説明

トリポード型等速自在継手の抜け止め機構

【課題】トリポード側等速自在継手のトリポード部材の抜け止めに要するコストを削減すると共に、組付を容易化する。
【解決手段】抜け止め部材70が内側部71及び外側部72を一体に有することにより、部品点数が削減される。また、内側部71と外側部72との間に外側継手部材10の開口端部を嵌め込むことにより、外側継手部材10の開口端部に抜け止め部材70を安定した状態で配置することができるため、その後のブーツ50の装着時における抜け止め部材70の位置ずれを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリポード型等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手は、駆動側と従動側の回転軸を、2軸間の角度変位を許容しながらトルク伝達可能に連結するものであり、2軸間の相対的な軸方向位置が固定された固定型と、2軸間の相対的な軸方向移動が許容された摺動型とに大別される。摺動型等速自在継手として、半径方向に突出した3本の脚軸を有するトリポード部材と、内周にトリポード部材を収容した外側継手部材との間でトルク伝達を行うトリポード型等速自在継手が知られている。
【0003】
トリポード型等速自在継手には、外側継手部材の内周で軸方向に移動可能に設けられたトリポード部材が外側継手部材の開口部から抜け出すことを規制する抜け止め機構が設けられる。例えば特許文献1では、外側継手部材の内周面に形成した周方向溝に環状のクリップを装着し、このクリップとトリポード部材に設けられたローラとを軸方向で干渉させて、トリポード部材の抜け止めを行っている。しかしながら、このように外側継手部材の内周面に周方向溝を形成する加工は容易ではなく加工コストが嵩むと共に、周方向溝にクリップを装着する作業は手間がかかるため作業性が低下する。
【0004】
特許文献2には、外側継手部材の端面に抜け止め部材を設けた構成が示されている。具体的には、図9に示すように、外側継手部材112の端面113に環状の抜け止め部材100を設け、この抜け止め部材100の耳部110をトリポード部材(図示省略)のローラとを干渉させることにより、トリポード部材の抜け止めを行っている。抜け止め部材100は、ブーツバンド170で固定されたブーツ150及びブッシュ160を介して、外側継手部材112の端面113に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平10−194号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0281564号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2のように、抜け止め部材を外側継手部材の端面に設けることで、外側継手部材の内周面に周方向溝を形成する必要がないため、外側継手部材の加工性、及び、抜け止め部材の取り付け性が向上する。その反面、抜け止め部材を外側継手部材に固定するためにブッシュ160が別途必要となることにより、部品点数が増え、トリポード部材の抜け止めに要するコストの増大を招く。
【0007】
また、図9の抜け止め部材100は、(1)抜け止め部材100を外側継手部材112の端面113に配置し、(2)ブッシュ160を装着し、(3)ブーツ150を装着し、(4)ブーツバンド170を取り付ける、という工程を経て外側継手部材112に固定される。このとき、抜け止め部材100を外側継手部材112の端面113に配置してからブッシュ160を装着するまでの間(上記(1)と(2)の間)は、抜け止め部材100は外側継手部材112の端面113に載置された不安定な状態となっている。このため、抜け止め部材100の位置がずれないようにブッシュ160を慎重に装着する必要があり、作業性の低下を招く。
【0008】
本発明の解決すべき課題は、トリポード側等速自在継手において、トリポード部材の抜け止めに要するコストを削減すると共に、組付作業を容易化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、軸方向に延びた3本のトラック溝を内周面に有し、各トラック溝の互いに対向する側壁にローラ案内面を形成した外側継手部材と、外側継手部材の内周に収容され、半径方向に突出した3本の脚軸を有するトリポード部材と、脚軸に回転自在に設けられ、トラック溝に収容されたローラと、外側継手部材の開口部を閉塞するブーツと、外側継手部材の開口端部に設けられ、外側継手部材の開口部からのトリポード部材の抜けを規制する抜け止め部材とを備えたトリポード型等速自在継手において、抜け止め部材が、ローラ案内面からトラック溝に突出した内側部と、外側継手部材の外周側に配された外側部と、内側部と外側部とを連結する連結部とを一体に有し、内側部と外側部との間に外側継手部材の開口端部を嵌め込んだことを特徴とする。
【0010】
このように、抜け止め部材が内側部、外側部、及び連結部を一体に有することにより、図9に示すようなブッシュ160が削減され、低コスト化及び組付工数の削減を図ることができる。また、抜け止め部材の内側部、外側部、及び連結部で、外側継手部材の開口端部の断面形状に沿った略コの字形状を構成することができるため、内側部と外側部との間に外側継手部材の開口端部を嵌め込むことにより、外側継手部材の開口端部に抜け止め部材を安定した状態で配置することができるため、その後のブーツ装着等の作業時における抜け止め部材の位置ずれを防止でき、組付作業が容易化される。
【0011】
外側継手部材の外周面に凹部を設け、この凹部に抜け止め部材の外側部を嵌め込めば、外側部と凹部とが外側継手部材の周方向で係合することで、抜け止め部材を外側継手部材に対して周方向に位置決めすることができ、抜け止め部材の安定性が高められる。
【0012】
ブーツの内周面と外側継手部材の外周面とで抜け止め部材の外側部を挟持すれば、抜け止め部材の固定力を高めることができる。この場合、抜け止め部材の外側部が外側継手部材の外周面から突出していると、突出した外側部によりブーツの内周面が変形し、ブーツのシール性が低下する恐れがある。よって、外側継手部材の外周面に凹部を設け、この凹部に嵌め込んだ前記抜け止め部材の外側部が、外側継手部材の外周面から突出しないようにすることが好ましい。
【0013】
また、抜け止め部材の連結部の継手開口側(軸方向で外側継手部材の開口部側)端面にブーツを当接させれば、抜け止め部材の継手開口側への移動をブーツで規制することができるため、抜け止め部材に抜け力(継手開口側向きの力)が加わった場合でも、抜け止め部材の外側継手部材からの抜けを確実に防止することができる。
【0014】
抜け止め部材の内側部と外側部との間に、外側継手部材の開口端部を隙間を介して嵌め込めば、外側継手部材への抜け止め部材の装着がさらに容易化される。一方、抜け止め部材の内側部と外側部との間に、外側継手部材の開口端部を締め代を介して嵌め込めば、抜け止め部材を外側継手部材の開口端部に装着した際の安定性をさらに高めることができる。
【0015】
各トラック溝に収容されたローラの抜けを規制するためには、各トラック溝の互いに対向するローラ案内面の少なくとも一方に内側部を設ければよい。このとき、例えば全ての内側部を連結して環状の抜け止め部材を設けると、内側部を連結する部分の材料が無駄となって歩留まりが低下すると共に、複数の内側部を同時に外側継手部材に装着する必要があるため作業性が低下する。そこで、各ローラ案内面に配された内側部ごとに抜け止め部材を分割して設ければ、内側部を連結する材料が不要となって歩留まりが高められると共に、ローラ案内面ごとに抜け止め部材を一つずつ装着することができるため作業性が高められる。
【0016】
抜け止め部材の内側部に、ローラ案内面からの突出量を継手開口側に向けて徐々に大きくした傾斜面を設ければ、この傾斜面にローラを当接させることにより、内側部を外側継手部材の内周面に押し付ける力が発生し、抜け止め部材の外側継手部材からの抜けをより確実に規制することができる。
【0017】
上記のトリポード型等速自在継手は、トリポード部材から延び、外側継手部材の開口部から突出した回転軸を設ける構成とすることができる。このとき、抜け止め部材の継手開口側端部には、回転軸との干渉を回避するための切り欠き部を形成することが好ましい。
【0018】
抜け止め部材の材質は、例えばステンレス鋼、ばね鋼、鉄、アルミニウム、プラスチックの中から選択されたものとすることができる。
【0019】
上記のトリポード型等速自在継手において、ローラの内周に脚軸と摺動可能な支持リングを設け、支持リングの内周面を円筒面状とすると共に、脚軸の外周面を球面状とすれば、ローラを脚軸に対して首振り揺動自在とすることができ、これによりローラを常にトラック溝に沿った方向に配することができる。
【0020】
あるいは、ローラの内周に脚軸と摺動可能な支持リングを設け、支持リングの内周面を縦断面において凸円弧形状とすると共に、脚軸の外周面を縦断面においてストレート形状とし、脚軸の横断面を、継手の軸線と直交する長軸を持った略楕円形とすることにより、ローラを脚軸に対して首振り揺動自在とすることもできる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明のトリポード型等速自在継手によれば、トリポード部材の抜け止めに要するコストを削減できると共に、組付を容易化できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】トリポード型等速自在継手の軸方向における断面図である。
【図2】トリポード型等速自在継手の軸方向と直交する方向における断面図である。
【図3】抜け止め部材の斜視図である。
【図4】外側継手部材に抜け止め部材を装着した状態を示す斜視図である。
【図5】トリポード型等速自在継手の抜け止め部材付近の拡大断面図である。
【図6】他の実施形態に係るトリポード型等速自在継手の抜け止め部材付近の断面図である。
【図7】他の実施形態に係るトリポード型等速自在継手の断面図である。
【図8】他の実施形態に係るトリポード型等速自在継手の断面図である。
【図9】従来のトリポード型等速自在継手の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1及び図2に、本発明の実施形態に係るトリポード型等速自在継手1を示す。このトリポード型等速自在継手1は、外側継手部材10と、トリポード部材20と、ローラ30と、回転軸40と、ブーツ50とを有し、外側継手部材10から延びた回転軸(例えば駆動軸、図示省略)とトリポード部材20から延びた回転軸40(例えば従動軸)とを、トルク伝達可能に連結するものである。
【0025】
外側継手部材10は、一端が開口した有底筒状でその底部中央から図示しない回転軸が一体的に延びている。外側継手部材10の内周面には、軸方向に延びる3本のトラック溝12が円周方向等間隔に形成されている(図2参照)。各トラック溝12の互いに対向する側壁には、それぞれローラ案内面14が形成される。ローラ案内面14は円弧状断面を有し、外側継手部材10の軸線方向に直線状に延びる。外側継手部材10の外周面は、軽量化のため、隣接するトラック溝12間と対応する部位が減肉されて軸方向に延びた凹所16が形成される。外側継手部材10の開口側端面17には、回転軸40との干渉を回避するため、隣接するトラック溝12間と対応する部位に面取り部18が形成される。
【0026】
トリポード部材20は、ボス22の外周面に、半径方向外側に突出した三本の脚軸24が円周方向等間隔で一体形成されたものである。ボス22の軸孔には、回転軸40の軸端がスプライン嵌合により連結される。回転軸40は、止め輪41によりボス22に対して抜け止めされる。各脚軸24の先端は、半径方向外側へ延びてトラック溝12の底面付近まで延在し、その外周面は円筒面とされている。
【0027】
トリポード部材20の各脚軸24には、ローラ30が回転自在に設けられる。脚軸24の外周面とローラ30の内周面との間には、複数の針状ころ60が単列総ころ状態で配設される。ローラ30の外周面は、縦断面(ローラ30の中心軸を含む断面)において円弧状とされ、ローラ案内面14とアンギュラ接触により二箇所で接触する場合と、サーキュラ接触により一箇所で接触する場合がある。ローラ30の内周面は、円筒面状に形成されている。ローラ30は外側継手部材10のトラック溝12に挿入され、ローラ30とトラック溝12とが周方向で係合することにより、トルク伝達が行われる。また、トルク伝達時、ローラ30がローラ案内面14に沿って転動することにより、トリポード型等速自在継手1を介して連結された二つの回転軸(駆動軸と従動軸)の間の角度変位と軸方向変位が許容される。
【0028】
トリポード部材20の各脚軸24の先端部には、針状ころ60およびローラ30の抜けを規制するために、アウタワッシャ61及びスナップリング62が装着される。脚軸24の基端部には、針状ころ60の内端面に対向するインナワッシャ63が配設されている。スナップリング62は、脚軸24の先端部に形成された周方向の凹溝26に嵌合され、アウタワッシャ61の抜けを規制している。アウタワッシャ61は、針状ころ60及びローラ30の外端面に対向する位置に配され、これらの抜けを規制している。
【0029】
ブーツ50は、ゴム等の弾性材で形成され、一端部に設けられた大径部51と、他端部に設けられた小径部52と、大径部51と小径部52との間に設けられた蛇腹部53とを有する。大径部51を、ブーツバンド54により外側継手部材10の外周面の開口端部付近に固定すると共に、小径部52を、ブーツバンド55により回転軸40の外周面に固定することにより、外側継手部材10の開口部がブーツ50により密閉される。ブーツバンド54,55は、大径部51及び小径部52に対して、所定の締め代(例えば直径差で0.5〜2.5mm程度)で締め付けられる。尚、ブーツ50で密閉された空間には潤滑剤(グリース等)が充填される。
【0030】
外側継手部材10の開口端部には、外側継手部材10の開口部からのトリポード部材20の抜けを規制する抜け止め部材70が設けられる。抜け止め部材70は、例えばステンレス鋼、ばね鋼、鉄、アルミニウム、プラスチックの中から選択された材料で形成され、図3に示すように、略平行に延びた内側部71及び外側部72と、これらの端部同士を連結する連結部73とを有し、全体として略コの字形状を成している。内側部71,外側部72,及び連結部73は一体に形成され、本実施形態では同一材料で一体成形される。抜け止め部材70は、各トラック溝12の互いに対向するローラ案内面14の少なくとも一方に配され、本実施形態では、図2に示すように、全てのローラ案内面14に一つずつ抜け止め部材70が設けられる。尚、抜け止め部材70の配置数や配置箇所は上記に限らず、例えば、各トラック溝12の対向するローラ案内面14のうちの一方にのみ抜け止め部材70を設けても良い。
【0031】
抜け止め部材70を外側継手部材10の開口端部に配置した状態では、図4に示すように、外側継手部材10の内周側に内側部71が配され、外側継手部材10の外周側に外側部72が配され、内側部71と外側部72との間に外側継手部材10の開口端部が嵌め込まれている。本実施形態では、内側部71と外側部72との間に、外側継手部材10の開口端部が微小隙間を介して嵌め込まれている。すなわち、抜け止め部材70を外側継手部材10に装着する前の状態で、内側部71と外側部72との間隔が、外側継手部材10のうちの抜け止め部材70装着予定箇所(凹部19形成箇所)の肉厚よりも若干大きくなっている。連結部73の継手奥側(図5の右側)の端面は外側継手部材10の開口側端面17と当接し、連結部73の継手開口側(図5の左側)の端面はブーツ50と当接している。
【0032】
内側部71は、ローラ案内面14からトラック溝12に突出して設けられる。内側部71は、ローラ案内面14からの突出量が継手開口側に向けて徐々に大きくなった傾斜面71aを有し、この傾斜面71aとローラ30が当接することにより、トリポード部材20の外側継手部材10からの抜けが規制される(図5参照)。このとき、抜け止め部材70は、ローラ30から受ける力の径方向の分力により外側継手部材10の内周面に押し付けられるため、抜け止め部材70の抜けが規制される。さらに、抜け止め部材70の継手開口側端面にブーツ50が当接しているため、抜け止め部材70の抜けが確実に規制される。
【0033】
抜け止め部材70には、内側部71の継手開口側端部の一部を斜めに切欠いた切り欠き部71bが形成される。この切り欠き部71bは、外側継手部材10の開口側端面17に形成された面取り部18とおおよそ連続して形成される(図2参照)。この切り欠き部71bにより、回転軸40が外側継手部材10に対して大きな角度で屈曲した場合でも、抜け止め部材70と回転軸40との干渉を回避することができる。
【0034】
外側部72は、外側継手部材10の外周面に設けられた軸方向の凹部19に嵌め込まれる。これにより、外側部72と凹部19とが周方向で係合可能とされ、抜け止め部材70が外側継手部材10に対して周方向に位置決めされる。外側部72は外側継手部材10の外周面から突出しておらず、図示例ではおよそ面一になっている。これにより、ブーツ50の大径部51の内周面が外側部72により変形することがなく、ブーツ50のシール性を確保できる。
【0035】
抜け止め部材70は、(1)外側継手部材10の開口端部に抜け止め部材70を装着し、(2)ブーツ50の大径部51を外側継手部材10の外周面に装着し、(3)大径部51の外周をブーツバンド54で締め付けるという工程を経て、外側継手部材10の開口端部に固定される。
【0036】
上記(1)に示す抜け止め部材70の装着工程において、抜け止め部材70が内側部71と外側部72とを一体に有する略コの字型を成しているため、内側部71及び外側部72の間に外側継手部材10の開口端部を嵌め込むことで、抜け止め部材70を外側継手部材10に安定した状態で装着することができる。また、抜け止め部材70の外側部72を、外側継手部材10の外周面に形成した軸方向の凹部19に嵌め込むことで、抜け止め部材70が周方向で位置決めされ、抜け止め部材70の安定性が高められる。このように、抜け止め部材70が、外側継手部材10の開口端部に安定した状態で配置されることにより、その後のブーツ50及びブーツバンド54の装着工程において抜け止め部材70が外側継手部材10から外れる恐れが低減され、組付作業が容易化される。本実施形態のように、抜け止め部材70を各ローラ案内面14ごとに分割して設けた場合、上記のように抜け止め部材70の装着安定性を高めることが特に有効となる。
【0037】
本発明は上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態について説明するが、上記の実施形態と同様の構成及び機能を有する箇所には同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
上記の実施形態では、抜け止め部材70の内側部71と外側部72との間に、外側継手部材10の開口端部が隙間を介して嵌め込まれているが、これに限られず、例えば内側部71と外側部72との間に外側継手部材10の開口端部を締め代を介して嵌め込んでもよい(図示省略)。この場合、抜け止め部材70を外側継手部材10に装着する前の状態で、内側部71と外側部72との間隔が、外側継手部材10の抜け止め部材70装着予定箇所の肉厚よりも締め代の分だけ小さく設定される。そして、抜け止め部材70を弾性変形させて内側部71と外側部72との間隔を広げながら、これらの間に外側継手部材10を嵌め込んだ後、抜け止め部材70を弾性復元させることにより、抜け止め部材70と外側継手部材10とを締め代を介して装着される。このとき、抜け止め部材70と外側継手部材10の締め代δ、すなわち、外側継手部材10に装着する前の状態における抜け止め部材70の内側部71と外側部72との間隔L1と、外側継手部材10の抜け止め部材70装着予定箇所の肉厚L2との差(δ=L2−L1)は、例えば肉厚L2に対して1〜10%程度に設定される。
【0039】
また、上記の実施形態では、外側継手部材10の外周面に形成した軸方向の凹部19に抜け止め部材70の外側部72を嵌め込んだ場合を示したが、これに限らず、例えば図6に示すように、外側継手部材10の外周面に凹部を形成しない構成とすることもできる。この場合、抜け止め部材70の外側部72が外側継手部材10の外周面から突出するため、ブーツ50の大径部51の内周面に外側部72に凹部51aを形成し、この凹部51aに外側部72を収容することが好ましい。
【0040】
また、上記の実施形態では、ローラ30が脚軸24に対して回転のみ許容された構成を成しているが、これに限られない。例えば図7に示す実施形態では、ローラ30の内周に、針状ころ60を介して支持リング80を設け、支持リング80の内周面と脚軸の外周面とを摺動させる構成としている。ローラ30の内周面にはクリップ81,82が設けられ、これらにより針状ころ60及び支持リング80の軸方向(図7の上下方向)の移動が規制される。支持リング80の内周面は円筒面形状とされ、脚軸24の外周面は凸球面形状される。これにより、支持リング80を脚軸24に対して首振り揺動自在とすることができるため、トリポード型等速自在継手1で連結された2つの回転軸に角度を付した場合でも、ローラ30を常にローラ案内面14の延びる方向(軸方向)に沿って転動させることができる。
【0041】
また、図8に示す実施形態では、支持リング80の内周面を縦断面(脚軸24の中心軸を含む断面、図8(a)参照)において凸円弧形状とすると共に、脚軸24の外周面を縦断面においてストレート形状とし、且つ、脚軸24の横断面(脚軸24の軸方向と直交する方向の断面、図8(b)参照)を継手の軸線と直交する長軸を持った略楕円形としている。これにより、支持リング80を脚軸24に対して首振り揺動自在とすることができ、ローラ30を常にローラ案内面14の延びる方向に沿って転動させることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 トリポード型等速自在継手
10 外側継手部材
19 凹部
20 トリポード部材
22 ボス
24 脚軸
30 ローラ
40 回転軸
50 ブーツ
70 抜け止め部材
71 内側部
71a 傾斜面
71b 切り欠き部
72 外側部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びた3本のトラック溝を内周面に有し、各トラック溝の互いに対向する側壁にローラ案内面を形成した外側継手部材と、外側継手部材の内周に収容され、半径方向に突出した3本の脚軸を有するトリポード部材と、脚軸に回転自在に設けられ、トラック溝に収容されたローラと、外側継手部材の開口部を閉塞するブーツと、外側継手部材の開口端部に設けられ、外側継手部材の開口部からのトリポード部材の抜けを規制する抜け止め部材とを備えたトリポード型等速自在継手において、
前記抜け止め部材が、ローラ案内面からトラック溝に突出した内側部と、外側継手部材の外周側に配された外側部と、内側部と外側部とを連結する連結部とを一体に有し、内側部と外側部との間に外側継手部材の開口端部を嵌め込んだことを特徴とするトリポード型等速自在継手。
【請求項2】
外側継手部材の外周面に凹部を設け、この凹部に前記抜け止め部材の外側部を嵌め込んだ請求項1記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項3】
ブーツの内周面と外側継手部材の外周面とで前記抜け止め部材の外側部を挟持した請求項1又は2記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項4】
外側継手部材の外周面に凹部を設け、この凹部に嵌め込んだ前記抜け止め部材の外側部が、外側継手部材の外周面から突出しないようにした請求項3記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項5】
前記抜け止め部材の連結部の継手開口側端面にブーツを当接させた請求項1〜4の何れかに記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項6】
前記抜け止め部材の内側部と外側部との間に、外側継手部材の開口端部を隙間を介して嵌め込んだ請求項1〜5の何れかに記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項7】
前記抜け止め部材の内側部と外側部との間に、外側継手部材の開口端部を締め代を介して嵌め込んだ請求項1〜5の何れかに記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項8】
各トラック溝の互いに対向するローラ案内面の少なくとも一方に内側部を配し、各ローラ案内面に配された内側部ごとに抜け止め部材を分割して設けた請求項1〜7の何れかに記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項9】
前記抜け止め部材の内側部に、ローラ案内面からの突出量を継手開口側に向けて徐々に大きくした傾斜面を設けた請求項1〜8の何れかに記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項10】
トリポード部材から延び、外側継手部材の開口部から突出した回転軸を設け、前記抜け止め部材の継手開口側端部に、前記回転軸との干渉を回避するための切り欠き部を形成した請求項1〜9の何れかに記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項11】
前記抜け止め部材の材質がステンレス鋼、ばね鋼、鉄、アルミニウム、プラスチックの中から選択されたものである請求項1〜10の何れかに記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項12】
ローラの内周に脚軸と摺動可能な支持リングを設け、支持リングの内周面を円筒面状とすると共に、脚軸の外周面を球面状とした請求項1〜11の何れかに記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項13】
ローラの内周に脚軸と摺動可能な支持リングを設け、支持リングの内周面を縦断面において凸円弧形状とすると共に、脚軸の外周面を縦断面においてストレート形状とし、且つ、脚軸の横断面を継手の軸線と直交する長軸を持った略楕円形とした請求項1〜11の何れかに記載のトリポード型等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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