説明

トリポード型等速自在継手およびその組立方法

【課題】追加の部品、追加の加工、追加の操作を必要とすることなく、抜け止め効果を発揮するトリポード型等速自在継手の抜け止め機構を提供する。
【解決手段】ローラがトラニオンジャーナルに対して首振り可能で、かつ、トラニオンジャーナルの軸線方向に移動可能なトリポード型等速自在継手において、トラック溝124のハウジング大端面122付近でかつハウジング120の内径側に、トラック溝124に突出した突起128aを設け、トラック溝124のハウジング大端面122付近でかつハウジング120の外径側に、ローラ136の外径以上の距離をあけて対向した一対の切欠き128bを設ける。組立てに際しては、ハウジング大端面122からトラック溝124にローラ136を挿入する際にハウジング120の軸線に対して角度αaをつけて挿入するものとし、その角度αaをローラ136がトラニオンジャーナル114に対して首振り可能な最大角度αbよりも大きく設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はトリポード型等速自在継手およびその組立方法に関するもので、より具体的にはトリポード型等速自在継手の抜け止め機構に関する。
【背景技術】
【0002】
トリポード型等速自在継手は角度変位のみならず軸方向変位(プランジング)も可能なしゅう動型等速自在継手の一種であって、外側継手部材としてのハウジングと、内側継手部材としてのトリポードと、トルク伝達部材としてのローラを有し、ハウジングの内周面に形成した3本のトラック溝に、トリポードボスから半径方向に突出した3本のトラニオンジャーナルをそれぞれローラを介して収容させてある。トリポード型等速自在継手はしゅう動型であることから、通常、トリポードとローラを含むサブアセンブリがハウジングから抜け出さないようにするための機構すなわち抜け止め機構が設けられる。
【0003】
たとえば自動車用のトリポード型等速自在継手の場合、実車に組み付ける前の段階で、取扱い上の不注意などでローラがトラック溝から抜け出ることがある。この場合、手探りの状態でトラック溝にローラを挿入する必要があり、再組立てに手間がかかる。特に、ローラがリングとその外側に回転自在に配置したローラとからなる組立体(ローラカセットまたはローラアセンブリと呼ぶことがある)である場合、ローラカセットがトラック溝から脱落するとリングとローラが分解してしまうおそれがあるため、再組立てにはきわめて困難性を有する。
【0004】
特許文献1では、ハウジング開口側先端内面に面取り部を設けて、その面取り部の周方向にクリップ溝を形成し、そのクリップ溝にクリップを装着してローラの抜け止めを図っている。図7に示すように、ハウジング1の内面には軸方向に延びる三本のトラック溝2が120°の間隔をおいて形成してあり、各トラック溝2の円周方向両側の側壁を円弧状断面のローラ案内面3としてある。ハウジング1の内側に組み込まれたトリポード4は三本の脚軸5を有し、各脚軸5に複数の針状ころを介してローラ6を回転自在に支持させてある。ローラ6は球状の外周面7を有し、トラック溝2に収容され、ローラ案内面3上を転動しながらハウジング1の軸方向に移動可能である。
【0005】
図8に示すように、隣り合ったトラック溝2間は小径部9となっていて、その小径部9の外側には軸方向に延びる円弧状の盗み10が形成してある。また、小径部9のハウジング開口端側の先端部内面には第一面取り部11が形成してあり、その第一面取り部11に環状溝の一部を構成するクリップ溝12が形成してある。このクリップ溝12にクリップ15が取り付けてある(図7(B)参照)。クリップ15は、図9に示すようなおむすび形状で、トラック溝2の溝底に該当する円弧状内面16に沿う三つの円弧部17と、三つの直線状の装着部18とを、周方向に交互に形成し、装着部18の一つに切り離し部19が設けてある。
【0006】
クリップ15は弾性的に縮径させた状態で装着部18をハウジング1のクリップ溝12に合わせ、縮径させていた力を解放すると、弾性復元力により拡径して装着部18がクリップ溝12にはまり込む。このようにして装着した状態で、装着部18の両端部が、トラック溝2内に位置することによりローラ6と干渉して抜け止め作用を発揮する抜け止め部20(図7(B))となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3979779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されたものに代表される従来の技術の場合、抜け止めのための部品としてクリップを必要とし、ハウジングにはクリップ溝を加工しなければならず、加えてクリップをクリップ溝に装着するという操作が必要であるため、部品点数、加工工数、組立工数の増加につながる。
【0009】
この発明の目的は、ローラがトラニオンのジャーナル部に対して首振り可能で、かつ、ジャーナル部軸線方向に移動可能なトリポード型等速自在継手において、上記従来の技術におけるような追加の部品、追加の加工、追加の操作を必要とすることなく、抜け止め効果を発揮する構造すなわち抜け止め機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の一つの側面によれば、円周方向に等配した三本のトラニオンジャーナル114を有する内側継手部材110と、円周方向に等配した三本のトラック溝124を有する外側継手部材120と、トラニオンジャーナル114に支持されトラック溝124内に収容されたトルク伝達部材130を有し、トルク伝達部材130が、トラニオンジャーナル114に対して首振り可能で、かつ、トラニオンジャーナル114の軸線方向に移動可能なローラ136を含んでいるトリポード型等速自在継手において、
トラック溝124の外側継手部材大端面122付近でかつ外側継手部材120の内径側に、トラック溝124に突出した突起128aを設け、
トラック溝124の外側継手部材大端面122付近でかつ外側継手部材120の外径側に、ローラ136の外径以上の距離をあけて対向した一対の切欠き128bを設けたものである。
【0011】
この発明のもう一つの側面によれば、円周方向に等配した三本のトラニオンジャーナル114を有する内側継手部材110と、円周方向に等配した三本のトラック溝124を有する外側継手部材120と、トラニオンジャーナル114に支持されトラック溝124内に収容されたトルク伝達部材130を有し、トルク伝達部材130が、トラニオンジャーナル114に対して首振り可能で、かつ、トラニオンジャーナル114の軸線方向に移動可能なローラ136を含んでいるトリポード型等速自在継手において、
トラック溝124は、外側継手部材120の大端面122付近のみ外側継手部材120の軸線に対して角度(αa)をつけ、残余は外側継手部材120の軸線と平行とし、前記角度(αa)はローラ136がトラニオンジャーナル114に対して首振り可能な最大角度(αb)よりも大きい。
【0012】
また、この発明のトリポード型等速自在継手の組立方法は、外側継手部材120の大端面122から内側継手部材110とトルク伝達部材130を含むサブアセンブリを挿入するにあたり、トラック溝124にローラ136を挿入する際に外側継手部材120の軸線方向に対して角度をつけて挿入することを特徴とする。より具体的に述べるならば、トリポード型等速自在継手を組み立てるにあたっては、まず、トリポード110の各トラニオンジャーナル114にローラカセット130を取り付け、そのトリポード110とハウジング120を同軸状態に保ち、ハウジング120の大端面122に開口したトラック溝124に、三つのローラカセット130をそれぞれ傾けて挿入し、そうして全体を強制的にハウジング120内に押し込む。120度間隔で等配したトラック溝124に、各トラック溝124の開口端部に形成した切欠き128bに合わせて傾けた状態でローラカセット130を挿入するものであるため、ある程度強制的に押し込む必要がある。
【0013】
トラック溝124が全長にわたって外側継手部材120の軸線と平行な場合、切欠き128bは外側継手部材110の軸線に対して角度αa1をなし、前記角度αa1はローラ136がトラニオンジャーナル114に対して首振り可能な最大角度αbよりも大きくする。また、トラック溝124は、外側継手部材120の大端面122付近のみ外側継手部材120の軸線に対して角度αa2をつけ、残余は外側継手部材120の軸線と平行としてもよく、前記角度αa2はローラ136がトラニオンジャーナル114に対して首振り可能な最大角度αbよりも大きくする。いずれにしても、トラニオンジャーナル114の弾性変形を伴いながら、内側継手部材110とトルク伝達部材130を含むサブアセンブリを外側継手部材110に抜き差しできるように、前記角度αa1、αa2、αbを設定するのが好ましい。
【0014】
従来、ハウジングのトラック溝はハウジングの軸線と平行に延在していることから、ローラをトラック溝に挿入する際にも、各ローラをハウジングの軸線と平行にして、言い換えればローラの回転軸線がハウジングの軸線に垂直になるような姿勢にして、トラック溝に挿入する。しかし、この発明では、ローラカセット(トルク伝達部材)130をハウジング(外側継手部材)120のトラック溝124に挿入する際に、ローラカセット130をハウジング120の軸線に対して角度をなす姿勢にして挿入する。この角度をαaとする。
【0015】
一方、トラニオンジャーナル114に対するローラカセット130の首振り可能な最大角度をαbとすると、角度αaと角度αbの関係をαa>αbとすることにより、トリポード(内側継手部材)110とローラカセット130を含むサブアセンブリがハウジング120の大端面122付近までスライドアウトした際に、ローラカセット130がトラック溝124のハウジング大端面付近に設けて突起128aに乗り上げて、あるいは、トラック溝124の傾斜した端部に沿って傾き(このとき三つのローラカセット130はそれぞれ異なる方向に傾くことになる)、トラニオンジャーナル114とローラカセット130が接触するに至る。その結果、それ以上ローラカセット130がハウジング120の軸線方向に移動することが阻止されるので、トリポード110とローラカセット130を含むサブアセンブリがハウジング120から脱落するのを防止できる。このようにして抜止め機構が構成される。
【0016】
ハウジング120の大端面122付近でローラカセット130が傾いてそれ以上のハウジング大端面122側への軸方向移動を阻止されているときに、トリポード110とローラカセット130を含むサブアセンブリをさらにハウジング120から引き抜く方向に力を加えると、トラニオンジャーナル114を変形させることになる。トリポード110とローラカセット130を含むサブアセンブリがハウジング120から脱落するまでの間、トラニオンジャーナル114の変形が弾性変形にとどまるように角度αa、αbを設定すれば、継手の組立の際に、トリポード110とローラカセット130を含むサブアセンブリをハウジング120に強制的に押し込むことにより組立が可能で、なおかつ一旦組み込んだ後はトリポード110とローラアセンブリ130を含むサブアセンブリのハウジング120からの脱落を防止できる。
【発明の効果】
【0017】
上述のように、ハウジング120の軸線に対してローラカセット130が傾いた状態で、ハウジング120のトラック溝124に抜き差しする設計にし、その角度(αa)をトラニオンジャーナル114に対するローラカセット130の首振り可能な最大角度(αb)よりも大きくなるように設定すれば(αa>αb)、従来の技術に関連して述べたような追加の部品(クリップなど)を設けることなく、したがって追加の加工や追加の操作を必要とすることなく、トリポード110とローラカセット130を含むサブアセンブリの脱落を防止できる。また、この発明のトリポード型等速自在継手はクリップなどの追加の抜け止め用部品を用いないため、その組立作業も簡略化でき、作業能率が向上する。
【0018】
上では、トリポード110とローラカセット130を含むサブアセンブリがハウジング120の大端面122付近までスライドアウトしたときにローラカセット130がハウジング120の半径方向外側に傾く場合を例示したが、ハウジング120の半径方向内側に傾くようにすることも可能である。
また、ローラに関しては、単一のローラを使用する場合と、複数の環状体を組み合わせたローラカセットの場合があるが、この発明はいずれにも適用することができる。したがって、単にローラと称するときでもそれら両者を含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(A)はトリポード型等速自在継手の端面図、(B)は図1(A)の部分拡大図である。
【図2】図1(A)に示したトリポード型等速自在継手のII−II断面図、(B)は図2(A)のB−B断面図である。
【図3】図1のトリポード型等速自在継手の図1(B)に相当する部分の斜視図である。
【図4】トリポード部材とローラカセットの断面略図であって、(A)はローラカセットが傾いていない状態、(B)はローラカセットがトラニオンジャーナルに対して傾いた状態を示す。
【図5】トリポード型等速自在継手の縦断面略図であって、ローラカセットとトリポードからなるサブアセンブリがハウジングに対して抜け止めされる状態を示す。
【図6】別の実施例を示すトリポード型等速自在継手の縦断面略図であって、ローラカセットとトリポードからなるサブアセンブリが実使用範囲にある状態を示す。
【図7】(A)は従来の技術を示すトリポード型等速自在継手の縦断面図、(B)は一部を断面にした端面図である。
【図8】図7におけるハウジングの端面図である。
【図9】図7におけるクリップの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、トラニオンジャーナルの横断面が楕円形状で、かつ、ローラが内側のリングと外側のローラとからなるローラカセットの態様をしているトリポード型等速自在継手を例にとって、この発明の実施の形態を説明する。
【0021】
まず、図2を参照してトリポード型等速自在継手の基本構造を説明する。
トリポード型等速自在継手は、内側継手部材としてのトリポード110と、外側継手部材としてのハウジング120と、トルク伝達部材としてのローラカセット130を主要な構成要素としている。連結すべき二軸のうちの一方(駆動軸または従動軸)をトリポード110と接続し、もう一方(従動軸または駆動軸)をハウジング120と接続する。
【0022】
トリポード110は、ボス部112と、ボス部112の円周方向に等間隔に配置した半径方向に突出する三本の脚軸またはトラニオンジャーナル114とからなり、ボス部112の軸心部に形成したスプライン(またはセレーション。以下同じ)孔116を利用して駆動軸または従動軸とトルク伝達可能に接続するようになっている。ここではトラニオンジャーナル114の横断面は楕円形状で、楕円の短軸をトリポード110の軸線と平行に配置してある。トラニオンジャーナル114の横断面形状は、トリポード110の軸線方向を向いた外周面部分がトラニオンジャーナル114の軸線を中心とする仮想円の内側に退入した形状であればよく、楕円形はその代表例である。
【0023】
ハウジング120は、一端にて開口したカップ状で、内側に三本のトラック溝124が円周方向に等間隔に形成してある。この実施例ではトラック溝124は全長にわたりハウジング120の軸線方向に、言い換えればハウジング120の軸線と平行に延在している。トラック溝124はローラカセット130を収容するためのもので、トラック溝124の両側壁126はローラカセット130の外周面と適合する断面形状、一例を挙げるならば円弧状である。ハウジング120にはスプライン軸(図示せず)が一体的に形成してあり、そのスプライン軸にて従動軸または駆動軸とトルク伝達可能に接続するようになっている。
【0024】
ローラカセット130は、針状ころ134を介して相対回転自在のリング132とローラ136および針状ころ134の両端側に配置したワッシャ138a、138bとからなり、組み立てた状態で全体を一括してローラカセットと呼んでいる。リング132は外周面が円筒形状で、内周面は縦断面が凸円弧状である。ローラ136の内側に位置するリング132をトラニオンジャーナル114に支持させる。横断面が楕円形状のトラニオンジャーナル114と、縦断面が凸円弧状のリング132は、トリポード110の円周方向すなわちトルク伝達方向で接し、他はすきまが存在する。したがって、トラニオンジャーナル114に対してリング132は、軸方向移動および首振りが可能である。首振りとは、トラニオンジャーナル114の軸線を含んだ平面内でリング132がトラニオンジャーナル114の軸線に対して傾くことを意味する。
【0025】
ローラ136は、図2(A)に示すように、内周面が円筒形状で、外周面は球面状である。この球面状外周面が上述のハウジング120のローラ案内面126と接する(図2(B)参照)。たとえば、ローラ136の外周面が真球面(の一部)の場合、ローラ案内面126は円筒面(の一部)となる。ローラ136の球面状外周面の形状には、外周面の母線の曲率中心がローラ136の軸線上にないものも含まれる。外周面の母線の曲率中心が軸線よりも外径側にある場合、ローラの外周面はいわゆる円環となる。ローラ136の両端部の内周面に環状溝を形成し、そこにワッシャ138a、138bを装着する。ワッシャ138a、138bを装着することにより、リング132と針状ころ134とローラ136の三者が一括して取り扱い可能なユニットとなることから、これらをまとめてローラカセットと呼んでいる。
【0026】
次に、図1〜図3を参照して実施例を説明する。
図1(A)は既述の図2のトリポード型等速自在継手の端面図で、図1(B)は図1(A)の部分拡大図である。図1と図2から明らかなように、ハウジング120の開口端部において、トラック溝124の側壁が従来のトリポード型等速自在継手とは相違している。具体的には、ハウジング120の大端面122付近において、各トラック溝124のハウジング内径側に突起128aを設け、ハウジング外径側に切欠き128bを設けてある。突起128aはトラック溝124内にローラカセット130と干渉する位置まで突出している。各トラック124に設ける突起128aの数は、図示するように向かい合わせの対とするほか、抜け止め作用を発揮する限り一つだけでもよい。
【0027】
切欠き128bは、ローラカセット130を斜めに傾けた状態でトラック溝124に抜き差しできるようにトラック溝124の壁面を部分的に除去したものである。したがって、切欠き128bは図示するように向かい合わせの対で配設し、各切欠き128bの幅と、対をなす切欠き128b間の距離は、ローラ136の通過を許容する程度とする。たとえば切欠き128b間の距離はローラ136の外径とほぼ等しいか、わずかに大きい程度とする。図2(A)に示すように、ローラカセット130単独で、弾性変形を伴うことなく、トラック溝124に抜き差し可能な角度をαa1とする。
【0028】
トリポード110とローラカセット130を含むサブアセンブリを図4(A)に示す。なお、ローラカセット130の針状ころやワッシャは省略してある。トラニオンジャーナル114に対するローラカセット130の首振り可能な最大角度をαbとする(図4(B))。上記の角度αa1と角度αbを、両者の関係がαa1>αbとなるように設定することにより、図5に示すようにトリポード110とローラカセット130を含むサブアセンブリがハウジング120の大端面122付近までスライドアウトすると、ローラカセット130がハウジング120のトラック溝124に設けた突起128aに乗り上げて傾き、トラニオンジャーナル114とローラカセット130(のリング132)が接触するに至る。その結果、それ以上のローラカセット130のハウジング軸線方向への移動が阻止される。したがって、トリポード110とローラカセット130を含むサブアセンブリがハウジング120から脱落するのを防止できる。
【0029】
また、トリポード110とローラカセット130を含むサブアセンブリがハウジング120の大端面122から脱落するまでの間のトラニオンジャーナル114の変形が弾性変形となるように、角度αa1および角度αbを設定すれば、継手の組立の際に、トリポード110とローラカセット130を含むサブアセンブリをハウジング120に強制的に押し込むことによって組立が可能で、なおかつ一旦組み込んだ後はトリポード110とローラカセット130を含むサブアセンブリのハウジング120からの脱落を防止できる。
【0030】
ここで、当該トリポード型等速自在継手を組み立てるにあたっては、まず、トリポード110の各トラニオンジャーナル114にローラカセット130を取り付け、そのトリポード110とハウジング120を同軸状態に保ち、ハウジング120の大端面122に開口したトラック溝124に、三つのローラカセット130をそれぞれ傾けて挿入し、そうして全体を強制的にハウジング120内に押し込む。120度間隔で等配したトラック溝124に、各トラック溝124の開口端部に形成した切欠き128bに合わせて傾けた状態でローラカセット130を挿入するものであるため、ある程度強制的に押し込む必要がある。
【0031】
分解はこれとは逆の手順を踏むことになるが、トリポード110をハウジング120から引き抜こうとすると、ローラアセンブリ130が突起128aに当たって抜け止め作用が働く。したがって、本当に分解を実行すべきときはさらに強制的に引き抜き方向の力を加える。すると各ローラアセンブリ130が突起128aに乗り上げて傾き、ローラアセンブリ130が切欠き128bに合致するまで傾いて初めてトラック溝124から抜き出すことができる。組立のときと同様に、120度間隔で等配したトラック溝124から、各トラック溝124の開口端部に形成した切欠き128bに合わせて傾けた状態でローラカセット130を抜き出すものであるため、ある程度強制的に引き抜く必要がある。このようにして、トリポード型等速自在継手をトリポード110とローラカセット130のサブアセンブリとハウジング120とに分解することができる。
【0032】
図6に示す実施例は、ハウジング120のトラック溝124の大端面122付近の領域(挿入時PCD拡大部)において、トラック溝124のピッチ円径PCDを大端面122に近付くにつれて拡大させ、言い換えればハウジング120の外径側に移動させたものである。ハウジング120の軸線に対する角度を符号αa2で示してある。挿入時PCD拡大部以外の実使用範囲ではトラック溝124はハウジング120の軸線と平行に延在している。図4を参照してすでに述べたように、トラニオンジャーナル114に対するローラカセット130の首振り可能な最大角度をαbとする。そして、角度αa2と角度αbを両者の関係がαa2>αbとなるように設定することにより、上述の実施例と同様に、トリポード110とローラカセット130を含むサブアセンブリがハウジング120の大端面122付近までスライドアウトしたとき、ローラカセット130がハウジング120のトラック溝124に沿って傾き(図5参照)、トラニオンジャーナル114とローラカセット130(のリング132)が接触するに至る。その結果、それ以上のローラカセット130のハウジング軸線方向への移動が阻止され、トリポード110とローラカセット130を含むサブアセンブリがハウジング120の大端面22から脱落するのを防止できる。
【0033】
図6に示す実施例の場合の組立てや分解方法は、図1の実施例について上に述べたところと実質的に同様である。
【0034】
以上の説明では、トラニオンジャーナル114の横断面が楕円形状で、トルク伝達部材として針状ころ134を介して相対回転自在のリング132とローラ136とで構成したローラカセット130を用いるタイプを例にとったが、ローラがトラニオンジャーナルに対して首振り可能で、かつ、トラニオンジャーナル軸線方向に移動可能なトリポード型等速自在継手であれば、他のタイプでも実施可能である。
【0035】
たとえば、円筒形状のトラニオンジャーナルに複数の針状ころを介して回転自在に内側ローラを取り付け、内側ローラの球面状外周面に外側ローラの円筒形状内周面を回転自在に嵌合させ、内側ローラと外側ローラとの間で軸方向移動と首振りを許容するようにしたタイプも知られている。
【0036】
針状ころを介して相対回転自在のリングとローラとでローラカセットを構成させ、トラニオンジャーナルの球面状外周面にリングの球面状内周面を球面嵌合させ、トラニオンジャーナルに対するローラの軸方向移動および首振りを許容するようにしたタイプも知られている。
【0037】
また、トラニオンジャーナルの球面状外周面に複数の針状ころを介してローラの円筒形状内周面を嵌合させ、針状ころとトラニオンジャーナルとの間で軸方向移動と首振りを許容するようにしたタイプも知られている。
【0038】
さらに、トラニオンジャーナルの球面状外周面にリングの円筒形状内周面を嵌合させ、そのリングの円筒形状外周面に複数の針状ころを介してローラの円筒形状内周面を嵌合させ、トラニオンジャーナルとリングとの間で軸方向移動と首振りを許容するようにしたタイプも知られている。
【符号の説明】
【0039】
110 トリポード(内側継手部材)
112 ボス
114 トラニオンジャーナル
116 スプライン孔
120 ハウジング(外側継手部材)
122 大端面
124 トラック溝
126 側壁(ローラ案内面)
128a 突起
128b 切欠き
130 ローラカセット(トルク伝達部材)
132 リング
134 針状ころ
136 ローラ
138a、138b ワッシャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向に等配した三本のトラニオンジャーナルを有する内側継手部材と、円周方向に等配した三本のトラック溝を有する外側継手部材と、前記トラニオンジャーナルに支持され前記トラック溝内に収容されたトルク伝達部材を有し、前記トルク伝達部材が、前記トラニオンジャーナルに対して首振り可能で、かつ、前記トラニオンジャーナルの軸線方向に移動可能なローラを含んでいるトリポード型等速自在継手において、
前記トラック溝の前記外側継手部材大端面付近でかつ前記外側継手部材の内径側に、前記トラック溝に突出した突起を設け、
前記トラック溝の前記外側継手部材大端面付近でかつ前記外側継手部材の外径側に、前記ローラの外径以上の距離をあけて対向した一対の切欠きを設けたことを特徴とするトリポード型等速自在継手。
【請求項2】
前記トラック溝は前記外側継手部材の軸線と平行に延在し、前記切欠きは前記外側継手部材の軸線に対して角度(αa)をなし、前記角度(αa)は前記ローラが前記トラニオンジャーナルに対して首振り可能な最大角度(αb)よりも大きい請求項1のトリポード型等速自在継手。
【請求項3】
円周方向に等配した三本のトラニオンジャーナルを有する内側継手部材と、円周方向に等配した三本のトラック溝を有する外側継手部材と、前記トラニオンジャーナルに支持され前記トラック溝内に収容されたトルク伝達部材を有し、前記トルク伝達部材が、前記トラニオンジャーナルに対して首振り可能で、かつ、前記トラニオンジャーナルの軸線方向に移動可能なローラを含んでいるトリポード型等速自在継手において、
前記トラック溝は、前記外側継手部材の大端面付近のみ前記外側継手部材の軸線に対して角度(αa)をつけ、残余は前記外側継手部材の軸線と平行とし、前記角度(αa)は前記ローラが前記トラニオンジャーナルに対して首振り可能な最大角度(αb)よりも大きいことを特徴とするトリポード型等速自在継手。
【請求項4】
前記トラニオンジャーナルの弾性変形を伴いながら、前記内側継手部材を前記外側継手部材に抜き差しできるように、前記角度αa、αbを設定した、請求項2または3のトリポード型等速自在継手。
【請求項5】
前記トルク伝達部材が、複数の針状ころを介して相対回転自在のリングとローラを有し、前記リングの縦断面が凸円弧状で、前記トラニオンジャーナルの横断面が楕円状である請求項1から4のいずれか1項のトリポード型等速自在継手。
【請求項6】
円筒形状のトラニオンジャーナルに複数の針状ころを介して回転自在に内側ローラを取り付け、内側ローラの球面状外周面に外側ローラの円筒形状内周面を回転自在に嵌合させ、内側ローラと外側ローラとの間で軸方向移動と首振りを許容するようにした請求項1から4のいずれか1項のトリポード型等速自在継手。
【請求項7】
トラニオンジャーナルの球面状外周面にローラの球面状内周面を球面嵌合させ、トラニオンジャーナルに対してローラを首振り可能とした請求項1から4のいずれか1項のトリポード型等速自在継手。
【請求項8】
トラニオンジャーナルの球面状外周面に複数の針状ころを介してローラの円筒形状内周面を嵌合させ、針状ころとトラニオンジャーナルとの間で軸方向移動と首振りを許容するようにした請求項1から4のいずれか1項のトリポード型等速自在継手。
【請求項9】
トラニオンジャーナルの球面状外周面にリングの円筒形状内周面を嵌合させ、そのリングの円筒形状外周面に複数の針状ころを介してローラの円筒形状内周面を嵌合させ、トラニオンジャーナルとリングとの間で軸方向移動と首振りを許容するようにした請求項1から4のいずれか1項のトリポード型等速自在継手。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項のトリポード型等速自在継手を組み立てる方法であって、
前記内側継手部材と前記トルク伝達部材を含むサブアセンブリを前記外側継手部材の大端面から挿入するにあたり、前記トラック溝に前記ローラを挿入する際に前記外側継手部材の軸線方向に対して角度(αa)をつけて挿入することを特徴とするトリポード型等速自在継手の組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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