説明

トリミング方法及びトリミング装置

【課題】ワークに付着したバリ部分をトリミングする際に、バリ部分とワークとの間の断面に引張応力を付与し、剪断破壊以外に破断によってバリ部分をワークから除去することにより、剪断に必要な荷重を抑制し、ワークの変形量を抑えることが可能となる、トリミング方法及びトリミング装置を提供する。
【解決手段】トリミング装置10は、押金12と切刃21とを備え、ワークWに付着したバリ部分Bを押金12と切刃21との間に配置した状態で、切刃21でバリ部分Bを押圧して剪断することにより、ワークWからバリ部分Bを除去するものであって、切刃21と押金12とでバリ部分Bを剪断する際に、バリ部分Bを切刃21の方向に折り曲げ、バリ部分BとワークWとの間の断面に引張応力σ2を発生させて、バリ部分BをワークWから破断させる押圧部25を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリミング方法及びトリミング装置に関し、具体的には、ワークに付着したバリ部分をワークから除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、押金と、押金に対して近接離間する切刃と、を備え、ワークに付着したバリ部分を押金と切刃との間に配置した状態で、切刃を押金に対して近接させてバリ部分を剪断することにより、ワークからバリ部分を除去するトリミング技術が知られており、これについて開示する文献も存在する(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
前記のようなトリミング技術においては、バリ部分に凹み部を形成する突起部を刃物型に設けることによりバリ部分の除去精度を向上させる技術(例えば、特許文献2を参照)や、トリム加工を行う際にバリを挟み込んでトリミングする技術(例えば、特許文献3を参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−241347号公報
【特許文献2】特開2000−197945号公報
【特許文献3】特開平11−192528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のようなトリミング技術においては、ワークの変形量を抑えるために、バリ部分をワークから除去する際に、剪断破壊を行うだけではなく、トリミング時にバリ部分とワークとの間の断面に引張応力を発生させて破断させることも可能である。
しかし、特許文献1に記載のトリミング技術では、トリミング時にバリ部分とワークとの間の断面に圧縮応力のみが発生し、ワークの変形量が大きくなって製品精度が低下する場合があった。
【0006】
具体的には図4に示す如く、ワークに付着したバリ部分を押金と切刃との間に配置した状態で、切刃を押金に対して近接させ、矢印f01のように押金でワークを押圧し、矢印f02のように切刃でバリ部分を押圧した際に、矢印Uの如くバリ部分が切刃に跳ね上げられる。このため、トリミング時にバリ部分とワークとの間の断面に、矢印σ0の如く圧縮応力が主に発生するため、主に剪断によってトリミングが行われることとなる。換言すれば、バリ部分とワークとの間の断面の大部分が剪断破壊される剪断領域となり、破断領域が少なくなるのである。その結果、剪断に必要な荷重をワークに加える必要があることから、荷重が大きくなって図4中の二点鎖線の如くワークの変形量が大きくなるのである。
【0007】
一方、特許文献2に記載のトリミング技術は、鍛造部品の変形の原因となる材料流動を抑制するために、トリミング時にバリ部分に突起部を押込むことで、バリ部分とワークとの間の断面に生じる引張応力を減少させるものである。つまり、トリミング時のバリ部分における引張応力が減少するため、剪断に必要な荷重を低減させてワークの変形量を抑止することはできなかった。
【0008】
また、特許文献3に記載のトリミング技術においては、トリミング時にバリを挟み込む構成は製品の安定性や位置決め精度の向上を目的としてなされている。つまり、トリミング時のバリ部分における引張応力を付与するものではないため、剪断に必要な荷重を低減させてワークの変形量を抑止することはできなかった。
【0009】
本発明は、ワークに付着したバリ部分をトリミングする際に、バリ部分とワークとの間の断面に引張応力を付与し、剪断破壊以外に破断によってバリ部分をワークから除去することにより、剪断に必要な荷重を抑制し、ワークの変形量を抑えることが可能となる、トリミング方法及びトリミング装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1においては、押金と、該押金に対して近接離間する切刃と、を備えたトリミング装置で、ワークに付着したバリ部分を前記押金と前記切刃との間に配置した状態で、前記押金で前記ワークを押圧し、前記切刃を前記押金に対して近接させ、前記切刃で前記バリ部分を押圧して剪断することにより、前記ワークから前記バリ部分を除去するトリミング方法であって、前記切刃と前記押金とで前記バリ部分を剪断する際に、前記バリ部分を前記切刃の方向に折り曲げ、前記バリ部分と前記ワークとの間の断面に引張応力を発生させて、前記バリ部分を前記ワークから破断させるものである。
【0012】
請求項2においては、押金と、該押金に対して近接離間する切刃と、を備え、ワークに付着したバリ部分を前記押金と前記切刃との間に配置した状態で、前記押金で前記ワークを押圧し、前記切刃を前記押金に対して近接させ、前記切刃で前記バリ部分を押圧して剪断することにより、前記ワークから前記バリ部分を除去するトリミング装置であって、前記切刃と前記押金とで前記バリ部分を剪断する際に、前記バリ部分を前記切刃の方向に折り曲げ、前記バリ部分と前記ワークとの間の断面に引張応力を発生させて、前記バリ部分を前記ワークから破断させる押圧機構を備えるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0014】
本発明により、ワークに付着したバリ部分をトリミングする際に、バリ部分とワークとの間の断面に引張応力を付与し、剪断破壊以外に破断によってバリ部分をワークから除去することにより、剪断に必要な荷重を抑制し、ワークの変形量を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)はトリミングの対象であるワーク及びバリ部分を示した平面図、(b)はワークから除去されたバリ部分を示した平面図。
【図2】(a)、(b)はそれぞれ、図1(a)中のX−X断面に対応するトリミング装置及びワークのトリミング前及びトリミング中の断面図。
【図3】図2(b)中のα部分の拡大断面図。
【図4】従来技術に係るトリミング技術におけるバリ部分の剪断状態を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0017】
[トリミング装置10]
まず、図1及び図2を用いて、本発明の一実施形態に係るトリミング装置10について説明する。
図1(a)はトリミング装置10(図2(a)を参照)におけるトリミングの対象であるワークW、及び、ワークWに付着したバリ部分Bを示した平面図である。
【0018】
本実施形態におけるワークWは熱間鍛造によって、加熱工程や成形工程などを経て成形した4気筒型のクランクシャフトである。ただし、本発明は鍛造品だけでなく、鋳造品など他の金属製部材や樹脂整形品のように、バリ部分が発生する部材であればトリミングの対象であるワークWとして適用することが可能である。
【0019】
バリ部分BはワークWの周囲に、ワークWの厚み方向(図1(a)における紙面奥行方向)に所定の厚みをもって形成されている(図2(a)を参照)。そして、トリミング装置10によってトリミングされ、バリ部分Bのみを残してワークWが打ち抜かれる(図2(b)を参照)。
【0020】
図2(a)、(b)はそれぞれ、図1(a)中のX−X断面に対応するトリミング装置10及びワークWのトリミング前及びトリミング中の断面図である。
トリミング装置10は、図示しない治具を介してワークWを載置し、固定するためのベース部11と、ワークWを上方から押圧するための押金12と、バリ部分Bを下方から押圧して剪断するための切刃21と、バリ部分Bを下方に押圧して折り曲げるための押圧機構である押圧部25と、を備える。これらの押金12、切刃21、及び押圧部25は、それぞれが油圧などにより駆動する図示しない駆動機構に配設されており、図2(a)及び(b)に示す如く独立して上下動可能に構成されている。つまり、切刃21は押金12に対して近接離間するように構成されている。
【0021】
切刃21は図1(a)に示すワークWの平面視における外形と略同形状に形成されており、切刃21がバリ部分Bに押圧され、バリ部分Bが剪断されることにより、図1(b)の如くワークWがその形状に打ち抜かれる。なお、本実施形態においては押金12をトリミング装置10の上側に、切刃21を下側に配設する構成としているが、その配置形態を上下逆とすることも可能である。また、切刃21はワークWの周囲に断続的に配置する構成とすることもできる。
【0022】
トリミング装置10でワークWからバリ部分Bをトリミングする際には、まず、バリ部分Bが付着したワークWをベース部11に載置し、図2(a)の如くバリ部分Bを押金12と切刃21との間に配置する。そして、図2(a)中の矢印aに示す如く押金12をワークWに近接させて、押金12でワークWをベース部11の側へ押圧する。さらに、図2(a)中の矢印bに示す如く、切刃21を押金12に対して近接させて、切刃21でバリ部分Bを押圧して剪断し、ワークWからバリ部分Bを除去するのである。
【0023】
本実施形態に係るトリミング装置10は、切刃21と押金12とでバリ部分Bを剪断する際にバリ部分Bを下方に折り曲げる押圧部25をさらに備えている。具体的には図2(b)中の矢印cに示す如く、切刃21と押金12とでバリ部分Bを剪断する際に、バリ部分Bを切刃21の方向である下方に押圧するのである。
【0024】
なお、押圧部25は、既存設備であるバリストッパーを用いることが可能である。この場合は、押圧部25を配設するために新たな設備や型を追加する必要がなく、コストを低く抑えることができる。
【0025】
より詳細には、押金12でワークWを押圧(図3中の矢印F11)し、切刃21でバリ部分Bを押圧(図3中の矢印F12)して剪断する際に、図3中の矢印F13に示す如く押圧部25でバリ部分Bを下方に押圧するのである。押圧部25の先端部分は、バリ部分Bの外側(図3における左側)が低くなるテーパ形状に形成されている。
【0026】
これにより、バリ部分BとワークWとの間の断面のうち下側には、矢印σ1の如く圧縮応力が発生するとともに、断面のうち上側には、矢印σ2の如く引張応力が発生する。このため、断面の下側は、圧縮応力が発生してバリ部分BとワークWとの間の断面が剪断破壊される剪断領域となる一方で、断面の上側は、引張応力が発生して破断する破断領域となる。
【0027】
つまり、押圧部25は、切刃21と押金12とでバリ部分Bを剪断する際に、バリ部分Bを切刃21の方向に折り曲げることで、バリ部分BとワークWとの間の断面に引張応力を発生させて、バリ部分BをワークWから破断させるのである。このとき、押圧部25の先端部分がテーパ形状であるため、バリ部分BとワークWとの間の断面に加わるモーメントが大きくなり、引張応力が効果的に発生するのである。
【0028】
換言すれば、本実施形態に係るトリミング方法においては、切刃21と押金12とでバリ部分Bを剪断する際に、バリ部分Bを切刃21の方向に折り曲げ、バリ部分BとワークWとの間の断面に引張応力を発生させて、バリ部分BをワークWから破断させるのである。
【0029】
本実施形態においては上記の如く構成することにより、ワークWを剪断する際に必要な荷重を小さく抑えることができるため、ワークWの変形量を小さく抑制し、製品であるクランクシャフトの成形精度を向上させることが可能となる。
【0030】
具体的には図3に示す如く、切刃21を押金12に対して近接させ、矢印F12のように切刃21でバリ部分Bを押圧しても、押圧部25がバリ部分Bを下方に押し下げるため、バリ部分Bが従来技術のように跳ね上げられることがない。さらに、トリミング時にバリ部分BとワークWとの間の断面に、矢印σ2の如く引張応力が発生するため、破断をより早いタイミングで発生させてバリ部分BをワークWから除去することができるのである。つまり、剪断に必要な荷重を低減させてワークWの変形量を抑止することが可能となるのである。
【0031】
上記の如く、本実施形態に係るトリミング装置10によれば、ワークWに付着したバリ部分Bをトリミングする際に、バリ部分BとワークWとの間の断面に、積極的に引張応力を付与し、剪断破壊以外に破断を促進させることによってバリ部分BをワークWから除去している。これにより、バリ部分Bの剪断に必要な荷重を抑制し、ワークWの変形量を抑えることが可能となるのである。
【0032】
さらに、このようにワークWの変形量を抑制することで、後工程である機械加工工程において、バランス修正加工量を低減させることができる。つまり、機械加工の処理時間を短縮することで、加工コストを低減させることが可能となる。また、バランス修正加工を見込んで製品設計をする必要がなくなるため、製品を軽量化することが可能となるのである。
【符号の説明】
【0033】
10 トリミング装置
12 押金
21 切刃
25 押圧部
W ワーク
B バリ部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押金と、該押金に対して近接離間する切刃と、を備えたトリミング装置で、ワークに付着したバリ部分を前記押金と前記切刃との間に配置した状態で、前記押金で前記ワークを押圧し、前記切刃を前記押金に対して近接させ、前記切刃で前記バリ部分を押圧して剪断することにより、前記ワークから前記バリ部分を除去するトリミング方法であって、
前記切刃と前記押金とで前記バリ部分を剪断する際に、前記バリ部分を前記切刃の方向に折り曲げ、前記バリ部分と前記ワークとの間の断面に引張応力を発生させて、前記バリ部分を前記ワークから破断させる、ことを特徴とする、トリミング方法。
【請求項2】
押金と、該押金に対して近接離間する切刃と、を備え、ワークに付着したバリ部分を前記押金と前記切刃との間に配置した状態で、前記押金で前記ワークを押圧し、前記切刃を前記押金に対して近接させ、前記切刃で前記バリ部分を押圧して剪断することにより、前記ワークから前記バリ部分を除去するトリミング装置であって、
前記切刃と前記押金とで前記バリ部分を剪断する際に、前記バリ部分を前記切刃の方向に折り曲げ、前記バリ部分と前記ワークとの間の断面に引張応力を発生させて、前記バリ部分を前記ワークから破断させる押圧機構を備える、ことを特徴とする、トリミング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−107118(P2013−107118A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255587(P2011−255587)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】