ドデセニルコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロリメット酸等の3価以上の多価カルボン酸;及びこれらの酸の無水物、アルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。上記のような酸、これらの酸の無水物、及び酸のアルキルエステルを、本明細書では総称してカルボン酸化合物と呼ぶ。
【0032】
アルコール成分には、脂肪族多価アルコールが含有されている。芳香族アルコールより反応性及び低温定着性に優れる脂肪族ジオールをアルコール成分として用いることにより、変性ロジンがポリエステル中に取り込まれ易くなり、低温定着性が向上する。脂肪族多価アルコールとしては、変性ロジンを含むカルボン酸との反応性の観点から、2〜6価の脂肪族多価アルコールが好ましく、2〜3価の脂肪族多価アルコールがより好ましい。脂肪族多価アルコールは、分子構造がよりコンパクトで反応性に富む炭素数2〜6の脂肪族多価アルコールを含有していることが好ましい。炭素数2〜6の脂肪族多価アルコールとしては、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,3-ブタンジオール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、グリセリン等が挙げられ、これらの中では、1,2-プロパンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール及びエチレングリコールが好ましく、その中でも、1,2-プロパンジオールの使用がより好ましい。炭素数2〜6の脂肪族多価アルコールの含有量は、脂肪族多価アルコール中、60モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、実質的に100モル%がさらに好ましい。
【0033】
アルコール成分に含有される、脂肪族多価アルコール以外のアルコールとしては、ポリオキシプロピレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAのアルキレン(炭素数2〜3)オキサイド(平均付加モル数1〜16)付加物等のビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA、及びそれらのアルキレン(炭素数2〜4)オキサイド(平均付加モル数1〜16)付加物等が挙げられる。
【0034】
脂肪族多価アルコールの含有量は、変性ロジンとの反応性の観点から、アルコール成分中、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、85モル%以上がさらに好ましく、実質的に100モル%がさらに好ましい。
【0035】
アルコール成分及びカルボン酸成分には、耐オフセット性向上の観点から、保存性を損なわない範囲で、変性ロジン以外の3価以上の原料モノマー、即ち3価以上の多価アルコール及び/又は3価以上の多価カルボン酸化合物がアルコール成分及び/又はカルボン酸成分に含まれていることが好ましい。3価以上の多価カルボン酸化合物の含有量は、アルコール成分100モルに対して、0.001〜40モルが好ましく、0.1〜25モルがより好ましく、3価以上の多価アルコールの含有量は、アルコール成分中、0.001〜40モル%が好ましく、0.1〜25モル%がより好ましい。
【0036】
3価以上の原料モノマーにおいて、3価以上の多価カルボン酸化合物としては、トリメリット酸及びその誘導体が好ましく、3価以上の多価アルコールとしては、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、又はそれらのアルキレン(炭素数2〜4)オキサイド(平均付加モル数1〜16)付加物等が挙げられるが、これらの中では、分岐部位となる又は架橋剤として作用するだけでなく低温定着性の向上にも有効であることから、グリセリン、トリメリット酸及びその誘導体が好ましい。
【0037】
アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合は、エステル化触媒の存在下で行うことが好ましい。本発明におけるエステル化触媒の好適例としては、チタン化合物及びSn-C結合を有していない錫(II)化合物が挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は両者を併用して用いられる。
【0038】
チタン化合物としては、Ti-O結合を有するチタン化合物が好ましく、総炭素数1〜28のアルコキシ基、アルケニルオキシ基又はアシルオキシ基を有する化合物がより好ましい。
【0039】
チタン化合物の具体例としては、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)2(C3H7O)2〕、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネート〔Ti(C4H10O2N)2(C3H7O)2〕、チタンジペンチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)2(C5H11O)2〕、チタンジエチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)2(C2H5O)2〕、チタンジヒドロキシオクチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)2(OHC8H16O)2〕、チタンジステアレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)2(C18H37O)2〕、チタントリイソプロピレートトリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)(C3H7O)3〕、チタンモノプロピレートトリス(トリエタノールアミネート)〔Ti(C6H14O3N)3(C3H7O)〕等が挙げられ、これらの中ではチタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネート及びチタンジペンチレートビストリエタノールアミネートが好ましく、これらは、例えばマツモト交商(株)の市販品としても入手可能である。
【0040】
他の好ましいチタン化合物の具体例としては、テトラ-n-ブチルチタネート〔Ti(C4H9O)4〕、テトラプロピルチタネート〔Ti(C3H7O)4〕、テトラステアリルチタネート〔Ti(C18H37O)4〕、テトラミリスチルチタネート〔Ti(C14H29O)4〕、テトラオクチルチタネート〔Ti(C8H17O)4〕、ジオクチルジヒドロキシオクチルチタネート〔Ti(C8H17O)2(OHC8H16O)2〕、ジミリスチルジオクチルチタネート〔Ti(C14H29O)2(C8H17O)2〕等で挙げられ、これらの中ではテトラステアリルチタネート、テトラミリスチルチタネート、テトラオクチルチタネート及びジオクチルジヒドロキシオクチルチタネートが好ましく、これらは、例えばハロゲン化チタンを対応するアルコールと反応させることにより得ることもできるが、ニッソー社等の市販品としても入手可能である。
【0041】
チタン化合物の存在量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.01〜1.0重量部が好ましく、0.1〜0.7重量部がより好ましい。
【0042】
Sn-C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn-O結合を有する錫(II)化合物、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく、Sn-O結合を有する錫(II)化合物がより好ましい。
【0043】
Sn-O結合を有する錫(II)化合物としては、シュウ酸錫(II)、酢酸錫(II)、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ラウリル酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)、オレイン酸錫(II)等の炭素数2〜28のカルボン酸基を有するカルボン酸錫(II);オクチロキシ錫(II)、ラウロキシ錫(II)、ステアロキシ錫(II)、オレイロキシ錫(II)等の炭素数2〜28のアルコキシ基を有するアルコキシ錫(II);酸化錫(II);硫酸錫(II)等が、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物としては、塩化錫(II)、臭化錫(II)等のハロゲン化錫(II)等が挙げられ、これらの中では、帯電立ち上がり効果及び触媒能の点から、(R1COO)2Sn(ここでR1は炭素数5〜19のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表される脂肪酸錫(II)、(R2O)2Sn(ここでRは炭素数6〜20のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表されるアルコキシ錫(II)及びSnOで表される酸化錫(II)が好ましく、(R1COO)2Snで表される脂肪酸錫(II)及び酸化錫(II)がより好ましく、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)及び酸化錫(II)がさらに好ましい。
【0044】
錫(II)化合物の存在量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.01〜1.0重量部が好ましく、0.1〜0.7重量部がより好ましい。
【0045】
チタン化合物と錫(II)化合物を併用する場合、チタン化合物と錫(II)化合物の総存在量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.01〜1.0重量部が好ましく、0.1〜0.7重量部がより好ましい。
【0046】
アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合は、例えば、前記エステル化触媒の存在下、不活性ガス雰囲気中にて、180〜250℃の温度で行うことができる。
【0047】
ポリエステルの軟化点は、トナーの低温定着性、保存性及び耐久性の観点から、90〜160℃が好ましく、95〜155℃がより好ましく、100〜150℃がさらに好ましい。ガラス転移点は、定着性、保存性及び耐久性の観点から、45〜75℃が好ましく、50〜75℃がより好ましく、50〜70℃がさらに好ましい。トナーの帯電性と環境安定性の観点から、酸価は、1〜80mgKOH/gが好ましく、5〜60mgKOH/gがより好ましく、5〜50mgKOH/gがさらに好ましい。
【0048】
なお、本発明において、ポリエステルは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステルであってもよい。変性されたポリエステルとしては、例えば、特開平11−133668号公報、特開平10−239903号公報、特開平8−20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルや、ポリエステルユニットを含む2種以上の樹脂ユニットを有する複合樹脂が挙げられる。
【0049】
本発明により得られたポリエステルをトナー用結着樹脂として用いることにより、低温定着性、及びベタ画像追従性に優れ、定着時の臭気も低減されるトナーを得ることができる。本発明のトナーには、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の結着樹脂、例えば、スチレン-アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の他の樹脂が併用されていてもよいが、本発明のポリエステルの含有量は、結着樹脂中、70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、実質的に100重量%であることがさらに好ましい。
【0050】
本発明のトナーには、さらに、着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0051】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、イソインドリン、ジスアゾエロー等が用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。着色剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。
【0052】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、結着樹脂、着色剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することが出来る。トナーの体積中位粒径(D50)は、3〜15μmが好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。トナーの表面には、疎水性シリカ等の外添剤が添加されていてもよい。
【0053】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【実施例】
【0054】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出する。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0055】
〔ロジンの軟化点〕
(1) 試料の調製
ロジン10gを、170℃で2時間ホットプレートで溶融する。その後、開封状態で温度25℃、相対湿度50%の環境下で1時間自然冷却させ、コーヒーミル(National MK-61M)で10秒間粉砕する。
(2) 測定
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出する。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0056】
〔反応混合物の軟化点〕
(1) 試料の調製
反応混合物10gをサンプリングし、開封状態で温度25℃、相対湿度50%の環境下で1時間保管し、コーヒーミル(National MK-61M)で10秒間粉砕する。
(2) 測定
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出する。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0057】
〔樹脂のガラス転移点(Tg)〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて、試料を0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度とする。
【0058】
〔樹脂及びロジンの酸価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。なお、ロジン1モルの分子量は、酸価をx(mgKOH/g)とすると、ロジン1gに対して水酸化カリウム(分子量:56.1)がxmg(x×10-3g)反応していることになるから、式(A):
分子量=56100÷x (A)
により算出することができる。
【0059】
〔ロジン及び反応混合物のヨウ素価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。
【0060】
〔ホモポリマーの生成の有無〕
ホモポリマーの生成の有無を、反応容器内の上壁のゲル状の付着物を観測することにより確認する。付着物が観測されればホモポリマーが生成されたことを示す。尚、ホモポリマーは、カルボン酸の単独重縮合物のため、水溶性或いは、水にて膨潤し、ゲル状になるものであり、この点で変性ロジンとは明らかに異なる。
【0061】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)5%電解液
分散条件:分散液5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させる。
測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度で、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0062】
[ロジンの精製例]
分留管、還流冷却器及び受器を装備した2000ml容の蒸留フラスコに1000gのトールロジン(Tg:37.2℃)を加え、1kPaの減圧下で蒸留を行い、195〜250℃での留出分を主留分として採取した。以下、精製に供したトールロジンを未精製ロジン、主留分として採取したロジンを精製ロジン(Tg=39.2℃)とする。
【0063】
ロジン20gをコーヒーミル(National MK-61M)で5秒間粉砕し、目開き1mmの篩いを通したものをヘッドスペース用バイアル(20ml)に0.5g測りとった。ヘッドスペースガスをサンプリングして、未精製ロジン及び精製ロジン中の不純物を、ヘッドスペースGC−MS法により分析した結果を表1に示す。
【0064】
〔ヘッドスペースGC−MS法の測定条件〕
A. ヘッドスペースサンプラー(Agilent社製、HP7694)
サンプル温度: 200℃
ループ温度: 200℃
トランスファーライン温度: 200℃
サンプル加熱平衡時間: 30min
バイヤル加圧ガス: ヘリウム(He)
バイヤル加圧時間: 0.3min
ループ充填時間: 0.03min
ループ平衡時間: 0.3min
注入時間: 1min
【0065】
B. GC(ガスクロマトグラフィー)(Agilent社製、HP6890)
分析カラム: DB-1(60m-320μm-5μm)
キャリアー: ヘリウム(He)
流量条件: 1 ml/min
注入口温度: 210℃
カラムヘッド圧: 34.2kPa
注入モード: split
スプリット比: 10:1
オーブン温度条件: 180℃で5min保持後、2℃/minの昇温速度で200℃まで上げ、200℃で5分間保持
【0066】
C. MS(質量分析法)(Agilent社製、HP5973)
イオン化法: EI(電子衝撃)法
インターフェイス温度: 280℃
イオン源温度: 230℃
四重極温度: 150℃
検出モード: Scan 29-350m/s
【0067】
【表1】

【0068】
実施例1
分留管、還流冷却器及び受器を装備した5L容の四つ口フラスコに、表2に示す、精製ロジン、イタコン酸及び2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノンを加え、160℃から200℃に2時間かけて昇温し、200℃にて反応を続けた。反応中、反応系内の反応混合物をサンプリングしながら、反応物のヨウ素価を随時モニタリングした。反応前の混合物のヨウ素価は152gI2/100gであり、昇温開始から1時間経過後の反応混合物のヨウ素価は117gI2/100gであり、2時間経過後、及び3時間経過後のヨウ素価は共に、82.81gI2/100gであった。ヨウ素価が一定になったことを確認した後、さらに5.3kPaの減圧下で蒸留を行いながら、2時間反応させた。合計5時間反応を行い、イタコン酸で変性させた後、サンプリングを行い、得られたイタコン酸変性ロジンを含む反応混合物Aの物性を測定した。最終のヨウ素価及び軟化点及び、イタコン酸のホモポリマーの有無を表2に示す。
【0069】
引き続き、反応系内の温度が150℃まで低下した時点で、溶融した状態の反応混合物Aに、表2に示すアルコール成分、反応混合物Aと無水トリメリット酸以外のカルボン酸成分及びエステル化触媒を添加し、室温の冷水を通水した還流冷却管を上部に装備した98℃の温水を通水した分溜管、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコ中、窒素雰囲気下、160℃で2時間縮重合反応させた後、6時間かけて210℃まで昇温し、その後66kPaにて1時間反応を行った。200℃まで冷却した後、表2に示す無水トリメリット酸を投入し、1時間常圧(101.3kPa)で反応させた後に、210℃に昇温し、40kPaにて所望の軟化点に達するまで反応を行ってポリエステルを得た。
【0070】
実施例2
分留管、還流冷却器及び受器を装備した5L容のフラスコに、表2に示す、精製ロジン、イタコン酸及び2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノンを加え、160℃から200℃に2時間かけて昇温し、200℃にて反応を続けた。反応中、反応物のヨウ素価を随時モニタリングし、ヨウ素価の低下開始から2時間反応させた。反応混合物のヨウ素価が78gI2/100gから低下しなくなり、ヨウ素価が一定になったことを確認した後、さらに5.3kPaの減圧下で蒸留を行いながら、3時間反応させた。合計5時間反応を行い、イタコン酸で変性させた後、サンプリングを行い、得られたイタコン酸変性ロジンを含む反応混合物Bの物性を測定し、最終のヨウ素価、軟化点及びホモポリマーの有無を表2に示す。
【0071】
引き続き、反応系内の温度が200℃の状態で、溶融した状態の反応混合物Bに、表2に示すアルコール成分、反応混合物Bと無水トリメリット酸以外のカルボン酸成分及びエステル化触媒を添加し、以降、実施例1と同様にして、同一反応容器中で縮重合反応を行ってポリエステルを得た。
【0072】
実施例3
分留管、還流冷却器及び受器を装備した5L容のフラスコに、表2に示す、精製ロジン、イタコン酸及び2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノンを加え、160℃から200℃に2時間かけて昇温し、200℃にて反応を続けた。反応中、反応物のヨウ素価を随時モニタリングし、ヨウ素価の低下開始から2時間反応させた。反応混合物のヨウ素価が71gI2/100gから低下しなくなり、ヨウ素価が一定になったことを確認した後、さらに5.3kPaの減圧下で蒸留を行いながら、3時間反応させた。合計5時間反応を行い、イタコン酸で変性させた後、サンプリングを行い、得られたイタコン酸変性ロジンを含む反応混合物Cの物性を測定し、最終のヨウ素価、軟化点及びホモポリマーの有無を表2に示す。
【0073】
引き続き、反応系内の温度が130℃まで低下した時点で、溶融した状態の反応混合物Cに、表2に示すアルコール成分、反応混合物Cと無水トリメリット酸以外のカルボン酸成分及びエステル化触媒を添加し、以降、実施例1と同様にして、同一反応容器中で縮重合反応を行ってポリエステルを得た。
【0074】
実施例4
分留管、還流冷却器及び受器を装備した5L容のフラスコに、表2に示す、未精製ロジン、イタコン酸及び2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノンを加え、160℃から200℃に2時間かけて昇温し、200℃にて反応を続けた。反応中、反応物のヨウ素価を随時モニタリングし、ヨウ素価の低下開始から2時間反応させた。反応混合物のヨウ素価が81gI2/100gから低下しなくなり、ヨウ素価が一定になったことを確認した後、さらに5.3kPaの減圧下で蒸留を行いながら、3時間反応させた。合計5時間反応を行い、イタコン酸で変性させた後、サンプリングを行い、得られたイタコン酸変性ロジンを含む反応混合物Dの物性を測定し、ヨウ素価、軟化点及びホモポリマーの有無を表2に示す。
【0075】
引き続き、反応系内の温度が120℃まで低下した時点で、溶融した状態の反応混合物Dに、表2に示すアルコール成分、反応混合物Dと無水トリメリット酸以外のカルボン酸成分及びエステル化触媒を添加し、以降、実施例1と同様にして、同一反応容器中で縮重合反応を行ってポリエステルを得た。
【0076】
実施例5
反応混合物のヨウ素価が一定になるまで反応を行わず、ヨウ素価が93gI2/100gになった時点で反応系内を2.3kPaに減圧し蒸留を行いながら、さらに3時間反応させた以外は、実施例1と同様にして、イタコン酸変性ロジンを含む反応混合物Eを得た。
【0077】
引き続き、反応系内の温度が140℃まで低下した時点で、溶融した状態の反応混合物Eに、表3に示すアルコール成分、反応混合物Eと無水トリメリット酸以外のカルボン酸成分及びエステル化触媒を添加し、以降、実施例1と同様にして、同一反応容器中で縮重合反応を行ってポリエステルを得た。
【0078】
実施例6
反応混合物のヨウ素価が飽和するまで反応を行わず、ヨウ素価が96gI2/100gになった時点で反応系内を2.3kPaに減圧し蒸留を行いながら、さらに3時間反応させた以外は、実施例4と同様にして、イタコン酸変性ロジンを含む反応混合物Fを得た。
【0079】
引き続き、反応系内の温度が140℃まで低下した時点で、溶融した状態の反応混合物Fに、表3に示すアルコール成分、反応混合物Fと無水トリメリット酸以外のカルボン酸成分及びエステル化触媒を添加し、以降、実施例1と同様にして、同一反応容器中で縮重合反応を行ってポリエステルを得た。
【0080】
比較例1
表3に示すアルコール成分、無水トリメリット酸以外のカルボン酸成分及びエステル化触媒を、室温の冷水を通水した還流冷却管を上部に装備した98℃の温水を通水した分溜管、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、160℃で2時間縮重合反応させた後、6時間かけて210℃まで昇温し、その後66kPaにて1時間反応を行った。200℃まで冷却した後、表3に示す無水トリメリット酸を投入し、1時間常圧(101.3kPa)で反応させた後に、210℃に昇温し、40kPaにて所望の軟化点に達するまで反応を行ってポリエステルを得た。
【0081】
比較例2
分留管、還流冷却器及び受器を装備した5L容のフラスコに、表3に示す、精製ロジン及びイタコン酸を加え、160℃から200℃に2時間かけて昇温し、200℃にて反応を続けた。反応中、反応物のヨウ素価を随時監視し、反応混合物のヨウ素価が115gI2/100gから低下しなくなり、ヨウ素価が一定になったことを確認した時点で反応を終了し、さらに5.3kPaの減圧下で蒸留を行い、イタコン酸変性ロジンを含む反応混合物Gを得た。なお、この製造例では、反応容器内の上壁のゲル状の付着物が観測されたことにより、ホモポリマーの存在が確認できた。反応混合物をバットに取り出し、冷却し、ピンクラッシャーで粉砕し、イタコン酸変性ロジンの粉砕物を得た。このイタコン酸変性ロジンを水に分散させ、水酸化ナトリウムで中和し、生成したホモポリマーを水洗して除去し、再度この生成した変性ロジンを含む反応混合物Gのヨウ素価を測定したころ、ヨウ素価は130gI2/100gであった。イタコン酸は変性に用いられず、ホモポリマー生成につながり、ロジンのイタコン酸変性度は低いものとなった。
【0082】
反応混合物Gと、表3に示すアルコール成分を共に反応容器内にいれ、反応混合物Gを保温溶解した。なお、溶解初期、変性ロジンが固体状のため、反応系を攪拌することができず、無攪拌にて溶解させたが、無攪拌のため、系内温度が上がらず溶解が促進しなかった。途中何とか攪拌できるようなスラリー状になり、溶解できたが、溶解終了まで10時間も要した。
【0083】
その後、表3に示す反応混合物Gと無水トリメリット酸以外のカルボン酸成分及びエステル化触媒を反応容器に添加し、窒素雰囲気下、160℃で2時間縮重合反応させた後、6時間かけて210℃まで昇温し、その後66kPaにて1時間反応を行った。200℃まで冷却した後、表3に示す無水トリメリット酸を投入し、1時間常圧(101.3kPa)で反応させた後に、210℃に昇温し、40kPaにて所望の軟化点に達するまで反応を行ってポリエステルを得た。
【0084】
トナーの製造例
得られたポリエステルを結着樹脂として用い、各ポリエステル100重量部、カーボンブラック「MOGUL L」(キャボット社製)5重量部、負帯電性荷電制御剤「ボントロン S-34」(オリエント化学工業社製)1.2重量部及びポリプロピレンワックス「NP-105」(三井化学社製)1.3重量部をヘンシェルミキサーで十分混合した後、同方向回転二軸押出し機を用い、ロール回転速度を200r/min、ロール内の加熱温度を80℃で溶融混練した。得られた溶融混練物を冷却、粗粉砕した後、ジェットミルにて粉砕し、分級して、体積中位粒径(D50)が8.0μmのトナー粒子を得た。
【0085】
得られたトナー粒子100重量部に、外添剤として「アエロジル R-972」(日本アエロジル社製)1.0重量部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合して、トナーを得た。
【0086】
試験例1〔低温定着性〕
プリンター「ページプレスト N-4」(カシオ計算機社製、定着:接触定着方式、現像方式:非磁性一成分現像方式、現像ロール径:2.3cm)にトナーを実装し、トナー付着量を0.6mg/cm2に調整して未定着画像を得た。得られた未定着画像を接触定着方式の複写機「AR-505」(シャープ社製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した定着機(定着速度:125mm/s)を用いて、定着ロールの温度を100℃から240℃へと5℃ずつ上昇させながら未定着画像を定着させ、定着試験を行った。
【0087】
各定着温度で得られた画像を、「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆社製、幅18mm、JISZ-1522)を貼りつけ、30℃に設定した上記定着機の定着ロールを通過させた後、テープを剥し、テープ剥離前後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定した。両者の比率(剥離後/剥離前)が最初に90%を超える定着ローラーの温度を最低定着温度とし、以下の評価基準に従って低温定着性を評価した。結果を表2、3に示す。
【0088】
〔低温定着性の評価基準〕
4:最低定着温度が150℃未満
3:最低定着温度が150℃以上、170℃未満
2:最低定着温度が170℃以上、180℃未満
1:最低定着温度が180℃以上
【0089】
試験例2〔ベタ画像追従性〕
沖データ(株)製「MICROLINE 3050C」に、トナーを実装し、通常環境下(温度25℃/相対湿度55%)で黒ベタ画像を印字し、目視によりベタ画像追従性を観察し、以下の評価基準に従って、初期のベタ画像追従性を評価した。結果を表2、3に示す。
【0090】
さらに、高温高湿環境下(温度35℃/相対湿度65%)で、印字率5%のチャートを1万枚印刷後、黒ベタ画像を印字し、目視によりベタ画像追従性を観察し、以下の評価基準に従って、耐刷時のベタ画像追従性を評価した。結果を表2、3に示す。
【0091】
〔ベタ画像追従性の評価基準〕
3:チャートに全くかすれがない。
2:チャートの後端に若干のかすれがある。
1:チャートの後端にはっきりとかすれがある。
【0092】
試験例3〔臭気〕
トナー20gをアルミカップに測り取り、150℃に加熱したホットプレートの上に30分間静置し、トナーから発生する臭気を以下の評価基準に従って評価した。結果を表2、3に示す。
【0093】
〔臭気の評価基準〕
4:臭気は全く感じられない。
3:臭気はほとんど感じられない。
2:臭気が若干感じられる。
1:臭気が強く感じられる。
【0094】
試験例4〔保存安定性〕
トナー4gを、直径5cm、高さ2cmの開封系の円筒容器に入れたサンプルを2個用意し、一方は温度40℃、相対湿度60%の環境下に、他方は温度55℃、相対湿度60%の環境下に、72時間放置した。放置後、トナーを入れた容器を軽く振り、トナーの凝集発生の有無を目視により観察し、以下の評価基準に従って保存性を評価した。結果を表2、3に示す。
【0095】
〔保存安定性の評価基準〕
4:40℃、55℃のいずれの環境下でもトナーの凝集は全く認められない。
3:40℃の環境下ではトナーの凝集は全く認められないが、55℃の環境下ではトナーの凝集の粒が僅かに観測される。
2:40℃の環境下ではトナーの凝集の粒が僅かに観測され、55℃の環境下では明らかに凝集が認められる。
1:40℃、55℃のいずれの環境下で明らかに凝集が認められる。
【0096】
【表2】

【0097】
【表3】

【0098】
以上結果より、実施例1〜6のポリエステルを含有したトナーは、低温定着性、耐刷時のベタ画像追従性、保存安定性のいずれにも優れ、臭気も抑制されていることが分かる。これに対し、未変性ロジンをイタコン酸とともにカルボン酸成分として使用した比較例1のポリエステルを含有したトナーは、いずれの性能も不十分である。比較例2は、重合禁止剤を入れずにロジンを変性させたため、イタコン酸のホモポリマーが生成し、ロジンの変性度が上がっていない。また、同一反応容器で続けて反応させていないため、変性ロジンの冷却、粉砕、また、再度溶解に長時間を要している。さらに、得られたポリエステルもロジンのポリマー鎖中への導入が不十分であるため、トナーの各性能も不十分である。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明により得られるトナー用ポリエステルは、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に用いられるトナーの結着樹脂等として用いられるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程(a)及び(b):
(a) 重合禁止剤の存在下、ロジンと不飽和カルボン酸とを反応させて、変性ロジンを含むヨウ素価が120gI2/100g以下の反応混合物を得る工程、
(b) 工程(a)で得られた反応混合物を含有するカルボン酸成分と脂肪族多価アルコールを含有するアルコール成分とを縮重合させてポリエステルを得る工程
を含むトナー用ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
工程(a)において変性ロジンを含むヨウ素価が120gI2/100g以下となった反応混合物を含む反応容器に、工程(a)で得られた反応混合物以外のカルボン酸成分と脂肪族多価アルコールを含有するアルコール成分とを添加して、工程(b)を行う請求項1記載のトナー用ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
工程(a)の後、反応系内の温度が(反応混合物の軟化点−10)℃以上の温度である間に工程(b)に移り、かかる温度以上で、工程(a)で得られた反応混合物以外のカルボン酸成分と脂肪族多価アルコールを含有するアルコール成分とを添加して、工程(b)を行う請求項2記載のトナー用ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
不飽和カルボン酸が、フマル酸、アクリル酸及びイタコン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1〜3いずれか記載のトナー用ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
脂肪族多価アルコールが、炭素数2〜6の脂肪族多価アルコールを含有してなる、請求項1〜4いずれか記載のトナー用ポリエステルの製造方法。
【請求項6】
不飽和カルボン酸との反応に供するロジンが、精製ロジンである、請求項1〜5いずれか記載のトナー用ポリエステルの製造方法。
【請求項7】
縮重合を、チタン化合物及び/又はSn−C結合を有していない錫(II)化合物の存在下で行う、請求項1〜6いずれか記載のトナー用ポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2009−98534(P2009−98534A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271918(P2007−271918)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】