説明

トロリ線の損耗防止装置およびトロリ線の損耗防止方法

【課題】必要最小限の動作によってトロリ線の損耗を確実に防止できると共に、万一地落事故などの事故が発生した時にも被害を最小限に抑えることができるトロリ線の損耗防止装置およびトロリ線の損耗防止方法を提供する。
【解決手段】第1の電車線2Aと第2の電車線2Bを切り替えるエアセクション3の両端に位置する電車線2A,2Bにそれぞれ取り付けられてエアセクション3内に流れる電流Ia,Ibを計測する第1および第2の電流計測器4A,4Bと、前記両電車線2A,2Bに接続されて両電車線2A,2B間の開放状態および短絡状態を切替可能とする投入器6と、前記電流Ia,Ibおよび電位差Vの測定値を入力し、エアセクション3内でトロリ線2At,2Btの損耗が危惧される損耗危惧条件D1〜D9を満たすときに、前記投入器6を短絡状態に切り替える制御部7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトロリ線の損耗防止装置およびトロリ線の損耗防止方法に関するものであり、より詳細には、エアセクション箇所のトロリ線損耗防止を行うトロリ線の損耗防止装置およびトロリ線の損耗防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、直流電力を用いて走行する電車は変電所からの電力を電車線を介して供給されることによって走行することができる。なお、本明細書における電車線とは、大電流を流すことができるように構成されたき電線と、このき電線に電気的に接続されるトロリ線の総称である。
【0003】
電車はトロリ線にパンタグラフを押し付けることにより、トロリ線を介して電力の供給を得ることができる。また、変電所毎に電車線を分断することにより、地落事故などの故障時に被害を最小限にすることが行われている。前記電車線の切り替えは、エアセクションによって行われ、一方のトロリ線に接触するパンタグラフを介して給電されていた電車が移動することにより、そのパンタグラフが他方のトロリ線に接触することにより行われる。
【0004】
しかしながら、電車線の切替時に電車線間に電位差が発生している場合には、パンタグラフが両方のトロリ線を跨いだ状態で大電流を流すことがあり、この状態で少なくとも何れか一方のトロリ線とパンタグラフが不完全接触となった場合に、アークが発生し、トロリ線の損耗を起こし、さらには、トロリ線が切断することもあった。
【0005】
そこで、電車をエアセクション内に停車させないための標識を設置することによりトロリ線の損耗が生じるような事態の発生を防止することが行われている。また、機構的にトロリ線が切れないように固定するものもあった。
【0006】
さらに、特開平8−216741号公報(以下、特許文献1という)には、分断された2つの電車線間を跨いで電車が走行するときに、エアセクション内におけるアークおよびジュール熱の発生を防止するために、エアセクションの近傍を走行する電車を検知するための検知センサを設け、この検知センサによって電車がエアセクションに近接していることを検知したときに、2分されたき電線間を短絡するトロリ線の損耗防止装置が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開平8−216741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、電車をエアセクション内に停車させないための標識を設置する方法では、この標識の見落としなど人的要因により有効性がなくなることがあった。また、機構的にトロリ線が切れないよう固定する方法では、電車の通過速度が制限されるため、車庫などの低速区間以外には使用できないという問題があり、加えて、トロリ線の損耗を引き起こす原因であるトロリ線間の短絡電流を防止するものではなかった。
【0009】
特許文献1のように、エアセクションに電車が近づく度にエアセクション内における電位差をなくすために2つのき電線間を短絡することにより、電車が通る度に電車が通り過ぎるまでの所定の時間においてき電線間を繋ぐので、この時間内に地落事故などの事故が発生した場合にその被害を拡大してしまうという問題があった。また、き電線間を頻繁に短絡するので、き電線間を短絡させるためのスイッチが早期に劣化し、より頻繁にメンテナンスを行う必要が生じるという問題がある。
【0010】
本発明は、上述の事柄を考慮に入れてなされたものであり、その目的は、必要最小限の動作によってトロリ線の損耗を確実に防止できると共に、万一地落事故などの事故が発生した時にも被害を最小限に抑えることができるトロリ線の損耗防止装置およびトロリ線の損耗防止方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、第1発明は、第1の電車線と第2の電車線を切り替えるエアセクションの両端に位置する電車線にそれぞれ取り付けられてエアセクション内に流れる電流を計測する第1および第2の電流計測器と、前記両電車線に接続されて両電車線間の開放状態および短絡状態を切替可能とする投入器と、前記電流および電位差の測定値を入力し、エアセクション内でトロリ線の損耗が危惧される損耗危惧条件を満たすときに、前記投入器を短絡状態に切り替える制御部とを備えることを特徴とするトロリ線の損耗防止装置を提供する。
【0012】
前記構成のトロリ線の損耗防止装置によれば、電流の測定値が損耗危惧条件を満たして、エアセクション内においてトロリ線の損耗が危惧される場合にのみ投入器が両電車線間を短絡するので、エアセクション内における電位差を無くしてアーク発生を阻止することができる。逆に、エアセクションを電車が通過するときであっても電流計測器によって計測された電流が損耗危惧条件を満たしていない場合には投入器が両電車線間を短絡することがなく、両電車線は分離状態を保つことができる。前記損耗危惧条件とは少なくともトロリ線の溶断が危惧される条件が含まれており、好ましくは、溶断に至らないまでも損耗が危惧される条件で投入器が両電車線間を短絡する。
【0013】
前記電車線は例えば大電流を流すことができるように、より太く形成されたき電線と、このき電線に電気的に接続されるトロリ線およびこのトロリ線を吊すき電吊架式のフィーダメッセンジャを備えるもののみならず、き電線またはメッセンジャを備えないトロリ線であってもよい。また、前記エアセクションは第1の電車線および第2の電車線を交差させることなく平行に配置し、その一端においては第1の電車線、他端においては第2の電車線がパンタグラフに接触するようにトロリ線を上下方向に傾斜して配置する部分である。
【0014】
前記電流計測器は例えばパンタグラフが接触するトロリ線のエアセクションを挟む2箇所に取り付けられることが好ましく、その構成は、例えばトロリ線に形成した分流線に設けた貫通型変流器であることが好ましい。また、この電流計測器は補機電流程度の小電流を精度良く計測する高速直流変流器型検出器と力行電流などの大電流を計測可能なホール素子型電流検出器を組み合わせてなり、小電流から大電流まで精度良く測定可能とするものであることが好ましい。すなわち、エアセクションの両端部においてエアセクション側に流れる電流の合計がエアセクション内にある電車に流れる電流を示す。
【0015】
前記投入器は例えばエアセクション近傍において第1の電車線のき電線と第2の電車線のき電線に接続され、両き電線間を短絡できるスイッチ回路を備えることが好ましい。また、投入器は制御部からの信号によって第1の電車線と第2の電車線を分離できるように構成する。前記き電線はトロリ線に比べて太い電線でありパンタグラフが直接接触するものではないから、投入器を接続するのに適しているが、トロリ線に対してエアセクションの近傍において投入器を接続してもよい。トロリ線に投入器を取り付けた場合には投入器を短絡状態に切り替えることによって両トロリ線間の電位差を最小とすることができるので、アークの発生をさらに確実に阻止することができる。
【0016】
前記制御部は電流の測定値を用いてエアセクション内においてトロリ線の損耗が危惧される損耗危惧条件を満たすかどうかを判断し、この損耗危惧条件を満たすときには前記投入器を短絡状態に切り替える。一方、電車がエアセクションを離れた場合は電車線に流れるる電流がなくなるので、これによって投入器を開放状態に切り替える。すなわち、制御部が電流の測定値を用いてトロリ線の損耗可能性を正確に判断することにより、投入器を損耗危惧条件を満たす必要最小限の時間だけ短絡状態にするように制御することが好ましい。
【0017】
前記損耗危惧条件は、前記電流が電車の存在を示す補機電流の閾値以上であり、かつ、前記補機電流の流れる時間が徐行検出の閾値に達した条件を含む場合(請求項2)は、補機電流は電車に定常的に流れるものであるから、補機電流の流れが所定時間以上継続する条件によって、エアセクション内に徐行状態の電車が進入し、トロリ線とパンタグラフの間で発生するアークがトロリ線を傷つける可能性が高いことを検出することができる。
【0018】
前記損耗危惧条件は、前記電流が電車の力行を示す力行電流の閾値以上であり、かつ、この力行電流の時間積分値が発熱検出の閾値に達した条件を含む場合(請求項3)は、電流の時間積分によってアーク熱やジュール熱の発生を推定してトロリ線を傷つける可能性が高いことを検出することができる。
【0019】
前記損耗危惧条件は、前記第1および第2の電流計測器により測定した電流の絶対値が共に電車の存在を示す閾値以上であり、かつ、これらの電流の流れる時間が滞在制限時間の閾値に達した条件を含む場合(請求項4)は、パンタグラフによってトロリ線を跨いでいる状態においてエアセクション内における滞在制限時間に達した電車が次に力行電流を流すときに、トロリ線とパンタグラフとの間で発生するアークがトロリ線を損耗する可能性が高いことを検出することができる。
【0020】
前記トロリ線の損耗防止装置は、前記エアセクションにおける両電車線間の電位差を計測する電位差計測器を備え、前記制御部が電位差の測定値を入力し、これが損耗危惧条件を満たすかどうかを判断するものであり、かつ、前記損耗危惧条件は、前記電位差がアーク発生可能性を示す閾値以上であり、かつ、前記閾値以上の電位差が発生する時間がアーク検出の閾値に達した条件を含む場合(請求項5)は、電車線間に生じている電位差によってアークが発生する可能性が高いことを検出でき、アーク発生の原因となっている電位差をなくすことができる。また、2本のトロリ線間をパンタグラフが跨いでいる状態で電位差が生じている場合には、パンタグラフとトロリ線の間の不完全接触によりアークが発生している状況を検出し、このアーク発生の原因となっている電位差をなくすことができる。
【0021】
前記電位差計測器は、例えば、第1および第2の電車線側のトロリ線に接続されてその大地間電位をそれぞれ測定する第1および第2の電圧計測器と両大地間電位の差を求める演算器とを備える。
【0022】
前記制御部は、前記電位差が故障発生を検出する閾値以上であることを検出するときに前記投入器の短絡状態への切り替えを阻止するものである場合(請求項6)には、何れか一方の電車線において地落事故のような故障が発生している場合に、2つの電車線を短絡させることを阻止して事故拡大を防止することができる。
【0023】
前記制御部は、前記各閾値を設定可能であり、かつ、前記損耗危惧条件として前記条件を組み合わせた論理式を設定可能である条件設定手段を備える場合(請求項7)には、閾値の設定変更や条件の組み合わせ論理式を設定変更することにより、より実情に即した設定を行うことができる。
【0024】
条件設定手段はコンピュータによって実行可能なソフトウェアによって構成されることが好ましく、各閾値の大きさを示す閾値設定データおよび前記論理式を示す条件論理式データを用いて損耗危惧条件を定めるものであることが好ましい。また、条件設定手段は表示装置に設けたタッチパネルを介して設定変更を可能とする対話式設定変更プログラムを備えることが好ましい。論理式は各条件の論理積、論理和の組み合わせを表すものであることが好ましい。しかしながら、条件設定手段はスイッチやダイヤルなどを用いた入力手段を備えたハードウェアであってもよい。
【0025】
前記制御部は、第1の電車線および第2の電車線への給電状態をそれぞれ検知する遮断検出器に接続され、これらの遮断検出器が第1の電車線または第2の電車線への給電の遮断状態を検出するときに前記投入器の短絡状態への切り替えを阻止するものである場合(請求項8)には、何らかの故障によって何れか一方の電車線への給電が遮断されている場合に、投入器の短絡状態への切り替えを阻止することにより、事故拡大を防止する。
【0026】
前記制御部は、前記投入器の短絡状態において、前記第1の電車線および第2の電車線の遮断器の開放条件をより小さい故障電流に変更させるための感度変更設定信号を出力するものである場合(請求項9)には、投入器によって両電車線を短絡している状態において、万一地落事故などの故障が発生した場合に、2つの電車線に分割されて流れる故障電流に対しても敏感に反応して遮断器を開放することにより事故拡大を防止することができる。
【0027】
第2発明のトロリ線の損耗防止方法は、第1の電車線と第2の電車線を切り替えるエアセクションの両端においてエアセクション内に流れる電流と、エアセクションにおける両電車線間の電位差をそれぞれ測定し、これらの電流および電位差がエアセクション内でトロリ線の損耗が危惧される損耗危惧条件を満たすときに、第1の電車線と第2の電車線を短絡することを特徴とするトロリ線の損耗防止方法を提供する。
【0028】
前記方法によれば、エアセクションの両端からエアセクション内に流れる電流と、2本の電車線間の電位差から、エアセクション内におけるトロリ線の損耗の可能性を推し量ることができ、予め設定された損耗危惧条件を満たす電流および電位差を測定するときに、第1の電車線と第2の電車線を短絡して両電車線を同電位にすることによりトロリ線の損耗を防止することができる。また、電車がエアセクションを通り抜けると電流または電圧の測定値がエアセクション内でトロリ線の摩耗が危惧される損耗危惧条件を満たさなくなるので、第1の電車線と第2の電車線を再び切り離す。
【0029】
なお、測定した電流および電位差が前記損耗危惧条件を満たさない場合には電車がエアセクションを通過するときにも第1の電車線と第2の電車線を短絡することがない。すなわち、第1の電車線と第2の電車線は可能な限り分離した状態を保つことができるので、電車が通行するたびに電車線間を短絡する場合に比べて事故の拡大を防止できる。また、電車線間を短絡するための投入器の劣化を最小限に抑えて、これを長期間に亘って使用することができる。
【発明の効果】
【0030】
前述したように、本発明によれば、エアセクション内でアーク発生によりトロリ線が損耗する可能性が高い場合にのみ、2つの電車線間を投入器によって短絡することによりアーク発生の原因となっている電位差を無くして、パンタグラフに短絡電流が流れることを防止し、アーク発生によるトロリ線の損耗を未然に防止することができる。一方、前記損耗危惧条件が成立しない場合には、エアセクションを電車が通過するときにも両電車線間は開放状態のままであるから、故障電流が発生したときのための保護回路によって切り分けられている電車線間を無闇に短絡することがない。
【0031】
投入器は短絡状態と開放状態を切り替え可能に構成されたものであるから、大電流を断続させても内部接点の劣化は少なくてすむが、本発明のトロリ線の損耗防止装置は損耗危惧条件が成立したときだけ電車線間を短絡するように構成されているので、投入器をさらに長期間に亘って使用することができる。つまり、メンテナンスを頻繁に行わなくても高い信頼性をもってトロリ線の損耗防止を行うことができる。
【0032】
電流計測器によって計測された電流の測定値を用いて、補機電流、力行電流を正確に測定し、電流の大きさに合わせて継続時間および時間積分値が閾値を超えるかどうかを損耗危惧条件とする場合には、電車がエアセクション内で徐行運転をしている状態、トロリ線の溶断に繋がる力行を行っている状態、トロリ線を跨いだ状態で長時間滞在している状態を的確に検出することができる。
【0033】
さらに、電位差計測器を用いて電車線間の電位差を計測し、この電位差がアーク発生の可能性のある閾値以上であり、この電位差の継続時間がアーク検出の閾値を超えるかどうかを損耗危惧条件とする場合には、エアセクションにおけるアーク発生可能性およびアーク発生状態を的確に検出することができる。つまり、電位差と電流の積は電力であるから、エアセクション内におけるトロリ線とパンタグラフとの間のアーク発生によって生じる熱量をより正確に推し量ることができる。
【0034】
前記電位差が故障発生を検出する閾値以上である場合に、投入器の短絡状態への切り替えを阻止する場合や、投入器の短絡状態において電車線の遮断器の開放条件をより少ない故障電流によって開放するように変更する場合には、故障電流が流れる電車線を他の電車線から切り離すことができるので、故障の拡大を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
図1〜図6は本発明の実施形態に係るトロリ線の損耗防止装置1の構成を説明する図である。図1に示すように、本発明のトロリ線の損耗防止装置1は、第1の電車線2Aと第2の電車線2Bを切り替えるエアセクション3の両端に位置する電車線2A,2Bにそれぞれ取り付けられてエアセクション3内に流れる電流Ia,Ibを計測する第1および第2の電流計測器4A,4Bと、前記エアセクション3における両電車線2A,2B間の電位差を計測する電位差計測器5と、前記両電車線2A,2Bに接続されて両電車線2A,2B間の開放状態および短絡状態を切替可能とする投入器6と、前記電流計測器4A,4B、電位差計測器5、投入器6に接続された制御部7とを備える。
【0036】
本実施形態における電車線2A,2Bはそれぞれ変電所8に接続されると共に線路に沿って配線される比較的太い導体からなるき電線2Ak、2Bkと、適宜の間隔でき電分岐線2rによってき電線2Ak,2Bkに電気的に接続されることにより電力の供給を受けるトロリ線2At,2Btとを備える。電車TのパンタグラフPはトロリ線2A,2Bに接触することにより電車Tが使用する電力の供給を受けることができる。
【0037】
前記エアセクション3は第1の電車線2Aおよび第2の電車線2Bを交差させることなく平行に配置し、その一端3aにおいては第1の電車線2A、他端3bにおいては第2の電車線2Bが電車TのパンタグラフPに接触するようにトロリ線2At,2Btをそれぞれ逆の傾斜となるように上下方向に傾斜して配置する部分である。
【0038】
前記電流計測器4A,4Bはそれぞれ、トロリ線2At,2Btのエアセクション3を挟む2箇所で、かつ、前記き電分岐線2rに接続される部分からエアセクション3の間に取り付けられるものである。また、これらの電流計計測器4A,4Bは、トロリ線2At,2Btの上部2点において分岐接続された分流線4cと、この分流線4cに形成した2つの貫通型変流器4d,4eとを備える。
【0039】
前記2つの貫通型変流器4d,4eはそれぞれ電車Tに流れる補機電流程度の小電流を精度良く計測する高速直流変流型検出器と、電車Tが力行するときに流れる力行電流などの大電流を計測可能なホール素子型電流検出器であって、電流計測器4A,4Bはこれらの貫通型変流器4d,4eによる測定値をまとめると共に、電車線2A,2Bから絶縁された状態で電流に変換された値にして出力する測定値送信部4fを備える。なお、測定される電流Ia,Ibはそれぞれエアセクション3側に流れる電流を正とする。
【0040】
前記電位差計測器5はそれぞれトロリ線2At,2Btのエアセクション3の外側の位置に電気的接続されることにより、トロリ線2At,2Bt間の電位差Vを測定するものである。電位差計測器5の接続部分はエアセクション3の外側であるから、その接続部分がパンタグラフPに当たることがなく、かつ両トロリ線2At,2Bt間の電位差Vをより正確に測定することができるように構成している。
【0041】
なお、本実施形態の電位差計測器5は大地を基準にしてトロリ線2At,2Btの電位Va,Vbを計測し、両電圧Va,Vbの差を求めることにより、差電圧Vを求めることにより、正確な電位差Vを容易に求められるように構成している。また、電位差計測器5は求めた電位差Vの測定値をトロリ線2At,2Btから絶縁された状態で電流に変換された値にして出力するものである。
【0042】
前記投入器6は前記エアセクション3の近傍において第1の電車線2Aのき電線2Akと第2の電車線2Bのき電線2Bkにそれぞれ接続され、両き電線2Ak,2Bk間を短絡できるスイッチ回路6aと、このスイッチ回路6aを開放状態および短絡状態に切り替える操作する切替アクチュエータ6bと、投入器6に流れる電流Icを測定する電流計6cを備える。投入器6をき電線2Ak,2Bk間に接続してあるので、投入器6を介して大電流を流すことができるように構成している。
【0043】
前記制御部7は例えばプログラマブルロジックコントローラ(PLC)からなり、前記電流Ia,Ibおよび電位差Vの測定値を入力し、エアセクション3内でトロリ線2At,2Btの損耗が危惧される損耗危惧条件を満たすときに、前記投入器を短絡状態に切り替えるための断続制御信号Cntを出力するものであり、タッチパネルによる入力部を形成してなる表示部7aを備える。なお、入力部としてボタン、キーボード、マウスなどを設けてもよい。
【0044】
前記変電所8には、各電車線2A,2Bに電力を供給する2系統の回路を形成し、各電車線2A,2Bへの給電を遮断するための遮断器10A,10Bと、各系統に供給する電流を監視して異常発生時には遮断器10A,10Bを遮断させるための遮断信号を出力する故障選択装置11A,11Bと、この故障選択装置11A,11Bに対して外部からの連絡によって遮断器10A,10Bを遮断させる連絡遮断装置12A,12Bとを備える。また、本実施形態の遮断器10A,10Bはその遮断状態を検出する遮断検出器10c,10dを備える。
【0045】
図2は前記制御部7の構成を示す図である。図2において、20は電流Ia,Ib、電位差Vなどの測定値などを入力すると共に制御対象となる機器に所定の信号を出力するインターフェース、21はこのインターフェース20に接続された演算処理部、22は演算処理部21に接続されたメモリである。
【0046】
前記インターフェース20はアナログ量とデジタル信号との間の変換を行うものであり、演算処理部21からの制御によって電流計測器4A,4Bから電流Ia,Ibの測定値、電位差計測器5から電位差Vの測定値、遮断検出器10c,10dから遮断器10A,10Bの状態信号(遮断状態Brkまたは接続状態Con)、電流計6cから投入器6に流れる電流の測定値Icの測定値、種々のスイッチおよびボタンの状態を入力する。また、インターフェース20は投入器6にこれを開放状態または短絡状態に切り替えるための断続制御信号Cnt、連絡遮断装置12A,12Bに感度変更設定信号Set、種々の表示ランプ等への信号を出力できるように構成されている。
【0047】
前記演算処理部21は前記表示部7a、インターフェース20、メモリ22に接続されて、メモリ22からラダー論理によって記述されたプログラムを読み出して実行するためのラダー実行プログラムP1を実行可能に構成されている。なお、本実施形態の演算処理部21はラダー理論によって記述されたプログラムを実行可能に構成されているので、投入器6の断続制御をシンプルなプログラムによって実現することができるが、その他の言語で記述されたプログラムを実行可能に構成してもよい。この場合、制御部7をPLCとして機能しないコンピュータであってもよい。
【0048】
メモリ22は不揮発性メモリからなることが好ましく、例えば前記投入器6の制御および連絡遮断装置12A,12Bへの設定変更を行うための制御プログラムP2と、前記投入器6の制御に用いる損耗危惧条件を構成する各データD1〜D9を含む設定データDと、この設定データDを変更可能とする設定プログログラムP3とを記憶する。なお、メモリ22をハードディスクのような補助記憶装置または半導体メモリおよびこれらの組み合わせからなるものであってもよい。
【0049】
図3は前記制御プログラムP2を演算処理部21が実行するときの動作を説明して、本発明のトロリ線の損耗防止方法を説明する図である。
【0050】
図3において、S1は前記電流Ia,Ib、差電圧V、遮断器の状態信号(Brk/Con)を入力するステップである。なお、電車Tに流れる電流は前記電流Ia,Ibの和で表すことができるが、例えば、電流Ia,Ibが共に正の値であるときには、これらの合算を補機電流の閾値を満たしているかどうかの判断に用いることができる、一方、各電流Ia,Ibの絶対値の和を力行電流の閾値を満たしているかどうかの判断に用いることができる。
【0051】
S2は電車に流れる力行電流の時間積分値を演算するステップである。なお、エアセクション3内に力行電流の閾値以上の電流が流れていない場合には、ステップS2は時間積分値を0にする。
【0052】
S3は遮断器10A,10Bの投入状態を確認するステップであり、両遮断器10A,10Bの状態が共に投入状態である場合には次のステップS4を実行し、何れか一方の遮断器10Aまたは10Bが開放状態である場合にはステップS5にジャンプする。
【0053】
S4は差電圧Vの測定値が500V以下であるかどうかを判断するステップであり、500V以下であるときには次にステップS7を実行するが、500Vを超えるときには次にステップS5を実行する。
【0054】
S5は投入器6を開放状態にしているべきときに実行されるステップであるから、ここで投入器6の状態を確認するステップである。ここで、投入器6が開放状態である場合にはステップS1に戻ってステップS1〜S5の処理が繰り返される。他方、投入器6が短絡状態である場合には、次のステップS6の処理を実行する。
【0055】
S6は投入器6を開放状態に切り替えると共に、投入器6の開放に伴って連絡遮断装置12A,12Bに投入器6が開放状態であるときに適切な設定となるように感度変更を行う設定信号Setを出力するステップである。具体的には、後述するステップS9の処理によって感度変更された故障電流の閾値を元に戻すように設定信号Setを出力する。その後、ステップS1にジャンプする。
【0056】
S7は前記設定データDに記録された損耗危惧条件をメモリ22から読み出すステップである。
【0057】
S8は前記電流Ia,Ibおよび電位差Vの測定値が損耗危惧条件を満たしているかどうかを判断するステップである。ここで、損耗危惧条件を満たしていると判断した場合には、次のステップS9が実行され、満たさないと判断した場合にはステップS10を実行する。
【0058】
S9は投入器6を短絡状態に切り替えた後に、投入器6の短絡に伴って連絡遮断装置12A,12Bに投入器6が短絡状態であるときに適切な設定となるように感度変更を行う設定信号Setを出力するステップである。具体的には、故障選択装置11A,11Bが遮断信号を出力するための故障電流の閾値を半分に引き下げるための設定信号Setを出力する。
【0059】
S10は投入器6が短絡状態であるかどうかを判断するステップである。ここで投入器6が開放状態である場合にはステップS1にジャンプするが、投入器6が短絡状態である場合には、次のステップS11を実行する。
【0060】
S11は投入器6の開放条件が成立するかどうかを判断するステップである。ここで、投入器6の開放条件とは、後述するように電流Ia,Ibの大きさによって設定された開放条件であってもよいが、開放条件が特に設定されていない場合には耗危惧条件を満たさなくなったという条件であってもよい。投入器6の開放条件が成立しない場合には次のステップS12を実行し、開放条件が成立する場合には、ステップS1にジャンプする。
【0061】
S12は投入器6を開放状態に切り替えると共に、投入器6の開放に伴って連絡遮断装置12A,12Bに投入器6が開放状態であるときに適切な設定となるように設定変更を行う設定信号Setを出力し、ステップS9の処理によって設定変更された故障電流の閾値を元に戻す。そして、ステップS1にジャンプする。
【0062】
上記ステップS1〜S12の一連の処理は電流Ia,Ib、電位差Vの測定値、および遮断10A,10Bの状態がメモリ22に記憶させた設定データDに含まれる損耗危惧条件を満たしている場合には第1の電車線2Aと第2の電車線2Bを短絡するトロリ線の損耗防止方法を示している。
【0063】
図4は前記設定プログラムP3によって表示部7aに表示される画面Sc1を示す図である。図4に示すように設定プログラムP3の動作によって、表示部7aにはトロリ線2At,2Btの損耗危険性を示す例えば4つの基本条件を表示し、各損耗危惧条件の状態St1〜St4を表示すると共に、各条件の詳細を示す各数値データD1〜D8を表示する。また、B1は次の条件設定画面を表示するためのボタンであり、B2は変更した値を設定値として反映するためのボタンである。
【0064】
図4に示す例では、1番目の損耗危惧基本条件は、補機電流としてエアセクション3への流入方向の電流が10A以上かつ10秒以上続いたという条件、2番目の損耗危惧基本条件は前記電流Ia,Ibの絶対値の合計の時間積分値が800A・sを満たしたという条件、3番目の損耗危惧基本条件は前記電位差Vが100V以上でかつ10秒連続したという条件、4番目の損耗危惧条件は前記電流Ia,Ibの絶対値が共に10A以上でありこれが10秒連続したという条件であることが分かる。
【0065】
表示部7aはタッチパネルを形成しているので、前記状態St1〜St4および数値データD1〜D8の部分に触れることにより、設定の変更を対話方式で行うことができるように構成されている。
【0066】
図5は図4に示すボタンB1を操作したときに表示部7aに表示される別の画面Sc2の一例を示す図である。図5において、数字の1〜4のキーK1〜K4は図4に示す損耗危惧基本条件の1〜4に対応するものである。また、前記キーK1〜K4の真下にある「and」および「or」からなる論理式入力キーK5,K6はいずれもその横の数字にある損耗危惧基本条件と論理積または論理和を設定するためのキーであり、さらにこれらの論理式入力キーK5,K6の右側には、さらに複雑な論理式を組み立てるための「and」および「or」からなる論理式入力キーK7,K8およびバックスペースキーK9を表示している。
【0067】
したがって、これらのキーK1〜K9をタッチすることにより、前記4つの損耗危惧基本条件を自由に組み合わせた論理式を設定することができる。なお、入力途中の論理式は画面Sc2の右半分にテキスト表示Fによって表示する。また、B3は前記論理式を論理式データD9として保存するためのボタン、B4は投入器の短絡禁止条件と、開放条件を設定するボタン、B5は図4の画面に戻るためのボタンである。
【0068】
図6は前記ボタンB4を操作したときに表示部7aに表示される画面Sc3の一例を示す図である。図6に示すように、表示部7aには、2つの投入器の短絡禁止条件と、1つの開放条件と、これらの条件の状態St5〜St7を表示すると共に、具体的な数値データD10〜D13を表示する。また、B6はこの画面で変更したデータを設定するボタン、B7は図5の画面に戻るためのボタンである。
【0069】
すなわち、図6の画面においても各状態St5〜St7及び数値データD10〜D13の部分に触れることにより、設定の変更を対話方式で行うことができる。
【0070】
上述のように、演算処理部21が設定プログラムP3を実行することにより、損耗危惧条件を定めるための設定データD1〜D9を含む設定値を変更可能にしているので、現場に最も適した損耗危惧条件を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明のトロリ線の損耗防止装置の全体構成を示す図である。
【図2】前記トロリ線の損耗防止装置の要部を示す図である。
【図3】本発明のトロリ線の損耗防止方法を説明する図である。
【図4】トロリ線の損耗危惧条件の設定例を説明する図である。
【図5】前記損耗危惧条件の設定例を説明する別の図である。
【図6】前記トロリ線の損耗防止装置の動作を説明する図である。
【符号の説明】
【0072】
1 トロリ線の損耗防止装置
2A,2B 電車線
3 エアセクション
4A,4B 電流計測器
5 電位差計測器
6 投入器
7 制御部
7a,P3 条件設定手段
10c,10d 遮断検出器
Ia,Ib 電流
D1〜D9 損耗危惧条件(設定 データ)
V 電位差
Set 感度変更設定信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電車線と第2の電車線を切り替えるエアセクションの両端に位置する電車線にそれぞれ取り付けられてエアセクション内に流れる電流を計測する第1および第2の電流計測器と、
前記両電車線に接続されて両電車線間の開放状態および短絡状態を切替可能とする投入器と、
前記電流の測定値を入力し、エアセクション内でトロリ線の損耗が危惧される損耗危惧条件を満たすときに、前記投入器を短絡状態に切り替える制御部とを備えることを特徴とするトロリ線の損耗防止装置。
【請求項2】
前記損耗危惧条件は、前記電流が電車の存在を示す補機電流の閾値以上であり、かつ、前記補機電流の流れる時間が徐行検出の閾値に達した条件を含む請求項1に記載のトロリ線の損耗防止装置。
【請求項3】
前記損耗危惧条件は、前記電流が電車の力行を示す力行電流の閾値以上であり、かつ、この力行電流の時間積分値が発熱検出の閾値に達した条件を含む請求項1または請求項2に記載のトロリ線の損耗防止装置。
【請求項4】
前記損耗危惧条件は、前記第1および第2の電流計測器により測定した電流の絶対値が共に電車の存在を示す閾値以上であり、かつ、これらの電流の流れる時間が滞在制限時間の閾値に達した条件を含む請求項1〜請求項3の何れかに記載のトロリ線の損耗防止装置。
【請求項5】
前記トロリ線の損耗防止装置は、前記エアセクションにおける両電車線間の電位差を計測する電位差計測器を備え、前記制御部が電位差の測定値を入力し、これが損耗危惧条件を満たすかどうかを判断するものであり、かつ、前記損耗危惧条件は、前記電位差がアーク発生可能性を示す閾値以上であり、かつ、前記閾値以上の電位差が発生する時間がアーク検出の閾値に達した条件を含む請求項1〜請求項4の何れかに記載のトロリ線の損耗防止装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記電位差が故障発生を検出する閾値以上であることを検出するときに前記投入器の短絡状態への切り替えを阻止するものである請求項5に記載のトロリ線の損耗防止装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記各閾値を設定可能であり、かつ、前記損耗危惧条件として前記条件を組み合わせた論理式を設定可能である条件設定手段を備える請求項2〜請求項6の何れかに記載のトロリ線の損耗防止装置。
【請求項8】
前記制御部は、第1の電車線および第2の電車線への給電状態をそれぞれ検知する遮断検出器に接続され、これらの遮断検出器が第1の電車線または第2の電車線への給電の遮断状態を検出するときに前記投入器の短絡状態への切り替えを阻止するものである請求項1〜請求項7の何れかに記載のトロリ線の損耗防止装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記投入器の短絡状態において、前記第1の電車線および第2の電車線の遮断器の開放条件をより小さい故障電流に変更させるための感度変更設定信号を出力するものである請求項1〜8の何れかに記載のトロリ線の損耗防止装置。
【請求項10】
第1の電車線と第2の電車線を切り替えるエアセクションの両端においてエアセクション内に流れる電流と、エアセクションにおける両電車線間の電位差をそれぞれ測定し、これらの電流および電位差がエアセクション内でトロリ線の損耗が危惧される損耗危惧条件を満たすときに、第1の電車線と第2の電車線を短絡することを特徴とするトロリ線の損耗防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−83581(P2009−83581A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253531(P2007−253531)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(000215110)津田電気計器株式会社 (5)