説明

トリエステルビニルエーテル及びその製法

【課題】硬化性、密着性、紫外光領域での透明性、剛直性などに優れた重合体原料などとして有用な新規な化合物であるトリエステルビニルエーテルの提供。
【解決手段】式(I):


(式中、nは2〜10の整数を示す)
で表される化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なビニルエーテル並びにその製造方法及び用途に関し、更に詳しくは例えばインク、塗料、レジスト、カラーフィルタ等の用途並びに接着剤、製版材、封止剤、画像形成剤、界面活性剤の原料等に用いられる硬化性、密着性、紫外光領域での透明性、剛直性に優れた重合組成物原料として、あるいは架橋剤、更には種々の合成試薬として、有用なトリエステルビニルエーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に係るトリエステルビニルエーテルは、ケミカルアブストラクト(Chemical Abstract)にその記載がなく、また、本発明者等の知るかぎりでは、その他の文献にも記載が見当たらない新規化合物である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、トリエステルビニルエーテル並びにその製造方法及び用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に従えば、式(I):
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、nは2〜10の整数を示す)
で表されるトリエステルビニルエーテル並びにその製造方法及び用途が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るトリエステルビニルエーテル(I)は、低臭気、低揮発性で且つ低皮膚刺激性であり、また毒性が低く、更に硬化性、密着性、紫外光領域での透明性に優れる重合組成物原料として、有用な化合物である。本発明のトリエステルビニルエーテル(I)は、また、反応性を有するビニルエーテル基を3個有するだけでなく、極性の高いエステルと極性の低いシクロヘキサン環及び適度な長さのアルキル基の骨格を分子内に併せ有すると共に、原料のビニルエーテルを適切に選ぶことにより、その物性を自由に変えることができるという利点がある。
【0008】
更に、本発明の化合物は式(I)で定義するn数の範囲では、常温においては液状であり、その取扱いが容易で、重合触媒等、各種資材との相溶性が高いという特長がある。更に、例えば、「Macromolecular Symposia(2002), 187, 225-234」又は「RadTech Report(1998), 12(2), 37-48」に記載された公知の式(IV):
【0009】
【化2】

【0010】
で表されるトリメリット酸誘導体に比べ、本発明のトリエステルビニルエーテル(I)は、分子中に、ベンゼン環(共役系の骨格)を含まないため、例えば、より低い特定波長での透明性が確保できる等の特徴があり、その欠点を解消できる。
【0011】
本発明に係るトリエステルビニルエーテル(I)は、以下に説明する反応式によって製造することができ、2段階の反応を用いるにも関わらず、適切な原料を採用することにより、高い選択性で目的の化合物を調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳しく説明する。本発明に係るトリエステルビニルエーテル(I)は、以下の反応式に従って調製することができる。
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、R1、R2及びR3はOHを示すか、又は、R1及びR2はOを示し、R3はOHを示し、nは2〜10の整数を表す。)
【0015】
本発明に係る化合物(I)の具体的な名称を挙げれば以下の通りである。
n=2:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリエチルエステル トリビニルエーテル(別名:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリス[4−(エチニロキシ)エチル]エステル)
n=3:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリプロピルエステル トリビニルエーテル(別名:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリス[4−(エチニロキシ)プロピル]エステル)
n=4:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリブチルエステル トリビニルエーテル(別名:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリス[4−(エチニロキシ)ブチル]エステル)
n=5:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリペンチルエステル トリビニルエーテル(別名:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリス[4−(エチニロキシ)ペンチル]エステル)
n=6:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリヘキシルエステル トリビニルエーテル(別名:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリス[4−(エチニロキシ)ヘキシル]エステル)
n=7:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリヘプチルエステル トリビニルエーテル(別名:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリス[4−(エチニロキシ)ヘプチル]エステル)
n=8:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリオクチルエステル トリビニルエーテル(別名:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリス[4−(エチニロキシ)オクチル]エステル)
n=9:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリノニルエステル トリビニルエーテル(別名:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリス[4−(エチニロキシ)ノニル]エステル)
n=10:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリデシルエステル トリビニルエーテル(別名:1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリス[4−(エチニロキシ)デシル]エステル)
【0016】
本発明に係る化合物(I)の具体的な合成法としては、例えば、次のような方法を挙げることができる。
例えば、ガラス製の反応容器中に、n−ブチルアルコール及びシクロヘキサントリカルボン酸エステル又はその無水物を入れ、反応触媒として、濃硫酸を添加する。n−ブチルアルコールの添加量としてはシクロヘキサントリカルボン酸エステル又はその無水物1.0モルに対して10.0〜20.0モルで行うのが好ましく、14.0〜16.0モルがより好ましい。濃硫酸の添加量としてはシクロヘキサントリカルボン酸エステル又はその無水物1.0モルに対して0.1〜1.0モルで行うのが好ましく、0.4〜0.6モルがより好ましい。次いで、反応混合物を昇温して還流させ、水を抜きながら、反応させると、中間体であるシクロヘキサントリカルボン酸 トリ−n−ブチルエステルが生成する。反応温度としては、110〜125℃が好ましく、より好ましくは115〜120℃である。反応時間としては、10〜20時間が好ましく、より好ましくは15〜17時間である。
【0017】
反応終了後、中和のため、弱アルカリ水溶液で洗浄し、分液する。更に、残存する触媒と未反応原料及び反応中間体や副生成物等を除去するため、改めて水洗した後、分液し、乾燥し、濃縮することが好ましい。
【0018】
中和のための弱アルカリの具体例としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が使用できるが、効率の良さから、炭酸水素ナトリウムが好ましい。脱水処理のための乾燥剤の具体例としては、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム等の無水無機塩やモレキュラーシーブが使用できるが、脱水の効率や本抽出液に対する溶解性の低さを考慮した品質上の面から、無水無機塩が望ましく、特に無水硫酸マグネシウムが好適に使用できる。
【0019】
次いで、例えば、ガラス製の反応容器中に、シクロヘキサントリカルボン酸 トリ−n−ブチルエステルを入れ、反応触媒として、例えばナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムブトトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドを添加し、更にビニルエーテルを添加する。アルカリ金属アルコキシドの添加量としてはシクロヘキサントリカルボン酸 トリ−n−ブチルエステル1.0モルに対して0.1〜0.5モルで行うのが好ましく、0.2〜0.3モルがより好ましい。ビニルエーテルの添加量としてはシクロヘキサントリカルボン酸 トリ−n−ブチルエステル1.0モルに対して3.0〜20.0モルで行うのが好ましく、3.3〜10.0モルがより好ましい。次いで、窒素などの不活性気体を通気しながら、昇温して反応させると、本発明の新規化合物であるシクロヘキサントリカルボン酸エステルビニルエーテルが生成する。反応温度としては、90〜140℃が好ましく、より好ましくは110〜120℃である。反応時間としては、2〜10時間が好ましく、より好ましくは3〜5時間である。
【0020】
更に、反応後は、溶媒により稀釈し、残存する触媒と未反応原料、及び反応中間体や副生成物等を除去するため水洗した後、乾燥、濃縮することが好ましい。稀釈のための溶媒の具体例としては、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸メチル、酢酸エチル等の有機溶剤が使用できるが、効率の良さから、酢酸エチルが好ましい。
一方、脱水処理のための乾燥剤の具体例としては、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム等の無水無機塩が使用できるが、脱水の効率や本抽出液に対する溶解性の低さを考慮した品質上の面から、特に無水硫酸マグネシウムが好適に使用できる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0022】
実施例1
攪拌機、冷却器及び水分定量受器を備えた500mlのガラス製四つ口フラスコに、n−ブチルアルコール296g、シクロヘキサントリカルボン酸無水物39.7g(純度98.4%、0.20モル)を仕込み、触媒として硫酸9.8g(純度98.0%、0.10モル)を添加した。次いで内温が116℃になるまで昇温し、還流開始後15時間、水を抜きながら反応させた。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム溶液を用い中和し、分液を行った。更に、水200mlで洗浄し、分液後、乾燥剤として無水硫酸マグネシウムを加え、ろ過を行った。その後、減圧下に反応液を濃縮して、エステル69.7gを得た。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析の結果、エステルの純度は97.5%であった。この生成物の収率は、原料のシクロヘキサントリカルボン酸無水物に対して、89.7%であった。
【0023】
次に、攪拌機、冷却器及びガス導入管を備えた200mlのガラス製四つ口フラスコに、上記エステル38.4g(純度97.5%、0.098モル)を仕込み、触媒としてナトリウムメトキシド1.5g(純度90.0%、0.025モル)を添加した。次いでヒドロキシブチルビニルエーテル61.0g(純度99.0g、0.52モル)を添加した。次いで、内温が120℃になるまで昇温し、反応温度が120℃に達してから3時間反応させた。この間、逐次窒素ガスを通気し、留分を抜き出した。反応終了後、酢酸エチル150mlに溶解し、水洗分液後乾燥剤として無水硫酸マグネシウムを加え、ろ過を行った。その後、減圧下に反応液を濃縮して、エステルビニルエーテル35.4gを得た。
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析の結果、エステルビニルエーテルの純度は89.2%であった。この生成物の収率は、原料のエステルに対して、63.3%であった。また、このうち1.2%をカラムクロマトグラフにて精製したところ、純度95.7%のエステルビニルエーテル(1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリブチルエステル トリビニルエーテル)1.1gが得られた。得られたエステルビニルエーテルの1H−NHR分析の特性吸収値は表Iに示す通りであった。また、得られたエステルビニルエーテルのNMRチャートを図1に、IRチャートを図2に示した。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例2
攪拌機、冷却器及びガス導入管を備えた200mlのガラス製四つ口フラスコに、実施例1と同様にして得られたエステル19.2g(純度97.5%、0.049モル)を仕込み、触媒としてナトリウムメトキシド0.75g(純度90.0%、0.012モル)を添加した。次いでヒドロキシエチルビニルエーテル45.5g(純度98.9%、0.51モル)を添加した。次いで、内温が115℃になるまで昇温し、反応温度が115℃に達してから5時間反応させた。この間、逐次窒素ガスを通気し、留分を抜き出した。
【0026】
反応終了後、酢酸エチル100mlに溶解し、水洗分液後乾燥剤として無水硫酸マグネシウムを加え、ろ過を行った。その後、減圧下に反応液を濃縮して、エステルビニルエーテル14.0gを得た。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析の結果、エステルビニルエーテルの純度は69.4%であった。この生成物の収率は、原料のエステルに対して、46.8%であった。また、このうち1.2gをカラムクロマトグラフにて精製したところ、純度99.2%のエステルビニルエーテル(1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリエチルエステル トリビニルエーテル)0.5gが得られた。得られたエステルビニルエーテルの1H−NMR分析の特性吸収値は表IIに示す通りであった。また、NMRチャートを図3に、IRチャートを図4に示した。
【0027】
【表2】

【0028】
実施例3
攪拌機、冷却器及びガス導入管を備えた100mlのガラス製四つ口フラスコに、上記エステル19.2g(純度97.5%、0.049モル)を仕込み、触媒としてナトリウムメトキシド0.75g(純度90.0%、0.012モル)を添加した。次いでヒドロキシヘキシルビニルエーテル26.0g(純度87.7%、0.16モル)を添加した。次いで、内温が120℃になるまで昇温し、反応温度が120℃に達してから5時間反応させた。この間、逐次窒素ガスを通気し、留分を抜き出した。
【0029】
反応終了後、酢酸エチル150mlに溶解し、水洗分液後乾燥剤として無水硫酸マグネシウムを加え、ろ過を行った。その後、減圧下に反応液を濃縮して、エステルビニルエーテル21.3gを得た。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析の結果、エステルビニルエーテルの純度は90.1%であった。この生成物の収率は、原料のエステルに対して、66.3%であった。また、このうち1.0gをカラムクロマトグラフにて精製したところ、純度95.5%のエステルビニルエーテル(1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリヘキシルエステル トリビニルエーテル)0.2gが得られた。
得られたエステルビニルエーテルの1H−NMR分析の特性吸収値は表IIIに示す通りであった。また、NMRチャートを図5に、IRチャートを図6に示した。
【0030】
【表3】

【0031】
実施例4
攪拌機、冷却器及び水分定量受器を備えた200mlのガラス製四つ口フラスコに、n−ブチルアルコール96.2g、シクロヘキサントリカルボン酸14.1g(純度96.2%、0.063モル)を仕込み、触媒として硫酸2.4g(純度98.0%、0.024モル)を添加した。次いで内温が116℃になるまで昇温し、還流開始後15時間、水を抜きながら反応させた。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム溶液を用い中和し、分液を行った。更に、水50mlで洗浄し、分液後、乾燥剤として無水硫酸マグネシウムを加え、ろ過を行った。その後、減圧下に反応液を濃縮して、エステル23.2gを得た。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析の結果、エステルの純度は98.3%であった。この生成物の収率は、原料のシクロヘキサントリカルボン酸無水物に対して、94.5%であった。
【0032】
次に、攪拌機、冷却器及びガス導入管を備えた100mlのガラス製四つ口フラスコに、上記エステル21.1g(純度98.3%、0.054モル)を仕込み、触媒としてナトリウムメトキシド0.83g(純度90.0%、0.014モル)を添加した。次いでヒドロキシブチルビニルエーテル33.5g(純度99.0%、0.29モル)を添加した。次いで内温が120℃になるまで昇温し、反応温度が120℃に達してから3時間反応させた。この間、逐次窒素ガスを通気し、留分を抜き出した。
【0033】
反応終了後、酢酸エチル55mlに溶解し、水洗分液後乾燥剤として無水硫酸マグネシウムを加え、ろ過を行った。その後、減圧下に反応液を濃縮して、エステルビニルエーテル(1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸 トリブチルエステル トリビニルエーテル)20.3gを得た。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析の結果、エステルビニルエーテルの純度は89.4%であった。この生成物の収率は、原料のエステルに対して、56.7%であった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の新規化合物トリエステルビニルエーテル(I)は、低臭気、低揮発性且つ、低皮膚刺激性であって、毒性が低く、また、硬化性、密着性、紫外光領域での透明性に優れる重合組成物原料として、有用な特性を有することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1のトリエステルビニルエーテルのNMRチャートである。
【図2】実施例1のトリエステルビニルエーテルのIRチャートである。
【図3】実施例2のトリエステルビニルエーテルのNMRチャートである。
【図4】実施例2のトリエステルビニルエーテルのIRチャートである。
【図5】実施例3のトリエステルビニルエーテルのNMRチャートである。
【図6】実施例3のトリエステルビニルエーテルのIRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、nは2〜10の整数を示す)
で表される化合物。
【請求項2】
式(II):
【化2】

で表される化合物を、アルカリ金属化合物の存在下に、ビニルエーテルと反応させることを含んでなる請求項1に記載の化合物の製造法。
【請求項3】
式(III):
【化3】

(式中、R1、R2及びR3はOHを示すか、又は、R1及びR2はOを示し、R3はOHを示す)
で表される化合物を、硫酸の存在下に、n−ブタノールと反応させることを含んでなる請求項2に記載の化合物の製造法。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物の電子材料用原料としての使用。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物のインク原料としての使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−107996(P2009−107996A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283944(P2007−283944)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000004592)日本カーバイド工業株式会社 (165)
【Fターム(参考)】