説明

トリポード型等速自在継手用ローラカセット、トリポード型等速自在継手用サブアッシー、トリポード型等速自在継手用トリポードキッド、およびトリポード型等速自在継手

【課題】トリポード型等速自在継手用ローラカセット、トリポード型等速自在継手用サブアッシー、トリポード型等速自在継手用トリポードキッド、およびトリポード型等速自在継手を提供する。
【解決手段】外側継手部材1への組付状態において、針状ころ12は、円周方向すきまによって第1スキュー角θ1が生じ得るとともに、径方向すきまによって第2スキュー角θ2が生じ得る。継手機能を維持したまま、第2スキュー角θ2の範囲の大小差を第1スキュー角θ1の範囲の大小差よりも大きくている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリポード型等速自在継手用ローラカセット、トリポード型等速自在継手用サブアッシー、トリポード型等速自在継手用トリポードキッド、およびトリポード型等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のエンジンから車輪にトルクを伝達するドライブシャフトでは、その一端が摺動型等速自在継手を介してデファレンシャルに連結され、他端が固定型等速自在継手を介して車輪に連結される。ドライブシャフトに使用する摺動型等速自在継手としては、例えばトリポード型等速自在継手が知られている。
【0003】
トリポード型等速自在継手は、図8と図9に示すように、外側継手部材51と、内側継手部材としてのトリポード部材52と、トルク伝達部材としてのローラ53を主要な構成要素としている。
【0004】
外側継手部材51は一体に形成されたマウス部54とステム部55とからなる。マウス部54は一端で開口したカップ状であり、内周の円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝56が形成してある。マウス部54は、大径部54aと小径部54bとが交互に表れる非円筒形状であり、大径部54aの径方向内側にトラック溝56が形成されている。各トラック溝56の円周方向に向き合う側壁に、ローラ案内面57,57が形成されている。
【0005】
トリポード部材52はボス58と脚軸59とを有する。ボス58にはシャフト(図示省略)とトルク伝達可能に結合するスプライン又はセレーション孔61が形成してある。脚軸59はボス58の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。トリポード部材52の各脚軸59はローラ53を回転可能に支持している。
【0006】
脚軸59とローラ53との間には複数の針状ころ62が配設されている。これらの針状ころ62は、脚軸59の基端方向では、脚軸59の基端側外周面に装着されたインナーワッシャ63で位置規制される。脚軸59の先端方向では、脚軸59の先端側に設けられたアウターワッシャ64によって位置規制と抜け止めがされる。脚軸59の先端側外周面には周方向溝65が形成され、この周方向溝65に止め輪66が装着される。止め輪66の内側(脚軸基端側)の脚軸59外周面に上記アウターワッシャ64が嵌合される。
【0007】
図8と図9に示すような従来のトリポード型等速自在継手においては、トラニオン・ジャーナル(脚軸)59、針状ころ62、ローラ53間のすきま(周方向すきまおよび径方向すきま)は、スキュー角を考慮して設定されていなかった。
【0008】
針状ころが実際にスキューし得る角度いかんによってトリポード型等速自在継手のNVH特性が変わる。しかしながら、スキュー角はラジアルすきま、円周方向すきまから決定されるところ、従来、このことが考慮に入れられていなかった。そのため、トリポード型等速自在継手のプロポーション違いやサイズ等によりNVH特性が違い、最適化が図れていなかった。
【0009】
そこで、従来では、針状ころのスキューを抑制してトリポード型等速自在継手の低振動化を図るようにしたものが提案された(特許文献1)。
【0010】
この特許文献1記載のトリポード型等速自在継手は、円周方向すきまによって生じ得る針状ころのスキュー角(θ1)を、前記ローラと前記トラニオン・ジャーナル(脚軸)との間の環状空間内における径方向すきまによって生じ得る針状ころのスキュー角(θ2)よりも大きくし、前記針状ころのスキュー角のうち、前記ローラと前記トラニオン・ジャーナルとの間の環状空間内における前記針状ころの径方向すきまによって生ずる針状ころのスキュー角(θ2)が4.0°〜4.5°の範囲内であるようにしたものである。
【0011】
針状ころが実際にスキューし得る角度すなわちスキュー角の自由度は、径方向すきま(ラジアルすきま)による制約と、ピッチ円におけるころ間のすきま(円周方向すきま)による制約を受け、両者のすきまのうち小さいほうが支配的となる。円周方向すきまによるスキューの場合、ころ同士が接するまでスキューし得るため、このときのスキュー角θ1は数1で表わされる。
【数1】

【0012】
ここに、Dはローラの内径、dはころ径、Zはころ数である。
【0013】
また、ラジアルすきまによるスキューの場合は、ころ両端部がローラ内径に接するまでスキューし得るから、このときのスキュー角θ2は数2で表わされる。
【数2】

【0014】
ここに、grはラジアルすきま、lはころの有効長さである。
【0015】
これらのスキュー角θ1、θ2をそれぞれ求め、小さい方が実際に起こり得るスキュー角である。
【0016】
そして、前記特許文献1では、両スキュー角θ1、θ2の関係がθ1>θ2で、かつ、スキュー角θ2が4.0°〜4.5°となるようにラジアルすきまを設定することにより、トリポード型等速自在継手の誘起スラストが低減し、低振動化を達成できたものであるとしている。
【0017】
ところで、前記図8と図9に示すトリポード型等速自在継手は、各脚軸に対してローラが1個のシングルローラタイプであった。これに対して、特許文献2に記載のように、各脚軸に対してローラが2個のダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特許第3984776号公報
【特許文献2】特許第3599618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
前記特許文献1に記載のトリポード型等速自在継手では、確かに低振動化を達成でき、この低振動化のためには好ましい構成である。しかしながら、スキュー角(θ2)を4.0°〜4.5°の範囲としたことによって、厳密なすきま管理を必要とする。
【0020】
そのため、ローラ、トラニオン・ジャーナル、針状ころの径をいずれも極めて精度良く加工して、これらを組立てる。または、ローラ、トラニオン・ジャーナル(脚軸)、針状ころの径を予め測定しておき、所定のすきまになるように組み合わせて(マッチング)、組み立てる必要がある。
【0021】
しかしながら、各部材を精度良く加工するようにすれば、加工作業時間が大となったり不良品が発生し、コスト高となったりする。しかも、各部材が精度よく加工されていても、組立てられた状態で、スキュー角(θ2)が4.0°〜4.5°の範囲となるすきまを確保できるか不透明である。また、マッチングを行うものでは、部品毎に寸法が相違する複数種を用意する必要があるため、部品の測定、管理、および組立て時の部品選定の工数が新たに必要となり、寸法毎に必要な部品数が事前に分からないため、各部品を多めに作る必要があり、且つ、その保管場所も余分に必要となり、コスト高となる。
【0022】
また、前記特許文献2に記載のダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手であっても、スキュー角について考慮されていなかった。
【0023】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、継手機能に悪影響を与えずにスキュー角を大きくとれてすきま管理の容易化を図ることが可能なダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明のトリポード型等速自在継手用ローラカセットは、トリポード部材の半径方向に突出した脚軸に外嵌される内側ローラと、外側継手部材のトラック溝のローラ案内面を転動する外側ローラと、この外側ローラと内側ローラとの間に介在される複数の針状ころとを備え、外側継手部材への組付状態において、針状ころは、円周方向すきまによって第1スキュー角が生じ得るとともに、径方向すきまによって第2スキュー角が生じ得るトリポード型等速自在継手用ローラカセットであって、継手機能を維持したまま、前記第2スキュー角の範囲の大小差を前記第1スキュー角の範囲の大小差よりも大きくしたものである。
【0025】
本発明のトリポード型等速自在継手用ローラカセットによれば、継手機能に悪影響を与えずに第2スキュー角の範囲を大きくとることができる。特に、第1スキュー角θ1を6°〜9°とすることによって、第2スキュー角θ2の範囲を3°〜12°のように大きく取れる。ここで、継手機能を維持したままとは、等速自在継手としての機能に悪影響を与えないことであり、具体的には、誘起スラストが良好な値を示すとともに、耐久性が劣化しない等のことである。ここで、誘起スラストとは、等速自在継手が回転中にある角度でトルクが負荷されたときに、その継手内部の摩擦により発生するスラスト力をいう。
【0026】
第1スキュー角を第2スキュー角よりも小さくすることができ、また、グリースを充填しておくこともできる。
【0027】
本発明のトリポード型等速自在継手用トリポードキットは、半径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸にそれぞれ装着されるローラカセットとを備え、このトリポード部材とローラカセットとが一体化されているトリポードキットであって、前記ローラカセットに前記トリポード型等速自在継手用ローラカセットを用いたものである。
【0028】
本発明のトリポード型等速自在継手用サブアッシーは、内周部に軸方向の三本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側でそれぞれ軸方向に延びるローラ案内面を有する外側継手部材と、半径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸にそれぞれ装着されるローラカセットとを備えたトリポード型等速自在継手用サブアッシーであって、前記ローラカセットに前記トリポード型等速自在継手用ローラカセットを用いたものである。
【0029】
針状ころと内側ローラとの面圧を、外側ローラと外側継手部材のローラ案内面との面圧よりも高くするのが好ましい。また、外側ローラと外側継手部材のローラ案内面とをアンギュラコンタクトとしたり、サーキュラコンタクトとしたりできる。
【0030】
内周部に軸方向の三本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側でそれぞれ軸方向に延びるローラ案内面を有する外側継手部材と、半径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸にそれぞれ装着されるローラカセットとを備えたトリポード型等速自在継手用サブアッシーであって、トリポード部材とローラカセットとに前記トリポードキットを用いたものである。
【0031】
本発明のトリポード型等速自在継手は、前記トリポード型等速自在継手用サブアッシーを用いたものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明のトリポード型等速自在継手用ローラカセットでは、継手機能に悪影響を与えずに第2スキュー角の範囲を大きくとることができる。このため、すきま管理の容易化を図ることができる。従って、ローラカセットを構成する各部品の高精度仕上を実施する必要が無くなるとともに、高精度のマッチングを実施する必要が無くなり、組立性の向上及び低コスト化を図ることができる。
【0033】
特に、第1スキュー角θ1を6°〜9°とすることによって、継手機能に悪影響を与えることなく、第2スキュー角θ2を広い範囲に設定可能となり、すきま管理の容易化を安定して図ることができる。
【0034】
円周方向すきまによって生じ得るスキュー角(θ1)と径方向すきまによって生じ得るスキュー角(θ2)のうちどちらか小さい方が実際に起こり得るスキュー角である。このため、円周方向すきまによって生じ得るスキュー角(θ1)を小さくしておくことによって、このスキュー角(θ1)のみを規制することで針状ころのスキュー対策を講じることができる。
【0035】
ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手においては、トラニオン・ジャーナル(脚軸)と針状ころの間に、トラニオン・ジャーナル(脚軸)との間に角度を取り得るローラが存在するため、針状ころのスキューが機能に与える影響はシングルローラタイプより小さい。このため、機能に悪影響を与えずにスキュー角を大きくすることが可能である。
【0036】
ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手においては、針状ころの内側に接触しているのはローラであり、回転可能である。そのため、負荷を受ける地点が常に変動し、ローラの面全体を使って繰返し荷重を受ける。シングルローラタイプは、針状ころの内側に接触しているのは、トラニオン・ジャーナル(脚軸)であり、回転しないため、常に同じ地点で荷重を受けている。そのため、ダブルローラタイプは、針状ころの内側部品(内側ローラ)の耐久性が高く、面圧を高目に設定できる。
【0037】
針状ころと内側ローラとの面圧を、外側ローラと外側継手部材のローラ案内面との面圧よりも高くすることによって、針状ころと内側ローラとの接触長さを小さくできる。これによって、内側ローラを小さくでき、継手全体のコンパクト化を達成できる。
【0038】
本発明に係るローラカセットを用いて、トリポードキットを構成でき、また、このようなトリポードキットを用いて、サブアッシーを構成でき、さらに、このようなサブアッシーを用いてトリポード型等速自在継手を構成できる。このため、トリポード型等速自在継手として、組立性の向上及び低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態を示すトリポード型等速自在継手の断面図である。
【図2】前記トリポード型等速自在継手のローラカセットの拡大縦断面図である。
【図3】前記トリポード型等速自在継手のローラカセットの拡大横断面図である。
【図4】内側ローラと外側ローラとの間に形成される環状空間を示す簡略図である。
【図5】針状ころの周方向すきまに起因するスキューの説明図である。
【図6】針状ころの径方向すきまに起因するスキューの説明図である。
【図7】外側ローラとローラ案内面との関係を示し、(a)はアンギュラコンタクトをなす場合の簡略図であり、(b)はサーキュラコンタクトをなす場合の簡略図である。
【図8】従来のトリポード型等速自在継手の縦断面図である。
【図9】従来のトリポード型等速自在継手の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下本発明の実施の形態を図1〜図7に基づいて説明する。
【0041】
トリポード型等速自在継手は、図1に示すように、外側継手部材1と、内側継手部材としてのトリポード部材2と、トルク伝達部材としてのローラカセット3を主要な構成要素としている。この場合、トリポード部材2とローラカセット3との組合体をトリポードキット20と呼び、外側継手部材1とトリポード部材2とローラカセット3との組合体をサブアッシー21と呼ぶ。
【0042】
外側継手部材1は一体に形成されたマウス部4とステム部(図示省略)とからなる。マウス部4は一端で開口したカップ状であり、内周の円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝6が形成してある。マウス部4は、大径部4aと小径部4bとが交互に表れる非円筒形状であり、大径部4aの径方向内側にトラック溝6が形成されている。各トラック溝6の円周方向に向き合う側壁に、ローラ案内面7,7が形成されている。
【0043】
トリポード部材2は図1に示すようにボス8と脚軸9とを有する。ボス8にはシャフト(図示省略)とトルク伝達可能に結合するスプライン又はセレーション孔11が形成してある。脚軸9はボス8の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。トリポード部材2の各脚軸9はローラカセット3を回転可能に支持している。なお、脚軸9の外周面には硬化層Sが設けられている。この硬化層Sは例えば高周波焼入れによって成形される。
【0044】
ローラカセット3は、脚軸9に外嵌される内側ローラ13と、ローラ案内面7を転動する外側ローラ14と、内側ローラ13と外側ローラ14との間に介在される複数の針状ころ12とを備える。この場合のローラカセット3(脚軸9に装着する前の状態のローラカセット)においては、グリースが充填される。なお、グリースとしては、ウレア系またはリチウム系グリース等であり、この種のローラカセットに一般的に充填されるものが使用される。
【0045】
すなわち、図2に示すように、内側ローラ13の円筒形外周面13aを内側軌道面とし、外側ローラ14の円筒形内周面14aを外側軌道面として、これらの内外軌道面間に針状ころ12が転動自在に介在する。図3に示すように、針状ころ12は、できるだけ多くのころを入れた、保持器のない、いわゆる総ころ状態で組み込まれている。なお、外側ローラ14の内周面の軸方向両端部に環状溝17,18(図2参照)が形成され、各環状溝には針状ころ12の抜け止め用のワッシャ15,16が装着されている。
【0046】
外側ローラ14の外周面14bは、軸線上に曲率中心を置いた部分球面とするほか、軸線から半径方向に離れた位置に曲率中心を置いた円弧を母線とする凸曲面とすることもできる。また、ローラ案内面7と外側ローラ14の接触形態は、図7(a)に示すようなアンギュラコンタクト、あるいは、図7(b)に示すようなサーキュラコンタクトとすることもできる。アンギュラコンタクトはある接触角をもち、二点で接触するため、接触角方向の二点に接触楕円が発生する。サーキュラコンタクトは球面同士の接触であるため一点で接触する。
【0047】
本実施形態においては、針状ころ12と内側ローラ13との面圧を、外側ローラ14と外側継手部材1のローラ案内面7との面圧よりも高くするのが好ましい。例えば、外側ローラ14と外側継手部材1のローラ案内面7との面圧が2.70GPaであり、針状ころ12と内側ローラ13との面圧が3.79GPaであったりする。
【0048】
脚軸9の外周面は、縦断面(図1参照)で見ると脚軸9の軸線と平行なストレート形状であり、横断面(図3)で見ると、長軸が継手の軸線に直交する楕円形状である。脚軸9の断面形状は、トリポード部材2の軸方向で見た肉厚を減少させて略楕円状としてある。言い換えれば、脚軸9の断面形状は、トリポード部材2の軸方向で互いに向き合った面が相互方向に、つまり、仮想円筒面よりも小径側に退避している。
【0049】
内側ローラ(支持リング)13の内周面は、図1のように円弧状凸断面を有する。このことと、脚軸9の横断面形状が上述のように略楕円形状であり、脚軸9と支持リング13との間には所定のすきまが設けてあることから、内側ローラ13は脚軸9の軸方向での移動が可能であるばかりでなく、脚軸9に対して首振り揺動自在である。
【0050】
また、前記したように内側ローラ13と外側ローラ14は針状ころ12を介して相対回転自在にユニット化されているため、脚軸9に対し、内側ローラ13と外側ローラ14がユニットとして首振り揺動可能な関係にある。ここで、首振りとは、脚軸9の軸線を含む平面内で、脚軸9の軸線に対して内側ローラ13と外側ローラ14の軸線が傾くことをいう。
【0051】
ところで、このようなトリポード型等速自在継手では、針状ころ12に対して円周方向すきまや径方向すきまが生じる。針状ころ12は、その軸心O1を脚軸9の軸心線Oと平行状態として、図3に示すように、脚軸9の廻りに配設される。このため、円周方向すきまとは、針状ころ12の配設方向で円周方向Aに沿って生じる針状ころ12間のすきまであり、この円周方向すきまによって、針状ころ12が脚軸9の軸心線Oと平行な軸心線O0)に対して図4や図5に示すように倒れる。そして、この倒れ角度を、円周方向すきまによって生じ得る針状ころ12の第1スキュー角θ1と呼ぶ。また、内側ローラ13と外側ローラ14との間の環状空間25が形成され、この環状空間25に針状ころ12が配設されることになる。このため、針状ころ12が図2の矢印B方向(径方向)に倒れるおそれがある。そして、この倒れ角度を径方向すきまよって生じ得る針状ころ12の第2スキュー角θ2(図6参照)と呼ぶ。
【0052】
このトリポード型等速自在継手では、継手機能を維持したまま、第2スキュー角θ2の範囲の大小差を第1スキュー角θ1の範囲の大小差よりも大きくしている。この実施形態においては、第1スキュー角θ1の範囲を6°〜9°とするとともに、第2スキュー角θ2の範囲を3°〜12°としている。ここで、継手機能を維持したままとは、等速自在継手としての機能に悪影響を与えないことであり、具体的には、誘起スラストが良好な値を示すとともに、耐久性が劣化しない等のことである。ここで、誘起スラストとは、等速自在継手が回転中にある角度でトルクが負荷されたときに、その継手内部の摩擦により発生するスラスト力をいう。
【0053】
ところで、このトリポード型等速自在継手は、まず、図2に示すようにローラカセット3を組立てる。次に、トリポード部材2の各脚軸9に、組立てられたローラカセット3を装着し、これによって、トリポード部材2とローラカセット3とが組付けられたトリポードキット20を組立てる。そして、このトリポードキット20を外側継手部材1のマウス部4に挿入することによって、サブアッシー21を組立てる。このようにサブアッシー21に対して、トリポード部材2のボス8にシャフトを嵌入するとともに、外側継手部材1のマウス部4の開口部を塞ぐブーツを装着することによって、トリポード型等速自在継手が完成する。
【0054】
本発明のトリポード型等速自在継手用ローラカセットでは、継手機能に悪影響を与えずに第2スキュー角θ2の範囲を大きくとることができる。このため、すきま管理の容易化を図ることができ、ローラカセット3を構成する各部品の高精度仕上を実施する必要が無くなるとともに、高精度のマッチングを実施する必要が無くなり、組立性の向上及び低コスト化を図ることができる。
【0055】
特に、第1スキュー角θ1を6°〜9°とすることによって、継手機能に悪影響を与えることなく、第2スキュー角θ2を広い範囲に設定可能となり、すきま管理の容易化を安定して図ることができる。
【0056】
円周方向すきまによって生じ得るスキュー角(θ1)と径方向すきまによって生じ得るスキュー角(θ2)のうちどちらか小さい方が実際に起こり得るスキュー角である。このため、円周方向すきまによって生じ得るスキュー角(θ1)を小さくしておくことによって、このスキュー角(θ1)のみを規制することで針状ころのスキュー対策を講じることができる。
【0057】
ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手においては、トラニオン・ジャーナル(脚軸)9と針状ころ12の間に、トラニオン・ジャーナル(脚軸)9との間に角度を取り得るローラが存在するため、針状ころ12のスキューが機能に与える影響はシングルローラタイプより小さい。このため、機能に悪影響を与えずにスキュー角を大きくすることが可能である。
【0058】
ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手においては、針状ころ12の内側に接触しているのはローラであり、回転可能である。そのため、負荷を受ける地点が常に変動し、ローラの面全体を使って繰返し荷重を受ける。シングルローラタイプは、針状ころ12の内側に接触しているのは、トラニオン・ジャーナル(脚軸)9であり、回転しないため、常に同じ地点で荷重を受けている。そのため、ダブルローラタイプは、針状ころ12の内側部品(内側ローラ)の耐久性が高く、面圧を高目に設定できる。
【0059】
針状ころ12と内側ローラ13との面圧を、外側ローラ14と外側継手部材1のローラ案内面7との面圧よりも高くすることによって、針状ころ12と内側ローラ13との接触長さを小さくできる。これによって、内側ローラ13を小さくでき、継手全体のコンパクト化を達成できる。
【0060】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、トリポード型等速自在継手として、トリポード部材の脚軸の外周面を真球面にして、この真球面に内側ローラの円筒形内周面が摺動可能に外嵌しているものであってもよい。これによって、スライド抵抗と誘起スラストの低減を図ることができる。また、内側ローラと針状ころとの間にリング部材が介在されるタイプのものであってもよい。ここで、スライド抵抗とは、トリポード型等速自在継手のように摺動式継手で、外輪とトリポード部材が互いに摺動する時に発生する軸方向摩擦力の大きさのことをいう。なお、誘起スラストとは前記したとおりである。
【0061】
実施例1
θ1を6°〜9°とし、θ2を3°〜15°とした複数のサンプルとしての等速自在継手を製作し、各サンプルについて誘起スラストを測定した。この場合、トルクを294N・mとし、回転数を1500rpmとし、作動角を7°とした。θ2が3°〜15°ではあまり変化はなく、良好な値を示した。また、θ1>θ2であっても、θ1<θ2であってもほぼ同じであった。
【0062】
実施例2
θ1を6°〜9°とし、θ2を3°〜15°とした複数のサンプルとしての等速自在継手を製作し、各サンプルについて耐久試験を行った。この場合、トルクを726N・mとし、回転数を230rpmとし、作動角を6°とした。θ2が3°〜12°では目標の耐久性を示したが、θ2が15°では、目標の耐久性を示さなかった。
【0063】
前記実施例1、2から分かるように、θ1を6°〜9°とし、θ2を3°〜12°とするのが良いことが分かる。
【符号の説明】
【0064】
1 外側継手部材
2 トリポード部材
3 ローラカセット
6 トラック溝
7 ローラ案内面
9 脚軸
13 内側ローラ
12 針状ころ
14 外側ローラ
20 トリポードキット
21 サブアッシー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリポード部材の半径方向に突出した脚軸に外嵌される内側ローラと、外側継手部材のトラック溝のローラ案内面を転動する外側ローラと、この外側ローラと内側ローラとの間に介在される複数の針状ころとを備え、外側継手部材への組付状態において、針状ころは、円周方向すきまによって第1スキュー角が生じ得るとともに、径方向すきまによって第2スキュー角が生じ得るトリポード型等速自在継手用ローラカセットであって、
継手機能を維持したまま、前記第2スキュー角の範囲の大小差を前記第1スキュー角の範囲の大小差よりも大きくしたことを特徴とするトリポード型等速自在継手用ローラカセット。
【請求項2】
第1スキュー角の範囲を6°〜9°とするとともに、第2スキュー角の範囲を3°〜12°としたことを特徴とする請求項1に記載のトリポード型等速自在継手用ローラカセット。
【請求項3】
第1スキュー角を第2スキュー角よりも小さくしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のトリポード型等速自在継手用ローラカセット。
【請求項4】
グリースが充填されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のトリポード型等速自在継手用ローラカセット。
【請求項5】
半径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸にそれぞれ装着されるローラカセットとを備え、このトリポード部材とローラカセットとが一体化されているトリポードキットであって、
前記ローラカセットに前記請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のトリポード型等速自在継手用ローラカセットを用いたことを特徴とするトリポードキット。
【請求項6】
内周部に軸方向の三本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側でそれぞれ軸方向に延びるローラ案内面を有する外側継手部材と、半径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸にそれぞれ装着されるローラカセットとを備えたトリポード型等速自在継手用サブアッシーであって、
前記ローラカセットに前記請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のトリポード型等速自在継手用ローラカセットを用いたことを特徴とするトリポード型等速自在継手用サブアッシー。
【請求項7】
針状ころと内側ローラとの面圧を、外側ローラと外側継手部材のローラ案内面との面圧よりも高くしたことを特徴とする請求項6に記載のトリポード型等速自在継手用サブアッシー。
【請求項8】
外側ローラと外側継手部材のローラ案内面とをアンギュラコンタクトとしたことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のトリポード型等速自在継手用サブアッシー。
【請求項9】
外側ローラと外側継手部材のローラ案内面とをサーキュラコンタクトとしたことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のトリポード型等速自在継手用サブアッシー。
【請求項10】
内周部に軸方向の三本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側でそれぞれ軸方向に延びるローラ案内面を有する外側継手部材と、半径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸にそれぞれ装着されるローラカセットとを備えたトリポード型等速自在継手用サブアッシーであって、
トリポード部材とローラカセットとに前記請求項5のトリポードキットを用いたことを特徴とするトリポード型等速自在継手用サブアッシー。
【請求項11】
前記請求項7〜請求項11のいずれか1項に記載のトリポード型等速自在継手用サブアッシーを用いたことを特徴とするトリポード型等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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