説明

トラッキング制御装置

【課題】動作安定性を保ちつつも残留誤差が少なくなるようにトラッキング制御性能を向上させる。
【解決手段】トラッキング制御装置1は、信号etfb(k)を遅延させるメモリ32と、高調波抑制信号を生成する高調波抑制部40と、LPF33を通過した補償信号etfb(k−N+n)と高調波抑制信号とを加算した信号を用いるトラッキング補正信号生成手段35および前置補償手段36とを備え、高調波抑制部40は、信号etfb(k)の3次高調波成分etfb3(k)を抽出するBPF41と、BPF41で抽出された3次高調波成分etfb3(k)を遅延させるメモリ42と、LPF33を通過した補償信号etfb(k−N+n)の3次高調波成分を抽出するBPF43と、メモリ42で生成した3次高調波補償信号etfb3(k−M+m)から、BPF43で抽出された3次高調波成分を減算することで高調波抑制信号を生成する減算手段44とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスク装置のトラッキング制御技術に係り、より詳細には、光ディスクの記録および再生に用いられる光ピックアップにおいて、高速回転時に光ヘッドのトラッキングアクチュエータを高精度にディスクの目標トラックに追従させるトラッキング制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1や非特許文献2に記述されているように、従来、例えば光ディスク装置等に用いられるトラッキング制御装置は、フィードバック制御器、繰り返し制御系、そして本願発明者らが提案してきたエラー予測型トラッキング制御系(ZPET−FF制御系)であった。ここで、ZPET−FF制御系は、零位相誤差トラッキング法(Zero Phase Error Tracking:ZPET)を用いたフィードフォワード(Feed-forward)制御系を意味し、位相補償によるフィードバック制御器や繰り返し制御系と比較して高速トラック追従制御が可能な制御系である。以下、これらのトラッキング制御装置の概略について説明する。
【0003】
なお、ZPET−FF制御系の関連技術として、特許文献1に、CLV(Constant Linear Velocity)方式及びZCLV(Zoned Constant Linear Velocity)方式のように光ディスクの半径によって1回転の周期が変化する場合を含め高速で回転する光ディスク上のトラックに対し安定で高い追従性能を持ったトラッキング制御装置が開示されている。また、特許文献1に記載の技術を改良した技術が特許文献2,3に記載されている。
【0004】
まず、従来のフィードバック制御器は、トラッキングエラーのフィードバック信号に基づいて操作量を決める制御系である。例えば、図13に示すトラッキング制御装置100は、トラッキング誤差信号生成手段121と、A/D変換手段122と、フィードバック制御手段123と、D/A変換手段124と、トラッキングアクチュエータ125とを備えている。
【0005】
トラッキング制御装置100は、時刻tにおいて、図示しない光ディスク上の目標値であるトラック位置指令xd(t)と、トラッキングアクチュエータ125によって制御されるトラック位置x(t)(光スポット位置)との差をトラッキング誤差信号生成手段121によって検出し、アナログ信号であるトラッキング誤差信号e(t)を得る。A/D変換手段122は、トラッキング誤差信号e(t)をある時間間隔でサンプリングするサンプラであり、トラッキング誤差信号e(t)をデジタル信号に変換するものである。デジタル信号化されたトラッキング誤差信号は、フィードバック制御手段123に入力する。
【0006】
フィードバック制御手段123は、伝達関数C(z-1)により、駆動信号の振幅と位相の周波数特性の補償を行う。D/A変換手段124は、フィードバック制御手段123で生成された駆動信号をアナログ信号に変換し、トラッキングアクチュエータ125に入力する。トラッキングアクチュエータ125は、例えば、電流駆動のボイスコイルモータから構成され、フィードバック制御手段123からの入力信号に従って、伝達関数P(s)として動作し、トラック位置x(t)を補正する制御を行うと共に、補正されたトラック位置x(t)をトラッキング誤差信号生成手段121にフィードバックする。このトラッキング制御装置100は、周期性の外乱に強いわけではなく、ごく一般的なものである。
【0007】
これに対して、繰り返し制御系は、ディスクの偏心や振動等の周期的な外乱等に強くするために、制御系に入る前に、偏差(エラー)をメモリに貯めて、繰り返すことで周期的な成分に高ゲインになるようにした制御系である。例えば、図14に示すトラッキング制御装置200は、A/D変換手段122とフィードバック制御手段123との間に、繰り返し補償制御部230を備えている点が図13に示すトラッキング制御装置100と異なっている。繰り返し補償制御部230は、メモリ231と、低域通過フィルタ232と、利得調整手段233と、加算手段234とを備えている。
【0008】
トラッキング制御装置200において、フィードバック制御手段123に送られる前のデジタル信号(駆動信号)は、繰り返し補償制御部230のメモリ231に挿入される。メモリ231は、例えばn個のメモリ素子(Z-n)から構成され、入力するデジタル信号(駆動信号)を遅延させた信号を生成し、低域通過フィルタ232に入力する。低域通過フィルタ232は、ローパスフィルタ(LPF)の特性を持つ伝達関数F1(z-1)により入力信号の低域成分を通過させて波形を整形して利得調整手段233に入力する。
【0009】
利得調整手段233は、低域通過フィルタ232を通過した信号の大きさに所定の係数K1を乗じることで入力信号の利得を調整した補償信号を生成するものである。そして、利得が調整された補償信号は、加算手段234に入力し、走査中のトラックに対するトラッキング誤差信号と加算されてフィードバック制御手段123に入力する。これにより、繰り返し補償制御部230の閉ループが形成される。これを、繰り返し加算し続けることで、トラッキング誤差信号を抑圧することができる。
【0010】
また、エラー予測型トラッキング制御系(ZPET−FF制御系)も周期性外乱に対してとても強い制御系である。例えば、図15に示すトラッキング制御装置300は、A/D変換手段122とフィードバック制御手段123との間に、ZPET−FF制御部340を備えると共に、D/A変換手段324の機能が図13に示すトラッキング制御装置100とは異なっている。ZPET−FF制御部340は、加算手段341と、メモリ342と、低域通過フィルタ343と、前置補償手段344と、トラッキング補正信号生成手段345と、加算手段346とを備えている。
【0011】
前置補償手段344の生成する前置補償信号eff(k)は、トラッキング補正信号生成手段345に入力する。トラッキング補正信号生成手段345は、例えば、式(101)に示す伝達関数Gclosed1(z-1)によりトラッキング誤差補償信号を生成する(特許文献1参照)。
【0012】
【数1】

【0013】
この生成されたトラッキング誤差補償信号とトラッキング誤差信号(デジタル信号)とは加算手段341により加算され、この加算された加算信号e^(k)はメモリ342に入力する。ここで、kは、あるサンプリング時刻を示し、光ディスクの1回転の間には、複数のサンプリング時刻がある。なお、本明細書において、記号「^」は、直前の文字を修飾するために真上に配置されているものとして説明する(図15参照)。
【0014】
メモリ342は、トラッキング誤差信号を補償するための構成であり、加算信号e^(k)について光ディスクの1回転周期に相当する時間の遅延を行って低域通過フィルタ343に入力する。ここでは、1回転周期前の2サンプリング時刻(d=2)進んだ加算信号e^(k+2)を入力することとしている。低域通過フィルタ343は、制御系を安定化させるための構成であり、ローパスフィルタ(LPF)の特性を持つ伝達関数F(z-1)により加算信号e^(k+2)の低域成分を通過させて波形を整形して前置補償手段344に入力する。前置補償手段344は、例えば、式(102)に示す伝達関数G(z-1)により前置補償信号eff(k)を生成し、トラッキング補正信号生成手段345に入力する(特許文献1参照)。これにより、ZPET−FF制御部340の閉ループを形成する。
【0015】
【数2】

【0016】
また、前置補償手段344で生成された前置補償信号eff(k)は、分岐して加算手段346にも入力する。加算手段346は、トラッキング誤差信号(デジタル信号)と、前置補償信号eff(k)とを加算し、加算した信号をフィードバック制御手段123に入力する。D/A変換手段324は、フィードバック制御手段123で生成された駆動信号(デジタル信号)をアナログ信号に変換するものである。D/A変換手段324は、入力信号をサンプリング周期時間の間で区分的に線形にすることでアナログ信号を生成するゼロ次ホールド(ZOH:Zero Order Hold)である。このアナログ信号は、トラッキングアクチュエータ125に入力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第4041905号公報
【特許文献2】特開2003−091841号公報
【特許文献3】特開2005−259314号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】D.Koide et al, ”Feed-Forward Tracking Servo System for High-Data-Rate Optical Recording", Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 42, 2003, p.939-945
【非特許文献2】小出大一他、「高密度光ディスクにおける零位相誤差トラッキング法を用いた高速トラック追従制御系」、電気学会産業計測制御研究会資料、IIC-06-135、p.21-26、2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、近年、光ディスク装置の媒体は、その記憶容量を増加させているのが現状である。このような光ディスクドライブのトラッキング制御では、従来の制御に比べてより高精度でトラックに追従する必要がある。
また、媒体の記憶容量(データ量)が増加することで、光ディスク装置のディスク回転数もさらに高速化されることが要求されている。しかし、ディスク回転数が増加すると、ディスク偏心による周期外乱の周波数が増加し、トラッキングがより困難となる。そのため、周期性外乱に対してさらなる強さを有したロバスト制御系の開発が望まれている。
【0020】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、動作安定性を保ちつつもトラッキング残留誤差が少なくなるように制御性能を向上させることができるトラッキング制御技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記目的を達成するために、本願発明者らは、光ディスク記録装置の周期性外乱に対して強い制御系である繰り返し制御系やエラー予測型トラッキング制御系(ZPET−FF制御系)において種々検討を行った。その結果、光ディスク記録装置の周期性外乱は、トラッキング誤差信号を周波数解析したときの1種類の基本波成分だけの寄与ではなく、2次,3次等の多くの高調波成分の寄与が存在しているにも関わらず、従来の繰り返し制御系やZPET−FF制御系は周期性外乱の基本波成分(第1次高調波成分)だけに対応するものであるために充分な性能が発揮できていない、との仮説を立て、ZPET−FF制御系において仮説実証実験を行い、2次以上の高調波成分の寄与まで考慮することで、周期性外乱に対してさらなる強さを有したロバスト制御系を構築可能であることを見出した。
【0022】
そこで、本発明の請求項1に記載のトラッキング制御装置は、ディスク上のトラック目標値としてのトラック位置指令と光ヘッドから前記ディスクに照射される光ビームの光スポット位置との誤差を示すトラッキング誤差信号に基づいて前記光スポット位置の補正を行うフィードバック制御系と、前置補償信号を生成して前記フィードバック制御系に出力するフィードフォワード制御系とを用いて、前記光スポット位置を制御するトラッキング制御装置であって、前記フィードバック制御系は、第1加算手段と、フィードバック制御手段と、光スポット位置補正手段とを備え、前記フィードフォワード制御系は、第2加算手段と、トラッキング誤差補償信号生成手段と、制御系安定化手段と、高調波抑制手段と、第3加算手段と、トラッキング補正信号生成手段と、前置補償手段とを備え、前記高調波抑制手段は、第1帯域通過フィルタと、n次高調波補償信号生成手段と、第2帯域通過フィルタと、減算手段とを備えることとした。
【0023】
かかる構成によれば、トラッキング制御装置は、フィードバック制御系において、第1加算手段によって、前記トラッキング誤差信号と前記前置補償信号とを加算して第1加算信号を生成し、フィードバック制御手段によって、前記第1加算信号から前記トラック位置指令に追従させるトルク電流指令を生成し、光スポット位置補正手段によって、前記トルク電流指令によりトラッキング制御を行う。なお、加算されるトラッキング誤差信号および前置補償信号はデジタル信号である。また、光スポット位置補正手段は、ボイスコイル等のトラッキングアクチュエータである。したがって、光スポット位置補正手段は、トルク電流指令がD/A変換された信号によりトラッキング制御を行う。
【0024】
そして、トラッキング制御装置は、フィードフォワード制御系において、第2加算手段によって、前記トラッキング誤差信号と、トラッキング補正信号とを加算して第2加算信号を生成する。そして、トラッキング制御装置は、第1メモリ数の記憶手段を備えたトラッキング誤差補償信号生成手段によって、前記第2加算信号を遅延させることでトラッキング誤差補償信号を生成する。ここで、第1メモリ数は、例えば、ディスクの1回転周期に相当するサンプリング個数と同数である。そして、トラッキング制御装置は、制御系安定化手段によって、前記トラッキング誤差補償信号生成手段で生成したトラッキング誤差補償信号のうち、予め定められた高域ノイズの周波数以下の低周波数成分の信号を通過させる。ここで、制御系安定化手段は、演算により所定のカットオフ周波数を有した低域通過フィルタとして機能することで、制御系を安定化させる。そして、トラッキング制御装置は、高調波抑制手段によって、2次以上の少なくとも1つの高調波として第n次高調波を抑制する高調波抑制信号を生成し、第3加算手段によって、前記制御系安定化手段を通過したトラッキング誤差補償信号と、前記高調波抑制信号とを加算して第3加算信号を生成する。そして、トラッキング制御装置は、トラッキング補正信号生成手段によって、前記第3加算信号から第1伝達関数により前記トラッキング補正信号を生成し、前置補償手段によって、前記第3加算信号から第2伝達関数により前記前置補償信号を生成する。
【0025】
そして、トラッキング制御装置は、高調波抑制手段において、第1帯域通過フィルタによって、前記第2加算信号のうち第n次高調波成分の信号を通過させる。ここで、第2加算信号は、トラッキング誤差信号とトラッキング補正信号との和であるので、トラッキング誤差信号に相当する。また、第1帯域通過フィルタは、第2加算信号の第n次高調波の周波数をバンド幅の中心周波数としたBPFとして機能することで、入力信号から第n次高調波成分の信号を抽出する。そして、高調波抑制手段は、前記第1メモリ数より少ない第2メモリ数の記憶手段を備えたn次高調波補償信号生成手段によって、前記第1帯域通過フィルタを通過した第n次高調波成分の信号を遅延させることで第n次高調波補償信号を生成する。ここで、第2メモリ数は、例えば、第1メモリ数の1/nの個数である。そして、高調波抑制手段は、第2帯域通過フィルタによって、前記制御系安定化手段を通過したトラッキング誤差補償信号のうちn次高調波成分の信号を通過させる。ここで、第2帯域通過フィルタは第1帯域通過フィルタと同様の特性を有し、入力信号から第n次高調波成分の信号を抽出する。そして、高調波抑制手段は、減算手段によって、前記n次高調波補償信号生成手段で生成した第n次高調波補償信号から、前記第2帯域通過フィルタを通過したn次高調波成分の信号を減算することで前記高調波抑制信号を生成する。
【0026】
仮に、高調波抑制手段が、第n次高調波補償信号をそのまま高調波抑制信号として出力したとすると、制御系安定化手段を通過したトラッキング誤差補償信号の中に含まれるn次高調波の補償分と、第n次高調波補償信号とが単純に加算されることによりn次高調波の補償分が二重となって過補償になる。しかしながら、本発明のトラッキング制御装置は、このような単純な加算を行わずに、高調波抑制手段において、第n次高調波補償信号から、制御系安定化手段を通過したトラッキング誤差補償信号の中に含まれるn次高調波の補償分だけを除いた信号を高調波抑制信号として出力する。したがって、n次高調波の補償分が過補償となることを防止し、周期外乱のn次高調波成分を効果的に抑圧することができる。
【0027】
また、請求項2に記載のトラッキング制御装置は、請求項1に記載のトラッキング制御装置において、前記トラッキング誤差補償信号生成手段および前記n次高調波補償信号生成手段は、それぞれメモリ長変更指令により、記憶手段のメモリ数を変更可能に構成されており、補正メモリ量演算手段をさらに備えることとした。
【0028】
かかる構成によれば、トラッキング制御装置は、補正メモリ量演算手段によって、前記ディスクの動作回転数が変化するときに、予め定められた制御サンプリング周波数と、変化後の前記ディスクの動作回転数とに基づいて対応する第1メモリ数および第2メモリ数をそれぞれ算出し、それぞれの算出結果を前記メモリ長変更指令として前記トラッキング誤差補償信号生成手段および前記n次高調波補償信号生成手段にそれぞれ出力する。したがって、トラッキング制御装置は、線速度一定のCLV方式及びZCLV方式のように、トラックを走査中の光ヘッドの位置が径方向に変化してそれに伴って当該光ヘッドの位置において1回転の周期が変化するような場合においても、周期外乱の高調波成分を効果的に抑圧することができる。
【0029】
また、請求項3に記載のトラッキング制御装置は、請求項1または請求項2に記載のトラッキング制御装置において、前記高調波抑制手段が、抑制しようとする予め定められた個数の複数の高調波に対応して、前記第1帯域通過フィルタと、前記n次高調波補償信号生成手段と、前記第2帯域通過フィルタと、前記減算手段との組み合わせを、前記制御系安定化手段と前記第3加算手段との間に、前記抑制しようとする高調波の個数と同じ個数だけ並列に備え、前記第3加算手段が、前記制御系安定化手段を通過したトラッキング誤差補償信号と、前記複数の高調波に対応して並列に入力する高調波抑制信号とを加算して前記第3加算信号を生成することとした。
【0030】
かかる構成によれば、トラッキング制御装置は、複数の高調波成分に対して、トラッキング誤差信号において周期外乱を形成する信号成分のうちn次高調波成分を抑圧する構成をそれぞれの高調波成分別に並列に備えているので、複数の高調波成分を同時に抑圧することができる。ここで、並列に設けられた各n次高調波補償信号生成手段のメモリ数は、それぞれの高調波成分の次数に合わせて設定される。
【発明の効果】
【0031】
請求項1に記載の発明によれば、トラッキング制御装置は、ディスクの回転動作に伴う周期外乱の基本波成分以外の高調波成分に対しても外乱抑圧することが可能になる。その結果、トラッキング制御装置は、記憶容量の大きいディスク媒体や高速回転のディスク媒体に対しても高精度でトラックに追従できる。
【0032】
請求項2に記載の発明によれば、トラッキング制御装置は、CLV方式及びZCLV方式のように光ディスクの半径によって1回転の周期が変化する場合を含め高速で回転する光ディスク上のトラックに対し安定で高い追従性能を持つことができる。
【0033】
請求項3に記載の発明によれば、トラッキング制御装置は、周期外乱の基本波成分と共に、抑制しようとする予め定められた個数の複数の高調波成分を同時に抑圧することができる。
本発明は、以上のように、それぞれの請求項に記載の発明によって、それぞれが優れた効果を奏すると共に、本発明によって、高精度なトラッキング動作を実現し、安定な光ディスクの記録再生動作を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施形態に係るトラッキング制御装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るトラッキング制御装置の基本動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明における基本動作と並行に行う高調波抑制部の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1実施形態におけるトラッキング誤差補償信号のサンプリング時刻とメモリとの対応関係の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の第1実施形態におけるトラッキング誤差補償信号生成手段の一例を示すブロック図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るトラッキング制御装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【図7】本発明の第2実施形態におけるトラッキング誤差補償信号生成手段の一例を示すブロック図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係るトラッキング制御装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【図9】本発明の実施例において測定したトラッキング性能を示す信号波形であって、(a)はトラッキング誤差信号、(b)はトルク電流指令をそれぞれ示している。
【図10】従来技術におけるZPET法を用いて測定したトラッキング性能を示す信号波形であって、(a)はトラッキング誤差信号、(b)はトルク電流指令をそれぞれ示している。
【図11】本発明の実施例において測定した残留トラッキングエラーの周波数解析結果を示すグラフである。
【図12】従来技術におけるZPET法を用いて測定した残留トラッキングエラーの周波数解析結果を示すグラフである。
【図13】従来技術におけるフィードバック制御系を用いたトラッキング制御装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【図14】従来技術における繰り返し制御系を用いたトラッキング制御装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【図15】従来技術におけるZPET法でフィードフォワード制御を行うトラッキング制御装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して本発明のトラッキング制御装置を実施するため第1ないし第3実施形態について順次詳細に説明する。
【0036】
[トラッキング制御装置の構成]
(第1実施形態)
トラッキング制御装置1は、目標値である光ディスク上のトラック位置指令と、光ヘッドから出射されるレーザ光(光ビーム)が照射されたトラック位置(光スポット位置)との誤差を示すトラッキング誤差信号に基づいて光スポット位置の補正を行うフィードバック制御系と、フィードフォワード制御とを用いて、トラック位置(光スポット位置)を制御するものである。
トラッキング制御装置1は、光ディスクの定常動作回転数(ディスク回転数Rという)と、光ディスク装置の制御クロック信号の動作サンプリング周波数(制御サンプリング周波数)fsとに基づいてトラッキング誤差補償信号生成手段32のメモリ数を設定して、光スポット位置補正手段25の動作を制御する。
【0037】
図1に示すトラッキング制御装置1は、フィードバック制御系として、トラッキング誤差信号生成手段21と、加算手段22と、フィードバック制御手段23と、光スポット位置補正手段25とを備えている。
また、トラッキング制御装置1は、フィードフォワード制御系として、加算手段31と、トラッキング誤差補償信号生成手段(メモリ)32と、制御系安定化手段(LPF)33と、加算手段34と、トラッキング補正信号生成手段35と、前置補償手段36と、高調波抑制部40とを備えている。
【0038】
<フィードバック制御系>
トラッキング誤差信号生成手段21は、ディスクの偏心や振動等による周期的外乱として、トラック位置指令yref(k)とトラック位置y(k)(光スポット位置)との誤差を示すトラッキング誤差信号e1(k)を生成する。なお、図1では、トラッキング誤差信号生成手段21で生成されたトラッキング誤差信号を変換するA/D変換手段の図示を省略した。ここで、kは、あるサンプリング時刻を示す。
【0039】
加算手段(第1加算手段)22は、前置補償手段36で生成される前置補償信号eff(k)と、トラッキング誤差信号e1(k)とを加算し、第1加算信号を生成する。この第1加算信号は、フィードバック制御手段23に入力される。
【0040】
フィードバック制御手段23は、伝達関数C′(z)により、入力信号の振幅と位相の周波数特性の補償を行い、トルク電流指令Icmd(k)を生成する。ここで、kは、あるサンプリング時刻を示す。このフィードバック制御手段23は、例えば、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)などの電子集積回路や電子回路などによる電子デバイスによる構成、または、これら回路に実装可能なソフトウェア(プログラム)により実装される。なお、図1では、フィードバック制御手段23で生成された信号を変換するゼロ次ホールドのD/A変換手段の図示を省略した。D/A変換後のアナログ信号は、光スポット位置補正手段25へ入力する。
【0041】
光スポット位置補正手段25は、図15に示したトラッキングアクチュエータ125と同様に、トラック位置y(k)(光スポット位置)を制御するものである。このトラック位置y(k)が、トラッキング誤差信号生成手段21に入力されることで、フィードバック制御系が形成される。
【0042】
なお、図1において破線で示す減算手段24は、突発外乱がフィードバック制御系に与える影響を擬似的に表現したものであって、実在する構成ではない。ここで、Idis(k)は突発外乱量を電流次元にしたものを表す。外部からの突発的な外乱が発生した場合、トルク電流指令Icmd(k)から、突発外乱量を電流次元にしたIdis(k)が減算されることになる。この減算は、アナログ信号変換後に行ってもよい。
【0043】
<フィードフォワード制御系>
フィードフォワード制御系は、例えば、DSPなどの電子集積回路や電子回路などによる電子デバイスによる構成、または、これら回路に実装可能なソフトウェア(プログラム)により実装される。
【0044】
加算手段(第2加算手段)31は、トラッキング補正信号生成手段35で生成されるトラッキング補正信号と、トラッキング誤差信号生成手段21で生成されるトラッキング誤差信号e1(k)とを加算して第2加算信号etfb(k)を生成する。
【0045】
トラッキング誤差補償信号生成手段32(メモリ32)は、記憶手段を有し、入力信号である第2加算信号etfb(k)を記憶手段により遅延させた信号をトラッキング誤差補償信号etfb(k−N+n)として生成するものである。ここで、Nは、ディスク1回転分のサンプル数を示し、nは記憶手段での進め量を示している。記憶手段は、所定期間の第2加算信号etfb(k)(所定期間のトラッキング誤差信号e1(k)に相当する信号)を記憶する容量に対応した予め定められた使用メモリ個数に設定されている。この所定期間は、ディスクが少なくとも1回転する期間に相当する。
【0046】
この使用メモリ個数(第1メモリ数)は、あるディスク回転数R[rpm]に合わせたサイズであることを前提としている。すなわち、第1メモリ数であるディスク1回転分のメモリ長Drot[個]は、制御サンプリング周波数をfs[Hz]とすると、式(1)で表される。ここで、R[rpm]は、主なディスク回転数(定常動作回転数)を示す。また、計算結果の小数点以下は四捨五入する。
【0047】
【数3】

【0048】
従来のZPET−FF制御系(図15のトラッキング制御装置300)では、例えば「(離散化したアクチュエータの分母の次数)−(分子の次数)+(不安点零点の個数)=2」のサンプル数、すなわち、2サンプル未来のトラッキング誤差量が必要となる。このため、同様に、本実施形態でも、ディスク1回転分のデータをメモリに格納しておき、現在のトラッキング誤差が、1回転前のトラッキング誤差から変化していないという条件(1回転前と現在のトラッキング誤差に変化が無いという条件)の下で、2サンプル未来のトラッキング誤差量を得ることとした。これは、トラッキング誤差補償信号生成手段32での進め量nを2とすることに相当する。つまり、メモリ量は、第1メモリ数であるディスク1回転分のメモリ長Drot[個]そのものではなく、Drot[個]よりも、例えば2個だけ少ない(Drot−2)[個]になっている。なお、メモリ量は、記憶しておく期間に相当する量を示す。
【0049】
なお、光スポット位置補正手段25(トラッキングアクチュエータ)が電流駆動のボイスコイルモータから構成されていることとしたので、進め量nを2としたが、トラッキングアクチュエータを電圧で駆動した場合には、電圧から電流に変化する過度現象のためにn=3となる。
【0050】
制御系安定化手段(LPF)33は、トラッキング誤差補償信号生成手段32で生成されたトラッキング誤差補償信号etfb(k−N+n)に対して、予め定められた高域ノイズの周波数以下の低周波数成分の信号を通過させるLPFのデジタルフィルタとして動作する演算機能を有している。LPFのカットオフ周波数fcからLPFの伝達関数fout(z)を求めることができる。例えば、1次のLPFの場合の伝達関数は、式(2)にて計算される。なお、実際のデジタル制御系に実装するには、式(2)に示すF(s)をz変換したfout(z)を求める必要がある。
【0051】
【数4】

【0052】
加算手段(第3加算手段)34は、制御系安定化手段33(LPF)を通過したトラッキング誤差補償信号etfb(k−N+n)と、高調波抑制部40が出力する高調波抑制信号とを加算して第3加算信号を生成するものである。第3加算信号は、トラッキング補正信号生成手段35および前置補償手段36に入力する。
【0053】
トラッキング補正信号生成手段35は、トラッキング誤差信号生成手段21で生成されるトラッキング誤差信号e(k)の予測値としてトラッキング補正信号を伝達関数Gof(z)により生成する演算機能を有している。ここで、伝達関数Gof(z)は、式(3)に示す閉ループ伝達関数Gclosed1(z)と、式(4)に示す伝達関数Gff(z)との積によって表されるものである。
【0054】
【数5】

【0055】
【数6】

【0056】
前置補償手段36は、加算手段34で生成された第3加算信号の振幅及び位相の補償を行った前置補償信号eff(k)を、式(4)に示すパルス伝達関数Gff(z)によって生成する演算機能を有している。この前置補償信号eff(k)は、フィードバック制御系の加算手段(第1加算手段)22によって、トラッキング誤差信号e(k)と加算される。これにより、駆動信号が生成する。
【0057】
≪高調波抑制部≫
次に、本発明のトラッキング制御装置の特徴部である高調波抑制部40について説明する。従来のZPET−FF制御系(図15のトラッキング制御装置300)では、LPFと制御器での遅れを考慮してメモリ342(トラッキング誤差補償信号生成手段32に相当する)での進め量nを決定していた。この進め量nは、メモリ342への入力信号に対して、あくまでもその基本波(基本波成分)に対する進め量である。また、前記した式(1)は、偏心を抑圧するための基本波の周波数に合わせたメモリサイズで設定してあることを表している。そこで、本発明では、トラッキング制御装置1に、基本波より高周波域にある高調波成分を考慮して高調波抑制部40を設けた。第1実施形態では、従来のZPET−FF制御系(図15のトラッキング制御装置300)を用いた際にもっとも影響の残る3次高調波を抑圧するように高調波抑制部40を設計した。
【0058】
高調波抑制部40は、帯域通過フィルタ(第1帯域通過フィルタ)41と、メモリ(第2メモリ、3次高調波補償信号生成手段)42と、帯域通過フィルタ(第2帯域通過フィルタ)43と、減算手段44とを備えている。
【0059】
帯域通過フィルタ(第1帯域通過フィルタ)41は、加算手段31で生成された第2加算信号etfb(k)のうち3次高調波成分etfb3(k)の信号を通過させるBPFとして機能する演算手段を備えている。帯域通過フィルタ41は、入力する信号の3次高調波成分のみを通過させるように予め設計されており、3次高調波に対応するバンド幅(帯域幅)の信号だけを切り取ることで、入力信号の3次高調波成分を抽出する。本実施形態では、BPFには式(5)に示される一般的なBPFを用いることとした。ここで、BPF3(z)の下付きの「3」は3次高調波のBPFであることを示している。また、ω0は中心周波数、Qはクオリティファクタであり、BPFの中心周波数と帯減幅との比率を示す。
【0060】
【数7】

【0061】
メモリ(第2メモリ、3次高調波補償信号生成手段)42は、トラッキング誤差補償信号生成手段32(メモリ32)と同様に構成されている。ただし、メモリ42に設定される使用メモリ個数(第2メモリ数)は、メモリ32に設定される使用メモリ個数(第1メモリ数N)の1/3の個数である。
このメモリ42は、帯域通過フィルタ41を通過した信号etfb3(k)を遅延させることで、3次高調波補償信号etfb3(k−M+m)を生成する。ここで、Mは、3次高調波成分の1周期分のサンプル数(基本波の1周期分のサンプル数Nの1/3)を示し、mは3次高調波成分の進め量を示している。
【0062】
帯域通過フィルタ(第2帯域通過フィルタ)43は、帯域通過フィルタ41と同様に、入力する信号の3次高調波成分のみを通過させるように予め設計されており、3次高調波に対応するバンド幅の信号だけを切り取ることで、入力信号の3次高調波成分を抽出するものである。帯域通過フィルタ43は、例えば、前記した式(5)に示される一般的なBPFから構成され、その特性は帯域通過フィルタ41と同様に設定されている。この帯域通過フィルタ43は、制御系安定化手段33(LPF)を通過したトラッキング誤差補償信号etfb(k−N+n)のうち3次高調波成分の信号を通過させる。この通過した信号(トラッキング誤差補償信号etfb(k−N+n)の3次高調波成分)は減算手段44に入力する。
【0063】
減算手段44は、メモリ42で遅延させた3次高調波補償信号etfb3(k−M+m)から、制御系安定化手段33(LPF)を通過したトラッキング誤差補償信号etfb(k−N+n)の3次高調波成分を減算して高調波抑制信号を生成するものである。すなわち、減算手段44は、3次高調波補償信号etfb3(k−M+m)から帯域通過フィルタ43で抽出された3次高調波成分の信号を減算する。なお、この高調波抑制部40については、以下のトラッキング制御装置1の動作の説明において、さらに詳しく説明することとする。
【0064】
[トラッキング制御装置の全体処理の流れ]
図1のトラッキング制御装置1の全体処理の流れについて基本動作(図2)と、主として高調波抑制部40による並列動作(図3)とに分けて、適宜図1を参照しつつ説明する。
<基本動作>
図2に示すように、トラッキング制御装置1は、トラッキング補正信号生成手段35によって、トラッキング誤差信号e1(k)の予測値としてトラッキング補正信号を生成する(ステップS1)。そして、トラッキング制御装置1は、加算手段31によって、走査中のトラックに対するトラッキング誤差信号e1(k)と、トラッキング補正信号とを加算し、加算により生成した第2加算信号etfb(k)をトラッキング誤差補償信号生成手段32(メモリ)に入力する(ステップS2)。
【0065】
そして、トラッキング制御装置1は、トラッキング誤差補償信号生成手段32(メモリ)に設定されたメモリ数Nに相当する時間(N−n)だけ第2加算信号を遅延させたトラッキング誤差補償信号etfb(k−N+n)を制御系安定化手段33(LPF)に入力する(ステップS3)。そして、トラッキング制御装置1は、加算手段34によって、制御系安定化手段33(LPF)を通過したトラッキング誤差補償信号と、高調波抑制部40が出力する高調波抑制信号とを加算し(ステップS4)、ステップS1に戻る。
【0066】
また、ステップS4に続いて並行して、トラッキング制御装置1は、前置補償手段36によって、加算手段34にて加算された第3加算信号の振幅及び位相の補償を行った前置補償信号eff(k)を生成する(ステップS5)。そして、トラッキング制御装置1は、加算手段22によって、前置補償信号eff(k)を、走査中のトラックに対するトラッキング誤差信号e1(k)に加算する(ステップS6)。
【0067】
さらに、トラッキング制御装置1は、光スポット位置補正手段25によって、加算した信号(第1加算信号)を用いてトラック位置y(k)(光スポット位置)を補正する(ステップS7)。つまり、光スポット位置補正手段25は、第1加算信号が入力したフィードバック制御手段23で生成されたトルク電流指令Icmd(k)を用いて、トラッキング制御を行う。そして、トラッキング制御装置1は、トラッキング誤差信号生成手段21によって、トラック位置指令yref(k)からトラック位置y(k)(光スポット位置)を減算してトラッキング誤差信号e1(k)を生成し(ステップS8)、ステップS2に戻る。
【0068】
<並列動作>
図3に示すように、トラッキング制御装置1は、トラッキング補正信号生成手段35によって、トラッキング誤差信号e1(k)の予測値としてトラッキング補正信号を生成する(ステップS11)。そして、トラッキング制御装置1は、加算手段31によって、走査中のトラックに対するトラッキング誤差信号e1(k)と、トラッキング補正信号とを加算し、加算により生成した第2加算信号を帯域通過フィルタ41(第1帯域通過フィルタ)に入力する(ステップS12)。そして、トラッキング制御装置1は、帯域通過フィルタ41(第1帯域通過フィルタ)によって、第2加算信号のうち3次高調波成分の信号を通過させることで、第2加算信号の3次高調波成分を抽出し(ステップS13)、抽出した3次高調波成分の信号をメモリ42(第2メモリ)に入力する(ステップS14)。
【0069】
また、トラッキング制御装置1は、並行して制御系安定化手段33(LPF)を通過したトラッキング誤差補償信号etfb(k−N+n)のうち3次高調波成分の信号を帯域通過フィルタ43(第2帯域通過フィルタ)で抽出する(ステップS15)。そして、トラッキング制御装置1は、減算手段44によって、メモリ42(第2メモリ)で(M−m)だけ遅延させた3次高調波補償信号etfb(k−M+m)から、制御系安定化手段33(LPF)を通過したトラッキング誤差補償信号の3次高調波成分を減算して高調波抑制信号を生成する(ステップS16)。また、トラッキング制御装置1は、加算手段34によって、制御系安定化手段33(LPF)を通過したトラッキング誤差補償信号etfb(k−N+n)と、高調波抑制信号とを加算し、加算により生成した第3加算信号をトラッキング補正信号生成手段35に入力し(ステップS17)、ステップS11に戻る。
【0070】
ここでは、都合により基本動作と並列動作とに分けて説明したが、全体処理の中で主として高調波抑制部40の作用を取り上げて説明すると、トラッキング制御装置1は、以下のように動作する。すなわち、トラッキング制御装置1は、予測したエラー信号(第2加算信号etfb(k))をメモリ32にストアする(ステップS2)。また、並行して、このエラー信号(第2加算信号etfb(k))から帯域通過フィルタ41により通過させた3次高調波成分の信号etfb3(k)をメモリ42にストアする(ステップS14)。次に、LPF33を通した後のトラッキング誤差補償信号etfb(k−N+n)に帯域通過フィルタ43を用いて抽出した3次高調波成分の信号を用いて、メモリ42から出力された3次高調波補償信号etfb3(k−M+m)と置き換える(ステップS16)。この処理は、中心周波数では位相が変化しないというBPFの特性に基づいている。これにより、基本波成分に対するメモリの進め量nと、3次高調波成分に対するメモリの進め量mとを独立に与えることが可能となる。したがって、トラッキング制御装置1によれば、このように、対象とする周波数(対象とする次数の高調波)で最適な進め量を与えることで、トルク電流指令Icmd(k)として、より最適な値を生成でき、その結果、トラッキング性能の向上を図ることができる。
【0071】
また、仮に、高調波抑制部40が、帯域通過フィルタ43および減算手段44を備えていないとしたら、3次高調波補償信号をそのまま高調波抑制信号として出力することになる。この場合、LPF33を通過したトラッキング誤差補償信号etfb(k−N+n)の中に含まれる3次高調波の補償分と、3次高調波補償信号とが、加算手段34によって単純に加算されることにより3次高調波の補償分が二重となって過補償になる。しかしながら、本実施形態のトラッキング制御装置1は、このような単純な加算を行うことはない。すなわち、高調波抑制部40において、LPF33を通過したトラッキング誤差補償信号の中に含まれる3次高調波の補償分だけを帯域通過フィルタ43で抽出しておき、この抽出しておいた信号を、減算手段44によって3次高調波補償信号から取り除いて高調波抑制信号として出力する。したがって、トラッキング制御装置1は、3次高調波の補償分が過補償となることを防止し、周期外乱の3次高調波成分を効果的に抑圧することができる。
【0072】
[メモリの具体例]
次に、トラッキング誤差補償信号生成手段32(メモリ32)やメモリ(第2メモリ、3次高調波補償信号生成手段)42の具体例について図4(a)〜図4(c)および図5を参照(適宜図1参照)して説明する。ここでは、一例として、制御サンプリング周波数fsを100[kHz]、ディスク回転数Rを8000[rpm]とする。この場合、前記した式(1)によれば、ディスクの1回転周期に対応したサンプリング個数のメモリ長は、Drot=N=750[個]である。これが、メモリ32の使用メモリ個数(第1メモリ数)となる。また、記憶手段での進め量nを2とすれば、メモリ量は748となる。また、メモリ42に関しては、例えば、M=750/3=250[個]が、メモリ42の使用メモリ個数(第2メモリ数)となる。また、記憶手段での進め量mを2とすれば、メモリ量は248となる。メモリ32とメモリ42とは、使用メモリ個数が異なる以外は同様なので、ここでは、メモリ32で具体例を説明する。
【0073】
メモリ32は、図4(a)に示すように、750[個]のメモリ長を有した記憶手段51を備えているものとする。この場合、ディスク1回転の周期の間に、サンプリング時刻k=1〜750まで刻々と離散的な第2加算信号etfb(k)が記憶手段51に順次入力する。なお、図4(a)では、k=1〜750までの時刻の信号が記憶手段51に格納された時点、つまり、k=750の信号が入力した時点を表している。
【0074】
図4(a)において、例えば、光ディスクの1周について750回のサンプリングを行って制御しているものとする。一般にγ周目のサンプリング時刻kに相当する時刻において、(γ−1)周目のサンプリング時刻(k+2)に相当する時刻において記憶された信号を用いる。その他の時刻においても同様の処理を行う。なお、サンプリング時刻はサンプリングクロックを用いる。例えばγ=2の場合、2周目においてサンプリング時刻k=1は、通算のサンプリング時刻ではk=751に相当する。このk=751の時刻では、図4(b)に示すように、記憶手段51において、k=2以上の信号がメモリ素子1つ分だけ前進する。
【0075】
図4(b)に示すように、k=751の時刻の信号(2周目のサンプリング時刻k=1の信号)がメモリ32(記憶手段51)に入力すると、k=3の信号がメモリ32(記憶手段51)から出力する。つまり、2周目の走査中のトラックに対するサンプリング時刻k=1(通算のサンプリング時刻k=751)では、蓄積されていた1周目のサンプリング時刻k=3の信号が取り出されて、走査中のk=1に対する補償信号となる。これは、記憶手段での進め量を2としたために、k=751に対して、k−N+n=751−750+2=3の時点の信号(ただし、1周前)が利用されることを意味する。
【0076】
同様に、図4(c)に示すように、k=753の時刻の信号(2周目のサンプリング時刻k=3の信号がメモリ32(記憶手段51)に入力すると、1周目のサンプリング時刻k=5の信号がメモリ32(記憶手段51)から出力し、2周目に走査中のk=3(通算のk=253)に対する補償信号となる。これは、k=753に対して、k−N+n=753−750+2=5から求めることができる。なお、進め量「2」は、光スポット位置補正手段25(トラッキングアクチュエータ)が電流駆動のボイスコイルモータから構成されているからである。図1に示したメモリ32に対応したetfb(k−N+n)において、kは通算のサンプリング時刻を示す。なお、メモリ42に対応したetfb3(k−M+m)においても、kは通算のサンプリング時刻を示す。
【0077】
図4(a)〜図4(c)は、メモリとサンプリング時刻kとの対応関係を説明するための図であって、実際のメモリ構成ではない。実際のメモリ構成の一例を図5に示す。
【0078】
トラッキング誤差補償信号生成手段32(メモリ32)は、図5に示すように、記憶手段50を備えている。記憶手段50は、乗算手段56と、N個のメモリ素子57と、加算手段58とを備えている。ここでは、1回転周期前の過去に蓄積されていた信号を補償信号とすることとした。
【0079】
メモリ素子57は、例えば演算を行うデータのビット数に対応する複数のD−フリップ・フロップによって構成し、サンプリング時刻k(トラッキング制御装置1のクロックに相当する時刻)毎に、縦続接続されている前段のメモリ素子57の出力データを取り込むと共に、1クロック前に記憶していた値を、縦続接続されている後段のメモリ素子57に対して出力する。トラッキング誤差補償信号etfb(k−N+n)は、(N−n)番目のメモリ素子57の出力から取り出す。
【0080】
図5では、Nやnを一般化して示したが、Nは、ディスクの1回転周期についてのサンプリング個数であり、前記したように、ディスク回転数Rを8000[rpm]とした場合、N=750[個]である。また、nは、記憶手段での進め量nであり例えば2である。
【0081】
第1実施形態によれば、トラッキング制御装置1は、高調波抑制部40において、3次高調波補償信号から、制御系安定化手段(LPF)33を通過したトラッキング誤差補償信号の中に含まれる3次高調波の補償分だけを予め除いておいた信号を高調波抑制信号として出力する。したがって、トラッキング制御装置1において、トラッキング補正信号生成手段35や前置補償手段36が補償信号を生成する際に用いる第3加算信号は、制御系安定化手段(LPF)33を通過したトラッキング誤差補償信号と、高調波抑制信号とを加算して生成されることになる。これにより、トラッキング制御装置1は、ディスクの回転動作に伴う周期外乱の3次高調波成分に対しても外乱抑圧することが可能になる。その結果、トラッキング制御装置は、記憶容量の大きいディスク媒体や高速回転のディスク媒体に対しても高精度でトラックに追従すること可能となる。
【0082】
(第2実施形態)
図6に示す第2実施形態に係るトラッキング制御装置1Aは、補正メモリ量演算手段60をさらに備えている。また、高調波抑制部40Aは、メモリ42が補正メモリ量演算手段60から指令信号を受ける構成である点が相違している。
トラッキング誤差補償信号生成手段(メモリ)32およびメモリ42は、それぞれメモリ長変更指令により、記憶手段の使用メモリ個数を変更可能に構成されている。これは、例えば、ディスク回転数を光ディスク装置のように線速度一定に回転制御しつつ、逐次、周波数に相当する回転数R[rpm]が変化する場合でもその回転数に応じ、メモリ長が変化できる構成である。具体的構成については後記する。
【0083】
補正メモリ量演算手段60は、ディスク回転数Rが変化するときに、前記した式(1)において、変化後の回転数R′を用いてメモリ長Drotを算出する。この補正メモリ量演算手段60は、変化後の回転数R′を用いて算出されたDrot[個]をメモリ長変更指令としてトラッキング誤差補償信号生成手段32に出力する。同様に、補正メモリ量演算手段60は、変化後の回転数R′を用いて算出されたメモリ数Drotの1/3であるDrot/3[個]をメモリ長変更指令としてメモリ42に出力する。本実施形態では、補正メモリ量演算手段60は、トラッキング誤差補償信号生成手段32に対しては、例えば、メモリ量(Drot−2)[個]を算出し、メモリ42に対しては、例えば、メモリ量(Drot/3−2)[個]を算出する。そして、各メモリ長変更指令は、メモリ素子の接続切り替えによる使用メモリ個数の変更指令と、変更後の各メモリ素子を用いたメモリ量の変更指令とを兼ねるものとした。
【0084】
本発明の第2実施形態におけるトラッキング誤差補償信号生成手段32の一例を図7に示す。図7に示すように、トラッキング誤差補償信号生成手段32は、記憶手段としての第1小遅延手段61〜第L小遅延手段61Lと、第1切替手段62〜第L切替手段62Lと、信号送出手段63とを備えている。ここで、第1小遅延手段61〜第L小遅延手段61Lは、上流側を1番目とした順番で直列に接続されている。
【0085】
第1切替手段62〜第L切替手段62Lは、それぞれ第1小遅延手段61〜第L小遅延手段61Lの前段(上流側)に並列に設けられている。例えば、第k切替手段62(k=1,…,L)は、補正メモリ量演算手段60からの指令を示す制御信号により、オン/オフを切り替えることで、後段(下流側)の第k小遅延手段61へ入力する信号の接続を切り替える。
【0086】
信号送出手段63は、第1切替手段62〜第L切替手段62Lに並列に接続されており、加算手段31が入力する第2加算信号etfb(k)を第1切替手段62〜第L切替手段62Lに入力するものである。
【0087】
以下では、トラッキング誤差補償信号生成手段32は、第k切替手段62がオフである場合に、第k小遅延手段61には、直列接続の前段の第(k−1)小遅延手段61k-1からの信号が入力するものとして説明する。一方、第k切替手段62がオンである場合、第k小遅延手段61には、信号送出手段63と第k切替手段62とを経由する信号(第2加算信号etfb(k))が入力する。したがって、第1ないし第L切替手段62〜62Lのうち、1箇所だけ(k番目)選択してオンに設定し、かつ、残りの箇所をすべてオフに設定することで、第2加算信号etfb(k)が流れる小遅延手段の個数を変化させることができる。すなわち、トラッキング誤差補償信号生成手段32は、使用メモリ個数を選択的に変化させることができる。なお、初期状態では、第1ないし第L切替手段62〜62Lはすべてオフである。
【0088】
第1ないし第L小遅延手段61〜61Lは、例えば、複数のメモリ素子から構成される。各メモリ素子としては、例えば、格納するデータのビット数に対応する複数のD−フリップ・フロップによって構成される。これによれば、サンプリングクロック毎に縦続接続されている前段のメモリ素子の出力データを取り込むと共に、1クロック前に記憶していた値を縦続接続されている後段のメモリ素子に対して入力する構成とすることができる。そして、加算手段31から信号送出手段63への入力信号etfb(k)は、第1ないし第L小遅延手段61〜61Lのいずれかの入力端に配置されるメモリ素子に入力し、第L小遅延手段61Lの出力端に配置されるメモリ素子から出力され、制御系安定化手段(LPF)33に供給される。制御系安定化手段(LPF)33に供給される信号は、図5に示したものと同様に、例えば、進め量を2とした信号に対応している。
【0089】
第1ないし第L小遅延手段61〜61Lに含まれるメモリ素子の総個数は、想定している最も遅い動作回転数においてディスク1回転分に相当する信号etfb(k)を格納することのできる個数(Dmax個)とする。第1ないし第L小遅延手段61〜61Lは、すべて同等に構成することも可能であるが、ここでは、第1ないし第(L−1)小遅延手段61〜61L-1は、1個のメモリ素子で構成し、第L小遅延手段61Lは、Dmax個よりも(L−1)個だけ少ない個数(Dmin個)のメモリ素子によって構成する。
【0090】
なお、Dmin個は、想定している最速の動作回転数においてディスク1回転分に相当する信号etfb(k)を格納するメモリ素子の個数とすることができる。この場合、例えば、制御サンプリング周波数fs=100[kHz]、最低回転数Rminを6000[rpm]、最高回転数Rmaxを8000[rpm]とすると、Dmax=1000[個]、Dmin=750[個]、L=251となる。
【0091】
このように、トラッキング誤差補償信号生成手段32(メモリ32)が、一例として、Dmax=1000[個]のメモリ長を備えているものとする。そして、ディスク回転数が変化して、制御サンプリング周波数fsを100[kHz]として、ディスク回転数=8000[rpm]に対応したメモリ長Dmin=750[個]を使用していた状態から、ディスク回転数=6000[rpm]に対応したメモリ長Dmax=1000[個]を使用する状態へと変化させた場合を想定する。この場合、トラッキング誤差補償信号生成手段32(メモリ32)は、図4(d)に示すように、1000[個]のメモリ長を有した記憶手段52を備えているものとする。この場合、ディスク1回転の周期の間に、サンプリング時刻k=1〜1000まで刻々と離散的な第2加算信号etfb(k)が記憶手段52に順次入力する。なお、図4(d)では、k=1〜1000までの時刻の信号が記憶手段52に格納された時点、つまり、k=1000の信号が入力した時点を表している。
【0092】
ディスクが1回転し終わって2周目においてカウントをクリアした場合のサンプリング時刻k=5は、通算のサンプリング時刻ではk=1005に相当する。このk=1005の時刻では、図4(e)に示すように、記憶手段52において、k=6以上の信号がメモリ素子1つ分だけ前進する。
【0093】
そして、図4(e)に示すように、k=1005の時刻の信号(2周目のサンプリング時刻k=5の信号)がメモリ32(記憶手段52)に入力すると、k=7の信号がメモリ32(記憶手段52)から出力する。つまり、2周目の走査中のトラックに対するサンプリング時刻k=5(通算のサンプリング時刻k=1005)では、蓄積されていた1周目のサンプリング時刻k=7の信号が取り出されて、走査中のk=5に対する補償信号となる。これは、k=1005に対して、k−N+n=1005−1000+2=7から求めることができる。
【0094】
第2実施形態によれば、トラッキング制御装置1Aは、CLV方式及びZCLV方式のように光ディスクの半径によって1回転の周期が変化する場合を含め高速で回転する光ディスク上のトラックに対し安定で高い追従性能を持つことができる。
【0095】
(第3実施形態)
図8に示す第3実施形態に係るトラッキング制御装置1Bは、高調波抑制部40Bの構成が異なり、これに伴って加算手段37をさらに備えている。
高調波抑制部40Bは、図1に示した高調波抑制部40の構成に加えて、周期外乱の4次高調波成分を抑圧するために、帯域通過フィルタ(第1帯域通過フィルタ)45と、メモリ(4次高調波補償信号生成手段)46と、帯域通過フィルタ(第1帯域通過フィルタ)47と、減算手段48とをさらに備えている。
つまり、高調波抑制部40Bは、周期外乱のうち基本波成分と共に抑制しようとする3次高調波成分と4次高調波成分に対応して、第1帯域通過フィルタと、メモリ(n次高調波補償信号生成手段)と、第2帯域通過フィルタと、減算手段との組み合わせを、2つ並列に備えている。
【0096】
高調波抑制部40Bの帯域通過フィルタ(第1帯域通過フィルタ)45は、加算手段31で生成された第2加算信号etfb(k)のうち4次高調波成分etfb4(k)の信号を通過させるBPFとして機能する演算手段を備えている。帯域通過フィルタ45は、抽出する帯域の中心周波数の値が異なっている点を除いて、帯域通過フィルタ41と同様なものである。
【0097】
メモリ(4次高調波補償信号生成手段)46は、トラッキング誤差補償信号生成手段32(メモリ32)と同様に構成されている。このメモリ46は、帯域通過フィルタ(第1帯域通過フィルタ)45を通過した信号etfb4(k)を遅延させることで、4次高調波補償信号etfb4(k−V+v)を生成する。ここで、Vは、4次高調波成分の1周期分のサンプル数(基本波の1周期分のサンプル数Nの1/4)を示し、vは4次高調波成分の進め量を示している。
【0098】
帯域通過フィルタ(第2帯域通過フィルタ)43は、帯域通過フィルタ45と同様に構成されており、制御系安定化手段33(LPF)を通過したトラッキング誤差補償信号etfb(k−N+n)のうち4次高調波成分の信号を通過させる。この通過した信号(トラッキング誤差補償信号etfb(k−N+n)の4次高調波成分)は減算手段48に入力する。
【0099】
減算手段48は、メモリ46で遅延させた4次高調波補償信号etfb4(k−V+v)から、制御系安定化手段33(LPF)を通過したトラッキング誤差補償信号etfb(k−N+n)の4次高調波成分を減算して4次高調波成分に対応した高調波抑制信号を生成するものである。すなわち、減算手段48は、4次高調波補償信号etfb4(k−V+v)から帯域通過フィルタ47で抽出された4次高調波成分の信号を減算する。
【0100】
加算手段37は、加算手段34の出力信号と、減算手段48の出力信号(4次高調波成分に対応した高調波抑制信号)とを加算するものである。この加算された信号は、トラッキング補正信号生成手段35および前置補償手段36に入力する。
ここで、加算手段34の出力信号は、制御系安定化手段33(LPF)を通過したトラッキング誤差補償信号etfb(k−N+n)と、3次高調波成分に対応した高調波抑制信号との和である。つまり、加算手段37は、高調波抑制部40Bから並列に入力する信号である、3次高調波成分に対応した高調波抑制信号と、4次高調波成分に対応した高調波抑制信号とを加算する。したがって、図8に示す高調波抑制部40Bでは、加算手段34と加算手段37とを合わせたものが特許請求の範囲に記載の第3加算手段に相当し、加算手段37で加算された信号が第3加算信号となる。
【0101】
なお、加算手段37を設ける代わりに、減算手段44の出力信号と減算手段48の出力信号とを加算する加算手段を高調波抑制部40Bに別に設けて、この別に設けた加算手段で加算した出力信号を、2つの高調波に対応して並列に入力する高調波抑制信号として、加算手段34が、この高調波抑制信号と、LPF33を通過したトラッキング誤差補償信号とを加算するように構成してもよい。
【0102】
第3実施形態によれば、トラッキング制御装置1Bは、周期外乱の3次高調波成分と4次高調波成分を抑圧する構成を並列に備えているので、周期外乱の基本波成分と共に、3次高調波成分と4次高調波成分を同時に抑圧することができる。
【0103】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その趣旨を変えない範囲で様々に実施することができる。例えば、第3実施形態にて、3次高調波成分と4次高調波成分に対応した構成を説明したが、組み合わせる高調波成分の次数は、これに限定されず、例えば、3次高調波成分と6次高調波成分に対応した構成としてもよい。また、高調波成分を抑圧するための構成の並列数は3つ以上であってもよい。この場合、トラッキング誤差信号の周波数解析を事前に行った上で、抑圧する次数を決定すればよい。
【0104】
また、各実施形態では、光ディスク装置のトラッキング制御系を例にして説明したが、本発明は、スポット位置の補正方向を変更することで同様にして、光スポット位置を集光方向に補正するフォーカス制御系についても、同様に適用可能である。また、本発明は、トラッキング制御系とフォーカス制御系の双方を含んだ光ディスク装置として構成することも可能である。さらに、本発明は、光ディスク装置に限らず、磁気ディスク装置や光磁気ディスク装置などの、ディスク回転とサーボ制御を伴う装置にも、同様の制御系が搭載可能であれば適用可能である。
【実施例】
【0105】
本発明の効果を確認するために本発明の第1実施形態に係るトラッキング制御装置の制御性能を測定した。
<実験方法>
本発明の第1実施形態に係るトラッキング制御装置を用いた場合(実施例)と、従来のZPET−FF制御系を用いた場合(比較例)とについて、周期的外乱の第3次高調波を抑圧するように設計して、残留トラッキングエラー値を測定し、その周波数解析結果を求めた。
【0106】
具体的には、光ディスク試験装置DDU-1000を使用して測定した。本発明の第1実施形態に係るトラッキング制御装置を光ディスク試験装置に接続し、そのまま使用するときには実施例とし、高調波抑制部40を使用しないとき(分離したとき)に比較例とした。
【0107】
この光ディスク試験装置内のトラッキングサーボは、トラッキング制御装置の制御器により制御される。このトラッキング制御装置には、光ディスク試験装置から出力された制御入力信号(トラッキング誤差信号e1(t))が入力される。この入力信号は、トラッキング制御装置内のA/D変換器により離散化され、そのデジタル信号e1(k)が、トラッキング制御装置内の制御器であるデジタルシグナルプロセッサ(DSP)で計算される。その結果(デジタル信号)をD/A変換した上で、トラッキング制御装置の制御出力として再び光ディスク試験装置に入力し、アクチュエータの制御信号とする。
【0108】
また、制御器は、状態空間表現化されたパラメータを、状態差分方程式による演算アルゴリズムに基づき、浮動小数点あるいは固定小数点演算DSP上で演算する。このときの演算処理時間はA/D変換時間、D/A変換時間を含め10μs以内である。また、トラッキング制御装置内のメモリは、光ディスク試験装置から発生するスピンドルインデックスパルスを取り込み、カウンタ部にて回転数を計算し、その回転数に応じメモリ長が変化することができる。これにより回転数(角速度)にあった最適なメモリ長となるようにしている(非特許文献2参照)。
【0109】
<実験条件>
制御サンプリング周波数fsは125[kHz]とした。また、ディスク回転数Rは8000[rpm](=133.33[Hz])に固定した。このディスク回転数Rの場合、メモリ32のメモリ数は750[個]とした。メモリ42のメモリ数は250[個]とした。なお、メモリ32のメモリ量は748、メモリ42のメモリ量は248とした。
また、基本波成分の周波数は133.33[Hz]なので、3次高調波の周波数は、その3倍の400[Hz]となる。よって、各BPFの中心周波数を400[Hz]とした。また、各BPFの帯減幅を80[Hz]とした。これは、クオリティファクタQ=5に対応している。なお、制御系安定化手段(LPF)33のカットオフ周波数fcの値は、1.6[kHz]とした。
【0110】
<実験結果>
≪残留トラッキングエラー値の測定結果≫
実施例として、本発明のトラッキング制御装置を用いた場合の残留トラッキングエラー値の測定結果を図9に示す。図9(a)が残留トラッキングエラー値の時間変化、図9(b)が対応するトルク電流指令の時間変化をそれぞれ示している。図9において、横軸は時間を表しており、1目盛りは200[msec]である。図9(a)の縦軸は、残留トラッキングエラー値であり、トラッキングエラー信号e1(t)の信号電圧値から換算された長さ[nm]を示している。図9(b)の縦軸は、トルク電流指令Icmd(k)の電流値[A]を示している。図9(a)に示すように、実施例では、残留トラッキングエラー値の最大振幅は、±43.47[nm]であった。また、その統計量である3σは、34.73[nm]であった。つまり、残留トラッキングエラー値の99%以上は、34.73[nm]の範囲にあった。
【0111】
比較例として、従来のZPET−FF制御系を用いた場合の残留トラッキングエラー値を図10に示す。なお、図10は図9と同様なグラフである。図10(a)に示すように、比較例の残留トラッキングエラー値の最大振幅は、±56.80[nm]であった。また、その統計量である3σは、44.61[nm]であった。つまり、残留トラッキングエラー値の99%以上は、44.61[nm]の範囲にあった。
これにより、図9(実施例)と図10(比較例)とを比較すると、実施例は比較例と比べて、残留トラッキングエラー値がおよそ22%減少したことが分かる。
【0112】
≪残留トラッキングエラーの周波数解析結果≫
実施例の周波数解析結果を図11に示す。図11において、横軸は周波数[Hz]を示し、縦軸は残留トラッキングエラー値の長さ[nm]を示している。同様に、比較例の周波数解析結果を図12に示す。
比較例では、図12に示すように、基本波f(n=1)=133.33[Hz]の場合に振幅は1[nm]程度であって、周期外乱の基本波成分は抑圧されていることが分かる。ところが、比較例では、3次高調波f(n=3)=400[Hz]の場合に振幅は13[nm]程度であって、周期外乱の3次高調波成分は充分には抑圧されていないことが分かる。
【0113】
これに対して、実施例では、図11に示すように、基本波f(n=1)の場合に、周期外乱の基本波成分は抑圧されていることが分かる。また、実施例では、3次高調波f(n=3)の場合に振幅は2[nm]程度であって、比較例の値の6分の1以下まで抑圧されていることが分かる。
【0114】
なお、実験結果の記載を省略するが、本発明の第3実施形態に係るトラッキング制御装置のように、3次高調波f(n=3)=400[Hz]と4次高調波f(n=4)=533.33[Hz]の両方を抑圧する設計をしたところ、基本波成分と共に、3次高調波成分および4次高調波成分をも抑圧することができた。
【0115】
したがって、本発明によれば、基本波成分と共に、設計どおりの高調波成分を抑圧し、これにより、残留トラッキングエラーを低減できる。すなわち、本発明によれば、周期性外乱に対して従来よりも強力なロバスト制御系を構築できると結論付けられる。
【符号の説明】
【0116】
1,1A,1B トラッキング制御装置
21 トラッキング誤差信号生成手段
22 加算手段(第1加算手段)
23 フィードバック制御手段
24 減算手段
25 光スポット位置補正手段
31 加算手段(第2加算手段)
32 トラッキング誤差補償信号生成手段(メモリ)
33 制御系安定化手段(LPF)
34 加算手段(第3加算手段)
35 トラッキング補正信号生成手段
36 前置補償手段
37 加算手段
40,40A,40B 高調波抑制部(高調波抑制手段)
41,45 帯域通過フィルタ(第1帯域通過フィルタ)
42 メモリ(3次高調波補償信号生成手段)
46 メモリ(4次高調波補償信号生成手段)
43,47 帯域通過フィルタ(第2帯域通過フィルタ)
44,48 減算手段
50,51,52 記憶手段
57 メモリ素子
60 補正メモリ量演算手段
61〜61L 第1小遅延手段〜第L小遅延手段
62〜62L 第1切換手段〜第L切換手段
63 信号送出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク上のトラック目標値としてのトラック位置指令と光ヘッドから前記ディスクに照射される光ビームの光スポット位置との誤差を示すトラッキング誤差信号に基づいて前記光スポット位置の補正を行うフィードバック制御系と、前置補償信号を生成して前記フィードバック制御系に出力するフィードフォワード制御系とを用いて、前記光スポット位置を制御するトラッキング制御装置であって、
前記フィードバック制御系は、
前記トラッキング誤差信号と前記前置補償信号とを加算して第1加算信号を生成する第1加算手段と、
前記第1加算信号から前記トラック位置指令に追従させるトルク電流指令を生成するフィードバック制御手段と、
前記トルク電流指令によりトラッキング制御を行う光スポット位置補正手段とを備え、
前記フィードフォワード制御系は、
前記トラッキング誤差信号と、トラッキング補正信号とを加算して第2加算信号を生成する第2加算手段と、
第1メモリ数の記憶手段を備え前記第2加算信号を遅延させることでトラッキング誤差補償信号を生成するトラッキング誤差補償信号生成手段と、
前記トラッキング誤差補償信号生成手段で生成したトラッキング誤差補償信号のうち、予め定められた高域ノイズの周波数以下の低周波数成分の信号を通過させる制御系安定化手段と、
2次以上の少なくとも1つの高調波として第n次高調波を抑制する高調波抑制信号を生成する高調波抑制手段と、
前記制御系安定化手段を通過したトラッキング誤差補償信号と、前記高調波抑制信号とを加算して第3加算信号を生成する第3加算手段と、
前記第3加算信号から第1伝達関数により前記トラッキング補正信号を生成するトラッキング補正信号生成手段と、
前記第3加算信号から第2伝達関数により前記前置補償信号を生成する前置補償手段とを備え、
前記高調波抑制手段は、
前記第2加算信号のうち第n次高調波成分の信号を通過させる第1帯域通過フィルタと、
前記第1メモリ数より少ない第2メモリ数の記憶手段を備え前記第1帯域通過フィルタを通過した第n次高調波成分の信号を遅延させることで第n次高調波補償信号を生成するn次高調波補償信号生成手段と、
前記制御系安定化手段を通過したトラッキング誤差補償信号のうちn次高調波成分の信号を通過させる第2帯域通過フィルタと、
前記n次高調波補償信号生成手段で生成した第n次高調波補償信号から、前記第2帯域通過フィルタを通過したn次高調波成分の信号を減算することで前記高調波抑制信号を生成する減算手段とを備える、
ことを特徴とするトラッキング制御装置。
【請求項2】
前記トラッキング誤差補償信号生成手段および前記n次高調波補償信号生成手段は、それぞれメモリ長変更指令により、記憶手段のメモリ数を変更可能に構成されており、
前記ディスクの動作回転数が変化するときに、予め定められた制御サンプリング周波数と、変化後の前記ディスクの動作回転数とに基づいて対応する第1メモリ数および第2メモリ数をそれぞれ算出し、それぞれの算出結果を前記メモリ長変更指令として前記トラッキング誤差補償信号生成手段および前記n次高調波補償信号生成手段にそれぞれ出力する補正メモリ量演算手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1に記載のトラッキング制御装置。
【請求項3】
前記高調波抑制手段は、
抑制しようとする予め定められた個数の複数の高調波に対応して、前記第1帯域通過フィルタと、前記n次高調波補償信号生成手段と、前記第2帯域通過フィルタと、前記減算手段との組み合わせを、前記制御系安定化手段と前記第3加算手段との間に、前記抑制しようとする高調波の個数と同じ個数だけ並列に備え、
前記第3加算手段は、前記制御系安定化手段を通過したトラッキング誤差補償信号と、前記複数の高調波に対応して並列に入力する高調波抑制信号とを加算して前記第3加算信号を生成する、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトラッキング制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2011−34649(P2011−34649A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182038(P2009−182038)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)社団法人電気学会から平成21年3月17日に発行された「平成21年電気学会全国大会講演論文集第4分冊(4−234)」において発表 (2)社団法人電気学会が平成21年3月19日に開催した「電気学会平成21年全国大会講演(産業システムモーションコントロール(II))」において発表
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【出願人】(591053926)財団法人エヌエイチケイエンジニアリングサービス (169)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】