説明

トリスアゾ化合物、インク組成物及び着色体

【課題】インクジェット記録用、筆記用具用として用いられ、耐オゾンガス性、耐光性、耐湿性及び演色性に優れており、記録液としての保存安定性も良好な黒色の化合物及びそれを含有するインク組成物の提供。
【解決手段】下記式(1)で表されるトリスアゾ化合物またはその塩、それを含有するインク組成物


(式(1)中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、カルボキシル基、スルホ基、ヒドロキシ基若しくは(C1〜C4)アルコキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルキル基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基若しくはカルボキシル基で置換されても良い(C1〜C4)アルコキシ基等であり、Aはフェニル基またはナフチル基(但し、これらのフェニル基及びナフチル基はハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、アルキル基若しくはフェニル基で置換されても良いスルファモイル基、ニトロ基等によって置換されていても良い)を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なトリスアゾ化合物またはその塩、これらを含有するインク組成物およびそれによる着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のカラー記録法の中でもその代表的方法の一つであるインクジェットプリンタによる記録方法は、インクの小滴を発生させ、これを種々の被記録材料(紙、フィルム、布帛等)に付着させ記録を行うものである。この方法は、記録ヘッドと被記録材料とが接触しないため音の発生が少なく静かであり、また小型化、高速化が容易という特長の為、近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。従来、万年筆、フェルトペン等のインク及びインクジェット記録用インクとしては、水溶性染料を水性媒体中に溶解した水性インクが使用されており、これらの水溶性インクにおいてはペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止すべく一般に水溶性有機溶剤が添加されている。この為、これらの従来のインクにおいては、十分な濃度の記録画像を与えること、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、保存安定性に優れること等が要求され、また、特に水への溶解度が高いこと、インクに添加される水溶性有機溶剤への溶解度が高いことが要求される。更に、形成される画像には耐水性、耐光性、耐オゾンガス性、耐湿性等の画像堅牢性が求められている。
【0003】
耐オゾンガス性とは、通常単に耐オゾン性又は耐ガス性等とも呼ばれるが、空気中に存在する酸化作用を持つオゾンガスが記録紙中で染料と反応し、印刷された画像を変退色させるという現象に対する耐性のことである。オゾンガスの他にも、この種の作用を持つ酸化性ガスとしては、NOx,SOx等が挙げられるが、これらの酸化性ガスよりもオゾンガスの方がインクジェット記録画像の変退色現象をより促進させる原因物質とされている。特に、写真画質インクジェット専用紙の表面に設けられるインク受容層には、インクの乾燥を早め、また高画質でのにじみを少なくする為に、白色無機顔料等による多孔質の素材を用いているものが多く、このような記録紙上でオゾンガスによる変退色が顕著に見られる。この酸化性ガスによる変退色現象はインクジェット画像に特徴的なものであるため、耐オゾンガス性の向上は最も重要な課題の1つとなっている。
【0004】
今後、インクを用いた印刷方法の使用分野を拡大すべく、インクジェット記録用に用いられるインク組成物及びそれによって着色された着色体には、耐水性、耐光性、耐湿性、耐オゾンガス性の更なる向上が強く求められている。
【0005】
種々の色相のインクが種々の染料から調製されているが、それらのうち黒色インクはモノカラーおよびフルカラー画像の両方に使用される重要なインクである。これら黒色インク用の染料として今日まで多くのものが提案されているが、市場の要求を充分に満足する製品を提供するには至っていない。提案されている多くの色素はジスアゾ色素であり、これらは色相が浅すぎる(赤味の黒色になる)、演色性が悪い、耐水性や耐湿性が悪い、耐オゾンガス性が十分でない等の問題がある。また、同様に数多く提案されているアゾ含金色素の場合、金属イオンを含み人体への安全性や環境に対する配慮が十分でない、耐オゾンガス性が十分でない等の問題がある。色相を深くする為に共役系を延ばしたテトラアゾ色素については、色相濃度が低い、水溶性が低く水溶液やインクの保存安定性が悪い、耐オゾンガス性が十分でない等の問題が残されている。
【0006】
近年最も重要な課題となっている耐オゾンガス性について改良されたインクジェット用黒色インク用色素化合物としては、例えば特許文献1に記載の化合物が挙げられる。しかし、これらの化合物の耐オゾンガス性は市場要求を十分に満たすものではない。また、本発明の黒色インク用色素化合物に構造的に近似する化合物としては特許文献2、3に記載の化合物が挙げられるが、市場の要求、特に耐オゾンガス性に関しての要求を十分に満たしているものではない。
【特許文献1】特開2003−183545号公報
【特許文献2】特開昭62−109872号公報
【特許文献3】特開2003−201412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、水を主要成分とする媒体に対する溶解性が高く、高濃度染料水溶液及びインクを長期間保存した場合でも安定であり、印字された画像の濃度が高く、印字された画像の堅牢性、特に耐オゾンガス性に優れた黒色の記録画像を与え、また、合成が容易でありかつ安価である黒色インク用色素とそのインク組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記したような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至ったものである。即ち本発明は、
(1)下記式(1)で表されるトリスアゾ化合物またはその塩、

(式(1)中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、N−アルキルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、リン酸基、ニトロ基、アシル基、ウレイド基、ヒドロキシ基若しくは(C1〜C4)アルコキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルキル基、ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基若しくはカルボキシル基で置換されても良い(C1〜C4)アルコキシ基またはアシルアミノ基であり、Aはフェニル基またはナフチル基(但し、これらのフェニル基及びナフチル基はハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、アルキル基若しくはフェニル基で置換されても良いスルファモイル基、リン酸基、ニトロ基、アシル基、ウレイド基、ヒドロキシ基若しくは(C1〜C4)アルコキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルキル基、ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基若しくはカルボキシル基で置換されても良い(C1〜C4)アルコキシ基またはアシルアミノ基によって置換されていても良い)を示す。)
(2)式(1)が下記式(2)で表される(1)に記載のトリスアゾ化合物またはその塩、

(式(2)中、Rはカルボキシル基、スルホ基、または(C1〜C4)アルコキシ基を、Rは水素原子またはスルホ基を、Rはカルボキシル基、スルホ基、または(C1〜C4)アルコキシ基を、Rは水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルファモイル基またはN−(C1〜C4)アルキルアミノスルホニル基を、Rは、水素原子、カルボキシル基またはスルホ基をそれぞれ表す)
(3)式(2)において、Rはアゾ基に対して2位、ニトロ基は4位、Rは5位、Rはアゾ基に対して2位、Rは4位、Rは5位又は6位に結合している(2)に記載のトリスアゾ化合物またはその塩、
(4)式(2)において、Rがカルボキシル基またはスルホ基、Rがカルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、N−(C1〜C4)アルキルアミノスルホニル基、ニトロ基、(C1〜C4)アルコキシ基、Rが水素原子またはカルボキシル基であり、Rがアゾ基に対して2位、Rが4位、Rが5位に結合している(3)に記載のトリスアゾ化合物またはその塩、
(5)式(1)が下記式(2’)で表される(1)に記載のトリスアゾ化合物またはその塩、

(式(2’)中、Rはカルボキシル基またはスルホ基を、Rは水素原子を、Rはスルホ基またはニトロ基を、Rは水素原子またはスルホ基をそれぞれ示す。)
(6)式(2’)におけるRはアゾ基に対して2位に、フェニル基上のニトロ基は4位に結合しており、R及びRで置換されたナフチル基において、アゾ基はナフチル基の1位または2位であり、Rは5位または6位に、Rは7位または8位に結合している(5)に記載のトリスアゾ化合物またはその塩、
(7)下記式(2−1)で表されるトリスアゾ化合物またはその塩、

(8)塩がリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩または一般式(3)で表されるアンモニウム塩である(1)から(7)のいずれか一項に記載のトリスアゾ化合物の塩、

(式(3)中、Z、Z、Z、Zはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基またはヒドロキシアルコキシアルキル基を表す。)
(9)(1)から(8)のいずれか一項記載のトリスアゾ化合物またはその塩を少なくとも1種を有することを特徴とするインク組成物、
(10)(9)に記載のインク組成物を含む容器を装填したインクジェットプリンタ、
(11)(9)に記載のインク組成物を用いるインクジェットプリント記録方法、
(12)(11)に記載のインクジェットプリント方法における被記録材が情報伝達用シートであるインクジェットプリント記録方法、
(13)情報伝達用シートが多孔性白色無機物を含有することを特徴とする(12)に記載のインクジェットプリント記録方法、
(14)(1)から(8)のいずれか一項に記載のトリスアゾ化合物またはその塩によって着色された着色体、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のトリスアゾ化合物は水溶解性に優れるので、インク組成物製造過程でのメンブランフィルターによるろ過性が良好であり、記録液の保存時の安定性や吐出安定性にも優れている。又、このトリスアゾ化合物を含有する本発明のインク組成物は長期間保存後の結晶析出、物性変化、色変化等もなく、貯蔵安定性が良好である。又、本発明のトリスアゾ化合物を含有するインク組成物は、インクジェット記録用、筆記用具用として用いられ、普通紙及びインクジェット専用紙に記録した場合の記録画像の印字濃度が高く、さらに各種堅牢性、特に耐オゾンガス性に優れている。マゼンタ、シアン及びイエロー染料と共に用いることで各種堅牢性に優れたフルカラーのインクジェット記録が可能である。このように本発明のインク組成物はインクジェット記録用ブラックインクとして極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
一般式(1)及び一般式(2)におけるRからR及びAのフェニル基若しくはナフチル基に置換しうる置換基において、アシル基の例としては、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ベンゾイル、ナフトイル等があげられる。
一般式(1)及び一般式(2)におけるRからR及び、Aのフェニル基若しくはナフチル基に置換しうる置換基において、アルキル基若しくはフェニル基で置換されても良いスルファモイル基の例としては、スルファモイル、N−メチルスルファモイル、N−エチルスルファモイル、N−(n−ブチル)スルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル、N,N−ジ(n−プロピル)スルファモイル、N−フェニルスルファモイル等が挙げられる。
一般式(1)及び一般式(2)におけるRからR及び、Aのフェニル基若しくはナフチル基に置換しうる置換基において、ヒドロキシ基若しくは(C1〜C4)アルコキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルキル基の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、3−ヒドロキシプロピル、メトキシエチル、2−エトキシエチル、n−プロポキシエチル、イソプロポキシエチル、n−ブトキシエチル、メトキシプロピル、エトキシプロピル、n−プロポキシプロピル、イソプロポキシブチル、n−プロポキシブチル等が挙げられる。
一般式(1)及び一般式(2)におけるRからR及び、Aのフェニル基若しくはナフチル基に置換しうる置換基において、ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基若しくはカルボキシル基で置換されても良い(C1〜C4)アルコキシ基の例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、2−ヒドロキシエトキシ、2−ヒドロキシプロポキシ、3−ヒドロキシプロポキシ、メトキシエトキシ、エトキシエトキシ、n−プロポキシエトキシ、イソプロポキシエトキシ、n−ブトキシエトキシ、メトキシプロポキシ、エトキシプロポキシ、n−プロポキシプロポキシ、イソプロポキシブトキシ、n−プロポキシブトキシ、2−ヒドロキシエトキシエトキシ、カルボキシメトキシ、2−カルボキシエトキシ、3−カルボキシプロポキシ、3−スルホプロポキシ、4−スルホブトキシ等が挙げられる。
一般式(1)及び一般式(2)におけるRからR及び、Aのフェニル基若しくはナフチル基に置換しうる置換基において、アシルアミノ基の例としては、アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、ブチリルアミノ、イソブチリルアミノ、ベンゾイルアミノ、ナフトイルアミノ等があげられる。
【0011】
一般式(1)における好ましいR及びRは、水素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、N−メチルスルファモイル基、N−エチルスルファモイル基、リン酸基、ニトロ基、アセチル基、ベンゾイル基、ウレイド基、メチル基、メトキシ基、エチル基、エトキシ基、プロピル基、プロポキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、3−スルホプロポキシ基、4−スルホブトキシ基、カルボキシメトキシ基、2−カルボキシエトキシ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等であり、さらに好ましくは、水素原子、塩素原子、シアノ基、スルファモイル基、アセチル基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基であり、特に好ましくは、水素原子、カルボキシル基、スルホ基である。
一般式(1)におけるAのフェニル基若しくはナフチル基に置換しうる好ましい置換基は、水素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、N−メチルスルファモイル基、N−エチルスルファモイル基、リン酸基、ニトロ基、アセチル基、ベンゾイル基、ウレイド基、メチル基、メトキシ基、エチル基、エトキシ基、プロピル基、プロポキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、3−スルホプロポキシ基、4−スルホブトキシ基、カルボキシメトキシ基、2−カルボキシエトキシ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等であり、さらに好ましくは、水素原子、シアノ基、メチル基、メトキシ基、スルファモイル基、アセチル基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基、N−メチルスルファモイル基であり、特に好ましくは、水素原子、メトキシ基、スルファモイル基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基、N−メチルスルファモイル基である。
一般式(2)における好ましいRからRは、水素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、N−メチルスルファモイル基、N−エチルスルファモイル基、リン酸基、ニトロ基、アセチル基、ベンゾイル基、ウレイド基、メチル基、メトキシ基、エチル基、エトキシ基、プロピル基、プロポキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、3−スルホプロポキシ基、4−スルホブトキシ基、カルボキシメトキシ基、2−カルボキシエトキシ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等であり、さらに好ましくは、水素原子、シアノ基、メチル基、メトキシ基、スルファモイル基、N−メチルスルファモイル基、アセチル基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基であり、特に好ましくは、水素原子、メトキシ基、スルファモイル基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基、N−メチルスルファモイル基である。
【0012】
前記式(1)及び(2)で示される化合物の塩は、無機または有機の陽イオンの塩である。そのうち無機塩の具体例としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩が挙げられ、好ましい無機塩は、リチウム、ナトリウム、カリウムの塩およびアンモニウム塩であり、又、有機の陽イオンの塩としては例えば前記式(3)で示される化合物の塩があげられるがこれらに限定されるものではない。
【0013】
一般式(3)におけるZ、Z、Z、Zにおけるアルキル基の例としてはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルなどが挙げられ、ヒドロキシアルキル基の例としてはヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基等のヒドロキシ−(C1〜C4)アルキル基が挙げられ、ヒドロキシアルコキシアルキル基の例としては、ヒドロキシエトキシメチル基、2−ヒドロキシエトキシエチル基、3−ヒドロキシエトキシプロピル基、2−ヒドロキシエトキシプロピル基、4−ヒドロキシエトキシブチル基、3−ヒドロキシエトキシブチル基、2−ヒドロキシエトキシブチル基等ヒドロキシ(C1〜C4)アルコキシ−(C1〜C4)アルキル基が挙げられ、これらのうちヒドロキシエトキシ−(C1〜C4)アルキル基が好ましい。特に好ましいものとしては水素原子;メチル基;ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基等のヒドロキシ−(C1〜C4)アルキル基;ヒドロキシエトキシメチル基、2−ヒドロキシエトキシエチル基、3−ヒドロキシエトキシプロピル基、2−ヒドロキシエトキシプロピル基、4−ヒドロキシエトキシブチル基、3−ヒドロキシエトキシブチル基、2−ヒドロキシエトキシブチル基等のヒドロキシエトキシ−(C1〜C4)アルキル基が挙げられる。
【0014】
一般式(3)におけるZ、Z、Z、Zの具体例を(表1)に示す。
【0015】

【0016】
一般式(1)及び(2)で示される本発明のトリスアゾ化合物は、例えば次のような方法で合成することができる。ここでは、一般式(2)で示されるトリスアゾ化合物で例を挙げるが、一般式(1)で示されるトリスアゾ化合物についても同様の方法で合成することができる。また各工程における化合物の構造式は遊離酸の形で表すこととする。すなわち、2−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸とp−トルエンスルホニルクロライドとのアルカリ存在下での反応により得られる式(4)
【0017】

【0018】
で表される化合物を常法によりジアゾ化し式(5)
【0019】

【0020】
で表される化合物とカップリング反応し、生成した式(6)
【0021】

【0022】
で表される化合物に、式(7)
【0023】

【0024】
(式中R及びRは前記と同じ意味を有する。)
で表される化合物を常法によりジアゾ化したものをカップリング反応させ、得られる式(8)
【0025】

【0026】
(式中R及びRは前記と同じ意味を有する。)
で表される化合物をアルカリ条件下、加水分解し式(9)
【0027】

【0028】
(式中R及びRは前記と同じ意味を有する。)
で表される化合物を得る。これに一般式(10)
【0029】

【0030】
(式中R、R及びRは前記と同じ意味を有する。)
で表される化合物を常法によりジアゾ化したものをカップリングさせ一般式(2)で表される本発明のトリスアゾ化合物を得ることができる。
【0031】
一般式(1)に示した化合物の好適な例として、特に限定されるものではないが、具体的に下記の構造式のものが挙げられる。
【0032】

【0033】

【0034】

【0035】

【0036】
2−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸とp−トルエンスルホニルクロライドとの反応による式(4)の化合物の合成はそれ自体公知の方法で実施され、例えば水性または水性有機媒体中、例えば20〜100℃、好ましくは30〜80℃の温度ならびに中性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは弱アルカリ性のpH値、たとえばpH8〜11で実施される。このpH値の調整は塩基の添加によって実施される。
塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩などが使用できる。2−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸に対しp−トルエンスルホニルクロライドは、1〜1.5倍モル用いる。
【0037】
式(4)の化合物のジアゾ化はそれ自体公知の方法で実施され、たとえば無機酸媒質中、例えば−5〜30℃、好ましくは5〜15℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(4)の化合物のジアゾ化物と式(5)の化合物とのカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水性または水性有機媒体中、例えば−5〜30℃、好ましくは5〜20℃の温度ならびに酸性から中性のpH値で行うことが有利である。カップリング浴は酸性化するが、好ましくは酸性から弱酸性のpH値、たとえばpH1〜4で実施される。このpH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩、アンモニアまたは有機アミンなどが使用できる。式(4)と(5)の化合物は、ほぼ化学量論量で用いる。
【0038】
式(7)の化合物のジアゾ化もそれ自体公知の方法で実施され、たとえば無機酸媒質中例えば−5〜30℃、好ましくは0〜15℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(7)の化合物のジアゾ化物と式(6)の化合物のカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水性または水性有機媒体中、例えば−5〜30℃、好ましくは10〜25℃の温度ならびに弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは弱酸性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH5〜10で実施され、pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩、あるいはアンモニアまたは有機アミンなどが使用できる。式(6)と(7)の化合物は、ほぼ化学量論量で用いる。
【0039】
式(8)の化合物の加水分解による一般式(9)の化合物の製造もそれ自体公知の方法で実施される。有利には水性アルカリ性媒質中で加熱する方法であり、たとえば一般式(8)の化合物を含有する溶液に水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを加えpHを9.5以上としたのち、例えば20〜150℃の温度、好ましくは30〜100℃の温度に加熱することによって実施される。このとき反応溶液のpH値は9.5〜11.5に維持することが好ましい。このpH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基は前記したものを用いることができる。
【0040】
一般式(10)の化合物のジアゾ化もそれ自体公知の方法で実施され、たとえば無機酸媒質中例えば−5〜30℃、好ましくは0〜15℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。一般式(10)の化合物のジアゾ化物と式(9)の化合物のカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水性または水性有機媒体中、例えば5〜40℃、好ましくは10〜25℃の温度ならびに弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは中性からアルカリ性のpH値、たとえばpH5〜10で実施され、pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩、あるいはアンモニアまたは有機アミンなどが使用できる。一般式(9)と(10)の化合物は、ほぼ化学量論量で用いる。
【0041】
本発明の一般式(1)で示されるトリスアゾ化合物またはその塩(以下断りの無い限り化合物又はその塩を単に化合物と記す。)は、カップリング反応後、鉱酸の添加により遊離酸の形で単離する事ができ、これから水または酸性化した水による洗浄により無機塩を除去する事が出来る。次に、この様にして得られる低い塩含有率を有する酸型色素は、水性媒体中で所望の無機又は有機の塩基により中和することで対応する塩の溶液とすることが出来る。無機の塩基の例としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などが挙げられ、有機の塩基の例としては、有機アミン、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミンなどがあげられるがこれらに限定されるものではない。
【0042】
本発明のインク組成物について説明する。本発明の前記一般式(1)で表されるトリスアゾ化合物を含む水性組成物は、セルロースからなる材料を染色することが可能である。また、その他カルボンアミド結合を有する材料にも染色が可能で、皮革、織物、紙の染色に幅広く用いることができる。一方、本発明の化合物の代表的な使用法としては、液体の媒体に溶解してなるインク組成物が挙げられる。
【0043】
前記一般式(1)で示される本発明のトリスアゾ化合物を含む反応液は、インク組成物の製造に直接使用する事が出来る。しかし、まずこれを乾燥、例えばスプレー乾燥させて単離するか、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム等の無機塩類によって塩析するか、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸によって酸析するか、あるいは前記した塩析と酸析を組み合わせた酸塩析することによって本発明のアゾ化合物を取り出し、次にこれをインク組成物に加工することもできる。
【0044】
本発明のインク組成物は、一般式(1)で示される本発明のトリスアゾ化合物を通常0.1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜8質量%含有する水を主要な媒体とする組成物である。本発明のインク組成物には、さらに水溶性有機溶剤を例えば0〜30質量%、インク調製剤を例えば0〜5質量%含有していても良い。なお、インク組成物のpHとしては、保存安定性を向上させる点で、pH5〜11が好ましく、pH7〜10がより好ましい。また、着色組成物の表面張力としては、25〜70mN/mが好ましく、25〜60mN/mがより好ましい。さらに、着色組成物の粘度としては、30mPa・s以下が好ましく、20mPa・s以下がより好ましい。
【0045】
本発明のインク組成物は、前記の一般式(1)で示されるトリスアゾ化合物を水または水溶性有機溶媒(有機溶剤又は水と混和可能な有機溶剤含有水)に溶解し、必要に応じインク調製剤を添加したものである。。このインク組成物をインクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合、トリスアゾ化合物としては金属陽イオンの塩化物、硫酸塩等の無機物の含有量が少ないものを用いるのが好ましく、その含有量の目安は例えば1質量%以下(対色素原体)程度である。無機物の少ないトリスアゾ化合物を製造するには、例えば逆浸透膜による通常の方法又は本発明のトリスアゾ化合物の乾燥品あるいはウェットケーキをメタノール等のアルコール及び水の混合溶媒中で撹拌し、濾過、乾燥するなどの方法で脱塩処理すればよい。
【0046】
前記インク組成物の調製において用いうる水溶性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1〜C4アルカノール、N,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド、2−ピロリドン、N−メチルピロリジン−2−オン等のラクタム、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オンまたは1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の環式尿素類、アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトンまたはケトアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール等の(C2〜C6)アルキレン単位を有するモノマー、オリゴマーまたはポリアルキレングリコールまたはチオグリコール、グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(トリオール)、エチレングリコールモノメチルエーテルまたはエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル又はジエチレングリコールモノエチルエーテル又はトリエチレングリコールモノメチルエーテル又はトリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールの(C1〜C4)アルキルエーテル、γ−ブチロラクトンまたはジメチルスルホキシド等があげられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0047】
前記インク組成物の調製において用いられるインク調製剤としては、例えば防腐剤、防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、染料溶解剤、酸化防止剤、界面活性剤などがあげられる。その具体例について説明する。
【0048】
前記防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン及びその塩等が挙げられる。これらは着色組成物中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
【0049】
防腐剤としては、例えば有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ベンゾチアゾール系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオシキド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオシキド系化合物としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウムが挙げられ、無機塩系化合物としては、例えば無水酢酸ソーダが挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。
【0050】
pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼさずに、インクのpHを例えば5〜11の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。その例として、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミンなどのアルカノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム(アンモニア)、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩、酢酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム等の無機塩基などが挙げられる。
【0051】
キレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウムなどがあげられる。
【0052】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグルコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトなどがあげられる。
【0053】
水溶性紫外線吸収剤としては、例えばスルホン化したベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ−ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物が挙げられる。
【0054】
水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等があげられる。
【0055】
染料溶解剤としては、例えばε−カプロラクタム、エチレンカーボネート、尿素などが挙げられる。
【0056】
酸化防止剤としては、例えば、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。前記有機系の褪色防止剤としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、複素環類、等が挙げられる。
【0057】
界面活性剤としては、例えばアニオン系、カチオン系、ノニオン系などの公知の界面活性剤が挙げられる。アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホン酸、アルキルカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸およびその塩、N−アシルメチルタウリン塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリルスルホン塩酸、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩などが挙げられる。カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体などがある。両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシンその他イミダゾリン誘導体などがある。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアリルキルアルキルエーテルなどのエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オールなどのアセチレングリコール系(例えば、日信化学社製サーフィノール104、105、82、465、オルフィンSTGなど)、などが挙げられる。これらのインク調製剤は、単独もしくは混合して用いられる。
【0058】
本発明のインク組成物は前記各成分を任意の順序で混合、撹拌することによって得られる。得られたインク組成物は狭雑物を除く為にメンブランフィルター等で濾過を行ってもよい。また、黒の色味を調整するため、種々の色相を有するその他の色素を混合してもよい。その場合、本発明の一般式(1)で示されるアゾ化合物以外に、他の色相を有する黒色や、黄色、マゼンタ色、シアン色、その他の色の色素を用いることができる。
【0059】
本発明のインク組成物は、各種分野において使用することができるが、筆記用水性インク、水性印刷インク、情報記録インク等に好適であり、該インク組成物を含有してなるインクジェット用インクとして用いることが、特に好ましく、後述するインクジェット記録方法において好適に使用される。
インクジェット記録方法では、本発明のインク組成物はイエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物と併用しうる。各色のインク組成物は、それぞれの容器に注入される。
本発明のインクジェットプリンタは本発明のインク組成物を含む容器を所定位置にセット(装填)したインクジェットプリンタである。
【0060】
適用しうるインクジェット記録方法においては、前記インク組成物を含有してなるインクジェット用インクを用いて受像材料に記録を行うが、その際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の方法、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等を用いることができる。なお、前記インクジェット記録方式には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0061】
本発明の着色体は前記の本発明の化合物又はこれを含有するインク組成物で着色されたものであり、より好ましくは本発明のインク組成物を用いてインクジェットプリンタによって着色されたものである。着色されうるものとしては、例えば紙、フィルム等の情報伝達用シート、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等が挙げられる。情報伝達用シートとしては、表面処理されたもの、具体的には紙、合成紙、フィルム等の基材にインク受容層を設けたものが好ましい。インク受容層には、例えば上記基材にカチオン系ポリマーを含浸あるいは塗工することにより、また多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックスなどのインク中の色素を吸収し得る無機微粒子をポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと共に上記基材表面に塗工することにより設けられる。このようなインク受容層を設けたものは通常インクジェット専用紙(フィルム)、光沢紙(フィルム)等と呼ばれ、例えば代表的な市販品としてはピクトリコ(旭硝子(株)製)、プロフェッショナルフォトペーパー、スーパーフォトペーパー、マットフォトペーパー(いずれもキヤノン(株)製)、PM写真用紙(光沢)、PMマット紙(いずれもセイコーエプソン(株)製)、プレミアムプラスフォト用紙、プレミアム光沢フィルム、フォト用紙(いずれも日本ヒューレット・パッカード(株)製)フォトライクQP(コニカ(株)製)等がある。なお、普通紙も利用できることはもちろんである。
【0062】
本発明のトリスアゾ化合物は水溶解性に優れ、このトリスアゾ化合物を含有する本発明のインク組成物は長期間保存後の結晶析出、物性変化、色変化等もなく、貯蔵安定性が良好である。又、本発明のトリスアゾ化合物を含有する記録用ブラックインク液は、インクジェット記録用、筆記用具用として用いられ、普通紙及びインクジェット専用紙に記録した場合に印字濃度の高い黒色を呈し、さらに耐オゾンガス性、耐光性、耐湿性及び演色性に優れている。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、本文中「部」及び「%」とあるのは、特別の記載のない限り質量基準である。また、カルボキシル基、スルホ基は遊離酸の形で表す。
【0064】
[実施例1−1]
2−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸20.1部とp−トルエンスルホニルクロライド12.6部とをpH8.0〜8.5、70℃で1時間反応させた後、酸性にて塩析、ろ過して得られる式(4)の化合物28.4部を水300部中に、炭酸ナトリウムでpH6.0〜8.0に調製しながら溶解し、35%塩酸18.7部の添加後、0〜5℃とし、40%亜硝酸ナトリウム水溶液10.7部を添加し、ジアゾ化した。
【0065】

【0066】
このジアゾ懸濁液に4−アミノ−5−ヒドロキシナフタレン−1,7−ジスルホン酸19.1部を水200部に懸濁した液を添加した後、10〜20℃で溶液のpH値を炭酸ナトリウムにて2.4〜2.8に保持しながら12時間攪拌した。攪拌後pH値を炭酸ナトリウムにて7.0〜8.5として溶解し、式(6)のモノアゾ化合物を含む溶液を得た。
【0067】

【0068】
水150部に4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム14.4部を溶解し、ここに0〜5℃で35%塩酸18.8部、40%亜硝酸ナトリウム水溶液10.6部を添加しジアゾ化した。このジアゾ懸濁液を、上記反応にて得られた式(6)のモノアゾ化合物を含む溶液に10〜20℃、溶液のpH値を炭酸ナトリウムにて8.0〜9.0に保持しながら滴下した。滴下終了後、15〜30℃で2時間、pH8.0〜9.0で攪拌し、塩化ナトリウムの添加により塩析し、濾過することで式(1−8)の化合物を含むウェットケーキを得た。
【0069】

【0070】
上記で得られたウェットケーキを水400部に溶解し、70℃に加熱後、水酸化ナトリウムにてpH値を10.5〜11.0に保持しながら1時間攪拌した。室温まで冷却後、35%塩酸によりpH7.0〜8.0とし、塩化ナトリウムを加えて塩析を行い、濾過して式(1−9)の化合物を含むウェットケーキを得た。
【0071】

【0072】
水100部に4−メトキシアニリン−2−スルホン酸11.0部を水酸化ナトリウムの添加によりpH5.0〜7.0として溶解し、ここに0〜5℃で35%塩酸15.8部、40%亜硝酸ナトリウム水溶液9.6部を添加しジアゾ化した。このジアゾ懸濁液を水300部に上記で得られた式(1−9)の化合物を含むウェットケーキを水酸化ナトリウムでpH8.0〜9.0に調製しながら溶解した溶液に、15〜30℃、溶液のpH値を炭酸ナトリウムにて8.0〜9.0に保持しながら滴下した。滴下終了後、15〜30℃で3時間、pH8.0〜9.0で攪拌しカップリング反応を完結させた後、塩化ナトリウムを加えて塩析し、濾過した。得られたウェットケーキを水220部に溶解し、メタノール300部の添加により晶析、ろ過した。更に得られたウェットケーキを水150部に溶解後、35%塩酸の添加によりpH値を0.5以下とした後、水酸化リチウムの添加により溶解した。この溶液にメタノール200部及び2−プロパノール50部の添加により晶析し、ろ過、乾燥して本発明の式(11)の化合物(表2における化合物No.1)38.0部を得た。この化合物の水中での最大吸収波長(λmax)は595nmであり、また水への溶解度は100g/l以上であった。
【0073】

【0074】
[実施例1−2]
実施例1−1の4−メトキシアニリン−2−スルホン酸11.0部を5−スルホアンスラニル酸11.7部とする以外は実施例1−1と同様の方法で本発明の式(12)(表2における化合物No.2)の化合物36.2部を得た。この化合物の水中での最大吸収波長は591nmであり、また水への溶解度は100g/l以上であった。
【0075】

【0076】
[実施例1−3]
実施例1−1の4−メトキシアニリン−2−スルホン酸11.0部を2−アミノテレフタル酸9.8部とする以外は実施例1−1と同様の方法で本発明の式(13)(表2における化合物No.3)の化合物30.4部を得た。この化合物の水中での最大吸収波長は590nmであり、また水への溶解度は100g/l以上であった。
【0077】

【0078】
[実施例1−4]
実施例1−1の4−メトキシアニリン−2−スルホン酸11.0部を5−スルファモイルアンスラニル酸11.7部とする以外は実施例1−1と同様の方法で本発明の式(14)(表2における化合物No.4)の化合物31.8部を得た。この化合物の水中での最大吸収波長は591nmであり、また水への溶解度は100g/l以上であった。
【0079】

【0080】
[実施例1−5]
実施例1−1の4−メトキシアニリン−2−スルホン酸11.0部を4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム12.9部とする以外は実施例1−1と同様の方法で本発明の式(15)(表2における化合物No.5)の化合物37.8部を得た。この化合物の水中での最大吸収波長は594nmであり、また水への溶解度は100g/l以上であった。
【0081】

【0082】
[実施例1−6]
実施例1−1の4−メトキシアニリン−2−スルホン酸11.0部を5−(N−メチルスルファモイル)アンスラニル酸12.4部とする以外は実施例1−1と同様の方法で本発明の式(16)(表3における化合物No.9)の化合物32.3部を得た。この化合物の水中での最大吸収波長は592nmであり、また水への溶解度は100g/l以上であった。
【0083】

【0084】
[実施例1−7]
実施例1−1の4−メトキシアニリン−2−スルホン酸11.0部を3−アミノ−7−ニトロナフタレン−1,5−ジスルホン酸18.8部とする以外は実施例1−1と同様の方法で本発明の式(17)(表4における化合物No.20)の化合物30.9部を得た。この化合物の水中での最大吸収波長は591nmであり、また水への溶解度は100g/l以上であった。
【0085】

【0086】
[実施例1−8〜1−12]
(A)インクの作製
下記各成分を混合することにより本発明のインク組成物を調製し、次いで0.45μmのメンブランフィルターで濾過する事により狭雑物を除去した。また水はイオン交換水を使用した。尚、インク組成物のpHがpH=8.0〜10.0になるように水、水酸化リチウムを加えた。
【0087】

【0088】
表6において、上記実施例で得られた化合物とは、実施例1−8は式(11)の化合物を、実施例1−9は式(12)の化合物を、実施例1−10は式(13)の化合物を、実施例1−11は式(14)の化合物を、実施例1−12は式(15)の化合物をそれぞれ示す。インク調製時のpHは8〜10に水酸化リチウムで調製した。この水性インク組成物は、貯蔵中、沈殿分離が生ぜず、また長期間保存後においても物性の変化は生じなかった。
【0089】
(B)インクジェットプリント
上記で得られたそれぞれのインク組成物を使用し、インクジェットプリンタ(商品名Canon社 BJ−S630)により、普通紙(キヤノン社 LBP PAPER LS−500)、専用光沢紙A(キヤノン社 プロフェッショナルフォトペーパー PR−101)及び専用光沢紙B(EPSON社 PM写真用紙(光沢) KA420PSK)の3種の紙にインクジェット記録を行った。
印刷の際は、反射濃度が数段階の階調が得られるように画像パターンを作り、ハーフトーンの黒色印字物を得た。印刷時はグレースケールモードを用いているため、この淡色部分においては黒色記録液以外のイエロー、シアン、マゼンタの各記録液が併用されていない。以下に記する試験方法のうち、測色機を用いて評価する項目である印字濃度評価では、印刷物の反射濃度D値を測色する際に、このD値が最も高い部分を用いた。また、同様に測色機を用いて評価する項目である耐光性試験、耐オゾンガス性試験の測定の際には、試験前の印刷物の反射濃度D値が1.0に最も近い階調部分を用いて測定を行った。
【0090】
(C)記録画像の評価
本発明の水性インク組成物による記録画像につき、印字濃度、耐光性試験後の濃度および色相変化、耐オゾンガス性試験後の色相変化3点について評価を行った。尚、耐オゾンガス性試験、耐湿性試験は、専用光沢紙A,Bについてのみ行った。その結果を(表7)に示した。試験方法は下記に示した。
また試験片の一部を評価試験機に入れず保管し、次に説明する試験判定用の「試験前」の試験片とした。
(1)印字濃度評価
記録画像の色相濃度はGretag Macbeth SpectroEye(GRETAG社製)を用いて測色し、印字濃度D値を算出した。以下に判定基準を示す。
○ 普通紙:1.2≦D 光沢紙:2.2≦D
△ 普通紙:1.0≦D<1.2 光沢紙:1.9≦D<2.2
× 普通紙:D<1.0 光沢紙:D<1.9
(2)耐光性試験
キセノンウェザオメーターCi4000(ATLAS社製)を用い、試験片に0.36W/平方メートルの照度で50時間照射した。試験終了後上記の測色システムを用いて試験前後の色差(ΔE)及び色相濃度の減少率を測定した。判定は以下の基準により行った。
○ ΔE:5未満、残存率:90%以上
△ ΔEと残存率のどちらか一方だけが○の条件を満たせない
× ΔE:5以上、残存率:90%未満
(3)耐オゾンガス性試験
耐オゾンガス性試験用の試験片として、各印刷サンプル3時間試験用と6時間試験用の2片ずつ用意した。オゾンウェザーメーター(スガ試験機社製)を用いてオゾン濃度を40ppm、湿度60%RH、温度24℃で印刷サンプルを放置した。各印刷サンプルのうち1片は3時間、もう1片は6時間放置した。試験終了後上記の測色システムを用いて試験前後の色差(ΔE)及び色相濃度の減少率を測定した。判定は以下を目安に行った。
○ 試験時間3時間でΔEが10未満、且つ、6時間でΔEが20未満
△ 試験時間3時間でΔEが10以上、又は、6時間でΔEが20以上
× 試験時間3時間でΔEが10以上、且つ、6時間でΔEが20以上
【0091】
比較例1−1
比較対象として水溶性インクジェット用色素として、特許文献1の表1−1の1の色素(下記式(18))を用いて実施例1−8と同様のインク組成でインク組成物を調製した。得られた記録画像の印字濃度評価、耐光性評価、耐オゾンガス性評価の結果を(表7)に示した。
【0092】

比較例1−2
同様に、比較対象として水溶性インクジェット用色素として、特許文献3の実施例1で説明される色素AN−250(下記式(19))を実施例1−8と同様のインク組成でインク組成物を調製した。得られた記録画像の印字濃度評価、耐光性評価、耐オゾンガス性評価の結果を(表7)に示した。
【0093】

【0094】

【0095】
(表7)より、本発明のトリスアゾ化合物を含有するインク組成物は印字濃度が高く、従来の黒色染料(比較例)と比較して耐オゾンガス性、耐光性において優れていることがわかる。
【0096】
[実施例2−1]
(1)2−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸20.1部とp−トルエンスルホニルクロライド12.6部とをpH8.0〜8.5、70℃で1時間反応させた後、酸性にて塩析、ろ過して得られる下記式(4)の化合物28.4部を水300部中に、炭酸ナトリウムでpH6.0〜8.0に調製しながら溶解し、35%塩酸18.7部の添加後、0〜5℃とし、40%亜硝酸ナトリウム水溶液10.7部を添加し、ジアゾ化した。
【0097】

【0098】
このジアゾ懸濁液に4−アミノ−5−ヒドロキシナフタレン−1,7−ジスルホン酸19.1部を水200部に懸濁した液を添加した後、10〜20℃で溶液のpH値を炭酸ナトリウムにて2.4〜2.8に保持しながら12時間攪拌した。攪拌後pH値を炭酸ナトリウムにて7.0〜8.5として溶解し、下記式(6)のモノアゾ化合物を含む溶液を得た。
【0099】

【0100】
(2)水150部に4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム14.4部を溶解し、ここに0〜5℃で35%塩酸18.8部、40%亜硝酸ナトリウム水溶液10.6部を添加しジアゾ化した。このジアゾ懸濁液を、上記反応にて得られた式(5)のモノアゾ化合物を含む溶液に10〜20℃、溶液のpH値を炭酸ナトリウムにて8.0〜9.0に保持しながら滴下した。滴下終了後、15〜30℃で2時間、pH8.0〜9.0で攪拌し、塩化ナトリウムの添加により塩析し、濾過することで下記式(1−8)の化合物を含むウェットケーキを得た。
【0101】

【0102】
上記で得られたウェットケーキを水400部に溶解し、70℃に加熱後、水酸化ナトリウムにてpH値を10.5〜11.0に保持しながら1時間攪拌した。室温まで冷却後、35%塩酸によりpH7.0〜8.0とし、塩化ナトリウムを加えて塩析を行い、濾過して下記式(1−9)の化合物を含むウェットケーキを得た。
【0103】

【0104】
(3)水70部に2−アミノベンゼン−1,4−ジスルホン酸モノナトリウム塩12.2部を水酸化ナトリウムの添加によりpH5.0〜7.0として溶解し、ここに0〜5℃で35%塩酸12.7部、40%亜硝酸ナトリウム水溶液8.0部を添加しジアゾ化した。このジアゾ懸濁液を水300部に、上記で得られた式(1−9)の化合物を含むウェットケーキを水酸化ナトリウムでpH8.0〜9.0に調製しながら溶解した溶液に、15〜30℃、溶液のpH値を炭酸ナトリウムにて8.0〜9.0に保持しながら滴下した。滴下終了後、15〜30℃で3時間、pH8.0〜9.0で攪拌しカップリング反応を完結させた後、塩化ナトリウムを加えて塩析し、濾過した。得られたウェットケーキを水200部に溶解し、メタノール150部及び2−プロパノール350部の添加により晶析、ろ過した。この操作を2回繰り返し、得られたケーキを乾燥して本発明の式(2−10)の化合物45.0部を得た。この化合物の水中での最大吸収波長(λmax)は592nmであり、また水(アンモニアアルカリ性)への溶解度は120g/l以上であった。
【0105】

【0106】
[実施例2−2]
(A)インクの作製
下記表8に記載の各成分を混合することにより本発明のインク組成物を調製し、0.45μmのメンブランフィルターで濾過する事により夾雑物を除いた。また水はイオン交換水を使用した。尚、インク組成物のpHがpH=8〜9になるように水、水酸アンモニウムを加えた。
【0107】

【0108】
この水性インク組成物は、貯蔵中、沈殿分離が生ぜず、また長期間保存後においても物性の変化は生じなかった。
【0109】
(B)インクジェットプリント
上記で得られたそれぞれのインク組成物を使用し、インクジェットプリンタ(商品名Canon社 BJ−S630)により、普通紙(キヤノン社 LBP PAPER LS−500)、専用光沢紙PR(キヤノン社 プロフェッショナルフォトペーパー PR−101)及び専用光沢紙PM(EPSON社 PM写真用紙(光沢)KA420PSK)の3種の紙にインクジェット記録を行った。
印刷の際は、反射濃度が数段階の階調が得られるように画像パターンを作り、ハーフトーンの黒色印字物を得た。印刷時はグレースケールモードを用いているため、黒色記録液以外のイエロー、シアン、マゼンタの各記録液は併用されていない。以下に記する試験方法のうち、測色機を用いて評価する項目である印字濃度評価では、印刷物の反射濃度D値を測色する際に、このD値が最も高い部分を用いた。また、同様に測色機を用いて評価する項目である耐光性試験、耐オゾンガス性試験の測定の際には、試験前の印刷物の反射濃度D値が1.0に最も近い階調部分を用いて測定を行った。
このインクを用いて、普通紙を1日10枚ずつ1ヶ月プリントを実施したが、カスレなどをまったく生ぜず良好なプリントが維持できた。
【0110】
(C)記録画像の評価
本発明の水性インク組成物による記録画像につき、印字濃度、耐光性試験後の濃度変化、耐オゾンガス性試験後の色相変化3点について評価を行った。尚、耐オゾンガス性試験は、専用光沢紙PR,PMについてのみ行った。その結果を(表9)に示した。試験方法は下記に示した。また試験片の一部を評価試験機に入れず保管し、次に説明する試験判定用の「試験前」の試験片とした。
【0111】
1)印字濃度評価
記録画像の色相濃度はGRETAG・SPM50(GRETAG社製)を用いて測色し、印字濃度D値を算出した。以下に判定基準を示す。
○ 普通紙:1.2≦D 光沢紙:2.0≦D
△ 普通紙:1.0≦D<1.2 光沢紙:1.8≦D<2.0
× 普通紙:D<1.0 光沢紙:D<1.8
2)耐光性試験
キセノンウェザオメーターCi4000(ATLAS社製)を用い、印刷サンプルに0.36W/平方メートルの照度で50時間照射した。試験終了後上記の測色システムを用いて試験前後の色相濃度の残存率を測定した。判定は以下を目安に行った。
○ 残存率:95%以上
△ 残存率:95%未満で90%以上
× 残存率:90%未満
3)耐オゾンガス性試験
オゾンウェザーメーター(スガ試験機社製)を用いてオゾン濃度を40ppm、湿度60%RH、温度24℃で印刷サンプルを6時間放置した。試験終了後上記の測色システムを用いて試験前後のΔE(色差)を測定した。判定は以下を基準に行った。
○ 試験時間6時間でΔEが15未満
△ 試験時間6時間でΔEが15以上で30未満
× 試験時間6時間でΔEが30以上
(D)溶解度
染料を秤取し、120、100、80、60g/lの各濃度の水溶液を調整した。水はイオン交換水を用い、アンモニア水にてPH9〜9.5に調整した。これを常温にて超音波槽にて5分処理した。東洋ろ紙No.131にこれをスポットし、乾燥後の表面を観察し、溶解度を判定した。スポットが均一で不溶物が観察されないものは溶解していると判断した。スポットが不均一で不溶物が観察されるものは溶解していないと判断した。結果を(表9)に示した。
【0112】
比較例2−1
比較対象として水溶性インクジェット用色素として、特許文献1の表1−1の1の色素(下記式(18))を実施例2−2と同様のインク組成でインク組成物を調製した。溶解度および得られた記録画像の印字濃度評価、耐光性評価、耐オゾンガス性評価の結果を(表9)に示した。
【0113】

【0114】
比較例2−2
同様に、比較対象として水溶性インクジェット用色素として、特許文献3の実施例1で説明される色素AN−250(下記式(19))を実施例2−2と同様のインク組成でインク組成物を調製した。溶解度および得られた記録画像の印字濃度評価、耐光性評価、耐オゾンガス性評価の結果を(表9)に示した。
【0115】

【0116】

【0117】
(表9)より、又本発明のアゾ化合物を含有するインク組成物は印字濃度が高く、比較例2−1、2−2と比べて耐光性、耐オゾンガス性が優れていることがわかる。また本発明のトリスアゾ化合物は溶解度が高く、安定な高濃度のインクが設計できることがわかる。
【0118】
[実施例3−1]
実施例1−1の4−メトキシアニリン−2−スルホン酸11.0部を5−アミノイソフタル酸9.8部とする以外は実施例1−1と同様の方法で本発明の式(3−1)(表5におけるNo.24の化合物)の化合物31.1部を得た。この化合物の水中での最大吸収波長は591nmであり、また水への溶解度は100g/l以上であった。
【0119】

【0120】
[実施例3−2]
実施例1−1の4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム14.4部を2−ニトロアニリン−4−スルホン酸ナトリウム14.4部とすること及び4−メトキシアニリン−2−スルホン酸11.0部を5−アミノイソフタル酸9.8部とする以外は実施例1−1と同様の方法で本発明の式(3−2)(表5におけるNo.26の化合物)の化合物29.0部を得た。この化合物の水中での最大吸収波長は597nmであり、また水への溶解度は100g/l以上であった。
【0121】

【0122】
[実施例3−3〜3−4]
(A)インクの作製
下記表10に記載の各成分を混合することにより本発明のインク組成物を調製し、0.45μmのメンブランフィルターで濾過する事により夾雑物を除いた。また水はイオン交換水を使用した。尚、インク組成物のpHがpH=8〜9になるように水、水酸アンモニウムを加えた。
【0123】

【0124】
表10において、上記実施例で得られた化合物とは、実施例3−3は式(3−1)の化合物を、実施例3−4は式(3−2)の化合物をそれぞれ示す。この水性インク組成物は、貯蔵中、沈殿分離が生ぜず、また長期間保存後においても物性の変化は生じなかった。
【0125】
(B)インクジェットプリント
上記で得られたそれぞれのインク組成物を使用し、インクジェットプリンタ(商品名Canon社 BJ−S630)により、普通紙(キヤノン社 LBP PAPER LS−500)、専用光沢紙PR(キヤノン社 プロフェッショナルフォトペーパー PR−101)及び専用光沢紙PM(EPSON社 PM写真用紙(光沢)KA420PSK)の3種の紙にインクジェット記録を行った。
印刷の際は、反射濃度が数段階の階調が得られるように画像パターンを作り、ハーフトーンの黒色印字物を得た。印刷時はグレースケールモードを用いているため、この淡色部分においては黒色記録液以外のイエロー、シアン、マゼンタの各記録液が併用されていない。以下に記す試験方法のうち、測色機を用いて評価する項目である印字濃度評価では、印刷物の反射濃度D値を測色する際に、このD値が最も高い部分を用いた。また、同様に測色機を用いて評価する項目である耐光性試験、耐オゾンガス性試験の測定の際には、試験前の印刷物の反射濃度D値が1.0に最も近い階調部分を用いて測定を行った。
【0126】
(C)記録画像の評価
本発明の水性インク組成物による記録画像につき、印字濃度、耐光性試験後の濃度変化、耐オゾンガス性試験後の色相変化3点について評価を行った。尚、耐オゾンガス性試験は、専用光沢紙PR,PMについてのみ行った。その結果を(表11)に示した。試験方法は下記に示した。また試験片の一部を評価試験機に入れず保管し、次に説明する試験判定用の「試験前」の試験片とした。
【0127】
1)印字濃度評価
記録画像の色相濃度はGRETAG・SPM50(GRETAG社製)を用いて測色し、印字濃度D値を算出した。以下に判定基準を示す。
○ 普通紙:1.2≦D 光沢紙:2.0≦D
△ 普通紙:1.0≦D<1.2 光沢紙:1.8≦D<2.0
× 普通紙:D<1.0 光沢紙:D<1.8
2)耐光性試験
キセノンウェザオメーターCi4000(ATLAS社製)を用い、印刷サンプルに0.36W/平方メートルの照度で50時間照射した。試験終了後上記の測色システムを用いて試験前後の色相濃度の残存率を測定した。判定は以下を目安に行った。
○ 残存率:95%以上
△ 残存率:95%未満で90%以上
× 残存率:90%未満
3)耐オゾンガス性試験
オゾンウェザーメーター(スガ試験機社製)を用いてオゾン濃度を40ppm、湿度60%RH、温度24℃で印刷サンプルを6時間放置した。試験終了後上記の測色システムを用いて試験前後のΔE(色差)を測定した。判定は以下を基準に行った。
○ 試験時間6時間でΔEが15未満
△ 試験時間6時間でΔEが15以上で30未満
× 試験時間6時間でΔEが30以上
【0128】
比較例3−1
比較対象として水溶性インクジェット用色素として、特許文献1の表1−1の1の色素(下記式(18))を実施例3−3と同様のインク組成でインク組成物を調製した。得られた記録画像の印字濃度評価、耐光性評価、耐オゾンガス性評価の結果を(表11)に示した。
【0129】

【0130】
比較例3−2
同様に、比較対象として水溶性インクジェット用色素として、特許文献3の実施例1で説明される色素AN−250(下記式(19))を実施例3−3と同様のインク組成でインク組成物を調製した。得られた記録画像の印字濃度評価、耐光性評価、耐オゾンガス性評価の結果を(表11)に示した。
【0131】

【0132】

【0133】
(表11)より、本発明のトリスアゾ化合物を含有するインク組成物は印字濃度が高く、従来の黒色染料(比較例)と比較して耐オゾンガス性、耐光性において優れていることがわかる。
【0134】
[実施例4−1]
水100部に4−メトキシアニリン−2−スルホン酸11.0部を水酸化リチウムの添加によりpH5.0〜7.0として溶解し、ここに0〜5℃で35%塩酸15.8部、40%亜硝酸ナトリウム水溶液9.6部を添加しジアゾ化した。このジアゾ懸濁液を水300部に前記実施例1−1で得られた式(1−9)の化合物を含むウェットケーキを水酸化リチウムでpH8.0〜9.0に調製しながら溶解した溶液に、15〜30℃、溶液のpH値を水酸化リチウムにて8.0〜9.0に保持しながら滴下した。滴下終了後、15〜30℃で3時間、pH8.0〜9.0で攪拌しカップリング反応を完結させた後、塩化リチウムを加えて塩析し、濾過した。得られたウェットケーキを水300部に溶解し、2−プロパノール600部の添加により晶析、ろ過した。更に得られたウェットケーキを水250部に溶解後、2−プロパノール600部の添加により晶析し、ろ過、乾燥して本発明の式(11)の化合物(表2における化合物No.1)を得た。この化合物の水中での最大吸収波長(λmax)は595nmであり、また水への溶解度は100g/l以上であった。
【0135】

【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明のトリスアゾ化合物を含有するインク組成物はインクジェット記録用、筆記用具用ブラックインク液として紙、布帛の染色、着色に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるトリスアゾ化合物またはその塩

(式(1)中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、N−アルキルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、リン酸基、ニトロ基、アシル基、ウレイド基、ヒドロキシ基若しくは(C1〜C4)アルコキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルキル基、ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基若しくはカルボキシル基で置換されても良い(C1〜C4)アルコキシ基またはアシルアミノ基であり、Aはフェニル基またはナフチル基(但し、これらのフェニル基及びナフチル基はハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、アルキル基若しくはフェニル基で置換されても良いスルファモイル基、リン酸基、ニトロ基、アシル基、ウレイド基、ヒドロキシ基若しくは(C1〜C4)アルコキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルキル基、ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基若しくはカルボキシル基で置換されても良い(C1〜C4)アルコキシ基またはアシルアミノ基によって置換されていても良い)を示す。)
【請求項2】
式(1)が下記式(2)で表される請求項1に記載のトリスアゾ化合物またはその塩

(式(2)中、Rはカルボキシル基、スルホ基、または(C1〜C4)アルコキシ基を、Rは水素原子またはスルホ基を、Rはカルボキシル基、スルホ基、または(C1〜C4)アルコキシ基を、Rは水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルファモイル基またはN−(C1〜C4)アルキルアミノスルホニル基を、Rは、水素原子、カルボキシル基またはスルホ基をそれぞれ表す)
【請求項3】
式(2)において、Rはアゾ基に対して2位、ニトロ基は4位、Rは5位、Rはアゾ基に対して2位、Rは4位、Rは5位又は6位に結合している請求項2に記載のトリスアゾ化合物またはその塩
【請求項4】
式(2)において、Rがカルボキシル基またはスルホ基、Rがカルボキシル基、スルホ基、スルファモイル基、N−(C1〜C4)アルキルアミノスルホニル基、ニトロ基、(C1〜C4)アルコキシ基、Rが水素原子またはカルボキシル基であり、Rがアゾ基に対して2位、Rが4位、Rが5位に結合している請求項3に記載のトリスアゾ化合物またはその塩
【請求項5】
式(1)が下記式(2’)で表される請求項1に記載のトリスアゾ化合物またはその塩

(式(2’)中、Rはカルボキシル基またはスルホ基を、Rは水素原子を、Rはスルホ基またはニトロ基を、Rは水素原子またはスルホ基をそれぞれ示す。)
【請求項6】
式(2’)におけるRはアゾ基に対して2位に、フェニル基上のニトロ基は4位に結合しており、R及びRで置換されたナフチル基において、アゾ基はナフチル基の1位または2位であり、Rは5位または6位に、Rは7位または8位に結合している請求項5に記載のトリスアゾ化合物またはその塩
【請求項7】
下記式(2−1)で表されるトリスアゾ化合物またはその塩

【請求項8】
塩がリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩または一般式(3)で表されるアンモニウム塩である請求項1から7のいずれか一項に記載のトリスアゾ化合物の塩

(式(3)中、Z、Z、Z、Zはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基またはヒドロキシアルコキシアルキル基を表す。)
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項記載のトリスアゾ化合物またはその塩を少なくとも1種を有することを特徴とするインク組成物
【請求項10】
請求項9に記載のインク組成物を含む容器を装填したインクジェットプリンタ
【請求項11】
請求項9に記載のインク組成物を用いるインクジェットプリント記録方法
【請求項12】
請求項11に記載のインクジェットプリント方法における被記録材が情報伝達用シートであるインクジェットプリント記録方法
【請求項13】
情報伝達用シートが多孔性白色無機物を含有することを特徴とする請求項12に記載のインクジェットプリント記録方法
【請求項14】
請求項1から8のいずれか一項に記載のトリスアゾ化合物またはその塩によって着色された着色体

【国際公開番号】WO2005/054374
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515911(P2005−515911)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017556
【国際出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】