説明

トラバースガイド、巻取ユニット、及び糸巻取機

【課題】アーム状のトラバースガイドを駆動するモータへの負荷を小さくしつつ、糸掛け部(糸ガイド部)の耐久性を向上した構成のトラバースガイドを提供する。
【解決手段】トラバースガイドは、アーム本体60と、セラミックス製の糸ガイド片70と、を備える。アーム本体60には、長手方向一側の端部に位置する溝であって、長手方向他側を開放させた溝である取付溝63aが形成される。糸ガイド片70は、取付溝63aの内側に配置されており、長手方向他側を開放させた糸掛け溝70aが形成され、当該糸掛け溝70aに糸を掛けた状態でアーム本体60が往復動することで糸をトラバースする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、糸をトラバースするためのトラバースガイドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アーム部と、糸掛け部と、を備えるトラバースガイドが知られている。アーム部は、細長状の部材であり、先端に糸掛け部が接続される。糸掛け部には、糸を引っ掛けて保持するための溝等が形成されている。トラバースガイドは、糸掛け部が糸を保持している状態で、モータ等によってアーム部が往復動させられることで、パッケージに対して糸をトラバースすることができる。特許文献1は、この種のトラバースガイドを開示する。
【0003】
特許文献1のトラバースガイドは、2枚の板材で構成されるアーム部と、フック状の糸掛け部と、を備える。アーム部を構成する2枚の板材は、隙間を開けて向かい合うように配置されている。この構成により、往復動に伴うアーム部の空気抵抗を低減することができるので、アーム部を駆動するモータへの負荷を低減できる。
【0004】
また、特許文献1には、アーム部の素材として、CFRP(carbon fiber reinforced plastics)、無機繊維(ガラス繊維及びセラミック繊維等)や有機繊維(アラミド繊維、PBO繊維、超高分子量ポリエチレン等)からなる複合材料、軽量金属(マグネシウム、ベリリウム、アルミ、チタン等)を含む合金等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−137944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、糸掛け部は、糸との接触によって摩耗するため、セラミックス等の耐摩耗性を有する部材で構成されることが好ましい。しかし、セラミックスは重量が比較的重いので、アーム部を駆動するモータに負荷が掛かってしまう。特に、糸掛け部はアーム部の一端に接続されているため、例えばアーム部の他端を回動軸として当該アーム部を往復回動させる場合は、イナーシャが大きくなり、モータに掛かる負荷が増大する。
【0007】
また、セラミックス等の耐摩耗性を有する部材は、一般的に硬度が高いため、靭性が低く割れ易い傾向がある。トラバースガイドは、連続して高速で糸をトラバースするものであるため、耐久性の向上が求められている。
【0008】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、アーム状のトラバースガイドを駆動するモータへの負荷を小さくしつつ、糸掛け部(糸ガイド部)の耐久性を向上した構成のトラバースガイドを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0010】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成のトラバースガイドが提供される。即ち、このトラバースガイドは、アーム本体と、糸ガイド部と、を備える。前記アーム本体は、長手方向一側である第1の端部に位置し、前記長手方向において前記第1の端部とは反対側である第2の端部の方向に開放される取付溝が形成された枠体を有する。前記糸ガイド部は、セラミックス製であり、前記枠体の溝壁に配置されており、前記第2の端部の方向に開放される糸掛け溝が形成されている。
【0011】
これにより、トラバース中における糸の接触箇所がセラミックス製であるので、耐摩耗性に優れた構成のトラバースガイドが実現できる。また、糸ガイド部を覆うようにアーム本体の枠体が配置されているので、糸ガイド部を確実に保持して耐久性を向上させることができる。
【0012】
前記のトラバースガイドにおいては、前記アーム本体と前記糸ガイド部とが接着剤によって接着されていることが好ましい。
【0013】
これにより、糸ガイド部をアーム本体に固定するための固定孔等を形成する必要が無いので、トラバースガイドの製作コストを抑えることができる。
【0014】
前記のトラバースガイドにおいては、前記取付溝と前記糸ガイド部との境界を接着剤で覆うように、前記アーム本体と前記糸ガイド部とが接着されていることが好ましい。
【0015】
これにより、取付溝と糸ガイド部との境界に段差が生じている場合であっても、トラバースガイドによる糸の捕捉時等に、当該糸が段差に引っ掛かることを防止できる。従って、糸切れ等の発生を防止することができる。
【0016】
前記のトラバースガイドにおいては、前記アーム本体には、前記アーム本体に対して前記糸ガイド部を位置決めする位置決め部が形成されていることが好ましい。
【0017】
これにより、糸ガイド部の位置精度(取付精度)を向上させることができるので、前記取付溝と前記糸ガイド部との境界に生じる段差を小さくすることができる。
【0018】
前記のトラバースガイドにおいては、前記位置決め部は、前記アーム本体の厚み方向の一側から、前記糸ガイド部が前記取付溝に挿入されるように形成されていることが好ましい。
【0019】
これにより、糸ガイド部を簡単に位置決めすることができるので、作業者は、取付作業を素早く行うことができる。
【0020】
前記のトラバースガイドにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記糸掛け溝は、一端が開放した長孔状に形成されている。また、前記長孔の長手方向と前記アーム本体の長手方向とが一致する。
【0021】
これにより、糸掛け溝の長さを比較的長くすることができるので、トラバース中に糸掛け溝から糸が外れにくい構成を実現できる。
【0022】
前記のトラバースガイドにおいては、前記アーム本体の素材は、マグネシウム合金、アルミニウム合金、又は樹脂であることが好ましい。
【0023】
これにより、マグネシウム合金、アルミニウム合金、及び樹脂は一般的にはセラミックスよりも軽いので、トラバースガイド全体(又は枠体全体)をセラミックス製とした構成と比較して、トラバースガイドを軽量化することができる。従って、例えばトラバースガイドを駆動するモータの負荷を抑えることができる。
【0024】
前記のトラバースガイドにおいては、前記アーム本体及び前記糸ガイド部のそれぞれには、接触した糸を前記糸掛け溝までガイドするガイド面が形成されていることが好ましい。
【0025】
これにより、アーム本体及び糸ガイド部の両方にガイド面が形成されているため、トラバースガイドによる糸の捕捉時において、糸を糸掛け溝の近傍まで案内することができる。従って、トラバースガイドは、糸を確実に捕捉することができる。
【0026】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の巻取ユニットが提供される。即ち、この巻取ユニットは、前記のトラバースガイドと、トラバースガイド駆動部と、クレードルと、を備える。前記トラバースガイドは、前記糸掛け溝に糸を掛けて、当該糸をトラバースする。前記トラバースガイド駆動部は、前記トラバースガイドを駆動する。前記クレードルは、前記トラバースガイドにより前記糸がトラバースされることで形成されるパッケージを保持する。
【0027】
これにより、トラバースガイド駆動部に掛かる負荷が軽減されるので、巻取ユニットは、トラバースガイドにより糸を高速でトラバースすることができる。その結果、巻取ユニットの生産効率を向上することができる。
【0028】
本発明の第3の観点によれば、前記の巻取ユニットを複数備えた構成の糸巻取機が提供される。
【0029】
これにより、複数の巻取ユニットにより、パッケージを効率良く形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動ワインダの正面図。
【図2】ワインダユニットの正面図及びブロック図。
【図3】トラバース装置の模式的な側面図。
【図4】アーム本体及び糸ガイド片の構成を示す斜視図。
【図5】アーム本体と糸ガイド片との間に生じる段差及び当該段差を接着剤によって覆ったときの様子を示す図。
【図6】アーム本体と糸ガイド片の取付方法について説明する斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、発明の実施の形態を説明する。初めに、図1を参照して、本実施形態の自動ワインダ1の全体的な構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る自動ワインダ1の正面図である。なお、本明細書において「上流」及び「下流」とは、糸巻取時での糸の走行方向における上流及び下流を意味するものとする。つまり、図2等に示すように、本実施形態では、給糸部16で給糸ボビン21から解舒された糸20が巻取部17によって巻き取られるため、給糸部16側が上流であり、巻取部17側が下流となる。
【0032】
図1に示すように、自動ワインダ(糸巻取機)1は、並べて配置された複数のワインダユニット(巻取ユニット)10と、自動玉揚装置8と、機台制御装置90と、を主要な構成として備える。
【0033】
それぞれのワインダユニット10は、給糸ボビン21から解舒された糸20をトラバース(綾振り)しながら巻取ボビン22に巻き取り、パッケージ30を形成できるように構成されている。
【0034】
自動玉揚装置8は、各ワインダユニット10においてパッケージ30が満巻となった際に、当該ワインダユニット10の位置まで走行し、満巻のパッケージ30を回収するとともに糸20が巻かれていない巻取ボビン(空の巻取ボビン)22を供給する。なお、自動玉揚装置8は、満巻きのパッケージ30のみを回収し、空の巻取ボビン22の供給は行わない構成でも良い。また、自動玉揚装置8は、満巻きのパッケージ30の回収は行わずに、空の巻取ボビン22の供給だけを行う構成でも良い。
【0035】
機台制御装置90は、操作部91と、表示部92と、を主要な構成として備える。オペレータは、操作部91を操作することにより、所定の設定値を入力したり適宜の制御方法を選択したりすることができる。これにより、各ワインダユニット10に対する設定を行うことができる。表示部92は、各ワインダユニット10の糸20の巻取状況、及び、発生したトラブルの内容等を表示することができる。
【0036】
次に、ワインダユニット10の詳細な構成について図2及び図3を参照して説明する。図2は、ワインダユニット10の正面図及びブロック図である。図3は、トラバース装置27の模式的な側面図である。
【0037】
図2に示すように、各ワインダユニット10は、巻取ユニット本体11と、ユニット制御部50と、を備える。
【0038】
ユニット制御部50は、例えば、CPUと、ROMと、を備える。前記ROMには、巻取ユニット本体11の各構成を制御するためのプログラムが記憶される。CPUは、このROMに記憶されたプログラムを実行する。
【0039】
前記巻取ユニット本体11は、給糸ボビン21と巻取ボビン(巻取管、紙管、芯管)22との間の糸走行経路中に、給糸ボビン21側から順に、給糸部16と、糸解舒補助装置12と、テンション付与装置13と、スプライサ装置14と、クリアラ(糸品質測定器)15と、巻取部17と、を配置した構成である。
【0040】
給糸部16は、巻取ユニット本体11の下部に配置されている。給糸部16は、図略のボビン搬送システムやマガジン式ボビン供給装置によって供給された給糸ボビン21を所定の位置に保持できるように構成されている。
【0041】
糸解舒補助装置12は、給糸ボビン21から解舒される糸20が振り回されて給糸ボビン21上部に形成されるバルーンに対して規制部材40を接触させ、当該バルーンを適切な大きさに制御することによって糸20の解舒を補助する。規制部材40の近傍には前記給糸ボビン21のチェース部を検出する図略のセンサが備えられている。このセンサがチェース部の下降を検出すると、それに追従して前記規制部材40が例えばエアシリンダ(図略)によって下降される。
【0042】
テンション付与装置13は、走行する糸20に所定のテンションを付与する。テンション付与装置13としては、例えば、固定の櫛歯36に対して可動の櫛歯37を配置するゲート式のものを用いることができる。可動側の櫛歯37は、固定の櫛歯36と噛み合わせ状態又は解放状態になるように、例えばロータリ式に構成されたソレノイド38により回動される。テンション付与装置13によって、巻き取られる糸20に一定のテンションを付与し、パッケージ30の品質を高めることができる。なお、テンション付与装置13には、上記ゲート式のもの以外にも、例えばディスク式のものを採用することができる。
【0043】
スプライサ装置14は、クリアラ15が糸欠点を検出してカッタ39で糸20を切断する糸切断時、又は給糸ボビン21からの解舒中の糸切れ時等に、給糸ボビン21側の下糸と、パッケージ30側の上糸とを糸継ぎする。このような上糸と下糸とを糸継ぎする糸継装置としては、機械式のものや、圧縮空気等の流体を用いるもの等を使用することができる。
【0044】
クリアラ15は、糸20の太さを検出するための図略のセンサが配置されたクリアラヘッド49と、このセンサからの糸太さ信号を処理するアナライザ53と、を備えている。クリアラ15は、前記センサからの糸太さ信号を監視することにより、スラブ等の糸欠陥を検出する。前記クリアラヘッド49の近傍には、前記クリアラ15が糸欠点を検出したときに直ちに糸20を切断するためのカッタ39が設けられている。なお、アナライザ53は、ユニット制御部50に設けるようにしても良い。なお、クリアラ15は、糸20に含まれる異物の有無を糸欠陥として検出するように構成されていても良い。
【0045】
前記スプライサ装置14の下側及び上側には、給糸ボビン21側の下糸を捕捉してスプライサ装置14に案内する下糸案内パイプ25と、パッケージ30側の上糸を捕捉してスプライサ装置14に案内する上糸案内パイプ26と、が設けられる。また、下糸案内パイプ25と上糸案内パイプ26は、それぞれ軸33,35を中心にして回動可能に構成されている。下糸案内パイプ25の先端には吸引口32が形成され、上糸案内パイプ26の先端にはサクションマウス34が備えられている。下糸案内パイプ25及び上糸案内パイプ26には適宜の負圧源がそれぞれ接続されているので、前記吸引口32及びサクションマウス34に吸引流を発生させて、上糸及び下糸の糸端を吸引して捕捉することができる。
【0046】
巻取部17は、クレードル23と、トラバース装置27と、接触ローラ29と、を主要な構成として備える。
【0047】
クレードル23は、巻取ボビン22を着脱可能に保持する。クレードル23は、ワインダユニット10の正面側及び背面側に回動可能に構成されており、巻取ボビン22への糸20の巻取りに伴うパッケージ30の糸層径の増大を、クレードル23が回動することによって吸収できるように構成されている。即ち、糸20が巻き取られることによりパッケージ30の糸層径が変化しても、当該パッケージ30の表面を接触ローラ29に対して適切に接触させることができるようになっている。また、クレードル23及びトラバース装置27は、コーン形状の巻取ボビン22に糸20を巻き付けることにより、図2に示すようにコーン形状のパッケージ30を形成可能に構成されている。
【0048】
クレードル23には、サーボモータで構成されたパッケージ駆動モータ(巻取管駆動部)41が取り付けられている。巻取部17は、このパッケージ駆動モータ41によって巻取ボビン22を回転駆動することにより、当該巻取ボビン22の表面(又はパッケージ30の表面)に糸20を巻き取る。パッケージ駆動モータ41のモータ軸は、巻取ボビン22をクレードル23に支持させたときに、当該巻取ボビン22と相対回転不能に連結されるようになっている(いわゆるダイレクトドライブ方式)。パッケージ駆動モータ41の動作はユニット制御部50により制御されている。なお、ユニット制御部50とは独立したパッケージ駆動モータ制御部を設け、パッケージ駆動モータ制御部によってパッケージ駆動モータ41の動作を制御するようにしても良い。
【0049】
接触ローラ29は、巻取ボビン22の周面又はパッケージ30の周面に接触するように配置されている。接触ローラ29は、巻取ボビン22又はパッケージ30が回転することにより、従動回転する構成である。
【0050】
トラバース装置27は、アーム式のトラバース装置であり、糸20をパッケージ30の表面にトラバースする。巻取部17は、トラバース装置27によって糸20をトラバースしながらパッケージ30に糸20を巻き取ることが可能に構成されている。
【0051】
図3に示すように、トラバース装置27は、トラバースガイド28と、トラバースガイド駆動モータ(トラバースガイド駆動部)45と、ガイドプレート52と、を主要な構成として備えている。
【0052】
トラバースガイド28は、支軸のまわりに旋回可能に構成した細長状の部材である。トラバースガイド28の第1の端部(糸20に近い側、先端側)には、糸20を引っ掛けることができるように糸掛け溝70a(後述の図5(a)等を参照)が形成されている。一方、トラバースガイド28の第2の端部(基端側)は、ボス部46によって補強されるとともに、トラバースガイド駆動モータ45の駆動軸45aに固定されている。
【0053】
トラバースガイド駆動モータ45は、トラバースガイド28を駆動するためのものであって、例えばサーボモータにより構成されている。なお、トラバースガイド駆動モータ45は、ブラシレスDCモータ、ステッピングモータ、ボイスコイルモータ等、その他の適宜のモータにより構成されていても良い。なお、トラバースガイド28の詳細な形状及び構成については後述する。
【0054】
トラバース装置27は、トラバースガイド28の第1の端部(上記糸掛け溝70a)に糸20を引っ掛けた状態で、トラバースガイド駆動モータ45を駆動してトラバースガイド28を往復動させる。これにより、トラバース装置27は、トラバースガイド28の第1の端部をパッケージ30の巻き幅方向に往復動させて、糸20をパッケージ表面にトラバースする。これにより、ワインダユニット10は、糸20を所定の巻き幅に所定の速度で綾振りしながら巻取ボビン22に巻き取り、当該巻取ボビン22の外周面に形成される糸層を所望の密度で形成させていくことができる。
【0055】
トラバースガイド駆動モータ45の作動は、ユニット制御部50により制御される。ただし、トラバースガイド駆動モータ45は、ユニット制御部50により制御することに代えて、専用のトラバース制御部を設けて制御しても良い。また、トラバースガイド28よりも上流側には、ガイドプレート52が配置されている。ガイドプレート52は、当該ガイドプレート52よりも上流側の糸20の糸道を接触ローラ29側に屈曲させることで、当該糸20をトラバースガイド28によって捕捉することができるように案内する。
【0056】
また、図3に示すように、前記トラバースガイド駆動モータ45の駆動軸45aは、トラバースストロークの一端側と他端側とを結ぶ直線の方向(接触ローラ29の軸方向)で見たときに、ガイドプレート52よりも下流側の糸20の糸道に対して平行に近い角度となるように配置されている。つまり、本実施形態では、トラバース装置27は、ワインダユニット10の設置面に対して略水平面内でトラバースガイド28を往復動させる構成である。
【0057】
次に、トラバースガイド28の形状及び構成について図4から図6までを参照して詳細に説明する。図4は、アーム本体60及び糸ガイド片70の構成を示す斜視図である。図5は、アーム本体60と糸ガイド片70を厚み方向で見た図である。図6は、アーム本体60と糸ガイド片70の取付方法について説明する斜視図である。
【0058】
図4に示すように、トラバースガイド28は、アーム本体60と、糸ガイド片(糸ガイド部)70と、を備えている。また、アーム本体60は、細長状の板材であり、マグネシウム合金やアルミニウム合金等の軽量金属、又は高強度の樹脂を素材としている。アーム本体60は、図4に示すように、アーム部61と、屈曲部62と、フック部(枠体)63と、から構成されている。
【0059】
アーム部61は、アーム本体60の大部分を占めている。アーム部61には、中央部に複数の孔が形成されているとともに、前記第2の端部に、軸孔61aと、キー溝61bと、固定孔61cと、が形成されている。なお、アーム部61に形成されている孔は1つであっても良く、省略しても良い。
【0060】
軸孔61aは、丸孔状に形成されており、トラバースガイド駆動モータ45の駆動軸45aが挿入される。キー溝61bは、断面輪郭が矩形状の溝として形成されており、前記駆動軸45aとキー結合するための溝である。固定孔61cは、軸孔61aを囲むように3つ形成されており、前記ボス部46を固定するための孔である。つまり、前記ボス部46には、固定孔61cの位置と対応するようにネジ孔が形成されており、このネジ孔と、固定孔61cとを合わせてボルト等で締め付けることにより、トラバースガイド28にボス部46を固定できる。なお、固定孔61cの数は、特に限定しない。
【0061】
屈曲部62は、アーム部61とフック部63との間に形成されている。屈曲部62は、図3に示すように、フック部63を接触ローラ29に近づける方向に屈曲している。この構成により、フリーレングス(トラバースガイド28から接触ローラ29に接触するまでの糸20の長さ)を短くすることができるので、糸20の挙動を安定させることができる。そのため、ワインダユニット10は、高品質のパッケージ30を形成することができる。
【0062】
フック部63は、アーム本体60の第1の端部を構成する部分であり、枠状かつフック状に構成される。フック部63には、図6等に示すように、取付溝63aと、ガイド面63bと、位置決め部63cと、が形成されている。
【0063】
取付溝63aは、アーム本体60の厚み方向で見たときに(図5(a)を参照)、アーム本体60の長手方向に細長くなるように形成されている。また、取付溝63aは、長孔の一側(アーム本体60の第2の端部の方向)の端部を開放するように形成されている。図5(a)等に示すように、取付溝63aの内側には、糸ガイド片70が取り付けられる。つまり、フック部63は、糸ガイド片70を囲むようにして保持する。
【0064】
ガイド面63bは、フック部63の外側から内側(取付溝63aの開放部)へ斜めに向かうように形成された面である。ガイド面63bは、トラバースガイド28による糸20の捕捉時において、糸20を糸掛け溝70aに案内する。
【0065】
位置決め部63cは、アーム本体60に糸ガイド片70を取り付ける際の位置決めに用いられる。位置決め部63cは、図6に示すように、取付溝63aを構成する壁面に形成された段状の部分である。
【0066】
糸ガイド片70は、フック部63の溝壁(取付溝63aの内側)に取り付けられている。糸ガイド片70は、セラミックスを素材として構成されている。糸ガイド片70には、図6等に示すように、糸掛け溝70aと、ガイド面70bと、段状部70cと、が形成されている。
【0067】
糸掛け溝70aは、前記取付溝63aと同等の形状である。従って、この糸掛け溝70aは、長孔の一側(アーム本体60の第2の端部の方向)の端部を開放するように形成された溝と表現することができる。また、糸掛け溝70aは、当該糸掛け溝70aの長手方向とアーム本体60の長手方向が一致するように形成されている。トラバースガイド28による糸20の捕捉後は、糸20は糸掛け溝70aの内部に位置している。そして、トラバースガイド28の往復動に伴って糸掛け溝70aを構成する壁面が糸20を押すことで、糸20はパッケージ30に対してトラバースされる。なお、本実施形態の糸掛け溝70aは、アーム本体60の第1の端部の方向が閉鎖されており第2の端部の方向が開放されているため、第1の端部の方向に向く力が糸20に作用したとしても、糸20が糸掛け溝70aから外れてしまうことがない。
【0068】
ガイド面70bは、アーム本体60が有する前記ガイド面63bと直線状に連続するように形成された面である。トラバースガイド28による糸20の捕捉時において、糸20は、ガイド面63bとガイド面70bとを経由して、糸掛け溝70aまで案内される。なお、ガイド面70bが形成されることにより、糸20を糸掛け溝70aの近傍まで案内できるので、トラバースガイド28は糸20を確実に捕捉することができる。
【0069】
段状部70cは、アーム本体60に糸ガイド片70を取り付ける際の位置決めに用いられる。段状部70cは、図6に示すように、糸ガイド片70の外周面に形成された段状の部分である。段状部70cは、前記位置決め部63cと対応する形状に構成されており、段状部70c及び位置決め部63cを合わせることで、糸ガイド片70の位置決めを行うことができる。
【0070】
このように、糸ガイド片70は、その外周面のほぼ全体がアーム本体60のフック部63によって覆われるように配置されている。このため、アーム本体60は、糸ガイド片70を確実に保持することができる。
【0071】
次に、糸ガイド片70をアーム本体60に取り付ける工程について、図5及び図6を参照して説明する。
【0072】
本実施形態において、糸ガイド片70は、接着剤によってアーム本体60に取り付けられる。具体的には、作業者は、取付溝63aを構成する壁面及び糸ガイド片70の外周面のうち少なくとも一方に、接着剤を塗布する。このとき、作業者は、接着時にアーム本体60と糸ガイド片70との境界から接着剤が少しはみ出す程度となるように、接着剤の塗布量を調整する。
【0073】
次に、作業者は、アーム本体60の厚み方向の一側から糸ガイド片70を取付溝63aに挿入する(図6を参照)。これにより、位置決め部63cと段状部70cとが接触する箇所で糸ガイド片70が位置決めされるとともに、アーム本体60と糸ガイド片70を接着することができる。
【0074】
なお、アーム本体60と糸ガイド片70との境界には、段差が生じることがある。このような段差は、場所によっては、糸20が引っ掛かってしまって糸切れの原因となることがある。糸切れの原因となる段差としては、例えば、ガイド面63bとガイド面70bとの境界に生じる段差(図5(a)の符号Aを参照)や、糸ガイド片70の基端部とアーム本体60との境界に生じる段差(図5(a)の符号Bを参照)を挙げることができる。
【0075】
この点、本実施形態では、上述のように、アーム本体60と糸ガイド片70との境界から接着剤が少しはみ出す程度に接着剤を塗布している。そのため、段差の部分に接着剤を意図的にはみ出させることで、段差を滑らかにし、あるいは段差を覆う緩やかな凸状部を形成することができる(図5(b)を参照)。なお、図5(b)では、符号A,Bで示した段差の近傍のみ接着剤がはみ出している構成であるが、それ以外の境界を覆うように接着剤を塗布しても良い。
【0076】
以上に説明したように、本実施形態のトラバースガイド28は、アーム本体60と、糸ガイド片70と、を備える。アーム本体60は、第1の端部に位置し、第2の端部の方向に開放される取付溝63aが形成されたフック部63を有する。糸ガイド片70は、セラミックス製であり、フック部63の溝壁に配置されている。また、糸ガイド片70には、アーム本体60の第2の端部の方向に開放される糸掛け溝70aが形成されている。
【0077】
これにより、糸20が接触する部分がセラミックス製なので、耐摩耗性に優れた構成のトラバースガイド28が実現できる。また、糸ガイド片70を覆うようにフック部63が配置されているので、糸ガイド片70を確実に保持して耐久性を向上させることができる。
【0078】
また、本実施形態のトラバースガイド28は、アーム本体60と糸ガイド片70とが接着剤によって接着されている。
【0079】
これにより、糸ガイド片70をアーム本体60に固定するための固定孔等を形成する必要が無いので、部品の製作コストを抑えることができる。
【0080】
また、本実施形態のトラバースガイド28は、取付溝63aと糸ガイド片70との境界を接着剤で覆うように、アーム本体60と糸ガイド片70とが接着されている。
【0081】
これにより、取付溝63aと糸ガイド片70との境界に段差が生じている場合であっても、トラバースガイド28による糸20の捕捉時等に、当該糸20が段差に引っ掛かることを防止できる。従って、糸切れ等の発生を防止することができる。
【0082】
また、本実施形態のトラバースガイド28において、アーム本体60には、アーム本体60に対して糸ガイド片70を位置決めする位置決め部63cが形成されている。
【0083】
これにより、糸ガイド片70の位置精度を向上させることができるので、取付溝63aと糸ガイド片70との境界に生じる段差を小さくすることができる。
【0084】
また、本実施形態のトラバースガイド28においては、アーム本体60の厚み方向の一側から、糸ガイド片70が取付溝63aに挿入されるように形成されている。
【0085】
これにより、糸ガイド片70を簡単に位置決めすることができるので、作業者は、取付作業を素早く行うことができる。
【0086】
また、本実施形態のトラバースガイド28において、糸掛け溝70aは、基端側が開放した長孔状に形成されている。また、長孔の長手方向とアーム本体60の長手方向とが一致している。
【0087】
これにより、糸掛け溝70aの長さを比較的長くすることができるので、トラバース中に糸掛け溝70aから糸20が外れにくい構成を実現できる。
【0088】
また、本実施形態のトラバースガイド28は、アーム本体60及び糸ガイド片70のそれぞれには、接触した糸20を糸掛け溝70aまでガイドするガイド面63b,70bが形成されている。
【0089】
これにより、アーム本体60及び糸ガイド片70の両方にガイド面が形成されているため、トラバースガイド28による糸20の捕捉時において、糸20を糸掛け溝70aの近傍まで案内することができる。従って、トラバースガイド28は、糸20を確実に捕捉することができる。
【0090】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0091】
アーム本体60の素材は、上記実施形態で説明したように軽量金属又は樹脂が好ましいが、特許文献1に開示されている素材等、他の素材であっても良い。アーム本体60の他の素材としては、例えば、炭素繊維複合材料、具体的には、炭素繊維、ホウ素繊維、及びアラミド繊維等からなる繊維強化プラスチックが考えられる。
【0092】
アーム本体60の第1の端部は、枠状であって取付溝が形成されていれば、フック状に構成されていなくても良い。
【0093】
糸ガイド片70は、上記実施形態で説明した形状に限られない。例えば、ガイド面70bを有しない構成とすることができる。
【0094】
上記実施形態では、位置決め部63c及び段状部70cは、段状に形成されているが、段状以外の構成にすることもできる。例えば、取付溝63aから内側に突出する凸部を形成し、当該凸部に対応する形状の凹部を糸ガイド片70の外周面に形成する構成であっても良い。
【0095】
アーム本体60に対する糸ガイド片70の取付方法は、接着剤に限定されず、例えばボルト等を用いる構成であっても良い。
【0096】
上記実施形態では、一般的なコーン巻パッケージを例に挙げて説明したが、例えば端面がテーパ形状のパッケージやチーズ形状のパッケージに対しても本発明を適用することができる。
【0097】
トラバース装置27は、上記のように、ワインダユニット10の設置面に対して略水平面内でトラバースガイド28を往復駆動する構成に限られない。例えば、特許文献1(特開2010−137944)のように、ワインダユニットの設置面に対してトラバースアームの長手方向が略垂直である構成(従来の構成)であっても良い。
【0098】
パッケージ駆動モータ41は、サーボモータに限られず、例えば、ステップモータ、インダクションモータ等、各種モータを用いることができる。また、接触ローラ29を適宜の駆動装置によって駆動し、パッケージ30を従動回転させる構成にしても良い。
【0099】
本発明は、自動ワインダに限らず、巻返し機及び精紡機(例えば空気紡績機、オープンエンド紡績機)等の他の糸巻取機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0100】
1 自動ワインダ(糸巻取機)
10 ワインダユニット(巻取ユニット)
27 トラバース装置
28 トラバースガイド
45 トラバースガイド駆動モータ(トラバースガイド駆動部)
60 アーム本体
61 アーム部
62 屈曲部
63 フック部(枠体)
63a 取付溝
63b ガイド面
63c 位置決め部
70 糸ガイド片(糸ガイド部)
70a 糸掛け溝
70b ガイド面
70c 段状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向一側である第1の端部に位置し、前記長手方向において前記第1の端部とは反対側である第2の端部の方向に開放される取付溝が形成された枠体を有するアーム本体と、
前記枠体の溝壁に配置されており、前記第2の端部の方向に開放される糸掛け溝が形成されたセラミックス製の糸ガイド部と、
を備えることを特徴とするトラバースガイド。
【請求項2】
請求項1に記載のトラバースガイドであって、
前記アーム本体と前記糸ガイド部とが接着剤によって接着されていることを特徴とするトラバースガイド。
【請求項3】
請求項2に記載のトラバースガイドであって、
前記取付溝と前記糸ガイド部との境界を接着剤で覆うように、前記アーム本体と前記糸ガイド部とが接着されていることを特徴とするトラバースガイド。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載のトラバースガイドであって、
前記アーム本体には、前記アーム本体に対して前記糸ガイド部を位置決めする位置決め部が形成されていることを特徴とするトラバースガイド。
【請求項5】
請求項4に記載のトラバースガイドであって、
前記位置決め部は、前記アーム本体の厚み方向の一側から、前記糸ガイド部が前記取付溝に挿入されるように形成されていることを特徴とするトラバースガイド。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載のトラバースガイドであって、
前記糸掛け溝は、一端が開放した長孔状に形成されており、
前記長孔の長手方向と前記アーム本体の長手方向とが一致することを特徴とするトラバースガイド。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載のトラバースガイドであって、
前記アーム本体の素材は、マグネシウム合金、アルミニウム合金、又は樹脂であることを特徴とするトラバースガイド。
【請求項8】
請求項1から7までの何れか一項に記載のトラバースガイドであって、
前記アーム本体及び前記糸ガイド部のそれぞれには、接触した糸を前記糸掛け溝までガイドするガイド面が形成されていることを特徴とするトラバースガイド。
【請求項9】
前記糸掛け溝に糸を掛けて、当該糸をトラバースする、請求項1から8までの何れか一項に記載のトラバースガイドと、
前記トラバースガイドを駆動するトラバースガイド駆動部と、
前記トラバースガイドにより前記糸がトラバースされることで形成されるパッケージを保持するクレードルと、
を備えることを特徴とする巻取ユニット。
【請求項10】
請求項9に記載の巻取ユニットを複数備えることを特徴とする糸巻取機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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