説明

トレッドゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】石油外資源の含有比率を高めることで、地球に優しく、将来の石油の供給量の減少に備え、ウェット路面およびドライ路面において充分な制動性能を維持し転がり抵抗を軽減したトレッド用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】天然ゴムおよび/またはエポキシ化天然ゴムを50質量%以上含むゴム成分100重量部に対して、5質量部以上のレジン、および白色充填剤80重量%以上からなる充填剤を30〜150質量部含有するトレッド用ゴム組成物。前記レジンは分子量分布において少なくとも2つのピークを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトレッドゴム組成物及びそれをトレッド部に用いた空気入りタイヤ、特に、天然資源を材料に用いたゴム組成物をトレッド部に採用して制動性を改善し、かつ転がり抵抗を低減した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の枯渇が問題とされている。石油原料の供給量が年々減少しているこのことから、将来的に石油価格の高騰が予測され、スチレンーブタジエンゴム等の合成ゴムやカーボンブラックなどの石油資源からなる原材料の供給は将来、不足することが予測される。将来、石油資源の供給不足を想定すると、天然ゴムやシリカ、炭酸カルシウム等の白色充填剤のような天然資源の原材料を使用していくことが必要となる。
【0003】
従来、天然ゴムを主体としたトレッドゴム配合では、ウェット路面およびドライ路面における走行性能は、通常使用されるスチレンーブタジエンゴムに対して劣る。そこで、充填剤としてシリカ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウムなどの白色充填剤を使用することでウェット路面における走行性能を改善する方法があるが、その場合、ドライ路面における走行性能が不充分となる。
【0004】
特許文献1には、石油が枯渇したときを想定したタイヤ用原材料を示す技術が開示されているが、ウェット路面およびドライ路面において充分な走行性能を示すトレッド用ゴム組成物については開示されていない。
【0005】
また特許文献2には、石油外資源の含有比率を高めることで、地球に優しく、将来の石油の供給量の減少に備え、ウェット路面およびドライ路面において充分な走行性能を示すタイヤのトレッド用ゴム組成物が開示されている。
【特許文献1】特開2003−63206号公報
【特許文献2】特開2006−63093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は石油資源の原材料に代えて天然資源の原材料を用いるものであり、特に天然ゴム及び/または改質天然ゴムを用い、さらにレジンを所定量配合し、その分子量分布を調整することで、制動性を改善し転がり抵抗を低減したトレッドゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、天然ゴムおよび/または改質天然ゴムを50質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、分子量分布のピークを少なくとも2つ含むレジンであって、前記ピークのうち低分子量側の最大ピーク(P1)のピーク高さ(H1)と高分子側の最大ピーク(
P2)のピーク高さ(H2)の比が以下の関係にある前記レジンを5質量部以上、および
0.5≦(H2/H1)≦2.0
白色充填剤を80質量%以上を含む充填剤を30〜150質量部含有するトレッドゴム組成物である。前記レジンがテルペン系重合体またはテルペン系共重合体であることが望ましい。
【0008】
前記レジンの分子量分布のピークは、いずれも3000以下であり、少なくとも1つの分子量分布のピークは1000以上であり、少なくとも1つの分子量分布は1000未満であることが望ましい。また改質天然ゴムは、エポキシ化天然ゴムであり、そのエポキシ化率が12モル%以上であることが望ましい。
【0009】
さらに本発明は、前記トレッドゴム組成物を用いた空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、天然資源の原材料を用いることで地球に優しく、将来の石油の供給量の減少に備えたタイヤに用いるトレッドゴム組成物を提供することができ、さらに本発明のトレッドゴム組成物から得られる空気入りタイヤは、ウェット路面およびドライ路面において優れた制動性能を有し、転がり抵抗も低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、天然ゴムおよび/または改質天然ゴムを50質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、分子量分布のピークを少なくとも2つ含んでいるレジンを5質量部以上、および白色充填剤を80質量%以上を含む充填剤を30〜150質量部含有するトレッドゴム組成物である。
【0012】
<ゴム成分>
本発明のトレッド用ゴム組成物におけるゴム成分は、天然ゴム(NR)および/または改質天然ゴムが用いられる。
【0013】
天然ゴムは、シス1、4ポリイソプレンが使用されるが、トランス1、4ポリイソプレンを適宜混合することもできる。
【0014】
改質天然ゴムは、エポキシ化天然ゴム(ENR)または脱蛋白天然ゴムが使用される。エポキシ化天然ゴムは、天然ゴムの二重結合をエポキシ化したものをいう。エポキシ化天然ゴムは市販品としても入手できる。天然ゴムをエポキシ化する方法としては、クロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法などの方法を用いて行なうことができる。たとえば、天然ゴムに過酢酸や過ギ酸などの有機過酸を反応させる方法などがあげられる。
【0015】
エポキシ化天然ゴムのエポキシ化率の平均は12モル%以上であることが好ましく、15モル%以上であることがより好ましい。エポキシ化率の平均が12モル%未満では、トレッドゴム組成物のウェットおよびドライ路面における摩擦係数が低くなり制動性能が改善できない。また、エポキシ化率の平均は80モル%以下であることが好ましく、60モル%以下であることがより好ましい。エポキシ化率の平均が80モル%を超えるとゴム成分のゲル化が生じる。
【0016】
ゴム成分中における天然ゴムおよび/または改質天然ゴムの含有率は50質量%以上、好ましくは80質量%以上である。含有率が50質量%未満では、石油外資源の比率が小さくなる。ゴム成分中における天然ゴムおよび/または改質天然ゴムの含有率は、特に100質量%にすることで、制動特性の改善と転がり抵抗の低減の両立を図ることができる。
【0017】
<その他のゴム成分>
本発明ではゴム成分として、天然ゴム、エポキシ化天然ゴムまたは脱蛋白天然ゴム以外に使用されるゴム成分として次のものがある。例えば、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、イソブチレンとp−メチルスチレンとの共重合体のハロゲン化物、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられる。なお、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)とは、エチレン−プロピレンゴム(EPM)に第三ジエン成分を含むものである。ここで第三ジエン成分としては、たとえば炭素数5〜20の非共役ジエンが挙げられ、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエンおよび1,4−オクタジエン、または1,4−シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエンなどの環状ジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ブチリデン−2−ノルボルネン、2−メタリル−5−ノルボルネンおよび2−イソプロペニル−5−ノルボルネンなどのアルケニルノルボルネン等が例示できる。特に、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等が使用できる。
【0018】
<レジン>
本発明のトレッド用ゴム組成物はレジンがゴム成分100質量部に対して、5質量部以上、50質量部以下配合される。
【0019】
レジンとしては、芳香族系石油樹脂(C9留分による樹脂)、クマロンインデン樹脂(石炭クマロンインデン樹脂など)、テルペン系樹脂、芳香族変性テルペン樹脂(天然芳香族テルペンなど)、ロジン樹脂、フェノール系樹脂、石油系レジン(C5留分による樹脂)などがあげられる。なかでも、天然芳香族テルペン、石炭クマロンインデン樹脂などの石油以外の天然資源をもとに得られる天然由来のレジンが好ましい。
【0020】
例えば、リモネンなどのジペンテン、α−ピネン、β−ピネン、3−カレン、ターピノーレン、ミルセンなどのモノテルペン、ロンギフォーレン、カリオフィレンなどのセスキテルペンなどのテルペン類をモノマーとして単独重合または共重合したテルペン系(共)重合体が優れている。テルペン系(共)重合体は、テルペン類のモノマーのみの単独重合または共重合体とすることもできるが、テルペン類のモノマーとテルペン類以外のモノマーを用いた共重合体とすることもできる。
【0021】
テルペン系(共)重合体におけるテルペン類の単独重合体または共重合体の含量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上、特に80質量%以上がより好ましい。テルペン類の(共)重合体が50質量%未満では、充填剤の分散性向上、耐摩耗性の改善の効果が期待できない。
【0022】
テルペン系(共)重合体として、リモネン、α−ピネン、β−ピネンおよびターピノーレンの群から選択される1種以上のモノマーの単独重合体、または共重合体は天然ゴム、ENRなどの改質天然ゴム、さらにSBRなどの合成ゴムとの相溶性に優れ、好適に使用される。特に、β−ピネン及び/またはリモネンの(共)重合体は、ガラス転位温度が−30℃〜−45℃であり前記ゴム成分との相溶性に優れている。なおテルペン系(共)重合体は、耐熱老化性、耐候性、耐オゾン性を改善するため水素添加処理することができる。
【0023】
なおレジンは、テルペン類以外にロジンなどの天然由来のモノマー、イソプレンやフェノールなどの石油資源由来のモノマー、クマロンなどの石炭由来のモノマーも使用できる。なかでも環境に配慮する観点から石油資源由来のモノマー及び石炭資源由来のモノマーの使用は避けた方が好ましい。
【0024】
前記レジンのゲルパーミエーション・クロマトグラムの測定条件は次のとおりである。
カラム:東ソー(株)製のTSKgerG2000H8(60cm×2(120cm))、
検出器:東ソー(株)製RI(40℃)、
流速:1ml/min THF、
圧力:22〜23kg/cm2
移動相:1%THF、
装置:東ソー(株)製TOYOSODA HLC−801A。
【0025】
上記測定条件で得られる分子量分布において、少なくとも2つのピークを有している。図1は本発明で使用されるレジンA、レジンBの2種類のレジンの分子量分布を示す。例えば、レジンAはこの分子量分布において、GPC測定におけるポリスチレン換算の分子量が1000以上の高分子量側と、ポリスチレン換算の分子量が1000未満の低分子量側に、それぞれピークP1、P2を有している。低分子量側のピーク(P1)の位置が分子量1000以上の場合、転がり抵抗の低減を図ることが困難であり、高分子量側のピーク(P2)の位置が分子量1000以下の場合、制動性を向上することができない。
【0026】
また、分子量分布においてピークを1つ有する従来のレジンを使用すると、そのピークを示す分子量の位置に従って、転がり抵抗の低減またはグルップ性能の向上のいずれかの特性に偏り、両特性のバランスを図ることが困難である。なお分子量分布におけるピークは、少なくとも2つ必要であるが、低分子量側の最大ピーク(P1)と高分子量側の最大ピーク(P2)の間に1つ以上の更なる中間分子量のピーク(Pm)を有することができる。また、低分子量側の最大ピーク(P1)より低分子側あるいは高分子量側の最大ピーク(P2)よりも高分子側にもピークを有することもできる。
【0027】
ここで、低分子量側の最大ピーク(P1)とは、低分子量側で最大のピーク高さ(H1)を有するピークをいい、高分子量側の最大ピーク(P2)とは、高分子量側で最大のピーク高さ(H2)を有するピークをいう。
【0028】
本発明では、低分子量側の最大ピーク(P1)と高分子量側の最大ピーク(P2)の、それぞれのピーク高さの比(H2/H1)は、0.5以上で2.0以下の範囲、好ましくは0.8以上で1.5以下の範囲である。ピーク高さの比(H2/H1)が0.5未満の場合、グリップ性が低下する傾向があり、一方2.0を超えると転がり抵抗が悪化する傾向がある。
【0029】
ここでピーク高さの比は、図1に示すようにGPC測定で得られた分子量とピーク強度の関係を示すグラフにおいて、低分子量側の最大ピーク(P1)のピーク高さ(H1)の高分子量側の最大ピーク(P2)のピーク高さ(H2)に対する比(H2/H1)として定義される。図1において高分子量側の最大ピーク(P2)は、分子量が3000以下であることが好ましい。分子量が3000を超えた領域にピークが存在すると、ゴム組成物の硬度が高くなり、制動性が低下する傾向にある。
【0030】
本発明において、レジンの軟化点は50℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。軟化点が50℃未満では、製造工程での粘着性が強くなり、タイヤの製造における作業が困難である傾向がある。また、レジンの軟化点は150℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましい。軟化点が150℃をこえると、ウェット制動性能が不充分となり、レジンを配合する効果がなくなる傾向がある。
【0031】
レジンの含有量は、ゴム成分100質量部に対して5質量部以上、好ましくは8質量部以上である。含有量が5質量部未満では、制動性能の改善効果が小さくなる。また、含有量は50質量部以下、好ましくは35質量部以下である。含有量が50質量部をこえると、硬度が増大する。
【0032】
<充填剤>
本発明のトレッド用ゴム組成物に使用される充填剤としては、シリカ、炭酸カルシウム、セリサイト、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、クレーなどが挙げられる。本発明のトレッド用ゴム組成物としては、シリカ、炭酸カルシウム、セリサイトなどの白色充填剤を用いることが好ましい。これらの白色充填剤を用いることで、カーボンブラックなどの充填剤の場合と異なり、転がり抵抗が低減し、石油外資源の比率が上昇するという効果が得られる。
【0033】
充填剤中の白色充填剤の含有率は80質量%以上、好ましくは90質量%以上である。含有率が80質量%未満では、石油外資源の比率が低下し、好ましくない。白色充填剤の含有率は100質量%であることが好ましい。
【0034】
本発明でカーボンブラックを用いる場合、該カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、100m2/g以上1500m2/g以下が好ましい。該窒素吸着比表面積が100m2/g以上である場合、ゴム組成物の機械的強度が改善され、1500m2/g以下である場合製造時の加工性を確保する点で好ましい。該窒素吸着比表面積は、105m2/g以上がより好ましく、また、1300m2/g以下、さらに1000m2/g以下がより好ましい。
【0035】
また、シリカを用いる場合、シリカの窒素吸着比表面積(BET法)は、たとえば100〜300m2/g、さらに150〜250m2/gの範囲内であることが好ましい。シリカの窒素吸着比表面積が100m2/g以上である場合、補強効果が十分得られることによりタイヤの耐摩耗性が良好に向上する。一方、該窒素吸着比表面積が300m2/g以下である場合、それぞれのゴムの製造時の加工性が良好であり、タイヤの操縦安定性も良好に確保される。なお、窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される。
【0036】
<シランカプリング剤>
白色充填剤としてシリカを使用する場合、シランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100質量部に対して1〜20質量部とすることが好ましい。配合量が1質量部未満では、耐摩耗性が悪くなる傾向があり、一方シランカップリング剤の配合量が20質量%以上の場合、ゴムの混練、押出工程での焼け(スコーチ)が生じる可能性がある。
【0037】
含硫黄シランカップリング剤としては、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル−メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル−メタクリレート−モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が例示される。その他のシラン系カップリング剤としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等を使用することができる。
【0038】
<その他の配合剤>
ゴム組成物には、上記の他に、加硫剤、加硫促進剤、軟化剤、可塑剤、老化防止剤およびスコーチ防止剤等を添加することが可能である。
【0039】
加硫剤としては、有機過酸化物もしくは硫黄系加硫剤を使用できる。有機過酸化物としては、たとえば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3あるいは1,3−ビス(t−ブチルパーオキシプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルパーオキシ−ジイソプロピールベンゼン、t−ブチルパーオキシベンゼン、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシロキサン、n−ブチル−4,4−ジ−t−ブチルパーオキシバレレートなどを使用することができる。これらの中で、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼンおよびジ−t−ブチルパーオキシ−ジイソプロピルベンゼンが好ましい。また、硫黄系加硫剤としては、たとえば、硫黄、モルホリンジスルフィドなどを使用することができる。これらの中では硫黄が好ましい。
【0040】
加硫促進剤としては、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系またはアルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、もしくは、キサンテート系加硫促進剤のうち少なくとも一つを含有するものを使用することが可能である。
【0041】
老化防止剤としては、アミン系、フェノール系、イミダゾール系の化合物や、カルバミン酸金属塩、ワックスなどを適宜選択して使用することが可能である。
【0042】
本発明では練り加工性を一層向上させるために軟化剤を併用しても良い。軟化剤としては、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリンなどの石油系軟化剤、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油などの脂肪油系軟化剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリンなどのワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸などの脂肪酸、等が挙げられる。
【0043】
可塑剤としては、DMP(フタル酸ジメチル)、DEP(フタル酸ジエチル)、DBP(フタル酸ジブチル)、DHP(フタル酸ジヘプチル)、DOP(フタル酸ジオクチル)、DINP(フタル酸ジイソノニル)、DIDP(フタル酸ジイソデシル)、BBP(フタル酸ブチルベンジル)、DLP(フタル酸ジラウリル)、DCHP(フタル酸ジシクロヘキシル)、無水ヒドロフタル酸エステル、DOZ(アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル)、DBS(セバシン酸ジブチル)、DOS(セバシン酸ジオクチル)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、DBM(マレイン酸ジブチル)、DOM(マレイン酸−2−エチルヘキシル)、DBF(フマル酸ジブチル)等が挙げられる。
【0044】
スコーチを防止または遅延させるためのスコーチ防止剤としては、たとえば無水フタル酸、サリチル酸、安息香酸などの有機酸、N−ニトロソジフェニルアミンなどのニトロソ化合物、N−シクロヘキシルチオフタルイミド等を使用することができる。
【0045】
<タイヤ構造>
本発明の空気入りタイヤの構造は、たとえば図2のタイヤ断面の右上半分に例示されるものである。タイヤ1は、トレッド部を構成するトレッドゴム7と、その両端からタイヤ半径方向内方にのびる一対のサイドウォール部8と、各サイドウォール部の内方端に位置するクリンチ部3およびリム上部に位置するチェーファー部2とを備える。また一対のビードコア4の間にはカーカス10が架け渡されるとともに、このカーカス10のタイヤ半径方向外側にブレーカー部9が配置される。前記カーカス10は、カーカスコードを配列する1枚以上のカーカスプライから形成され、このカーカスプライは、トレッド部からサイドウォール部を経て、ビードコア4と、該ビードコア4の上端からサイドウォール方向に延びるビードエーペックス5との廻りをタイヤ軸方向の内側から外側に折返され、折返し部によって係止される。ブレーカー部は、ブレーカーコードを配列した2枚以上のブレーカープライからなり、各ブレーカーコードがブレーカープライ間で交差して配置される。
【0046】
本発明のトレッド用ゴム組成物を用いて、通常の方法により、該ゴム組成物からなるトレッドを含有するタイヤを製造することができる。すなわち、必要に応じて前記薬品を配合した本発明のトレッド用ゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤのトレッドの形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。
【実施例】
【0047】
実施例にもとづいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0048】
実施例1、2及び比較例1〜3
表1に記載する硫黄および加硫促進剤以外の各種薬品を(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーに充填し、77rpmで145℃に到達するまで混練した。得られた混練物に対して、硫黄および加硫促進剤を表1に示す量配合し、オープンロールで80℃で6分間混練し未加硫ゴム組成物を得た。前記未加硫ゴム組成物をタイヤ成型機上でトレッド形状に成形し、他のタイヤ部材と貼りあわせて未加硫タイヤを作製した。それを160℃で20分間加硫することにより、タイヤを製造した。
【0049】
表1に示すゴム配合で調整したトレッドゴム組成物を用い、常法にて加硫成形し、図2に示す構造を有するサイズ195/65R15の空気入りタイヤを作製した。ここで、試作タイヤの基本構造は次のとおりである。
【0050】
カーカスプライ
コード角度 タイヤ周方向に88度
コード材料 ポリエステル 1670/2 dtex
ブレーカー
コード角度 タイヤ周方向に20度×−20度
コード材料 スチールコード
【0051】
【表1】

【0052】
以下に実施例において使用した各種薬品を詳細に説明する。
(注1)ENR−25:GATHRIE POLYMER SDN. BHD社製のエポキシ化天然ゴム(エポキシ化率:25モル%)
(注2)NR:RSS#1
(注3)カーボンブラック:昭和キャボット(株)製のショウブラックN220
(注4)シリカ:テグッサ社製のウルトラシル VN3(BET比表面積:175m2/g)
(注5)シランカップリング剤:テグッサ社製のSi−69
(注6)オイル:植物油:日清製油(株)製の精製パーム油J(S)
(注7)レジンA:ヤスハラケミカル(株)製のPX300N(β−ピネン重合樹脂、分子量分布:高分子量側のピーク位置がMw=2750、低分子量側のピーク位置がMw=540、ピークの強度比(H2/H1=0.81)
(注8)レジンB:ヤスハラケミカル(株)製のPX1150N(β−ピネン重合樹脂、分子量分布:高分子量側のピーク位置がMw=2600、低分子量側のピーク位置がMw=210、ピークの強度比(H2/H1=2.83)
(注9)ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックワックス
(注10)老化防止剤:精工化学(株)製のオゾノン6C
(注11)ステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン酸
(注12)酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
(注13)硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
(注14)加硫促進剤TBBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS
これら薬品のうち石油外資源は、NR、ENR、シリカ、硫黄、オイル、レジンA、レジンB、ステアリン酸、酸化亜鉛である。
【0053】
得られたタイヤを使用して、以下の試験をおこなった。
<ドライ制動指数、ウエット制動指数>
試験タイヤを車に装着し、ドライアスファルト路面およびウェットアスファルト路面において、時速100kmからの制動停止距離を測定し、その測定値から、摩擦係数μを求めた。比較例1のμを100として指数表示した。指数が大きいほど性能は良好である。
【0054】
<転がり抵抗指数>
試験タイヤを15×6JJリムに装着し、気温25℃、内圧230KPaを充填し、荷重3.43kNで速度80km/hの条件で転がり抵抗試験機を用いて転がり抵抗を測定した。転がり抵抗の測定値を荷重で除した転がり抵抗係数(RRC)につき、実施例1、2、比較例2、3の転がり抵抗を、下記の式により比較例1(基準配合)を100として表示した。値が大きいほど転がり抵抗が小さく性能が良好である。結果を表1に示す。
転がり抵抗指数=基準配合の転がり抵抗/各配合の転がり抵抗係数×100
<性能評価>
表1において、本発明の実施例1、2は分子量分布においてピーク高さの比(H2/H1)が、0.5〜2.0の範囲に含まれる2つのピークを有しているレジンA(H2/H1=0.81)を8質量部配合しており、ドライ制動性能、ウエット制動性能、転がり抵抗指数が総合的に優れている。
【0055】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に用いられるレジンの分子量分布を示すグラフである。
【図2】本発明の空気入りタイヤの断面図の右半分である。
【符号の説明】
【0057】
1 タイヤ、2 チェーファー、3 クリンチゴム、4 ビードコア、5 ビードエーペックス、7 トレッド部、8 サイドウオール部、9 ブレーカー部、10 カーカス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムおよび/または改質天然ゴムを50質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、
分子量分布のピークを少なくとも2つ含むレジンであって、前記ピークのうち低分子量側の最大ピーク(P1)のピーク高さ(H1)と高分子側の最大ピーク(P2)のピーク高さ(H2)の比が以下の関係にある前記レジンを5質量部以上、および
0.5≦(H2/H1)≦2.0
白色充填剤を80質量%以上を含む充填剤を30〜150質量部含有するトレッドゴム組成物。
【請求項2】
レジンがテルペン系重合体またはテルペン系共重合体である請求項1に記載のトレッドゴム組成物。
【請求項3】
レジンの分子量分布のピークは、いずれも3000以下であり、少なくとも1つの分子量分布のピークは1000以上であり、少なくとも1つの分子量分布は1000未満である請求項1または2に記載のトレッドゴム組成物。
【請求項4】
改質天然ゴムは、エポキシ化天然ゴムであり、そのエポキシ化率の平均が12モル%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載のトレッドゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のトレッドゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−7454(P2009−7454A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−169066(P2007−169066)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】