説明

トリチウム水濃度測定装置及び測定方法

【課題】放射性物質を使用する各種施設においての放射性廃液時に、トリチウム水濃度を即時かつ連続的に測定できる測定装置及び測定方法を提供する。
【解決手段】トリチウムを含む放射性廃液1Aの処理系統1に、定量の水素ガスを吹き込む水素ガス吹込み手段2を設け、この水素ガス吹込み手段2の水素吹込みで発生したトリチウム水蒸気含有水素ガスを導出手段6でガス発生手段7に導いている。トリチウム水蒸気含有水素ガスは、ガス発生手段7で触媒の水素同位体交換反応によりトリチウムガスを発生させ、このトリチウムガス中の水分を水分除去手段9で除去してから、トリチウムガスの放射線量の測定によりトリチウム水の濃度を計測する放射線測定手段14とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリチウム水濃度を即時かつ連続的に測定可能なトリチウム水濃度測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力燃料再処理設備や核融合実験設備、更には放射性物質を使用する各種施設では、利用後の放射性廃棄物は定められた安全管理のもとで処理が行われ、廃棄される。放射性廃棄物のうち放射性廃液は、処理時には廃液中の放射性物質の濃度を測定し、廃液処理の放射性安全管理に役立てている。
【0003】
放射性廃液の放射性物質の濃度を測定、特に放射性同位体であって崩壊時にβ線を放出するトリチウムを含有するトリチウム水の濃度測定には、液体シンチレーションカウンタが用いられている(非特許文献1参照)。液体シンチレーションカウンタの原理は、β線に反応して光を発する性質を持つ液体シンチレータという有機溶媒と被測定液とを、それぞれ定量混合し、混合液が発光する光から放射性物質の量を計測するものである。
【0004】
液体シンチレーションカウンタを用いたトリチウム水濃度測定の手順は、まずバイアルと呼ばれる液体シンチレーションカウンタ専用の測定容器に、一定量の液体シンチレータを入れ、次にトリチウム水を含む溶液を定量して採取する。続いて、両者を混合したバイアルを、液体シンチレーションカウンタに装荷し、外部からの光を遮断した状態で放射線測定を行い、計測された放射性物質の量と、定量したトリチウム水を含む溶液の量とから、トリチウム水の濃度を測定する。
【0005】
放射性物質の量の計測に用いる液体シンチレーションカウンタは、トリチウム水の濃度を測定する上で確立された装置ではあるが、上記のように試料バイアル作成のための前処理と、放射線測定のために即時かつ連続的な濃度測定を行うことが困難であり、トリチウム水の濃度にもよるが、測定には数分から数十分を必要とする。
【0006】
【非特許文献1】石川寛昭著「液体シンチレーション測定法」第65頁から第66頁 南山堂 1992年10月27日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
放射性廃液中からのトリチウムの濃度測定のため、一般的な液体シンチレーションカウンタを用いる場合は、トリチウム水濃度の測定が、即時かつ連続的に行うことができないでいる。このため、厳重な安全管理が求められる放射性廃液を大量に処理する施設に適用できない問題がある。
【0008】
本発明の目的は、放射性物質を使用する各種施設においての放射性廃液時に、トリチウム水濃度を即時かつ連続的に測定できるトリチウム水濃度測定装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のトリチウム水濃度測定装置では、処理系統の放射性廃液中に定量の水素ガスを吹き込む水素ガス吹込み手段と、前記水素ガス吹込み手段の水素吹込みで生ずるトリチウム水蒸気含有水素ガスを導く導出手段と、前記導出手段からのトリチウム水蒸気含有水素ガスを触媒の水素同位体交換反応によりトリチウムガスを発生させるガス発生手段と、前記触媒充填塔からのトリチウムガス中の水分を除去する水分除去手段と、前記水分除去手段から供給するトリチウムガスを測定した放射線量からトリチウム水の濃度を測定する放射線測定手段とを備えて構成したことを特徴とする。
【0010】
前記ガス発生手段は、内部に触媒を充填すると共に、結露防止用のヒータを備えた触媒充填塔にて構成したことを特徴とする。しかも、前記水分除去手段は、前記ガス発生手段と前記放射線測定手段との間に水分除去用のヒータをそれぞれ有する複数の吸湿材充填塔を並列に配置し、前記吸湿材充填塔切り替え可能に構成したことを特徴とする。また、前記水分除去手段は、トリチウムガス発生手段と放射線測定器との間に配置するコールドトラップにて構成したことを特徴とする。
【0011】
更に、本発明のトリチウム水濃度測定方法は、処理系統の放射性廃液中に、定量の水素ガスを吹き込んでトリチウム水蒸気含有水素ガスを生じさせ、前記トリチウム水蒸気含有水素ガスから触媒の水素同位体交換反応でトリチウムガスを発生させ、前記トリチウムガス中の水分を除去した後、トリチウムガスの放射線量の測定からトリチウム水の濃度を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、燃料再処理設備や核融合実験設備等から発生する放射性廃液の処理系統に設けて、放射性廃液中のトリチウム水濃度を即時かつ連続的に測定できるため、放射性廃液処理の放射線管理における安全性の向上に著しく役立てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のトリチウム濃度測定装置は、廃液処理を行う処理系統の放射性廃液中に定量の水素ガスを吹き込む水素ガス吹込み手段を設け、この水素ガス吹込み手段の水素吹込みで生ずるトリチウム水蒸気含有水素ガスを導き出す導出手段を設けている。トリチウム水蒸気含有水素ガスを、触媒の水素同位体交換反応によりトリチウムガスを発生させるガス発生手段とトリチウムガス中の水分を除去する水分除去手段を設けており、水分を除去したトリチウムガスの放射線量の計測からトリチウム水の濃度を測定する放射線測定手段とを備えて構成する。
【実施例1】
【0014】
本発明の図1に示す一実施例のトリチウム水濃度測定装置は、トリチウムを含む放射性廃液1Aの廃液処理を行う処理系統1の一部に、水素ガス吹込み手段2を設け、放射性廃液1A中から後述するトリチウムガス(HT)を抽出する最初の処理を行わせている。この水素ガス吹込み手段2は、水素ガス(H)の供給量を測る計器5を有するガス供給管3の一端に、水素ガスボンベ4を接続し、ガス供給管3の他端を測定対象の放射性廃液中に開口している。
【0015】
ガス供給配管3の他端を放射性廃液1A中に開口させた処理系統1部分には、水素ガスの注入吹込みで発生するトリチウム水蒸気(HTO)含有水素ガスを、外部に導き出すため、例えば逆漏斗状に形成したガス収集部6Aを含む導出手段6を設けている。
【0016】
トリチウム水蒸気含有水素ガスを抽出する導出手段6には、ガス発生手段7を接続している。ガス発生手段7は、例えば白金やパラジウムを担持させた触媒を充填した触媒充填塔を用い、このガス発生手段7内での触媒反応、即ちHTO+H→HT+HOで表される反応によって、水蒸気中のトリチウム原子と水素ガス中の水素原子の交換である同位体反応が起こり、トリチウムガス(HT)を発生させる。
【0017】
ガス発生手段7として用いる触媒充填塔は、内部に充填した触媒に液状の水が付着するとその活性が失われるから、触媒充填塔にはヒータ等の加熱手段8を設け、これによって触媒充填塔内を測定対象の放射性廃液1Aの温度以上に保持して結露を防ぎ、装置を長期間の使用に耐える構造にすることができる。
【0018】
ガス発生手段7で発生させたトリチウムガスは、そのままの状態で水分を含んでいるため、水分除去手段9を接続し、ポンプP1等で導いてトリチウムガス中の水分を除去している。ガス発生手段7と放射線測定手段14との間に介在させる水分除去手段9は、例えばモルキュラーシ−ブやシリカゲル等の吸湿剤を充填した複数の吸湿剤充填塔10を使用する。
【0019】
水分除去手段9として図1に示す例では、2つの吸湿剤充填塔10を並列に配置し、前後に切換弁12及び13を介在させて交互に切り換えて使用し、トリチウムガス中の水分を除去できる構成としている。並列に配置する吸湿剤充填塔10は、一方を使用時に他方では、ヒータ11で加熱して吸湿剤が吸着した水分を除去し、次の使用に備えるようにし、交互使用で長期間用いることができる。
【0020】
水分を除去したトリチウムガスは、水分除去手段9に接続した放射線測定手段14に供給され、放射線量の測定からトリチウム水濃度の計測を実施し、計測後のトリチウムガスを、ポンプP2で排気系統に排出するようにしている。放射線測定手段14は、放射性元素の発生する放射線により生成した電子の量を測定する放射線計測器である電離箱15と、放射線測定量を基にトリチウム水濃度を計測する測定器16より構成する。
【0021】
ある液温の放射性廃液1A中に、定めた量の水素ガスを注入したとき、水素ガスに含有して外部に生ずるトリチウム水蒸気量は相関関係があり、このトリチウム水蒸気量、即ち水換算量と電離箱15での測定電流値との関係を、予めデータ化して測定器16に組み込み、また温度計で測定した放射性廃液1Aの温度の実測値を測定器16に反映させることにより、トリチウム水濃度を容易に計測できる。
【0022】
トリチウムガス中の水分は、発生した電子を吸収する性質があって放射線測定手段14に用いる電離箱15での放射線測定の妨害因子となるが、ガス発生手段7からのトリチウムガスは、水分除去手段9で水分を除去してから、放射線測定手段14に導かれるので、問題なく直ちにかつ連続的にトリチウム水濃度の測定を行うことが可能となる。
【0023】
本発明でのトリチウム水濃度の計測にあたっては、まず処理系統1内の放射性廃液1A中に予め定めた定量の水素ガスを吹き込み、トリチウム水蒸気含有水素ガスを生じさせる。発生したトリチウム水蒸気含有水素ガスは、導出手段6により外部のガス発生手段7に導き出し、ガス発生手段7での触媒の水素同位体交換反応によって、トリチウムガスを発生させる。
【0024】
次に、トリチウムガス中の水分を水分除去手段9において計測に支障のないように除去し、最後に放射線測定手段14において、トリチウムガスの放射線量の測定から、水素ガス注入量と放射性廃液1Aの液温を反映してのトリチウム水濃度の計測が行われる。
【0025】
本測定装置は簡単な構造なので、トリチウムを含む放射性廃液1Aの廃液処理を行う処理系統1には、容易に設置することができ、このため廃液処理場所において、直ちにかつ連続的にトリチウム水濃度の測定が行えるので、放射性廃液処理の放射線管理に有効に活用することができる。
【実施例2】
【0026】
本発明の他の実施例を示す図2の示すトリチウム水濃度測定装置は、ガス発生手段7から供給されるトリチウムガス中の水分を除去する水分除去手段9として、液体窒素を用いたコールドトラップ17を用いたものであり、この他の部分は図1と同様の構成である。この構造においても、上記のように操作して放射性廃液1A中からトリチウムガスを抽出し、水分を除去したトリチウムガスを計測することで、上記した同様な効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例であるトリチウム水濃度測定装置を示す概略図である。
【図2】本発明の他の実施例であるトリチウム水濃度測定装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0028】
1…処理系統、2…水素ガス吹込み手段、3…ガス供給管、4…水素ボンベ、6…導出手段、7…ガス発生手段、9…水分除去手段、10…吸湿剤充填塔、14…放射線測定手段、17…コールドトラップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理系統に設けて放射性廃液中に定量の水素ガスを吹き込む水素ガス吹込み手段と、前記水素ガス吹込み手段の水素吹込みで生ずるトリチウム水蒸気含有水素ガスを導く導出手段と、前記導出手段からのトリチウム水蒸気含有水素ガスを触媒の水素同位体交換反応によりトリチウムガスを発生させるガス発生手段と、前記触媒充填塔からのトリチウムガス中の水分を除去する水分除去手段と、前記水分除去手段から供給するトリチウムガスの放射線量の測定からトリチウム水の濃度を計測する放射線測定手段とを備えて構成したことを特徴とするトリチウム水濃度測定装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ガス発生手段は、内部に触媒を充填すると共に、結露防止用のヒータを備えた触媒充填塔にて構成したことを特徴とするトリチウム水濃度測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記水分除去手段は、前記ガス発生手段と前記放射線測定手段との間に水分除去用のヒータをそれぞれ有する複数の吸湿材充填塔を並列に配置し、前記吸湿材充填塔切り替え可能に構成したことを特徴とするトリチウム水濃度測定装置。
【請求項4】
請求項1又は2において、前記水分除去手段は、トリチウムガス発生手段と放射線測定器との間に配置するコールドトラップにて構成したことを特徴とするトリチウム水濃度測定装置。
【請求項5】
放射性廃液中に定量の水素ガスを吹き込んでトリチウム水蒸気含有水素ガスを生じさせ、トリチウム水蒸気含有水素ガスから触媒の水素同位体交換反応によりトリチウムガスを発生させ、前記トリチウムガス中の水分を除去した後、トリチウムガスの放射線量の測定からトリチウム水の濃度を計測することを特徴とするトリチウム水濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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