説明

トルクドライバー

【課題】ねじやボルトの締結軸力を管理する為の測定法としては、これまでに歪みゲージ法、磁気法、渦電流法、及び超音波法などがあり、超音波法を用いてねじやボルトを管理する装置は商品化されているが、装置が大掛かりであった。
【解決手段】筒状の本体と、該本体の軸心上に主軸を備え、該本体内の該主軸の上部および下部にカムを備え、従動節側に該カムを連接し、原動節側には磁石を備え、該磁石と対面する本体固定側に磁石を備える事により、磁石同士の引き付けあう磁力を利用することで従動節側のカムに力を伝達し、カムが主軸を通して先端のドライバー部に力を加える機構を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のトルクレンチなどで使用されているギヤやバネなどは使わずに、小ねじに適正な締め付け力を与えて締結する為の機構が単純で安価なトルクドライバーに関する。
【背景技術】
【0002】
ねじの締め付けにおいて、適正な締め付け力を与えることは重要であるがそれを決定することは容易ではなく、小ネジについては更に困難で、締め付け力のバラつきも大きいといわれている。機械構造物、及び精密機器などの締結には、多くのねじが使用されているが、特に電気・電子系機器関係には多くの小ねじが使用されている。また、小ねじの使用においては、締め付け時のトルク管理が難しい為、比較的安易な締結が行われ、機器の搬送中に生じる振動や衝撃、及び熱などによる影響にて、ねじのゆるみによる不具合を生じ、使用不能になるなど、機能・製品品質の低下が問題になっている。
【0003】
一般のトルクドライバー、トルクレンチでは、ギヤ式、バネ式が用いられている。磁石を介した関連技術としては、特許文献1には、一定のトルク以上で磁石と部材が解離する構造が示されている。また特許文献2には、磁力によりトルクを制御する構造を持つトルクドライバーが開示されている。特許文献3には、ボルトの締め付けトルクを測定するセンサーと、トグル機構と、トグル機構の動作に従って移動する永久磁石との距離変化でトルクの最大値が表示される技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平2−85572号公報
【特許文献2】特開2002−205282号公報
【特許文献3】特開2005−118955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、ねじやボルトの締結軸力を管理する為の測定法としては、これまでに歪みゲージ法、磁気法、渦電流法、及び超音波法などがあり、超音波法を用いてねじやボルトを管理する装置は商品化されているが、装置が大掛かりで持ち運びが困難であり、また高価で使用にはある程度の知識が必要であるなどの欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ドライバー形状のトルク測定装置とし、小ねじを締結する為の低トルク出力装置とする。また内部の機構には従来のトルクレンチなどで使用されているギヤやバネなどは使わず、新たな動力源としてネオジム磁石を使用する事でより機構が単純で安価な装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、筒状の本体と、該本体の軸心上に主軸を備え、該本体内の該主軸の上部および下部にカムを備え、従動節側に該カムを連接し、原動節側には磁石を備え、該磁石と対面する本体固定側に磁石を備える事により、磁石同士の引き付けあう磁力を利用することで従動節側のカムに力を伝達し、カムが主軸を通して先端のドライバー部に力を加える機構であることを特徴とするトルクドライバーである。磁石は磁力の低下、劣化などが起きない所望のトルクを設定できるものであれば種類は問わないが、最も強力なネオジム磁石がより好ましい。
【0008】
また、前記トルクドライバーは所望のトルクに達すると従動節側のカムに負荷がかかり原動節側の磁石と固定側磁石の引き付けあう磁力より該負荷が上回った場合にはカムが動作し、対面する磁石が垂直に引き離される。このとき前記トルクドライバーの操作者は所望のトルクに達したことを感知することができる。また磁石の引き離される方向は垂直方向であることが好ましく、垂直ではない場合は、軽いせん断力により引き離されてしまう。
【0009】
前記対面する磁石の接触面積を変化させることで、発生トルクを可変させる機能を備える。このとき、接触面積の変化は調節ねじを動作することにより磁石の位置を横方向にずらすことで、相対する磁石の接触面積を変化させることができる。事前に接触面積とトルク値の関係を測定しておくことにより、所望のトルクに調節することができる。磁石の移動はネジを利用した方法、レール上をスライドさせる方法などに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は装置組み立て図を示した説明図である。(実施例1)
【図2】図2は内部組み立て全体図の実施方法を示した説明図である。(実施例1)
【図3】図3はカムAの説明図である。(実施例1)
【図4】図4はカムBの説明図である。(実施例1)
【図5】図5はカムCの説明図である。(実施例1)
【図6】図6はカムDの説明図である。(実施例1)
【図7】図7は実施例1における各カムを用いたトルク測定結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一般的なドライバー形状を持つ実施形態とした実施例を示すが、全体的な寸法、材質は本実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0012】
図1および図2に示されるような構造、概観をもつ装置を製作した。装置内部の外形寸法を28[mm]としたのは、カバー部を含んだ装置外形寸法が30[mm]となるように内部を設計した為である。また装置外形寸法30[mm]というのは一般的なドライバー取手部の平均的な寸法値を採用した。
【0013】
内部は従動節の方にカムを用いる構造を採用し、原動節にはネオジム磁石Aを取り付けた。本体固定側にネオジム磁石Bを取り付けている事により、ネオジム磁石同士の引き付けあう磁力を利用する事で従動節のカムに力を伝達し、カムが主軸を通して先端のドライバー部に力を加える機構である。所望のトルクに達すると従動節であるカムに負荷がかかり、原動節であるネオジム磁石Aと本体固定側ネオジム磁石Bの引き付けあう磁力がその負荷に耐え切れなくなった場合にはカムが働き磁石同士が引き離される。こうする事でネジやボルトを締めすぎによる破損や破壊から防ぐ事が可能であり、オーバートルクを防止することができる。
【0014】
磁石が引き離されるという一連の動作は装置の上下に設けられた原動節誘導板が、カムによって切り離される原動節を本体固定側ネオジム磁石に対して垂直な形で引き離れるよう誘導する事で可能とした。ここで磁石同士を垂直に引き離す理由は、ネオジム磁石同士の磁力を最大限主軸へと伝える為である。磁石の磁力(磁界)の向きが吸着面に対して垂直方向である為、垂直方向の力に対しては最大限の磁力で吸着しあうが、吸着面に対して水平方向などのせん断する力には非常に弱く、十分な力が発揮されないまま切り離れてしまうからである。また装置が小型であり、内部に組み込めるネオジム磁石の大きさに制限がある為必要とする磁力が得られない可能性がある。さらには組み合わせの出来る種類を増やす事で出力出来るトルク範囲を拡大できるという事も考慮して、ネオジム磁石2組(4枚)を装置内部へ組み込む事とした。
【0015】
図3〜6に示される交換用カムA〜Dの4種類を製作し、ネオジム磁石を2組(4枚)、ネオジム磁石を1組(2枚)、ネオジム磁石一枚と鉄板一枚、カムの種類毎、それぞれの組み合わせで装置内部に組み込んだ状態でトルク測定を行った。
【0016】
内部組込磁石の磁石同士(全長50[mm])の接着面積が最大の状態(接着面積100%)から、磁石同士を5[mm]ずつ、ずらしながら測定を行い、最大変位が25[mm]、(接着面積が当初の50%)に到達するまで、測定をそれぞれ7回ずつ繰り返した。得られた結果は図7に示す。図7に示されるとおり、接着面積を変化させることで、トルク出力を変化させることができる。またカム形状を変えることで、所望のトルク出力を調整することができる。
【0017】
測定は、装置のドライバー先端部(主軸)を万力で完全に固定し、装置カバー先端部に細い針金の紐を引っ掛ける。そこへデジタルはかりを取り付け徐々に力を加えていく。装置が規定トルクに達しオーバートルク防止の為に空転した時の最大トルクを複数回測定し、その平均値を取った。
【産業上の利用可能性】
【0018】
ドライバー型トルク測定装置として小ネジを任意の軸力にて誰もが簡易的に、安全に締結作業が出来る装置を提供することができる。具体的にはトルクを出力するための動力源として、ネオジム磁石を用い、反対カム機構と組み合わせる事で、機構が簡易的でありながら、オーバートルクを防止する事ができる。
【符号の説明】
【0019】
1 交換用カム
2 ネオジム磁石 B
3 ネオジム磁石 A
4 原動節
5 トルク調節ネジ部
6 主軸
7 原動節
8 ネオジム磁石 A
9 ネオジム磁石 B
10 トルク調節部
11 原動節誘導板(下)
12 磁石付随原動節
13 カム
14 原動節誘導板(上)
15 磁石移動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の本体と、該本体の軸心上に主軸を備え、該本体内の該主軸の上部および下部にカムを備え、従動節側に該カムを連接し、原動節側には磁石を備え、該磁石と対面する本体固定側に磁石を備える事により、磁石同士の引き付けあう磁力により従動節側のカムに力を伝達し、カムが主軸を通して先端のドライバー部に力を加える機構であることを特徴とするトルクドライバー
【請求項2】
所望のトルクに達すると前記従動節側のカムに負荷がかかり、前記原動節側の磁石と前記固定側磁石の引き付けあう磁力より該負荷が上回った場合にはカムが動作し、対面する磁石が垂直に引き離されることを特徴とする請求項1に記載のトルクドライバー
【請求項3】
前記対面する磁石の接触面積を変化させることで、発生トルクを可変させる機能を備えることを特徴とする請求項1、2に記載のトルクドライバー

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−36958(P2011−36958A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186726(P2009−186726)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年2月19日 発行の「平成20年度 山梨大学工学部機械システム工学科 機械デザイン(D)コース 卒業論文発表会概要集」に発表
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】