説明

トナー用結着樹脂

【課題】トナーの低温定着性と保存性と耐ホットオフセット性とに優れたトナー用結着樹脂、及び該結着樹脂を含有した電子写真用トナー。
【解決手段】カルボン酸成分、アルコール成分及びヒドロキシ基数とカルボキシル基数との総和が3以上である脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物とを縮重合させて得られる、フラン環を有する非晶質ポリエステルを含む、トナー用結着樹脂及び該結着樹脂を含有した電子写真用トナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられるトナー用結着樹脂及び該結着樹脂を含有した電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンターやコピー機の高速化及び省エネ化に伴い、低温定着性に優れたトナーがますます必要となってきている。しかし、通常トナーの結着樹脂を低温で溶融させるために低分子量化を行うと、樹脂のガラス転移点が低下し、保存性が低下すると共に耐ホットオフセット性が低下する。
この課題を解決するために、テレフタル酸やイソフタル酸等の芳香環を有する2価のカルボン酸と無水トリメリット酸等の3価のカルボン酸とを原料モノマーとして用いて得られたポリエステルが汎用されている。
【0003】
一方、特許文献1には、バイオマスを原料に用いて耐熱性、機械物性、耐候性に優れた、十分な分子量を有する熱可塑性樹脂を提供することを課題として、フラン構造を有し、還元粘度(ηsp/C)が0.48dL/g以上、末端酸価が200μeq/g未満であることを特徴とする熱可塑性樹脂が開示されている。
しかしながら、特許文献1に記載の樹脂は、フィルム用途や射出成形品の用途を主として使用する機械物性に優れるものであるため結晶性が高く、トナー用結着樹脂には適していない。
【0004】
また、特許文献2には、初期画像濃度の環境依存性が低く、キャリアの感光体への付着の発生が抑制され、高温高湿度下における非画像部のカブリが抑制される現像剤として、ヒドロキシ基及びカルボキシ基を合計3以上有するヒドロキシ酸及び/又はその誘導体に由来するモノマー単位を全モノマー単位中に2〜20mol%含有するポリエステル樹脂を含む静電荷像現像用トナー、並びに、磁性コア粒子と、前記磁性コア粒子を被覆する被覆樹脂層とを有する静電荷像現像用キャリアを含み、前記被覆樹脂層の樹脂が窒素原子及び/又はフッ素原子を含み、かつ、被覆樹脂層による前記磁性コア粒子の被覆率が80%以上であることを特徴とする静電荷像現像用二成分現像剤が開示されているが、ヒドロキシ基及びカルボキシ基を合計3以上有するヒドロキシ酸は、電荷交換性を高めて、高温高湿下でも画像濃度を一定にするために用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−291243号公報
【特許文献2】特開2009−151045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが検討した結果、カルボン酸成分、アルコール成分及びヒドロキシ基数とカルボキシル基数との総和が3以上である脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物とを縮重合させて得られるポリエステルであって、フラン環を有する非晶質ポリエステルを、トナー用結着樹脂として用いた場合に、トナーの低温定着性と保存性と耐ホットオフセット性に優れていることを見出した。
【0007】
本発明の課題は、トナーの低温定着性と保存性と耐ホットオフセット性とに優れたトナー用結着樹脂、及び該結着樹脂を含有した電子写真用トナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
〔1〕 カルボン酸成分、アルコール成分及びヒドロキシ基数とカルボキシル基数との総和が3以上である脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物とを縮重合させて得られる、フラン環を有する非晶質ポリエステルを含む、トナー用結着樹脂、並びに
〔2〕 前記〔1〕記載の結着樹脂を含有してなる、電子写真用トナー
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のトナー用結着樹脂は、トナーの低温定着性と保存性と耐ホットオフセット性とに優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の結着樹脂は、ヒドロキシ基数とカルボキシル基数との総和が3以上である脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物を用いて得られる非晶質ポリエステルであって、フラン環を有する非晶質ポリエステルからなる点に特徴を有している。
【0011】
本発明者らは、フラン環を有する非晶質ポリエステルは、軟化点が低くとも、ガラス転移点の高い樹脂、換言すれば、数平均分子量が小さくとも、ガラス転移点の高い樹脂であるため、トナーの低温定着性及び保存性に優れるとともに、ヒドロキシ基数とカルボキシル基数との総和が3以上である脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物を、ポリエステルの原料モノマーとして用いることで、トナーの耐ホットオフセット性が格段に優れることを見出した。
この理由は不明なるも、トリメリット酸等の芳香族カルボン酸と比較して、前記脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物は、反応性が高く、ポリエステルをより高分子量化させることができ、格段に耐オフセット性に優れるが、同時にガラス転移点が低下し、保存性が低下する。しかし、フラン環を有する非晶質ポリエステルは、リジッドな構造を有しているため、前記脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物を有効量用いても、ガラス転移点の低下が抑制され、トナーの保存性と耐オフセット性が両立すると考えられる。
【0012】
本発明において、樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計(DSC)による吸熱の最高ピーク温度との比、即ち、「軟化点/吸熱の最高ピーク温度」で定義される結晶性指数によって表される。一般に、この結晶性指数が1.4を超えると樹脂は非晶質であり、0.6未満では結晶性が低く非晶質部分が多い。本発明において、「非晶質」の樹脂とは、結晶性指数が1.4を超えるか、0.6未満の樹脂をいう。
【0013】
「吸熱の最高ピーク温度」とは、実施例に記載する測定方法の条件下で観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度のことを指す。最高ピーク温度が軟化点と20℃以内の差であれば、最高ピーク温度を結晶性樹脂(結晶性ポリエステル)の融点とし、軟化点との差が20℃を超えるピークは非晶質樹脂のガラス転移に起因するピークとする。
【0014】
樹脂の結晶性は、用いる原料モノマーの種類と組み合わせにより、容易に調整することができる。具体的には、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオール等の分岐鎖構造を有するアルコール成分、分岐鎖構造を有するカルボン酸成分、ヒドロキシ基数とカルボキシル基数との総和が3以上である脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物、3価以上のカルボン酸成分やアルコール成分等を適量用いることで、非晶質化を促進することができる。
【0015】
本発明において、フラン環を有する非晶質ポリエステルは、原料モノマーとして、カルボン酸成分、アルコール成分及び前記のヒドロキシ基数とカルボキシル基数との総和が3以上である脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物(以下、単に脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物ともいう)とを用い、これらを縮重合させて得られる樹脂であって、カルボン酸成分とアルコール成分の少なくともいずれかに、フラン環を有するカルボン酸化合物を含むカルボン酸成分及び/又はフラン環を有するアルコールを含むアルコール成分が用いられた樹脂であることが好ましい。フラン環としては、式(Ia)又は(Ib):
【0016】
【化1】

【0017】
で表される構造が好ましい。
【0018】
フラン環を有するカルボン酸化合物としては、フラン-2,5-ジカルボン酸、フラン-2,4-ジカルボン酸、フラン-2,3-ジカルボン酸、フラン-3,4-ジカルボン酸等のフランジカルボン酸化合物(本明細書中、カルボン酸化合物はカルボン酸、カルボン酸と炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3のアルコールとのエステル及び酸無水物を含む);フラン-2-カルボン酸、フラン-3-カルボン酸等のフランカルボン酸化合物;5-ヒドロキシメチル-フラン-2-カルボン酸等のヒドロキシフランカルボン酸化合物;フルフリル酢酸化合物、3-カルボキシ-4-メチル-5-プロピル-2-フランプロピオネート等のカルボン酸化合物(本明細書中、アルコール成分及びヒドロキシ基数とカルボキシル基数との総和が3以上である脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物以外のヒドロキシカルボン酸化合物はカルボン酸成分に含める)等が挙げられ、これらの中では、トナーの低温定着性と保存性と耐ホットオフセット性の観点から、フランジカルボン酸化合物、フランカルボン酸化合物及びヒドロキシフランカルボン酸化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましく、トナーの保存性と耐ホットオフセット性の観点からフランジカルボン酸化合物がより好ましい。
【0019】
フラン環を有するアルコールとしては、ジヒドロキシフラン等のフランジアルコール;5-ヒドロキシメチルフルフリルアルコール等のヒドロキシメチルフルフリルアルコール;フルフリルアルコール;5-ヒドロキシメチルフルフラール等が挙げられ、これらの中では、トナーの低温定着性と保存性と耐ホットオフセット性の観点から、フランジアルコール、ヒドロキシメチルフルフリルアルコール及びフルフリルアルコールからなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましく、特にトナーの保存性の観点から、フランジアルコール及びヒドロキシメチルフルフリルアルコールがより好ましい。
【0020】
式(Ia)で表わされるフラン環を有するカルボン酸化合物として、フラン-2,5-ジカルボン酸、フラン-2,4-ジカルボン酸、フラン-2,3-ジカルボン酸、フラン-3,4-ジカルボン酸等のフランジカルボン酸化合物;5-ヒドロキシメチル-フラン-2-カルボン酸等のヒドロキシフランカルボン酸化合物等のカルボン酸化合物等が挙げられる。
【0021】
式(Ia)で表わされるフラン環を有するアルコールとして、5-ヒドロキシメチルフルフリルアルコール等のヒドロキシメチルフルフリルアルコール;ジヒドロキシフラン等のフランジアルコール;5-ヒドロキシメチルフルフラール等が挙げられる。
【0022】
式(Ib)で表わされるフラン環を有するカルボン酸化合物として、フラン-2-カルボン酸、フラン-3-カルボン酸等のフランカルボン酸化合物;フルフリル酢酸化合物等が挙げられる。
【0023】
式(Ib)で表わされるフラン環を有するアルコールとして、フルフリルアルコール等が挙げられる。
【0024】
上記のカルボン酸化合物及びアルコールの中では、トナーの低温定着性と保存性と耐ホットオフセット性の観点から、式(Ia)で表わされるフラン環を有する、カルボン酸化合物とアルコールとが好ましく、フランジカルボン酸化合物及びヒドロキシメチルフルフリルアルコールがより好ましく、フランジカルボン酸化合物がさらに好ましい。
【0025】
フラン環を有するカルボン酸化合物とフラン環を有するアルコールとの合計量は、トナーの低温定着性と保存性と耐ホットオフセット性の観点から、カルボン酸成分とアルコール成分との合計量中、好ましくは10〜95モル%、より好ましくは20〜90モル%、さらに好ましくは20〜80モル%、さらに好ましくは30〜70モル%であり、さらに好ましくは40〜70モル%である。
【0026】
さらに、フラン環を有するカルボン酸化合物の含有量は、トナーの低温定着性と保存性と耐ホットオフセット性の観点から、カルボン酸成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは20〜100モル%、さらに好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは60〜100モル%であり、さらに好ましくは80〜100モル%である。フランジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの低温定着性と保存性と耐ホットオフセット性の観点から、カルボン酸成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは20〜100モル%、さらに好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは60〜100モル%であり、さらに好ましくは80〜100モル%である。
【0027】
フラン環を有するアルコールの含有量は、トナーの低温定着性と保存性と耐ホットオフセット性の観点から、アルコール成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは10〜90モル%、さらに好ましくは15〜80モル%である。
【0028】
また、トナーの低温定着性と保存性と耐ホットオフセット性の観点から、カルボン酸成分中、1種類のフラン環を有するカルボン酸化合物の含有量は、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは60〜100モル%、さらに好ましくは80〜100モル%であり、アルコール成分中、1種類のフラン環を有するアルコールの含有量は、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは15〜90モル%、さらに好ましくは15〜80モル%、さらに好ましくは15〜70モル%である。なお、1種類とは、構造上の種類であり、組成式が同じであっても構造式が異なるものは、異なる種類としてみなす。
【0029】
フラン環を有するアルコール以外のアルコール成分としては、トナーの低温定着性の観点から、脂肪族ジオールが好ましい。脂肪族ジオールの炭素数は、トナーの低温定着性の観点から、2〜10が好ましく、3〜8がより好ましく、3〜6がさらに好ましい。
【0030】
脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブテンジオール、ネオペンチルグリコール、2,3-ブタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,3-ヘキサンジオール、3,4-ヘキサンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0031】
これらの中で、フラン環とともに、樹脂の運動性をさらに低下させることで、トナーの保存性を向上させるとともに樹脂の非晶質化を促進し、低温定着性を向上させる観点から、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールが好ましい。かかる脂肪族ジオールは、トナーの低温定着性と保存性の観点から、炭素数3〜8が好ましく、炭素数3〜6がより好ましく、具体的な好適例としては、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール等が挙げられ、トナーの低温定着性と保存性の観点から、1,2-プロパンジオール及び2,3-ブタンジオールが好ましく、トナーの低温定着性と保存性と耐オフセット性の観点から、1,2-プロパンジオールがより好ましい。
【0032】
脂肪族ジオールの含有量は、トナーの低温定着性の観点から、アルコール成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは60〜100モル%、さらに好ましくは80〜100モル%であり、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールの含有量は、トナーの低温定着性と保存性の観点から、アルコール成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは60〜100モル%、さらに好ましくは80〜100モル%である。
【0033】
第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールを用いる場合、ヒドロキシ基数とカルボキシル基数との総和が3以上である脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物と第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールとのモル比(脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物/第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオール)は、トナーの低温定着性、保存性及び耐ホットオフセット性の観点から、0.05〜0.8が好ましく、0.05〜0.6がより好ましく、0.1〜0.35がさらに好ましい。
【0034】
アルコール成分がフラン環を有するアルコールを含む場合、脂肪族ジオール/フラン環を有するアルコール(モル比)は、トナーの低温定着性と保存性の観点から、0〜10が好ましく、0.1〜8がより好ましく、0.2〜5がさらに好ましい。
【0035】
これら以外のアルコール成分としては、トナーの保存性の観点から、芳香族アルコールが好ましい。
【0036】
芳香族アルコールとしては、トナーの保存性の観点から、式(II):
【0037】
【化2】

【0038】
(式中、R1O及びOR1はオキシアルキレン基であり、R1はエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は1〜16が好ましく、1〜8がより好ましく、1.5〜4がさらに好ましい)
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物が好ましい。
【0039】
式(II)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシプロピレン付加物、及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシエチレン付加物等のビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0040】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、トナーの保存性及び樹脂の非晶質化の促進の観点から、アルコール成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは20〜100モル%、さらに好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは50〜100モル%である。
【0041】
本発明において、アルコール成分は、樹脂の非晶質化を促進する観点から、3価以上の多価アルコール、好ましくはグリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、より好ましくはグリセリンを含有していてもよい。3価以上の多価アルコールの含有量は、アルコール成分中、0〜5モル%が好ましく、0〜3モル%がより好ましい。
【0042】
フラン環を有するカルボン酸化合物以外のカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸化合物又は脂肪族ジカルボン酸化合物が好ましい。
【0043】
芳香族ジカルボン酸化合物は、トナーの帯電性及び保存性の観点から好ましい。
【0044】
芳香族ジカルボン酸化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、これらの酸無水物、アルキル(炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。
【0045】
カルボン酸成分中、芳香族ジカルボン酸化合物は、トナーの帯電性及び保存性の観点から、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは10〜80モル%、さらに好ましくは10〜70モル%、さらに好ましくは15〜60モル%である。
【0046】
カルボン酸成分がフラン環を有するカルボン酸化合物を含む場合、芳香族ジカルボン酸化合物/フラン環を有するカルボン酸化合物(モル比)は、トナーの帯電性と保存性の観点から、0〜10が好ましく、0.1〜8がより好ましく、0.2〜5がさらに好ましい。
【0047】
脂肪族ジカルボン酸化合物は、低温定着性の観点から好ましい。脂肪族ジカルボン酸化合物の炭素数は、2〜10が好ましく、炭素数3〜9がより好ましい。
【0048】
脂肪族ジカルボン酸化合物としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、これらの酸無水物、アルキル(炭素数1〜6)エステル等が挙げられる。なお、炭素数には、アルキルエステルのアルキル基の炭素数は含まれない。
【0049】
前記脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの低温定着性の観点から、カルボン酸成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは10〜80モル%、さらに好ましくは10〜70モル%、さらに好ましくは15〜60モル%である。
【0050】
本発明において、カルボン酸成分は、樹脂の非晶質化を促進する観点から、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸化合物、好ましくはトリメリット酸化合物、より好ましくは無水トリメリット酸を含有していてもよい。3価以上の多価カルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、0〜5モル%が好ましく、0〜3モル%がより好ましく、0〜1モル%がさらに好ましい。
【0051】
その他のカルボン酸化合物として、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;ロジン;フマル酸、マレイン酸又はアクリル酸等で変性されたロジン等が挙げられる。
【0052】
なお、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、分子量の調整や耐オフセット性向上の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0053】
カルボン酸成分とアルコール成分のモル比(カルボン酸成分/アルコール成分)は、0.7〜1.3が好ましく、0.7〜1.1がより好ましい。
【0054】
本発明において、非晶質ポリエステルの原料モノマーは、ヒドロキシ基数とカルボキシル基数との総和が3以上である脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物を含むことで、トナーの耐ホットオフセット性を向上させる。
【0055】
前記脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物は、樹脂をより非晶化するとともに樹脂の分子量を大きくすることで、トナーの低温定着性及び耐ホットオフセット性に優れる観点から、ヒドロキシ基数とカルボキシル基数の総和が3以上であり、好ましくは4以上であり、より好ましくは3〜6、さらに好ましくは4〜6、さらに好ましくは4〜5である。トナーの耐ホットオフセット性の観点から、1分子が有するカルボキシル基数は2以上が好ましく、2〜4がより好ましく、2〜3がさらに好ましい。トナーの耐ホットオフセット性の観点から、1分子が有するヒドロキシ基数は、1〜3が好ましく、1〜2がより好ましい。1分子が有するカルボキシル数とヒドロキシ基数との比(カルボキシル基数/ヒドロキシ基数)は、トナーの耐ホットオフセット性の観点から、1以上が好ましく、1〜4が好ましく、1〜3がより好ましい。なお、脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物は、少なくともヒドロキシ基とカルボキシル基を、各々1以上含む。
【0056】
前記脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物の炭素数は、トナーの低温定着性及び耐ホットオフセット性の観点から、3以上が好ましく、トナーの保存性の観点から、10以下が好ましく、トナーの低温定着性、保存性及び耐ホットオフセット性の観点から、3〜10がより好ましく、4〜8がさらに好ましい。
【0057】
具体的には、リンゴ酸(炭素数4:カルボキシル基2、ヒドロキシ基1)、酒石酸(炭素数4:カルボキシル基2、ヒドロキシ基2)、クエン酸(炭素数6:カルボキシル基3、ヒドロキシ基1)、イソクエン酸(炭素数6:カルボキシル基3、ヒドロキシ基1)、グルコン酸(炭素数6:カルボキシル基1、ヒドロキシ基5)等が挙げられ、トナーの低温定着性、保存性及び耐ホットオフセット性の観点から、リンゴ酸、クエン酸及び酒石酸からなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましく、クエン酸及び/又は酒石酸がより好ましい。
【0058】
ヒドロキシ基数とカルボキシル基数との総和が3以上である脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分、アルコール成分及び該脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物の合計量中、トナーの耐ホットオフセット性の観点から、好ましくは1モル%以上であり、トナーの保存性の観点から、好ましくは80モル%以下であり、トナーの耐ホットオフセット性及び保存性の観点から、好ましくは1〜80モル%であり、より好ましくは2〜50モル%であり、さらに好ましくは3〜30モル%、さらに好ましくは3〜18モル%、さらに好ましくは5〜18モル%である。なお、本明細書中、ヒドロキシ基数とカルボキシル基数との総和が3以上である脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物は、カルボン酸成分及びアルコール成分には含めない。該脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物以外のヒドロキシカルボン酸化合物、具体的には、ヒドロキシ基数とカルボキシル基数とが各々1であるヒドロキシカルボン酸化合物や脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物以外のヒドロキシカルボン酸化合物等は、カルボン酸成分に含める。
【0059】
アルコール成分とカルボン酸成分と脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物の縮重合反応は、例えば、錫化合物、チタン化合物等のエステル化触媒、重合禁止剤等の存在下、不活性ガス雰囲気中で行うことができ、温度条件は、好ましくは120〜250℃、より好ましくは140〜230℃が、それぞれ好ましい。
【0060】
アルコール成分とカルボン酸成分と、脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物との縮重合反応の反応順序は、いずれであってもよいが、耐ホットオフセット性を向上させる観点から、好ましくは、前記アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させた後、前記脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物を反応系に添加して、縮重合させることが好ましい。従って、本発明のトナー用ポリエステルは、以下の工程1、2を含む方法により得られるものが好ましい。
工程1:アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させる工程
工程2:工程1の縮重合反応中又は縮重合反応後に、脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物を添加して、縮重合反応させる工程
【0061】
工程1において、アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合反応は、例えば、錫化合物、チタン化合物等のエステル化触媒の存在下、不活性ガス雰囲気中で行うことができ、その温度は、170〜250℃が好ましく、180〜230℃がより好ましい。
【0062】
工程2において、脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物同士の反応を抑制することができ、耐ホットオフセット性を向上させる観点から、工程1の縮重合反応の反応率が、理論反応水の排出完了時を100%として、好ましくは50〜100%、より好ましくは60〜100%、さらに好ましくは70〜95%の水が排出された時点で反応系に添加することが望ましい。
【0063】
また、工程2における反応温度は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物の反応制御の観点から、150〜230℃が好ましく、170〜220℃がより好ましい。この反応温度では、脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物同士の反応を抑制することができ、耐ホットオフセット性を向上させることができる。
【0064】
本発明の非晶質ポリエステルは、用いる原料モノマーの種類と組み合わせにより、触媒を用いても、用いなくとも合成することができる。例えば、触媒を用いない場合は、トナーの結着樹脂として色相に優れた樹脂を得ることができる。
【0065】
触媒としては、例えば錫化合物、チタン化合物等のエステル化触媒が挙げられる。
【0066】
錫化合物としては、例えば、酸化ジブチル錫が知られているが、本発明では、ポリエステル中での分散性が良好である観点から、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物が好ましい。
【0067】
Sn-C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn-O結合を有する錫(II)化合物、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく、Sn-O結合を有する錫(II)化合物がより好ましい。
【0068】
Sn-O結合を有する錫(II)化合物としては、シュウ酸錫(II)、酢酸錫(II)、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ラウリル酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)、オレイン酸錫(II)等の炭素数2〜28のカルボン酸基を有するカルボン酸錫(II);オクチロキシ錫(II)、ラウロキシ錫(II)、ステアロキシ錫(II)、オレイロキシ錫(II)等の炭素数2〜28のアルコキシ基を有するアルコキシ錫(II);酸化錫(II);硫酸錫(II)等が、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物としては、塩化錫(II)、臭化錫(II)等のハロゲン化錫(II)等が挙げられ、これらの中では、帯電立ち上がり効果及び触媒能の点から、(R2COO)2Sn(ここでR2は炭素数5〜19のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表される脂肪酸錫(II)、(R3O)2Sn(ここでR3は炭素数6〜20のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表されるアルコキシ錫(II)及びSnOで表される酸化錫(II)が好ましく、(R2COO)2Snで表される脂肪酸錫(II)及び酸化錫(II)がより好ましく、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)及び酸化錫(II)がさらに好ましい。
【0069】
チタン化合物の具体例としては、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(C37O)2〕、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネート〔Ti(C4102N)2(C37O)2〕、チタンジペンチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(C511O)2〕、チタンジエチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(C25O)2〕、チタンジヒドロキシオクチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(OHC816O)2〕、チタンジステアレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(C1837O)2〕、チタントリイソプロピレートトリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)(C37O)3〕、チタンモノプロピレートトリス(トリエタノールアミネート)〔Ti(C6143N)3(C37O)〕等が挙げられ、これらの中ではチタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネート及びチタンジペンチレートビストリエタノールアミネートが好ましく、これらは、例えばマツモト交商(株)の市販品としても入手できる。
【0070】
他の好ましいチタン化合物の具体例としては、テトラ-n-ブチルチタネート〔Ti(C49O)4〕、テトラプロピルチタネート〔Ti(C37O)4〕、テトラステアリルチタネート〔Ti(C1837O)4〕、テトラミリスチルチタネート〔Ti(C1429O)4〕、テトラオクチルチタネート〔Ti(C817O)4〕、ジオクチルジヒドロキシオクチルチタネート〔Ti(C817O)2(OHC816O)2〕、ジミリスチルジオクチルチタネート〔Ti(C1429O)2(C817O)2〕等が挙げられ、これらの中ではテトラステアリルチタネート、テトラミリスチルチタネート、テトラオクチルチタネート及びジオクチルジヒドロキシオクチルチタネートが好ましい。これらは、例えばハロゲン化チタンを対応するアルコールと反応させることにより得ることができ、又は、ニッソー社等の市販品としても入手できる。
【0071】
エステル化触媒の存在量は、アルコール成分とカルボン酸成分と前記脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物との合計量100重量部に対して、0.01〜2.0重量部が好ましく、0.1〜1.5重量部がより好ましく、0.2〜1.0重量部がさらに好ましい。
【0072】
本発明において、互いに隣接する3個の炭素原子に結合した水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有するピロガロール化合物をエステル化触媒とともに用いることが、本発明に用いられる芳香族化合物の反応性を高め、トナーの保存性を向上させる観点から好ましい。
【0073】
ピロガロール化合物としては、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステル、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,3,4-テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート等のカテキン誘導体等が挙げられる。
【0074】
縮重合反応におけるピロガロール化合物の存在量は、アルコール成分とカルボン酸成分と前記脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物との合計量100重量部に対して、トナーの保存性の観点から、0.001〜1.0重量部が好ましく、0.005〜0.4重量部がより好ましく、0.01〜0.2重量部がさらに好ましい。ここで、ピロガロール系化合物の存在量とは、縮重合反応に供したピロガロール系化合物の全配合量を意味する。
【0075】
ピロガロール化合物は、エステル化触媒の助触媒として働いていると考えられる。ピロガロール化合物とともに用いられるエステル化触媒としては、錫化合物、チタン化合物、三酸化アンチモン、酢酸亜鉛、及び2酸化ゲルマニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属触媒が好ましい。
【0076】
ピロガロール化合物とエステル化触媒の重量比(ピロガロール化合物/エステル化触媒)は、トナーの保存性の観点から、0.01〜0.5が好ましく、0.03〜0.3がより好ましく、0.05〜0.2がさらに好ましい。
【0077】
本発明の非晶質ポリエステルは、アルコール成分とカルボン酸成分の縮重合によるポリエステルユニットを含む樹脂をいい、ポリエステルだけでなく、ポリエステル・ポリアミド等も含まれるが、これらの中では、トナーの保存性及び帯電安定性の観点から、ポリエステルが好ましい。
【0078】
なお、ポリエステルは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステルであってもよい。
【0079】
ポリエステル変性樹脂としては、例えば、ポリエステルがウレタン結合で変性されたウレタン変性ポリエステル、ポリエステルがエポキシ結合で変性されたエポキシ変性ポリエステル、及びポリエステル成分とビニル系樹脂成分を含む2種以上の樹脂成分を有する複合樹脂等が挙げられる。
【0080】
具体的には、縮重合系樹脂の原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーに加えて、さらに縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物(両反応性モノマー)を用いて得られるハイブリッド樹脂(縮重合系樹脂と付加重合系樹脂とが部分的に両反応性モノマーを介して結合した樹脂)であることが好ましい。両反応性モノマーとしては、分子内に、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基、好ましくは水酸基及び/又はカルボキシル基、より好ましくはカルボキシル基と、エチレン性不飽和結合とを有する化合物が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸及びフマル酸がより好ましい。
【0081】
ビニル系樹脂成分の原料モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン化合物;エチレン、プロピレン等のエチレン性不飽和モノオレフィン類;ブタジエン等のジオレフィン類;塩化ビニル等のハロビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;(メタ)アクリル酸のアルキル(炭素数1〜18)エステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のエチレン性モノカルボン酸のエステル;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニリデンクロリド等のビニリデンハロゲン化物;N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物類等が挙げられる。耐ホットオフセット性の観点から、スチレン、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、及びメタクリル酸メチルが好ましく、スチレン及び/又は(メタ)アクリル酸のアルキルエステルが、ビニル系樹脂成分中、50重量%以上含有されていることが好ましく、より好ましくは80〜100重量%である。
【0082】
なお、ビニル系樹脂成分の原料モノマーを重合させる際には、重合開始剤、架橋剤等を必要に応じて使用してもよい。
【0083】
ビニル系樹脂成分の原料モノマーに対するポリエステル成分の原料モノマーの重量比(ポリエステル成分の原料モノマー/ビニル系樹脂成分の原料モノマー)は、ポリエステル成分により連続相を形成する観点から、好ましくは55/45〜95/5、より好ましくは60/40〜95/5、さらに好ましくは70/30〜90/10である。なお、両反応性モノマーはポリエステル成分の原料モノマーとする。
【0084】
本発明の非晶質ポリエステルは、アルコール成分として、前記の第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールや前記式(II)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を適量用いることで非晶質ポリエステルとしてもよく、ヒドロキシ基数とカルボキシル基数との総和が3以上である脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物を適量用いることでも非晶質ポリエステルとしてもよい。
【0085】
本発明の非晶質ポリエステルの数平均分子量は、トナーの低温定着性及び保存性の観点から、500〜15000が好ましく、1000〜12000がより好ましく、1000〜10000がさらに好ましく、1000〜5000がさらに好ましい。
【0086】
本発明の非晶質ポリエステルは、低分子量であっても、高いガラス転移点に調整することが可能であり、ガラス転移点は、トナーの低温定着性及び保存性の観点から、45〜100℃が好ましく、50〜85℃がより好ましく、50〜80℃がさらに好ましい。
【0087】
本発明の非晶質ポリエステルの軟化点は、トナーの低温定着性及び保存性の観点から、80〜180℃が好ましく、90〜160℃がより好ましく、100〜150℃がさらに好ましい。
【0088】
本発明の非晶質ポリエステルは、軟化点が低くとも、高いガラス転移点に調整することが可能であることから、トナーの低温定着性及び保存性の観点から、軟化点が80℃以上115℃未満である場合、ガラス転移点は50〜70℃が好ましく、55〜65℃がより好ましい。また、軟化点が115〜180℃である場合、ガラス転移点は60〜90℃でが好ましく、60〜85℃がより好ましい。
【0089】
本発明の非晶質ポリエステルの酸価は、トナーの帯電安定性の観点から、5〜100mgKOH/gが好ましく、10〜90mgKOH/gがより好ましく、20〜90mgKOH/gがさらに好ましく、水酸基価は、5〜100mgKOH/gが好ましく、10〜90mgKOH/gがより好ましく、20〜90mgKOH/gがさらに好ましい。
【0090】
なお、非晶質ポリエステルの軟化点、ガラス転移点、数平均分子量、酸価及び水酸基価は、原料モノマー組成、重合開始剤、分子量、触媒量等の調整又は反応条件の選択により容易に調整することができる。例えば、縮重合の反応温度を高めたり、反応時間を長くしたり、触媒量を増加させたり、助触媒を併用したりすることで、縮重合反応を進め、軟化点、ガラス転移点、数平均分子量を高めることができる。また、縮重合反応に用いられる、カルボン酸成分とアルコール成分との合計量中のフラン環を有するカルボン酸化合物とフラン環を有するアルコールとの合計量を増加させることでガラス転移点を高めることもできる。
【0091】
本発明の結着樹脂は、トナーの低温定着性と保存性と帯電安定性の観点から、軟化点の高い樹脂(高軟化点樹脂)と低い樹脂(低軟化点樹脂)とからなることが好ましい。
【0092】
高軟化点樹脂と低軟化点樹脂との軟化点の差は、トナーの低温定着性及び保存性の観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは20〜60℃である。
【0093】
高軟化点樹脂の軟化点は、好ましくは115〜180℃、より好ましくは120〜160℃であり、低軟化点樹脂の軟化点は、好ましくは80℃以上、115℃未満、より好ましくは90〜110℃である。高軟化点樹脂の低軟化点樹脂に対する重量比(高軟化点樹脂/低軟化点樹脂)は、1/4〜4/1が好ましく、1/3〜3/1がより好ましい。
【0094】
本発明の非晶質ポリエステルを結着樹脂として用いることにより、トナーの低温定着性と保存性を維持しつつ、耐ホットオフセット性に優れた電子写真用トナーが得られる。
【0095】
本発明のトナーには、本発明の効果を損なわない範囲で、前記非晶質ポリエステル以外の公知の結着樹脂、例えば、スチレン-アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の他の樹脂が併用されていてもよいが、本発明の非晶質ポリエステルの含有量は、結着樹脂中、70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、実質的に100重量%がさらに好ましい。
【0096】
本発明のトナーには、さらに、着色剤、離型剤、荷電制御剤、荷電制御樹脂、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0097】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、ジスアゾエロー等が用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。着色剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。
【0098】
離型剤としては、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、シリコーン類;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;カルナバロウワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物・石油系ワックス等のワックスが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0099】
離型剤の融点は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点から、60〜160℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。
【0100】
離型剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、結着樹脂中への分散性の観点から、0.5〜10重量部が好ましく、1〜8重量部がより好ましく、1.5〜7重量部がさらに好ましい。
【0101】
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
【0102】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリエント化学工業社製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリエント化学工業社製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(ヘキスト社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリエント化学工業社製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成社製)等が挙げられる。
【0103】
また、負帯電性の荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」(以上、オリエント化学工業社製)、「T-77」(保土谷化学工業社製)、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリエント化学工業社製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」(保土谷化学工業社製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット社製);サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「E-304」(以上、オリエント化学工業社製)、「TN-105」(保土谷化学工業社製);銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(ヘキスト社製)、ニトロイミダゾール誘導体;有機金属化合物、例えば「TN105」(保土谷化学工業社製)等が挙げられる。
【0104】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、0.01〜5重量部がより好ましく、0.3〜3重量部がさらに好ましく、0.5〜3重量部がさらに好ましく、1〜2重量部がさらに好ましい。
【0105】
本発明には、帯電性を向上させるために、荷電制御樹脂を含有することが好ましい。荷電制御樹脂としては、スチレン系樹脂が好ましく、トナーの正帯電性発現の観点からは、4級アンモニウム塩基含有スチレン系樹脂が好ましく、トナーの負帯電性発現の観点からは、スルホン酸基含有スチレン系樹脂が好ましい。
【0106】
荷電制御樹脂として含有されるスチレン系樹脂の使用量は、トナーの帯電性向上の観点から、結着樹脂100重量部に対して、3〜40重量部が好ましく、4〜30重量部がより好ましく、5〜20重量部がさらに好ましい。
【0107】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、結着樹脂、着色剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。一方、トナーの小粒径化の観点からは、重合法によるトナーが好ましい。
【0108】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、3〜15μmが好ましく、3〜10μmがより好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
【0109】
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、無機微粒子を外添剤として用いるのが好ましい。具体的には、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、及び酸化亜鉛からなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられ、これらの中では、シリカが好ましく、埋め込み防止の観点から、比重の小さいシリカが含有されているのがより好ましい。
【0110】
シリカは、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであるのが好ましい。
【0111】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、オルガノクロロシラン、オルガノアルコキシシラン、オルガノジシラザン、環状オルガノポリシラザン、線状オルガノポリシロキサン等が例示され、具体的には、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられ、これらの中ではヘキサメチルジシラザンが好ましい。
【0112】
外添剤の平均粒径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、10〜250nmが好ましく、10〜200nmがより好ましく、15〜150nmがさらに好ましい。
【0113】
外添剤の含有量は、外添剤で処理する前のトナー100重量部に対して、好ましくは0.05〜5重量部であり、より好ましくは0.1〜3重量部であり、さらに好ましくは0.3〜3重量部である。
【0114】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【実施例】
【0115】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出する。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0116】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、Q-100)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、室温から降温速度10℃/分で0℃まで冷却しそのまま1分間静止させた。その後、昇温速度50℃/分で測定した。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最高ピーク温度とした。
【0117】
〔樹脂のガラス転移点〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度とする。
【0118】
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0119】
〔樹脂の水酸基価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。
【0120】
〔樹脂の数平均分子量〕
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により分子量分布を測定し、数平均分子量を求める。
(1) 試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mlになるように、試料をテトラヒドロフランに、25℃で溶解させる。次いで、この溶液をポアサイズ0.2μmのフッ素樹脂フィルター(ADVANTEC社製、DISMIC-25JP)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とする。
(2) 分子量測定
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてテトラヒドロフランを、毎分1mlの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μlを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー社製のA-500(5.0×102)、A-1000(1.01×103)、A-2500(2.63×103)、A-5000(5.97×103)、F-1(1.02×104)、F-2(1.81×104)、F-4(3.97×104)、F-10(9.64×104)、F-20(1.90×105)、F-40(4.27×105)、F-80(7.06×105)、F-128(1.09×106))を標準試料として作成したものを用いる。
測定装置:HLC-8220GPC(東ソー社製)
分析カラム:GMHXL+G3000HXL(東ソー社製)
【0121】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0122】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)5%電解液
分散条件:分散液5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させる。
測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度で、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0123】
〔外添剤の平均粒径〕
平均粒径は、個数平均粒径を指し、外添剤の走査型電子顕微鏡(SEM)写真から測定した、500個の粒子の粒径の平均値をいう。長径と短径がある場合は長径を指す。
【0124】
樹脂製造例1〔樹脂1〜10〕
表1、2に示す脂肪族ヒドロキシカルボン酸を除く原料モノマー及びエステル化触媒・助触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、180℃まで昇温した後、210℃まで5時間かけて昇温を行った。その後210℃にて反応率が90%以上に到達したのを確認し、表1、2に示す脂肪族ヒドロキシカルボン酸を仕込み、210℃にて1時間反応させた後、40kPaにて表1、2に記載の軟化点に達するまで反応を行って、非晶質ポリエステル(樹脂1〜10)を得た。なお、反応率とは、生成反応水量/理論生成水量×100の値をいう。
【0125】
樹脂製造例2〔樹脂11〕
表1、2に示す原料モノマー及びエステル化触媒・助触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃まで昇温し、235℃にて10時間反応を行った。その後235℃、8kPaにて1時間反応を行った後、210℃まで冷却し、20kPaにて表1、2に記載の軟化点に達するまで反応を行って、非晶質ポリエステル(樹脂11)を得た。
【0126】
樹脂製造例3〔樹脂12〕
表2に示す無水トリメリット酸を除く原料モノマー及びエステル化触媒・助触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃まで昇温し、235℃にて10時間反応を行った。その後235℃、8kPaにて1時間反応を行った後、210℃まで冷却し、無水トリメリット酸を仕込み、1時間常圧にて反応を行った後、20kPaにて表2に記載の軟化点に達するまで反応を行って、非晶質ポリエステル(樹脂12)を得た。
【0127】
樹脂製造例4〔樹脂13〕
表2に示す原料モノマー及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、180℃まで昇温した後、210℃まで5時間かけて昇温を行った。その後210℃にて反応率が95%以上に到達したのを確認し、40kPaにて表2に記載の軟化点に達するまで反応を行って、非晶質ポリエステル(樹脂13)を得た。
【0128】
樹脂製造例5〔樹脂14〕
表2に示す無水トリメリット酸を除く原料モノマー及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、180℃まで昇温した後、210℃まで5時間かけて昇温を行った。その後210℃にて反応率が95%以上に到達したのを確認し、表2に示す無水トリメリット酸を投入した。1時間常圧にて反応を行った後、40kPaにて表2に記載の軟化点に達するまで反応を行って、非晶質ポリエステル(樹脂14)を得た。
【0129】
【表1】

【0130】
【表2】

【0131】
実施例1〜12及び比較例1、2
表3に示す結着樹脂100重量部、着色剤「Regal 330R」(キャボット社製、カーボンブラック)5重量部、離型剤「三井ハイワックスNP055」(三井化学社製、ポリプロピレンワックス、融点:125℃)2重量部、及び負帯電性荷電制御剤「ボントロン E-81」(オリエント化学工業社製)1重量部をヘンシェルミキサーで十分混合した後、同方向回転二軸押出し機を用い、ロール回転速度200r/min、ロール内の加熱温度80℃で溶融混練した。得られた溶融混練物を冷却、粗粉砕した後、ジェットミルにて粉砕し、分級して、体積中位粒径(D50)が8μmのトナー粒子を得た。
【0132】
得られたトナー粒子100重量部に、疎水性シリカ「NAX-50」(日本アエロジル社製、疎水化処理剤:HMDS、平均粒径:約30nm)1.0重量部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合することにより、トナーを得た。
【0133】
実施例13
結着樹脂、着色剤等とともに、荷電制御樹脂「FCA-701PT」(藤倉化成社製、4級アンモニウム塩基含有スチレンアクリル系樹脂、軟化点:123℃)5重量部を使用し、負帯電性荷電制御剤の代わりに、正帯電性荷電制御剤「ボントロン E-84」(オリエント化学工業社製)1重量部を使用し、外添剤として「NAX-50」の代わりに、疎水性シリカ「TG-C243」(キャボット社製、平均粒径100nm、疎水化処理剤:ヘキサメチルジシラザン+オクチルトリエトキシシラン)1.0重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。
【0134】
実施例14、16
着色剤として、カーボンブラック「Regal 330R」の代わりに、実施例14では、シアン顔料「Toner Cyan BG」(クラリアント社製、P.B.15:3)5重量部、実施例16では、イエロー顔料「Paliotol Yellow D1155」(BASF社製、P.Y.185)6重量部を使用し、離型剤として「三井ハイワックスNP055」の代わりに、「HNP-9」(日本精鑞社製、パラフィンワックス、融点:80℃)2重量部を使用し、負帯電性荷電制御剤として、「ボントロン E-81」(オリエント化学工業社製)の代わりに「LR-147」(日本カーリット社製)1重量部を使用し、外添剤として「NAX-50」の代わりに、疎水性シリカ「R-972」(日本アエロジル社製、平均粒径16nm、疎水化処理剤:ジメチルジクロロシラン)1.0重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。
【0135】
実施例15
着色剤として、カーボンブラック「Regal 330R」の代わりにマゼンタ顔料「スーパーマゼンタR」(大日本インキ化学工業社製、P.R.122)5重量部を使用し、離型剤として、「三井ハイワックスNP055」の代わりに「HNP-9」(日本精鑞社製、パラフィンワックス、融点:80℃)2重量部を使用し、負帯電性荷電制御剤として、「ボントロン E-81」(オリエント化学工業社製)の代わりに「LR-297」(日本カーリット社製)1重量部を使用し、外添剤として「NAX-50」の代わりに疎水性シリカ「R-972」(日本アエロジル社製、平均粒径16nm、疎水化処理剤:ジメチルジクロロシラン)1.0重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。
【0136】
試験例1〔低温定着性〕
複写機「AR-505」(シャープ(株)製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した装置(但し、実施例13の評価については、非磁性一成分現像方式プリンター「HL-2040」(ブラザー工業社製)を改造した装置)にトナーを実装し、シャープ(株)製の紙[CopyBond SF-70NA(75g/m2)]上に、未定着画像を得た。総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(定着速度390mm/sec)を用い、定着ローラーの温度を100℃から240℃へと10℃ずつ順次上昇させながら、最低定着温度に達するまで、各温度で未定着画像の定着試験を行った。定着画像に「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆社、幅:18mm、JISZ-1522)を貼り付け、30℃に設定した定着ローラーに通過させた後、テープを剥がした。テープを貼る前と剥がした後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(剥離後/貼付前×100)が最初に90%を越える定着ローラーの温度を最低定着温度とし、以下の評価基準に従って、低温定着性を評価した。結果を表3に示す。
【0137】
〔評価基準〕
A:最低定着温度が140℃未満である。
B:最低定着温度が140℃以上、170℃未満である。
C:最低定着温度が170℃以上である。
【0138】
試験例2〔保存性〕
トナー4gを半径12mmの円筒型容器に入れ、温度55℃、湿度60%の環境下で72時間放置した。放置後、容器からトナーを取り出し、トナー凝集の発生程度を目視にて観察し、以下の評価基準に従って、保存性を評価した。結果を表3に示す。
【0139】
〔評価基準〕
A:72時間後も凝集は全く認められない。
B:48時間後で凝集は認められないが72時間後では凝集が認められる。
C:48時間以内で凝集が認められる。
【0140】
試験例3〔耐ホットオフセット性〕
試験例1において、定着ロールの定着速度を250mm/secへ変更し、温度を90℃から240℃へと順次上昇させた際に、紙の下部、定着ローラーの周期のところに最初にオフセットが確認される温度を目視により判断し、以下の評価基準により、耐ホットオフセット性を評価した。結果を表3に示す。
【0141】
〔評価基準〕
A:ホットオフセット発生温度が230℃以上
B:ホットオフセット発生温度が190℃以上、230℃未満
C:ホットオフセット発生温度が190℃未満
【0142】
【表3】

【0143】
以上の結果より、脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物を用いておらず、フラン環を有してもいない非晶質ポリエステルを結着樹脂として含有する比較例1、2と対比して、実施例1〜16では、低温定着性、保存性及び耐ホットオフセット性のいずれもが良好であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明のトナー用結着樹脂は、例えば、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に用いられるトナーの結着樹脂として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸成分、アルコール成分及びヒドロキシ基数とカルボキシル基数との総和が3以上である脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物とを縮重合させて得られる、フラン環を有する非晶質ポリエステルを含む、トナー用結着樹脂。
【請求項2】
カルボン酸成分とアルコール成分の少なくともいずれかが、少なくともフラン環を有するカルボン酸化合物を含むカルボン酸成分及び/又はフラン環を有するアルコールを含むアルコール成分である、請求項1記載のトナー用結着樹脂。
【請求項3】
フラン環を有するカルボン酸化合物とフラン環を有するアルコールとの合計量が、カルボン酸成分とアルコール成分との合計量中、10〜95モル%である、請求項2記載のトナー用結着樹脂。
【請求項4】
ヒドロキシ基数とカルボキシル基数との総和が3以上である脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物が、カルボン酸成分、アルコール成分及び該脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物の合計量中、1〜80モル%である、請求項2又は3記載のトナー用結着樹脂。
【請求項5】
アルコール成分が第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールを含有してなる、請求項1〜4いずれか記載のトナー用結着樹脂。
【請求項6】
ヒドロキシ基数とカルボキシル基数との総和が3以上である脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物と第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールとのモル比(脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物/第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオール)が0.05〜0.8である、請求項5記載のトナー用結着樹脂。
【請求項7】
ヒドロキシ基数とカルボキシル基数との総和が3以上である脂肪族ヒドロキシカルボン酸化合物が、リンゴ酸、クエン酸及び酒石酸からなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1〜6いずれか記載のトナー用結着樹脂。
【請求項8】
フラン環を有するカルボン酸化合物が、フランジカルボン酸化合物、フランカルボン酸化合物及びヒドロキシフランカルボン酸化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項2〜7いずれか記載のトナー用結着樹脂。
【請求項9】
フラン環を有するアルコールが、フランジアルコール、ヒドロキシメチルフルフリルアルコール及びフルフリルアルコールからなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項2〜8いずれか記載のトナー用結着樹脂。
【請求項10】
請求項1〜9いずれか記載の結着樹脂を含有してなる、電子写真用トナー。

【公開番号】特開2012−207193(P2012−207193A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75967(P2011−75967)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】