説明

トリクロロエチルオキシカルボニル化α−ガラクトサミニド誘導体

【課題】α-ガラクトサミン誘導体とその製造法の提供。
【解決手段】
3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノース誘導体を原料に用い、酸触媒にルイス酸を組み合わせた条件下で、スレオニン誘導体、またはセリン誘導体を作用させることで、3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシルスレオニン誘導体、及び3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシルセリン誘導体を製造することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラクトサミンの2位のアミノ基が2,2,2-トリクロロエチルオキシカルボニル(以降、Troc)化されたα-ガラクトサミニド誘導体、およびその製造法に関するものである。具体的には、D-ガラクトサミンから誘導される3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル アセテートと(広義の)アルコールとを反応させる際に、イッテルビウム(III)トリフレートと三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を組み合わせた活性化法を用いたα-ガラクトサミニド誘導体の製造法と、合成された化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然には、D-ガラクトサミンがα結合した配糖体(以降、α-ガラクトサミニド誘導体)が存在し、これらは医薬品や農薬、試薬などとして幅広い利用が期待され、α-ガラクトサミニド誘導体を簡便かつ大量に合成する手法の開発が強く望まれている。例えば、ムチン型(O-結合型)糖タンパク質は、糖とアミノ酸が結合した部位にはN-アセチル-α-D-ガラクトサミニル セリンあるいはスレオニン(以降、α-ガラクトサミニル アミノ酸誘導体)というユニットを有する。従来法によるα-ガラクトサミニド誘導体の製造法では、D-ガラクタールを出発原料に用いて、D-ガラクタールから誘導される2-アジド-2-デオキシ-D-ガラクトース誘導体からのα-ガラクトサミニド誘導体の前駆体となる化合物が製造された例が報告されている(例えば非特許文献1および特許文献1を参照)が、他段階の反応工程と度重なる異性体の分離操作を経て製造が達成されているために、大量合成が難しく実用性に乏しい。
【0003】
従来、D-ガラクトサミンを含めて、2位にエクアトリアル配置のアミノ基を有するヘキソサミン類では、アミノ保護基にアシル型あるいはウレタン型保護基を用いた場合には、その保護基の隣接基効果によって、β-ガラクトサミニド誘導体が選択的に形成し、α-ガラクトサミニド誘導体を形成させることは困難なことが知られている(例えば非特許文献2を参照)。
【0004】
ところで、最近、ガラクトサミンの2位のアミノ保護基に2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル(Troc)基を用い、α-グリコシドを得る事が出来ることが示された。(例えば特許文献2参照)しかし、この文献では糖の4位と6位の水酸基をシリルアセタールで保護し、糖の立体を制御する必要性があることから、チオ糖供与体の調製に多くの工程を要するという欠点がある。
【非特許文献1】T. Tsudaら、「A highly stereoselective construction of 1,2-trans-β-glycosidic linkages capitalizing on 2-azido-2-deoxy-D-glycosyl diphenyl phosphates as glycosyl donors」、Tetrahedron, 2004年, 60巻, 10711ページ.
【非特許文献2】S. A. Mitchellら、「Solid-Phase Synthesis of O-Linked Glycopeptide Analogues of Enkephalin」、Journal of Organic Chemistry, 2001年, 66巻, 2327ページ.
【特許文献1】特開平6-279482
【特許文献2】国際公開WO2004/104163号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、中間体として有用なTroc化α-ガラクトサミニド誘導体、およびその製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はD-ガラクトサミンの2位アミノ基の保護基にウレタン型の2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル(Troc)基を導入した糖誘導体を糖供与体に用いて(広義の)アルコールと反応させる際に、イッテルビウム(III)トリフレートと三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を組み合わせた活性化法を用いることで、高い立体選択性でα-ガラクトサミニド誘導体の製造を可能とした。
【0007】
具体的には、3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル アセテートを糖供与体用いて、イッテルビウム(III)トリフレートと三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体の存在下で、炭素数が1から30までの脂肪族あるいは芳香族アルコール、またはグルコース、マンノース、ガラクトース、N-アセチル-グルコサミン、グルコサミン、フコース、N-アセチルノイラミン酸から選ばれる単糖アルコール、あるいは、グルコース、マンノース、ガラクトース、N-アセチル-グルコサミン、グルコサミン、フコース、N-アセチルノイラミン酸から構成される二糖または三糖性アルコール、またはチロシン、セリン、スレオニン等のアミノ酸アルコールを糖受容体として用いることで、α-ガラクトサミニド誘導体を効率良く製造することができることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
ここで、単糖アルコールとは、テトラヒドロピランあるいはフラン構造を有する糖構造中の特定の糖水酸基が遊離な糖誘導体を指す。また、二糖または三糖性アルコールとは、グリコシド結合で繋がったテトラヒドロピランあるいはフラン構造を有する二糖あるいは三糖構造中の特定の糖水酸基が遊離な糖誘導体を指す。
【0009】
すなわち、本発明は下記式[1]〜[3]のTroc化α-ガラクトサミニド誘導体とその製造法に関するものである。
【化4】

(Bnはベンジル基、R1は、R1OHが炭素数1から30までの脂肪族または芳香族アルコール、またはグルコース、マンノース、ガラクトース、N-アセチル-グルコサミン、グルコサミン、フコース、N-アセチルノイラミン酸の単糖アルコール、あるいは、グルコース、マンノース、ガラクトース、N-アセチル-グルコサミン、グルコサミン、フコース、N-アセチルノイラミン酸から構成される二糖または三糖性アルコール、またはチロシン、セリン、スレオニンのアミノ酸アルコールである基を表す。)
【0010】
【化5】

(Bnはベンジル基、R2はH、またはカルボキシル基の保護基、R3はH、またはアミノ基の保護基、R4はH、またはメチル基を示す。)
【0011】
【化6】

(Bnはベンジル基、Cbzはベンジルオキシカルボニル基、R4はH、またはメチル基を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明を用いれば、医薬、農薬や試薬等として有用なα-ガラクトサミニド誘導体を製造することができ、さらに糖ペプチド、ムチン型糖タンパク質を製造する原料となるα-ガラクトサミニル アミノ酸誘導体を効率よく製造することが可能である。すなわち、単糖や、2糖、または3糖性アルコールを反応させたものや、炭素数が1から30までの脂肪族あるいは芳香族アルコールを反応させたα-ガラクトサミニド誘導体、さらにはチロシン、セリン、スレオニン誘導体との反応では、α-ガラクトサミニル アミノ酸誘導体を与え、医薬、農薬や試薬等、またそれらを製造するための有用な製造中間体として利用されることが期待される。特に本製造法では、容易に調製できる糖供与体を用いて、高い立体選択性でα-ガラクトサミニド誘導体が得られることから、α体とβ体の分離工程も不要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル アセテートと(広義の)アルコールを反応させる際に、イッテルビウム(III)トリフレートと三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を組み合わせた活性化法を用いることで、Troc化α-ガラクトサミニド誘導体を効率良く製造することができる。アルコールとして、スレオニン誘導体、またはセリン誘導体を用いることで、α-ガラクトサミニル アミノ酸誘導体を、大量に簡便に製造することができる。
【0014】
原料とする3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル アセテートは、次のようにして合成できる。
ガラクトサミン塩酸塩をピリジン、無水酢酸を用いて1、3、4、6位の水酸基と、2位のアミノ基をアセチル化した後、メタノール中、ナトリウムメトキシドを用いることにより1、3、4、6位のアセチル基の脱アセチル化を行う。その後、ジメチルホルムアミド中、塩基として水酸化カリウムを用いて臭化ベンジルにてベンジル化を行い、テトラヒドロフラン中、3N-塩酸を用いて還流した後、テトラヒドロフラン、水の混合溶媒中、炭酸水素ナトリウムを用いて2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルクロリドを作用させ、ピリジン、無水酢酸を用いてアセチル化することで、1位がアセチル化されたα-ガラクトサミン誘導体[1]である3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル アセテートを得る。
【0015】
グリコシル化反応のもう1つの原料であるアクセプターには、炭素数が1から30までの脂肪族または芳香族アルコール、例えば、メタノール、エタノール、オクチルアルコール、アリルアルコール、アダマンタノール、フェノール、パラ−メトキシフェノールを使用することができる。またはグルコース、マンノース、ガラクトース、N-アセチル-グルコサミン、グルコサミン、フコース、N-アセチルノイラミン酸等の単糖アルコール、あるいは、グルコース、マンノース、ガラクトース、N-アセチル-グルコサミン、グルコサミン、フコース、N-アセチルノイラミン酸から構成される二糖または三糖性アルコール、または水酸基を有するアミノ酸であるチロシン、セリン、スレオニン等のアミノ酸アルコール、あるいはその誘導体を使用することができる。
【0016】
溶媒は、アルコールを除く周知の有機溶媒を使用することができる。例えば、エーテル、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。しかし、グリコシド誘導体のアグリコン部分の構造が使用するアルコールのアルキル部分と同じ構造の場合に限りアルコールを溶媒として用いることができることは言うまでもない。この場合にアルコールとしては、炭素数12以下の周知の脂肪族アルコール、不飽和アルコールや芳香族アルコールを使用することができる。例えば、メタノール、エタノール、オクタノール、アリルアルコール、m-クレゾール等反応の際に液体であるアルコールを使用できる。
【0017】
2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ-2-デオキシ-D-ガラクトピラノシル アシレート誘導体および(広義の)アルコールの使用量については特に制限はない。2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ-2-デオキシ-D-ガラクトピラノシル アシレート誘導体をアルコールに対して過剰に用いることもできるが、通常1〜10当量の範囲である。好ましくは、アルコールに対して1〜1.5当量で使用する。また逆に、アルコールを2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ-2-デオキシ-D-ガラクトピラノシル アシレート誘導体に対して過剰に用いることが出来るのは言うまでもない。さらに、アルコールを溶媒として用いる場合には当然アルコールが大過剰使用される。
【0018】
トリフレート塩の存在下、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ-2-デオキシ-D-ガラクトピラノシル アシレート誘導体と(広義の)アルコールとを反応させる際に、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を共存させるが、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体の使用量については特に制限はない。通常、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ-2-デオキシ-D-グルコピラノシル アシレート誘導体に対して、0.5〜200モル%用いるが、好ましくは、1〜100モル%で使用する。
【0019】
トリフレート塩の使用量についても特に制限はない。通常、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ-2-デオキシ-D-ガラクトピラノシル アシレート誘導体に対して5〜300モル%用いることができるが、好ましくは30〜150モル%で使用する。
【0020】
反応温度は特に制限はないが、通常−50oC〜60oCで行う。好ましくは、−20oC〜30oCの範囲である。反応時間は反応温度、原料の種類等によって異なるが、数時間から数日の範囲である。
【0021】
特に、3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル アセテートを原料に用いて、イッテルビウム(III)トリフレートと三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体の存在下で、アルコールとして、スレオニン誘導体、または、セリン誘導体を用いることでα-ガラクトサミニル アミノ酸誘導体である3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシルスレオニン誘導体、並びに3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシルセリン誘導体が効率良く製造することが出来る。
【0022】
実際には、3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル アセテートとスレオニン誘導体、またはセリン誘導体と、イッテルビウム(III)トリフレートを、ジクロロメタンに溶かし、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を加えて、アルゴンガス雰囲気下、0℃で23時間攪拌する。その後、炭酸水素ナトリウム水溶液で反応を停止させ、酢酸エチルと炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて有機層を抽出し、3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシルスレオニン誘導体、並びに3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシルセリン誘導体を合成する。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、以下の実施例により何等の制限を受けるものではない。
(原料の合成)
3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル アセテートの合成
【0024】
ガラクトサミン塩酸塩(516.4 mg/ 2.39 mmol)をナスフラスコに入れ、ピリジン(10.0 mL)に溶解させ0℃にした。その後、無水酢酸 (20.0 mL)を加え室温に戻した。48時間後、冷水(50.0 mL)を入れ、酢酸エチルとクエン酸水溶液を用いて有機層を抽出し、さらに酢酸エチルと炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて有機層を抽出し、無水硫酸ナトリウムによって乾燥させた。ヘキサンにて再結晶を行い、白色結晶を得た。その白色結晶をメタノール(20.0 mL)に溶解させ、ナトリウムメトキシド(621.0 mg/ 11.5 mmol)を加えた。20分後、減圧留去によってメタノールを除いた後、N,N-ジメチルホルムアミド(30.0 mL)に溶かし、水酸化カリウム(727.9 mg/ 13.0 mmol)を加え、ベンジルブロミド(1.3 mL/ 10.9 mmol) を加えた。48時間後、メタノール(30.0 mL)を加え、酢酸エチルと食塩水を用いて有機層を抽出し、無水硫酸ナトリウムによって乾燥させた。フラッシュカラムクロマトグラフィー(展開溶媒比ヘキサン:酢酸エチル=1:4)によって精製を行い、2-アセトアミド-2-デオキシ-1,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-D-ガラクトピラノシドを得た。2-アセトアミド-2-デオキシ-1,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-D-ガラクトピラノシド(1.0607 g/ 18.2 mmol)を、テトラヒドロフラン(30.0 mL)に溶かし、3N-塩酸(15.0 mL)を加え12時間還流した。
【0025】
その後、溶媒を濃縮乾固しテトラヒドロフラン(15.0 mL)と純水(3.0 mL)に溶解させ、炭酸水素ナトリウム(2031.0 mg/ 24.2 mmol)を加えた後、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルクロリド(351.4 μL/ 2.6 mmol)を加え12時間撹拌した。酢酸エチルと食塩水を用いて有機層を抽出し、無水硫酸ナトリウムによって乾燥させた。無水硫酸ナトリウムをろ過後、有機溶媒を減圧除去し、ピリジン(20.0 mL)に溶解させた。その後、0℃にて無水酢酸(40.0 mL)を入れ、24時間撹拌させた後、冷水(40.0 mL)を入れ、酢酸エチルとクエン酸水溶液を用いて有機層を抽出し、さらに酢酸エチルと炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて有機層を抽出し、無水硫酸ナトリウムによって乾燥させた。フラッシュカラムクロマトグラフィー(展開溶媒比ヘキサン:酢酸エチル=1:1)によって精製を行い、 3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル アセテート (419.2 mg)が3段階収率34%、白色結晶で得られた。
1H NMR (600 MHz, CDCl3):δ2.06 (3H, S, CH3C=O), 3.52 (1H, dd, J = 4.8 Hz, J = 9.0 Hz, Ha-6), 3.64-3.67 (2H, m, H-3, Hb-6), 3.93-3.95 (1H, m, H-5), 4.11 (1H, s, H-4), 6.23 (1H, d, J = 3.4 Hz, H-1); 13C NMR (150 MHz, CDCl3):δ21.0 (CH3C=O), 50.1 (C-2), 68.1 (C-6), 71.7 (C-5), 71.9 (C-4), 76.5 (C-3), 91.8 (C-1), 169.0 (CH3C=O).
【0026】
[実施例1]
(2S,3R)-2-ベンジルオキシカルボニルアミノ-3-O-[3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル]ブタン酸ベンジル[3] (R4はメチル基)の合成
(工程1)
(2S,3R)-2-ベンジルオキシカルボニルアミノ-3-ヒドロキシブタン酸ベンジルの合成
(2S,3R)-2-ベンジルオキシカルボニルアミノ-3-ヒドロキシブタン酸(1.002 g/ 4.0 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(15.0 mL)と純水(5.0 mL)に溶解し、炭酸セシウム(644.5 mg/ 2.0 mmol)を加えた。30分後溶媒を濃縮し、N,N-ジメチルホルムアミド(10.0 mL)に溶解させた後、ベンジルブロミド(0.71 mL/ 5.9 mmol)を加えた。24時間後、メタノール(15.0 mL)を加え、酢酸エチルと食塩水を用いて有機層を抽出し、無水硫酸ナトリウムによって乾燥させた。フラッシュカラムクロマトグラフィー(展開溶媒比ヘキサン:酢酸エチル=2:1)によって精製を行い、(2S,3R)-2-ベンジルオキシカルボニルアミノ-3-ヒドロキシブタン酸ベンジル(1.149 g)が収率85%、白色結晶で得られた。
1H NMR (600 MHz, CDCl3):δ1.24 (3H, d, J = 6.2 Hz, CH3),1.80(1H, d, J = 4.8 Hz, H-2), 4.37 (1H, m, H-1), 5.54 (1H, m, NH); 13C NMR (150 MHz, CDCl3):δ19.9 (CH3), 39.4 (C-3), 59.1 (C-2), 170.9 (C=O), 171.8 (C=O).
【0027】
(工程2)
(2S,3R)-2-ベンジルオキシカルボニルアミノ-3-O-[3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル]ブタン酸ベンジル[3] (R4はメチル基)の合成
3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル アセテート(138.2 mg/0.2 mmol)と(2S,3R)-2-ベンジルオキシカルボニルアミノ-3-ヒドロキシブタン酸ベンジル(59.6 mg/0.2 mmol)と、イッテルビウム(III)トリフレート(108.7 mg/0.2 mmol)を2口ナスフラスコに入れて、ジクロロメタン(3.0 mL)を加え、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(0.7 μL/0.0055 mmol)を加えて、アルゴンガス雰囲気下、0℃で21時間攪拌した。炭酸水素ナトリウム水溶液(5.0 mL)で反応を停止させたあと、酢酸エチルと炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて有機層を抽出し、無水硫酸ナトリウムによって乾燥させた。薄層クロマトグラフィー(展開溶媒比ヘキサン:酢酸エチル=2:1)によって精製を行い、(2S,3R)-2-ベンジルオキシカルボニルアミノ-3-O-[3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル]ブタン酸ベンジル[3](141.5 mg)が収率86%、白色結晶で得られた。
1H NMR (600 MHz, CDCl3):δ1.24-1.29 (3H, m, CH3), 3.49-3.58 (3H, m, H-3, H-6), 3.90 (1H, t, J = 5.5 Hz, H-5), 3.97 (1H, s, H-4), 4.19 (1H, m, H-2'), 4.38-4.43 (2H, m, H-2, H-3'), 4.83 (1H, d, J = 2.8 Hz, H-1); 13C NMR (150 MHz, CDCl3):δ18.0 (CH3), 51.4 (C-3'), 58.5 (C-2), 68.8 (C-6), 70.3 (C-5), 72.5 (C-4), 76.8 (C-2'), 77.2 (C-3), 100.1 (C-1), 170.7 (C=O).
【0028】
[実施例2]
(2S)-2-ベンジルオキシカルボニルアミノ-3-O-[3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル]プロパン酸ベンジル[3] (R4はH)の合成
(工程1)
(2S)-2-ベンジルオキシカルボニルアミノ-3-ヒドロキシプロパン酸ベンジルの合成
(2S)-2-ベンジルオキシカルボニルアミノ-3-ヒドロキシプロパン酸(1.009 g/ 4.2 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(15.0 mL)と純水(5.0 mL)に溶解し、炭酸セシウム(710.2 mg/ 2.2 mmol)を加えた。30分後溶媒を濃縮し、N,N-ジメチルホルムアミド(10.0 mL)に溶解させた後、ベンジルブロミド(0.75 mL/ 6.3 mmol)を加えた。24時間後、メタノール(15.0 mL)を加え、酢酸エチルと食塩水を用いて有機層を抽出し、無水硫酸ナトリウムによって乾燥させた。フラッシュカラムクロマトグラフィー(展開溶媒比ヘキサン:酢酸エチル=2:1)によって精製を行い、 (2S)-2-ベンジルオキシカルボニルアミノ-3-ヒドロキシプロパン酸ベンジル(1.266 g)が収率91%、白色結晶で得られた。
1H NMR (600 MHz, CDCl3):δ2.17 (2H, d, H-3),4.50 (1H, m, H-2), 5.68 (1H, m, NH).
【0029】
(工程2)
(2S)-2-ベンジルオキシカルボニルアミノ-3-O-[3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル]プロパン酸ベンジル[3](R4はH)の合成
3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル アセテート(141.6 mg/ 0.2 mmol)と(2S)-2-ベンジルオキシカルボニルアミノ-3-ヒドロキシプロパン酸ベンジル(55.8 mg/ 0.2 mmol)と、イッテルビウム(III)トリフレート(106.5 mg/0.2 mmol)を2口ナスフラスコに入れて、ジクロロメタン(3.0 mL)を加え、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(0.6 μL/0.0047 mmol)を加えて、アルゴンガス雰囲気下、0℃で23時間攪拌した。炭酸水素ナトリウム水溶液(5.0 mL)で反応を停止させたあと、酢酸エチルと炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて有機層を抽出し、無水硫酸ナトリウムによって乾燥させた。薄層クロマトグラフィー(展開溶媒比ヘキサン:酢酸エチル=2:1)によって精製を行い、(2S)-2-ベンジルオキシカルボニルアミノ-3-O-[3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル]プロパン酸ベンジル[3](132.5 mg)が収率84%、白色結晶で得られた。
1H NMR (600 MHz, CDCl3):δ3.42-3.54 (3H, m, H-2', H-3), 3.81-3.83 (1H, m, H-5), 3.87-3.91 (2H, m, H-4, Ha-6), 4.01 (1H, dd, J = 3.5 Hz, J = 11.0 Hz, Hb-6), 4.65 (1H, d, J = 11.8 Hz, H-2), 4.81 (1H, d, J = 3.4 Hz, H-1); 13C NMR (150 MHz, CDCl3):δ51.1 (C-3'), 54.6 (C-2), 70.3 (C-5), 72.2 (C-4), 77.2 (C-3), 100.0 (C-1), 170.7 (C=O).
【産業上の利用可能性】
【0030】
α結合したムチン型の糖タンパク質の製造、酵素反応における重要な試薬としての需要が高いと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[1]に示されるトリクロロエチルオキシカルボニル化α-ガラクトサミニド誘導体。
【化1】

(Bnはベンジル基、R1は、R1OHが炭素数1から30までの飽和または不飽和アルコール、またはグルコース、マンノース、ガラクトース、N-アセチル-グルコサミン、グルコサミン、フコース、N-アセチルノイラミン酸の単糖アルコール、あるいは、グルコース、マンノース、ガラクトース、N-アセチル-グルコサミン、グルコサミン、フコース、N-アセチルノイラミン酸から構成される二糖または三糖性アルコール、またはチロシン、セリン、スレオニンのアミノ酸アルコールである基を表す。)
【請求項2】
下記式[2]に示されるトリクロロエチルオキシカルボニル化α-ガラクトサミニド誘導体。
【化2】

(Bnはベンジル基、R2はH、またはカルボキシル基の保護基、R3はH、またはアミノ基の保護基、R4はH、またはメチル基を表す。)
【請求項3】
下記式[3]に示されるトリクロロエチルオキシカルボニル化α-ガラクトサミニド誘導体。
【化3】

(Bnはベンジル基、Cbzはベンジルオキシカルボニル基、R4はH、またはメチル基を表す。)
【請求項4】
3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-(2,2,2-トリクロロエトキシカルボニルアミノ)-2-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル アセテートとアルコールとを反応させる際に、イッテルビウム(III)トリフレートと、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を組み合わせた活性化法を用いることを特徴とする請求項1〜3記載のトリクロロエチルオキシカルボニル化α-ガラクトサミニド誘導体の製造法。

【公開番号】特開2009−1517(P2009−1517A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163393(P2007−163393)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000173924)財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】