説明

トルエンスルホン酸亜鉛の製造方法、トルエンスルホン酸亜鉛およびカルバメートの製造方法

【課題】トルエンスルホン酸亜鉛を低コストで製造することができるトルエンスルホン酸亜鉛の製造方法、その製造方法により得られるトルエンスルホン酸亜鉛、および、そのトルエンスルホン酸亜鉛を用いるカルバメートの製造方法を提供すること。
【解決手段】Zn(OH)を含む亜鉛化合物と、トルエンスルホン酸とを、60℃を超過する温度で反応させることにより、トルエンスルホン酸亜鉛を製造する。また、そのトルエンスルホン酸亜鉛を含む触媒の存在下において、芳香族ジアミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとを反応させ、カルバメートを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルエンスルホン酸亜鉛の製造方法、トルエンスルホン酸亜鉛およびカルバメートの製造方法に関し、詳しくは、トルエンスルホン酸亜鉛の製造方法、その製造方法により得られるトルエンスルホン酸亜鉛、および、そのトルエンスルホン酸亜鉛を用いるカルバメートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トルエンスルホン酸亜鉛は、例えば、アミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとから、カルバメートを生成する反応や、アミノ酸類を脱水縮合してポリイミド化合物を得る反応、カルボン酸類とアミン類とからアミド化合物を生成する反応など、種々の化学反応における触媒として、広く用いられている。
【0003】
このようなトルエンスルホン酸亜鉛は、例えば、ZnCO(炭酸亜鉛)とパラトルエンスルホン酸とを水中において室温で反応させ、次いで、室温において撹拌および濾過した後、得られた濾残を再結晶するなどにより、製造される(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Thermochimica Acta;vol.146(1989)p.341−352
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、非特許文献1に記載の方法で用いられるZnCO(炭酸亜鉛)は高価であり、コスト面に劣る。そのため、工業的には、より低コストでトルエンスルホン酸亜鉛を製造することのできるトルエンスルホン酸亜鉛の製造方法が、要求されている。
【0006】
本発明の目的は、トルエンスルホン酸亜鉛を低コストで製造することができるトルエンスルホン酸亜鉛の製造方法、その製造方法により得られるトルエンスルホン酸亜鉛、および、そのトルエンスルホン酸亜鉛を用いるカルバメートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のトルエンスルホン酸亜鉛の製造方法は、Zn(OH)を含む亜鉛化合物と、トルエンスルホン酸とを、60℃を超過する温度で反応させることを特徴としている。
【0008】
また、本発明のトルエンスルホン酸亜鉛の製造方法では、前記亜鉛化合物と前記トルエンスルホン酸とを、総炭素数1〜20のアルコールの存在下において反応させることが好適である。
【0009】
また、本発明のトルエンスルホン酸亜鉛の製造方法では、前記亜鉛化合物が、塩基性炭酸亜鉛であることが好適である。
【0010】
また、本発明のトルエンスルホン酸亜鉛は、上記のトルエンスルホン酸亜鉛の製造方法により製造されることを特徴としている。
【0011】
また、本発明のトルエンスルホン酸亜鉛は、トルエンスルホン酸亜鉛の0〜6水和物の総量に対して、アルコールを5ppm以上の割合で含有することを特徴としている。
【0012】
また、本発明のトルエンスルホン酸亜鉛は、芳香族ジアミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとを反応させるカルバメートの製造において、触媒として用いられることが好適である。
【0013】
また、本発明のカルバメートの製造方法は、上記のトルエンスルホン酸亜鉛を含む触媒の存在下において、芳香族ジアミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとを反応させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明のトルエンスルホン酸亜鉛の製造方法では、Zn(OH)を含む亜鉛化合物を原料成分として用いるため、工業的に、低コストでトルエンスルホン酸亜鉛を製造することができる。
【0015】
そのため、本発明のトルエンスルホン酸亜鉛は、低コストで得られる。
【0016】
また、本発明のカルバメートの製造方法では、上記の低コストで得られるトルエンスルホン酸亜鉛を触媒として用いるため、カルバメートを、低コストで製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のトルエンスルホン酸亜鉛の製造方法では、亜鉛化合物とトルエンスルホン酸とを反応させる。本発明において、亜鉛化合物は、必須成分として、Zn(OH)(水酸化亜鉛)を含有する。
【0018】
Zn(OH)は、亜鉛の水酸化物であって、その結晶構造によって、例えば、α型、β型、γ型、δ型、ε型などに分類される。
【0019】
これらZn(OH)は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0020】
このようなZn(OH)は、特に制限されないが、例えば、Zn2+(亜鉛イオン)を含む亜鉛塩水溶液に水酸化アルカリ(NaOHなど)を添加するなど、公知の方法により製造することができる。
【0021】
また、Zn(OH)としては、工業原料などとして一般に市販されているものを、用いることができる。
【0022】
また、本発明において、亜鉛化合物は、少なくともZn(OH)を含んでいればよく、任意成分として、例えば、ZnCO(炭酸亜鉛)を含むこともできる。
【0023】
Zn(OH)とZnCOとを含む亜鉛化合物としては、例えば、塩基性炭酸亜鉛などが挙げられる。
【0024】
塩基性炭酸亜鉛は、工業原料として、安価かつ容易に入手できるため、塩基性炭酸亜鉛を原料成分として用いれば、工業的に、低コストでトルエンスルホン酸亜鉛を効率良く製造することができる。
【0025】
塩基性炭酸亜鉛は、ZnCOおよびZn(OH)を、それらの混合物または複塩などとして含有し、例えば、下記一般式(1)で示される。
【0026】
aZnCO・bZn(OH) (1)
(式中、aは、ZnCOの組成比を、bは、Zn(OH)の組成比を示す。)
上記一般式(1)において、aを1とした場合のZn(OH)2の組成比は、例えば、0.1〜50、好ましくは、0.5〜20、とりわけ好ましくは、1〜10である。
【0027】
また、塩基性炭酸亜鉛のZn(亜鉛)の含有量は、塩基性炭酸亜鉛100質量部に対して、例えば、53〜66重量部であり、また、Znの含有量をZnO(酸化亜鉛)に換算すると、ZnO(酸化亜鉛)の含有量は、塩基性炭酸亜鉛100質量部に対して、例えば、66〜82重量部である。
【0028】
また、塩基性炭酸亜鉛は、水和水を含むこともできる。
【0029】
このような場合において、塩基性炭酸亜鉛の水和物は、例えば、下記一般式(2)で示される。
【0030】
aZnCO・bZn(OH)・cHO (2)
(式中、aは、上記式(1)のaと同意義を、bは、上記式(1)のbと同意義を、cは、HOの組成比を示す。)
上記一般式(2)において、cで示されるHOの組成比は、例えば、0.1〜10、好ましくは、0.5〜7、とりわけ好ましくは、0.3〜5である。
【0031】
また、塩基性炭酸亜鉛は、さらに、例えば、Pb(鉛)、Cd(カドミウム)、As(ヒ素)など、種々の不純物(ZnCO、Zn(OH)およびHOを除く成分)を含んでいてもよい。
【0032】
塩基性炭酸亜鉛が不純物を含む場合には、不純物(総量)の含有割合は、塩基性炭酸亜鉛100質量部に対して、例えば、5質量部以下、好ましくは、3質量部以下である。
【0033】
このような塩基性炭酸亜鉛は、例えば、亜鉛塩溶液と炭酸ナトリウムとを反応させるなど、公知の方法により製造することができる。
【0034】
また、塩基性炭酸亜鉛としては、例えば、酸化亜鉛の原料や、鋼板の表面処理の原料などの工業原料として一般に市販されているものを、用いることができる。
【0035】
トルエンスルホン酸は、例えば、下記式(3)で示される。
【0036】
CH−SOH (3)
トルエンスルホン酸として、より具体的には、例えば、オルトトルエンスルホン酸(上記式(3)において、CH−がオルトメチルフェニル基である態様)、メタトルエンスルホン酸(上記式(3)において、CH−がメタメチルフェニル基である態様)、パラトルエンスルホン酸(上記式(3)において、CH−がパラメチルフェニル基である態様)などが挙げられる。
【0037】
これらトルエンスルホン酸としては、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0038】
トルエンスルホン酸として、好ましくは、パラトルエンスルホン酸が挙げられる。
【0039】
トルエンスルホン酸として、パラトルエンスルホン酸を用いる場合には、トルエンスルホン酸亜鉛の、後述するカルバメートの製造における触媒としての性能を、良好とすることができる。
【0040】
また、トルエンスルホン酸は、水和水を含有することもできる。
【0041】
このような場合において、トルエンスルホン酸の水和物は、例えば、下記一般式(4)で示される。
【0042】
CH−SOH・dHO (4)
(式中、dは、HOの組成比を示す。)
上記一般式(4)において、dで示されるHOの組成比は、例えば、0.8〜1.2、好ましくは、0.9〜1.1、とりわけ好ましくは、1である。
【0043】
このようなトルエンスルホン酸は、公知の方法により製造することができる。また、トルエンスルホン酸としては、有機合成の原料などとして一般に市販されているものを、用いることもできる。
【0044】
これら亜鉛化合物は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0045】
亜鉛化合物とトルエンスルホン酸との反応において、トルエンスルホン酸の配合割合(モル数)は、亜鉛化合物1モルに対して、例えば、0.1〜10モル、好ましくは、0.3〜5モル、より好ましくは、0.5〜3モルであり、また、亜鉛化合物に含まれるZn(亜鉛)1モルに対して、例えば、例えば、0.1〜10モル、好ましくは、0.3〜5モル、より好ましくは、0.5〜3モルである。
【0046】
また、この方法では、亜鉛化合物とトルエンスルホン酸とを、溶媒の存在下において反応させることができる。
【0047】
溶媒としては、例えば、総炭素数1〜20のアルコールなどが挙げられる。
【0048】
総炭素数1〜20のアルコールとしては、例えば、総炭素数1〜20の1価アルコール、総炭素数1〜20の2価アルコール、総炭素数1〜20の3価アルコールが挙げられる。
【0049】
総炭素数1〜20の1価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、iso−プロパノール、ブタノール(1−ブタノール)、iso−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、iso−ペンタノール、sec−ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノナノール、デカノール、イソデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、エイコサノールなどの脂肪族1価アルコール、例えば、フェノール、ヒドロキシトルエン、ヒドロキシキシレン、ビフェニルアルコール、ナフタレノール、アントラセノール、フェナントレノールなどの芳香族1価アルコールなどが挙げられる。
【0050】
また、総炭素数1〜20の1価アルコールとしては、さらに、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノヘキシルエーテルなどのエチレングリコールモノアルキルエーテル、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メチルカルビトール)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(エチルカルビトール)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)などのジエチレングリコールモノアルキルエーテル、例えば、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルなどのジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、例えば、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、例えば、グリセリンジアルキルエーテルなども挙げられる。
【0051】
総炭素数1〜20の2価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,6−ジメチル−1−オクテン−3,8−ジオール、アルカン(炭素数7〜20)ジオール、シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、キシレングリコール、ビスヒドロキシエチレンテレフタレート、ビスフェノールA、ジエチレングリコール、トリオキシエチレングリコール、テトラオキシエチレングリコール、ペンタオキシエチレングリコール、ヘキサオキシエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリオキシプロピレングリコール、テトラオキシプロピレングリコール、ペンタオキシプロピレングリコール、ヘキサオキシプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0052】
総炭素数1〜20の3価アルコールとしては、例えば、グリセリン、2−メチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジヒドロキシ−3−ヒドロキシメチルペンタン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−3−ブタノールおよびその他の脂肪族トリオール(炭素数8〜20)などが挙げられる。
【0053】
これらアルコールは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0054】
総炭素数1〜20のアルコールとして、好ましくは、総炭素数2〜8のアルコール、より好ましくは、総炭素数2〜8の1価アルコールが挙げられる。
【0055】
また、溶媒としては、上記の総炭素数1〜20のアルコールに制限されず、さらに、例えば、水や、工業的に用いられる公知の有機溶媒などを、必要により適宜組み合わせて用いることもできる。一方、溶媒として、総炭素数1〜20のアルコールを採用すれば、トルエンスルホン酸亜鉛の0水和物(無水和物)など、水和水の含有量が低減されたトルエンスルホン酸亜鉛を得ることができる。
【0056】
通常、水和水を多く含むトルエンスルホン酸亜鉛を、後述するカルバメートの製造(アミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとからカルバメートを生成する反応)において触媒として用いると、トルエンスルホン酸に含まれる水和水が、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと反応してしまい、所望しない副生物を生じる場合がある。また、水和水が尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと反応すると、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルの損失により、目的化合物であるカルバメートの収率が低下する場合がある。
【0057】
これに対し、水和水の含有量が低減されたトルエンスルホン酸亜鉛を、触媒として用いれば、トルエンスルホン酸亜鉛の水和水と、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルとの反応を低減できるため、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルが損失することを抑制することができ、その結果、カルバメートを効率よく製造することができる。
【0058】
また、その一方、上記の方法によらずに水和水の含有量が低減されたトルエンスルホン酸亜鉛を得るため、例えば、トルエンスルホン酸亜鉛の水和物を乾燥させ、水和水を除去することも検討される。しかし、このような場合には、トルエンスルホン酸亜鉛の水和物を高温に加熱する必要があるため、コストおよび工数が増加するという不具合がある。
【0059】
これに対し、上記の方法によれば、加熱乾燥が不要でありながら、トルエンスルホン酸亜鉛の水和水の含有量を低減することができ、その結果、コストを低減することができる。
【0060】
また、総炭素数1〜20のアルコールとして、さらに好ましくは、後述するカルバメートの製造において用いられるアルコール(芳香族ジアミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとの反応において用いられるアルコール)と同種のアルコールも挙げられる。
【0061】
トルエンスルホン酸亜鉛の製造における溶媒として、カルバメートの製造において用いられるアルコールと同種のアルコールを用いれば、得られたトルエンスルホン酸亜鉛を単離処理および洗浄処理することなく、カルバメートの製造に用いることができる。
【0062】
溶媒の配合量は、特に制限されず、亜鉛化合物およびトルエンスルホン酸に対して、適宜の割合で配合することができる。
【0063】
また、この反応において、反応温度は、60℃を超過、好ましくは、70℃を超過、より好ましくは、90℃を超過、さらに好ましくは、95℃を超過し、通常300℃以下である。
【0064】
反応温度が上記下限未満である場合には、反応速度が遅く、収率良くトルエンスルホン酸亜鉛を得るために多大な時間を要するという不具合がある。
【0065】
一方、反応温度が上記上限を超過する場合には、トルエンスルホン酸亜鉛の分解反応が起こるため、トルエンスルホン酸亜鉛の収率が低下する場合がある。
【0066】
また、この反応において、反応時間は、例えば、1分以上、好ましくは、5分以上である。
【0067】
反応時間が上記下限未満である場合には、トルエンスルホン酸亜鉛の収率が低下する場合がある。
【0068】
また、反応圧力は、通常、大気圧であるが、反応液中の成分の沸点が反応温度よりも低い場合には加圧してもよく、さらには、必要により減圧してもよい。
【0069】
そして、この反応は、上記した条件で、例えば、反応容器内に、亜鉛化合物および溶媒を仕込み、攪拌あるいは混合するとともに、例えば、トルエンスルホン酸を溶媒に溶解させた溶液を投入または滴下すればよい。また、例えば、反応容器内に、亜鉛化合物、トルエンスルホン酸および溶媒を一括で仕込み、攪拌あるいは混合することもできる。
【0070】
これにより、上記したトルエンスルホン酸に対応するトルエンスルホン酸亜鉛を、製造することができる。
【0071】
このようなトルエンスルホン酸亜鉛は、例えば、下記式(5)で示される。
【0072】
(CH−SOZn (5)
トルエンスルホン酸亜鉛として、より具体的には、例えば、オルトトルエンスルホン酸亜鉛(上記式(5)において、CH−がオルトメチルフェニル基である態様)、メタトルエンスルホン酸亜鉛(上記式(5)において、CH−がメタメチルフェニル基である態様)、パラトルエンスルホン酸亜鉛(上記式(5)において、CH−がパラメチルフェニル基である態様)などが挙げられる。
【0073】
また、このようにして得られるトルエンスルホン酸亜鉛は、場合により、水和水を含有する。
【0074】
より具体的には、亜鉛化合物とトルエンスルホン酸とを、例えば、水の存在下において反応させると、トルエンスルホン酸亜鉛の水和物が得られる場合がある。
【0075】
また、上記したように、亜鉛化合物とトルエンスルホン酸とを、総炭素数1〜20のアルコールの存在下において反応させると、トルエンスルホン酸亜鉛の0水和物(無水和物)を得ることができる一方、少量のトルエンスルホン酸亜鉛の水和物が生じる場合もある。
【0076】
このような場合において、トルエンスルホン酸亜鉛の水和物は、例えば、下記一般式(6)で示される。
【0077】
(CH−SOZn・eHO (6)
(式中、eは、HOの組成比を示す。)
上記一般式(6)において、eで示されるHOの平均組成比は、例えば、0を超過し、例えば、6以下、好ましくは、4以下、より好ましくは、2以下である。
【0078】
すなわち、この方法において、トルエンスルホン酸亜鉛は、通常、0〜6水和物として得られる。
【0079】
トルエンスルホン酸亜鉛が含有する水和水の含有量(モル数)が上記上限を超過する場合には、アミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとから、カルバメートを生成する反応において、触媒として用いると、水和水が尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと反応し、原料成分である尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルが損失する場合がある。
【0080】
また、トルエンスルホン酸亜鉛が、トルエンスルホン酸亜鉛の0水和物(無水和物)とトルエンスルホン酸亜鉛の水和物(例えば、6水和物など)とを含有する場合において、上記0水和物の含有比(質量基準)は、0水和物と水和物との総量100質量部に対して、0水和物が、好ましくは、70質量部以上、より好ましくは、80質量部以上である。
【0081】
トルエンスルホン酸亜鉛において、上記0水和物の含有比が上記範囲であれば、アミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとから、カルバメートを生成する反応において、触媒として用いる場合にも、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルの損失を低減することができる。
【0082】
なお、得られたトルエンスルホン酸亜鉛を精製する場合には、例えば、過剰(未反応)の亜鉛化合物および/またはトルエンスルホン酸、さらには、溶媒、場合により副生物などを含む反応液から、例えば、濾過などの公知の分離方法によって、トルエンスルホン酸亜鉛をその溶液として分離し、その後、必要により、加温および減圧する。
【0083】
このようにして得られるトルエンスルホン酸亜鉛は、溶媒としてアルコールを用いた場合には、トルエンスルホン酸亜鉛の0〜6水和物の総量に対して、アルコールを、例えば、5ppm以上、好ましくは、1ppm以上の割合で含有する。
【0084】
トルエンスルホン酸亜鉛(水和水を含む)の収率は、トルエンスルホン酸(水和水を含む)を基準として、例えば、85モル%以上、好ましくは、90モル%以上である。
【0085】
このようなトルエンスルホン酸亜鉛の製造方法では、Zn(OH)を含む亜鉛化合物を原料成分として用いるため、工業的に、低コストでトルエンスルホン酸亜鉛を製造することができる。
【0086】
そのため、このようなトルエンスルホン酸亜鉛は、低コストで得られる。
【0087】
そのため、このようなトルエンスルホン酸亜鉛は、芳香族ジアミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとを反応させるカルバメートの製造において、触媒として、好適に用いることができる。
【0088】
そして、本発明は、上記したトルエンスルホン酸亜鉛を含む触媒の存在下において、芳香族ジアミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとを反応させるカルバメートの製造方法を含んでいる。
【0089】
芳香族ジアミンは、例えば、下記一般式(7)で示される。
【0090】
−(NH (7)
(式中、Rは、総炭素数6〜15の芳香環含有炭化水素基を示す。)
において、総炭素数6〜15の芳香環含有炭化水素基としては、例えば、1〜6価の、総炭素数6〜15の芳香環含有炭化水素基などが挙げられる。
【0091】
なお、芳香環含有炭化水素基は、その炭化水素基中に1つ以上の芳香族炭化水素を含有していればよく、例えば、その芳香族炭化水素に、例えば、脂肪族炭化水素基などが結合していてもよい。
【0092】
このような芳香族ジアミンとして、より具体的には、例えば、2,4−トリレンジアミン(2,4−ジアミノトルエン)、2,6−トリレンジアミン(2,6−ジアミノトルエン)、4,4’−ジフェニルメタンジアミン、2,4’−ジフェニルメタンジアミン、2,2’−ジフェニルメタンジアミン、4,4’−ジフェニルエーテルジアミン、2−ニトロジフェニル−4,4’−ジアミン、2,2’−ジフェニルプロパン−4,4’−ジアミン、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジアミン、4,4’−ジフェニルプロパンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ナフチレン−1,4−ジアミン、ナフチレン−1,5−ジアミン、3,3’−ジメトキシジフェニル−4,4’−ジアミンなどの芳香族1級ジアミンなどが挙げられる。
【0093】
これら芳香族ジアミンは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0094】
本発明で用いられるN−無置換カルバミン酸エステルは、カルバモイル基における窒素原子が官能基により置換されていない(すなわち、窒素原子が、2つの水素原子と、1つの炭素原子とに結合する)カルバミン酸エステルであって、例えば、下記一般式(8)で示される。
【0095】
O−CO−NH (8)
(式中、Rは、総炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、または、総炭素数6〜16の芳香族炭化水素基を示す。)
上記式(8)中、Rにおいて、総炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基としては、例えば、総炭素数1〜16のアルキル基などが挙げられる。
【0096】
アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、iso−プロピル、ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、iso−ペンチル、sec−ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、イソデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシルなどが挙げられる。
【0097】
上記式(8)において、Rが総炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基であるN−無置換カルバミン酸エステルとしては、例えば、カルバミン酸メチル、カルバミン酸エチル、カルバミン酸プロピル、カルバミン酸iso−プロピル、カルバミン酸ブチル、カルバミン酸iso−ブチル、カルバミン酸sec−ブチル、カルバミン酸tert−ブチル、カルバミン酸ペンチル、カルバミン酸iso−ペンチル、カルバミン酸sec−ペンチル、カルバミン酸ヘキシル、カルバミン酸ヘプチル、カルバミン酸オクチル、カルバミン酸2−エチルヘキシル、カルバミン酸ノニル、カルバミン酸デシル、カルバミン酸イソデシル、カルバミン酸ドデシル、カルバミン酸テトラデシル、カルバミン酸ヘキサデシルなどが挙げられる。
【0098】
上記式(8)中、Rにおいて、総炭素数6〜16の芳香族炭化水素基としては、例えば、総炭素数6〜16のアリール基などが挙げられる。
【0099】
アリール基としては、例えば、フェニル、トリル、キシリル、ビフェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリルなどが挙げられる。
【0100】
上記式(8)において、Rが総炭素数6〜16の芳香族炭化水素基であるN−無置換カルバミン酸エステルとしては、例えば、カルバミン酸フェニル、カルバミン酸トリル、カルバミン酸キシリル、カルバミン酸ビフェニル、カルバミン酸ナフチル、カルバミン酸アントリル、カルバミン酸フェナントリルなどが挙げられる。
【0101】
これらN−無置換カルバミン酸エステルは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0102】
N−無置換カルバミン酸エステルとして、好ましくは、上記式(8)において、Rが総炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基であるN−無置換カルバミン酸エステル、より好ましくは、Rが総炭素数2〜12の脂肪族炭化水素基であるN−無置換カルバミン酸エステルが挙げられる。
【0103】
本発明で用いられるアルコールは、例えば、1〜3級の1価のアルコールであって、例えば、下記式(9)で示される。
【0104】
−OH (9)
(式中、Rは、総炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、または、総炭素数6〜16の芳香族炭化水素基を示す。)
上記式(9)中、Rにおいて、総炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基としては、例えば、上記したアルキル基などが挙げられる。
【0105】
上記式(9)において、Rが総炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基であるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、iso−プロパノール、ブタノール、iso−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、iso−ペンタノール、sec−ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール(1−オクタノール)、2−エチルヘキサノール、ノナノール、デカノール、イソデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノールなどが挙げられる。
【0106】
上記式(9)中、Rにおいて、総炭素数6〜16の芳香族炭化水素基としては、例えば、上記したアリール基などが挙げられる。
【0107】
上記式(9)において、Rが総炭素数6〜16の芳香族炭化水素基であるアルコールとしては、例えば、フェノール、ヒドロキシトルエン、ヒドロキシキシレン、ビフェニルアルコール、ナフタレノール、アントラセノール、フェナントレノールなどが挙げられる。
【0108】
これらアルコールは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0109】
アルコールとして、好ましくは、上記式(9)において、Rが炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基であるアルコール、より好ましくは、Rが炭素数2〜12の脂肪族炭化水素基であるアルコールが挙げられる。
【0110】
また、アルコールとして、好ましくは、1級の1価のアルコールが挙げられる。
【0111】
さらに、アルコールとして、好ましくは、上記のトルエンスルホン酸亜鉛の製造において溶媒に含有されるアルコールと同種のアルコールが挙げられる。
【0112】
また、このカルバメートの製造方法において、触媒は、上記したトルエンスルホン酸亜鉛を少なくとも含有すればよく、必要により、その他の触媒を含有することもできる。
【0113】
トルエンスルホン酸亜鉛とともに配合されるその他の触媒としては、例えば、周期律表第1族(IUPAC Periodic Table of the Elements(version date 22 June 2007)に従う。以下同じ。)金属化合物(例えば、リチウムメタノラート、リチウムエタノラート、リチウムプロパノラート、リチウムブタノラート、ナトリウムメタノラート、カリウム−tert−ブタノラートなど)、第2族金属化合物(例えば、マグネシウムメタノラート、カルシウムメタノラートなど)、第3族金属化合物(例えば、酸化セリウム(IV)、酢酸ウラニルなど)、第4族金属化合物(チタンテトライソプロパノラート、チタンテトラブタノラート、四塩化チタン、チタンテトラフェノラート、ナフテン酸チタンなど)、第5族金属化合物(例えば、塩化バナジウム(III)、バナジウムアセチルアセトナートなど)、第6族金属化合物(例えば、塩化クロム(III)、酸化モリブデン(VI)、モリブデンアセチルアセトナート、酸化タングステン(VI)など)、第7族金属化合物(例えば、塩化マンガン(II)、酢酸マンガン(II)、酢酸マンガン(III)など)、第8族金属化合物(例えば、酢酸鉄(II)、酢酸鉄(III)、リン酸鉄、シュウ酸鉄、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)など)、第9族金属化合物(例えば、酢酸コバルト、塩化コバルト、硫酸コバルト、ナフテン酸コバルトなど)、第10族金属化合物(例えば、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、ナフテン酸ニッケルなど)、第11族金属化合物(例えば、酢酸銅(II)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、ビス−(トリフェニル−ホスフィンオキシド)−塩化銅(II)、モリブデン酸銅、酢酸銀、酢酸金など)、第12族金属化合物(例えば、酸化亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、亜鉛アセトニルアセタート、オクタン酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、ヘキシル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、ウンデシル酸亜鉛など)、第13族金属化合物(例えば、アルミニウムアセチルアセトナート、アルミニウム−イソブチラート、三塩化アルミニウムなど)、第14族金属化合物(例えば、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、酢酸鉛、リン酸鉛など)、第15族金属化合物(例えば、塩化アンチモン(III)、塩化アンチモン(V)、塩化ビスマス(III)など)などが挙げられる。
【0114】
さらに、その他の触媒としては、例えば、Zn(OSOCF(別表記:Zn(OTf)、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛)、Zn(OSO、Zn(OSO、Zn(OSO、Zn(OSO、Zn(BF、Zn(PF、Hf(OTf)(トリフルオロメタンスルホン酸ハフニウム)、Sn(OTf)、Al(OTf)、Cu(OTf)なども挙げられる。
【0115】
触媒が、トルエンスルホン酸亜鉛と、その他の触媒とを含有する場合において、トルエンスルホン酸亜鉛の配合量は、触媒の総量100質量部に対して、例えば、0.01〜99.99質量部、好ましくは、1〜99質量部である。
【0116】
そして、この方法では、好ましくは、芳香族ジアミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとを配合し、上記したトルエンスルホン酸亜鉛を含む触媒の存在下、好ましくは液相で反応させる。
【0117】
芳香族ジアミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとの配合割合は、特に制限されず、比較的広範囲において適宜選択することができる。
【0118】
通常は、尿素およびN−無置換カルバミン酸エステルの配合量、および、アルコールの配合量が、芳香族ジアミンのアミノ基に対して等モル以上あればよく、そのため、尿素および/または上記したN−無置換カルバミン酸エステルや、アルコールそのものを、この反応における反応溶媒として用いることもできる。
【0119】
なお、尿素および/または上記したN−無置換カルバミン酸エステルや、アルコールを反応溶媒として兼用する場合には、必要に応じて過剰量の尿素および/または上記したN−無置換カルバミン酸エステルやアルコールが用いられるが、過剰量が多いと、反応後の分離工程での消費エネルギーが増大するので、工業生産上、不適となる。
【0120】
そのため、尿素および/または上記したN−無置換カルバミン酸エステルの配合量は、カルバメートの収率を向上させる観点から、芳香族ジアミンのアミノ基1つに対して、0.5〜20倍モル、好ましくは、1〜10倍モル、さらに好ましくは、1〜5倍モル程度であり、アルコールの配合量は、芳香族ジアミンのアミノ基1つに対して、0.5〜100倍モル、好ましくは、1〜20倍モル、さらに好ましくは、1〜10倍モル程度である。
【0121】
また、触媒の配合量としては、芳香族ジアミン1モルに対して、例えば、0.000001〜0.1モル、好ましくは、0.00005〜0.05モルである。
【0122】
触媒の配合量がこれより多くても、それ以上の顕著な反応促進効果が見られない反面、配合量の増大によりコストが上昇する場合がある。一方、配合量がこれより少ないと、反応促進効果が得られない場合がある。
【0123】
なお、触媒の添加方法は、一括添加、連続添加および複数回の断続分割添加のいずれの添加方法でも、反応活性に影響を与えることがなく、特に制限されることはない。
【0124】
また、この反応において、反応溶媒は必ずしも必要ではないが、例えば、反応原料が固体の場合や反応生成物が析出する場合には、反応溶媒を配合することにより操作性を向上させることができる。
【0125】
このような反応溶媒は、反応原料である芳香族ジアミン、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステル、および、アルコールと、反応生成物であるカルバメートなどに対して不活性であるか反応性に乏しいものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、脂肪族炭化水素類(例えば、ヘキサン、ペンタン、石油エーテル、リグロイン、シクロドデカン、デカリン類など)、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ブチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、メチルナフタレン、クロロナフタレン、ジベンジルトルエン、トリフェニルメタン、フェニルナフタレン、ビフェニル、ジエチルビフェニル、トリエチルビフェニルなど)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなど)、ニトリル類(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、アジポニトリル、ベンゾニトリルなど)、脂肪族ハロゲン化炭化水素類(例えば、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、1,4−ジクロロブタンなど)、アミド類(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)、ニトロ化合物類(例えば、ニトロメタン、ニトロベンゼンなど)や、N−メチルピロリジノン、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0126】
これら反応溶媒のなかでは、経済性、操作性などを考慮すると、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類が好ましく用いられる。また、このような反応溶媒は、単独もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0127】
また、反応溶媒の配合量は、目的生成物のカルバメートが溶解する程度の量であれば特に制限されるものではないが、工業的には、反応液から反応溶媒を回収する必要があるため、その回収に消費されるエネルギーをできる限り低減し、かつ、配合量が多いと、反応基質濃度が低下して反応速度が遅くなるため、できるだけ少ない方が好ましい。より具体的には、芳香族ジアミン1質量部に対して、通常、0.1〜500質量部、好ましくは、1〜100質量部の範囲で用いられる。
【0128】
また、この反応においては、反応温度は、例えば、100〜350℃、好ましくは、150〜300℃の範囲において適宜選択される。反応温度がこれより低いと、反応速度が低下する場合があり、一方、これより高いと、副反応が増大して目的生成物であるカルバメートの収率が低下する場合がある。
【0129】
また、反応圧力は、通常、大気圧であるが、反応液中の成分の沸点が反応温度よりも低い場合には加圧してもよく、さらには、必要により減圧してもよい。
【0130】
また、反応時間は、例えば、0.1〜20時間、好ましくは、0.5〜10時間である。反応時間がこれより短いと、目的生成物であるカルバメートの収率が低下する場合がある。一方、これより長いと、工業生産上、不適となる。
【0131】
そして、この反応は、上記した条件で、例えば、反応容器内に、芳香族ジアミン、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステル、アルコール、触媒、および必要により反応溶媒を仕込み、攪拌あるいは混合すればよい。そうすると、温和な条件下において、短時間、低コストかつ高収率で、例えば、下記一般式(10)で示される目的生成物であるカルバメートが生成する。
【0132】
(ROCONH)−R (10)
(式中、Rは、上記式(7)のRと同意義を、Rは、上記式(9)のRと同意義を示す。)
また、この反応においては、アンモニアが副生される。
【0133】
また、この反応において、N−無置換カルバミン酸エステルを配合する場合には、例えば、下記一般式(11)で示されるアルコールが副生される。
【0134】
−OH (11)
(式中、Rは、上記式(8)のRと同意義を示す。)
なお、この反応において、反応型式としては、回分式、連続式いずれの型式も採用することができる。
【0135】
また、この反応は、好ましくは、副生するアンモニアを系外に流出させながら反応させる。さらには、N−無置換カルバミン酸エステルを配合する場合には、副生するアルコールを系外に留出させながら反応させる。
【0136】
これにより、目的生成物であるカルバメートの生成を促進し、その収率を、より一層向上することができる。
【0137】
また、得られたカルバメートを単離する場合には、例えば、過剰(未反応)の尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステル、過剰(未反応)のアルコール、触媒、カルバメート、反応溶媒、副生するアンモニア、場合により副生するアルコールなどを含む反応液から、公知の分離精製方法によって、カルバメートを分離すればよい。
【0138】
そして、このようなカルバメートの製造方法では、上記の低コストで得られるトルエンスルホン酸亜鉛を触媒として用いるため、カルバメートを、低コストで製造することができる。
【0139】
また、このカルバメートの製造方法における触媒として、上記したように、水和水の含有量が低減されたトルエンスルホン酸亜鉛を用いれば、芳香族ジアミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとを反応させる場合において、トルエンスルホン酸亜鉛の水和水と、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルとの反応を低減できる。
【0140】
そのため、このようなカルバメートの製造方法によれば、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルが損失することを抑制することができ、その結果、カルバメートを効率よく製造することができる。
【0141】
また、上記したカルバメートの製造方法によって得られたカルバメートを熱分解することにより、イソシアネートを製造することができる。
【0142】
すなわち、このようなイソシアネートの製造方法では、上記したカルバメートの製造方法によって得られたカルバメートを熱分解し、上記した芳香族ジアミンに対応する下記一般式(12)で示されるイソシアネート、および
−(NCO) (12)
(式中、Rは、上記式(7)のRと同意義を示す。)
副生物である下記一般式(13)で示されるアルコールを生成させる。
【0143】
−OH (13)
(式中、Rは、上記式(9)のRと同意義を示す。)
この熱分解は、特に限定されず、例えば、液相法、気相法などの公知の分解法を用いることができる。
【0144】
気相法では、熱分解により生成するイソシアネートおよびアルコールは、気体状の生成混合物から、分別凝縮によって分離することができる。また、液相法では、熱分解により生成するイソシアネートおよびアルコールは、例えば、蒸留や、担持物質としての溶剤および/または不活性ガスを用いて、分離することができる。
【0145】
熱分解として、好ましくは、作業性の観点から、液相法が挙げられる。
【0146】
液相法におけるカルバメートの熱分解反応は、可逆反応であるため、好ましくは、熱分解反応の逆反応(すなわち、上記一般式(12)で示されるイソシアネートと、上記一般式(13)で示されるアルコールとのウレタン化反応)を抑制するため、カルバメートを熱分解するとともに、反応混合物から上記一般式(12)で示されるイソシアネート、および/または、上記一般式(13)で示されるアルコールを公知の方法により抜き出し、それらを分離する。
【0147】
熱分解反応の反応条件として、好ましくは、カルバメートを良好に熱分解できるとともに、熱分解において生成したイソシアネート(上記一般式(12))およびアルコール(上記一般式(13))が蒸発し、これによりカルバメートとイソシアネートとが平衡状態とならず、さらには、イソシアネートの重合などの副反応が抑制される条件が挙げられる。
【0148】
このような反応条件として、より具体的には、熱分解温度は、通常、350℃以下であり、好ましくは、80〜350℃、より好ましくは、100〜300℃である。80℃よりも低いと、実用的な反応速度が得られない場合があり、また、350℃を超えると、イソシアネートの重合など、好ましくない副反応を生じる場合がある。また、熱分解反応時の圧力は、上記の熱分解反応温度に対して、生成するアルコールが気化し得る圧力であることが好ましく、設備面および用役面から実用的には、0.133〜90kPaであることが好ましい。
【0149】
また、この熱分解に用いられるカルバメートは、精製したものでもよいが、上記反応(すなわち、芳香族ジアミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとの反応)の終了後に、過剰(未反応)の尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステル、過剰(未反応)のアルコール、触媒、反応溶媒、副生するアンモニア、場合により副生するアルコールを回収して分離されたカルバメートの粗原料を用いて、引き続き熱分解してもよい。
【0150】
さらに、必要により、触媒および不活性溶媒を添加してもよい。これら触媒および不活性溶媒は、それらの種類により異なるが、上記反応時、反応後の蒸留分離の前後、カルバメートの分離の前後の、いずれかに添加すればよい。
【0151】
熱分解に用いられる触媒としては、イソシアネートと水酸基とのウレタン化反応に用いられる、Sn、Sb、Fe、Co、Ni、Cu、Cr、Ti、Pb、Mo、Mnなどから選ばれる1種以上の金属単体またはその酸化物、ハロゲン化物、カルボン酸塩、リン酸塩、有機金属化合物などの金属化合物が用いられる。これらのうち、この熱分解においては、Fe、Sn、Co、Sb、Mnが副生成物を生じにくくする効果を発現するため、好ましく用いられる。
【0152】
Snの金属触媒としては、例えば、酸化スズ、塩化スズ、臭化スズ、ヨウ化スズ、ギ酸スズ、酢酸スズ、シュウ酸スズ、オクチル酸スズ、ステアリン酸スズ、オレイン酸スズ、リン酸スズ、二塩化ジブチルスズ、ジラウリン酸ジブチルスズ、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ジラウリルオキシジスタノキサンなどが挙げられる。
【0153】
Fe、Co、Sb、Mnの金属触媒としては、例えば、それらの酢酸塩、安息香酸塩、ナフテン酸塩、アセチルアセトナート塩などが挙げられる。
【0154】
なお、触媒の配合量は、金属単体またはその化合物として、反応液に対して0.0001〜5質量%の範囲、好ましくは、0.001〜1質量%の範囲である。
【0155】
また、不活性溶媒は、少なくとも、カルバメートを溶解し、カルバメートおよびイソシアネートに対して不活性であり、かつ、熱分解における温度において安定であれば、特に制限されないが、熱分解反応を効率よく実施するには、生成するイソシアネートよりも高沸点であることが好ましい。このような不活性溶媒としては、例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、フタル酸ジドデシルなどのエステル類、例えば、ジベンジルトルエン、トリフェニルメタン、フェニルナフタレン、ビフェニル、ジエチルビフェニル、トリエチルビフェニルなどの熱媒体として常用される芳香族系炭化水素や脂肪族系炭化水素などが挙げられる。不活性溶媒の配合量は、カルバメート1質量部に対して0.001〜100質量部の範囲、好ましくは、0.01〜80質量部、より好ましくは、0.1〜50質量部の範囲である。
【0156】
また、この熱分解反応は、カルバメート、触媒および不活性溶媒を一括で仕込む回分反応、また、触媒を含む不活性溶媒中に、減圧下でカルバメートを仕込んでいく連続反応のいずれでも実施することができる。
【0157】
また、熱分解では、イソシアネートおよびアルコールが生成するとともに、副反応によって、例えば、アロファネート、アミン類、尿素、炭酸塩、カルバミン酸塩、二酸化炭素などが生成する場合があるため、必要により、得られたイソシアネートは、公知の方法により精製される。
【0158】
なお、以上、カルバメートの製造方法およびイソシアネートの製造方法について説明したが、本発明の製造方法においては、脱水工程などの前処理工程、中間工程、または、精製工程および回収工程などの後処理工程など、公知の工程を含んでいてもよい。
【0159】
このようなイソシアネートの製造方法では、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルの損失を抑制することにより高い収率で得られたカルバメートを、熱分解しているため、イソシアネートの収率を向上することができる。
【実施例】
【0160】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は何ら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に言及がない限り、「部」および「%」は質量基準である。
(実施例1)
コンデンサーを取付けた300mL四つ口フラスコに水酸化亜鉛3.48部および1−ブタノール95.0部を装入し、撹拌しながら100℃まで昇温した。次いで、これに、滴下ロートを用いて、大気圧下、p−トルエンスルホン酸1水和物13.3部を1−ブタノール65.0部に溶解した溶液を装入し、大気圧下、100℃にて10分間撹拌した。その後、これを室温まで冷却し、ろ過してp−トルエンスルホン酸亜鉛の1−ブタノール溶液174.3部を得た。
【0161】
上記のようにして得られたp−トルエンスルホン酸亜鉛の1−ブタノール溶液を、60℃以下の温度にて減圧して、1−ブタノールを除去したところ、白色固体を15.1部得た。
【0162】
この白色固体を分析したところ、p−トルエンスルホン酸亜鉛無水和物80%と、p−トルエンスルホン酸亜鉛6水和物20%との混合物であった。また、p−トルエンスルホン酸亜鉛の収率は、p−トルエンスルホン酸1水和物を基準として96モル%であった。
【0163】
なお、分析は、元素分析および熱重量測定を用いて、非特許文献1に記載の方法と同様の方法にて実施した(以下の各実施例および各比較例についても同様。)。
(実施例2)
水酸化亜鉛3.48部の代わりに塩基性炭酸亜鉛4.13重量部を使用し、撹拌時間を2時間とした以外は、実施例1と同様にして白色固体を得た。
【0164】
この白色固体を分析したところ、p−トルエンスルホン酸亜鉛無水和物85%と、p−トルエンスルホン酸亜鉛6水和物15%との混合物であった。また、p−トルエンスルホン酸亜鉛の収率は、p−トルエンスルホン酸1水和物を基準として97モル%であった。
【0165】
また、白色固体において、1−ブタノールの含有率は、H−NMRにより測定したところ、トルエンスルホン酸亜鉛の総量に対して4重量%であった。
(実施例3)
1−ブタノールの代わりに1−オクタノールを使用する以外は、実施例1と同様にして白色固体を得た。
【0166】
この白色固体を分析したところ、p−トルエンスルホン酸亜鉛無水和物85%と、p−トルエンスルホン酸亜鉛6水和物15%との混合物であった。また、p−トルエンスルホン酸亜鉛の収率は、p−トルエンスルホン酸1水和物を基準として96モル%であった。
(実施例4)
1−ブタノールの代わりに水を使用する以外は、実施例1と同様にして白色固体を得た。
【0167】
この白色固体を分析したところ、その100%がp−トルエンスルホン酸亜鉛6水和物であり、p−トルエンスルホン酸亜鉛無水和物は生成していなかった。また、p−トルエンスルホン酸亜鉛の収率は、p−トルエンスルホン酸1水和物を基準として98モル%であった。
(実施例5)
反応温度を70℃とした以外は、実施例1と同様にして白色固体を得た。
【0168】
この白色固体を分析したところ、p−トルエンスルホン酸亜鉛無水和物80%と、p−トルエンスルホン酸亜鉛6水和物20%との混合物であった。また、p−トルエンスルホン酸亜鉛の収率は、p−トルエンスルホン酸1水和物を基準として86モル%であった。
(比較例1)
水酸化亜鉛3.48部の代わりに炭酸亜鉛4.39重量部を使用し、1−ブタノールの代わりに水を使用する以外は、実施例1と同様にして白色固体を得た。
【0169】
この白色固体を分析したところ、その100%がp−トルエンスルホン酸亜鉛6水和物であり、p−トルエンスルホン酸亜鉛無水和物は生成していなかった。また、p−トルエンスルホン酸亜鉛の収率は、p−トルエンスルホン酸1水和物を基準として97モル%であった。
(比較例2)
水酸化亜鉛3.48部の代わりに炭酸亜鉛4.39重量部を使用し、撹拌時間を2時間とした以外は、実施例1と同様にして白色固体を得た。
【0170】
この白色固体を分析したところ、p−トルエンスルホン酸亜鉛無水和物87%と、p−トルエンスルホン酸亜鉛6水和物13%との混合物であった。また、p−トルエンスルホン酸亜鉛の収率は、p−トルエンスルホン酸1水和物を基準として80モル%であった。
(比較例3)
温度を60℃とした以外は、実施例1と同様にして白色固体を得た。
【0171】
この白色固体を分析したところ、p−トルエンスルホン酸亜鉛0水和物81%と、p−トルエンスルホン酸亜鉛6水和物19%との混合物であった。また、p−トルエンスルホン酸亜鉛の収率は、p−トルエンスルホン酸1水和物を基準として18モル%であった。
【0172】
各実施例および各比較例における各反応条件、各実施例および各比較例により得られたトルエンスルホン酸亜鉛の収率、および、水和物の含有比を(質量基準)を、表1に示す。
【0173】
【表1】

【0174】
(実施例6)
圧力制御弁、還流冷却器、気液分離器、攪拌装置を備えた内容量1LのSUS製オートクレーブに、2,4−ジアミノトルエン(76.5g:0.626mol)、尿素(113g:1.87mol)および1−ブタノール(255g:3.44mol)の混合物を仕込み、さらに触媒として実施例1で得られたp−トルエンスルホン酸亜鉛(無水和物と6水和物とを含む)(1.35g:3.14mmol)および1−ブタノール(23.4):316mmol)混合物を仕込み、窒素ガスを毎分1L流通、500rpmで攪拌させながら、反応温度215℃で保つように内圧を圧力制御弁で調節しながら4時間反応させた。
【0175】
反応液の一部を採取して定量したところ、2,4−ビス(ブチルオキシカルボニルアミノ)トルエンが、2,4−ジアミノトルエンに対して83mol%の収率で生成していることが確認された。また、モノ(ブチルオキシカルボニルアミノ)アミノトルエンが、8mol%の収率で生成していることも確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn(OH)を含む亜鉛化合物と、トルエンスルホン酸とを、
60℃を超過する温度で反応させることを特徴とする、トルエンスルホン酸亜鉛の製造方法。
【請求項2】
前記亜鉛化合物と前記トルエンスルホン酸とを、
総炭素数1〜20のアルコールの存在下において反応させることを特徴とする、請求項1に記載のトルエンスルホン酸亜鉛の製造方法。
【請求項3】
前記亜鉛化合物が、塩基性炭酸亜鉛であることを特徴とする、請求項1または2に記載のトルエンスルホン酸亜鉛の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のトルエンスルホン酸亜鉛の製造方法により製造されることを特徴とする、トルエンスルホン酸亜鉛。
【請求項5】
トルエンスルホン酸亜鉛の0〜6水和物の総量に対して、アルコールを5ppm以上の割合で含有することを特徴とする、トルエンスルホン酸亜鉛。
【請求項6】
芳香族ジアミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとを反応させるカルバメートの製造において、触媒として用いられることを特徴とする、請求項4または5に記載のトルエンスルホン酸亜鉛。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載のトルエンスルホン酸亜鉛を含む触媒の存在下において、
芳香族ジアミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとを反応させることを特徴とする、カルバメートの製造方法。

【公開番号】特開2011−147906(P2011−147906A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12585(P2010−12585)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】