説明

トルクセンサ

【課題】外乱による影響を抑制し測定精度を向上する。
【解決手段】入力側筒21に、トーションバー10の捻れに応じて、出力側筒22の基準スリット61との重なり量が相互に逆方向に増減する二つのスリット62、63とを設け、入力側筒21の内側から第1駆動コイル31と第2駆動コイル32で磁束を印加する。そして、出力側筒22外側において、直列接続した第1検出コイル41と第1補償コイル410との両端に誘起された信号の位相と、直列接続した第2検出コイル42と第2補償コイル420との両端に誘起された信号の位相との位相差を測定回路50で算出する。第1検出コイル41と第1補償コイル410との巻き線の巻き方向と、第2検出コイル42と第2補償コイル420との巻き線の巻き方向とは逆巻き方向とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トーションバーの捻れ角を検出することによりトルクを計測するトルクセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トーションバーの捻れ角を検出することによりトルクを計測するトルクセンサとしては、トーションバーの捻れ量に応じて開口面積が変化する窓を通過させた磁束の位相変化より、トーションバーに加わるトルクを検出するトルクセンサが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-268097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したトーションバーの捻れ量に応じて開口面積が変化する窓を通過させた磁束の位相変化よりトルクを検出するトルクセンサにおいては、ノイズ等の外乱による影響によって測定精度が劣化することがある。
そこで、本発明は、トーションバーの捻れ量に応じて開口面積が変化する窓を通過させた磁束の位相変化よりトルクを検出するトルクセンサにおいて、その測定精度を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題達成のために、本発明は、トーションバーと、前記トーションバーの一端に固定された、前記トーションバーと同軸状に配置された、非磁性導電体で形成した第1円筒と、前記トーションバーの他端に固定された、前記第1円筒に挿入された形態で、前記トーションバーと同軸状に配置された、非磁性導電体で形成した第2円筒と、測定部とを有し、前記第1円筒と前記第2円筒とのうちの一方には基準スリットが設けられており、前記第1円筒と前記第2円筒とのうちの前記基準スリットが設けられていない方には、軸方向の位置を異ならせて配置した第1検出用スリットと第2検出用スリットとが設けられたトルクセンサを提供する。ここで、前記測定部は、前記第2円筒の内周側と前記第1円筒の外周側とのうちの一方側に、前記トーションバーの回転軸と同軸状に、軸方向の位置を異ならせて配置した第1駆動コイルと第2駆動コイルと、前記第2円筒の内周側と前記第1円筒の外周側とのうちの前記駆動コイルが配置されていない方側に、前記トーションバーの回転軸と同軸状に、軸方向の位置を異ならせて配置した第1検出コイルと第2検出コイルと第1補償コイルと第2補償コイルと、前記駆動コイルを交流駆動する駆動回路と、計測回路とを備えたものである。また、前記第1検出用スリットと前記第2検出用スリットとは、前記トーションバーの捩れに応じた量、前記基準スリットとの前記トーションバーの径方向に見た重なりの量が変化すると共に、前記トーションバーの捩れに応じた前記基準スリットとの前記重なりの量の変化量が、前記第1検出用スリットと前記第2検出用スリットとで相互に異なる量となるように配置されており、前記第1検出コイルと第1補償コイルとは直列接続されており、前記第2検出コイルと第2補償コイルとは直列接続されており、前記第1検出コイルと第1補償コイルとの巻き線の巻き方向は逆方向であり、前記第2検出コイルと前記第2補償コイルとの巻き線の巻き方向は逆方向であり、前記第1駆動コイルと前記第1検出コイルとは軸方向位置が前記第1検出用スリットと少なくとも一部重なるように配置され、前記第2駆動コイルと前記第2検出コイルとは軸方向位置が前記第2検出用スリットと少なくとも一部重なるように配置され、前記第1補償コイルと前記第2補償コイルとは、軸方向位置が、前記第1検出用スリット及び前記第2検出用スリットと重ならないように配置されており、前記計測回路は、前記直列接続された第1検出コイルと第1補償コイルの両端に誘起された電圧信号と、前記直列接続された第2検出コイルと第2補償コイルの両端に誘起された電圧信号の位相差を検出するものである。
【0006】
このようなトルクセンサによれば、ノイズ等の外乱によって前記第1検出コイルに誘起する信号成分は、当該外乱によって前記第1補償コイルに誘起する信号によって打ち消され、ノイズ等の外乱によって前記第2検出コイルに誘起する信号成分は、当該外乱によって前記第2補償コイルに誘起する信号によって打ち消される。よって、外乱による影響を抑制し測定精度を向上することができるようになる。
【0007】
ここで、このようなトルクセンサは、前記第1検出コイルと前記第2検出コイルとは、軸方向に見て、隣接して配置されており、前記第1補償コイルは、軸方向に見て、当該第1補償コイルと前記第1検出コイルとの間に前記第2検出コイルが位置するように配置され、前記第2補償コイルは、軸方向に見て、当該第2補償コイルと前記第2検出コイルとの間に前記第1検出コイルが位置するように配置されているように構成することが好ましい。
【0008】
このようにすることにより、前記第1駆動コイルから前記第2検出コイルに到達する磁束成分によって、前記第2検出コイルに誘起される信号成分である混信成分も、前記第1駆動コイルから前記第2補償コイルに到達する磁束成分によって前記第2補償コイルに誘起される信号成分によって、ほぼ相殺することができる。また、同様に、前記第2駆動コイルから前記第1検出コイルに到達する磁束成分によって、前記第1検出コイルに誘起される信号成分である混信成分も、前記第2駆動コイルから前記第1補償コイルに到達する磁束成分によって前記第1補償コイルに誘起される信号成分によって、ほぼ相殺することができる。よって、磁束成分の混信によって測定精度が劣化することを抑制し、その測定精度を向上することができる。
【0009】
なお、以上のトルクセンサにおいて、前記基準スリットは、軸方向位置を異ならせて配置した、前記第1検出用スリットと軸方向位置が少なくとも一部重なる第1基準スリットと、前記第2検出用スリットと軸方向位置が少なくとも一部重なる第2基準スリットとより構成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、トーションバーの捻れ量に応じて開口面積が変化する窓を通過させた磁束の位相変化よりトルクを検出するトルクセンサにおいて、その測定精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るトルクセンサの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るトルクセンサの構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るスリットの重なり幅と位相変化の関係の例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るトルクセンサの測定回路の構成を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係るトルクセンサの比較実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
まず、第1の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係るトルクセンサの構成を示す。
ここで、図1aはトルクセンサの正面を、図1bはトルクセンサの左側面を、図1cはトルクセンサの右側面を、図1dはトルクセンサの断面を、それぞれ模式的に表している。
図示するように、本トルクセンサは、測定対象のトルクが入力側(図1a、dにおける右方)端と出力側(図1a、dにおける左方)端との間の捻れ方向の力として加えられるトーションバー10と、トーションバー10に当該トーションバー10の入力側で固定された入力側筒21と、トーションバー10に当該トーションバー10の出力側で固定された出力側筒22と、第1駆動コイル31と、第2駆動コイル32と、第1検出コイル41と、第2検出コイル42と、測定回路50と、第1補償コイル410と、第2補償コイル420を有している。
【0013】
ここで、第1駆動コイル31と第2駆動コイル32とは直列に接続され、第1検出コイル41と第1補償コイル410とは直列に接続され、第2検出コイル42と第2補償コイル420とは直列に接続されている。
そして、図1dに示すように、第1駆動コイル31と第2駆動コイル32とは、巻き方向(したがって発生磁束の方向)が、相互に逆向きとなっている。また、第1検出コイル41と第1補償コイル410とは、巻き方向が相互に逆向きとなっており、第2検出コイル42と第2補償コイル420とは、巻き方向が相互に逆向きとなっている。
【0014】
ここで、出力側筒22は、非磁性導電体を用いて形成されており、トーションバー10の入力側の底面が開放された円筒形状を有する。そして、トーションバー10の出力側の底面の中心部分で、トーションバー10の出力側に固定されている。
次に、入力側筒21は、非磁性導電体を用いて形成されており、同軸入れ子状に間隔をあけて配置された二つの両底面の無い中空の円筒形状部である内筒部と外筒部をトーションバー10の出力側端で連結した形状を有する。そして、入力側筒21の内側の円筒形状部である内筒部がトーションバー10の入力側に固定されている。また、入力側筒21は、出力側筒22の内側に、出力側筒22と同軸入れ子状に配置されるように設けられている。
【0015】
そして、第1検出コイル41と第2検出コイル42と第1補償コイル410と第2補償コイル420は、出力側筒22の周りに、トーションバー10の回転軸と同軸状に巻き回した形態で、軸方向に、第2補償コイル420、第1検出コイル41、第2検出コイル42、第1補償コイル410の順序で並べて設けられている。
【0016】
また、第1駆動コイル31は、入力側筒21の内筒部と外筒部の間に、トーションバー10の回転軸と同軸状に巻き回した形態で、第1検出コイル41に、入力側筒21の外筒部と出力側筒22の側壁を介して対面するように配置され、第2駆動コイル32は、入力側筒21の内筒部と外筒部の間に、トーションバー10の回転軸と同軸状に巻き回した形態で、第2検出コイル42に、入力側筒21の外筒部と出力側筒22の側壁を介して対面するように配置されている。
【0017】
なお、第1駆動コイル31と第2駆動コイル32は、トルクセンサの全体すなわち静止系に対して固定的に設けてもよいし、入力側筒21と共に回転するように入力側筒21に対して固定して設けるようにしてもよい。また、第1検出コイル41と第2検出コイル42と第1補償コイル410と第2補償コイル420も、静止系に対して固定的に設けてもよいし、出力側筒22と共に回転するように出力側筒22に対して固定して設けるようにしてもよい。
【0018】
さて、出力側筒22の側壁と入力側筒21の外筒部との、第1駆動コイル31が、第1検出コイル41と対面する箇所と、第2駆動コイル32が、第2検出コイル42と対面する箇所とには、各々複数のスリットが設けられている。
すなわち、図2aに示すように、出力側筒22の側壁には、複数の周方向に並んだスリットである基準スリット61が設けられている。
また、図2bに示すように入力側筒21の外筒部の、第1駆動コイル31が第1検出コイル41と対面する部分には周方向に並んだスリットである第1検出用スリット62が、第2駆動コイル32が第2検出コイル42と対面する部分には周方向に並んだスリットである第2検出用スリット63が設けられている。
【0019】
そして、図2cに示すように、トルクセンサにおいて、基準スリット61と第1検出用スリット62、基準スリット61と第2検出用スリット63は軸方向位置が少なくとも一部重なり合うように配置されている。また、入力側から出力側を見て時計廻りに進む方向を前方向とし、反時計廻りに進む方向を後方向として、トーションバー10に捻れが生じていない状態では、図2d1に示すように、径方向に見て基準スリット61の後側半分が第1検出用スリット62の前側半分と重なり、基準スリット61の前側半分が第2検出用スリット63の後側半分と重なるように、基準スリット61と第1検出用スリット62と第2検出用スリット63の配置の位相は各々設定されている。
【0020】
ここで、図2d2は、トーションバー10に捻れが生じていない状態において、第1駆動コイル31と第2駆動コイル32側から、第1検出用スリット62と第2検出用スリット63を介して出力側筒22方向を見たようすを表しており、図示するように、この状態において、基準スリット61と第1検出用スリット62との重なりの量(面積)と、基準スリット61と第2検出用スリット63との重なりの量は等しい。
【0021】
一方、トーションバー10の捻れが発生すると、基準スリット61と第1検出用スリット62との重なりの量と、基準スリット61と第2検出用スリット63との重なりの量は、大小方向について逆方向に変化する。すなわち、たとえば、トーションバー10に、図2cに矢印で示すような捻れが生じると、図2e1に示すように基準スリット61と第1検出用スリット62との重なりの量は増加し、基準スリット61と第2検出用スリット63との重なりの量は減少し、この状態において駆動コイル31側から、第1検出用スリット62と第2検出用スリット63を介して出力側筒22方向を見たようすは図2e2のようになる。
【0022】
そして、このような、基準スリット61と第1検出用スリット62との重なりの量と、基準スリット61と第2検出用スリット63との重なりの量との、相互に逆方向の変化に伴って、直列接続した第1駆動コイル31と第2駆動コイル32とを交流信号で駆動したときに、第1検出コイル41、第2検出コイル42に誘起される信号の位相には、異なる変化が表れる。結果、第1検出コイル41、第2検出コイル42に誘起される信号の位相には、トーションバー10の捻れ量に応じて異なる変化が表れることになる。
【0023】
ここで、基準スリット61と第1検出用スリット62との重なりの量、基準スリット61と第2検出用スリット63との重なりの量との、相互に逆方向の変化に伴って、第1検出コイル41、第2検出コイル42に誘起される信号の位相に異なる変化が表れるのは、次の原理によるものと推定される。
【0024】
すなわち、直列接続した第1駆動コイル31と第2駆動コイル32とを交流信号で駆動したときに、第1検出コイル41、第2検出コイル42に信号を誘起する信号磁束の成分のうち、出力側22筒の基準スリット61と、入力側筒21の第1検出用スリット62または第2検出用スリット63の双方を通過し出力側筒22と入力側筒21の双方を透過しなかった磁束成分を第1磁束成分、出力側筒22のみを透過した磁束成分を第2磁束成分、入力側筒21のみを透過した磁束成分を第3磁束成分、入力側筒21と出力側筒22の双方を透過した磁束成分を第4磁束成分とする。ここで、以上の第1検出コイル41、第2検出コイル42に到達する第2磁束成分は出力側筒22の透過による位相変化を受けた磁束成分となり、第3磁束成分は入力側筒21の透過による位相変化を受けた磁束成分となり、第4磁束成分は入力側筒21の透過と出力側筒22の透過による位相変化を受けた磁束成分となる。
【0025】
そして、図2e1に示すように基準スリット61と第1検出用スリット62との重なりの量が増加すると、第1検出コイル41に到達する第1磁束成分の強度は増加し、第2磁束成分と第3磁束成分の強度は減少し、第4磁束成分の強度は増加する。一方、図2e1に示すように、基準スリット61と第2検出用スリット63との重なりの量が減少すると、第2検出コイル42に到達する第1磁束成分の強度は減少し、第2磁束成分と第3磁束成分の強度は増加し、第4磁束成分の強度は減少する。すなわち、トーションバー10の捻れ量に応じて、第1検出コイル41、第2検出コイル42に到達する各磁束成分の強度は逆方向に変化する。
【0026】
一方、第1検出コイル41、第2検出コイル42に誘起される信号は、各磁束成分の合成ベクトルを表すものとなり、この合成ベクトルの位相は、各位相の磁束成分の強度比によって変化する。よって、第1検出コイル41に誘起される信号の位相には基準スリット61と第1検出用スリット62との重なりの量の変化に応じた変化が、第2検出コイル42に誘起される信号の位相には基準スリット61と第2検出用スリット63との重なりの量の変化に応じた変化が表れ、結果、第1検出コイル41、第2検出コイル42に誘起される信号の位相には、トーションバー10の捻れ量に応じて異なる変化が表れることになる。ここで、図3は、1.8mm幅のスリットを設けた2mm厚のアルミニウム板を2枚重ね、スリットの重なり量を変化させながら、10kHzの駆動信号で2枚重ねたアルミニウム板の一方側に設けた駆動コイルを駆動して磁束を印加したときに、2枚重ねたアルミニウム板の他方側に設けた検出コイルに誘起された信号の駆動信号に対する位相を測定した結果301を表したものである。図より、スリットの重なり量の変化に応じた位相変化が検出信号に表れることが分かる。なお、図中302は、以上の原理に基づいた計算値を表している。
【0027】
さて、このように、第1検出コイル41、第2検出コイル42に誘起される信号の位相には、トーションバー10の捻れ量に応じて異なる変化が表れるので、第1検出コイル41、第2検出コイル42に誘起される信号の位相差を測定すれば、トーションバー10の捻れ量を測定することができ、この捻れ量より、トーションバー10に加えられたトルクを算定することができる。
【0028】
ここで、このような直列接続した第1駆動コイル31と第2駆動コイル32の駆動と、第1検出コイル41、第2検出コイル42に誘起される信号の位相差の測定を行うのが測定回路50である。
すなわち、図4aに示すように、測定回路50は、発振回路51と、第1差動増幅器52と、第2差動増幅器53と、位相差検出回路54とを有している。そして、発振回路51は、交流の駆動信号を生成して、直列に接続された第1駆動コイル31と第2駆動コイル32に印加して一次磁束を発生し、第1差動増幅器52は、直列接続された第1検出コイル41と第1補償コイル410の両端に誘起起電力によって生じる検出信号を増幅し、第2差動増幅器53は、直列接続された第2検出コイル42と第2補償コイル420の両端に誘起起電力によって生じる検出信号を増幅する。
【0029】
そして、位相差検出回路54は、第1差動増幅器52が増幅した検出信号と、第2差動増幅器53が増幅した検出信号との位相差を検出する。そして、この位相差検出回路54が検出した位相差の大きさによって、トーションバー10の捻れ量すなわちトーションバー10に加えられたトルクが表されることになる。
【0030】
ここで、前述したように、直列接続された第1検出コイル41と第1補償コイル410の、巻き方向は相互に逆向きとなっており、直列接続された第2検出コイル42と第2補償コイル420とは、巻き方向が相互に逆向きとなっている。したがって、ノイズ等の外乱によって第1検出コイル41に誘起する信号成分は、当該外乱によって第1補償コイル410に誘起する信号によって打ち消され、ノイズ等の外乱によって第2検出コイル42に誘起する信号成分は、当該外乱によって第2補償コイル420に誘起する信号によって打ち消される。
【0031】
また、上述の通り、図5aに示すように、第2補償コイル420、第1検出コイル41、第2検出コイル42、第1補償コイル410の順序で、以上の各コイルは配置されており、第1駆動コイル31は第1検出コイルに対面するように配置され、第2駆動コイル32は第2検出コイル42に対面するように配置されている。
【0032】
したがって、第1駆動コイル31から第2検出コイル42に到達する磁束成分511によって、第2検出コイル42に誘起される信号成分である混信成分も、第1駆動コイル31から第2補償コイル420に到達する磁束成分512によって第2補償コイル420に誘起される信号成分によって、ほぼ相殺することができる。また、同様に、第2駆動コイル32から第1検出コイル41に到達する磁束成分521によって、第1検出コイル41に誘起される信号成分である混信成分も、第2駆動コイル32から第1補償コイル410に到達する磁束成分522によって第1補償コイル410に誘起される信号成分によって、ほぼ相殺することができる。
【0033】
なお、上述のように、第1駆動コイル31と第2駆動コイル32との発生磁束の方向を相互に逆方向としているのは、トーションバー10の回転に依存した誤差を抑制するためである。
ここで、以上のように第1補償コイル410と第2補償コイル420を設けた効果を示す。
無負荷でトーションバー10を回転させたときに、図4aに示す第1補償コイル410と第2補償コイル420を設けた構成によって測定回路50で計測された位相差を図5b1に、図4bに示すように第1補償コイル410と第2補償コイル420を設けずに第1検出コイル41の両端を第1差動増幅器52に、第2検出コイル42の両端を第2差動増幅器53に接続した構成によって測定回路50で計測された位相差を図5b2に示す。
【0034】
ここでは、無負荷でトーションバー10を回転させているので、検出されるべき位相差は0である。そして、図5b2に示すように、第1補償コイル410と第2補償コイル420を設けなかった場合には、ノイズ等の外乱によって計測される位相差が大きく変動しているのに対して、図5b1に示すように、第1補償コイル410と第2補償コイル420を設けた場合にはノイズ等の外乱による計測される位相差の変動は小さく、その変動の大きさは、第1補償コイル410と第2補償コイル420を設けなかった場合のおよそ1/3以下となる。
【0035】
よって、これより第1補償コイル410と第2補償コイル420を設けることにより、ノイズ等の外乱による影響や、磁束信号の混信による測定精度の劣化を抑制できることが分かる。
以上、本発明の実施形態について説明した。
なお、以上で説明してきた実施形態では、第1駆動コイル31と第2駆動コイル32を出力側筒22の外周側に設け、第1検出コイル41と第2検出コイル42と第1補償コイル410と第2補償コイル420を入力側筒21の内筒部と外筒部の間に配置するようにしてもよい。また、基準スリット61を入力側筒21に、第1検出用スリット62と第2検出用スリット63を出力側筒22に設けるように構成してもよい。また、入力側筒21をトーションバーの出力側に、出力側筒22をトーションバーの入力側に固定するようにしてもよい。
【0036】
また、以上の実施形態においては、基準スリット6を、図2f1に示すように、第1検出用スリット62と軸方向位置が少なくとも一部重なる部分と、第2検出用スリット63と軸方向位置が少なくとも一部重なる部分とを分割して、二列に径方向に並んだ形態で設けるようにしてもよい。また、この場合には、基準スリット6の第1検出用スリット62と軸方向位置が少なくとも一部重なる部分と、第2検出用スリット63と軸方向位置が少なくとも一部重なる部分とは、図2f2に示すように径方向にずらして配置するようにしてもよい。
【0037】
また、以上の実施形態においては、トーションバー10に捻れが生じていない状態のみにおいて、または、トーションバー10の捻れが生じた状態のみにおいて、または、トーションバー10に捻れの如何に関わらずに、第1検出用スリット62と第2検出用スリット63が、径方向に見て基準スリット61と重ならないように構成するようにしてもよい。但し、第1検出用スリット62と第2検出用スリット63の、基準スリット61に対する周方向の配置は異ならせるようにする。
【0038】
図2g1は、トーションバー10の捻れの如何によらず、第1検出用スリット62と第2検出用スリット63が、径方向に見て基準スリット61と重ならないように構成した場合を示しており、この場合には、トーションバー10に捻れに応じて、図2g2に示すように、第1検出用スリット62の基準スリット61に対する周方向の距離と、第2検出用スリット63基準スリット61に対する周方向の距離とに異なった変化が現れる。
【0039】
したがって、このようにした場合でも、第1検出コイル41で検出される前述した第1磁束成分の強度と第2磁束成分の強度と第3磁束成分の強度との組み合わせと、第2検出コイル42で検出される第1磁束成分の強度と第2磁束成分の強度と第3磁束成分の強度との組み合わせは、トーションバー10に捻れ量に応じて異なったものとなるので、このようにしても測定回路50において、トーションバー10に捻れ量を検出できることになる。
【符号の説明】
【0040】
10…トーションバー、21…入力側筒、22…出力側筒、31…第1駆動コイル、32…第2駆動コイル、41…第1検出コイル、42…第2検出コイル、50…測定回路、51…発振回路、52…第1差動増幅器、53…第2差動増幅器、54…位相差検出回路、61…基準スリット、62…第1検出用スリット、63…第2検出用スリット、410…第1補償コイル、420…第2補償コイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーションバーと、
前記トーションバーの一端に固定された、前記トーションバーと同軸状に配置された、非磁性導電体で形成した第1円筒と、
前記トーションバーの他端に固定された、前記第1円筒に挿入された形態で、前記トーションバーと同軸状に配置された、非磁性導電体で形成した第2円筒と、
測定部とを有し、
前記第1円筒と前記第2円筒とのうちの一方には基準スリットが設けられており、
前記第1円筒と前記第2円筒とのうちの前記基準スリットが設けられていない方には、軸方向の位置を異ならせて配置した第1検出用スリットと第2検出用スリットとが設けられており、
前記測定部は、
前記第2円筒の内周側と前記第1円筒の外周側とのうちの一方側に、前記トーションバーの回転軸と同軸状に、軸方向の位置を異ならせて配置した第1駆動コイルと第2駆動コイルと、
前記第2円筒の内周側と前記第1円筒の外周側とのうちの前記駆動コイルが配置されていない方側に、前記トーションバーの回転軸と同軸状に、軸方向の位置を異ならせて配置した第1検出コイルと第2検出コイルと第1補償コイルと第2補償コイルと、
前記駆動コイルを交流駆動する駆動回路と、
計測回路とを有し、
前記第1検出用スリットと前記第2検出用スリットとは、前記トーションバーの捩れに応じた量、前記基準スリットとの前記トーションバーの径方向に見た重なりの量が変化すると共に、前記トーションバーの捩れに応じた前記基準スリットとの前記重なりの量の変化量が、前記第1検出用スリットと前記第2検出用スリットとで相互に異なる量となるように配置されており、
前記第1検出コイルと前記第1補償コイルとは直列接続されており、前記第2検出コイルと前記第2補償コイルとは直列接続されており、前記第1検出コイルと前記第1補償コイルとの巻き線の巻き方向は逆方向であり、前記第2検出コイルと前記第2補償コイルとの巻き線の巻き方向は逆方向であり、
前記第1駆動コイルと前記第1検出コイルとは軸方向位置が前記第1検出用スリットと少なくとも一部重なるように配置され、前記第2駆動コイルと前記第2検出コイルとは軸方向位置が前記第2検出用スリットと少なくとも一部重なるように配置され、前記第1補償コイルと前記第2補償コイルとは、軸方向位置が、前記第1検出用スリット及び前記第2検出用スリットと重ならないように配置されており、
前記計測回路は、前記直列接続された第1検出コイルと第1補償コイルの両端に誘起された電圧信号と、前記直列接続された第2検出コイルと第2補償コイルの両端に誘起された電圧信号の位相差を検出することを特徴とするトルクセンサ。
【請求項2】
請求項1または2記載のトルクセンサであって、
前記第1検出コイルと前記第2検出コイルとは、軸方向に見て、隣接して配置されており、前記第1補償コイルは、軸方向に見て、当該第1補償コイルと前記第1検出コイルとの間に前記第2検出コイルが位置するように配置され、前記第2補償コイルは、軸方向に見て、当該第2補償コイルと前記第2検出コイルとの間に前記第1検出コイルが位置するように配置されていることを特徴とするトルクセンサ。
【請求項3】
請求項1または2記載のトルクセンサであって、
前記基準スリットは、軸方向位置を異ならせて配置した、前記第1検出用スリットと軸方向位置が少なくとも一部重なる第1基準スリットと、前記第2検出用スリットと軸方向位置が少なくとも一部重なる第2基準スリットとより構成されていることを特徴とするトルクセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−17578(P2011−17578A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161520(P2009−161520)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)