説明

トルクコンバータのステータ支持構造

【課題】ステータの側面等に溝を形成することなく、オイルポンプからトルクコンバータ内へ供給される潤滑油の油量を十分に確保し、トルクコンバータの軸方向寸法の縮小を図る。
【解決手段】ステータ7と、ステータ7をワンウェイクラッチ10を介して支持するステータシャフト92と、ステータシャフト92とタービン6との軸方向間に介設されたスラストベアリング16と、を備え、ワンウェイクラッチ10のインナーレース12がステータシャフト92にスプライン嵌合された、トルクコンバータ1におけるものを前提とし、前記インナーレース12は、その内スプライン121が部分的に欠歯した欠歯部121aを有しており、欠歯部121aと、前記スラストベアリング16内とを通じてオイルポンプ3からトルクコンバータ1内へ潤滑油を供給する油路OP2が主たる油路として形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載されるトルクコンバータのステータ支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
トルクコンバータは、一般に、ポンプインペラ、タービンおよびステータからなる3種の羽根車を内部に有している。ポンプインペラは、エンジンのクランクシャフトに繋がっており、タービンは、トランスミッション側への出力軸に繋がっている。ポンプインペラとタービンは互いに向かい合って配置されており、これらの間にステータが配置されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
特許文献1に開示されているトルクコンバータのステータの支持構造では、ワンウェイクラッチの側方に設けられたリテーナにオイル導入用の溝が形成されており、オイルポンプからワンウェイクラッチ内および上記溝を通じてトルクコンバータ内へ潤滑油が供給されるようになっている。
【0004】
図5は、従来より知られているトルクコンバータ100の一例を示す断面図である。ポンプインペラ5とタービン6との間に設置されたステータ101は、ワンウェイクラッチ102を介してトランスミッションのハウジング91に固定されたステータシャフト92にスプライン嵌合されている。ワンウェイクラッチ102は、ステータキャリア101a内に圧入により嵌入されたアウターレース102aと、ステータシャフト92にスプライン嵌合されたインナーレース102bと、両レース102a,102b間に配設された複数のスプラグ又はローラからなるクラッチ部材102cとを備えている。ワンウェイクラッチ102は、ステータキャリア101aとリテーナ103とで軸方向に挟まれている。ステータキャリア101aは、スラストベアリング104を介してインペラハブ53に軸方向に支持されている。また、リテーナ103は他のスラストベアリング105を介してタービンハブ63に軸方向に支持されている。
【0005】
図5(b)に示すように、ステータ101(ステータキャリア101a)の片側面には半径方向に放射状に延びた複数の溝101bが形成されており、オイルポンプ3から供給される潤滑油は、主にこの放射状の溝101bを通じてトルクコンバータ100内へ供給されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3494514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記トルクコンバータ100では、ステータ101の側面に、放射状の溝101bが形成されていることから、スラストベアリング104のニードル104bの転走面を形成するレース104aの肉厚を一般的な値にすると転走面が変形して波打つ可能性がある。かかる変形を防止するためには、レース104aの肉厚を厚くする必要があるが、そうなると、トルクコンバータの軸方向寸法が大きくなるという問題が生じる。
【0008】
特許文献1に開示されているトルクコンバータのステータ支持構造でも、リテーナにオイル導入用の溝が形成されているため、リテーナの肉厚を溝が形成されていない場合と比較して厚くする必要があり、同様に、トルクコンバータの軸方向寸法が大きくなるという問題が生じる。
【0009】
本発明は既述の問題に鑑みて創案されたものであり、ステータの側面等に溝を形成することなく、オイルポンプからトルクコンバータ内へ供給される潤滑油の油量を十分に確保でき、その結果として、トルクコンバータの軸方向寸法の縮小を図ることができるトルクコンバータのステータ支持構造を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するための手段として、本発明のトルクコンバータのステータ支持構造は、以下のように構成されている。
【0011】
すなわち、本発明のトルクコンバータのステータ支持構造は、互いに向かい合って配置されたポンプインペラおよびタービンと、前記ポンプインペラと前記タービンとの間に配設されたステータと、前記ステータをワンウェイクラッチを介して支持するステータシャフトと、前記ステータシャフトと前記タービンとの軸方向間に介設されたスラスト軸受装置と、を備え、前記ワンウェイクラッチのインナーレースが前記ステータシャフトにスプライン嵌合された、トルクコンバータにおけるものを前提としており、前記インナーレースは、その内スプラインが部分的に欠歯した欠歯部を有しており、前記欠歯部と、前記スラスト軸受装置内とを通じてオイルポンプからトルクコンバータ内へ潤滑油を供給する油路が主たる油路として形成されていることを特徴とするものである。なお、上記主たる油路とは、オイルポンプからトルクコンバータ内へ潤滑油を供給するための油路が複数ある場合に、最もオイル流量が大きくなる油路のことである。
【0012】
かかる構成を備えるトルクコンバータのステータ支持構造によれば、インナーレースの内スプラインを部分的に欠歯させたことにより、インナーレースとステータシャフトとの隙間を通過する潤滑油の流量が増大する。これにより、前記欠歯部と、前記スラスト軸受装置内とを通じてオイルポンプからトルクコンバータ内へ潤滑油を供給する主たる油路が形成され、ステータの側面に放射状の溝などを設けることなくトルクコンバータ内へ供給する潤滑油の流量を十分に確保することが可能となる。その結果、スラスト軸受装置のレースなどの薄肉化が可能となり、トルクコンバータの軸方向寸法の縮小が図られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のトルクコンバータのステータ支持構造によれば、ステータの側面などに溝を形成することなく、オイルポンプからトルクコンバータ内へ供給される潤滑油の油量を十分に確保できる。その結果として、トルクコンバータの軸方向寸法の縮小を図ることができ、ひいては車両の軽量化、コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係るトルクコンバータのステータ支持構造を軸線を含む平面で切断して表した断面図である。
【図2】ステータシャフトとインナーレースとが互いにスプライン嵌合した状態を軸線に直交する平面で切断して表した断面図である。
【図3】図1のX部拡大図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係るトルクコンバータのステータ支持構造を示す断面図であって、ワンウェイクラッチおよびその周囲を示した図である。
【図5】(a)は、従来例に係るトルクコンバータのステータ支持構造を示す断面図である。(b)は、(a)のY部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係るトルクコンバータのステータ支持構造について図面に基づき説明する。図1は、本発明の実施形態に係るトルクコンバータ1を示しており、N−Nは出力軸8等の回転中心線を示している。このトルクコンバータ1は、入力側(エンジン側)の部材に固定されるフロントカバー2と、フロントカバー2の外周壁21に固定されたインペラシェル51とで作動油室(潤滑油室)を形成している。トルクコンバータ1は、ポンプインペラ5、タービン6およびステータ7を有している。ポンプインペラ5はエンジンのクランクシャフト(図示せず)側に繋がっており、タービン6はトランスミッション側への出力軸8に繋がっている。ポンプインペラ5とタービン6は互いに向かい合って配置されており、これらの間にステータ7が配置されている。
【0016】
ポンプインペラ5のインペラブレード52は、インペラシェル51の内に固定されている。インペラシェル51の回転中心線側には、インペラハブ53が一体に形成されている。
【0017】
タービン6は、タービンシェル61およびタービンシェル61内に固定された複数のタービンブレード62とを備えている。タービンシェル61の回転中心側端部は、タービンハブ63のフランジ63aに複数のリベット64にて固定されている。タービンハブ63は、出力軸8にスプライン嵌合されている。
【0018】
ステータ7は、ポンプインペラ5とタービン6との間の回転中心線寄りに配置されており、ステータキャリア71と、ステータキャリア71の外径側に設けられ、タービン6からインペラ5へと戻される作動油の方向を調整するための複数のステータブレード72とを備えている。このステータ7は、ワンウェイクラッチ10を介して、ステータシャフト92に支持されている。なお、ステータシャフト92は、トランスミッションのハウジング91に固定されている。
【0019】
ワンウェイクラッチ10は、アウターレース11と、インナーレース12と、両レース11,12間に配置されたクラッチ部材13とを有している。アウターレース11は、ステータキャリア71の軸方向片側より圧入されている。また、アウターレース11の軸方向端部には、略円環状のリテーナ14が嵌着されている。
【0020】
ステータキャリア71は、スラスト軸受装置としてのスラストベアリング15(以下「ポンプインペラ側スラストベアリング15」ともいう。)を介してインペラハブ53に相対回転自在に支持されている。また、リテーナ14はスラスト軸受装置としてのスラストベアリング16(以下「タービン側スラストベアリング16」ともいう。)を介してタービンハブ63に相対回転自在に支持されている。本実施形態におけるステータキャリア71の側面には、図5に基づき説明した従来例に係るステータ101のように放射状の溝が設けられていない。このため、スラストベアリング15のレース15aとして薄肉のものを採用してもニードル転送面が変形して波打つことがなくなる。
【0021】
図2は、上記インナーレース12およびステータシャフト92を示す断面図である。この図2に示すように、インナーレース12は、その内スプライン121が部分的に欠歯して欠歯部121aを形成している。図2に例示するインナーレース12では、欠歯部121aは、等間隔に4か所設けられている。これらの欠歯部121aにおいては、同図に示すように、ステータシャフト92とのクリアランスが大きくなっている。
【0022】
このため、図3に示すように、オイルポンプ3(図1参照)からトルクコンバータ1内(作動油室)へは、矢印Aに示すように、オイルポンプ3側から、ポンプインペラ側スラストベアリング15を経由する油路OP1のほか、矢印Bに示すように、オイルポンプ3側から、欠歯部121aおよびタービン側スラストベアリング16を経由する油路OP2と、を通じて潤滑油が供給される。本実施形態では、油路OP1より油路OP2の方が潤滑油流量が大きくなるように、流路断面積が設定されているため、油路OP2は、オイルポンプ3からトルクコンバータ1内へ潤滑油を供給するための油路のうち最も潤滑油流量が大きい主たる油路となる。
【0023】
以上に説明したトルクコンバータのステータ支持構造によれば、以下のような作用効果が奏される。すなわち、インナーレース12の内スプライン121を部分的に欠歯させたことにより、積極的に欠歯部121aに潤滑油を流通させ、インナーレース12とステータシャフト92との隙間を通過する潤滑油の流量を増大させて既述の主たる油路OP2を形成している。これにより、図5に基づき説明した従来例に係るステータ101のようにその側面に放射状の溝101bを設けることなく、トルクコンバータ1内へ供給する潤滑油の油量を十分に確保することができるようになる。また、ステータ101の側面に放射状の溝を設ける必要がなくなることで、スラストベアリング15のレース15aとして薄肉のものを採用してもニードル転送面が変形して波打つことがなくなり、トルクコンバータ1の軸方向寸法の縮小、スラストベアリング15のコスト低減などが図られる。
【0024】
<他の実施形態>
図4は、既述の実施形態において、タービン側スラストベアリング16に代えてスラストワッシャ16Aを採用したものである。スラストワッシャ16Aは、略環状のものである。スラストワッシャ16Aのタービンハブ63側の面には、内周面と外周面とを連通する複数の油路用溝161が形成されている。また、アウターレース11とインナーレース12に嵌着したリテーナ14Aには、上記スラストワッシャ16Aの反タービンハブ63側の面に凸設された凸部162が嵌入された孔141が形成されている。なお、前記孔141および凸部162は周方向に所定間隔をおいて複数形成されている。
【0025】
このようなトルクコンバータのステータ支持構造によっても、既述の実施形態と同様の作用効果が奏される。すなわち、オイルポンプ3(図1参照)からトルクコンバータ1内(作動油室)へは、前記油路OP1のほか、矢印Bに示すように、オイルポンプ側から、欠歯部121aおよびスラストワッシャ16Aを経由する油路OP2を通じて潤滑油が供給される。これにより、図5に基づき説明した従来例に係るステータ101のようにその側面に放射状の溝101bを設けることなく、トルクコンバータ1内へ供給する潤滑油の油量を十分に確保することができるようになり、同様に、トルクコンバータ1の軸方向寸法の縮小、スラストベアリング15のコスト低減などが図られる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、例えば、自動車に搭載されるトルクコンバータのステータ支持構造に適用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 トルクコンバータ
3 オイルポンプ
5 ポンプインペラ
6 タービン
7 ステータ
10 ワンウェイクラッチ
12 インナーレース
16 タービン側スラストベアリング(スラスト軸受装置)
16A スラストワッシャ(スラスト軸受装置)
121 内スプライン
121a 欠歯部
92 ステータシャフト
OP2 主たる油路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに向かい合って配置されたポンプインペラおよびタービンと、
前記ポンプインペラと前記タービンとの間に配設されたステータと、
前記ステータをワンウェイクラッチを介して支持するステータシャフトと、
前記ステータシャフトと前記タービンとの軸方向間に介設されたスラスト軸受装置と、
を備え、
前記ワンウェイクラッチのインナーレースが前記ステータシャフトにスプライン嵌合された、トルクコンバータのステータ支持構造において、
前記インナーレースは、その内スプラインが部分的に欠歯した欠歯部を有しており、
前記欠歯部と、前記スラスト軸受装置内とを通じてオイルポンプからトルクコンバータ内へ潤滑油を供給する油路が主たる油路として形成されていることを特徴とするトルクコンバータのステータ支持構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−154415(P2012−154415A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13853(P2011−13853)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)