トリポード型等速自在継手
【課題】部品点数を削減させて、組立性の向上及びコスト低減を図ることができ、また、作動角をとって、トラニオン中心が偏心した状態であっても、偏心を吸収できて案内面における面圧を緩和することが可能なトリポード型等速自在継手を提供する。
【解決手段】トラック溝5の内側壁に互いに対向するトラニオン脚軸案内面6A、6Bを設けた外輪1と、トラック溝5に挿入されてトルク伝達部となる脚軸8を有するトラニオン2とでもって構成している。脚軸8のトルク伝達部の外径面8aを凸曲面とし、脚軸ピッチ円と脚軸中心軸の交点を含みかつ脚軸中心軸に垂直な面上の脚軸外径面8aの曲率半径をR1とし、脚軸中心軸を含みかつ継手中心線と垂直な面上の脚軸外径面8aの曲率半径をR2としたときに、R1<R2とする。外輪1の互いに対向するトラニオン脚軸案内面6A、6Bを非平行な平坦面とした。
【解決手段】トラック溝5の内側壁に互いに対向するトラニオン脚軸案内面6A、6Bを設けた外輪1と、トラック溝5に挿入されてトルク伝達部となる脚軸8を有するトラニオン2とでもって構成している。脚軸8のトルク伝達部の外径面8aを凸曲面とし、脚軸ピッチ円と脚軸中心軸の交点を含みかつ脚軸中心軸に垂直な面上の脚軸外径面8aの曲率半径をR1とし、脚軸中心軸を含みかつ継手中心線と垂直な面上の脚軸外径面8aの曲率半径をR2としたときに、R1<R2とする。外輪1の互いに対向するトラニオン脚軸案内面6A、6Bを非平行な平坦面とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械等の動力伝達装置に使用される等速自在継手に関し、特に摺動式のトリポード型等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
図11に示すように、トリポード型等速自在継手(特許文献1参照)は、外側継手部材としての外輪51と、内側継手部材としてのトリポード部材52と、トルク伝達部材としてのローラ53を主要な構成要素としている。
【0003】
外側継手部材51はマウス部54を備える。マウス部54は、一端にて開口したカップ状で、内周の円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝56が形成してある。各トラック溝56の円周方向で向き合った内側壁にローラ案内面57、57が形成される。
【0004】
トリポード部材52はボス58と脚軸59とを備える。ボス58にはシャフト(図示省略)とトルク伝達可能に結合するスプラインまたはセレーション孔61が形成してある。脚軸59はボス58の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。トリポード部材52の各脚軸59はローラ53を担持している。すなわち、この等速自在継手のトルク伝達部材として、ローラ53と、脚軸59とローラ53との間に介在される針状ころ60とで構成される。
【0005】
また、脚軸59の先端側にはアウタワッシャ62が配設され、さらに、脚軸59の先端側(アウタワッシャ62よりも先端側)には周方向溝63が形成され、この周方向溝63にサークリップ(止め輪)64が装着されている。アウタワッシャ62はサークリップ64によって軸方向移動が規制され、その結果、針状ころ60の軸方向の外方への移動(抜け)が規制される。また、アウタワッシャ62と反対側にはインナワッシャ65が配設される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3615987号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したトリポード型等速自在継手は、外側継手部材を除く部品が、ローラ53、針状ころ60、アウタワッシャ62、止め輪64、インナワッシャ65、トラニオン(トリポード部材52)等と部品点数が多くなっている。このため、組立性に劣ると共に、コスト高となっていた。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みて、部品点数を削減させて、組立性の向上及びコスト低減を図ることができ、また、作動角をとって、外側継手部材の中心線に対してトラニオン中心が偏心した状態であっても、この偏心を吸収できて案内面における面圧を緩和することが可能なトリポード型等速自在継手を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のトリポード型等速自在継手は、内周に軸線方向に延びる三本のトラック溝を設けると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するトラニオン脚軸案内面を設けた外側継手部材と、前記トラック溝に挿入されてトルク伝達部となる三本の脚軸を有するトラニオンとでもって構成し、前記脚軸のトルク伝達部の外径面を凸曲面とし、脚軸ピッチ円と脚軸中心軸の交点を含みかつ脚軸中心軸に垂直な面上の脚軸外径面の曲率半径をR1とし、脚軸中心軸を含みかつ継手中心線と垂直な面上の脚軸外径面の曲率半径をR2としたときに、R1<R2とし、かつ、作動角が0°でのトルク負荷状態で、脚軸外径面の凸曲面とトラニオン脚軸案内面との接触部位がトラニオン脚軸案内面の径方向中央部となるように、前記外側継手部材の互いに対向するトラニオン脚軸案内面を非平行な平坦面としたものである。
【0010】
本発明のトリポード型等速自在継手は、トラニオンの脚軸がトルク伝達部となるので、従来において必要としていたトルク伝達部材(ローラ、針状ころ、アウタワッシャ、止め輪、インナワッシャ等)を必要としない。このため、全体の部品点数の減少を図ることができる。R1<R2としたことによって、トラニオン脚軸案内面に対する面圧を緩和することができる。しかも、互いに対向するトラニオン脚軸案内面を、非平行な平坦面としたことによって、作動角が0°でのトルク負荷状態で、脚軸外径面の凸曲面とトラニオン脚軸案内面との接触部位がトラニオン脚軸案内面における継手径方向中央部となるので、脚軸外径面の接触部のトラニオン脚軸案内面からのはみ出しを防止できる。また、脚軸先端側の脚軸外径面端部(外径面境界)とトラニオン脚軸案内面の接触を防ぐことができる。
【0011】
相対面するトラニオン脚軸案内面は、継手内径側から継手外径側に向かってその間隔が大となるテーパ面であるのが好ましい。
【0012】
作動角をとってトリポード部材の中心が継手中心線より偏心したことによって生じる脚軸断面幅の増加量分の隙間を、脚軸外径面と案内面との間に確保するのが好ましい。作動角をとって、外側継手部材の中心とトラニオン中心とが偏心した状態であっても、この偏心を吸収できる。
【0013】
作動角が0°でのトルク負荷状態で、脚軸外径面の凸曲面の頂点乃至その近傍を中心としてトラニオン脚軸案内面と接触するようにするのが好ましい。これによって、脚軸外径面のトラニオン脚軸案内面との接触部位が接触領域から有効にはみ出すことを防止できる。且つ、脚軸先端側の脚軸外径面端部(外径面境界)とトラニオン脚軸案内面の接触を防ぐことができる。
【0014】
前記脚軸外径面が、研削又は焼入鋼切削で仕上げられていてもよい。また、トラニオンに対して熱処理が施され、この熱処理が浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻しで行われていてもよい。さらに、少なくとも、脚軸付根および外側継手部材の案内面と接触する部位に硬化層を有し、この硬化層が、高周波焼入れ焼戻しにて形成されていてもよい。
【0015】
浸炭焼入れとは、低炭素材料の表面から炭素を浸入/拡散させ、その後に焼入れを行う方法である。浸炭窒化焼き入れは、浸炭焼入れが炭素だけ拡散させ硬化させるのに対して、炭素と窒素を拡散させる方法で、特に、快削鋼(SUM系)、低炭素鋼、SPCC材等の表面硬化、疲労強度の改善に適用される。浸炭焼入れと比較して、処理温度も低く、寸法変化、歪が一般的に少なく、精密部品に多く採用することができる。また、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。
【0016】
研削とは、砥石の粒子(砥粒)で工作物の表面を削り取り、その面を平滑にし、精密仕上げを行うことである。また、焼入鋼切削は、単に切削のことであり、切削は通常生材の状態で行うので、熱処理後(焼入れ後)の切削であることを明確にするために焼入鋼切削と称した。焼き入れ後に切削を行うため、素材の熱処理変形をこの切削過程で除去することができる。また、焼入鋼切削により研削で通常必要とされる研削油剤を必要とせず、ドライでの加工が可能となり、環境に与える負荷を小さくすることができる。
【0017】
少なくとも、脚軸付根および外側継手部材の案内面と接触する部位を省く部分が鍛造肌であるのが好ましい。このように、鍛造肌のまま(鍛造肌仕上げ)の部位においては、精度を確保するための仕上げ切削が不要となり、工数削減と歩留まり向上が可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のトリポード型等速自在継手によれば、従来において必要としていたトルク伝達部材を必要としないため、全体の部品点数の減少を図ることができる。これによって、組立性の向上を図ることができるとともに、コスト低減を図ることができる。
【0019】
R1<R2とすることによって、トラニオン脚軸案内面に対する面圧を緩和することができ、耐久性・NVH特性の改善を図ることができる。
【0020】
相対面するトラニオン脚軸案内面がテーパ面である場合、脚軸外径面の接触部のトラニオン脚軸案内面からのはみ出しをより有効に防止できる。偏心したことによって生じる脚軸断面幅の増加量分の隙間を、脚軸外径面と案内面との間に確保するものであれば、作動角を滑らかにとることができる。
【0021】
相対面するトラニオン脚軸案内面がテーパ面であることにより、脚軸外径面の凸曲面の頂点乃至その近傍を中心としてトラニオン脚軸案内面と接触するものであれば、脚軸先端側の脚軸外径面端部(外径面境界)とトラニオン脚軸案内面の接触を防ぐことができ、脚軸外径面の接触部のトラニオン脚軸案内面からのはみ出しをより一層有効に防止できる。
【0022】
浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻し等にてトラニオンを熱処理することによって、トラニオンの耐摩耗性等が向上して、耐久性に優れたトリポード型等速自在継手となる。また、高周波焼入れにて熱処理することができ、この場合、少なくとも、脚軸付根および外側継手部材の案内面と接触する部位でよく、低コスト化を図ることができる。
【0023】
トラニオンの脚軸の外径面を研削又は焼入鋼切削で仕上げることによって、トラニオン脚軸案内面に対して滑らかに摺接して、安定したトルク伝達機能を発揮することができる。特に、焼入鋼切削によれば、研削に必要とする研削油剤を必要とせず、環境面で優れる。
【0024】
また、脚軸の脚軸案内面と接触する部位以外は鍛造肌のままとしてもよいので、これら
の部位の旋削加工を削減することができ、加工コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のトリポード型等速自在継手の横断面図である。
【図2】前記トリポード型等速自在継手の縦断面図である。
【図3】前記トリポード型等速自在継手が作動角をとった状態の縦断面図である。
【図4】前記トリポード型等速自在継手のトラニオンを示し、(a)は横断面図であり、(b)は脚軸の平面図である。
【図5】前記トリポード型等速自在継手の要部拡大横断面図である。
【図6】前記図5の要部拡大図である。
【図7】脚軸とトラニオン脚軸案内面との関係を示し、(a)は脚軸外周面の曲率R1=R2の場合の模式図であり、(b)はR2>R1で必要なトラックスキマが確保されて無い場合の模式図である。
【図8】相対面するトラニオン案内面が平行である外輪の横断面図である。
【図9】前記図8に示す外輪を用いたトリポード型等速自在継手の要部拡大図である。
【図10】前記図9のトリポード型等速自在継手の要部拡大図である。
【図11】従来のトリポード型等速自在継手の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下本発明の実施の形態を図1〜図10に基づいて説明する。
【0027】
このトリポード型等速自在継手は、外側継手部材としての外輪1と、内側継手部材としてのトラニオン2とを備える。
【0028】
外輪1は一体に形成されたマウス部1aとステム軸1bとからなる。マウス部1aは一端にて開口したカップ状で、その内周面に、軸方向に延びる3本のトラック溝5が形成される。各トラック溝5の円周方向で向き合った内側壁にトラニオン脚軸案内面6A、6Bが形成される。互いに対向(相対面)するトラニオン脚軸案内面6A、6Bを非平行な平坦面とされる。
【0029】
トラニオン2は、ボス7と脚軸8とを備える。脚軸8はボス7の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。ボス7の内径面には雌スプライン9が形成してある。脚軸外径面8aは凸曲面とされ、トラック溝5に挿入されてトルク伝達部となる。
【0030】
この場合、図4(a)及び図4(b)に示すように、脚軸ピッチ円Pと脚軸中心軸Aの交点O1を含みかつ脚軸中心軸Aに垂直な面S上の脚軸外径面の曲率半径をR1とし、脚軸中心軸Aを含みかつ継手中心線L(図3参照)と垂直な面S1上の脚軸外径面の曲率半径をR2としたときに、R1<R2とした。
【0031】
前記したように、トラニオン脚軸案内面6A、6Bは非平行な平坦面とされるものであるが、この実施形態では、図5に示すように、相対面するトラニオン脚軸案内面6A、6Bは、継手内径側から継手外径側に向かってその間隔が大となるテーパ面とされている。すなわち、脚軸中心軸Aを含みかつ継手中心線Lと垂直な面S1上において、トラニオン脚軸案内面6A、6Bは脚軸中心軸Aに対して、それぞれ所定角度αだけ傾斜している。
【0032】
ところで、R2を大きくした場合、継手が角度をとるためには、トラックスキマ(脚軸外径面8aと案内面6A、6Bとの間の隙間)を大きく設定する必要がある。これは、図7に模式的に示すように、R1=R2で必要とされるトラック隙間よりも大きなトラック隙間を設けなければ、脚軸外径面8aとトラニオン脚軸案内面6A、6Bの干渉が生じて、外側継手部材1とトラニオン2の相互間で作動角を取ることができなくなるからである。
【0033】
すなわち、外側継手部材1とトラニオン2とが作動角をとった場合を考えると、トラニオン2の3本の脚軸8の軸心の交点Oa’が外側継手部材の軸心Oaに対してずれrが生じる。このため、回転トルクの伝達時には、そのずれrを半径として軸心Oaのまわりを脚軸8の軸心の交点Oa’が振れ回ろうとする。この際、図7の上側の脚軸8(8A)を基本として考えると、他の2本の脚軸8(8B)(8C)は作動角0度の場合に比較して、角度γだけ傾きを生じる。そのため、図7(a)に示すように、R1=R2であれば問題にならない。
【0034】
しかしながら、R2>R1とすることにより脚軸8が傾いた際にその傾きを許容できるトラックスキマが確保されていなければ、図7(b)に示すように、脚軸外径面8aとトラニオン脚軸案内面6A、6Bとの間で鎖線で示すように干渉が生じ、外側継手部材1とトラニオン2の相互で作動角をとることができなくなる。従って、脚軸外径面8aとトラニオン脚軸案内面間6A、6Bの干渉を吸収できる分だけ、トラックスキマを設ける必要がある。
【0035】
ところで、前記特許文献の従来構造等では、角度を取った場合、外側継手部材中心とトラニオン中心がずれる偏心状態が生じる。この偏心は、ローラが脚軸の軸方向に動くことによって、針状ころとローラ内径との間において吸収し、また、脚軸がトラック溝内で傾くことによって、ローラ外径とローラ案内面との間において吸収する。しかしながら、本発明のように、トラック溝5にトラニオン脚軸案内面6A、6Bを設けた外側継手部材(外輪)1と、トラック溝5に挿入されて脚軸8を有するトラニオン2とでもって構成したものでは、偏心を吸収する箇所が、脚軸8と脚軸案内面6A、6Bとの間のみである。このため、案内面6A、6Bが、前記特許文献の従来構造等のような曲率をもったものでは偏心を吸収できない。そこで、本発明では、案内面6A、6Bを平坦面とした。
【0036】
ところが、トラック溝の脚軸案内面を平坦面とすれば、従来よりも案内面の面圧は大きくなるため、耐久性及びNVH特性に関しては不利になる。このため、トラック案内面に接するトラニオン脚軸外周面の曲率を大きくして、トラック案内面の面圧緩和を図る必要がある。
【0037】
しかしながら、トラニオン脚軸案内面6A、6Bを平行な平坦面とした場合において、R2>R1とした場合、例えば、外輪1に対して、トラニオン2がその軸心廻りに図9の矢印B方向に回動するトルクが負荷されれば、図9と図10に示すように、トラニオン脚軸外径面8aの凸曲面と、トラニオン脚軸案内面6A、6Bとは接触することになる。この場合、トラニオン脚軸案内面6A、6Bがテーパ面ではないので、外輪1に対して、トラニオン2がその軸心廻りに図5の矢印B方向に回動すれば、トラニオン脚軸外径面8aの凸曲面と、トラニオン脚軸案内面6A、6Bとの接触部15が、トラニオン脚軸案内面6A、6Bの外輪外径側(継手外径側)となる。このため、この接触領域がトラニオン脚軸案内面6A、6Bからはみ出すおそれがある。また、脚軸先端側の脚軸外径面端部(外径面境界)とトラニオン脚軸案内面が接触する可能性がある。これらの現象は、脚軸外径面8aとトラニオン脚軸案内面6A、6Bとの滑りを阻害することになって、耐久性および振動特性の低下を招くことになる。
【0038】
そこで、本実施形態では、R2>R1とするとともに、相対面するトラニオン脚軸案内面6A、6B、継手内径側から継手外径側に向かってその間隔が大となるテーパ面としている。この場合も、外輪1に対して、トラニオン2がその軸心廻りに図5の矢印B方向に回動するトルクが負荷されれば、トラニオン脚軸外径面8aの凸曲面と、トラニオン脚軸案内面6A、6Bとは接触することになる。この際、トラニオン脚軸外径面8aの凸曲面と、トラニオン脚軸案内面6A、6Bとはトラニオン脚軸案内面6A、6Bの継手径方向先端側で接触することなく、トラニオン脚軸案内面6A、6Bの継手径方向中央部よりに接触部15が発生することになる。すなわち、作動角が0°でのトルク負荷状態で、脚軸外径面8aの凸曲面の頂点乃至その近傍を中心としてトラニオン脚軸案内面6A、6Bと接触する。これによって、接触領域がトラニオン脚軸案内面6A、6Bからはみ出すおそれがなくなって、且つ、脚軸先端側の脚軸外径面端部(外径面境界)とトラニオン脚軸案内面が接触するおそれもなくなる。よって、脚軸外径面8aとトラニオン脚軸案内面6A、6Bとの滑りを阻害することがなくなる。
【0039】
図3に示すように、作動角θをとった場合、外側継手部材(外輪1)の中心線L(継手中心線)に対してトラニオン中心Oが、偏心量eで偏心した状態となる。そこで、偏心した状態での脚軸断面幅増加量分の隙間を、脚軸外径面8aと案内面6A、6Bとの間に確保することになる。この場合、偏心したことによって生じる脚軸断面幅の増加量分の隙間としては、トラニオン脚軸案内面6A、6Bの案内面長さW1、傾斜角度α、及び案内面間寸法W2(図5参照)等に基づいて設定する。
【0040】
トラニオン2に対して熱処理が施され、この熱処理が浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻しで行われている。浸炭焼入れとは、低炭素材料の表面から炭素を浸入/拡散させ、その後に焼入れを行う方法である。浸炭窒化焼き入れは、浸炭焼入れが炭素だけ拡散させ硬化させるのに対して、炭素と窒素を拡散させる方法で、特に、快削鋼(SUM系)、低炭
素鋼、SPCC材等の表面硬化、疲労強度の改善に適用される。浸炭焼入れと比較して、処理温度も低く、寸法変化、歪が一般的に少なく、精密部品に多く採用することができる。
【0041】
また、トラニオン2の脚軸8の外径面は研削または焼入鋼切削で仕上げられる。研削とは、砥石の粒子(砥粒)で工作物の表面を削り取り、その面を平滑にし、精密仕上げを行うことである。また、焼入鋼切削は、単に切削のことであり、切削は通常生材の状態で行うので、熱処理後(焼入れ後)の切削であることを明確にするために焼入鋼切削と称した。焼き入れ後に切削を行うため、素材の熱処理変形をこの切削過程で除去することができる。また、焼入鋼切削により研削で通常必要とされる研削油剤を必要とせず、ドライでの加工が可能となり、環境に与える負荷を小さくすることができる。
【0042】
熱処理としては、高周波焼入れであってもよい。高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。高周波焼入れは、部分焼入れが出来る、疲労強度を上げることが出来る、耐摩耗性の向上、材質が安価な炭素鋼でよい、および、焼入れ条件の調整が容易で、有効深さ等調整できる等の長所がある。
【0043】
高周波焼入れ焼戻にて硬化処理する場合、少なくとも、脚軸付根10および外輪1の案内面6A、6Bと接触する部位(脚軸8の外径面)に硬化層を形成することになる。このため、脚軸付根10および外輪1の案内面6A、6Bと接触する部位を省く部分が鍛造肌とするこが可能となる。
【0044】
本発明のトリポード型等速自在継手では、トラニオン2の脚軸8がトルク伝達部となるので、従来において必要としていたトルク伝達部材(ローラ、針状ころ、アウタワッシャ、止め輪、インナワッシャ等)を必要としない。このため、全体の部品点数の減少を図ることができ、組立性の向上を図ることができるとともに、コスト低減を図ることができる。
【0045】
R1<R2とすることによって、トラニオン脚軸案内面6A、6Bに対する面圧を緩和することができ、耐久性・NVH特性の改善を図ることができる。しかも、相対面するトラニオン脚軸案内面6A、6B、継手内径側から継手外径側に向かってその間隔が大となるテーパ面としている。このため、外輪1に対して、トラニオン2がその軸心廻りに図5の矢印B方向に回動するトルクが負荷された場合、トラニオン脚軸外径面8aの凸曲面と、トラニオン脚軸案内面6A、6Bとはトラニオン脚軸案内面6A、6Bの継手径方向先端側で接触することなく、トラニオン脚軸案内面6A、6Bの径方向中央部よりで接触することになる。これによって、接触領域がトラニオン脚軸案内面6A、6Bからはみ出すおそれがなくなって、且つ、脚軸先端側の脚軸外径面端部(外径面境界)とトラニオン脚軸案内面6A、6Bが接触するおそれもなくなる。よって、
脚軸外径面8aとトラニオン脚軸案内面6A、6Bとの滑りを阻害することがなくなり、耐久性及び振動特性の低下を防止できる。
【0046】
偏心したことによって生じる脚軸断面幅の増加量分の隙間を、脚軸外径面8aと案内面6A、6Bとの間に確保しているので、作動角を滑らかにとることができる。また、脚軸外径面8aの凸曲面の頂点乃至その近傍を中心としてトラニオン脚軸案内面6A、6Bと接触するものであれば、脚軸外径面8aの接触部のトラニオン脚軸案内面6A、6Bとからのはみ出しをより一層有効に防止できる。
【0047】
浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻し等にてトラニオン2を熱処理することによって、トラニオン2の耐摩耗性等が向上して、耐久性に優れたトリポード型等速自在継手となる。また、高周波焼入れにて熱処理することができ、この場合、少なくとも、脚軸付根10および外輪1の案内面6A、6Bと接触する部位でよく、低コスト化を図ることができる。
【0048】
トラニオン2の脚軸8の外径面8aを研削又は焼入鋼切削で仕上げることによって、トラニオン脚軸案内面6A、6Bに対して滑らかに摺接して、安定したトルク伝達機能を発揮することができる。特に、焼入鋼切削によれば、研削に必要とする研削油剤を必要とせず、環境面で優れる。
【0049】
また、脚軸8の脚軸案内面6A、6Bと接触する部位以外は鍛造肌のままとしてもよいので、これらの部位の旋削加工を削減することができ、加工コストの低減を図ることができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、前記実施形態では、高周波焼入れ焼戻にて硬化処理する場合、脚軸付根10および外輪1の案内面6A、6Bと接触する部位(脚軸8の外径面)に硬化層を形成していたが、硬化層としては、これら以外の部位に設けるようしてもよい。案内面6A、6Bの傾斜角度αとしては、トラニオン脚軸外径面8aの凸曲面と、トラニオン脚軸案内面6A、6Bとの接触部位がトラニオン脚軸案内面6A、6Bにおける継手径方向中央部側となる範囲で、R1やR2の大きさ等に応じて種々変更できる。
【符号の説明】
【0051】
1 外側継手部材(外輪)
2 トラニオン
5 トラック溝
6A、6B トラニオン脚軸案内面
8 脚軸
8a 脚軸外径面
10 脚軸付根
59 脚軸
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械等の動力伝達装置に使用される等速自在継手に関し、特に摺動式のトリポード型等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
図11に示すように、トリポード型等速自在継手(特許文献1参照)は、外側継手部材としての外輪51と、内側継手部材としてのトリポード部材52と、トルク伝達部材としてのローラ53を主要な構成要素としている。
【0003】
外側継手部材51はマウス部54を備える。マウス部54は、一端にて開口したカップ状で、内周の円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝56が形成してある。各トラック溝56の円周方向で向き合った内側壁にローラ案内面57、57が形成される。
【0004】
トリポード部材52はボス58と脚軸59とを備える。ボス58にはシャフト(図示省略)とトルク伝達可能に結合するスプラインまたはセレーション孔61が形成してある。脚軸59はボス58の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。トリポード部材52の各脚軸59はローラ53を担持している。すなわち、この等速自在継手のトルク伝達部材として、ローラ53と、脚軸59とローラ53との間に介在される針状ころ60とで構成される。
【0005】
また、脚軸59の先端側にはアウタワッシャ62が配設され、さらに、脚軸59の先端側(アウタワッシャ62よりも先端側)には周方向溝63が形成され、この周方向溝63にサークリップ(止め輪)64が装着されている。アウタワッシャ62はサークリップ64によって軸方向移動が規制され、その結果、針状ころ60の軸方向の外方への移動(抜け)が規制される。また、アウタワッシャ62と反対側にはインナワッシャ65が配設される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3615987号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したトリポード型等速自在継手は、外側継手部材を除く部品が、ローラ53、針状ころ60、アウタワッシャ62、止め輪64、インナワッシャ65、トラニオン(トリポード部材52)等と部品点数が多くなっている。このため、組立性に劣ると共に、コスト高となっていた。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みて、部品点数を削減させて、組立性の向上及びコスト低減を図ることができ、また、作動角をとって、外側継手部材の中心線に対してトラニオン中心が偏心した状態であっても、この偏心を吸収できて案内面における面圧を緩和することが可能なトリポード型等速自在継手を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のトリポード型等速自在継手は、内周に軸線方向に延びる三本のトラック溝を設けると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するトラニオン脚軸案内面を設けた外側継手部材と、前記トラック溝に挿入されてトルク伝達部となる三本の脚軸を有するトラニオンとでもって構成し、前記脚軸のトルク伝達部の外径面を凸曲面とし、脚軸ピッチ円と脚軸中心軸の交点を含みかつ脚軸中心軸に垂直な面上の脚軸外径面の曲率半径をR1とし、脚軸中心軸を含みかつ継手中心線と垂直な面上の脚軸外径面の曲率半径をR2としたときに、R1<R2とし、かつ、作動角が0°でのトルク負荷状態で、脚軸外径面の凸曲面とトラニオン脚軸案内面との接触部位がトラニオン脚軸案内面の径方向中央部となるように、前記外側継手部材の互いに対向するトラニオン脚軸案内面を非平行な平坦面としたものである。
【0010】
本発明のトリポード型等速自在継手は、トラニオンの脚軸がトルク伝達部となるので、従来において必要としていたトルク伝達部材(ローラ、針状ころ、アウタワッシャ、止め輪、インナワッシャ等)を必要としない。このため、全体の部品点数の減少を図ることができる。R1<R2としたことによって、トラニオン脚軸案内面に対する面圧を緩和することができる。しかも、互いに対向するトラニオン脚軸案内面を、非平行な平坦面としたことによって、作動角が0°でのトルク負荷状態で、脚軸外径面の凸曲面とトラニオン脚軸案内面との接触部位がトラニオン脚軸案内面における継手径方向中央部となるので、脚軸外径面の接触部のトラニオン脚軸案内面からのはみ出しを防止できる。また、脚軸先端側の脚軸外径面端部(外径面境界)とトラニオン脚軸案内面の接触を防ぐことができる。
【0011】
相対面するトラニオン脚軸案内面は、継手内径側から継手外径側に向かってその間隔が大となるテーパ面であるのが好ましい。
【0012】
作動角をとってトリポード部材の中心が継手中心線より偏心したことによって生じる脚軸断面幅の増加量分の隙間を、脚軸外径面と案内面との間に確保するのが好ましい。作動角をとって、外側継手部材の中心とトラニオン中心とが偏心した状態であっても、この偏心を吸収できる。
【0013】
作動角が0°でのトルク負荷状態で、脚軸外径面の凸曲面の頂点乃至その近傍を中心としてトラニオン脚軸案内面と接触するようにするのが好ましい。これによって、脚軸外径面のトラニオン脚軸案内面との接触部位が接触領域から有効にはみ出すことを防止できる。且つ、脚軸先端側の脚軸外径面端部(外径面境界)とトラニオン脚軸案内面の接触を防ぐことができる。
【0014】
前記脚軸外径面が、研削又は焼入鋼切削で仕上げられていてもよい。また、トラニオンに対して熱処理が施され、この熱処理が浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻しで行われていてもよい。さらに、少なくとも、脚軸付根および外側継手部材の案内面と接触する部位に硬化層を有し、この硬化層が、高周波焼入れ焼戻しにて形成されていてもよい。
【0015】
浸炭焼入れとは、低炭素材料の表面から炭素を浸入/拡散させ、その後に焼入れを行う方法である。浸炭窒化焼き入れは、浸炭焼入れが炭素だけ拡散させ硬化させるのに対して、炭素と窒素を拡散させる方法で、特に、快削鋼(SUM系)、低炭素鋼、SPCC材等の表面硬化、疲労強度の改善に適用される。浸炭焼入れと比較して、処理温度も低く、寸法変化、歪が一般的に少なく、精密部品に多く採用することができる。また、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。
【0016】
研削とは、砥石の粒子(砥粒)で工作物の表面を削り取り、その面を平滑にし、精密仕上げを行うことである。また、焼入鋼切削は、単に切削のことであり、切削は通常生材の状態で行うので、熱処理後(焼入れ後)の切削であることを明確にするために焼入鋼切削と称した。焼き入れ後に切削を行うため、素材の熱処理変形をこの切削過程で除去することができる。また、焼入鋼切削により研削で通常必要とされる研削油剤を必要とせず、ドライでの加工が可能となり、環境に与える負荷を小さくすることができる。
【0017】
少なくとも、脚軸付根および外側継手部材の案内面と接触する部位を省く部分が鍛造肌であるのが好ましい。このように、鍛造肌のまま(鍛造肌仕上げ)の部位においては、精度を確保するための仕上げ切削が不要となり、工数削減と歩留まり向上が可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のトリポード型等速自在継手によれば、従来において必要としていたトルク伝達部材を必要としないため、全体の部品点数の減少を図ることができる。これによって、組立性の向上を図ることができるとともに、コスト低減を図ることができる。
【0019】
R1<R2とすることによって、トラニオン脚軸案内面に対する面圧を緩和することができ、耐久性・NVH特性の改善を図ることができる。
【0020】
相対面するトラニオン脚軸案内面がテーパ面である場合、脚軸外径面の接触部のトラニオン脚軸案内面からのはみ出しをより有効に防止できる。偏心したことによって生じる脚軸断面幅の増加量分の隙間を、脚軸外径面と案内面との間に確保するものであれば、作動角を滑らかにとることができる。
【0021】
相対面するトラニオン脚軸案内面がテーパ面であることにより、脚軸外径面の凸曲面の頂点乃至その近傍を中心としてトラニオン脚軸案内面と接触するものであれば、脚軸先端側の脚軸外径面端部(外径面境界)とトラニオン脚軸案内面の接触を防ぐことができ、脚軸外径面の接触部のトラニオン脚軸案内面からのはみ出しをより一層有効に防止できる。
【0022】
浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻し等にてトラニオンを熱処理することによって、トラニオンの耐摩耗性等が向上して、耐久性に優れたトリポード型等速自在継手となる。また、高周波焼入れにて熱処理することができ、この場合、少なくとも、脚軸付根および外側継手部材の案内面と接触する部位でよく、低コスト化を図ることができる。
【0023】
トラニオンの脚軸の外径面を研削又は焼入鋼切削で仕上げることによって、トラニオン脚軸案内面に対して滑らかに摺接して、安定したトルク伝達機能を発揮することができる。特に、焼入鋼切削によれば、研削に必要とする研削油剤を必要とせず、環境面で優れる。
【0024】
また、脚軸の脚軸案内面と接触する部位以外は鍛造肌のままとしてもよいので、これら
の部位の旋削加工を削減することができ、加工コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のトリポード型等速自在継手の横断面図である。
【図2】前記トリポード型等速自在継手の縦断面図である。
【図3】前記トリポード型等速自在継手が作動角をとった状態の縦断面図である。
【図4】前記トリポード型等速自在継手のトラニオンを示し、(a)は横断面図であり、(b)は脚軸の平面図である。
【図5】前記トリポード型等速自在継手の要部拡大横断面図である。
【図6】前記図5の要部拡大図である。
【図7】脚軸とトラニオン脚軸案内面との関係を示し、(a)は脚軸外周面の曲率R1=R2の場合の模式図であり、(b)はR2>R1で必要なトラックスキマが確保されて無い場合の模式図である。
【図8】相対面するトラニオン案内面が平行である外輪の横断面図である。
【図9】前記図8に示す外輪を用いたトリポード型等速自在継手の要部拡大図である。
【図10】前記図9のトリポード型等速自在継手の要部拡大図である。
【図11】従来のトリポード型等速自在継手の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下本発明の実施の形態を図1〜図10に基づいて説明する。
【0027】
このトリポード型等速自在継手は、外側継手部材としての外輪1と、内側継手部材としてのトラニオン2とを備える。
【0028】
外輪1は一体に形成されたマウス部1aとステム軸1bとからなる。マウス部1aは一端にて開口したカップ状で、その内周面に、軸方向に延びる3本のトラック溝5が形成される。各トラック溝5の円周方向で向き合った内側壁にトラニオン脚軸案内面6A、6Bが形成される。互いに対向(相対面)するトラニオン脚軸案内面6A、6Bを非平行な平坦面とされる。
【0029】
トラニオン2は、ボス7と脚軸8とを備える。脚軸8はボス7の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。ボス7の内径面には雌スプライン9が形成してある。脚軸外径面8aは凸曲面とされ、トラック溝5に挿入されてトルク伝達部となる。
【0030】
この場合、図4(a)及び図4(b)に示すように、脚軸ピッチ円Pと脚軸中心軸Aの交点O1を含みかつ脚軸中心軸Aに垂直な面S上の脚軸外径面の曲率半径をR1とし、脚軸中心軸Aを含みかつ継手中心線L(図3参照)と垂直な面S1上の脚軸外径面の曲率半径をR2としたときに、R1<R2とした。
【0031】
前記したように、トラニオン脚軸案内面6A、6Bは非平行な平坦面とされるものであるが、この実施形態では、図5に示すように、相対面するトラニオン脚軸案内面6A、6Bは、継手内径側から継手外径側に向かってその間隔が大となるテーパ面とされている。すなわち、脚軸中心軸Aを含みかつ継手中心線Lと垂直な面S1上において、トラニオン脚軸案内面6A、6Bは脚軸中心軸Aに対して、それぞれ所定角度αだけ傾斜している。
【0032】
ところで、R2を大きくした場合、継手が角度をとるためには、トラックスキマ(脚軸外径面8aと案内面6A、6Bとの間の隙間)を大きく設定する必要がある。これは、図7に模式的に示すように、R1=R2で必要とされるトラック隙間よりも大きなトラック隙間を設けなければ、脚軸外径面8aとトラニオン脚軸案内面6A、6Bの干渉が生じて、外側継手部材1とトラニオン2の相互間で作動角を取ることができなくなるからである。
【0033】
すなわち、外側継手部材1とトラニオン2とが作動角をとった場合を考えると、トラニオン2の3本の脚軸8の軸心の交点Oa’が外側継手部材の軸心Oaに対してずれrが生じる。このため、回転トルクの伝達時には、そのずれrを半径として軸心Oaのまわりを脚軸8の軸心の交点Oa’が振れ回ろうとする。この際、図7の上側の脚軸8(8A)を基本として考えると、他の2本の脚軸8(8B)(8C)は作動角0度の場合に比較して、角度γだけ傾きを生じる。そのため、図7(a)に示すように、R1=R2であれば問題にならない。
【0034】
しかしながら、R2>R1とすることにより脚軸8が傾いた際にその傾きを許容できるトラックスキマが確保されていなければ、図7(b)に示すように、脚軸外径面8aとトラニオン脚軸案内面6A、6Bとの間で鎖線で示すように干渉が生じ、外側継手部材1とトラニオン2の相互で作動角をとることができなくなる。従って、脚軸外径面8aとトラニオン脚軸案内面間6A、6Bの干渉を吸収できる分だけ、トラックスキマを設ける必要がある。
【0035】
ところで、前記特許文献の従来構造等では、角度を取った場合、外側継手部材中心とトラニオン中心がずれる偏心状態が生じる。この偏心は、ローラが脚軸の軸方向に動くことによって、針状ころとローラ内径との間において吸収し、また、脚軸がトラック溝内で傾くことによって、ローラ外径とローラ案内面との間において吸収する。しかしながら、本発明のように、トラック溝5にトラニオン脚軸案内面6A、6Bを設けた外側継手部材(外輪)1と、トラック溝5に挿入されて脚軸8を有するトラニオン2とでもって構成したものでは、偏心を吸収する箇所が、脚軸8と脚軸案内面6A、6Bとの間のみである。このため、案内面6A、6Bが、前記特許文献の従来構造等のような曲率をもったものでは偏心を吸収できない。そこで、本発明では、案内面6A、6Bを平坦面とした。
【0036】
ところが、トラック溝の脚軸案内面を平坦面とすれば、従来よりも案内面の面圧は大きくなるため、耐久性及びNVH特性に関しては不利になる。このため、トラック案内面に接するトラニオン脚軸外周面の曲率を大きくして、トラック案内面の面圧緩和を図る必要がある。
【0037】
しかしながら、トラニオン脚軸案内面6A、6Bを平行な平坦面とした場合において、R2>R1とした場合、例えば、外輪1に対して、トラニオン2がその軸心廻りに図9の矢印B方向に回動するトルクが負荷されれば、図9と図10に示すように、トラニオン脚軸外径面8aの凸曲面と、トラニオン脚軸案内面6A、6Bとは接触することになる。この場合、トラニオン脚軸案内面6A、6Bがテーパ面ではないので、外輪1に対して、トラニオン2がその軸心廻りに図5の矢印B方向に回動すれば、トラニオン脚軸外径面8aの凸曲面と、トラニオン脚軸案内面6A、6Bとの接触部15が、トラニオン脚軸案内面6A、6Bの外輪外径側(継手外径側)となる。このため、この接触領域がトラニオン脚軸案内面6A、6Bからはみ出すおそれがある。また、脚軸先端側の脚軸外径面端部(外径面境界)とトラニオン脚軸案内面が接触する可能性がある。これらの現象は、脚軸外径面8aとトラニオン脚軸案内面6A、6Bとの滑りを阻害することになって、耐久性および振動特性の低下を招くことになる。
【0038】
そこで、本実施形態では、R2>R1とするとともに、相対面するトラニオン脚軸案内面6A、6B、継手内径側から継手外径側に向かってその間隔が大となるテーパ面としている。この場合も、外輪1に対して、トラニオン2がその軸心廻りに図5の矢印B方向に回動するトルクが負荷されれば、トラニオン脚軸外径面8aの凸曲面と、トラニオン脚軸案内面6A、6Bとは接触することになる。この際、トラニオン脚軸外径面8aの凸曲面と、トラニオン脚軸案内面6A、6Bとはトラニオン脚軸案内面6A、6Bの継手径方向先端側で接触することなく、トラニオン脚軸案内面6A、6Bの継手径方向中央部よりに接触部15が発生することになる。すなわち、作動角が0°でのトルク負荷状態で、脚軸外径面8aの凸曲面の頂点乃至その近傍を中心としてトラニオン脚軸案内面6A、6Bと接触する。これによって、接触領域がトラニオン脚軸案内面6A、6Bからはみ出すおそれがなくなって、且つ、脚軸先端側の脚軸外径面端部(外径面境界)とトラニオン脚軸案内面が接触するおそれもなくなる。よって、脚軸外径面8aとトラニオン脚軸案内面6A、6Bとの滑りを阻害することがなくなる。
【0039】
図3に示すように、作動角θをとった場合、外側継手部材(外輪1)の中心線L(継手中心線)に対してトラニオン中心Oが、偏心量eで偏心した状態となる。そこで、偏心した状態での脚軸断面幅増加量分の隙間を、脚軸外径面8aと案内面6A、6Bとの間に確保することになる。この場合、偏心したことによって生じる脚軸断面幅の増加量分の隙間としては、トラニオン脚軸案内面6A、6Bの案内面長さW1、傾斜角度α、及び案内面間寸法W2(図5参照)等に基づいて設定する。
【0040】
トラニオン2に対して熱処理が施され、この熱処理が浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻しで行われている。浸炭焼入れとは、低炭素材料の表面から炭素を浸入/拡散させ、その後に焼入れを行う方法である。浸炭窒化焼き入れは、浸炭焼入れが炭素だけ拡散させ硬化させるのに対して、炭素と窒素を拡散させる方法で、特に、快削鋼(SUM系)、低炭
素鋼、SPCC材等の表面硬化、疲労強度の改善に適用される。浸炭焼入れと比較して、処理温度も低く、寸法変化、歪が一般的に少なく、精密部品に多く採用することができる。
【0041】
また、トラニオン2の脚軸8の外径面は研削または焼入鋼切削で仕上げられる。研削とは、砥石の粒子(砥粒)で工作物の表面を削り取り、その面を平滑にし、精密仕上げを行うことである。また、焼入鋼切削は、単に切削のことであり、切削は通常生材の状態で行うので、熱処理後(焼入れ後)の切削であることを明確にするために焼入鋼切削と称した。焼き入れ後に切削を行うため、素材の熱処理変形をこの切削過程で除去することができる。また、焼入鋼切削により研削で通常必要とされる研削油剤を必要とせず、ドライでの加工が可能となり、環境に与える負荷を小さくすることができる。
【0042】
熱処理としては、高周波焼入れであってもよい。高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。高周波焼入れは、部分焼入れが出来る、疲労強度を上げることが出来る、耐摩耗性の向上、材質が安価な炭素鋼でよい、および、焼入れ条件の調整が容易で、有効深さ等調整できる等の長所がある。
【0043】
高周波焼入れ焼戻にて硬化処理する場合、少なくとも、脚軸付根10および外輪1の案内面6A、6Bと接触する部位(脚軸8の外径面)に硬化層を形成することになる。このため、脚軸付根10および外輪1の案内面6A、6Bと接触する部位を省く部分が鍛造肌とするこが可能となる。
【0044】
本発明のトリポード型等速自在継手では、トラニオン2の脚軸8がトルク伝達部となるので、従来において必要としていたトルク伝達部材(ローラ、針状ころ、アウタワッシャ、止め輪、インナワッシャ等)を必要としない。このため、全体の部品点数の減少を図ることができ、組立性の向上を図ることができるとともに、コスト低減を図ることができる。
【0045】
R1<R2とすることによって、トラニオン脚軸案内面6A、6Bに対する面圧を緩和することができ、耐久性・NVH特性の改善を図ることができる。しかも、相対面するトラニオン脚軸案内面6A、6B、継手内径側から継手外径側に向かってその間隔が大となるテーパ面としている。このため、外輪1に対して、トラニオン2がその軸心廻りに図5の矢印B方向に回動するトルクが負荷された場合、トラニオン脚軸外径面8aの凸曲面と、トラニオン脚軸案内面6A、6Bとはトラニオン脚軸案内面6A、6Bの継手径方向先端側で接触することなく、トラニオン脚軸案内面6A、6Bの径方向中央部よりで接触することになる。これによって、接触領域がトラニオン脚軸案内面6A、6Bからはみ出すおそれがなくなって、且つ、脚軸先端側の脚軸外径面端部(外径面境界)とトラニオン脚軸案内面6A、6Bが接触するおそれもなくなる。よって、
脚軸外径面8aとトラニオン脚軸案内面6A、6Bとの滑りを阻害することがなくなり、耐久性及び振動特性の低下を防止できる。
【0046】
偏心したことによって生じる脚軸断面幅の増加量分の隙間を、脚軸外径面8aと案内面6A、6Bとの間に確保しているので、作動角を滑らかにとることができる。また、脚軸外径面8aの凸曲面の頂点乃至その近傍を中心としてトラニオン脚軸案内面6A、6Bと接触するものであれば、脚軸外径面8aの接触部のトラニオン脚軸案内面6A、6Bとからのはみ出しをより一層有効に防止できる。
【0047】
浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻し等にてトラニオン2を熱処理することによって、トラニオン2の耐摩耗性等が向上して、耐久性に優れたトリポード型等速自在継手となる。また、高周波焼入れにて熱処理することができ、この場合、少なくとも、脚軸付根10および外輪1の案内面6A、6Bと接触する部位でよく、低コスト化を図ることができる。
【0048】
トラニオン2の脚軸8の外径面8aを研削又は焼入鋼切削で仕上げることによって、トラニオン脚軸案内面6A、6Bに対して滑らかに摺接して、安定したトルク伝達機能を発揮することができる。特に、焼入鋼切削によれば、研削に必要とする研削油剤を必要とせず、環境面で優れる。
【0049】
また、脚軸8の脚軸案内面6A、6Bと接触する部位以外は鍛造肌のままとしてもよいので、これらの部位の旋削加工を削減することができ、加工コストの低減を図ることができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、前記実施形態では、高周波焼入れ焼戻にて硬化処理する場合、脚軸付根10および外輪1の案内面6A、6Bと接触する部位(脚軸8の外径面)に硬化層を形成していたが、硬化層としては、これら以外の部位に設けるようしてもよい。案内面6A、6Bの傾斜角度αとしては、トラニオン脚軸外径面8aの凸曲面と、トラニオン脚軸案内面6A、6Bとの接触部位がトラニオン脚軸案内面6A、6Bにおける継手径方向中央部側となる範囲で、R1やR2の大きさ等に応じて種々変更できる。
【符号の説明】
【0051】
1 外側継手部材(外輪)
2 トラニオン
5 トラック溝
6A、6B トラニオン脚軸案内面
8 脚軸
8a 脚軸外径面
10 脚軸付根
59 脚軸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に軸線方向に延びる三本のトラック溝を設けると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するトラニオン脚軸案内面を設けた外側継手部材と、前記トラック溝に挿入されてトルク伝達部となる三本の脚軸を有するトラニオンとでもって構成し、前記脚軸のトルク伝達部の外径面を凸曲面とし、脚軸ピッチ円と脚軸中心軸の交点を含みかつ脚軸中心軸に垂直な面上の脚軸外径面の曲率半径をR1とし、脚軸中心軸を含みかつ継手中心線と垂直な面上の脚軸外径面の曲率半径をR2としたときに、R1<R2とし、かつ、作動角が0°でのトルク負荷状態で、脚軸外径面の凸曲面とトラニオン脚軸案内面との接触部位がトラニオン脚軸案内面における継手径方向中央部となるように、前記外側継手部材の互いに対向するトラニオン脚軸案内面を非平行な平坦面としたことを特徴とするトリポード型等速自在継手。
【請求項2】
相対面するトラニオン脚軸案内面は、継手内径側から継手外径側に向かってその間隔が大となるテーパ面であることを特徴とする請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項3】
作動角をとってトリポード部材の中心が継手中心線より偏心したことによって生じる脚軸断面幅の増加量分の隙間を、脚軸外径面と案内面との間に確保したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項4】
作動角が0°でのトルク負荷状態で、脚軸外径面の凸曲面の頂点乃至その近傍を中心としてトラニオン脚軸案内面と接触することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項5】
トラニオンの脚軸の外径面が、研削又は焼入鋼切削で仕上げられていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項6】
トラニオンに対して熱処理が施され、この熱処理が浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻しで行われていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項7】
少なくとも、脚軸付根および外側継手部材の案内面と接触する部位に硬化層を有し、この硬化層が、高周波焼入れ焼戻しにて形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項8】
少なくとも、脚軸付根および外側継手部材の案内面と接触する部位を省く部分が鍛造肌であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項1】
内周に軸線方向に延びる三本のトラック溝を設けると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するトラニオン脚軸案内面を設けた外側継手部材と、前記トラック溝に挿入されてトルク伝達部となる三本の脚軸を有するトラニオンとでもって構成し、前記脚軸のトルク伝達部の外径面を凸曲面とし、脚軸ピッチ円と脚軸中心軸の交点を含みかつ脚軸中心軸に垂直な面上の脚軸外径面の曲率半径をR1とし、脚軸中心軸を含みかつ継手中心線と垂直な面上の脚軸外径面の曲率半径をR2としたときに、R1<R2とし、かつ、作動角が0°でのトルク負荷状態で、脚軸外径面の凸曲面とトラニオン脚軸案内面との接触部位がトラニオン脚軸案内面における継手径方向中央部となるように、前記外側継手部材の互いに対向するトラニオン脚軸案内面を非平行な平坦面としたことを特徴とするトリポード型等速自在継手。
【請求項2】
相対面するトラニオン脚軸案内面は、継手内径側から継手外径側に向かってその間隔が大となるテーパ面であることを特徴とする請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項3】
作動角をとってトリポード部材の中心が継手中心線より偏心したことによって生じる脚軸断面幅の増加量分の隙間を、脚軸外径面と案内面との間に確保したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項4】
作動角が0°でのトルク負荷状態で、脚軸外径面の凸曲面の頂点乃至その近傍を中心としてトラニオン脚軸案内面と接触することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項5】
トラニオンの脚軸の外径面が、研削又は焼入鋼切削で仕上げられていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項6】
トラニオンに対して熱処理が施され、この熱処理が浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻しで行われていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項7】
少なくとも、脚軸付根および外側継手部材の案内面と接触する部位に硬化層を有し、この硬化層が、高周波焼入れ焼戻しにて形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項8】
少なくとも、脚軸付根および外側継手部材の案内面と接触する部位を省く部分が鍛造肌であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のトリポード型等速自在継手。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−261530(P2010−261530A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113646(P2009−113646)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
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