トリポード型等速ジョイント
【課題】トルク伝達時における振動を抑制可能なトリポード型等速ジョイントを提供する。
【解決手段】
本発明のトリポード型等速ジョイントは、円筒部の内面に案内溝10a1,10a2を有するアウターレース1と、インナーローラ30及びアウターローラ33とを有するローラ部材3と、回転軸に直交する方向に伸びる3本のトリポード軸部20を有するトリポード部材2とを備え、トリポード軸部20の形状を、先端部から根元部にかけて太くなる形状とするとともに、トリポード軸部20の中心軸に直交する横断面では、インナーローラ30と当接してトルクを伝達するトルク伝達領域の周方向側にトルク伝達領域の外周面の延長線よりも内側に退避した逃げ部20aを形成する。
【解決手段】
本発明のトリポード型等速ジョイントは、円筒部の内面に案内溝10a1,10a2を有するアウターレース1と、インナーローラ30及びアウターローラ33とを有するローラ部材3と、回転軸に直交する方向に伸びる3本のトリポード軸部20を有するトリポード部材2とを備え、トリポード軸部20の形状を、先端部から根元部にかけて太くなる形状とするとともに、トリポード軸部20の中心軸に直交する横断面では、インナーローラ30と当接してトルクを伝達するトルク伝達領域の周方向側にトルク伝達領域の外周面の延長線よりも内側に退避した逃げ部20aを形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリポード型等速ジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トリポード部材のトリポード軸部に、インナーローラ及びアウターローラからなるローラ部材を外嵌したトリポード型等速ジョイントとして、例えば特許文献1に記載のものが知られている。このトリポード型等速ジョイントでは、トリポード軸部のトルク伝達部を球状に形成することにより、トリポード軸部に対してローラ部材が揺動可能かつ軸方向に摺動可能となっている。トリポード軸部に対してローラ部材が揺動かつ摺動することで、入力軸及び出力軸の回転軸がなす角(ジョイント角)が大きくなった場合でも、アウターレースの案内溝の延伸方向とアウターローラの転動方向とが一致する。これにより、アウターローラがインナーローラに対して滑らかに回転するので、トルク伝達時の振動が抑制されている。
【0003】
また、本発明者は、特許文献1に記載のトリポード型等速ジョイントをさらに改良したものとして、特許文献2に記載のものを提案している。このトリポード型等速ジョイントでは、トリポード軸部の軸直交断面形状を、トルク伝達領域の根元側がほぼ円形で、先端側に行くに従って小さく且つ楕円形状になるよう、連続的に変化する形状としている。このような形状を採用することにより、トリポード型等速ジョイントの強度を高くし、あるいは小型化することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−117108号公報
【特許文献2】特開2007−327617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のものでは、トリポード軸部のトルク伝達部が、インナーローラの円筒状内周面の直径よりも僅かに小さい直径を有する球状であるため、トリポード軸部とインナーローラとの接触部分がトリポード軸部の周方向に延びる線接触となる(特許文献1の第4ページ右欄第1行目から第7行目参照)。このため、トリポード軸部に対してローラ部材がピッチング(トリポード部材の回転軸の方向から見た場合の左右方向を軸として揺動する動き)する際の摩擦抵抗が大きくなり、この結果、入力軸及び出力軸がジョイント角をとった場合に振動が発生するおそれがある。
【0006】
ここで、特許文献2に記載のものによれば、トリポード軸部の軸直交断面を楕円形としたので、トリポード軸部とインナーローラとの接触部分のトリポード軸部の周方向長さが特許文献1に記載のものよりも短くなり、ローラ部材が揺動する際の摩擦抵抗が小さくなる。またさらに、トリポード軸部の中心軸に沿った縦断面におけるトルク伝達部の曲率が特許文献1に記載のものよりも小さくなるので、トルク伝達時の荷重を分散することができる。
【0007】
この反面、特にトリポード軸部の先端部では、トリポード軸部の中心軸に直交する横断面の楕円度(短軸半径/長軸半径)が小さくなるので、トルク伝達時におけるトリポード軸部のインナーローラとの接触領域の周方向幅が狭くなる。この結果、ジョイント角が大きい場合には、トルク伝達時の荷重が狭い範囲に集中してしまい、強度の確保ひいては小型化に限界が生じていた。
【0008】
従って、本発明の目的は、小型化が可能で且つ振動を抑制できるトリポード型等速ジョイントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
トリポード軸部のインナーローラとの接触面積を拡大するためには、トリポード軸部の横断面の楕円度を大きくし、根元部における軸直交断面形状からの変化率を小さくすることが考えられる。しかし、本発明者が検討を行った結果、このような形状を採用した場合には、ジョイント角がある値以上に大きくなると、トリポード軸部の回転方向の両側面のうちインナーローラとの間でトルクを伝達しないトルク非伝達側でもインナーローラとの接触が発生してしまうことが判明した。このようにトリポード軸部とインナーローラとが2箇所で接触すると、トリポード軸部に対してローラ部材が揺動する際の抵抗力が大きくなり、ローラ部材をアウターレースの案内溝に沿った方向に適切に案内することができない。この結果、あるジョイント角以上でトルクを伝達しながら回転する際に振動が発生するおそれがある。
【0010】
この問題を解決するため、トリポード軸部の横断面における楕円度を小さくしてトルク非伝達側での接触を回避することも考えられるが、この場合にはトルク伝達時における面圧が高くなってしまう。また、トリポード軸部の外周面とインナーリングの内周面との間隔を拡げることでトルク非伝達側での接触を回避した場合には、トルク伝達方向が反転した場合のガタが大きくなってしまう。
【0011】
そこで本発明者はさらに検討を重ね、トリポード軸部のトルク非伝達側での接触部が、等速ジョイントが逆方向に回転した場合におけるトルク伝達領域の周方向にずれていることに着目し、この部位における接触を回避すれば上記の問題を解決することができるという知見を得、本発明をなすに至ったのである。
【0012】
そこで、本発明では、以下のようにトリポード型等速ジョイントを構成する。すなわち、トリポード軸部の形状を先端部から根元部にかけて太くなる形状とするとともに、トリポード軸部の中心軸に直交する横断面では、インナーローラと当接してトルクを伝達するトルク伝達領域の周方向側にトルク伝達領域の外周面の延長線よりも内側に退避した逃げ部を形成することとした。
【0013】
つまり、本発明のトリポード型等速ジョイントでは、トリポード軸部の根元部から先端部に向かって横断面の面積が小さくなる点では特許文献2に記載のものと同様ではあるが、インナーローラと接触してトルクを伝達する部分の周方向にずれた位置に逃げ部を形成することで、トルク非伝達側におけるインナーローラとの接触を回避し、若しくは接触するとしてもその接触部における押し付け力を低減して、トリポード軸部に対してローラ部材が揺動する際の抵抗力を小さくすることができる。
【0014】
また、この逃げ部は、横断面におけるトルク伝達領域の周方向に隣接して形成するとよい。このように逃げ部を形成することで、トルク非伝達側におけるインナーローラとの接触をより確実に回避することができる。
【0015】
またさらに、トリポード軸部の横断面におけるトルク伝達領域の外周面の曲率は、この横断面におけるトリポード部材の回転軸方向の両端を短軸端とし、回転軸方向に直交する方向の両端を長軸端とする楕円の円弧の曲率よりも小さくするとよい。このような構成を採用することで、トルク伝達時におけるトリポード軸部とインナーローラとの接触面積をより大きくし、荷重を分散することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、トルク伝達時におけるトリポード型等速ジョイントの回転時の振動を抑制しつつ、小型化をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントの全体を説明するために示す一部断面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントの全体を説明するために示す一部断面図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントのトリポード部材及びローラ部材の形状を示す断面図。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントのトリポード部材の形状を示す説明図。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントのトリポード部材の断面図。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントのトリポード部材の斜視図。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントのトリポード部材の製造方法を示す説明図。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントの動作状態を示す説明図。
【図9】トリポード型等速ジョイントの比較例の形状を示す説明図。図9(a)はトリポード部材の回転軸方向から見た形状を、図9(b)はトリポード軸の軸方向から見た形状をそれぞれ示す。
【図10】比較例の動作状態を示す説明図。
【図11】比較例の動作状態を示す説明図。
【図12】本発明の第2の実施の形態を説明するために示すインボリュート曲線の図。
【図13】本発明の第2の実施の形態のトリポード部材の形状を示す説明図。
【図14】本発明のトリポード部材の形状の変形例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施の形態]
本発明の実施の形態につき、全体構成を図1及び図2を用いて説明する。図1はトリポード型等速ジョイントを回転軸O方向から見た状態を示す。図1では、説明のため、3個のローラ部材3のうちの1つをローラ部材3の中心軸に沿った断面で切断して示している。図2はトリポード型等速ジョイントの一部を回転軸Oに沿った断面で切断した状態を示す。
【0019】
〔トリポード型等速ジョイントの全体構成〕
図1及び図2に示すトリポード型等速ジョイントは、例えば車両のディファレンシャル装置の車輪側に配置され、駆動源のトルクを正回転方向及び逆回転方向に伝達する第1の駆動軸及び第2の駆動軸を揺動可能かつ軸方向摺動可能に連結するために用いられる。このトリポード型等速ジョイントは、第1の駆動力伝達部材(図略)と一体回転するように連結されたアウターレース1と、第2の駆動力伝達部材(図略)と一体回転するように連結されたトリポード部材2と、アウターレース1及びトリポード部材2の間に介在するローラ部材3とから大略構成されている。なお、図1及び図2は、第1及び第2の駆動軸の回転軸がなす角(ジョイント角)がゼロの状態を示しており、アウターレース1の回転軸Oとトリポード部材2の回転軸O’は一致している。
【0020】
(アウターレース1の構成)
アウターレース1は、全体として有底円筒状を呈し、内側に空間が形成された円筒部10と、円筒部10の一端を閉塞する底部11と、底部11の円筒部10とは反対側に立設された軸部12とからなる。軸部12には、第1の駆動力伝達部材(図略)がスプライン嵌合等の周知の手段により一体回転するように連結される。
【0021】
円筒部10の内周面には、各ローラ部材3(後述)に対応して、アウターレース1の回転軸Oに平行な方向に延設された案内溝10aが形成されている。案内溝10aは、図1において、アウターレース1の回転軸Oに対してアウターローラ33が反時計方向に相対回転した場合にアウターローラ33の外周面が当接する第1案内溝10a1と、アウターローラ33が時計方向に相対回転した場合にアウターローラ33の外周面が当接する第2案内溝10a2とからなる。
【0022】
(ローラ部材3の構成)
ローラ部材3は、アウターレース1の第1案内溝10a1と第2案内溝10a2との間に収容された円環状のアウターローラ33と、アウターローラ33の内側に同軸配置され、内周面が円筒状であるインナーローラ30と、アウターローラ33とインナーローラ30との間に配置された複数の転動体32とを備えている。本実施形態では、転動体32として針状ころが採用されている。アウターローラ33の内周面には2箇所の係止溝が形成され、この溝にスナップリング31,31がそれぞれ嵌め込まれている。インナーローラ30及び転動体32は、その軸線方向移動がスナップリング31,31によって規制され、アウターローラ33から離脱しないように組みつけられている。この構成により、インナーローラ30とアウターローラ33は転動体32を介して同軸上で相対回転可能である。
【0023】
(トリポード部材2の構成)
トリポード部材2は、シャフト状の第2の駆動力伝達部材(図略)が内面にスプライン嵌合される円環状のボス部21と、ボス部21の外周側に放射状に形成された3つのトリポード軸部20とからなる。ボス部21に設けられた貫通穴の内面には、スプライン部21aが形成されている。トリポード部材2は、アウターレース1の円筒部10の内側に配置され、各トリポード軸部20には、それぞれローラ部材3が外嵌されている。
【0024】
<トリポード軸部20の形状>
図3は、図1のA−A断面におけるトリポード型等速ジョイントの断面図である。この断面図は、トリポード軸部20の中心軸O1に直交する平面における横断面にあたる。図3において、第1案内溝10a1に対向する側においてインナーローラ30と接触し、トルクを伝達するトルク伝達領域が第1トルク伝達部20b1である。同じく、第2案内溝10a2に対向する側においてインナーローラ30と接触し、トルクを伝達するトルク伝達領域が第2トルク伝達部20b2である。図3に示すように、トリポード軸部20の横断面では、第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の周方向両側に合わせて4箇所の逃げ部20aが形成されており、全体としては、曲面からなる八角形状を呈している。
【0025】
各逃げ部20aは、トリポード軸部20の内側に向かって窪んだ円弧で形成されている。逃げ部20a同士を図3の左右方向に連結するトリポード軸部20の外周面は、インナーローラ30の内周面との間に隙間が形成された楕円の一部として形成されている。この隙間は、第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2とインナーローラ30の内周面との各隙間よりも大きく、図2に二点鎖線で示すように、トリポード部材2がアウターレース1の回転軸線に対して最大ジョイント角まで傾動しても、インナーローラ30の内周面に接触しないように形成されている。なお、最大ジョイント角とは、トリポード型等速ジョイントが車両等に組み込まれた実際の使用状態において、アウターレース1の回転軸Oとトリポード部材2の回転軸O’とがなす角度の最大値である。
【0026】
図3に示す横断面における第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の外周面は、長軸がトリポード部材2の回転軸に垂直な方向(同図における左右方向。以下これを「トルク伝達方向」という。)の幅で、短軸がトリポード部材2の回転軸O’に平行な方向(同図における上下方向。)である楕円の円弧の一部として形成されている。この楕円の短軸の長さは、図3に示す横断面の上下方向の幅よりも長く設定されている。この形状を図4でより詳しく説明する。
【0027】
図4は、図3におけるトリポード軸部20の横断面に、トリポード軸部20のトルク伝達方向の両端部(P1,P2)、及びトリポード部材2の回転軸O’に平行な方向の両端部(P3,P4)を通過する楕円を破線で示すとともに、トルク伝達部20b1及びトルク伝達部20b2の曲線の延長線を一点鎖線で示す図である。
【0028】
この図に示すように、第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の横断面形状は、P1〜P4を通過する楕円のP1,P2部付近の曲率よりも小さな曲率を有している。また、逃げ部20aは、第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の曲線の延長線として示した一点鎖線よりもトリポード軸部20の内側に逃げている。
【0029】
図3及び図4において、2つの逃げ部20aに挟まれた第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の外周面は、その周方向の全範囲がトルク伝達時にインナーローラ30の内周面と接触してトルクを伝達する領域である。つまり、図3及び図4に示す第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2は、その周方向の各部位において、ジョイント角及び荷重に応じてインナーローラ30との接触が発生し得る。すなわち、逃げ部20aは、インナーローラ30との間でトルクを伝達するトリポード軸部20のトルク伝達領域の周方向に隣接して配置されている。
【0030】
図5は、トリポード部材2を図2のB−B断面で切断した断面図である。この断面図は、トリポード軸部20の中心軸O1を含み、トルク伝達方向に沿った平面における縦断面にあたる。図5において、トリポード軸部20の先端側の領域X1は、先端部から根元部に向かってトルク伝達方向の幅が広がる突曲面で形成されている。領域X1の根元側にあたる領域X2の縦断面における外周面の形状は、トリポード軸部20の中心軸O1に平行な直線である。領域X1と領域X2を合わせたトルク伝達領域が同断面図における第1トルク伝達部20b1である。なお、第2トルク伝達部20b2の側においても、第1トルク伝達部20b1と軸対称にその形状が形成されている。また、縦断面における領域X1の外周面の曲率半径は、インナーローラ30の内周面の半径よりも大きく形成されている。
【0031】
図6は、トリポード部材2のトリポード軸部20の1つを斜め方向から見た斜視図である。この図に示すように、逃げ部20aは、インナーローラ30と当接してトルクを伝達する第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2と、トリポード部材2の回転軸方向の両側でインナーローラ30に接触しない非接触部との間に形成された軸方向の溝状に形成されている。
【0032】
ここで、トリポード部材2の製造方法について説明する。トリポード部材2を形成する工程は、鍛造工程と研削工程からなる。鍛造工程は、素材を鍛造し、ボス部21の外側に3つのトリポード軸部20が立設された形状に加工する工程である。この工程で用いる鍛造金型には、逃げ部20aに対応する突部が形成されており、鍛造工程の完了時にはトリポード軸部20に逃げ部20aが形成されている。
【0033】
研削工程は、トリポード軸部20の第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2をそれぞれ研削し、これらの表面を高精度に加工する工程である。以下にこの研削工程を詳細に説明する。
【0034】
図7は、研削工程におけるトリポード部材2及び砥石40を示す図である。研削工程で用いる砥石40の外周面は、図7に示すように、トリポード軸部20の縦断面における第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20bの仕上がり形状に対応する形状を有している。この砥石40を回転軸41を中心に回転させながらトリポード軸部20の外周面に押し当て、トリポード軸部20の周りを周回させることにより、第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の研削加工がなされる。この研削加工では、逃げ部20aの表面は研削されない。逃げ部20aはインナーローラ30に接触しないので、高精度な加工が不要だからである。
【0035】
このように研削加工されたトリポード軸部20は、トリポード軸部20の中心軸O1に平行で、かつ第1トルク伝達部20b1又は第2トルク伝達部20b2の任意の箇所における法線を含む平面によるトリポード軸部20の断面では、いずれの箇所においても、トルク伝達部20b1及びトルク伝達部20b2の外周面の曲線が図5に示したものと同様の曲線を描くこととなる。
【0036】
図8は、トリポード軸部20にローラ部材3を外嵌してアウターレース1に組み込み、所定のジョイント角で回転しながらトルクを伝達する動作状態を、トリポード軸部20の中心軸方向からアウターレース1の一部を透視して示したものである。この図に示すように、逃げ部20aが設けられていることにより、トリポード軸部20のトルク伝達方向両側におけるトルク伝達部のうちトルク非伝達側では、最大ジョイント角以下のあらゆるジョイント角においてトリポード軸部20とインナーローラ30とが接触しないようになっている。
【0037】
次に、本発明で逃げ部20aを設けたことによる作用効果を比較例と対比して説明する。図9(a)及び図9(b)は、比較例として示すトリポード型等速ジョイントのトリポード部材100を示す図である。
【0038】
図9(a)に示すように、トリポード部材100のトリポード軸部101は、その回転軸方向から見た場合に、本発明の実施の形態に係るトリポード部材2と共通する縦断面形状を有している。トリポード軸部101はボス部102に立設されている。トリポード軸部101の外周面の形成方法は、トリポード軸部101のトルク伝達部の縦断面形状に対応する曲面を有する砥石130を、その回転軸131を中心に回転させながら、楕円軌道でトリポード軸部101の周りを周回させるというものである。図9(b)は、このようにして研削加工されたトリポード部材100を、トリポード軸部101の中心軸方向から見た状態を示す図である。
【0039】
図10は、比較例としてのトリポード型等速ジョイントの動作状態を、図8に示したものと同様に、トリポード軸部101の中心軸方向からアウターレースの一部を透視して示したものである。この図において、上記説明した本発明の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントと同一の形状及び構造を有する部材については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0040】
図10に示すように、この動作状態では、トリポード軸部101が同図のA部にてインナーローラ30と当接して回転トルクを伝達している他、B部においてもトリポード軸部101がインナーローラ30と接している。B部は、トルク伝達に寄与しないトルク非伝達側であるが、トリポード軸部101が根元側に向かって太くなる形状を備えているため、ローラ部材3が揺動することにより、A部よりもトリポード軸部101の根元側に近い部位にて、インナーローラ30との接触が生じたものである。
【0041】
図11は、図10に示した状態におけるトリポード軸部101とローラ部材3を、トリポード部材100の回転軸方向から見た状態を示す図である。この図に示すように、トリポード軸部101に対してローラ部材3が揺動することにより、A部及びB部の2点で両部材が接触している。トリポード軸部101とローラ部材3が2点で接触することにより、トリポード軸部101に対してローラ部材3が揺動する際の抵抗が1点接触の場合よりも大きくなる。このため、ローラ部材3の案内溝10a内での姿勢が適切ではなくなり、トルク伝達時における振動が発生しやすくなる。
【0042】
この点、本発明の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントでは、トリポード部材2のトリポード軸部20と、ローラ部材3のインナーローラ30との2点接触が回避されており、上記比較例のものに比べて振動の発生が抑制される。
【0043】
[第1の実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0044】
(1)トリポード軸部20のトルク非伝達側ではトリポード軸部20とインナーローラ30とが接触しないので、トルク伝達時におけるトリポード軸部20とインナーローラ30との2点接触が回避される。これにより、ローラ部材3がアウターレース1の案内溝10aに沿った姿勢に傾動しやすくなり、振動が抑制される。
【0045】
(2)第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2のそれぞれ両側には逃げ部20aが設けられ、逃げ部20aは第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の曲線の延長線よりも内側に位置している。これにより、トルク伝達部の横断面における曲率を小さくしても、トルク非伝達側におけるトリポード軸部20とインナーローラ30との接触を回避できる。従って、例えばトリポード軸部全体を細長い楕円形状とすることでトルク非伝達側における接触を回避した場合に比べ、トリポード軸部20とインナーローラ30とがより広い面積で接触するので、耐久性を確保することができる。
【0046】
(3)第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の横断面形状は、図4におけるP1〜P4を通過する楕円のP1,P2部付近の曲率半径よりも大きな曲率半径を有しているので、トルク伝達時の荷重を分散でき、耐久性を高めることができる。
【0047】
(4)トリポード軸部20のトルク伝達部20b1及びトルク伝達部20b2は、トルク伝達部の曲線に対応する曲面を有する砥石による研削により研削できるので、加工装置の構造が簡略化でき、加工時間も短縮することができる。
【0048】
(5)逃げ部20aは鍛造段階で形成されるので、逃げ部20aを形成するための特別な工程が不要であり、加工時間を短縮できる。
【0049】
(6)トリポード軸部20は根元側で最も太く、先端部に向かって細くなるので、鍛造が容易であり、鍛造金型の寿命も長くなる。つまり、特許文献1に記載されたトリポード型等速ジョイントのようにトリポード軸部を球状とした場合には、鍛造用金型の中で外側に膨らむように素材を流動させる必要があり、そのために大きな荷重が必要となるが、本実施の形態におけるトリポード部材2の加工では、比較的小さな荷重で鍛造を行うことができる。
【0050】
(7)逃げ部20aは内側に窪んだ形状であるのでグリス溜まりとしても機能し、トルク伝達部にグリスが供給されやすくなるので、潤滑性が向上し、トリポード軸部20に対するローラ部材3の揺動がより滑らかになる。
【0051】
(8)トリポード軸部20の第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の縦断面における外周面の形状は、先端側が根元側に向かってトルク伝達方向の幅が広がる突曲線で形成され、この突曲線の根元側に連続して、中心軸に平行な直線部が形成されている。これにより、ローラ部材3がトリポード軸部20に圧入されてしまうことがない。つまり、仮に突曲線に連続する部分を根元側に向かって広がる形状とした場合には、組み付けの過程においてトリポード軸部20にローラ部材3が嵌り込んでしまい、組み付けの妨げとなるおそれがあるが、本実施の形態では上記のように中心軸に平行な直線部にて根元側を形成したので、このようなおそれがない。
【0052】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントにつき、図12及び図13を用いて説明する。第2の実施の形態は、トリポード軸部20の横断面形状が第1の実施の形態とは異なり、トリポード軸部20の外周面が、逃げ部20a及びトリポード部材2の回転軸方向の端部を除き、インボリュート曲線で形成されている。
【0053】
図12は、x=a(cosθ+θsinθ),y=a(sinθ−θcosθ)で表されるインボリュート曲線を示している。このインボリュート曲線におけるR1からR2に向かう部分を用いてトリポード軸部20の横断面における外周面が形成されている。
【0054】
図13は、図12に示したインボリュート曲線の線分の始点(R1)及び終点(R2)とトリポード軸部20の横断面における外周面との対応を示す図である。この図に示すように、インボリュート曲線の線分の始点が横断面のトルク伝達方向の両端部に位置し、且つこの始点における接線がトリポード部材2の回転軸に平行になるように配置されたインボリュート曲線によってトリポード軸部20の外周面が規定されている。トリポード部材2の回転軸方向の端部では、トルク伝達方向に平行な線分によって線対称に配置されたインボリュート曲線同士が連結されている。
【0055】
この第2の実施の形態によれば、トリポード軸部20の横断面におけるトルク伝達領域20b1,20b2の外周面の形状が、トリポード軸2の回転軸に直交する方向の端部から周方向に向かうにつれて曲率が小さくなるインボリュート曲線で形成されるので、トルク伝達領域の曲率が横断面におけるトルク伝達方向の幅を直径とする円の曲率に近づく。このため、トルク伝達時にインナーローラ30の内周面と広い面積で当接し、荷重を分散させることができる。
【0056】
以上、本発明のトリポード型等速ジョイントを実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0057】
(1)上記実施の形態では、逃げ部20aの形状を、ジョイント角が0度から最大ジョイント角までの範囲において、トリポード軸部20のトルク非伝達側でインナーローラ30に全く接触しない形状とした。しかし、トルク伝達領域の横断面における外周部の延長線よりも逃げ部20aが内側に退避していれば、トルク非伝達側でトリポード軸部20とインナーローラ30との接触が発生したとしても、その接触部での荷重が抑えられるので、ローラ部材3がトリポード軸部20に対して揺動しやすくなるという効果がある。従って、必ずしもトルク非伝達側で接触してはならないわけではなく、僅かに接触してもよい。
【0058】
(2)上記実施の形態では、逃げ部20aをインナーローラ30との間でトルクを伝達するトリポード軸部20のトルク伝達領域の周方向に隣接して配置したが、これに限らず、トリポード軸部20のトルク伝達領域との間に間隔を置いた周方向に配置してもよい。
【0059】
(3)上記実施の形態では、逃げ部20aをトリポード軸20のトルク伝達領域の軸方向の全体に形成したが、これに限らず、軸方向の一部のみに形成してもよい。例えば、図5における円柱状の領域X2のみに逃げ部20aを形成してもよい。
【0060】
(4)上記実施の形態では、逃げ部20aの形状を内側に窪んだ形状としたが、これに限らず、直線状または外側に膨らむ形状としてもよい。また、逃げ部20aは4箇所になくとも、例えばトリポード部材2の回転軸方向の一方のみに設けてもよい。具体的な変形例として図14(a)から図14(c)に示すように、逃げ部20aの形状は種々変更可能である。
【0061】
(5)上記実施の形態ではトリポード軸部20の外周面を研削加工することとしたが、これに限らず、切削等により加工してもよい。
【0062】
(6)上記実施の形態では、トリポード軸部20の横断面におけるトルク伝達領域の外周面の曲率を、同横断面の回転軸方向及び回転軸に直交する方向の端部を通る楕円の曲率よりも小さくすることとしたが、これに限らず、例えばこの楕円と同一の曲率で形成してもよい。
【0063】
(7)上記実施の形態では、トリポード軸部20の第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の縦断面における外周面の形状を、先端側が根元側に向かってトルク伝達方向の幅が広がる突曲線で形成され、この突曲線の根元側に連続して中心軸に平行な直線部が形成された形状としたが、必ずしもこれに限らない。トルク伝達部の形状を先端側から根元側に向かって連続的に広がる形状としても、ローラ部材をアウターレースに組み込んだ状態では、ローラ部材がトリポード軸部に圧入されることはないので、本発明の効果を奏することが可能である。
【0064】
(8)上記実施の形態では、トリポード軸部20の中心軸方向に沿った縦断面における第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の外周面の形状が、トリポード軸部20の周方向において一様であることとしたが、これに限らず、トリポード軸部20の周方向に離間した2箇所における縦断面の形状が異なってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…アウターレース、10…円筒部、10a…案内溝、10a1…案内溝、10a2…案内溝、11…底部、12…軸部、2…トリポード部材、20…トリポード軸部、20b…トルク伝達部、20b1…第1トルク伝達部、20b2…第2トルク伝達部、3…ローラ部材、30…インナーローラ、31…スナップリング、32…転動体、33…アウターローラ、20…トリポード軸部、20b…トルク伝達部、20b1…第1トルク伝達部、20b2…第2トルク伝達部、21…ボス部、40…砥石、41…回転軸、100…トリポード部材、101…トリポード軸部、130…砥石、O…回転軸、O1…中心軸、X1…領域、X2…領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリポード型等速ジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トリポード部材のトリポード軸部に、インナーローラ及びアウターローラからなるローラ部材を外嵌したトリポード型等速ジョイントとして、例えば特許文献1に記載のものが知られている。このトリポード型等速ジョイントでは、トリポード軸部のトルク伝達部を球状に形成することにより、トリポード軸部に対してローラ部材が揺動可能かつ軸方向に摺動可能となっている。トリポード軸部に対してローラ部材が揺動かつ摺動することで、入力軸及び出力軸の回転軸がなす角(ジョイント角)が大きくなった場合でも、アウターレースの案内溝の延伸方向とアウターローラの転動方向とが一致する。これにより、アウターローラがインナーローラに対して滑らかに回転するので、トルク伝達時の振動が抑制されている。
【0003】
また、本発明者は、特許文献1に記載のトリポード型等速ジョイントをさらに改良したものとして、特許文献2に記載のものを提案している。このトリポード型等速ジョイントでは、トリポード軸部の軸直交断面形状を、トルク伝達領域の根元側がほぼ円形で、先端側に行くに従って小さく且つ楕円形状になるよう、連続的に変化する形状としている。このような形状を採用することにより、トリポード型等速ジョイントの強度を高くし、あるいは小型化することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−117108号公報
【特許文献2】特開2007−327617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のものでは、トリポード軸部のトルク伝達部が、インナーローラの円筒状内周面の直径よりも僅かに小さい直径を有する球状であるため、トリポード軸部とインナーローラとの接触部分がトリポード軸部の周方向に延びる線接触となる(特許文献1の第4ページ右欄第1行目から第7行目参照)。このため、トリポード軸部に対してローラ部材がピッチング(トリポード部材の回転軸の方向から見た場合の左右方向を軸として揺動する動き)する際の摩擦抵抗が大きくなり、この結果、入力軸及び出力軸がジョイント角をとった場合に振動が発生するおそれがある。
【0006】
ここで、特許文献2に記載のものによれば、トリポード軸部の軸直交断面を楕円形としたので、トリポード軸部とインナーローラとの接触部分のトリポード軸部の周方向長さが特許文献1に記載のものよりも短くなり、ローラ部材が揺動する際の摩擦抵抗が小さくなる。またさらに、トリポード軸部の中心軸に沿った縦断面におけるトルク伝達部の曲率が特許文献1に記載のものよりも小さくなるので、トルク伝達時の荷重を分散することができる。
【0007】
この反面、特にトリポード軸部の先端部では、トリポード軸部の中心軸に直交する横断面の楕円度(短軸半径/長軸半径)が小さくなるので、トルク伝達時におけるトリポード軸部のインナーローラとの接触領域の周方向幅が狭くなる。この結果、ジョイント角が大きい場合には、トルク伝達時の荷重が狭い範囲に集中してしまい、強度の確保ひいては小型化に限界が生じていた。
【0008】
従って、本発明の目的は、小型化が可能で且つ振動を抑制できるトリポード型等速ジョイントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
トリポード軸部のインナーローラとの接触面積を拡大するためには、トリポード軸部の横断面の楕円度を大きくし、根元部における軸直交断面形状からの変化率を小さくすることが考えられる。しかし、本発明者が検討を行った結果、このような形状を採用した場合には、ジョイント角がある値以上に大きくなると、トリポード軸部の回転方向の両側面のうちインナーローラとの間でトルクを伝達しないトルク非伝達側でもインナーローラとの接触が発生してしまうことが判明した。このようにトリポード軸部とインナーローラとが2箇所で接触すると、トリポード軸部に対してローラ部材が揺動する際の抵抗力が大きくなり、ローラ部材をアウターレースの案内溝に沿った方向に適切に案内することができない。この結果、あるジョイント角以上でトルクを伝達しながら回転する際に振動が発生するおそれがある。
【0010】
この問題を解決するため、トリポード軸部の横断面における楕円度を小さくしてトルク非伝達側での接触を回避することも考えられるが、この場合にはトルク伝達時における面圧が高くなってしまう。また、トリポード軸部の外周面とインナーリングの内周面との間隔を拡げることでトルク非伝達側での接触を回避した場合には、トルク伝達方向が反転した場合のガタが大きくなってしまう。
【0011】
そこで本発明者はさらに検討を重ね、トリポード軸部のトルク非伝達側での接触部が、等速ジョイントが逆方向に回転した場合におけるトルク伝達領域の周方向にずれていることに着目し、この部位における接触を回避すれば上記の問題を解決することができるという知見を得、本発明をなすに至ったのである。
【0012】
そこで、本発明では、以下のようにトリポード型等速ジョイントを構成する。すなわち、トリポード軸部の形状を先端部から根元部にかけて太くなる形状とするとともに、トリポード軸部の中心軸に直交する横断面では、インナーローラと当接してトルクを伝達するトルク伝達領域の周方向側にトルク伝達領域の外周面の延長線よりも内側に退避した逃げ部を形成することとした。
【0013】
つまり、本発明のトリポード型等速ジョイントでは、トリポード軸部の根元部から先端部に向かって横断面の面積が小さくなる点では特許文献2に記載のものと同様ではあるが、インナーローラと接触してトルクを伝達する部分の周方向にずれた位置に逃げ部を形成することで、トルク非伝達側におけるインナーローラとの接触を回避し、若しくは接触するとしてもその接触部における押し付け力を低減して、トリポード軸部に対してローラ部材が揺動する際の抵抗力を小さくすることができる。
【0014】
また、この逃げ部は、横断面におけるトルク伝達領域の周方向に隣接して形成するとよい。このように逃げ部を形成することで、トルク非伝達側におけるインナーローラとの接触をより確実に回避することができる。
【0015】
またさらに、トリポード軸部の横断面におけるトルク伝達領域の外周面の曲率は、この横断面におけるトリポード部材の回転軸方向の両端を短軸端とし、回転軸方向に直交する方向の両端を長軸端とする楕円の円弧の曲率よりも小さくするとよい。このような構成を採用することで、トルク伝達時におけるトリポード軸部とインナーローラとの接触面積をより大きくし、荷重を分散することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、トルク伝達時におけるトリポード型等速ジョイントの回転時の振動を抑制しつつ、小型化をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントの全体を説明するために示す一部断面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントの全体を説明するために示す一部断面図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントのトリポード部材及びローラ部材の形状を示す断面図。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントのトリポード部材の形状を示す説明図。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントのトリポード部材の断面図。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントのトリポード部材の斜視図。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントのトリポード部材の製造方法を示す説明図。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントの動作状態を示す説明図。
【図9】トリポード型等速ジョイントの比較例の形状を示す説明図。図9(a)はトリポード部材の回転軸方向から見た形状を、図9(b)はトリポード軸の軸方向から見た形状をそれぞれ示す。
【図10】比較例の動作状態を示す説明図。
【図11】比較例の動作状態を示す説明図。
【図12】本発明の第2の実施の形態を説明するために示すインボリュート曲線の図。
【図13】本発明の第2の実施の形態のトリポード部材の形状を示す説明図。
【図14】本発明のトリポード部材の形状の変形例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施の形態]
本発明の実施の形態につき、全体構成を図1及び図2を用いて説明する。図1はトリポード型等速ジョイントを回転軸O方向から見た状態を示す。図1では、説明のため、3個のローラ部材3のうちの1つをローラ部材3の中心軸に沿った断面で切断して示している。図2はトリポード型等速ジョイントの一部を回転軸Oに沿った断面で切断した状態を示す。
【0019】
〔トリポード型等速ジョイントの全体構成〕
図1及び図2に示すトリポード型等速ジョイントは、例えば車両のディファレンシャル装置の車輪側に配置され、駆動源のトルクを正回転方向及び逆回転方向に伝達する第1の駆動軸及び第2の駆動軸を揺動可能かつ軸方向摺動可能に連結するために用いられる。このトリポード型等速ジョイントは、第1の駆動力伝達部材(図略)と一体回転するように連結されたアウターレース1と、第2の駆動力伝達部材(図略)と一体回転するように連結されたトリポード部材2と、アウターレース1及びトリポード部材2の間に介在するローラ部材3とから大略構成されている。なお、図1及び図2は、第1及び第2の駆動軸の回転軸がなす角(ジョイント角)がゼロの状態を示しており、アウターレース1の回転軸Oとトリポード部材2の回転軸O’は一致している。
【0020】
(アウターレース1の構成)
アウターレース1は、全体として有底円筒状を呈し、内側に空間が形成された円筒部10と、円筒部10の一端を閉塞する底部11と、底部11の円筒部10とは反対側に立設された軸部12とからなる。軸部12には、第1の駆動力伝達部材(図略)がスプライン嵌合等の周知の手段により一体回転するように連結される。
【0021】
円筒部10の内周面には、各ローラ部材3(後述)に対応して、アウターレース1の回転軸Oに平行な方向に延設された案内溝10aが形成されている。案内溝10aは、図1において、アウターレース1の回転軸Oに対してアウターローラ33が反時計方向に相対回転した場合にアウターローラ33の外周面が当接する第1案内溝10a1と、アウターローラ33が時計方向に相対回転した場合にアウターローラ33の外周面が当接する第2案内溝10a2とからなる。
【0022】
(ローラ部材3の構成)
ローラ部材3は、アウターレース1の第1案内溝10a1と第2案内溝10a2との間に収容された円環状のアウターローラ33と、アウターローラ33の内側に同軸配置され、内周面が円筒状であるインナーローラ30と、アウターローラ33とインナーローラ30との間に配置された複数の転動体32とを備えている。本実施形態では、転動体32として針状ころが採用されている。アウターローラ33の内周面には2箇所の係止溝が形成され、この溝にスナップリング31,31がそれぞれ嵌め込まれている。インナーローラ30及び転動体32は、その軸線方向移動がスナップリング31,31によって規制され、アウターローラ33から離脱しないように組みつけられている。この構成により、インナーローラ30とアウターローラ33は転動体32を介して同軸上で相対回転可能である。
【0023】
(トリポード部材2の構成)
トリポード部材2は、シャフト状の第2の駆動力伝達部材(図略)が内面にスプライン嵌合される円環状のボス部21と、ボス部21の外周側に放射状に形成された3つのトリポード軸部20とからなる。ボス部21に設けられた貫通穴の内面には、スプライン部21aが形成されている。トリポード部材2は、アウターレース1の円筒部10の内側に配置され、各トリポード軸部20には、それぞれローラ部材3が外嵌されている。
【0024】
<トリポード軸部20の形状>
図3は、図1のA−A断面におけるトリポード型等速ジョイントの断面図である。この断面図は、トリポード軸部20の中心軸O1に直交する平面における横断面にあたる。図3において、第1案内溝10a1に対向する側においてインナーローラ30と接触し、トルクを伝達するトルク伝達領域が第1トルク伝達部20b1である。同じく、第2案内溝10a2に対向する側においてインナーローラ30と接触し、トルクを伝達するトルク伝達領域が第2トルク伝達部20b2である。図3に示すように、トリポード軸部20の横断面では、第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の周方向両側に合わせて4箇所の逃げ部20aが形成されており、全体としては、曲面からなる八角形状を呈している。
【0025】
各逃げ部20aは、トリポード軸部20の内側に向かって窪んだ円弧で形成されている。逃げ部20a同士を図3の左右方向に連結するトリポード軸部20の外周面は、インナーローラ30の内周面との間に隙間が形成された楕円の一部として形成されている。この隙間は、第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2とインナーローラ30の内周面との各隙間よりも大きく、図2に二点鎖線で示すように、トリポード部材2がアウターレース1の回転軸線に対して最大ジョイント角まで傾動しても、インナーローラ30の内周面に接触しないように形成されている。なお、最大ジョイント角とは、トリポード型等速ジョイントが車両等に組み込まれた実際の使用状態において、アウターレース1の回転軸Oとトリポード部材2の回転軸O’とがなす角度の最大値である。
【0026】
図3に示す横断面における第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の外周面は、長軸がトリポード部材2の回転軸に垂直な方向(同図における左右方向。以下これを「トルク伝達方向」という。)の幅で、短軸がトリポード部材2の回転軸O’に平行な方向(同図における上下方向。)である楕円の円弧の一部として形成されている。この楕円の短軸の長さは、図3に示す横断面の上下方向の幅よりも長く設定されている。この形状を図4でより詳しく説明する。
【0027】
図4は、図3におけるトリポード軸部20の横断面に、トリポード軸部20のトルク伝達方向の両端部(P1,P2)、及びトリポード部材2の回転軸O’に平行な方向の両端部(P3,P4)を通過する楕円を破線で示すとともに、トルク伝達部20b1及びトルク伝達部20b2の曲線の延長線を一点鎖線で示す図である。
【0028】
この図に示すように、第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の横断面形状は、P1〜P4を通過する楕円のP1,P2部付近の曲率よりも小さな曲率を有している。また、逃げ部20aは、第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の曲線の延長線として示した一点鎖線よりもトリポード軸部20の内側に逃げている。
【0029】
図3及び図4において、2つの逃げ部20aに挟まれた第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の外周面は、その周方向の全範囲がトルク伝達時にインナーローラ30の内周面と接触してトルクを伝達する領域である。つまり、図3及び図4に示す第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2は、その周方向の各部位において、ジョイント角及び荷重に応じてインナーローラ30との接触が発生し得る。すなわち、逃げ部20aは、インナーローラ30との間でトルクを伝達するトリポード軸部20のトルク伝達領域の周方向に隣接して配置されている。
【0030】
図5は、トリポード部材2を図2のB−B断面で切断した断面図である。この断面図は、トリポード軸部20の中心軸O1を含み、トルク伝達方向に沿った平面における縦断面にあたる。図5において、トリポード軸部20の先端側の領域X1は、先端部から根元部に向かってトルク伝達方向の幅が広がる突曲面で形成されている。領域X1の根元側にあたる領域X2の縦断面における外周面の形状は、トリポード軸部20の中心軸O1に平行な直線である。領域X1と領域X2を合わせたトルク伝達領域が同断面図における第1トルク伝達部20b1である。なお、第2トルク伝達部20b2の側においても、第1トルク伝達部20b1と軸対称にその形状が形成されている。また、縦断面における領域X1の外周面の曲率半径は、インナーローラ30の内周面の半径よりも大きく形成されている。
【0031】
図6は、トリポード部材2のトリポード軸部20の1つを斜め方向から見た斜視図である。この図に示すように、逃げ部20aは、インナーローラ30と当接してトルクを伝達する第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2と、トリポード部材2の回転軸方向の両側でインナーローラ30に接触しない非接触部との間に形成された軸方向の溝状に形成されている。
【0032】
ここで、トリポード部材2の製造方法について説明する。トリポード部材2を形成する工程は、鍛造工程と研削工程からなる。鍛造工程は、素材を鍛造し、ボス部21の外側に3つのトリポード軸部20が立設された形状に加工する工程である。この工程で用いる鍛造金型には、逃げ部20aに対応する突部が形成されており、鍛造工程の完了時にはトリポード軸部20に逃げ部20aが形成されている。
【0033】
研削工程は、トリポード軸部20の第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2をそれぞれ研削し、これらの表面を高精度に加工する工程である。以下にこの研削工程を詳細に説明する。
【0034】
図7は、研削工程におけるトリポード部材2及び砥石40を示す図である。研削工程で用いる砥石40の外周面は、図7に示すように、トリポード軸部20の縦断面における第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20bの仕上がり形状に対応する形状を有している。この砥石40を回転軸41を中心に回転させながらトリポード軸部20の外周面に押し当て、トリポード軸部20の周りを周回させることにより、第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の研削加工がなされる。この研削加工では、逃げ部20aの表面は研削されない。逃げ部20aはインナーローラ30に接触しないので、高精度な加工が不要だからである。
【0035】
このように研削加工されたトリポード軸部20は、トリポード軸部20の中心軸O1に平行で、かつ第1トルク伝達部20b1又は第2トルク伝達部20b2の任意の箇所における法線を含む平面によるトリポード軸部20の断面では、いずれの箇所においても、トルク伝達部20b1及びトルク伝達部20b2の外周面の曲線が図5に示したものと同様の曲線を描くこととなる。
【0036】
図8は、トリポード軸部20にローラ部材3を外嵌してアウターレース1に組み込み、所定のジョイント角で回転しながらトルクを伝達する動作状態を、トリポード軸部20の中心軸方向からアウターレース1の一部を透視して示したものである。この図に示すように、逃げ部20aが設けられていることにより、トリポード軸部20のトルク伝達方向両側におけるトルク伝達部のうちトルク非伝達側では、最大ジョイント角以下のあらゆるジョイント角においてトリポード軸部20とインナーローラ30とが接触しないようになっている。
【0037】
次に、本発明で逃げ部20aを設けたことによる作用効果を比較例と対比して説明する。図9(a)及び図9(b)は、比較例として示すトリポード型等速ジョイントのトリポード部材100を示す図である。
【0038】
図9(a)に示すように、トリポード部材100のトリポード軸部101は、その回転軸方向から見た場合に、本発明の実施の形態に係るトリポード部材2と共通する縦断面形状を有している。トリポード軸部101はボス部102に立設されている。トリポード軸部101の外周面の形成方法は、トリポード軸部101のトルク伝達部の縦断面形状に対応する曲面を有する砥石130を、その回転軸131を中心に回転させながら、楕円軌道でトリポード軸部101の周りを周回させるというものである。図9(b)は、このようにして研削加工されたトリポード部材100を、トリポード軸部101の中心軸方向から見た状態を示す図である。
【0039】
図10は、比較例としてのトリポード型等速ジョイントの動作状態を、図8に示したものと同様に、トリポード軸部101の中心軸方向からアウターレースの一部を透視して示したものである。この図において、上記説明した本発明の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントと同一の形状及び構造を有する部材については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0040】
図10に示すように、この動作状態では、トリポード軸部101が同図のA部にてインナーローラ30と当接して回転トルクを伝達している他、B部においてもトリポード軸部101がインナーローラ30と接している。B部は、トルク伝達に寄与しないトルク非伝達側であるが、トリポード軸部101が根元側に向かって太くなる形状を備えているため、ローラ部材3が揺動することにより、A部よりもトリポード軸部101の根元側に近い部位にて、インナーローラ30との接触が生じたものである。
【0041】
図11は、図10に示した状態におけるトリポード軸部101とローラ部材3を、トリポード部材100の回転軸方向から見た状態を示す図である。この図に示すように、トリポード軸部101に対してローラ部材3が揺動することにより、A部及びB部の2点で両部材が接触している。トリポード軸部101とローラ部材3が2点で接触することにより、トリポード軸部101に対してローラ部材3が揺動する際の抵抗が1点接触の場合よりも大きくなる。このため、ローラ部材3の案内溝10a内での姿勢が適切ではなくなり、トルク伝達時における振動が発生しやすくなる。
【0042】
この点、本発明の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントでは、トリポード部材2のトリポード軸部20と、ローラ部材3のインナーローラ30との2点接触が回避されており、上記比較例のものに比べて振動の発生が抑制される。
【0043】
[第1の実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0044】
(1)トリポード軸部20のトルク非伝達側ではトリポード軸部20とインナーローラ30とが接触しないので、トルク伝達時におけるトリポード軸部20とインナーローラ30との2点接触が回避される。これにより、ローラ部材3がアウターレース1の案内溝10aに沿った姿勢に傾動しやすくなり、振動が抑制される。
【0045】
(2)第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2のそれぞれ両側には逃げ部20aが設けられ、逃げ部20aは第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の曲線の延長線よりも内側に位置している。これにより、トルク伝達部の横断面における曲率を小さくしても、トルク非伝達側におけるトリポード軸部20とインナーローラ30との接触を回避できる。従って、例えばトリポード軸部全体を細長い楕円形状とすることでトルク非伝達側における接触を回避した場合に比べ、トリポード軸部20とインナーローラ30とがより広い面積で接触するので、耐久性を確保することができる。
【0046】
(3)第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の横断面形状は、図4におけるP1〜P4を通過する楕円のP1,P2部付近の曲率半径よりも大きな曲率半径を有しているので、トルク伝達時の荷重を分散でき、耐久性を高めることができる。
【0047】
(4)トリポード軸部20のトルク伝達部20b1及びトルク伝達部20b2は、トルク伝達部の曲線に対応する曲面を有する砥石による研削により研削できるので、加工装置の構造が簡略化でき、加工時間も短縮することができる。
【0048】
(5)逃げ部20aは鍛造段階で形成されるので、逃げ部20aを形成するための特別な工程が不要であり、加工時間を短縮できる。
【0049】
(6)トリポード軸部20は根元側で最も太く、先端部に向かって細くなるので、鍛造が容易であり、鍛造金型の寿命も長くなる。つまり、特許文献1に記載されたトリポード型等速ジョイントのようにトリポード軸部を球状とした場合には、鍛造用金型の中で外側に膨らむように素材を流動させる必要があり、そのために大きな荷重が必要となるが、本実施の形態におけるトリポード部材2の加工では、比較的小さな荷重で鍛造を行うことができる。
【0050】
(7)逃げ部20aは内側に窪んだ形状であるのでグリス溜まりとしても機能し、トルク伝達部にグリスが供給されやすくなるので、潤滑性が向上し、トリポード軸部20に対するローラ部材3の揺動がより滑らかになる。
【0051】
(8)トリポード軸部20の第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の縦断面における外周面の形状は、先端側が根元側に向かってトルク伝達方向の幅が広がる突曲線で形成され、この突曲線の根元側に連続して、中心軸に平行な直線部が形成されている。これにより、ローラ部材3がトリポード軸部20に圧入されてしまうことがない。つまり、仮に突曲線に連続する部分を根元側に向かって広がる形状とした場合には、組み付けの過程においてトリポード軸部20にローラ部材3が嵌り込んでしまい、組み付けの妨げとなるおそれがあるが、本実施の形態では上記のように中心軸に平行な直線部にて根元側を形成したので、このようなおそれがない。
【0052】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係るトリポード型等速ジョイントにつき、図12及び図13を用いて説明する。第2の実施の形態は、トリポード軸部20の横断面形状が第1の実施の形態とは異なり、トリポード軸部20の外周面が、逃げ部20a及びトリポード部材2の回転軸方向の端部を除き、インボリュート曲線で形成されている。
【0053】
図12は、x=a(cosθ+θsinθ),y=a(sinθ−θcosθ)で表されるインボリュート曲線を示している。このインボリュート曲線におけるR1からR2に向かう部分を用いてトリポード軸部20の横断面における外周面が形成されている。
【0054】
図13は、図12に示したインボリュート曲線の線分の始点(R1)及び終点(R2)とトリポード軸部20の横断面における外周面との対応を示す図である。この図に示すように、インボリュート曲線の線分の始点が横断面のトルク伝達方向の両端部に位置し、且つこの始点における接線がトリポード部材2の回転軸に平行になるように配置されたインボリュート曲線によってトリポード軸部20の外周面が規定されている。トリポード部材2の回転軸方向の端部では、トルク伝達方向に平行な線分によって線対称に配置されたインボリュート曲線同士が連結されている。
【0055】
この第2の実施の形態によれば、トリポード軸部20の横断面におけるトルク伝達領域20b1,20b2の外周面の形状が、トリポード軸2の回転軸に直交する方向の端部から周方向に向かうにつれて曲率が小さくなるインボリュート曲線で形成されるので、トルク伝達領域の曲率が横断面におけるトルク伝達方向の幅を直径とする円の曲率に近づく。このため、トルク伝達時にインナーローラ30の内周面と広い面積で当接し、荷重を分散させることができる。
【0056】
以上、本発明のトリポード型等速ジョイントを実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0057】
(1)上記実施の形態では、逃げ部20aの形状を、ジョイント角が0度から最大ジョイント角までの範囲において、トリポード軸部20のトルク非伝達側でインナーローラ30に全く接触しない形状とした。しかし、トルク伝達領域の横断面における外周部の延長線よりも逃げ部20aが内側に退避していれば、トルク非伝達側でトリポード軸部20とインナーローラ30との接触が発生したとしても、その接触部での荷重が抑えられるので、ローラ部材3がトリポード軸部20に対して揺動しやすくなるという効果がある。従って、必ずしもトルク非伝達側で接触してはならないわけではなく、僅かに接触してもよい。
【0058】
(2)上記実施の形態では、逃げ部20aをインナーローラ30との間でトルクを伝達するトリポード軸部20のトルク伝達領域の周方向に隣接して配置したが、これに限らず、トリポード軸部20のトルク伝達領域との間に間隔を置いた周方向に配置してもよい。
【0059】
(3)上記実施の形態では、逃げ部20aをトリポード軸20のトルク伝達領域の軸方向の全体に形成したが、これに限らず、軸方向の一部のみに形成してもよい。例えば、図5における円柱状の領域X2のみに逃げ部20aを形成してもよい。
【0060】
(4)上記実施の形態では、逃げ部20aの形状を内側に窪んだ形状としたが、これに限らず、直線状または外側に膨らむ形状としてもよい。また、逃げ部20aは4箇所になくとも、例えばトリポード部材2の回転軸方向の一方のみに設けてもよい。具体的な変形例として図14(a)から図14(c)に示すように、逃げ部20aの形状は種々変更可能である。
【0061】
(5)上記実施の形態ではトリポード軸部20の外周面を研削加工することとしたが、これに限らず、切削等により加工してもよい。
【0062】
(6)上記実施の形態では、トリポード軸部20の横断面におけるトルク伝達領域の外周面の曲率を、同横断面の回転軸方向及び回転軸に直交する方向の端部を通る楕円の曲率よりも小さくすることとしたが、これに限らず、例えばこの楕円と同一の曲率で形成してもよい。
【0063】
(7)上記実施の形態では、トリポード軸部20の第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の縦断面における外周面の形状を、先端側が根元側に向かってトルク伝達方向の幅が広がる突曲線で形成され、この突曲線の根元側に連続して中心軸に平行な直線部が形成された形状としたが、必ずしもこれに限らない。トルク伝達部の形状を先端側から根元側に向かって連続的に広がる形状としても、ローラ部材をアウターレースに組み込んだ状態では、ローラ部材がトリポード軸部に圧入されることはないので、本発明の効果を奏することが可能である。
【0064】
(8)上記実施の形態では、トリポード軸部20の中心軸方向に沿った縦断面における第1トルク伝達部20b1及び第2トルク伝達部20b2の外周面の形状が、トリポード軸部20の周方向において一様であることとしたが、これに限らず、トリポード軸部20の周方向に離間した2箇所における縦断面の形状が異なってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…アウターレース、10…円筒部、10a…案内溝、10a1…案内溝、10a2…案内溝、11…底部、12…軸部、2…トリポード部材、20…トリポード軸部、20b…トルク伝達部、20b1…第1トルク伝達部、20b2…第2トルク伝達部、3…ローラ部材、30…インナーローラ、31…スナップリング、32…転動体、33…アウターローラ、20…トリポード軸部、20b…トルク伝達部、20b1…第1トルク伝達部、20b2…第2トルク伝達部、21…ボス部、40…砥石、41…回転軸、100…トリポード部材、101…トリポード軸部、130…砥石、O…回転軸、O1…中心軸、X1…領域、X2…領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に直交する方向に伸びる3本のトリポード軸部を有するトリポード部材と、
前記トリポード軸部に揺動可能に外嵌された円環状のインナーローラ、及び前記インナーローラに対して同軸上で相対回転可能なアウターローラを有するローラ部材と、
前記トリポード部材及び前記ローラ部材を収容する円筒部を有し、前記円筒部の内面に前記アウターローラを軸方向に案内する案内溝が形成されたアウターレースと、
を備え、前記トリポード部材と前記アウターレースとの間で前記ローラ部材を介してトルクの伝達を行いながら双方向に回転するトリポード型等速ジョイントであって、
前記トリポード軸部は、先端部から根元部にかけて太くなる形状であり、その中心軸に直交する横断面では、前記インナーローラと当接してトルクを伝達するトルク伝達領域の周方向側に同トルク伝達領域の外周面の延長線よりも内側に退避した逃げ部が形成されていることを特徴とするトリポード型等速ジョイント。
【請求項2】
前記逃げ部は、前記横断面における前記トルク伝達領域の周方向に隣接して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のトリポード型等速ジョイント。
【請求項3】
前記トリポード部材の回転軸に対する前記トリポード軸部の周方向両側のうち、トルク伝達に寄与しないトルク非伝達側では、最大ジョイント角以下の領域で、前記トリポード軸部と前記インナーローラとが接触しないように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のトリポード型等速ジョイント。
【請求項4】
前記横断面における前記トルク伝達領域の外周面の曲率は、同横断面における前記トリポード部材の回転軸方向の両端を短軸端とし、同回転軸方向に直交する方向の両端を長軸端とする楕円の円弧の曲率よりも小さいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のトリポード型等速ジョイント。
【請求項5】
前記横断面における前記トルク伝達領域の外周面の形状は、前記トリポード部材の回転軸に直交する方向の端部から周方向に向かうにつれて曲率が小さくなるインボリュート曲線で形成されていることを特徴とする請求項4に記載のトリポード型等速ジョイント。
【請求項6】
前記トリポード軸部の中心軸方向に沿った縦断面における前記トルク伝達領域の外周面の形状は、前記トリポード軸部の周方向において一様であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のトリポード型等速ジョイント。
【請求項7】
前記逃げ部は、前記トリポード軸部の内側に向かって窪んだ形状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のトリポード型等速ジョイント。
【請求項1】
回転軸に直交する方向に伸びる3本のトリポード軸部を有するトリポード部材と、
前記トリポード軸部に揺動可能に外嵌された円環状のインナーローラ、及び前記インナーローラに対して同軸上で相対回転可能なアウターローラを有するローラ部材と、
前記トリポード部材及び前記ローラ部材を収容する円筒部を有し、前記円筒部の内面に前記アウターローラを軸方向に案内する案内溝が形成されたアウターレースと、
を備え、前記トリポード部材と前記アウターレースとの間で前記ローラ部材を介してトルクの伝達を行いながら双方向に回転するトリポード型等速ジョイントであって、
前記トリポード軸部は、先端部から根元部にかけて太くなる形状であり、その中心軸に直交する横断面では、前記インナーローラと当接してトルクを伝達するトルク伝達領域の周方向側に同トルク伝達領域の外周面の延長線よりも内側に退避した逃げ部が形成されていることを特徴とするトリポード型等速ジョイント。
【請求項2】
前記逃げ部は、前記横断面における前記トルク伝達領域の周方向に隣接して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のトリポード型等速ジョイント。
【請求項3】
前記トリポード部材の回転軸に対する前記トリポード軸部の周方向両側のうち、トルク伝達に寄与しないトルク非伝達側では、最大ジョイント角以下の領域で、前記トリポード軸部と前記インナーローラとが接触しないように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のトリポード型等速ジョイント。
【請求項4】
前記横断面における前記トルク伝達領域の外周面の曲率は、同横断面における前記トリポード部材の回転軸方向の両端を短軸端とし、同回転軸方向に直交する方向の両端を長軸端とする楕円の円弧の曲率よりも小さいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のトリポード型等速ジョイント。
【請求項5】
前記横断面における前記トルク伝達領域の外周面の形状は、前記トリポード部材の回転軸に直交する方向の端部から周方向に向かうにつれて曲率が小さくなるインボリュート曲線で形成されていることを特徴とする請求項4に記載のトリポード型等速ジョイント。
【請求項6】
前記トリポード軸部の中心軸方向に沿った縦断面における前記トルク伝達領域の外周面の形状は、前記トリポード軸部の周方向において一様であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のトリポード型等速ジョイント。
【請求項7】
前記逃げ部は、前記トリポード軸部の内側に向かって窪んだ形状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のトリポード型等速ジョイント。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−255801(P2010−255801A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109014(P2009−109014)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
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