説明

トランス

【課題】小型でありながら、巻線間の磁気結合度を大きくしたトランスを得る。
【解決手段】ボビン1とコアと一次巻線A1,A2,A3と二次巻線B1,B2とで構成したトランス。ボビン1の外周部は複数の鍔部31〜38によって複数の巻枠41〜47が形成されている。一次巻線A1は鍔部31,32間の巻枠41に巻回され、一次巻線A2は鍔部34,35間の巻枠44に巻回され、一次巻線A3は鍔部37,38間の巻枠47に巻回されている。また、二次巻線B1は鍔部32,33間の巻枠42及び鍔部33,34間の巻枠43に巻回され、二次巻線B2は鍔部35,36間の巻枠45及び鍔部36,37間の巻枠46に巻回されている。各巻線の端部を絡げるためのピン13〜24はボビン1の両端に位置する鍔部31,38に植設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス、特に、コアを備えたボビンに一次巻線及び二次巻線を軸方向に隣接して巻回したトランスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧トランスとして、一次巻線と二次巻線を分割して巻回するものは、特許文献1に記載されているように、ボビンの外周部を複数の鍔部によって複数の巻枠に分割し、これらの巻枠に巻回した巻線を鍔部ごとに植設したピンに絡げるようにしていた。鍔部ごとにピンを植設することは、機械巻きの場合にどのような巻き順にも対応でき、かつ、巻線間の接続態様をトランスを実装する配線基板上でのパターンの引き回しによって自由に設計できることになる。
【0003】
しかしながら、各鍔部ごとにピンを植設しているため、ピン植設寸法及び強度が必要となるために、鍔部の幅寸法がどうしても大きくなり、巻線ごとの結合度が小さくなり、リーケージインダクタンスが大きくなるという問題点を有していた。結合度を高くするためには巻数を少なくする方法もあるが、それではコアの断面積を大きく、即ち、トランスを大型化する必要があり、また、自己インダクタンスも小さくなってしまうため、現実的ではない。
【特許文献1】特開2002−110439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の目的は、小型でありながら、巻線間の磁気結合度を大きくしたトランスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、貫通孔を有する筒状体をなし、複数の鍔部によって複数の巻枠が形成されたボビンと、前記貫通孔に挿入され、閉磁路を形成するコアとからなるトランスであって、
前記複数の巻枠は少なくとも5以上形成されており、
巻枠に巻回された一次巻線の両側の巻枠に二次巻線が巻回されている箇所、又は、巻枠に巻回された二次巻線の両側の巻枠に一次巻線が巻回されている箇所が、少なくとも2箇所存在し、
前記一次巻線及び前記二次巻線を絡げるためのピンが、少なくとも前記ボビンの両端に位置する鍔部に複数本植設されていること、
を特徴とする。
【0006】
本発明に係るトランスにおいては、一次巻線の両側を二次巻線で挟む、あるいは、二次巻線の両側を一次巻線で挟む構造が少なくとも2箇所存在し、一次巻線及び二次巻線をそれぞれ直列あるいは並列に接続することにより、分割された二次巻線あるいは一次巻線は3方向から結合されることとなり、一次巻線と二次巻線の磁気結合度が高められる。さらに、一次巻線及び二次巻線を絡げるためのピンが少なくともボビンの両端に位置する鍔部に集中的に植設することにより、全ての鍔部にピンを植設する必要がなくなり、ピンを植設しない鍔部は幅寸法を小さくできるので、巻線間の磁気結合度がより高くなり、かつ、サイズ的に小型化される。
【0007】
本発明に係るトランスにおいては、ボビンのほぼ中央部の巻枠に巻回された一次巻線又は二次巻線は、ほぼ中央部の巻枠の両側に位置する鍔部のいずれかに植設されたピンに絡げられ、ほぼ中央部の巻枠以外の他の巻枠に巻回された一次巻線又は二次巻線は、ボビンの両端に位置する鍔部に植設されたピンに絡げられていてもよい。一方、一次巻線及び二次巻線の全てがボビンの両端に位置する鍔部に植設されたピンに絡げられていることが好ましい。
【0008】
ところで、この種のトランスでは一次巻線に比べて二次巻線の電圧がかなり高く、二次巻線に対する絶縁性を十分に確保する必要があり、一次巻線と二次巻線を仕切る鍔部は、一次巻線間及び二次巻線間を仕切る鍔部よりもどうしても厚くなる。それゆえ、複数の巻枠のうち最も外側に位置する巻枠には一次巻線が巻回されていることが好ましい。最も外側に位置する巻枠に一次巻線を巻回すると、ボビンの最も外側の鍔部を薄くしてもよく、その分トランスが小型化される。
【0009】
また、複数の鍔部のうち一次巻線と二次巻線の間に位置する鍔部の一つに突起を設け、ピンに絡げた二次巻線を前記突起に引っ掛けて巻枠に巻回することで、二次巻線の巻方向を逆方向にしてもよい。二次巻線を直列に接続する場合、トランスを実装する配線基板上でのパターンの引き回しが簡単になる。また、二次巻線を個別に使用する場合は、各巻線の位相を変えることが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、一次巻線と二次巻線を分割して隣接させ、かつ、隣接間隔を極力小さくすることで両巻線間の磁気結合度を高めることができるとともに小型化を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係るトランスの実施例について添付図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施例において共通する部品、部分は同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
(第1実施例、図1〜図4参照)
第1実施例としてのトランスは、図1及び図2に示すように、ボビン1とコア5と一次巻線A1,A2,A3と二次巻線B1,B2とで構成されている。ボビン1は、貫通孔2を有する筒状体をなし、コア5は貫通孔2に挿入されている。このトランスは貫通孔2が配線基板50の表面(実装面)に対して平行になるように実装される。
【0013】
ボビン1の外周部は複数の鍔部31〜38によって複数の巻枠41〜47が形成されている。一次巻線A1は鍔部31,32間の巻枠41に巻回され、一次巻線A2は鍔部34,35間の巻枠44に巻回され、一次巻線A3は鍔部37,38間の巻枠47に巻回されている。また、二次巻線B1は鍔部32,33間の巻枠42及び鍔部33,34間の巻枠43に巻回され、二次巻線B2は鍔部35,36間の巻枠45及び鍔部36,37間の巻枠46に巻回されている。
【0014】
本第1実施例では、最も外側の鍔部31,38の底面にそれぞれの巻線を絡げるためのピン13〜24が植設されている。ここで、各ピン13〜24と巻線の接続関係を図2〜図4を参照して説明する。
【0015】
機械巻きの順序に従って説明すると、まず、一次巻線A1は、その一端がピン16に絡げられ、巻枠41に巻回された後、他端がピン15に絡げられる。一次巻線A3は、その一端がピン20に絡げられ、巻枠47に巻回された後、他端がピン23に絡げられる。二次巻線B1は、その一端がピン13に絡げられ、鍔部32の端面に設けた突起32aに引っ掛けて巻枠42,43に巻回された後、鍔部33の端面に設けた突起33aに引っ掛けて他端がピン18に絡げられる。二次巻線B2は、その一端がピン19に絡げられ、巻枠46,45に巻回された後、鍔部36の端面に設けた突起36aに引っ掛けて他端がピン24に絡げられる。最後に、一次巻線A2は、その一端がピン21に絡げられ、巻枠44に巻回された後、鍔部35の端面に設けた突起35aに引っ掛けて他端がピン22に絡げられる。
【0016】
一次巻線A1,A2,A3は各ピン15,16、21,22及び20,23を介して、図3(A)に示すように並列に接続されるか、あるいは、図4に示すように直列に接続される。並列に接続される場合は、一次巻線A1,A2,A3は同一巻数でなければならない。また、直列に接続される場合は、一次巻線A1,A2,A3の巻数比はA1+A3=A2の関係を満たすほうが好ましい。また、二次巻線B1,B2は、図3(A)に示すようにピン13,19が接続されてピン24をグランドに接続した場合は、ピン18から二次出力が取り出される。あるいは、図3(B)に示すようにピン13,24をグランドに接続し、ピン18,19から二次出力が取り出される。なお、図3(A)におけるピン24及び図3(B)におけるピン13,24はグランドではなく、所定の基準電位であってもよい。ところで、図3及び図4にて各ピン15,16,20〜23,13,19を接続するライン(太線で示す)は、通常は配線基板50上に形成した導体パターン(図示せず)によって行われるが、トランス上で接続してもよい。
【0017】
なお、ピン14,17間には、二次側の出力電圧を擬似的に検出するための周知の帰還巻線が巻枠41に巻回されている。
【0018】
本第1実施例においては、図2に示されるごとく、二次巻線B1,B2の両側を一次巻線A1,A2及びA2,A3で挟むサンドイッチ構造とすることで、一次巻線A1,A2,A3と二次巻線B1,B2の磁気結合度は極めて高くなる。また、図3(B)に図示するごとく、二次巻線B1,B2を別出力として個別に使用する場合においても、一次巻線A1,A2,A3と二次巻線B1,B2の磁気結合度は高くなる。さらに、一次巻線A1,A2,A3及び二次巻線B1,B2を絡げるためのピン13〜24が全てボビン1の両端に位置する鍔部31,38の台座部31a,38aに植設されているため、他の鍔部32〜37にはピンを植設する必要がなくなり、ピンを植設しない鍔部32〜37は幅寸法を小さくできるので、巻線間の磁気結合度がより高くなる。同時に、トランス自体がサイズ的に小型化される。
【0019】
ところで、この種のトランスでは、一次巻線A1,A2,A3に比べて二次巻線B1,B2の電圧がかなり高く、二次巻線B1,B2に対する絶縁性を十分に確保する必要がある。そのため、鍔部32,34,35,37は他の鍔部31,33,36,38よりも必要に応じて僅かに厚くしている。この場合、第1実施例では、最も外側に位置する巻枠41,47には一次巻線A1,A3が巻回されているため、ボビン1の最も外側の鍔部31,38を薄くしてもよく、その分トランスが小型化される。
【0020】
(第2実施例、図5及び図6参照)
第2実施例としてのトランスは、図5に示すように、基本的には前記第1実施例と同様の構成を備え、異なるのは、二次巻線B1に関して、その一端をピン13に絡げて鍔部32の端面に設けた突起32a,32bに引っ掛けて反対側へ引き回し、巻枠42,43に巻回した後、鍔部33の端面に設けた突起33aに引っ掛けて他端をピン18に絡げた点にある。これにより、二次巻線B1は第1実施例での二次巻線B1とは巻方向が逆方向になる。従って、二次巻線B1,B2を直列に接続するのに、図6(A)に示すようにピン13,24を接続することになるが、トランスを実装する配線基板上での導体パターン51(図5に点線で示す)を最短距離に設定でき、導体パターン51の引き回しが簡単になる。
【0021】
一次巻線A1,A2,A3の各ピン15,16、21,22及び20,23は、図6(A)に示すように並列に接続されるか、あるいは、図4に示したように直列に接続されてもよい。また、二次巻線B1,B2は、図6(A)に示すようにピン13,24が接続されてピン19をグランドに接続した場合は、ピン18から二次出力が取り出される。あるいは、図6(B)に示すように、ピン13,24をグランドに接続し、ピン18,19から二次出力が取り出される。なお、図6(A)におけるピン19及び図6(B)におけるピン13,24はグランドではなく、所定の基準電位であってもよい。
【0022】
二次巻線B1,B2を第1実施例である図3(B)のごとく、個別の出力として利用する場合、その出力波形は図7(A)に示すように同相となる。一方、第2実施例である図6(B)のごとく、個別の出力として利用する場合、その出力波形は図7(B)に示すように逆相となる。
【0023】
本第2実施例での作用効果は前記第1実施例と同様であり、さらに、二次巻線B1を第1実施例とは逆方向に巻回したことにより、配線基板上でピン13,24を接続するための導体パターン51の引き回しが簡単になる効果を奏する。
【0024】
(第3実施例、図8参照)
本第3実施例であるトランスは、前記第1実施例の変形例というべきものであり、鍔部34の幅寸法を若干厚くし、その底面にピン21,22を植設したものである。ボビン1が若干長くなるが、一次巻線A1,A3に続いて、一次巻線A2の巻回作業及びピン21,22への絡げ作業を行うことになり、一次巻線と二次巻線の巻線機の切り替えが1回で済むために作業時間が短縮できる。また、引き回しが短くなるため、作業が容易になる。
【0025】
(第4実施例、図9参照)
本第4実施例であるトランスは、前記第2実施例の変形例というべきものであり、鍔部34の幅寸法を若干厚くし、その底面にピン21,22を植設したものである。ボビン1が若干長くなるが、一次巻線A2の巻回作業及びピン21,22への絡げ作業が容易になる。
【0026】
(他の実施例)
なお、本発明に係るトランスは前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更することができる。
【0027】
例えば、ボビンの構造的な細部や各鍔部の形状は任意であり、各ピンの植設位置も特に両端に位置する鍔部に集中させる以外に任意である。
【0028】
特に、第3実施例及び第4実施例では中間位置にある鍔部34の幅寸法を若干大きくしてピン21,22を植設するようにしたが、中央位置にある他の鍔部35の幅寸法を若干大きくしてピン21,22を植設するようにしてもよい。この場合、鍔部35には二次巻線B2を絡げるためのピン19,24を植設してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るトランスの第1実施例を示す断面図である。
【図2】前記第1実施例であるトランスを示す底面図である。
【図3】前記第1実施例であるトランスの接続例を示す回路図である。
【図4】前記第1実施例であるトランスの他の接続例を示す回路図である。
【図5】本発明に係るトランスの第2実施例を示す底面図である。
【図6】前記第2実施例であるトランスの接続例を示す回路図である。
【図7】前記第1実施例及び第2実施例での二次巻線の出力波形を示すチャート図である。
【図8】本発明の第3実施例であるトランスを示す底面図である。
【図9】本発明の第4実施例であるトランスを示す底面図である。
【符号の説明】
【0030】
1…ボビン
2…貫通孔
5…コア
13〜24…ピン
31〜38…鍔部
41〜47…巻枠
A1,A2,A3…一次巻線
B1,B2…二次巻線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する筒状体をなし、複数の鍔部によって複数の巻枠が形成されたボビンと、前記貫通孔に挿入され、閉磁路を形成するコアとからなるトランスであって、
前記複数の巻枠は少なくとも5以上形成されており、
巻枠に巻回された一次巻線の両側の巻枠に二次巻線が巻回されている箇所、又は、巻枠に巻回された二次巻線の両側の巻枠に一次巻線が巻回されている箇所が、少なくとも2箇所存在し、
前記一次巻線及び前記二次巻線を絡げるためのピンが、少なくとも前記ボビンの両端に位置する鍔部に複数本植設されていること、
を特徴とするトランス。
【請求項2】
前記ボビンのほぼ中央部の巻枠に巻回された一次巻線又は二次巻線は、前記ほぼ中央部の巻枠の両側に位置する鍔部のいずれかに植設されたピンに絡げられ、
前記ほぼ中央部の巻枠以外の他の巻枠に巻回された一次巻線又は二次巻線は、前記ボビンの両端に位置する鍔部に植設されたピンに絡げられていること、
を特徴とする請求項1に記載のトランス。
【請求項3】
前記一次巻線及び前記二次巻線の全てが前記ボビンの両端に位置する鍔部に植設されたピンに絡げられていることを特徴とする請求項1に記載のトランス。
【請求項4】
前記複数の巻枠のうち最も外側に位置する巻枠には一次巻線が巻回されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のトランス。
【請求項5】
前記複数の鍔部のうち前記一次巻線と前記二次巻線の間に位置する鍔部の一つに突起を設け、ピンに絡げた二次巻線を前記突起に引っ掛けて巻枠に巻回することで、二次巻線の巻方向を逆方向にしたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のトランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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