説明

トランス及びそれを用いたコントロールセンタ

【課題】 鍔により巻線部が多段に形成されたボビンの第2の鍔部での巻線巻始部の引出し線の絶縁処理を簡単に行うことで、生産性が良く不良の発生も起こりにくいトランスを得る。
【解決手段】 第1の巻線を巻回する第1のボビンと、第2の巻線を巻回する第2のボビンと、第1のボビンの端部に設けられた第1の鍔部と、第2のボビンの端部に設けられ、第1の鍔部の下面と上面が当接可能な第2の鍔部とを備え、第2の鍔部は、第2の巻線を第2の鍔部の下面から側面に引き出す引出し通路を有した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鍔により巻線部が多段に形成されたボビンに導線が巻回されてコイルが構成されたトランスに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のトランスは、隔壁7を有しボビン2が複数段に区画形成されている(例えば、特許文献1参照)。このように形成されたトランスでは、巻線の巻き初めと巻終わりでは電圧差が有るので、巻き初めの引出し線が巻き終わりの引出し線と接触しないように絶縁処理をする必要があり、上フランジ部や下フランジ部では、フランジの上面と下面を連通するコイル引出し用の溝16を設けて、引出し線を巻線の無い面に引出すことが行われていた(例えば、特許文献2参照)。しかし、中段の隔壁部では上側及び下側ともに巻線があるために、この方法が使用できず、巻き初めの引出し線を絶縁チューブ8に挿入して絶縁処理を行っていた(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−289826号公報 (段落0009、図1、図3)
【特許文献2】特開平9−129457号公報 (段落0007、図1、図4)
【特許文献3】特開平10−4018号公報 (段落0014、図1、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来のトランスでは、第2の鍔部すなわち中段の隔壁部では巻き初めの引出し線を絶縁チューブに挿入して絶縁処理を行っていた。このため、生産に手間がかかり生産性が悪いという問題が有った。
また、絶縁チューブの挿入による絶縁処理は、巻線後には巻線に隠れてしまい絶縁チューブが引出し線に確実に挿入されているか確認することが出来ず、絶縁不良が発生するという問題も有った。
【0005】
この発明は上記のような問題を解決するためになされたもので、第2の鍔部での巻線巻始部の引出し線の絶縁処理を簡単に行うことで、生産性が良く不良の発生も起こりにくいトランスを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係わるトランスは、第1の巻線を巻回する第1のボビンと、第2の巻線を巻回する第2のボビンと、第1のボビンの端部に設けられた第1の鍔部と、第2のボビンの端部に設けられ、第1の鍔部の下面と上面が当接可能な第2の鍔部とを備え、第2の鍔部は、第2の巻線を第2の鍔部の下面から側面に引き出す引出し通路を有したものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、第1の巻線を巻回する第1のボビンと、第2の巻線を巻回する第2のボビンと、第1のボビンの端部に設けられた第1のボビンの下鍔と、第2のボビンの端部に設けられ、第1のボビンの下鍔の下面と上面が当接可能な第2のボビンの上鍔とを備え、第2のボビンの上鍔は、第2の巻線を第2のボビンの上鍔の下面から側面に引出す引出し通路を有したことで、巻始部の引出し線の絶縁処理が簡単に行え、生産性が良く不良の発生も起こりにくいトランスを得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は本発明を実施するための実施の形態1におけるトランスを示す正面図、図2は図1のトランスから鉄心を外し、第1のボビンと第2のボビンに分離した状態を示す正面図、図3は図2のトランスを構成する第2のボビンの一部を示す部分上面図、図4は図2のトランスのスリット及び溝部を拡大した拡大正面図、図5は図3のトランスのスリット及び溝部を拡大した拡大上面図、図6は図1のトランスから鉄心及び一次,二次,三次の巻線を外し、第1のボビンと第2のボビンに分離した状態を示す正面図、図7はトランスの結線を示す結線図である。なお、図中同一符号は、同一または相当部分を示している。
【0009】
図1においてトランス1は、一次巻線8すなわち第1の巻線が巻回された第1のボビン2と二次巻線9及び三次巻線17すなわち第2の巻線を巻回した第2のボビン3及び鉄心14からなっている。
また、図2に示すように第1のボビン2は上端部に上鍔4と下端部に下鍔5すなわち第1の鍔部を有し、第1のボビン2の巻芯15に一次巻線8が巻回されている。また、第1のボビン2の上鍔4の一側面に端子131〜133が設けられている。
第2のボビン3は上端部に、第1のボビン2の下鍔5に当接可能な上鍔6すなわち第2の鍔部と下端部に下鍔7を有し、第2のボビン3の巻芯16に二次巻線9及び三次巻線17が巻回されている。第2のボビン3の上鍔6の一側面に、端子134〜136,140,141が設けられている。また、第2のボビン3の下鍔7の一側面には、端子137〜139,142が設けられている。
図2及び図3に示すように、第2のボビン3の上鍔6は端子134〜136,140,141が設けられた側面に、第2のボビン3の上鍔6の上面から下面に連通したスリット11が第2のボビン3の巻芯16の外周面まで切り込んで設けられている。また、上面には端子134〜136,140,141が設けられた側面から第2のボビン3の巻芯16の外周面でスリット11に連通するように溝12が設けられている。このスリット11と溝12を、二次巻線9及び三次巻線17を第2のボビン3の上鍔6の下面から側面に引き出す一組の引出し通路として、第2のボビン3の上鍔6にはスリット11及び溝12が4組設けられている。更に、このスリット11及び溝12は、第1のボビン2の上鍔4には3組が、第2のボビン3の下鍔7には4組が設けられている。
また、鉄心14は薄板をE型に打ち抜いたE型鉄心14bを下側から第2のボビン3に挿入して積層し、薄板をI型に打ち抜いたI型鉄心14aを第1のボビン2の上部に積層している。このI型鉄心14aをE型鉄心14bの各磁脚に当接させ、その当接部を溶接することで一体化し閉磁路を形成するとともに、第1のボビン2の下鍔5と第2のボビン6の上鍔6を当接させた状態で第1のボビン2と第2のボビン3を一体のボビンとしている。
トランス1の一次巻線8,二次巻線9及び三次巻線17は図7に示すように結線されており、一次巻線8は端子131〜133に絡げて図2に示すように、第1のボビン2の上鍔4に導出されている。また、二次巻線9は端子134〜139に絡げて第2のボビン3の上鍔6と第2のボビン3の下鍔7に導出されている。更に、三次巻線17は端子140〜142に絡げて第2のボビン3の上鍔6と第2のボビン3の下鍔7に導出されている。
【0010】
次に、以上のように構成されたトランス1において、一次巻線8,二次巻線9及び三次巻線17をそれぞれ第1のボビン2と第2のボビン3に巻回する方法について図2ないし図6を用いて説明する。
まず、二次巻線9を第2のボビン3に巻回をする方法を説明するが、二次巻線9は2つの巻線から構成されているので1つずつ説明する。1つ目の巻線は巻始部の引出し線10を端子134と端子135に順に絡げる。次に、図4及び図5に示すように引出し線10を溝12に通し第2のボビン3の上鍔6の側面から溝12とスリット11の連通部まで誘導する。その後、引出し線10をスリット11に通し、第2のボビン3の上鍔6の下面へ引き出す。次に、引出し線10を第2のボビン3の巻芯16に巻回していく。最後に巻終部の引出し線10をスリット11と溝12を通し、第2のボビン3の上鍔6の下面から側面に引き出し、端子136に絡げて二次巻線9の1つめの巻線の巻回が完了する。
次に、二次巻線9の2つめの巻線は巻始部の引出し線10を端子137に絡げる。次に、引出し線10を溝12に通し第2のボビン3の下鍔7の側面から溝12とスリット11の連通部まで誘導する。その後、引出し線10をスリット11に通し、第2のボビン3の下鍔7の上面へ引き出す。次に、引出し線10を第2のボビン3の巻芯16に巻回していく。最後に巻終部の引出し線10をスリット11と溝12に順に通し、第2のボビン3の下鍔7の上面から側面に引き出し、端子138と端子139に順に絡げて二次巻線9の2つめの巻線の巻回が完了する。以上により二次巻線9の巻回が完了する。
次に、三次巻線17を第2のボビン3に巻回するには、まず、巻始部の引出し線10を端子140に絡げ、溝12とスリット11を通して、第2のボビン3の上鍔6の側面から下面へ引き出す。次に、引出し線10を第2のボビン3の巻芯16に巻回していく。中間タップ部では、巻線の引出し線10をスリット11に通し、第2のボビン3の上鍔4の下面から上面へ引き出す。その後、引出し線10を溝12に通し、第2のボビン3の上鍔4の側面に引き出し端子141に絡げる。その後引出し線10を溝12とスリット11を通して、第2のボビン3の上鍔6の側面から下面に引き出し、第2のボビン3の巻芯16に巻回していく。最後に巻終部の引出し線10を溝12とスリット11を通し、第2のボビン3の下鍔7の側面から下面へ引き出し、端子142に絡げて三次巻線17の巻回が完了する。
最後に、一次巻線8を第1のボビン2に巻回するには、巻始部,中間タップ,巻終部での引出し線10の処理は三次巻線17の巻回と同様で、端子131を巻始部として、端子132で中間タップを出し、端子133を巻終部として巻回する。以上により一次,二次,三次の巻線が巻回される。
【0011】
実施の形態1によれば、第1のボビン2の下鍔5の下面と上面が当接可能な第2のボビン3の上鍔6とを備え、第2のボビン3の上鍔6は、第2のボビン3の上鍔6の上面と下面を連通したスリット11と、第2のボビン3の上鍔6の上面に設けられ、前記スリット11に連なる溝12を有している。これにより、第2のボビン3の上鍔6での巻始部の引出し線10の絶縁処理がスリット11と溝12を通すという簡単な作業で行え生産性が良いトランス1を得ることが出来る。更に、第1のボビン2と第2のボビン3を当接させる前であれば、第2のボビン3の上面を見て、引出し線10がスリット11と溝12を通っていることを確認するだけで絶縁処理がなされていることが確認できる。これにより、不良の発生も起こりにくいトランス1を得ることが出来る。
更に、スリット11と溝12は第2のボビン3の上鍔6の縁から、第2のボビン3に設けられた筒状の第2のボビン3の巻芯16の外周面まで形成されている。これにより、引出し線10を第2のボビン3の巻芯16に巻回している巻線に接触することなくスリット11と溝12を通って端子134〜141に絡げることが可能となる。このため、引出し線10と巻線の絶縁が確実に行える。
また、スリット11は第2のボビン3の巻芯16の外周面まで切り込んで設けられており、溝12は溝なので引出し線10を通す作業が簡単に行える。
また、第1のボビン2の下鍔5の下面と第2のボビン3の上鍔6の上面が当接可能としている。これにより、引出し線10を通した後に、第1のボビン2の下鍔5の下面と第2のボビン3の上鍔6の上面を当接させることで、引出し線10が第1のボビン2の下鍔5の下面と第2のボビン3の上鍔6の上面でカバーされて、巻線に触れる恐れが無くなる。
また、二次巻線9を2つの巻線で構成しているので、端子136と端子137を短絡するのと端子135と端子137間を短絡し端子136と138間を短絡するのとで二次側での出力電圧を2種類得ることが可能となる。
【0012】
なお、実施の形態1では引出し線10を引出す引出し通路として第2のボビン3の上鍔6に設けたスリット11と溝12で構成したが、第2のボビン3の上鍔6の下面と側面を連通したトンネル状の通路を設けて、そこに引出し線10を通しても良い。
【0013】
実施の形態2.
図8は本発明の実施の形態2に係る機能ユニットの斜視図、図9は本発明の実施の形態2に係る機能ユニットの底面図、図10は本発明の実施の形態2に係るコントロールセンタの斜視図である。
図8、図9に示すように機能ユニット21は電動機回路の開閉制御、保護を行うために、前面に配線用遮断器操作ハンドル22、状態表示や電動機制御等を行う操作表示装置23が配設されている。内部には図示しない配線用遮断器,電磁接触器などの主回路機器、トランス1や図示しない電流センサや継電器などの制御回路機器を収容している。このトランス1に実施の形態1において説明したトランス1を用いる。機能ユニット21は図10に示すようにコントロールセンタ25の内部を多段に仕切り、段毎に前面扉3aの付いた金属製の箱体3に引出可能に複数収納されている。
【0014】
実施の形態2によれば、機能ユニット21に絶縁不良が起こりにくく生産性の良いトランスを用いたので、機能ユニット21も絶縁不良が起こりにくく生産性も良くなり、絶縁不良が起こりにくく生産性の良いコントロールセンタを得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態1によるトランスの正面図である。
【図2】実施の形態1によるトランスの鉄心を外し第1のボビンと第2のボビンを分離した状態を示す正面図である。
【図3】実施の形態1によるトランスを構成する下側胴体の一部を示す部分上面図である。
【図4】実施の形態1によるトランスを構成するスリット及び溝部を示す部分拡大正面図である。
【図5】図3のトランスのスリット及び溝部を拡大した拡大上面図である。
【図6】実施の形態1によるトランスの鉄心及び一次,二次の巻線を外した状態を示す正面図である。
【図7】実施の形態1によるトランスの結線を示す結線図である。
【図8】実施の形態2による機能ユニットの斜視図である。
【図9】実施の形態2による機能ユニットの底面図である。
【図10】実施の形態2によるコントロールセンタの斜視図である。
【符号の説明】
【0016】
1 トランス
2 第1のボビン
3 第2のボビン
4,6 上鍔
5,7 下鍔
8 一次巻線
9 二次巻線
10 引出し線
11 スリット
12 溝
130〜142 端子
14 鉄心
14a I型鉄心
14b E型鉄心
15,16 巻芯
17 三次巻線
21 機能ユニット
22 配線用遮断器操作ハンドル
23 表示制御装置
25 コントロールセンタ
26 箱体
26a 前面扉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の巻線を巻回する第1のボビンと、
第2の巻線を巻回する第2のボビンと、
前記第1のボビンの端部に設けられた第1の鍔部と、
前記第2のボビンの端部に設けられ、前記第1の鍔部の下面と上面が当接可能な第2の鍔部とを備え、
前記第2の鍔部は、前記第2の巻線を前記第2の鍔部の下面から側面に引き出す引出し通路を有したことを特徴とするトランス。
【請求項2】
引出し通路は、第2の鍔部の上面と下面を連通したスリットと、第2の鍔部の上面に設けられ、前記スリットに連なる溝とからなることを特徴とする請求項1に記載のトランス。
【請求項3】
スリットは第2の鍔部の縁から、第2のボビンに設けられた筒状の巻芯部の外周面まで形成されたことを特徴とする請求項2に記載のトランス。
【請求項4】
溝は第2の鍔部の縁から巻芯部の外周面まで設けられたことを特徴とする請求項2又は3に記載のトランス。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のトランスを備えた機能ユニットから構成されたことを特徴とするコントロールセンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−182003(P2009−182003A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17384(P2008−17384)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】