説明

トリポード系等速自在継手

【課題】抜け止めを確実に行い、しかも、旋削加工を廃止してコスト低減を図る。
【解決手段】トリポード系等速自在継手は、大径部と小径部を円周方向に交互に配置して大径部の内側にトラック溝14を成し、各トラック溝14の両側壁をローラ案内面16とした外側継手部材10、ボス22とボス22から半径方向に突出したトラニオン26とからなる内側継手部材20、および、トラニオン26に回転自在に支持された状態でトラック溝14に収容されローラ案内面16に沿って転動可能なローラ30を備え、外側継手部材10の開口端部に断面U字状の抜け止めクリップ60を装着してローラ案内面16の側壁を挟み込ませることにより、向かい合ったローラ案内面16間の距離を外側継手部材10の開口端部で縮小させてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はトリポード系等速自在継手に関し、より詳しくは、トリポード系等速自在継手の抜け止め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種産業機械の動力伝達装置に使用される等速自在継手には、角度変位のみ可能な固定式と、角度変位のみならず軸方向変位(プランジング)も可能なしゅう動式に大別され、しゅう動式の一つにトリポード系がある。ここで、「トリポード」の語は3本のトラニオンを有することに由来するものであるところ、この発明は字義通りのトリポード型に限らず2本のトラニオンを有するいわゆるバイポッド型にも同様に適用できることから、「トリポード系」の語を用いたのはバイポッド型を排除しない趣旨である。
【0003】
従来のトリポード系等速自在継手では、外輪の開口端部に大丸サークリップや線材を折り曲げて形成した非円形のクリップを装着した抜け止め装置を採用している(たとえば特許文献1参照)。トリポード型の場合について図4〜6を参照して説明するならば次のとおりである。トリポード型等速自在継手は、図4および図5に示すように、外側継手部材としての外輪101と、内側継手部材としてのトリポード103と、トルク伝達要素としてのローラ105とを主要な構成要素としている。
【0004】
外輪101の内周には3本のトラック溝102が120度間隔で形成してある。トリポード103には120度間隔で3本の脚軸104が形成してあり、各脚軸104にローラ105が回転自在に取り付けてある。外輪101の内側にトリポード103を挿入し、ローラ105をトラック溝102に収容させる。ローラ105は球状の外周面109を有し、トラック溝102の両側に設けた部分円筒形のローラ案内面110で案内される。
【0005】
外輪101の外形は3弁の花冠状で、大径部の内側にトラック溝102が形成してある。小径部112は断面が凹円弧状で、内側に外輪101の開口端に近接してチャンファ113が設けてある。チャンファ113の大径端よりも開口端側に、外輪101の軸心に中心を有する部分円筒面114が形成してある。
【0006】
部分円筒面114には係合溝115が設けてある。係合溝115は直線状の溝底を有し、隣り合ったトラック溝102間で切り通してあり、両端がローラ案内面110に開口している。係合溝115にクリップ118を装着してトリポード103の抜け止めをする。クリップ118は図6に示すような形態で、3つの直線部119と3つの曲線部120を周方向に交互に形成し、1つの直線部119で切断したものである。
【0007】
クリップ118を装着するにあたっては、クリップ118の弾性変形を利用して、クリップ118の各直線部119を外輪101の係合溝115に挿入し、外輪101の開口端部の内側にクリップ118を装着する。このとき、クリップ118は拡径方向の弾力を保持しており、各直線部119は係合溝115の溝底を外側に向けて押圧し、一方、曲線部120はトラック溝102の円弧状内面117を外側に向けて押圧する。
【0008】
クリップ118を外輪101に装着した状態で、図5に符号121で示すように、各直線部119の両端部がローラ案内面110上に露出する。このため、トリポード103の脚軸104上のローラ105が外輪101の開口端に向けて移動すると、ローラ105が上記露出部分121と干渉し、これによりトリポード103の抜け止めがなされる。
【特許文献1】実開平10−194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
外輪の開口端部にクリップを装着する従来の抜け止め装置は、外輪に加工してクリップが収まる溝を設ける必要であるが、それには旋削加工しか方法がなかった。しかし、旋削加工をすれば当然それだけコストと時間がかかる。
そこで、この発明の主要な目的は、抜け止めを確実に行い、しかも、旋削加工を廃止してコスト低減を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、外輪に加工を施すことなく、外輪の開口端部に抜け止めクリップを装着して抜け止め装置を構成させることで課題を解決した。
【0011】
すなわち、この発明のトリポード系等速自在継手は、大径部と小径部を円周方向に交互に配置して大径部の内側にトラック溝を形成し、各トラック溝の両側壁をローラ案内面とした外輪、ボスと前記ボスから半径方向に突出したトラニオンとからなるトリポード、および、前記トラニオンに回転自在に支持された状態で前記トラック溝に収容され前記ローラ案内面に沿って転動可能なローラを備え、前記外輪の開口端部に断面U字状の抜け止めクリップを装着して前記ローラ案内面の側壁を挟み込ませることにより、向かい合ったローラ案内面間の距離を外輪の開口端部で縮小させたことを特徴とするものである。
【0012】
1つのトラック案内面につき1つの抜け止めクリップを装着するほか、1つのトラック溝につき1つの抜け止めクリップを装着してもよい。
【0013】
抜け止めクリップのトラック溝側への突出量は、外輪の開口側から奥側にいくほど漸減するのが好ましい。この場合、抜け止めクリップのエッジがローラに当たってローラにきずをつける心配がない。また、抜け止めクリップの面が斜面となるため、ローラと接触すると抜け止めクリップに外向きの分力、すなわち、抜け止めクリップをローラ案内面に押し付ける力が発生して、抜け止めクリップが外輪から抜けにくくなるという利点もある。
【0014】
抜け止めクリップの厚さを例示するならば0.3〜1mmが好適である。すなわち、たとえば板材をプレス成形することにより抜け止めクリップを製造する場合、板厚が0.3mmを下回ると強度や剛性の面から抜け止めクリップに要求される機能を十分に満足することができなくなり、逆に1mmを越えるとプレス成形が難しくなる。
【0015】
抜け止めクリップの材料としては、ステンレス鋼、ばね鋼、鉄、アルミニウム、プラスチック等が挙げられる。この抜け止めクリップに求められる主要な機能はローラの抜け止めであることから、要求される抜け力に応じて、適当な材料を選択して採用する。
【0016】
抜け止めクリップの上にブーツを被せてその上からブーツバンドで締め付けるようにしてもよい。これにより、抜け止めクリップが外輪から脱落しにくくなるため、一層確実な抜け止め効果が得られる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、外輪のわずらわしい溝加工が廃止できるため、コスト低減が可能となる。さらに、抜け止めクリップは形状が単純で、かつ、円周上に3〜6箇所はめるだけで簡単に取り付けられる。このように、抜け止めクリップを使用することで、確実に抜け止め効果を発揮し、しかも溝加工の必要がなくなるので原価低減が可能となる。さらに、この方法を採用すれば、抜け止めクリップの形状が簡素であるため、外輪トラックに3〜6箇所はめるだけでよいため作業が簡略である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、トリポード型等速自在継手の場合を例にとり、図面に従ってこの発明の実施の形態を説明する。図1に示すように、トリポード型等速自在継手は、外側継手部材としての外輪10と、内側継手部材としてのトラニオン20と、トルク伝達要素としてのローラ30とを主要な構成要素としている。
【0019】
外輪10はマウス部12とステム部18とからなり、ステム部18のスプライン(またはセレーション。以下、同じ。)軸部で、駆動軸または従動軸とトルク伝達可能に接続するようになっている。マウス部12はカップ状で、内周面の円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝14が形成してある。トラック溝14の側壁を形成している面がローラ案内面16となる。
【0020】
トリポード20はボス22とトラニオン26とからなり、ボス22の軸心部分に形成したスプライン穴24で、従動軸または駆動軸とトルク伝達可能に接続するようになっている。ここではシャフト40のスプライン軸部42と嵌め合わせた例を示してある。シャフト40の端部に形成した止め輪溝44に止め輪46を装着して抜け止めをしてある。したがってボス22は、シャフト40の先端側への移動は止め輪46によって阻止され、その反対側への移動はスプライン軸42の切り上がり部と当接することで阻止される。
【0021】
トラニオン26はボス22の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。各トラニオン26は円筒形状で、ローラ30を回転自在に支持させてある。トラニオン26とローラ30との間に針状ころ32が総ころ状態で組み込んであり、トラニオン26の円筒形外周面が針状ころ32のための内側軌道面となり、ローラ30の円筒形内周面が針状ころ32のための外側軌道面となる。
【0022】
針状ころ32の両端側に、インナワッシャ34とアウタワッシャ36が配置してある。また、トラニオン26の先端付近に形成した環状溝28にサークリップ38を装着してある。アウタワッシャ36は、トラニオン26の半径方向に延びた円盤部と、トラニオン26の軸線方向に延びた円筒部とからなる。環状溝28に装着した状態のサークリップ38の外径はアウタワッシャ36の円盤部の内径より大きいため、トラニオン26の軸端側へのアウタワッシャ36の移動が規制される(抜け止め)。アウタワッシャ36の円筒部の外径は針状ころ列32の外接円と同じかわずかに小さいため、針状ころ32の抜け止めが行われる。また、アウタワッシャ36の円筒部の外径はローラ30の内径より小さく、端部がローラ30の内径よりも大きく拡大している。したがって、ローラ30はトラニオン26の軸線方向に一定程度だけ移動することができる。
【0023】
ローラ30は外輪10のトラック溝14に収容され、トラック溝14内で、ローラ案内面16上を転動して外輪10の軸方向に移動可能である。トリポード型等速自在継手は角度変位だけでなく軸方向変位(プランジング)も可能なしゅう動型等速自在継手であるため、継手が作動角をとって回転するとき、ローラ30はトラック溝14に沿って転動して外輪10の軸方向に往復動する。
【0024】
トリポード型等速自在継手にあっても、内部に充填した潤滑グリースが洩れるのを防止し、かつ、外部から水や異物が侵入するのを防止するため、ブーツ50を装着して使用するのが一般的である。ブーツ50はゴムやプラスチックといった可撓性材料で成形される。大径部52を外輪10の開口端部のブーツ溝19に取り付け、小径部54をシャフト40のブーツ溝48に取り付け、それぞれ、ブーツバンド58、59で締め付ける。大径部52と小径部54とは中間の蛇腹部56によって連結されるが、蛇腹部56の形状や寸法は材料、当該継手の作動角等を勘案して設定される。
【0025】
次に、図1および図2を参照すると、外輪10の開口端部に抜け止めクリップ60が取り付けてある。抜け止めクリップ60は、図3に示すように、たとえばばね鋼板を断面U字状ないしJ字状に折り曲げたような形態で、溝62をはさんで向かい合った一対の矩形片64、68からなり、溝62の幅が増減する方向にある程度の弾性変形が可能である。外輪10に装着した状態でトラック溝14側を臨む矩形片64の面は図示するように斜面となっている。外輪10の開口端部側から、ローラ案内面16部分に、抜け止めクリップ60の溝62が広がる向きに弾性変形させて、挟み込んで装着する。
【0026】
さらに、ブーツ50の大径部52を外輪10のブーツ溝19に取り付ける際、すでに装着してある抜け止めクリップ60の上に大径部52を被せて、その上からブーツバンド58で締め付けて固定する。
【0027】
抜け止めクリップ60を取り付けることにより、外輪10の開口端部における、トラック溝14のローラ案内面16間の距離が縮小する。一般に、ローラ案内溝16間の距離はローラ30の外径よりわずかに大きい程度である。したがって、抜け止めクリップ60を取り付けた結果、ローラ案内面16間の距離がローラ30の外径よりも小さくなり、ローラ30が外輪10の開口端部から抜け出そうとすると干渉し、抜け止めをする。
【0028】
抜け止めクリップ60の材料を例示するならば、ステンレス鋼、ばね鋼、鉄、アルミニウム、プラスチック等々である。
また、抜け止めクリップ60の厚さは0.3〜1mm程度が好ましい。
【0029】
各トラック溝14は2つのローラ案内面16を有することから、ローラ案内面1つにつき1つの抜け止めクリップ60を装着するという場合、各トラック溝14には2つの抜け止めクリップ60があることになる。抜け止めクリップ60の材料や厚さなどにもよるが、ローラと干渉して抜け止めを果たせる限り、1つのトラック溝14に1つの抜け止めクリップ60を装着することで足る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例を示すトリポード型等速自在継手の縦断面図である。
【図2】図1の継手のローラの軸線に垂直な部分断面拡大図である。
【図3】抜け止めクリップの斜視図である。
【図4】従来のトリポード型等速自在継手の端面図である。
【図5】一部を断面にした端面図である。
【図6】外輪とクリップの斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
10 外輪(外側継手部材)
12 マウス部
14 トラック溝
16 ローラ案内面
18 ステム部
19 ブーツ溝
20 トリポード(内側継手部材)
22 ボス
24 スプライン穴
26 トラニオン
28 環状溝
30 ローラ(トルク伝達要素)
32 針状ころ
40 シャフト
42 スプライン軸
44 止め輪溝
46 止め輪
48 ブーツ溝
50 ブーツ
52 大径部
54 小径部
56 蛇腹部
58 大径ブーツバンド
59 小径ブーツバンド
60 抜け止めクリップ
62 溝
64 矩形片
66 斜面
68矩形片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大径部と小径部を円周方向に交互に配置して大径部の内側にトラック溝を形成し、各トラック溝の両側壁をローラ案内面とした外輪、ボスと前記ボスから半径方向に突出したトラニオンとからなるトリポード、および、
前記トラニオンに回転自在に支持された状態で前記トラック溝に収容され前記ローラ案内面に沿って転動可能なローラを備え、前記外輪の開口端部に断面U字状の抜け止めクリップを装着して前記ローラ案内面の側壁を挟み込ませることにより、向かい合ったローラ案内面間の距離を外輪の開口端部で縮小させたトリポード系等速自在継手。
【請求項2】
1つのトラック案内面につき1つの抜け止めクリップを装着した請求項1のトリポード系等速自在継手。
【請求項3】
1つのトラック溝につき抜け止めクリップを1つ装着した請求項1のトリポード系等速自在継手。請求項1または2のトリポード系等速自在継手。
【請求項4】
抜け止めクリップのトラック溝側への突出量は、外輪の開口側から奥側にいくほど漸減している請求項1、2または3のトリポード系等速自在継手。
【請求項5】
抜け止めクリップの厚さは0.3〜1mmである請求項1から4のいずれか1項のトリポード系等速自在継手。
【請求項6】
抜け止めクリップの材料はステンレス鋼、ばね鋼、鉄、アルミニウム、プラスチックである請求項1から5のいずれか1項のトリポード系等速自在継手。
【請求項7】
抜け止めクリップの上にブーツを被せてその上からブーツバンドで締め付ける請求項1から6のいずれか1項のトリポード系等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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