説明

トナー用ワックス

【課題】低温定着を達成し、さらにワックスベーパーによる複写機等の内部の汚染も抑制することができ、良好な定着画像を得ることができるトナー用ワックスを提供する。
【解決手段】トナーに配合される離型剤としてのワックスであって、ひまわり種子から採取されたワックスであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーの離型剤としてのワックスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機およびプリンター用のトナーにおいて、複写機の高速化、省エネルギー化が要望されている。これに対応すべく、低温定着性に優れたトナーの開発が進められている。低温定着を達成するためには、トナーの離型剤ワックスとして融点が低いものを用いる必要があり、低融点ワックスを用いたトナーが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、これら低融点ワックスを用いたトナーを使用した複写機において、連続印刷を行った際に、ワックスベーパーにより複写機内の光学系部品などが汚染され、画像欠陥が発生するという問題が発生している。
【0004】
一般に、低温定着性に優れる離型剤ワックスとして、炭素数分布がシャープで、平均炭素数も小さめであるパラフィンワックスが使用される。これらの沸点は充分に高いが、加熱融解した状態の液表面部分で、ワックス分子の熱運動が分子間力に打ち勝つことで揮発が起こる。揮発性はワックスの蒸気圧や粘度の影響を受ける。
【0005】
パラフィンワックスの揮発を抑えるためには、分子量を大きくすることが有効であるが、同時に融点も高くなり、低温定着性とは逆行する結果となる。また、蒸留精製により、低沸点成分を除去することで揮発性をある程度低減できるが、カット率の割には効果が小さく、満足できるレベルではない。
【0006】
また、ワックスベーパー対策として、マイクロクリスタリンワックスを用いることも提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、ワックスベーパー抑制のための高い効果を得るためには、高度精製したマイクロクリスタリンワックスを使用する必要がある。その場合、樹脂との相溶性が悪く、トナーの粉体流動性や保存性に悪影響を及ぼし、画像欠陥が発生する危険性がある。
【特許文献1】特開平11−327193号公報
【特許文献2】特開2007−206178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、低温定着を達成し、さらにワックスベーパーによる複写機等の内部の汚染も抑制することができ、良好な定着画像を得ることができるトナー用ワックスを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この出願の発明者らは、トナーの離型剤用ワックスについての上記現状に鑑み、ワックスベーパーの発生が少ない、低揮発性のトナー用ワックスに関して種々検討した。
その結果、ひまわり種子より採取されたワックス成分が、ワックスベーパーの発生が少なく、極性樹脂への相溶性が良好であることを見出し本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明のワックスによれば、低温定着を達成し、トナーの保存性、粉体流動性が良好であり、さらにワックスベーパーによる複写機等の内部の汚染も抑制することができ、良好な定着画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
まず本発明のワックスについて説明する。
【0012】
本発明のトナー用ワックスはひまわり種子より採取されたワックス成分である。
【0013】
ひまわり種子からのワックスの採取法は特に限定しないが、種子の圧搾や溶剤抽出により採取されたひまわり油のウィンタリングや、種子外殻表面の溶剤洗浄等より得ることが出来る。
【0014】
本発明のトナー用ワックスは、必要に応じて、溶剤抽出、蒸留、吸着、水添、ろ過等の精製処理を行っても良い。
【0015】
本発明のトナー用ワックスは、直鎖状モノエステルである。分岐を有するエステルワックスでは、溶融時の粘度が高く、また、樹脂内部での移動が妨げられるため、低温定着性において悪影響を及ぼす。
【0016】
本発明のトナー用ワックスは、炭素数48以上の直鎖状モノエステルの含有率が45%以上である。炭素数48以上の直鎖状モノエステルの沸点は高く、250℃以下は揮発しない。炭素数48以下のエステルが主成分の場合、ワックスベーパー発生の危険性があり、好ましくない。
【0017】
本発明のトナー用ワックスは、酸価が7[mgKOH/g]以下である。エステル以外のカルボン酸等の不純物はワックスベーパーの原因となるため、酸価は極力低い方が望ましい。
【0018】
本発明のトナー用ワックスのDSCで測定される吸熱曲線において、最大吸熱ピークのピークトップ温度が、65〜85℃であるが、65℃以下では、トナーに配合した際に熱凝集を起こしやすく、保存性に問題がある。一方で85℃以上であると、定着温度が高くなり、低温定着の目的に逆行するため好ましくない。
【0019】
本発明のワックスは、単独でトナー用ワックスとしてもよく、あるいは他のワックスと併用してトナー用ワックスとしてもよい。また、パラフィンワックスに添加した場合、劇的な効果は期待できないが、相対的に揮発成分を低減できるので、パラフィンワックスの揮発性低減の目的で併用することが可能である。
【0020】
本発明により製造されるトナー用ワックスと共に用いられるトナーの定着用樹脂としては、トナーの定着用樹脂として一般に用いられているものを使用でき、その具体例としては、スチレン・アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、環状構造を有するポリオレフィン樹脂などが挙げられる。
【0021】
スチレン・アクリル樹脂の具体例としては、スチレン・アクリル酸共重合体、スチレン・ジエチルアミノ・エチルメタアクリレート共重合体、スチレン・ブタジエン・アクリル酸エステル共重合体、スチレン・メチルメタアクリレート共重合体、スチレン・ブチルメタアクリレート共重合体、スチレン・ブチルメタアクリレート・無水マレイン酸共重合体、スチレン・ブチルメタアクリレート・アクリル酸共重合体などが挙げられる。
【0022】
ポリエステル樹脂の共重合単量体としては、次のものを挙げることができる。酸成分の具体例としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ダイマー酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロテレフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ジメチルテトラヒドロフタル酸、ナフタレンテトラカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などが挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を併用して用いられる。アルコール成分の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、イソペンチルグリコール、水添ビスフェノールA、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を併用して用いられる。
【0023】
環状構造を有するポリオレフィン樹脂の具体例としては、エチレン、プロピレン、ブチレンなどのアルファオレフィンと、シクロヘキセン、ノルボルネンなどの二重結合を有する脂環式化合物との共重合体などが挙げられる。
【0024】
本発明により製造されるワックスを用いたトナーの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、溶融混練による粉砕法、懸濁重合法、乳化重合法、ミニエマルジョン重合凝集法、ポリエステル鎖伸長法、その他の公知の方法などにより製造することができる。
【0025】
本発明により製造されるワックスを用いたトナーは、モノクロトナーおよびカラートナーのいずれであってもよく、トナーの用途に応じて着色剤が含有される。着色剤としては、通常用いられる顔料および染料を用いることができる。
【0026】
本発明により製造されるワックスを用いたトナーの定着方法は、特に限定されるものではなく、例えば、オーブン式定着法、フラッシュ式定着法、加熱・加圧定着法、その他の公知の方法などが挙げられる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
以下の実施例および比較例における測定方法、調製方法は次のとおりである。
【0029】
[炭素数48以上のエステル含有率]
キャピラリーカラムを取り付けたガスクロマトグラフ装置(Agilent Technologies製6890N)により測定した。ガスクロマトグラムチャート上のピーク面積の総和に対する、炭素数48以上の直鎖状モノエステルのピーク面積の百分率を計算したもの。
【0030】
[融解温度]
DSC測定(セイコー電子工業製 DSC6220)により、JIS K 7121に準拠し、融解温度を測定したもの。
【0031】
[低融点成分含有率]
DSC測定(セイコー電子工業製 DSC6220)により、JIS K 7122に準拠し、全融解熱量を測定する。融解熱量のうち、0〜50℃の間の熱量の全融解熱量に対する百分率を、低融点成分含有率とする。
【0032】
[減量率]
加熱減量分析(セイコー電子工業製TG/DTA 2020)により、300℃の設定で1時間ホールドを行った際の減量率を測定した。実際の試料温度は264℃であったため、264℃減量率とした。
【0033】
[樹脂混練物]
ポリエステル樹脂100質量部、ワックス5質量部を小型二軸混練機(HAAKE製ミニラボ)により100℃、100rpmで30分間混練して試料を得た。
【0034】
[分散粒子径]
上記樹脂混練物を走査電子顕微鏡SEM(日本電子製 JSM5200)にて観察し、分散粒子の平均粒子径を算出した。
【0035】
(実施例1)
アジア産のSUNFLOWER WAXを用いて、評価を実施した。
【0036】
(実施例2)
ヨーロッパ産のSUNFLOWER WAXを用いて、評価を実施した。
【0037】
(実施例3)
アジア産のSUNFLOWER WAXを白土処理し樹脂状成分を除去した後、遠心式分子蒸留装置にて低沸点成分を除去した。収率は30%であった。
【0038】
(比較例1)
トナー用ワックスとして一般的に用いられている、パラフィンワックス HNP−9(日本精蝋製)について、評価を実施した。
【0039】
(比較例2)
特許文献2に記載されている通り、マイクロクリスタリンワックスはワックスベーパーの発生が少ない。マイクロクリスタリンワックスとしてトナー用途に使用される、Hi−Mic−1090(日本精蝋製)について、評価を実施した。
【0040】
(比較例3)
市販のベヘニン酸ベヘニル、ユニスターM2222SL(日油製)の評価を実施した。
【0041】
実施例および比較例におけるワックスの炭素数48以上のエステル含有率、酸価、融解温度、低融点成分含有率、減量開始温度、264℃減量率、樹脂混練物の分散粒子径の測定結果を表1に示す。
【表1】

【0042】
なお、上記の減量率の測定において、264℃は測定温度が高過ぎて現実的ではないが、温度が変動した際の影響確認とワックス間の差を明確に出す目的で測定した。ワックス単独での加熱減量分析の結果は216℃と264℃の測定で高い相関があり、測定温度の影響は小さいといえる。
【0043】
比較例1のHNP−9(ノルマルパラフィン)は、シャープな融解挙動でトナー用離型剤として高い性能を有する。一方で、加熱減量率が高くワックスベーパーによる悪影響がある、樹脂との相溶性が低いという問題がある。
【0044】
比較例2のHi−Mic−1090(マイクロクリスタリンワックス)は、シャープな融解挙動を有し、加熱減量率が低くワックスベーパーの影響が少ないという特性を持つが、樹脂との相溶性が低いという問題がある。
【0045】
比較例3の合成エステルは、主成分の炭素数が44のエステルワックスであり、加熱減量率は高めである。
【0046】
実施例1、2のSUNFLOWER WAXは低融点成分含有率が低く、トナー用ワックスとして使用した場合、粉体流動性、保存性が良好である。また、加熱減量率が低く、ワックスベーパーが発生しにくい。
【0047】
実施例3のSUNFLOWER WAXの分子蒸留処理品は、炭素数48以上の直鎖状モノエステルの含有率が90%以上であり、加熱減量率がかなり低い。炭素数48以上の直鎖状モノエステルの含有率が高いほど、加熱減量率が低く、ワックスベーパーが発生しにくいことが確認される。
【0048】
SUNFLOWER WAXは極性ワックスであり、樹脂との相溶性が高いが、完全相溶でなく、トナー粒子内で微分散しているため、トナー用離型剤ワックスとして良好な性能を有する。
【0049】
以上の結果から明らかなように、SUNFLOWER WAXはトナー用ワックスに求められる、適度な融点、シャープメルト、低融点物が少ない、硬い、低揮発性、樹脂との適度な相溶性という種々の特性を満たすものであることが確認される。
【0050】
すなわち、トナー用離型剤として高い性能を有し、複写機内でのベーパーの発生を抑えることが出来るので、光学系部品等が汚染され、画像欠陥が発生するという問題を解決できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナーに配合される離型剤であるワックスであって、ひまわり種子より採取されたワックス成分であることを特徴とするトナー用ワックス。
【請求項2】
炭素数48以上の直鎖状モノエステルの含有率が45%以上であることを特徴とする請求項1に記載のトナー用ワックス。
【請求項3】
酸価が7[mgKOH/g]以下であることを特徴とする請求項1に記載のトナー用ワックス。
【請求項4】
DSCで測定される吸熱曲線において、最大吸熱ピークのピークトップ温度が、65〜85℃であることを特徴とする請求項1に記載のトナー用ワックス。

【公開番号】特開2011−48315(P2011−48315A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215007(P2009−215007)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000231604)日本精蝋株式会社 (10)
【Fターム(参考)】