説明

トリポード型等速自在継手

【課題】 旋削加工や専用設備を不要とし、簡易な手段により確実な抜け止めを実現容易にすると共に加工工程の簡素化およびコスト低減を図る。
【解決手段】 一端に開口部11を有するカップ状をなし、内周面に軸方向に延びる三本のトラック溝12が形成されると共に各トラック溝12の内側壁に互いに対向するローラ案内面14が形成された外側継手部材10と、径方向に突出した三本の脚軸22を有するトリポード部材20と、トリポード部材20の脚軸22に回転自在に支持されると共に外側継手部材10のトラック溝12に転動自在に挿入されてローラ案内面14に沿って案内されるローラユニット30とを備え、ローラユニット30およびトリポード部材20を含む内部部品が外側継手部材10に軸方向摺動自在に収容されたトリポード型等速自在継手であって、外側継手部材10の開口部11の内周面でトラック溝12の両側のローラ案内面14に、内部部品のローラユニット30が係止する凸部15を外側継手部材10の鍛造による同時成形で設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、航空機、船舶や各種産業機械の動力伝達系において使用され、例えば4WD車やFR車などで使用されるドライブシャフトやプロペラシャフト等に組み込まれて駆動側と従動側の二軸間で軸方向変位および角度変位を許容する摺動式等速自在継手の一種であるトリポード型等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のエンジンから車輪に回転力を等速で伝達するドライブシャフトやプロペラシャフト等に組み込まれる等速自在継手には、固定式等速自在継手と摺動式等速自在継手の二種がある。これら両者の等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸を連結してその二軸が作動角をとっても等速で回転トルクを伝達し得る構造を備えている。
【0003】
自動車のエンジンから駆動車輪に動力を伝達するドライブシャフトは、エンジンと車輪との相対的位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要があるため、一般的にエンジン側(インボード側)に摺動式等速自在継手を、駆動車輪側(アウトボード側)に固定式等速自在継手をそれぞれ装備し、両者の等速自在継手をシャフトで連結した構造を具備する。
【0004】
このドライブシャフトに組み付けられる摺動式等速自在継手の一つにトリポード型等速自在継手がある。このトリポード型等速自在継手は、一端に開口部を有するカップ状をなし、内周面に軸方向に延びる三本のトラック溝が形成されると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するローラ案内面が形成された外側継手部材と、径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、そのトリポード部材の脚軸に回転自在に支持されると共に外側継手部材のトラック溝に転動自在に挿入されてローラ案内面に沿って案内されるローラとで主要部が構成され、ローラおよびトリポード部材を含む内部部品が外側継手部材に軸方向摺動自在に収容された構造を具備する。
【0005】
この種のトリポード型等速自在継手を自動車に組み付けるに際しては、このトリポード型等速自在継手をエンジン側(インボード側)に組み付けた後、固定式等速自在継手を駆動車輪側(アウトボード側)に組み付けるのが一般的である。その駆動車輪側では、固定式等速自在継手にハブベアリングを組み付け、ナックルにより車体の懸架装置に組み付けるが、固定式等速自在継手にハブベアリングを組み付けた時点では、ハブベアリングおよびナックルを車体の懸架装置に組み付けていないため、前述のトリポード型等速自在継手には、固定式等速自在継手、ハブベアリングおよびナックルの総荷重(例えば、0.3kN以上)がかかる場合がある。このような荷重がトリポード型等速自在継手にかかると、内部部品が外側継手部材の開口部から飛び出すスライドオーバーが生じることがある。そこで、従来では、このスライドオーバーを防止するため、以下のような抜け止め機構が採用されている。
【0006】
抜け止め機構の一つとしては、外側継手部材の開口部内周面に環状凹溝を設け、その環状凹溝にサークリップを嵌着した構造がある(例えば、特許文献1参照)。このような構造とすることにより、内部部品の軸方向変位時、ローラがサークリップと干渉することでローラの軸方向変位量を規制するようにしている。
【0007】
また、他の抜け止め機構としては、外側継手部材のローラ案内面の開口端の上部と下部とに、互いに両外側に開く左右1対の球状凹部と、互いに閉じ側に延びる左右1対の球状凸部とを配設した構造がある(例えば、特許文献2参照)。このような構造とすることにより、内部部品の軸方向変位時、ローラが球状凸部と干渉することでローラの軸方向変位量を規制するようにしている。
【0008】
さらに、他の抜け止め機構としては、外側継手部材の開口部端面の内側縁部を加締めにより潰すことで、外側継手部材の開口部内周面に隆起部分を形成した構造がある(例えば、特許文献3参照)。このような構造とすることにより、内部部品の軸方向変位時、ローラが隆起部分と干渉することでローラの軸方向変位量を規制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開平10−194号公報
【特許文献2】実開昭58−30027号公報
【特許文献3】特開平11−336782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前述の特許文献1で開示された従来の等速自在継手では、ローラの軸方向変位量を規制するサークリップを外側継手部材に組み付けるため、外側継手部材の開口部内周面に環状凹溝を形成しなければならず、外側継手部材の開口部内周面を旋削加工する必要があり、サークリップも必要となることから、旋削加工および部品点数の増加により製品のコストアップを招くことになる。
【0011】
また、特許文献2に開示された従来の等速自在継手では、この等速自在継手を自動車に組み付けるに際して、回転トルクの非入力時にローラが自由に動くため、ローラが外側継手部材のローラ案内面の上部側へ移動し、球状凹部からローラが抜け出る可能性があり、抜け止め機能を確実に発揮させることが困難となる。
【0012】
さらに、特許文献3に開示された従来の等速自在継手では、外側継手部材の開口部端面の内側縁部を加締めにより潰すため、加締め治具に対して外側継手部材を正確に位置決めしなければならず、その外側継手部材の位置決めが非常に困難であり、外側継手部材を位置決めするための専用設備を必要とする。また、隆起部分を加締めにより潰すことで形成しているため、その隆起部分の大きさ寸法にバラツキが生じ易い。
【0013】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、旋削加工や専用設備を不要とし、簡易な手段により確実な抜け止めを実現容易にすると共に加工工程の簡素化およびコスト低減を図り得るトリポード型等速自在継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、一端に開口部を有するカップ状をなし、内周面に軸方向に延びる三本のトラック溝が形成されると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するローラ案内面が形成された外側継手部材と、径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、そのトリポード部材の脚軸に回転自在に支持されると共に外側継手部材のトラック溝に転動自在に挿入されてローラ案内面に沿って案内されるローラとを備え、そのローラおよびトリポード部材を含む内部部品が外側継手部材に軸方向摺動自在に収容されたトリポード型等速自在継手であって、外側継手部材の開口部内周面でトラック溝の少なくとも片側のローラ案内面に、内部部品のローラが係止する凸部を外側継手部材の鍛造による同時成形で設けたことを特徴とする。
【0015】
なお、前述の「少なくとも片側」とは、トラック溝の内側壁に互いに対向する一対のローラ案内面のうちの片側に凸部を設ける場合、あるいは、一対のローラ案内面の両側に凸部を設ける場合の両方を含むことを意味する。
【0016】
本発明におけるトリポード型等速自在継手では、外側継手部材の開口部内周面でトラック溝の少なくとも片側のローラ案内面に、内部部品のローラが係止する凸部を設けたことから、内部部品の軸方向変位時、ローラが凸部と干渉することで内部部品の軸方向変位量を規制することにより、内部部品が外側継手部材の開口部から飛び出すスライドオーバーを未然に防止することができる。特に、このトリポード型等速自在継手をドライブシャフトとして自動車に組み付けるに際して、固定式等速自在継手、ハブベアリングおよびナックルの総荷重がトリポード型等速自在継手にかかっても、内部部品が外側継手部材の開口部から飛び出すスライドオーバーを確実に防止できる点で有効である。
【0017】
一方、凸部は、外側継手部材の鍛造により同時に成形されたものであることにより、従来のような環状凹溝形成のための旋削加工、サークリップのような別部品や、加締め治具に対して外側継手部材を位置決めするための専用設備を不要とすることができ、凸部の大きさ寸法にバラツキが生じ難く、凸部を精度よく形成することができる。また、外側継手部材の鍛造による同時成形という簡易な手段により抜け止め機能を確実に発揮させることができると共に加工工程の簡素化およびコスト低減が図れる。
【0018】
本発明における凸部とローラとの締め代は0.2〜0.8mmとすることが望ましい。このようにすれば、内部部品の軸方向変位時、ローラを凸部に確実に係止させることができると共に、外側継手部材の鍛造時に金型の引き抜きが容易となって凸部を同時成形することが容易に実現でき、また、内部部品の外側継手部材への組み付け時に内部部品を外側継手部材に容易に圧入することができる。
【0019】
なお、凸部とローラとの締め代が0.2mmよりも小さいと、抵抗が小さくなり過ぎることから、外側継手部材の鍛造時に金型の引き抜きが容易となって凸部を同時成形することが容易に実現でき、また、内部部品の外側継手部材への組み付け時に内部部品を外側継手部材に容易に圧入することができる反面、内部部品の軸方向変位時、ローラを凸部に確実に係止させることが困難となるために不適である。
【0020】
逆に、凸部とローラとの締め代が0.8mmよりも大きいと、抵抗が大きくなり過ぎることから、内部部品の軸方向変位時、ローラを凸部に確実に係止させることができる反面、外側継手部材の鍛造時に金型の引き抜きが困難となって凸部を同時成形することが難しくなり、また、内部部品の外側継手部材への組み付け時に内部部品を外側継手部材に圧入することが困難となることから不適である。
【0021】
本発明における凸部は、外側継手部材の反開口部側に、継手の軸線に対して傾斜してローラ案内面に達するテーパ面が設けられていることが望ましい。このようにすれば、テーパ面により抵抗が小さくなることから、外側継手部材の鍛造時に金型の引き抜きがより一層容易となって凸部を同時成形することがより一層容易に実現できる点で有効である。
【0022】
また、本発明における凸部のテーパ面は、そのテーパ角度を45°以下とすることが望ましい。このようにすれば、内部部品の軸方向変位時、ローラと凸部との干渉を確保した上で、テーパ角度が小さいことから、外側継手部材の鍛造時に金型の引き抜きがより一層容易となって凸部を同時成形することがより一層容易に実現できる点で有効である。なお、このテーパ角度が45°よりも大きいと、外側継手部材の鍛造時に金型の引き抜きが困難となって凸部を同時成形することが難しくなるために不適である。
【0023】
本発明における凸部は、ローラ案内面の少なくともローラ接触位置に設けられていることが望ましい。このようにすれば、例えば、凸部とローラとの締め代を小さくした場合であっても、内部部品の軸方向変位時、ローラを凸部に確実に係止させることができる点で有効である。なお、「少なくともローラ接触位置」としたのは、ローラ接触位置以外の部位に凸部を設けることも可能であることを意味する。凸部をローラ案内面のローラ接触位置以外の部位に設けても、例えば、凸部とローラとの締め代を大きくすれば、内部部品の軸方向変位時、ローラを凸部に係止させることが可能である。
【0024】
本発明における凸部は、ローラ案内面のローラ接触位置からラジアル方向両側へ1mm幅を有する領域に設けられていることが望ましい。等速自在継手の良好な作動性を確保するためには、ローラのラジアル方向の移動量を1mm以下に設定すればよい。従って、ローラ案内面のローラ接触位置からラジアル方向両側へ1mm幅を有する領域に凸部を設ければ、その領域内でローラがラジアル方向に移動したとしても、ローラを凸部に確実に係止させることができる点で有効である。
【0025】
本発明におけるローラがローラ案内面と接触する形態としては、アンギュラ接触あるいはサーキュラ接触のいずれであってもよい。アンギュラ接触の場合には、ローラ案内面のラジアル方向二箇所に位置するローラ接触位置に凸部を形成することになる。一方、サーキュラ接触の場合には、ローラ案内面のラジアル方向一箇所に位置するローラ接触位置(外側継手部材PCD)に凸部を形成することになる。ここで、「外側継手部材PCD」とは、外側継手部材のトラック溝のローラ案内面に接触した状態でのローラのPCD(ピッチ円直径)を意味する。
【0026】
本発明におけるローラは、脚軸に外嵌されたインナーローラの外周側に配置されたアウタローラであり、インナローラの内周面は凸円弧状をなし、脚軸は、縦断面において継手の軸線と直交するストレート形状をなし、横断面において継手の軸線と直交する方向でインナローラの内周面と接触し、かつ、継手の軸線方向でインナローラの内周面との間に隙間が形成されている構造を具備することが望ましい。
【0027】
つまり、本発明は、ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手に適用することが有効である。なお、本発明は、ダブルローラタイプ以外のもの、例えばシングルローラタイプのトリポード型等速自在継手にも適用可能である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、外側継手部材の開口部内周面でトラック溝の少なくとも片側のローラ案内面に、内部部品のローラが係止する凸部を設けたことにより、内部部品の軸方向変位時、ローラが凸部と干渉することで内部部品の軸方向変位量を規制するので、内部部品が外側継手部材の開口部から飛び出すスライドオーバーを未然に防止することができる。また、凸部は、外側継手部材の鍛造により同時に成形されたものであることにより、従来のような環状凹溝形成のための旋削加工、サークリップのような別部品や、加締め治具に対して外側継手部材を位置決めするための専用設備を不要とすることができ、凸部の大きさ寸法にバラツキが生じ難く、凸部を精度よく形成することができる。また、外側継手部材の鍛造による同時成形という簡易な手段により抜け止め機能を確実に発揮させることができると共に加工工程の簡素化およびコスト低減が図れる。
【0029】
このように、外側継手部材の開口部内周面でトラック溝の少なくとも片側のローラ案内面に、内部部品のローラが係止する凸部を外側継手部材の鍛造による同時成形で設けたことにより、安価で信頼性の高いトリポード型等速自在継手を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るトリポード型等速自在継手の実施形態で、継手の軸線に対する縦断面図である。
【図2】本発明に係るトリポード型等速自在継手の実施形態で、図1のA矢視図である。
【図3】図1および図2の脚軸およびローラユニットを示す断面図である。
【図4】図1のB−B線に沿う部分拡大断面図である。
【図5】アウタローラが外側継手部材にアンギュラ接触する場合を示す要部拡大断面図である。
【図6】アウタローラが外側継手部材にアンギュラ接触する場合の凸部を示す要部拡大図である。
【図7】アウタローラが外側継手部材にサーキュラ接触する場合を示す要部拡大断面図である。
【図8】アウタローラが外側継手部材にサーキュラ接触する場合の凸部を示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明に係るトリポード型等速自在継手の実施形態を以下に詳述する。なお、以下の実施形態では、作動時の低振動化を可能としたダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手を例示する。なお、本発明は、このダブルローラタイプ以外にシングルローラタイプ等の他のトリポード型等速自在継手にも適用可能である。
【0032】
図1および図2はダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手の基本構成を示し、図1は継手の軸線に対する縦断面を示し、図2は図1のA方向から見た矢視図を示す(但し、一つのローラユニット30のみを断面で示す)。この実施形態のトリポード型等速自在継手は、外側継手部材10と、トリポード部材20と、ローラユニット30とで主要部が構成されている。
【0033】
外側継手部材10は、一端に開口部11を有するカップ状をなし、その底部中央に図示しない回転軸(例えば駆動軸)が一体的に形成されている。外側継手部材10の内周面には、軸方向に延びる三本の直線状トラック溝12が円周方向等間隔に形成される。各トラック溝12は、その内側両壁に互いに対向する一対のローラ案内面14を有する。ローラ案内面14は円弧状断面を有し、外側継手部材10の軸線方向に直線状に延びる。外側継手部材10の外周面は、軽量化のため、トラック溝12間と対応する部位が減肉されて凹所13が軸方向に形成されている。この外側継手部材10の内部には、トリポード部材20とローラユニット30とを含む内部部品が収容されている。
【0034】
ローラユニット30は、アウタローラ32と、このアウタローラ32の内側に配置されて脚軸22に外嵌されたインナローラ34と、アウタローラ32とインナローラ34との間に介在されたニードルころ36とで主要部が構成され、外側継手部材10のトラック溝12に収容されている。なお、インナローラ34の内周面は凸円弧状をなす。このインナローラ34とアウタローラ32との間に、複数のニードルころ36が、保持器のない、いわゆる単列総ころ状態で配設されている。インナローラ34およびニードルころ36は、アウタローラ32の内周面に形成された環状凹溝にリング状のワッシャ31,33を嵌合させ、そのワッシャ31,33によりアウタローラ32に対して抜け止めされている。
【0035】
トリポード部材20は、円筒状をなすボス部21の外周面に三本の脚軸22が円周方向等間隔(120°間隔)で放射状に一体形成されたものである。脚軸22は、その先端がトラック溝12の底面付近まで半径方向に延在している。ボス21の軸孔に回転軸40(例えば従動軸)の軸端がスプライン嵌合により連結され、環状のスナップリング42によりトリポード部材20に対して抜け止めされている。このトリポード部材20の脚軸22は、その軸線に対する縦断面において継手の軸線と直交するストレート形状をなし、図3に示すように、脚軸22の軸線に対する横断面において継手の軸線と直交する方向でインナローラ34と接触する楕円形状をなし、継手の軸線方向でインナローラ34との間に隙間nが形成されている。このような形状を有する脚軸22に対してローラユニット30が回転自在に支持されている。
【0036】
この等速自在継手では、トリポード部材20の脚軸22と外側継手部材10のローラ案内面14とがローラユニット30を介して二軸の回転方向に係合することにより、駆動側から従動側へ回転トルクが等速で伝達される。また、ローラユニット30が脚軸22に対して回転しながらローラ案内面14上を転動することにより、外側継手部材10とトリポード部材20との間の相対的な軸方向変位や角度変位が吸収される。
【0037】
この際、継手の軸線方向で脚軸22とインナローラ34との間に隙間nが形成され、ローラ案内面14上を転動するローラユニット30に対して脚軸22が傾動自在となっていることから、継手が作動角をとっても、ローラユニット30がローラ案内面14に対して傾くことはない。このようにして、脚軸22の傾きに伴ってローラユニット30とローラ案内面14とが互いに斜交した状態となることを回避し、誘起スラストやスライド抵抗の低減を図るようにしている。
【0038】
この実施形態のトリポード型等速自在継手では、トリポード部材20およびローラユニット30を含む内部部品が外側継手部材10の開口部11から飛び出すスライドオーバーを防止するため、以下のような抜け止め機構を採用する。
【0039】
このトリポード型等速自在継手における抜け止め機構は、図1および図2に示すように、外側継手部材10の開口部11の内周面でトラック溝12の内側両壁に互いに対向する一対のローラ案内面14に、内部部品のアウタローラ32が係止する凸部15を設けた構造を具備する。なお、この実施形態では、三本全てのトラック溝12のローラ案内面14に凸部15を設けた場合を例示しているが、少なくともいずれか一本のトラック溝12のローラ案内面14に凸部15を設けてもよく、さらに、トラック溝12の両側に位置する一対のローラ案内面14のうち、片側に位置するローラ案内面14のみに凸部15を設けるようにしてもよい。
【0040】
ここで、外側継手部材10は、例えば、中炭素鋼からなる素材を鍛造により概略形状に成形し、その後、旋削加工、高周波熱処理や研削加工などを経て製作される。内部部品の抜け止め機構としての凸部15は、前述した外側継手部材10の鍛造により同時に成形される。また、前述の凸部15は熱処理による硬化処理は行わなくても良い。
【0041】
このように、凸部15を、外側継手部材10の鍛造により同時に成形することで、従来のような環状凹溝形成のための旋削加工、サークリップのような別部品や、加締め治具に対して外側継手部材を位置決めするための専用設備を不要とすることができ、凸部15の大きさ寸法にバラツキが生じ難く、凸部15を精度よく形成することができる。また、外側継手部材10の鍛造による同時成形という簡易な手段により抜け止め機能を確実に発揮させることができると共に加工工程の簡素化およびコスト低減が図れる。
【0042】
このトリポード型等速自在継手では、外側継手部材10の開口部11の内周面でトラック溝12の両側のローラ案内面14に、内部部品のアウタローラ32が係止する凸部15を設けたことから、内部部品の軸方向変位時、アウタローラ32が凸部15と干渉することで内部部品の軸方向変位量を規制することにより、内部部品が外側継手部材10の開口部11から飛び出すスライドオーバーを未然に防止することができる。例えば、このトリポード型等速自在継手をドライブシャフトとして自動車に組み付けるに際して、固定式等速自在継手、ハブベアリングおよびナックルの総荷重がトリポード型等速自在継手にかかっても、内部部品が外側継手部材10の開口部11から飛び出すスライドオーバーを確実に防止できる。
【0043】
以上のように、凸部15を外側継手部材10の鍛造により同時成形する場合、その鍛造に使用する金型には凸部15と対応した凹部を設ける必要がある。この外側継手部材10の鍛造時には、金型が外側継手部材10の内部に圧入されてその内部形状(トラック溝12およびローラ案内面14)を成形した後、その金型が外側継手部材10の外部へ引き抜かれる。この金型の引き抜きの際に、金型の凹部は外側継手部材10に対して抵抗となる。また、外側継手部材10の鍛造後、内部部品を外側継手部材10に組み込むに際して、外側継手部材10の凸部15が内部部品に対して抵抗となることから、ローラユニット30のアウタローラ32を外側継手部材10のトラック溝12に圧入することになる。
【0044】
そこで、内部部品を外側継手部材10に組み込んだ状態において、凸部15とアウタローラ32との締め代を0.2〜0.8mmとする。この締め代が0.2mmの場合、等速自在継手の作動角が0°での内部部品の抜け力は、1.0kNとなり、締め代が0.8mmの場合、等速自在継手の作動角が0°での内部部品の抜け力は、6.5kNとなる。
【0045】
このように凸部15とアウタローラ32との締め代を0.2〜0.8mmとすることにより、内部部品の軸方向変位時、アウタローラ32を凸部15に確実に係止させることができると共に、外側継手部材10の鍛造時、金型の凹部による抵抗が小さいことから、金型の引き抜きが容易となって凸部15を同時成形することが容易に実現できると共に金型の寿命低下も抑制でき、また、内部部品の外側継手部材10への組み付け時、外側継手部材10の凸部15による抵抗が小さいことから、内部部品を外側継手部材10に容易に圧入することができる。
【0046】
なお、凸部15とアウタローラ32との締め代が0.2mmよりも小さいと、外側継手部材10の鍛造時、金型の凹部による抵抗が小さいことから、金型の引き抜きが容易となって凸部15を同時成形することが容易に実現でき、また、内部部品の外側継手部材10への組み付け時、外側継手部材10の凸部15による抵抗が小さいことから、内部部品を外側継手部材10に容易に圧入することができる反面、内部部品の軸方向変位時、アウタローラ32を凸部15に確実に係止させることが困難となるために不適である。
【0047】
逆に、凸部15とアウタローラ32との締め代が0.8mmよりも大きいと、内部部品の軸方向変位時、アウタローラ32を凸部15に確実に係止させることができる反面、外側継手部材10の鍛造時、金型の凹部による抵抗が大きいことから、金型の引き抜きが困難となって凸部15を同時成形することが難しくなり、また、内部部品の外側継手部材10への組み付け時、外側継手部材10の凸部15による抵抗が大きいことから、内部部品を外側継手部材10に圧入することが困難となることから不適である。
【0048】
ここで、凸部15とアウタローラ32との締め代が同じであれば、その内部部品の抜け力も同等となる。つまり、一本のトラック溝12について、片側のローラ案内面14に凸部15を設けても両側のローラ案内面14に凸部15を設けても、凸部15の高さの合計が同じであれば、その内部部品の抜け力も同等となる。従って、片側のローラ案内面14に凸部15を設けるよりも、その半分の高さの凸部15を両側のローラ案内面14に設けた方が、内部部品の抜け力を同等にして金型の引き抜きが容易となり、金型の寿命を向上させることができる点で、両側のローラ案内面14に凸部15を設ける方が有効である。
【0049】
図4は図1のB−B線に沿う拡大部分断面図で、ローラ案内面14に設けられた凸部15を示す。同図に示すように、凸部15は、外側継手部材10の反開口部側に、継手の軸線に対して傾斜してローラ案内面14に達するテーパ面16が設けられている。このように、凸部15が外側継手部材10の反開口部側でテーパ面16を有することにより、金型の凹部にも対応して逆テーパ面を形成することになるため、外側継手部材10の鍛造時、金型の凹部による抵抗がより一層小さくなることから、テーパ面16を設けない場合よりも、金型の引き抜きが容易となって凸部15を同時成形することが容易に実現できると共に金型の寿命低下も抑制できる。
【0050】
この凸部15のテーパ面16は、そのテーパ角度θを45°以下とする。このように、テーパ角度θを45°以下に規制することにより、内部部品の軸方向変位時、アウタローラ32と凸部15との干渉を確保した上で、テーパ角度θが小さいことから、外側継手部材10の鍛造時、より一層、金型の凹部による抵抗が小さくなり、金型の引き抜きが容易となって凸部15を同時成形することが容易に実現できると共に金型の寿命低下も抑制できる。なお、このテーパ角度θが45°よりも大きいと、外側継手部材10の鍛造時、金型の凹部による抵抗が大きくなることから、金型の引き抜きが困難となって凸部15を同時成形することが難しくなると共に金型の寿命も低下する。
【0051】
この実施形態では、図5に示すように、アウタローラ32がローラ案内面14にアンギュラ接触する場合を例示する。アンギュラ接触の場合、ローラ案内面14のラジアル方向二箇所(ローラ接触位置P)でアウタローラ32の外周面が接触する。なお、図5はローラ案内面14の凸部15(図6参照)が形成されていない部位での断面を示す。
【0052】
このアンギュラ接触の場合、図6に示すように、凸部15はローラ案内面14のローラ接触位置Pに設けられる。このようにローラ案内面14のローラ接触位置Pに凸部15を設けることにより、例えば、凸部15とアウタローラ32との締め代を前述した0.2〜0.8mmの範囲内で小さくした場合であっても、内部部品の軸方向変位時、アウタローラ32を凸部15に確実に係止させることができる。
【0053】
なお、ローラ接触位置P以外の部位に凸部15を設けることも可能である。凸部15をローラ案内面14のローラ接触位置P以外の部位に設けても、例えば、凸部15とアウタローラ32との締め代を前述した0.2〜0.8mmの範囲内で大きくすれば、内部部品の軸方向変位時、アウタローラ32を凸部15に係止させることが可能である。
【0054】
この実施形態では、図6に示すように、ローラ案内面14のローラ接触位置Pからラジアル方向両側へ1mm幅Wを有する領域Rに凸部15を設けている。通常、トリポード型等速自在継手の良好な作動性を確保するためには、アウタローラ32のラジアル方向の移動量を1mm以下に設定すればよい。従って、前述したようにローラ案内面14のローラ接触位置Pからラジアル方向両側へ1mm幅Wを有する領域Rに凸部15を設けることにより、その領域内でアウタローラ32がラジアル方向に移動したとしても、アウタローラ32を凸部15に確実に係止させることができる。
【0055】
以上の実施形態では、アウタローラ32がローラ案内面14とアンギュラ接触する場合について説明したが、アウタローラ32がローラ案内面14’とサーキュラ接触する場合についても適用可能がある。
【0056】
図7はアウタローラ32がローラ案内面14’にサーキュラ接触する場合を例示する。サーキュラ接触の場合には、ローラ案内面14’のラジアル方向一箇所(ローラ接触位置P’)でアウタローラ32の外周面が接触する。このサーキュラ接触でのローラ接触位置P’は、外側継手部材PCD、つまり、外側継手部材10のトラック溝12のローラ案内面14’に接触した状態でのアウタローラ32のPCD(ピッチ円直径)となっている。なお、図7はローラ案内面14’の凸部15’(図8参照)が形成されていない部位での断面を示す。
【0057】
このサーキュラ接触の場合も、アンギュラ接触の場合と同様、図8に示すように、凸部15’はローラ案内面14’のローラ接触位置P’に設けられる。なお、この場合も、ローラ接触位置P’以外の部位に凸部15’を設けることも可能である。この実施形態では、ローラ案内面14’のローラ接触位置P’からラジアル方向両側へ1mm幅W’を有する領域R’に凸部15’を設けている。なお、このサーキュラ接触の場合の実施形態についても、前述のアンギュラ接触の場合の実施形態と同様の作用効果を奏するため、重複説明は省略する。
【0058】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0059】
10 外側継手部材
11 開口部
12 トラック溝
14 ローラ案内面
15 凸部
16 テーパ面
20 トリポード部材
22 脚軸
32 ローラ(アウタローラ)
34 インナローラ
θ テーパ角度
P ローラ接触位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に開口部を有するカップ状をなし、内周面に軸方向に延びる三本のトラック溝が形成されると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するローラ案内面が形成された外側継手部材と、径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の脚軸に回転自在に支持されると共に前記外側継手部材のトラック溝に転動自在に挿入されて前記ローラ案内面に沿って案内されるローラとを備え、前記ローラおよびトリポード部材を含む内部部品が前記外側継手部材に軸方向摺動自在に収容されたトリポード型等速自在継手であって、
前記外側継手部材の開口部内周面で前記トラック溝の少なくとも片側のローラ案内面に、前記内部部品のローラが係止する凸部を前記外側継手部材の鍛造による同時成形で設けたことを特徴とするトリポード型等速自在継手。
【請求項2】
前記凸部とローラとの締め代を0.2〜0.8mmとした請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項3】
前記凸部は、前記外側継手部材の反開口部側に、継手の軸線に対して傾斜して前記ローラ案内面に達するテーパ面が設けられている請求項1又は2に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項4】
前記凸部のテーパ面は、そのテーパ角度を45°以下とした請求項3に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項5】
前記凸部は、前記ローラ案内面の少なくともローラ接触位置に設けられている請求項1〜4のいずれか一項に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項6】
前記凸部は、前記ローラ案内面のローラ接触位置からラジアル方向両側へ1mm幅を有する領域に設けられている請求項1〜5のいずれか一項に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項7】
前記ローラは、アンギュラ接触により前記ローラ案内面と接触する請求項1〜6のいずれか一項に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項8】
前記ローラは、サーキュラ接触により前記ローラ案内面と接触する請求項1〜6のいずれか一項に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項9】
前記ローラは、前記脚軸に外嵌されたインナローラの外周側に配置されたアウタローラであり、前記インナローラの内周面は凸円弧状をなし、前記脚軸は、縦断面において継手の軸線と直交するストレート形状をなし、横断面において継手の軸線と直交する方向で前記インナローラの内周面と接触し、かつ、継手の軸線方向で前記インナローラの内周面との間に隙間が形成されている請求項1〜8のいずれか一項に記載のトリポード型等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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