説明

トルクリミッタ、伝達比可変装置及びトレランスリング

【課題】衝撃力が作用した場合に滑りトルクが低下することを抑制できるトルクリミッタ、伝達比可変装置及びトレランスリングを提供する。
【解決手段】トレランスリング64は、帯状の金属板をモータ軸34及びロックホルダ52の周方向に延びる略C字状に湾曲させたリング本体65を備え、同リング本体65に径方向に弾性変形可能なバネ状部66を形成した。そして、バネ状部66をモータ軸34とロックホルダ52との間に圧縮状態で配置されるメイン突起71と、非圧縮状態で配置されるサブ突起72とから構成した。さらに、メイン突起71及びサブ突起72により構成される凹部の全部又は一部にグリースを貯留した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクリミッタ、伝達比可変装置及びトレランスリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、差動機構を用いてステアリング操作に基づく入力軸の回転にモータ駆動に基づく回転を上乗せして出力軸に伝達する伝達比可変装置がある。この種の伝達比可変装置として、差動機構及びモータを収容するハウジングが自動車の車体に固定され、入力軸の回転によってハウジングが回転しないハウジング固定型のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。こうした伝達比可変装置には、モータへの電力供給の停止時に、モータ軸が空転することを防いで入力軸と出力軸との間のトルク伝達を可能とすべく、同モータ軸の回転を拘束するロック装置が設けられている。
【0003】
図9に示すように、特許文献1のロック装置81は、モータ軸82と一体的に設けられるロックホルダ83と、車体に固定されたハウジング(図示略)に設けられるロックアーム84とを備えている。そして、ロックホルダ83の外周面83aに形成された係合溝85にロックアーム84を挿入し、係合溝85における周方向のいずれか一方の端壁部86にロックアーム84の係合部87を係合させることによりモータ軸82の回転を拘束(ロック)する。なお、端壁部86の側面86aは、係合部87の側面87aと係合した状態でロックホルダ83が回転することにより、同係合部87を径方向内側に押圧するように(引き込むように)形成されている。これにより、ロック状態でロックホルダ83にトルクが入力されても、ロックアーム84が係合溝85から離脱しないようになっている。
【0004】
また、上記ハウジング固定型の伝達比可変装置に設けられるロック装置には、モータ軸82とロックホルダ83との間に介在されるトレランスリング91が設けられている。なお、図9では、説明の便宜上、トレランスリング91の大きさを誇張して示す。
【0005】
トレランスリング91は、帯状の金属板を略C字状に湾曲させたリング本体92を備えており、同リング本体92には、径方向に弾性変形可能なバネ状部93が形成されている。上記特許文献1では、バネ状部93は、リング本体92の軸方向中央付近から径方向外側に突出する複数の突起94により構成されている。また、各突起94は、その突出量が一定に形成されるとともに周方向に等角度間隔で配置されている。そして、トレランスリング91は、バネ状部93(突起94)が径方向に圧縮された状態でモータ軸82とロックホルダ83との間に圧入されており、その弾性力に応じた摩擦抵抗が発生するようになっている。これにより、トレランスリング91は、その外周面(バネ状部93)とロックホルダ83との間の摩擦抵抗に基づいてモータ軸82とロックホルダ83との相対回転を規制するとともに、所定値以上のトルクが入力される場合には、外周面が滑り面となることにより上記相対回転を許容する。すなわち、トルクリミッタとしての機能を果たすようになっている。そして、トレランスリング91によってモータ軸82とロックホルダ83との相対回転が許容されることにより、差動機構の異常時においても継続してステアリング操作を行うことが可能となる。なお、モータ軸82とロックホルダ83との相対回転を規制可能な最大のトルクを滑りトルクという。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−38990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、トレランスリング91によりモータ軸82とロックホルダ83との相対回転が許容されるのは、差動機構の異常時においてステアリング操作が妨げられることを防ぐフェールセーフ措置であるため、通常時にモータ軸82とロックホルダ83とが相対回転することは、装置の信頼性確保等の観点から好ましくない。しかし、例えばステアリングを操舵エンドまで切り込んだ状態からさらに切り込んだ場合等、モータ軸82が高速で回転している状態でロックしようとすると、ロックアーム84の係合部87が係合溝85の端壁部86に係合する瞬間(ロック時)に、大きな衝撃力がロックホルダ83に作用する。その結果、モータ軸82とロックホルダ83とが相対回転する虞がある。
【0008】
具体的には、上記のように端壁部86の側面86aがロックアーム84を引き込むように形成されていることから、ロック時に端壁部86が係合部87に衝突することでロックアーム84が径方向内側に付勢され、係合部87が係合溝85の底面にも衝突する。そして、ロックホルダ83にその周方向及び径方向に沿った各衝撃力が作用することで、モータ軸82の軸心とロックホルダ83の軸心とがずれることがあり、衝撃力の作用した側(ロックアーム84側)に位置する突起94の圧縮量が増加し、その反対側に位置する突起94の圧縮量が減少する。
【0009】
ここで、突起94が弾性変形可能な範囲の限界付近まで圧縮される場合には、その圧縮量の増加による弾性力の上昇が鈍くなることがある。特に、伝達比可変装置に用いされるトレランスリング91は小型であり、その突起94も小さい(通常、1mm程度)ため、弾性変形可能な範囲の限界付近まで圧縮され易い。その結果、圧縮量の増加した突起94での弾性力の上昇が、圧縮量の減少した突起94での弾性力の低下に比べで小さくなり、トレランスリング91全体での摩擦抵抗が減少することがある。すなわち、ロック時に滑りトルクが低下することでモータ軸82とロックホルダ83とが相対回転する虞がある。
【0010】
そこで、突起94の突出量を大きくし、トレランスリング91の滑りトルクを予め大きく設定することで、ロック時に十分な滑りトルクを確保することが考えられるが、この場合には、モータ軸82の軸心とロックホルダ83の軸心とがずれていない状態での滑りトルクが過大になるという問題があり、この点においてなお改善の余地があった。
【0011】
なお、このような問題は伝達比可変装置に限らず、軸状の第1回転部材と、第1回転部材に嵌合する第2回転部材との間にトレランスリングが介在されたトルクリミッタにおいて、第2回転部材に衝撃力が作用した場合にも、同様に生じ得る。
【0012】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、衝撃力が作用した場合に滑りトルクが低下することを抑制できるトルクリミッタ、伝達比可変装置及びトレランスリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、軸状の第1回転部材と、前記第1回転部材の外周に嵌合される第2回転部材とを備え、前記第1回転部材と前記第2回転部材との間には、摩擦抵抗に基づいて前記第1回転部材と前記第2回転部材との相対回転を規制又は許容するトレランスリングが介在されるトルクリミッタにおいて、前記トレランスリングは、前記各回転部材の周方向に延びるリング本体を備え、前記リング本体には径方向に弾性変形可能なバネ状部が形成され、該バネ状部の弾性力に応じて前記第1回転部材又は前記第2回転部材との間で前記摩擦抵抗を発生させるものであって、前記バネ状部は、前記第1回転部材と前記第2回転部材との間に圧縮状態で配置される複数のメイン突起と、前記メイン突起よりも突出量の小さな複数のサブ突起とを有することを要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、サブ突起の突出量はメイン突起の突出量よりも小さいため、メイン突起が弾性変形可能な範囲の限界付近まで圧縮されることでその圧縮量の増加による弾性力の上昇が鈍くなっても、サブ突起の圧縮量の増加による弾性力の上昇は鈍くなり難い。そのため、バネ状部を構成する各突起の突出量がすべて同一である場合に比べ、圧縮量の増加による弾性力の上昇を大きくすることが可能になる。これにより、衝撃力が作用した側のメイン突起及びサブ突起の圧縮量の増加による弾性力の上昇が、衝撃力が作用した側と反対側のメイン突起及びサブ突起の圧縮量の減少による弾性力の低下に比べて小さくなることを抑制でき、トレランスリング全体での摩擦抵抗が減少すること、すなわち滑りトルクが低下することを抑制できる。このように上記構成では、突出量の異なるメイン突起及びサブ突起を形成することによりロック時に十分な滑りトルクを確保するため、第1回転部材の軸心と第2回転部材の軸心とがずれていない状態での滑りトルクが過大となることを抑制できる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のトルクリミッタにおいて、前記サブ突起は、前記第1回転部材と前記第2回転部材との間に非圧縮状態で配置されるように形成されたことを要旨とする。
【0016】
上記構成よれば、第1回転部材の軸心と第2回転部材の軸心とがずれていない状態では、サブ突起と第1回転部材又は第2回転部材との間の摩擦抵抗はゼロである。そのため、サブ突起が圧縮状態で配置される場合と異なり、第1回転部材の軸心と第2回転部材の軸心とがずれてサブ突起が圧縮されることにより、同サブ突起と第1回転部材又は第2回転部材との間で新たに摩擦抵抗が生じることになる。従って、衝撃力が作用した場合に、滑りトルクの向上を図ることが可能になる。
【0017】
また、上記構成では、サブ突起が非圧縮状態で第1回転部材と第2回転部材との間に配置されるため、第1回転部材の軸心と第2回転部材の軸心とがずれていない状態での滑りトルクは、メイン突起の弾性力に応じて発生する摩擦抵抗のみにより定まる。そのため、サブ突起の寸法(突出量)を厳しく管理しなくても製造される個体間で滑りトルクのばらつきが発生することを抑制でき、コストの低減を図ることができる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、ステアリング操作に基づく入力軸の回転にモータ駆動に基づく回転を上乗せして出力軸に伝達する差動機構と、前記入力軸の回転によって回転しない非回転部材とモータ軸とを相対回転不能に拘束するロック装置とを備え、前記ロック装置は、前記モータ軸と一体に設けられるとともに外周面に係合溝が形成されたロックホルダ、及び前記係合溝に係合することにより前記ロックホルダの回転を拘束可能なロックアームを有し、前記モータ軸と前記ロックホルダとの間には、摩擦抵抗に基づいて前記モータ軸と前記ロックホルダとの相対回転を規制又は許容するトレランスリングが介在される伝達比可変装置において、前記トレランスリングは、前記モータ軸及び前記ロックホルダの周方向に延びるリング本体を備え、前記リング本体には径方向に弾性変形可能なバネ状部が形成され、該バネ状部の弾性力に応じて前記モータ軸又は前記ロックホルダとの間で前記摩擦抵抗を発生させるものであって、前記バネ状部は、前記モータ軸と前記ロックホルダとの間に圧縮状態で配置される複数のメイン突起と、前記メイン突起よりも突出量の小さな複数のサブ突起とを有することを要旨とする。
【0019】
上記構成によれば、ロック時にロックアームからロックホルダに衝撃力が作用することにより、モータ軸の軸心とロックホルダとの軸心がずれても、トレランスリングにメイン突起及びサブ突起が形成されているため、請求項1と同様に、滑りトルクが低下することが抑制される。これにより、ロック時に作用する衝撃力によってモータ軸とロックホルダとが相対回転することを抑制して伝達比可変装置の信頼性を向上させることができる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の伝達比可変装置において、前記サブ突起は、前記モータ軸と前記ロックホルダとの間に非圧縮状態で配置されるように形成されたことを要旨とする。
【0021】
上記構成によれば、請求項2と同様に、衝撃力が作用した場合に滑りトルクの向上を図ることが可能になるとともに、サブ突起の寸法(突出量)を厳しく管理しなくても製造される個体間で滑りトルクのばらつきが発生することを抑制でき、コストの低減を図ることができる。
【0022】
請求項5に記載の発明は、略リング状をなすリング本体と、前記リング本体に形成され、径方向に弾性変形可能なバネ状部とからなるトレランスリングにおいて、前記バネ状部は、複数のメイン突起と、前記メイン突起よりも突出量の小さな複数のサブ突起とを有し、前記メイン突起及び前記サブ突起により構成される凹部の全部又は一部にグリースを貯留したことを要旨とする。
【0023】
上記構成によれば、トレランスリングにメイン突起及びサブ突起が形成されているため、衝撃力が作用しても、請求項1と同様に、滑りトルクが低下することが抑制される。そして、メイン突起及びサブ突起により構成される凹部にグリースが貯留されるため、滑りトルク以上のトルクが入力された場合に、安定してトレランスリングを挟み込む部材(例えばモータ軸とロックホルダと)間の相対回転を許容できるようになる。従って、本発明のトレランスリングを、例えば伝達比可変装置のロック装置に用いることにより、当該ロック装置に設けられた差動機構の異常時においても、安定したステアリング操作を継続して行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、衝撃力が作用した場合に滑りトルクが低下することを抑制できるトルクリミッタ、伝達比可変装置及びトレランスリングを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】伝達比可変装置を備えた車両用操舵装置の概略構成図。
【図2】伝達比可変装置の断面図。
【図3】図2におけるA−A断面でのロック装置の概略構成図。
【図4】(a)第1実施形態のトレランスリングを展開した状態の側面図、(b)(a)のB−B断面図,(c)(a)のC−C断面図。
【図5】第1実施形態におけるロックホルダの内径、メイン突起とトレランスリングの中心との間の長さ及びサブ突起とトレランスリングの中心との間の長さの大小関係を示す説明図。
【図6】(a)第2実施形態のトレランスリングを展開した状態の側面図、(b)(a)のD−D断面図,(c)(a)のE−E断面図。
【図7】(a)第3実施形態のトレランスリングを展開した状態の側面図、(b)(a)のF−F断面図,(c)(a)のG−G断面図。
【図8】第3実施形態のトレランスリング近傍の拡大断面図。
【図9】従来のロック装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、車両用操舵装置1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。これにより、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。なお、ステアリングシャフト3は、コラム軸8、中間軸9、及びピニオン軸10を連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪12の舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0027】
なお、車両用操舵装置1は、モータ13を駆動源として、ラック軸5を軸方向移動させる所謂ラックアシスト型の電動パワーステアリング装置として構成されている。すなわち、車両用操舵装置1は、モータ13の回転をボール螺子機構14によってラック軸5の往復動に変換して伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
【0028】
車両用操舵装置1は、ステアリング2の舵角(操舵角)に対する転舵輪12の舵角(タイヤ角)の比率、すなわち伝達比(ステアリングギヤ比)を可変させる伝達比可変装置15を備えている。伝達比可変装置15は、ステアリングシャフト3を構成するピニオン軸10の途中に設けられており、自動車の車体(図示略)に固定されるラックハウジング16に連結されたピニオンハウジング17内に収容されている。なお、本実施形態のピニオン軸10には、上記アシスト力の制御に用いる操舵トルクを検出するためのトルクセンサ18が併せて設けられている。
【0029】
詳述すると、図2に示すように、ピニオンハウジング17は、ラックハウジング16の上部に固定された略円筒状のロアハウジング21と、同ロアハウジング21の上端に固定された略円筒状のアッパハウジング22とを備えている。そして、ピニオン軸10は、ピニオンハウジング17内に挿通されることにより、その一端に形成されたピニオン歯10aがラック軸5のラック歯(図示略)と噛合された状態で回転可能に支持されている。
【0030】
ピニオン軸10は、中間軸9に連結される(図1参照)ことによりステアリング操作に伴う回転が入力される入力軸24と、一端に上記ピニオン歯10aが形成された出力軸25とにより構成されている。そして、伝達比可変装置15は、これら入力軸24及び出力軸25の間に介在された差動機構としての波動歯車機構26と、波動歯車機構26を駆動するモータ27とを備えており、アッパハウジング22に収容されている。
【0031】
入力軸24は、アッパハウジング22の上端部22aに設けられた軸受31により回転可能に支持されている。一方、出力軸25は、ロアハウジング21に設けられた軸受32a,32bにより、その一端がアッパハウジング22内に突出した状態で回転可能に支持されている。なお、出力軸25は、その一端が波動歯車機構26に連結される第1の軸部材25aと、一端にピニオン歯10aが形成された第2の軸部材25bとを、トーションバー25cを介して連結することにより形成されている。そして、トルクセンサ18は、そのトーションバー25cの捩れ角を測定することにより、操舵系に入力される操舵トルクを検出するように構成されている。
【0032】
伝達比可変装置15のモータ27は、中空状のモータ軸34を有するロータ35と、ロータ35を回転させるための回転磁界を発生させるステータ36とを備えている。ステータ36は、アッパハウジング22の内周に固定されたモータハウジング37内に配置されている。ロータ35は、モータハウジング37内に設けられた軸受38a,38bにより回転可能に支持されている。そして、アッパハウジング22内に突出された出力軸25の一端は、このモータ軸34内に挿通されることにより、同アッパハウジング22の上端部22a(図2における上側の端部)近傍まで延設されている。
【0033】
波動歯車機構26は、モータ27の軸方向一端側(図2における上側)に並置されている。そして、波動歯車機構26は、同軸に並置された一対のサーキュラスプライン41,42と、これら各サーキュラスプライン41,42と部分的に噛み合うように同軸配置された筒状のフレクスプライン43と、モータ駆動によりフレクスプライン43の噛合部を回転させる波動発生器44とを備えている。
【0034】
各サーキュラスプライン41,42には、互いに異なる歯数が設定されており、フレクスプライン43は、略楕円状に撓められた状態で各サーキュラスプライン41,42の内側に配置されている。これにより、フレクスプライン43は、その外歯が該各サーキュラスプライン41,42の内歯とそれぞれ部分的に噛合される。そして、モータ27側に配置されたサーキュラスプライン41には入力軸24が連結されるとともに、アッパハウジング22の上端部22a側に配置されたサーキュラスプライン42には両サーキュラスプライン41,42よりも軸方向における上端部22a側に突出された出力軸25の一端が連結されている。
【0035】
具体的には、出力軸25(第1の軸部材25a)は、同出力軸25の外周に嵌合される筒状部46aと、その外周から径方向外側に延設されてサーキュラスプライン42の内周に嵌合されるフランジ部46bとからなる連結部材46を介して同サーキュラスプライン42に連結されている。一方、入力軸24の内端には、その内径が各サーキュラスプライン41,42の外径よりも大径に形成された筒状部24aが形成されている。そして、入力軸24は、この筒状部24a内に波動歯車機構26及び連結部材46を収容する態様で、その内周がサーキュラスプライン41の外周に圧入嵌合されることにより、同サーキュラスプライン41と連結されている。
【0036】
波動発生器44は、フレクスプライン43の内側に配置されており、モータ軸34の一端と連結されている。そして、モータ27に駆動されて上記撓められたフレクスプライン43の略楕円形状、すなわち両サーキュラスプライン41,42との噛合部を回転させるように構成されている。
【0037】
そして、このように入力軸24及び出力軸25、並びにモータ軸34に対してそれぞれ連結された波動歯車機構26をモータ駆動することにより、ステアリング2と転舵輪12との間の伝達比を変更することが可能とされている。
【0038】
詳しくは、ステアリング操作に伴う入力軸24の回転は、該入力軸24に連結されたサーキュラスプライン41からフレクスプライン43を介してサーキュラスプライン42に伝達され、これにより出力軸25へと伝達される。また、波動発生器44がモータ27によって駆動され、フレクスプライン43の楕円形状、すなわち両サーキュラスプライン41,42との噛合部が回転することにより、両サーキュラスプライン41,42間の歯数差に基づく回転差が、モータ駆動に基づく回転として上記ステアリング操作に基づく回転に上乗せされて出力軸25へと伝達される。これにより、入力軸24と出力軸25との間の回転伝達比、すなわちステアリング2と転舵輪12との間の伝達比を変更することが可能となっている。
【0039】
また、伝達比可変装置15は、モータ27の軸方向他端側(図2における下側)に、ピニオンハウジング17(アッパハウジング22)に対してモータ軸34を回転不能にロックするロック装置51を備えている。なお、アッパハウジング22及びロアハウジング21は、上記のように車体に対して固定されたラックハウジング16に固定されており、入力軸24の回転によって回転されないようになっている。すなわち、本実施形態では、アッパハウジング22が非回転部材に相当する。そして、このロック装置51の作動により、必要に応じて、その伝達比を機械的に固定することが可能となっている。
【0040】
詳述すると、図3に示すように、ロック装置51は、モータ軸34に固定されたロックホルダ52と、同ロックホルダ52(の回転)を拘束可能なロックアーム53と、該ロックアーム53を駆動するソレノイド54とを備えている。
【0041】
ロックホルダ52は、略円環状に形成されるとともに、モータ軸34に固定されている。ロックホルダ52の外周面52aには、その厚み方向両側に開口し、周方向に延びる複数(本実施形態では4つ)の係合溝56が凹設されている。これら係合溝56は、ロックホルダ52の外周面52aにおいて、等角度間隔(90°間隔)で4箇所に形成されている。なお、本実施形態では、各係合溝56は、周方向に延びる浅溝56aと、同浅溝56a内における周方向端部の一方に設けられた深溝56bとにより構成されている。そして、隣り合う二つの係合溝56の間には、隣り合う二つの係合溝56の間には、見かけ上、各係合溝56における周方向両側の端壁部57が径方向外側に突出している。
【0042】
ロックアーム53は、ロックホルダ52の径方向外側に配置された支持軸59に対して、同支持軸59の軸心を中心として回動可能に軸支されている。ロックアーム53の一端には、ロックホルダ52の外周面52aに向かって突出する係合部61が設けられている。一方、同ロックアーム53の他端には、軸状のプランジャ62が連結されており、プランジャ62は、ソレノイド54の駆動によりその軸方向に沿って進退可能に構成されている。なお、支持軸59及びソレノイド54は、非回転部材としてのアッパハウジング22に固定されたモータ27のモータハウジング37上に固定されている(図2参照)。そして、ロックアーム53は、支持軸59の周囲に装着された捩りコイルバネ63の弾性力によって、その係合部61側の端部がロックホルダ52側に向かって回動するように付勢されており、係合溝56に挿入されてその係合部61が端壁部57と係合することによりモータ軸34の回転を拘束(ロック)する。
【0043】
なお、端壁部57の側面57aは、係合部61と係合した状態でロックホルダ52が回転することにより、同係合部61を径方向内側に押圧するように(引き込むように)形成されている。詳しくは、端壁部57の側面57aは、径方向外側に向かうにつれて係合溝56の中央側に突出するように傾斜して形成されている。一方、係合部61の各側面61aは、対向する端壁部57の側面57aと略平行に形成されている。これにより、ロック状態でステアリング操作をした場合に、ロックアーム53がロックホルダ52に押し付けられ、係合溝56から離脱しないようになっている。
【0044】
また、ロック装置51は、モータ軸34とロックホルダ52との間に介在されるトレランスリング64を備えている。なお、図3では、説明の便宜上、トレランスリング64の大きさを誇張して示す。
【0045】
トレランスリング64は、帯状の金属板をモータ軸34及びロックホルダ52の周方向に延びる略C字状に湾曲させたリング本体65を備えており、リング本体65には、径方向に弾性変形可能なバネ状部66が形成されている。そして、トレランスリング64は、バネ状部66が径方向に圧縮された状態でモータ軸34とロックホルダ52との間に圧入されており、バネ状部66の弾性力に応じた摩擦抵抗が発生するようになっている。これにより、トレランスリング64は、その外周面(バネ状部66)とロックホルダ52との摩擦抵抗に基づいてモータ軸34とロックホルダ52との相対回転を規制する。一方、トレランスリング64は、所定値以上のトルク入力がある場合には、その外周面が滑り面となることにより、ロックホルダ52に対して相対回転することで上記モータ軸34とロックホルダ52との相対回転を許容する、すなわちトルクリミッタとしての機能を果たすようになっている。つまり、本実施形態では、モータ軸34が第1回転部材に相当し、ロックホルダ52が第2回転部材に相当する。なお、モータ軸34とロックホルダ52との相対回転を規制可能な最大のトルク(上記所定値)を滑りトルクという。
【0046】
このように構成されたロック装置51では、ソレノイド54への通電により、ロックアーム53は、捩りコイルバネ63の弾性力に抗してその係合部61がロックホルダ52の径方向外側に配置されるように駆動される。これにより、モータ軸34がアッパハウジング22に対して回転可能な非ロック状態となる。そして、非ロック状態では、上記のようにステアリング操作に基づく入力軸24の回転にモータ駆動に基づく回転が上乗せされて出力軸25に伝達される。
【0047】
一方、ソレノイド54への通電が停止されることにより、ロックアーム53は、その係合部61側の端部がロックホルダ52側に向かって回動する。これにより、ロックアーム53の係合部61が係合溝56内に挿入され、同係合部61が端壁部57と係合することにより、ロックホルダ52を車体に固定されたアッパハウジング22に対して回転不能に拘束するロック状態となる。そして、ロック状態では、モータ27への電力供給の停止された状態においても、モータ軸34がステータ36に対して空転することを防止して入力軸24と出力軸25との間のトルク伝達が可能となる。また、ロック状態において、波動歯車機構26に異物の噛み込み等の異常が発生して入力軸24及び出力軸25がモータ軸34に対して相対回転不能となった場合でも、滑りトルク以上のトルクが入力されることにより入力軸24及び出力軸25がモータ軸34と一体でアッパハウジング22に対して相対回転する。これにより、異常時においても継続してステアリング操作を行うことが可能となる。
【0048】
(トレランスリング)
次に、本実施形態のトレランスリングについて詳細に説明する。
上述のようにモータ軸34が高速で回転している状態でロックしようとすると、端壁部57の側面57aがロックアーム53を引き込むように形成されていることから、係合部61が端壁部57に係合する瞬間(ロック時)にロックアーム53が径方向内側に付勢され、係合部61が係合溝56の底面にも衝突する。そのため、ロックホルダ52には、ロック時にその周方向及び径方向に沿った各衝撃力が作用し、モータ軸34の軸心とロックホルダ52の軸心とがずれることがある。
【0049】
この点を踏まえ、図3に示すように、トレランスリング64のバネ状部66は、モータ軸34と同軸上にロックホルダ52が組み付けられた状態で、これらモータ軸34とロックホルダ52との間に圧縮状態で配置される複数のメイン突起71と、非圧縮状態で配置される複数のサブ突起72とから構成されている。
【0050】
詳述すると、図3及び図4(a)〜(c)に示すように、メイン突起71及びサブ突起72は、リング本体65から径方向外側に突出した略四角錐台形状にそれぞれ形成されている。メイン突起71の突出量Hmは、サブ突起72の突出量Hsよりも大きく形成されている。そして、図5に示すように、トレランスリング64の中心Oからメイン突起71の頂面71aまでの長さLmが、ロックホルダ52の内径Rよりも大きく形成されることにより、メイン突起71はロックホルダ52の内周面に当接し、モータ軸34とロックホルダ52との間に圧縮状態で配置されている。一方、トレランスリング64の中心Oからサブ突起72の頂面72aまでの長さLsが、ロックホルダ52の内径Rよりも小さく形成されることにより、サブ突起72はモータ軸34とロックホルダ52との間に非圧縮状態で配置されている。また、図4(a)に示すように、メイン突起71とサブ突起とは、その周方向に等角度間隔で交互に形成されるとともに、リング本体65の軸方向中央付近にそれぞれ形成されている。
【0051】
このように構成された伝達比可変装置15では、モータ軸34の軸心とロックホルダ52の軸心とがずれていない状態では、メイン突起71の弾性力に応じて発生する摩擦抵抗に基づいてこれらモータ軸34とロックホルダ52との相対回転が規制される。一方、モータ軸34の軸心とロックホルダ52の軸心とがずれると、衝撃力の作用した側(ロックアーム53側)に位置するサブ突起72がモータ軸34とロックホルダ52との間で圧縮される。これにより、モータ軸34の軸心とロックホルダ52の軸心とがずれた状態ではメイン突起71の摩擦抵抗に加え、サブ突起72の弾性力に応じて発生する摩擦抵抗に基づいてこれらモータ軸34とロックホルダ52との相対回転が規制される。
【0052】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)トレランスリング64のリング本体65から径方向外側に突出するバネ状部66を、モータ軸34とロックホルダ52との間に圧縮状態で配置されるメイン突起71と、非圧縮状態で配置されるサブ突起72とから構成した。
【0053】
上記構成では、モータ軸34の軸心とロックホルダ52の軸心とがずれていない状態では、サブ突起72とロックホルダ52との間の摩擦抵抗はゼロである。そのため、ロック時にモータ軸34の軸心とロックホルダ52の軸心とがずれてサブ突起72が圧縮されることにより、同サブ突起72とロックホルダ52との間で新たに摩擦抵抗が生じることになる。従って、ロック時に滑りトルクを向上させることが可能になり、同ロック時に作用する衝撃力によってモータ軸34とロックホルダ52とが相対回転することをより確実に抑制して伝達比可変装置15の信頼性を向上させることができる。このように上記構成では、突出量の異なるメイン突起71及びサブ突起72を形成することによりロック時に十分な滑りトルクを確保するため、モータ軸34とロックホルダ52とがずれていない状態での滑りトルクが過大とならず、波動歯車機構26の異常時に過大な操舵力を付与しなくてもステアリング操作を継続することができる。
【0054】
また、サブ突起72が非圧縮状態で配置されるため、モータ軸34の軸心とロックホルダ52の軸心とがずれていない状態での滑りトルクは、メイン突起71の弾性力に応じて発生する摩擦抵抗のみにより定まる。そのため、サブ突起72が圧縮状態で配置される場合と異なり、サブ突起72の寸法(突出量)を厳しく管理しなくても製造される個体間で滑りトルクのばらつきが発生することを抑制でき、コストの低減を図ることができる。
【0055】
(2)メイン突起71とサブ突起72とを周方向に等角度間隔で交互に配置したため、ロックアーム53が係合する係合溝56の位置にかかわらず、安定して滑りトルクが低下することを抑制できる。
【0056】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態を図面に従って説明する。なお、説明の便宜上、同一の構成については上記第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0057】
図6(a)〜(c)に示すように、メイン突起71は、リング本体65の軸方向に間隔を空けて同リング本体65の軸方向両側部分にそれぞれ形成されている。
以上記述したように、本実施形態によれば、上記第1実施形態の(1),(2)の作用効果に加え、以下の作用効果を奏することができる。
【0058】
(3)ロックホルダ52に衝撃力が加わって同ロックホルダ52の軸線がモータ軸34の軸線に対して傾斜した状態となると、メイン突起71及びサブ突起72とロックホルダ52との接触状態が乱れることで摩擦抵抗が減少する虞がある。
【0059】
この点、本実施形態では、メイン突起71をリング本体65の軸方向に間隔を空けて同リング本体65の軸方向両側部分にそれぞれ形成したため、リング本体65の軸方向中央付近にのみメイン突起71及びサブ突起72が形成される場合に比べ、同ロックホルダ52がモータ軸34に対して傾き難くなり、摩擦抵抗が減少することを抑制できる。
【0060】
(第3実施形態)
次に、本発明を具体化した第3実施形態を図面に従って説明する。なお、説明の便宜上、同一の構成については上記第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0061】
図7(a)〜(c)に示すように、メイン突起71は、リング本体65の軸方向に間隔を空けて同リング本体65の軸方向両側部分にそれぞれ形成されている。また、サブ突起72は、リング本体65の軸方向一端近傍から他端近傍までの範囲に亘って延びる細長の略四角錐台形状に形成されている。なお、本実施形態のメイン突起71は、その先端が尖った形状となっており、トレランスリング64の軸方向と直交する断面が略三角形状となるように形成されている。また、メイン突起71及びサブ突起72は、リング本体65をプレス加工等によって塑性変形させることにより構成されており、凹周面としてのリング本体65の内周面65aには、メイン突起71及びサブ突起72により構成される凹部71b,72bがそれぞれ形成されている。
【0062】
図8に示すように、リング本体65の内周面65aと、内周面65aに当接する当接面としてのモータ軸34の外周面34aとの間には、潤滑用のグリース73が介在されている。なお、図8では、グリース73を点ハッチングにより示す。また、図8では、説明の便宜上、トレランスリング64の大きさを誇張して示す。そして、モータ軸34の外周面34aには、その周方向に延びる円環状の環状溝74がサブ突起72の凹部72bと対向する位置に形成されている。具体的には、環状溝74は、サブ突起72の長手方向中央付近と対向するように形成されている。
【0063】
このように構成された伝達比可変装置15では、ロック装置51のロック状態で波動歯車機構26に異常が発生した場合において、滑りトルク以上のトルク入力があると、トレランスリング64は、その内周面65aが滑り面となることにより、モータ軸34に対して相対回転する。これにより、上記モータ軸34とロックホルダ52との相対回転が許容され、異常時においても継続してステアリング操作を行うことが可能となる。
【0064】
以上記述したように、本実施形態によれば、上記第1実施形態の(1),(2)、及び上記第2実施形態の(3)の作用効果に加え、以下の作用効果を奏することができる。
(4)リング本体65における凹部71b,72bが形成された内周面65aと、モータ軸34の外周面34aとの間にグリース73を介在し、外周面34aに、環状溝74をサブ突起72の凹部72bと対向する位置に形成した。
【0065】
上記構成によれば、凹部72b及び環状溝74にグリース73が貯留されることで、リング本体65の内周面65aとモータ軸34の外周面34aとの間に十分なグリース73を確保することが可能になるため、滑りトルク以上のトルクが入力された場合に、安定してモータ軸34とロックホルダ52との相対回転を許容できるようになる。これにより、波動歯車機構26の異常時においても、安定したステアリング操作を継続して行うことが可能となる。
【0066】
なお、上記各実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記各実施形態では、トレランスリング64のリング本体65を略C字状に形成したが、これに限らず、円環状(O字状)に形成してもよい。
【0067】
・上記各実施形態では、メイン突起71とサブ突起72とを周方向に等角度間隔で交互に形成したが、これに限らず、メイン突起71とサブ突起72とを交互に形成しなくともよく、また、周方向に等角度間隔で形成しなくともよい。
【0068】
・上記第2及び第3実施形態では、メイン突起71をリング本体65の軸方向に間隔を空けて同リング本体65の軸方向両側部分にそれぞれ形成したが、これに限らず、サブ突起72をリング本体65の軸方向に間隔を空けてその軸方向両側部分にそれぞれ形成してもよい。また、メイン突起71及びサブ突起72をリング本体65の軸方向に間隔を空けてその軸方向両側部分にそれぞれ形成してもよい。このように構成しても、上記第2実施形態の(3)と同様の作用効果を奏することができる。
【0069】
・上記第3実施形態では、環状溝74をサブ突起72の凹部72bと対向する位置に形成したが、これに限らず、メイン突起71の凹部71bのみ、又は凹部71b,72bの双方と対向する位置に形成してもよい。
【0070】
・上記各実施形態では、バネ状部66を突出量の異なる二種類のメイン突起71及びサブ突起72により構成したが、これに限らず、突出量の異なる三種類以上の突起によりバネ状部66構成してもよい。
【0071】
・上記各実施形態では、モータ軸34と同軸上にロックホルダ52が組み付けられた状態で、モータ軸34とロックホルダ52との間にサブ突起72が非圧縮状態で配置されるようにしたが、これに限らず、サブ突起72の突出量Hsがメイン突起71の突出量Hmよりも小さければ、同サブ突起72が圧縮状態で配置されるようにしてもよい。
【0072】
このように構成しても、サブ突起72の突出量Hsはメイン突起71の突出量Hmよりも小さいため、衝撃力が作用した側のメイン突起71が弾性変形可能な範囲の限界付近まで圧縮されることでその圧縮量の増加による弾性力の上昇が鈍く(小さく)なっても、サブ突起72の圧縮量の増加による弾性力の上昇は鈍くなり難い。そのため、バネ状部66を構成する各突起の突出量がすべて同一である場合に比べ、圧縮量の増加による弾性力の上昇を大きくすることが可能になる。これにより、衝撃力が作用した側のメイン突起71及びサブ突起72の圧縮量の増加による弾性力の上昇が、衝撃力が作用した側と反対側のメイン突起71及びサブ突起72の圧縮量の減少による弾性力の低下に比べて小さくなることを抑制でき、トレランスリング64全体での摩擦抵抗が減少すること、すなわち滑りトルクが低下することを抑制できる。
【0073】
・上記各実施形態では、メイン突起71及びサブ突起72がリング本体65から径方向外側に突出したが、これに限らず、メイン突起71及びサブ突起72が径方向内側に突出するように形成してもよい。
【0074】
・上記各実施形態では、本発明を伝達比可変装置に具体化したが、これに限らず、軸状の第1回転部材と、同第1回転部材に嵌合する第2回転部材とを備え、これらの間にトレランスリング介在させることにより、第1回転部材と第2回転部材との間のトルク伝達を制限するトルクリミッタに具体化してもよい。なお、こうしたトルクリミッタとしては、例えばウォーム減速機を構成する第2回転部材としてのウォームホイールと、ウォームホイールが固定される第1回転部材としてのシャフトとを備え、これらの間にトレランスリングを介在させてなるもの等が挙げられる。
【0075】
次に、上記各実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)前記メイン突起と前記サブ突起とが周方向に等角度間隔で交互に形成されたことを特徴とする。上記構成によれば、衝撃力が作用する位置にかかわらず、安定して滑りトルクが低下することを抑制できる。
【0076】
(ロ)前記メイン突起及び前記サブ突起の少なくとも一方は、前記リング本体の軸方向に間隔を空けて該リング本体の軸方向両側部分にそれぞれ形成されたことを特徴とする。
ここで、第2回転部材(ロックホルダ)に衝撃力が加わって同第2回転部材の軸線が第1回転部材(モータ軸)の軸線に対して傾斜した状態となると、メイン突起及びサブ突起と第1回転部材又は第2回転部材との接触状態が乱れることで摩擦抵抗が減少する虞がある。この点、上記構成によれば、メイン突起及びサブ突起の少なくとも一方はリング本体の軸方向に間隔を空けて該リング本体の軸方向両側部分にそれぞれ形成されるため、リング本体の軸方向中央付近にのみメイン突起及びサブ突起が形成される場合に比べ、同第2回転部材が第1回転部材に対して傾き難くなり、摩擦抵抗が減少することを抑制できる。
【0077】
(ハ)前記リング本体における前記メイン突起及び前記サブ突起により構成される凹部が形成された凹周面と、該凹周面に当接する当接面との間には、グリースが介在され、前記当接面には、周方向に延びる環状溝が前記メイン突起及び前記サブ突起の少なくとも一方の凹部と対向する位置に形成されたことを特徴とする。
【0078】
上記構成によれば、リング本体の凹周面と当接面との間にグリースが介在されるため、トレランスリングが当該凹周面を滑り面として第1回転部材又は第2回転部材に対して相対回転することにより、第1回転部材と第2回転部材との相対回転が許容されるようになる。そして、凹部及び環状溝にグリースが貯留されることで、凹周面と当接面との間に十分なグリースを確保することが可能になるため、安定して第1回転部材と第2回転部材との相対回転を許容できるようになる。
【符号の説明】
【0079】
1…車両用操舵装置、3…ステアリングシャフト、10…ピニオン軸、15…伝達比可変装置、16…ラックハウジング、17…ピニオンハウジング、21…ロアハウジング、22…アッパハウジング、24…入力軸、25…出力軸、26…波動歯車機構、27…モータ、34…モータ軸、34a…外周面、51…ロック装置、52…ロックホルダ、52a…外周面、53…ロックアーム、54…ソレノイド、56…係合溝、57…端壁部、59…支持軸、61…係合部、62…プランジャ、63…捩りコイルバネ、64…トレランスリング、65…リング本体、65a…内周面、66…バネ状部、71…メイン突起、71b…凹部、72…サブ突起、72b…凹部、73…グリース、74…環状溝、Hm,Hs…突出量、Lm.Ls…長さ、R…内径。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状の第1回転部材と、前記第1回転部材の外周に嵌合される第2回転部材とを備え、前記第1回転部材と前記第2回転部材との間には、摩擦抵抗に基づいて前記第1回転部材と前記第2回転部材との相対回転を規制又は許容するトレランスリングが介在されるトルクリミッタにおいて、
前記トレランスリングは、前記各回転部材の周方向に延びるリング本体を備え、
前記リング本体には径方向に弾性変形可能なバネ状部が形成され、該バネ状部の弾性力に応じて前記第1回転部材又は前記第2回転部材との間で前記摩擦抵抗を発生させるものであって、
前記バネ状部は、前記第1回転部材と前記第2回転部材との間に圧縮状態で配置される複数のメイン突起と、前記メイン突起よりも突出量の小さな複数のサブ突起とを有することを特徴とするトルクリミッタ。
【請求項2】
請求項1に記載のトルクリミッタにおいて、
前記サブ突起は、前記第1回転部材と前記第2回転部材との間に非圧縮状態で配置されるように形成されたことを特徴とするトルクリミッタ。
【請求項3】
ステアリング操作に基づく入力軸の回転にモータ駆動に基づく回転を上乗せして出力軸に伝達する差動機構と、前記入力軸の回転によって回転しない非回転部材とモータ軸とを相対回転不能に拘束するロック装置とを備え、前記ロック装置は、前記モータ軸と一体に設けられるとともに外周面に係合溝が形成されたロックホルダ、及び前記係合溝に係合することにより前記ロックホルダの回転を拘束可能なロックアームを有し、前記モータ軸と前記ロックホルダとの間には、摩擦抵抗に基づいて前記モータ軸と前記ロックホルダとの相対回転を規制又は許容するトレランスリングが介在される伝達比可変装置において、
前記トレランスリングは、前記モータ軸及び前記ロックホルダの周方向に延びるリング本体を備え、
前記リング本体には径方向に弾性変形可能なバネ状部が形成され、該バネ状部の弾性力に応じて前記モータ軸又は前記ロックホルダとの間で前記摩擦抵抗を発生させるものであって、
前記バネ状部は、前記モータ軸と前記ロックホルダとの間に圧縮状態で配置される複数のメイン突起と、前記メイン突起よりも突出量の小さな複数のサブ突起とを有することを特徴とする伝達比可変装置。
【請求項4】
請求項3に記載の伝達比可変装置において、
前記サブ突起は、前記モータ軸と前記ロックホルダとの間に非圧縮状態で配置されるように形成されたことを特徴とする伝達比可変装置。
【請求項5】
略リング状をなすリング本体と、前記リング本体に形成され、径方向に弾性変形可能なバネ状部とからなるトレランスリングにおいて、
前記バネ状部は、複数のメイン突起と、前記メイン突起よりも突出量の小さな複数のサブ突起とを有し、
前記メイン突起及び前記サブ突起により構成される凹部の全部又は一部にグリースを貯留したことを特徴とするトレランスリング。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−197927(P2012−197927A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182338(P2011−182338)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000151597)株式会社東郷製作所 (78)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】