説明

トリム吸引装置のピッチ付着防止装置

【課題】トリム吸引装置がピッチ類により目詰してしまうことを防止して、トリムがプレスパートに随伴されてしまうことを防止するトリム吸引装置のピッチ付着防止装置を提供する。
【解決手段】ワイヤに伴われて走行する湿紙のトリムに臨ませて配されたトリム吸引装置6の吸引長孔6aや吸引筐体に洗浄水を供給する洗浄水主配管12に、ピッチコントロール剤タンク21から添加ポンプ23によりピッチコントロール剤を給送するピッチコントロール剤配管22を接続させて、洗浄水にピッチコントロール剤を添加する。したがって、トリム吸引装置6が洗浄される際に、ピッチコントロール剤が吹き付けられて、湿紙Pから吸引されたピッチ類はその粘着性を減殺され、トリム吸引装置6に付着することがなく、吸引長孔6aが目詰まりすることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、抄紙機のワイヤーパートを走行するワイヤ上に形成された湿紙の両端部のトリムがプレスパートに随伴されることを防止するために設けられるトリム吸引装置の円滑な動作を確保すべく、該トリム吸引装置にピッチが付着することを防止するトリム吸引装置のピッチ付着防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図5に製紙工程に用いられる抄紙機1の一例について概略の構成を示してあり、ヘッドボックス2からワイヤパート3を走行するワイヤ3aに供給された製紙原料は、ワイヤ3aと共に走行する間に脱水されて紙層を形成し、後続のプレスパート4に供給され極力搾水されて水分が除去された後、ドライパート5へ給送され、乾燥されて、長尺のシート状の紙が製造されるものである。前記ワイヤパート3において形成される湿紙の幅員は、製品として所望されるシート状の紙の幅員よりも大きくなるようにしてあり、このワイヤパート3から前記プレスパート4へ給送されるに先立って、走行方向と直交する方向の両端部の耳部(トリム)がノズルから噴射される切断水等の噴射力で切断され、湿紙の両端部が整えられた状態にしてプレスパート4へ給送される。切断されたトリムは、ワイヤパート3の最後部に配されて矢標で示す方向に回転するドライブロール3bから、該ドライブロール3bの下方に配設された図示しないピットに落下させて回収されるようにしてある。
【0003】
ワイヤパート3からプレスパート4へ湿紙が移行するためには、該湿紙がプレスパート4の入口に配されて矢標で示す方向に回転するピックアップロール4aにより吸引されることにより行われる。このとき、前記トリムがピックアップロール4aに吸引されてしまっては、該トリムもプレスパート4へ随伴されてしまい不都合となる。なお、ピックアップロール4aの吸引領域はトリムを臨むことがないように配されているが、トリムの切断が不完全である場合にはピックアップロール4aに吸引された湿紙から切り離されずに随伴され、以後は連続してプレスパート4へ随伴されてしまうおそれがある。
【0004】
このため、特許文献1には、ピックアップロールの対向側にトリム吸引装置を設置し、カッター装置で切り取ったトリムを吸引装置にて吸引し、トリムをプレスパートに移行させないようにした用紙の製造方法が開示されている。すなわち、ワイヤ3aから湿紙が剥離される位置には、前記ピックアップロール4aを臨んで吸引装置であるトリム吸引装置が設けられている。図3及び図4は、このトリム吸引装置6の概略を示すもので、図3は側面図であり、図4は平面図である。ワイヤ3aがピックアップロール4aに臨む位置まで走行すると、該ワイヤ3a上の湿紙Pがピックアップロール4aにより吸引されてピックアップロール4aに移行する。また、図4に示すように湿紙PのトリムTの部分に臨ませて、ワイヤ3aの裏面側に前記トリム吸引装置6が配されている。トリム吸引装置6は、図4に示すように、複数本の吸引長孔6aが形成された吸引筐体6bを備えて、該吸引筐体6bを介して吸引長孔6aから外部空気を吸引するようにしてある。このため、ワイヤ3aの該吸引長孔6aを臨んだ部分が吸引され、この部分に形成されている湿紙Pの部分、すなわちトリムTが吸引され、ピックアップロール4aの吸引力によっても該トリムTが吸引されずに、ワイヤ3a上に残存することになる。これにより、トリムTはワイヤ3aと共にドライブロール3bに給送され、ドクターブレード等の図示しない剥離手段によりワイヤ3aの表面から剥離されて、図示しないピットに落下して回収されるようにしてある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−308068
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記トリム吸引装置6は前述したように、吸引長孔6aからワイヤ3aを挟んで反対側、すなわちワイヤ3aの表面に存しているトリムTを吸引してワイヤ3aの表面に保持させるから、ワイヤ3aの網目を通して湿紙等が吸引されて前記吸引筐体6b内に排出され、更に吸引されてスクリーン等により捕捉され回収される。吸引された湿紙等には、製紙原料となる木材が含有する樹脂等の天然系不純物であるピッチが、あるいは古紙や損紙等に付着している接着剤やラテックス等の合成系不純物が含まれており、これらピッチ類は粘着性を有しているため、前記吸引長孔6aを通過する際に、一部が該吸引長孔6aの壁面に付着し、徐々に増大して吸引長孔6aを目詰まりさせて閉塞させてしまうおそれがある。吸引長孔6aが閉塞されてしまうと、トリムTをワイヤ3aに吸着させることができなくなり、該トリムTが前記ピックアップロール4aに移行してしまうおそれが生じる。
【0007】
このため、吸引長孔6aにおける目詰まりを防止するために、吸引長孔6aや吸引筐体6b内にピッチが付着しないように、洗浄水をシャワーにより噴射してピッチを除去するようにしている。
【0008】
しかしながら、前記シャワーによる噴水のみでは、十分にピッチを洗い流すことができず、トリムTがピックアップロール4aへ移行することを十分に防止できなかった。
【0009】
そこで、この発明は、トリム吸引装置の吸引長孔や吸引筐体内にピッチが付着してしまうことを極力防止して、トリム吸引装置の作用の持続を図って、トリムがワイヤの表面から剥離することがないようにしたトリム吸引装置のピッチ付着防止装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するための技術的手段として、この発明に係るトリム吸引装置のピッチ付着防止装置は、ワイヤ上を走行する湿紙のトリムをプレスパートのピックアップロールに移行させないよう、ワイヤ上から剥離することを防止するトリム吸引装置に湿紙のピッチが付着することを防止するトリム吸引装置のピッチ付着防止装置において、前記トリム吸引装置の吸引孔に洗浄水を噴射する吸引口洗浄ノズルと、前記トリム吸引装置の吸引面に洗浄水を噴射する吸引面洗浄ノズルと、前記トリム吸引装置の前記吸引孔に連通した吸引筐体の内部に洗浄水を噴射する内部洗浄ノズルとを設け、前記それぞれのノズルから噴射される洗浄水にピッチコントロール剤を添加したことを特徴としている。
【0011】
前記ピッチコントロール剤は、製紙原料が含有しているピッチ類のピッチ粒子に付着したり、ピッチ類を溶解し、あるいは加水分解して、ピッチ類の粘着性を低下させることにより、吸引長孔の壁面等に付着することを防止する。このピッチコントロール剤をトリム吸引装置の洗浄水に添加することによって、トリム吸引装置に浸入するピッチ類から粘着性を減殺し、トリム吸引装置に吸引される際に、吸引長孔の壁面や吸引筐体の内部、吸引筐体の外壁面等に付着することを防止する。なお、ピッチコントロール剤としては、例えば、界面活性剤やキレート剤、硫酸バンドなどを用いることができる。
【0012】
また、請求項2の発明に係るトリム吸引装置のピッチ付着防止装置は、前記ピッチコントロール剤を、前記洗浄水の給水径路のうちの主径路に、該ピッチコントロール剤の供給径路を接続させることにより、洗浄水にピッチコントロール剤を添加することを特徴している。
【0013】
ピッチコントロール剤を洗浄水に添加するには、例えば、洗浄水のタンク内に添加して、これを洗浄水ポンプでトリム吸引装置に各ノズルから噴射させるようにすることができる。しかし、ピッチコントロール剤の添加量を、湿紙の状態等に応じて微調整しながら噴射することができず、ピッチコントロール剤の不足や余剰を発生してしまうおそれがある。このため、洗浄水の供給径路の途中にピッチコントロール剤を添加するようにしたものである。これにより、ピッチコントロール剤の添加量を容易に調整することができ、湿紙の状態等に迅速に対応することができる。なお、トリム吸引装置は湿紙の両端部に対応して配されているから、洗浄水のタンクに通じる主径路から、それぞれのトリム吸引装置に通じる枝径路に分岐するため、それぞれの枝径路にピッチコントロール剤を添加することもできる。しかし、湿紙はワイヤ上に一様に拡散するため、両端部でほぼ等しい状態にあるから、それぞれのトリム吸引装置への洗浄水に対するピッチコントロール剤の添加量を等しくしても十分に作用させることができる。
【発明の効果】
【0014】
洗浄水と共にトリム吸引装置にピッチコントロール剤が噴射されるから、トリム吸引装置にピッチが付着することが防止される。このため、吸引孔が閉塞されてしまうことがなく、トリム吸引装置の機能に支障を生じない。したがって、トリムがプレスパートへ給送されてしまうことがなく、抄紙機の円滑な運転が阻害されることがない。
【0015】
また、請求項2の発明に係るトリム吸引装置のピッチ付着防止装置によれば、ピッチコントロール剤の添加量を迅速に調整できる。このため、トリムがピックアップロールへ移行してしまうことを湿紙の状態等に応じて確実に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図示した好ましい実施の形態に基づいて、この発明に係るトリム吸引装置のピッチ付着防止装置を具体的に説明する。なお、図3〜図5に示す構造と同一の部位については同一の符号を付してある。
【0017】
図1はこの発明に係るピッチ付着防止装置を備えたトリム吸引装置に対する配管径路を示す概略図で、洗浄水タンク11とピッチコントロール剤タンク21とを備えている。洗浄水タンク11から給水径路を構成する主径路である洗浄水主配管12が配されており、洗浄水ポンプ13により洗浄水タンク11に貯留されている洗浄水が洗浄水主配管12に給送される。洗浄水主配管12は、配管途中で、湿紙Pのそれぞれの端部のトリムTに対して配されたトリム吸引装置6に洗浄水を供給する洗浄水枝配管12a、12bに分岐されている。
【0018】
また、前記ピッチコントロール剤タンク21にはピッチコントロール剤配管22が配されており、添加ポンプ23によりピッチコントロール剤タンク21に貯留されているピッチコントロール剤が前記ピッチコントロール剤配管22に給送される。このピッチコントロール剤配管22は、前記洗浄水主配管12に接続されており、洗浄水枝配管12a、12bの分岐部の上流側で、ピッチコントロール剤が洗浄水主配管12内を流通している洗浄水に添加されるようにしてある。
【0019】
図2はトリム吸引装置6の要部の概略を示す斜視図であり、一対のトリム吸引装置6のうちの一方のみを示している。前記洗浄水枝管12a、12bのそれぞれは、吸引筐体6bの内部に洗浄水を噴射する該内部に配された内部洗浄ノズルに至る内部洗浄水管13aと、吸引口としての吸引長孔6aに向けて洗浄水を噴射する吸引口洗浄ノズルに至る吸引口洗浄水管13bと、トリム吸引装置6の吸引面に向けて洗浄水を噴射する吸引面洗浄ノズル14に至る吸引面洗浄水管13cとに分岐している。なお、前記内部洗浄ノズルは吸引筐体6bの内部に配されており、前記吸引口洗浄ノズルは、吸引長孔6aの長手方向の長さを調整するために該吸引長孔6a内を摺動可能に配されている空洞の長孔調整スライダ6cの内部に配されている。なお、前記吸引筐体6bの内部は、図示しないブロワー等に接続された吸引管6dから吸引されている。
【0020】
また、洗浄水ポンプ13の吐出側には流量調節弁15が配されており、洗浄水の供給量が調整される。また、必要に応じてそれぞれの配管にはホースなどによるフレキシブルな管路16が配されている。なお、洗浄水は、例えば、ワイヤロール潤滑用のシャワー用17やトップデッケル用のシャワー用18等にも用いられるように配管されている。
【0021】
以上により構成されたこの発明に係るトリム吸引装置のピッチ付着防止装置では、トリム吸引装置6の洗浄水にその洗浄水主配管12にピッチコントロール剤を添加することにより、トリム吸引装置6に噴射される洗浄水にはピッチコントロール剤が添加されている。このため、トリム吸引装置6によって吸引される湿紙Pに含有されているピッチ類はその粘着性が減殺される。したがって、ピッチ類がトリム吸引装置6に付着することがなく、トリム吸引装置6による湿紙PのトリムTの吸引作用が損なわれることがなくなるものである。
【0022】
なお、ピッチコントロール剤としては、界面活性剤やキレート剤、硫酸バンド等、湿紙Pの状態等に応じて種々のものを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
この発明に係るトリム吸引装置のピッチ付着防止装置によれば、トリム吸引装置にピッチ類が付着することを確実に防止することができるので、トリムがプレスパートへ移行することが防止され、抄紙機の運転の円滑化に寄与して、製紙工場における操業の安定化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明に係るピッチ付着防止装置を備えたトリム吸引装置に対する配管径路示す概略図である。
【図2】トリム吸引装置の構造を説明する要部の概略斜視図である。
【図3】トリム吸引装置の作用を説明するための、ワイヤパートの後端部の概略側面図である。
【図4】トリム吸引装置と湿紙の関係を説明する概略の平面図である。
【図5】製紙工程に用いられる代表的な抄紙機の概略の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
P 湿紙
T トリム
1 抄紙機
3 ワイヤパート
3a ワイヤ
3b ドライブロール
4 プレスパート
4a ピックアップロール
6 トリム吸引装置
6a 吸引長孔(吸引孔)
6b 吸引筐体
6c 長孔調整スライダ
6d 吸引管
11 洗浄水タンク
12 洗浄水主配管
12a 洗浄水枝配管
12b 洗浄水枝配管
13 洗浄水ポンプ
14 吸引面洗浄ノズル
15 流量調節弁
21 ピッチコントロール剤タンク
22 ピッチコントロール剤配管
23 添加ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ上を走行する湿紙のトリムをプレスパートのピックアップロールに移行させないよう、ワイヤ上から剥離することを防止するトリム吸引装置に湿紙のピッチが付着することを防止するトリム吸引装置のピッチ付着防止装置において、
前記トリム吸引装置の吸引孔に洗浄水を噴射する吸引口洗浄ノズルと、
前記トリム吸引装置の吸引面に洗浄水を噴射する吸引面洗浄ノズルと、
前記トリム吸引装置の前記吸引孔に連通した吸引筐体の内部に洗浄水を噴射する内部洗浄ノズルとを設け、
前記それぞれのノズルから噴射される洗浄水にピッチコントロール剤を添加したことを特徴とするトリム吸引装置のピッチ付着防止装置。
【請求項2】
前記ピッチコントロール剤を、前記洗浄水の給水径路のうちの主径路に、該ピッチコントロール剤の供給径路を接続させることにより、洗浄水にピッチコントロール剤を添加することを特徴とする請求項1に記載のトリム吸引装置のピッチ付着防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−106401(P2010−106401A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280686(P2008−280686)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】