説明

トンネル内における物品の搬送方法及び搬送装置

【課題】トンネルの勾配が急であっても重量物を安定して搬送できるトンネル内における物品の搬送方法及び搬送装置を提供する。
【解決手段】トンネル内の物品(重量物W)にトンネル軸方向に伸縮する複数のジャッキ16を直接又は間接的に連結すると共に、これら各ジャッキ16の伸縮ロッド16bにトンネル内面(主桁22a)に係脱する把持部37を装着し、該把持部37をトンネル内面に係合させてこれを手掛かりとして上記伸縮ロッド16bを作動させることで、上記重量物Wをトンネル軸方向に移動するようにするに際して、次の手掛かりとして、いずれかのジャッキ16の把持部37をトンネル内面に係合するために、いずれかのジャッキ16の伸縮ロッド16bを作動するとき、残りのジャッキ16の内の少なくとも一本のジャッキ16の把持部37をトンネル内面に係合することで、上記重量物Wの位置を保持するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル内における物品(重量物)の搬送方法及び搬送装置に係り、特に、トンネルの勾配が急であっても物品(重量物)を安定して搬送できるトンネル内における物品の搬送方法及び搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド掘進機が所定の到達部に到った後の掘進機の回収方法として、従来、掘進機を坑内にてガス切断等で幾つかのブロックやユニットに分割し、これらブロック等を、掘進機の後続設備用等のためにトンネル底部に軸方向に沿って敷設された枕木及びレールを利用して、トンネル坑口側に搬送して回収するものが知られている。
【0003】
しかし、上記枕木及びレールは後続台車等の後続設備の重量に合わせて設計・敷設されており、重量物の搬送を見込んで設計・敷設されていないので、回収時に重いブロック・ユニットを一体で運搬することは困難であり、ブロック等を搬送可能な重さに細切れにする必要がある。また、ガス切断した鉄鋼部材は回収後に再組立・再利用ができない。
【0004】
これを解消するトンネル内における重量物の搬送方法及び搬送装置として、トンネル内の底部に軸方向に沿ってレール部材を敷設し、レール部材上に重量物(シール掘進機の一部等)が積載されるスライド部材を摺動可能に載せ、スライド部材にトンネル軸方向に伸縮するジャッキを装着し、ジャッキの伸縮ロッドにレール部材に係脱する係脱機構を設けたものが知られている(特許文献1等)。
【0005】
この搬送方法及び搬送装置は、ジャッキを伸長させた状態でそのジャッキの係脱機構をレール部材に係合させ、この状態でジャッキを収縮することでスライド部材をレール部材に対して移動させ、その後、係脱機構をレール部材から切り離してジャッキを伸長させ、そのジャッキの係脱機構をレール部材の別に位置に係合させた後にジャッキを収縮させ、かかる動作を繰り返して尺取虫のようにスライド部材を移動させるものである。
【0006】
【特許文献1】特開2002−309888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような搬送方法及び搬送装置においては、レール部材とスライド部材との間の摩擦係数を小さくして滑りを良くすることが望ましい(上記文献1の段落0012参照)。しかし、上記摩擦係数を小さくしてスライド部材のレール部材に対する滑りが良くなると、ジャッキのワンストロークの収縮が終了して係脱機構をレール部材から離脱させたとき、レール部材の傾斜角度すなわちトンネルの勾配によっては、スライド部材がレール部材上を低い方に滑り落ちる可能性が考えられる。
【0008】
つまり、前記搬送方法及び搬送装置においては、ジャッキのワンストロークの収縮によるスライド部材の移動が終了し、そのジャッキの係脱機構をレール部材から離脱させたとき、スライド部材とレール部材との係合が完全に切り離され、このときスライド部材の位置は、スライド部材とレール部材との間の摩擦力によって保持されるようになっている。このため、レール部材が敷設されるトンネルの勾配が急な場合、スライド部材及びこれに積載される重量物の重量によって生じるレール部材に沿う方向の力の成分がスライド部材とレール部材との間の摩擦力を上回ると、スライド部材がレール部材上を低い方へ滑ってしまうのである。
【0009】
そこで、本発明の目的は、トンネルの勾配が急であっても重量物を安定して搬送できるトンネル内における物品の搬送方法及び搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、トンネル内の重量物にトンネル軸方向に伸縮する複数のジャッキを直接又は間接的に連結すると共に、これら各ジャッキの伸縮ロッドにトンネル内面に係脱する把持部を装着し、該把持部をトンネル内面に係合させてこれを手掛かりとして上記伸縮ロッドを作動させることで、上記物品をトンネル軸方向に移動するようにしたトンネル内における物品の搬送方法であって、次の手掛かりとして、いずれかのジャッキの把持部をトンネル内面に係合するために、いずれかのジャッキの伸縮ロッドを作動するとき、残りのジャッキの内の少なくとも一本のジャッキの把持部をトンネル内面に係合することで、上記物品の位置を保持するようにしたものである。
【0011】
上記把持部を、上記伸縮ロッドからトンネル径方向に移動させて、トンネル内面に係脱させるようにすることが好ましい。
【0012】
上記ジャッキを、トンネル周方向に間隔を隔てて複数配置し、次の手掛かりとしていずれかのジャッキの伸縮ロッドを作動するとき、残りのジャッキの内の二本以上のジャッキの把持部をトンネル内面に係合するようにすることが好ましい。
【0013】
上記ジャッキを、トンネル輪切り断面においてトンネル中心に対して対向するように複数配置し、次の手掛かりとしていずれかのジャッキの伸縮ロッドを作動するとき、残りのジャッキの内の対向配置された二本以上のジャッキの把持部をトンネル内面に係合するようにすることが好ましい。
【0014】
上記ジャッキに、上記トンネルを構築したシールド掘進機から取り外したシールドジャッキを用いるようにすることが好ましい。
【0015】
トンネル底部にトンネル軸方向に沿ってレールを敷設し、該レールに橇部材を介して架台を載せ、該架台上に上記物品を載せ、上記ジャッキの作動によって上記レール上を上記橇部材が滑るようにすることが好ましい。
【0016】
上記トンネルを構築するシールド掘進機を、到達部に残す放置部分と該放置部分から切り離し可能な回収部分とから構成し、上記シールド掘進機が上記到達部に至った後に上記放置部分から上記回収部分を切り離し、この回収部分を上記物品とすることが好ましい。
【0017】
また、第二の発明は、トンネル内の物品に直接又は間接的に連結されトンネル軸方向に伸縮する複数のジャッキと、これら各ジャッキの伸縮ロッドに設けられトンネル内面に係脱する把持部とを備え、該把持部をトンネル内面に係合させてこれを手掛かりとして上記伸縮ロッドを作動させることで、上記物品をトンネル軸方向に移動するようにしたトンネル内における物品の搬送装置であって、上記ジャッキは、次の手掛かりとして、いずれかのジャッキの把持部をトンネル内面に係合するために、いずれかのジャッキの伸縮ロッドを作動するとき、残りのジャッキの内の少なくとも一本のジャッキの把持部がトンネル内面に係合することで、上記物品の位置を保持するための制御部を備えたものである。
【0018】
上記把持部が、上記伸縮ロッドに、トンネル径方向に移動自在に設けられることが好ましい。
【0019】
上記ジャッキが、トンネル周方向に間隔を隔てて複数配置されることが好ましい。
【0020】
上記ジャッキが、トンネル輪切り断面においてトンネル中心に対して対向するように複数配置されることが好ましい。
【0021】
上記ジャッキが、上記トンネルを構築したシールド掘進機から取り外したシールドジャッキであることが好ましい。
【0022】
トンネル底部にトンネル軸方向に沿って敷設されたレールと、該レールに橇部材を介して載置された架台とを備え、該架台上に上記物品を載せることが好ましい。
【0023】
上記トンネルを構築するシールド掘進機を、到達部に残す放置部分と該放置部分から切り離し可能な回収部分とから構成し、上記物品が、上記回収部分であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るトンネル内における物品の搬送方法及び搬送装置によれば、トンネルの勾配が急であっても重量物を安定して搬送できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の好適実施形態を添付図面を用いて説明する。
【0026】
図8は、本実施形態に係るトンネル内における物品の搬送方法及び搬送装置の概要を示す側断面図であり、図9は図8のIX−IX線断面図、図10は図8のX−X線断面図である。
【0027】
本実施形態では、トンネル内を搬送される物品に、そのトンネルを構築したシールド掘進機の一部(後述の回収部分:重量物)を用いている。すなわち、シールド掘進機を、後述のようにトンネル到達部に残す放置部分とこの放置部分から切り離される回収部分とから構成し、シールド掘進機が到達部に到った後に放置部分から回収部分を切り離し、この回収部分を上記物品(重量物)としてトンネル内を坑口側(発進部側)に搬送して回収するようにしたものが本実施形態である。
【0028】
先ず、図1〜図7を用いて、到達部に到ったシールド掘進機について、放置部分を到達部に残し、その放置部分から回収部分を切り離す工程について簡単に説明する。
【0029】
図1はシールド掘進機1の側断面図、図2は掘進機1の正面図であり、このシールド掘進機1は、到達部に残す放置部分1xと、放置部分1xから切り離し可能な回収部分1yとから構成されている。
【0030】
図1に示すように、放置部分1xは、円筒状のシールドフレーム2と、シールドフレーム2内に設けられたドーナッツ板状の外側隔壁3と、外側隔壁3及びシールドフレーム2に支持されたガイド筒4と、外側カッタ5とから主に構成されている。
【0031】
他方、回収部分1yは、ガイド筒4にスライド可能に挿入された内筒6と、内筒6の前端部に装着されたドーナッツ板状の内側隔壁7と、内側隔壁7に対して回転可能なドーナッツ板状の可動隔壁8と、可動隔壁8を内筒6に対して回転可能に支持する軸受機構9と、可動隔壁8を回転駆動するモータ10及びギヤ機構11と、可動隔壁8の前部に取り付けられた回転筒12と、回転筒12の前部に装着された内周カッタ13と、内周カッタ13の内部に設けられたコピーカッタ14と、内筒6の後端部に固定されると共にシールドフレーム2の内面に当接されたリングガーダ15と、リングガーダ15に装着されたシールドジャッキ16(推進ジャッキ)と、エレクタ17(セグメント組立装置)とから主に構成されている。
【0032】
上記コピーカッタ14は、基台部14aとこの基台部14aに対して径方向に移動する略円柱状の移動部14bとから成り、基台部14aが内周カッタ13の内部に設けられた移動ジャッキ18に連結され、移動ジャッキ18の作動によってコピーカッタ14全体(基台部14a及び移動部14b)が径方向に移動するようになっている。移動部14bは、外側カッタ5に径方向に形成された穴19に挿入されており、基台部14aに対して径方向外方に移動されてその穴19の外周端から突出することでカーブ掘進時のカーブ内側の余掘り等を行う。
【0033】
また、移動部14bは、上記穴19に挿入された状態で外周カッタ5を内周カッタ13に係合する係合ピンとして機能し、移動ジャッキ18を収縮させることで上記穴19から引き抜かれて内周カッタ13内に収容されたとき、外周カッタ5を内周カッタ13から切り離す。また、内周カッタ13の前面には、外周カッタ5との間に、中蓋部材20が着脱可能に設けられている。
【0034】
かかるシールド掘進機1は、図1に示すように、リングガーダ15とシールドフレーム2とをこれらの間に溶接されるリブ21によって連結すると共に、移動ジャッキ18を伸長させてコピーカッタ14の移動部14bを外周カッタ5の穴19に挿入して内周カッタ13と外周カッタ5とを連結することで、回収部分1yと放置部分1xとを一体化し、通常の掘進を行う。カーブ掘進時には、移動ジャッキ18のストロークを固定した状態で、コピーカッタ14の移動部14bを基台部14aに対して径方向外方に移動させて外周カッタ5の外周端から適宜突出させ、カーブ内側の余掘りを行う。
【0035】
図2に示すように、外周カッタ5は、切羽面に対向するように形成された略扇状の面板部5aと、回転中心から径方向外方に延出して形成されたスポーク部5bと、スポーク部5bと面板部5aとの間に形成されたスリット部5cとを有し、上記掘進時に、スポーク部5bに装着されたビット5dで切削した土砂を、スリット部5cを通して隔壁3、7、8の前方のカッタ室50(図1)に取り込む。カッタ室50に取り込まれた土砂は、図示しない排土装置(スクリューコンベヤ、送排泥管等)によって隔壁3、7、8の後方の坑内に移送されるようになっている。
【0036】
掘進機1が所定の到達部に到ったならば、図3に示すように、エレクタ17を取り外し、既設セグメント22とシールドフレーム2とを金具23で連結してシールドフレーム2の後退を防止し、シールドジャッキ16のシュー16aを金具24によって既設セグメント22に固定し、リングガーダ15とシールドフレーム2とを連結するリブ21をカットしてリングガーダ15をシールドフレーム2に対して軸方向に移動可能とする。
【0037】
図4に示すように、シールドジャッキ16を収縮させてリングガーダ15に固定された内筒6を後退させ、外周カッタ5の裏面の外周部をシールドフレーム2の前端に当接させる。これにより外周カッタ5の前面と切羽25との間に空間ができるので、その空間内にモルタル等の土留剤26を充填する。
【0038】
図5に示すように、移動ジャッキ18を収縮させてコピーカッタ14の移動部14bを外周カッタ5の穴19から引き抜き内周カッタ13の内部に収容する。これにより、外周カッタ5が内周カッタ13から切り離される。
【0039】
図6に示すように、シールドジャッキ16を収縮させて内筒6を後退させ、中蓋部材20の裏面外周部を外側隔壁3に当接させる。この状態で、外側隔壁3及び中蓋部材20の前方に土留剤26を充填し、中蓋部材20を内周カッタ13から切り離す。これにより、回収部分1y(内筒6、モータ10、ギヤ機構11、軸受機構9、内側隔壁7、可動隔壁8、回転筒12、内周カッタ13、コピーカッタ14、移動ジャッキ18、リングガーダ15、シールドジャッキ16等)が、放置部分1x(シールドフレーム2、外側隔壁3、ガイド筒4、外周カッタ5、中蓋部材20等)から、止水された状態で切り離される。その後、リングガーダ15からシールドジャッキ16を取り外し、リングガーダ15を周方向に分割し、内筒6の後端部から取り外す。
【0040】
図7に示すように、上記回収部分1yを図示しないウインチやジャッキ等によって右方に引っ張ってガイド筒4から引き抜き、トンネルTの底部に配置した架台27(以下主架台)上に載せる。主架台27は、トンネルTの底部のセグメント22にその軸方向に沿って敷設されたレール28上に、橇部材29を介して載置されている。なお、図中左端のセグメント22とガイド筒4との間のシールドフレーム2の底部には、レール28を支持するための荷重受部材30が取り付けられる。
【0041】
このようにして、到達部に到ったシールド掘進機1は、放置部分1x(シールドフレーム2、外側隔壁3、ガイド筒4、外周カッタ5、中蓋部材20等)が到達部に残され、その放置部分1xから回収部分1y(内筒6、モータ10、ギヤ機構11、軸受機構9、内側隔壁7、可動隔壁8、回転筒12、内周カッタ13、コピーカッタ14、移動ジャッキ18等)が、塊として切り離される。
【0042】
以下、この回収部分1yを重量物Wとし、この重量物W(物品)をトンネルTの坑口側に搬送するための搬送方法及び搬送装置について説明する。
【0043】
図8に示すように、上記重量物Wの右端には、略円板状(ドーナッツ板状でも可)の部分を有する中間部材31が内筒6を蓋するように取り付けられ、中間部材31には、連結ロッド32の一端がピン接続され、連結ロッド32の他端は、別の架台33(以下副架台)に設けられたブラケット34にピン接続されている。副架台33には、先に取り外したリングガーダ15を周方向に分割したガーダ分割片15aやエレクタ17の旋回リング17a等が積載される。
【0044】
副架台33の底部には、図8及び図10に示すように、トンネル軸方向に間隔を隔てると共にトンネル幅方向に間隔を隔てて計四つの橇部材29がピン支持されて取り付けられている。同様に、主架台27の底部には、図8及び図9に示すように、トンネル軸方向に間隔を隔てると共にトンネル幅方向に間隔を隔てて計四つの橇部材29がピン支持されて取り付けられている。各橇部材29の下面には上記レール28が係合する形状に窪まされたガイド部35が形成されている。図例では、レール28に丸棒を用いているので、ガイド部35の断面形状は略半円となっている。レール28は、セグメント22(鋼製等)の上に直接敷設され溶接等によって固定される。
【0045】
図8及び図9に示すように、重量物Wに取り付けられた中間部材31には、先に取り外したシールドジャッキ16が、トンネル周方向に間隔を隔てて複数(図例では六本)装着されている。詳しくは、ジャッキ16は、トンネル輪切り断面においてトンネル中心Cに対して対向するように配置されている。ジャッキ16の伸縮ロッド16bの先端には、別のジャッキ36によってトンネル径方向に移動してトンネル内面(セグメント22)に係脱する把持部37が設けられている。把持部37は、図例ではトンネル内面が鋼製セグメント22であるためそのセグメント22の主桁22aに嵌るように形成された凹部を有するが、トンネル内面がコンクリート製セグメントの場合には、そのセグメント同士を連結するボルトを収容するべくセグメント内周面に凹設されたボルト箱穴に挿入される凸部を有していてもよい。
【0046】
以上の構成からなるトンネル内における重量物Wの搬送装置は、図8に破線で示すようにジャッキ16の伸長ロッド16bを伸長させた後、全ての把持部37をトンネル内面(既設セグメント22の主桁22a)に係合させ、これを手掛かりとして伸縮ロッド16bを収縮させることで、重量物Wがトンネル軸方向に移動する。本実施形態の特徴は、ジャッキ16のワンストロークによる移動が終了した後、次の手掛かりとして、いずれかのジャッキ16の把持部37をトンネル内面に係合するために、いずれかのジャッキ16の伸縮ロッド16bを伸長するとき、残りのジャッキ16の内の少なくとも一本のジャッキ16の把持部37がトンネル内面に係合することで、上記重量物Wの位置を保持するための制御部40を設けた点にある。
【0047】
そして、この制御部40により、上記一本のジャッキ16の把持部37を次の手掛かりとなるトンネル内面に係合するべく、その把持部37をトンネル内面から離脱させてそのジャッキ16の伸縮ロッド16bを伸長させるとき、既に次の手掛かりの位置に係合されて盛り換えられている把持部37を別のジャッキ36によってトンネル径方向外方に押し付け、上記重量物Wの位置を保持するようにしている。これにより、各ジャッキ16の把持部37のトンネル内面への係合位置を盛り換えるとき、常に少なくとも一つの把持部37がトンネル内面に係合された状態となるため、上記重量物Wの位置を保持することができる。
【0048】
よって、レール28が敷設されるトンネルの勾配が急な場合であっても、架台27、33がレール28上を低い方へと滑ってしまうことを防止できる。つまり、本実施形態は、レール28と橇部材29との間の摩擦力に頼って重量物Wの位置を保持しているのではなく、常に少なくとも一本のジャッキ16の把持部37をトンネル内面に係合させることで重量物Wの位置を保持しているので、トンネルの勾配が急であって上記摩擦力のみでは重量物Wの位置を保持できず重量物Wが低い方へと滑り落ちてしまう場合であっても、これを防止できるのである。
【0049】
このように、本実施形態は、常に少なくとも一つの把持部37をトンネル内面に係合状態とすることで急勾配トンネルにおける重量物Wの滑り落ちを防止しているので、架台27、33とレール28との間に橇部材29を設けて橇部材29とレール28との摩擦係数を可及的に小さくできる。よって、ジャッキ16の牽引負担が小さくなり、ジャッキ16の重量物Wへの装着本数を少なくできる。
【0050】
図例では、ジャッキ16をトンネル周方向に間隔を隔てて複数配置している。トンネル内面から等距離の位置に把持部37を配置することが可能なため、複数の把持部37の形状を全て同一にすることが可能である。また、トンネル内面に近い位置に配置できるため、把持部37をコンパクトにできる。また、常に少なくとも二本以上のジャッキ16の把持部37をトンネル内面に係合することで、トンネル周方向に間隔が隔てられた二個以上の把持部37で重量物Wをトンネル内面に保持させることができ、トンネルが傾斜していても重量物Wを安定して保持できる。
【0051】
ここで、トンネル輪切り断面においてトンネル中心Cに対して対向する二本以上のジャッキ16の把持部37を、トンネル径方向外方に移動させてトンネル内面に押し付けて係合させるようにすれば、この係合状態が把持部37を径方向外方に移動する別のジャッキ36の突っ張り力によってロックされるので、トンネルの傾斜が急であっても(例えば45度以上、極論では90度であっても)、重量物Wを転覆させることなく安定して保持できる。なお、90度の場合、レール28、橇部材29、架台27は機能しないため不要であり、副架台33を重量物Wの鉛直下方に吊下する。
【0052】
また、本実施形態では、図9に示すようにジャッキ16を60度間隔で六本配置しているので、これらを120度間隔の三本の第一ジャッキ群と、これと60度位相をずらした同様の第二ジャッキ群とに分け、いずれか一方のジャッキ群の三つ把持部37を別のジャッキに36よりトンネル内面に押し付けて係合させることで、この係合状態が三本の別のジャッキ36の突っ張り力(伸長力)によってロックされる。これは、各ジャッキ36の軸線の交点がトンネル中心Cに合致しているからである。よって、前段で述べたものと同様に急勾配トンネルにおける重量物Wの転覆の問題を解消できる。なお、各ジャッキ36の軸線の交点がトンネル中心Cに合致していれば、ジャッキ36の本数や配置間隔は限定されない。
【0053】
また、ジャッキ16に、シールド掘進機1から取り外したシールドジャッキ16を用いているので、ジャッキ16の伸縮ロッド16bのストロークは少なくともセグメント22の1リング分以上である。よって、伸縮ロッド16bを伸縮することで、伸縮ロッド16bの先端部に設けた把持部37が少なくともセグメント22の1リング分以上の距離をトンネル軸方向に移動することになる。従って、把持部37を、セグメント22同士をトンネル軸方向に接続する主桁22aとこれに隣接する同様の主桁22aとに係合するために、把持部37を伸縮ロッド16bに対してトンネル軸方向に首振りさせる必要はなく、把持部37を別のジャッキ36でトンネル径方向に移動させれば足りる。これにより、対向する(又は120度間隔の)別ジャッキ36の伸長力により、前述した係合状態のロックが達成されるのである。
【0054】
また、ジャッキ16は、油圧装置によって駆動されるところ、ジャッキ16にシールド掘進機1から取り外したシールドジャッキ16を用いているので、シールド掘進機1に備えられていたポンプユニット等の油圧機器を上記油圧装置に流用できる。
【0055】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、図8にてジャッキ16の向きを左右逆にしてジャッキ16の伸長動作によって重量物Wを押し出すようにしてもよく、副架台33にジャッキ16を取り付けてもよく、副架台33と主架台27とを切り離して夫々にジャッキ16を取り付けてもよい。
【0056】
また、重量物Wは、シールド掘進機1の一部(回収部分1y)に限らず、トンネル工事用の各種機械や岩塊、コンクリート躯体等であってもよい。また、ジャッキ16は、中間部材31を介することなく直接重量物W(回収部分1y)に取り付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】シールド掘進機の側断面図である。
【図2】上記シールド掘進機の正面図である。
【図3】到達部に到ったシールド掘進機を放置部分と回収部分とに分けるための最初の工程を示す側断面図である。
【図4】次の工程を示す側断面図である。
【図5】次の工程を示す側断面図である。
【図6】次の工程を示す側断面図である。
【図7】次の工程を示す側断面図である。
【図8】本発明の好適実施形態を示すトンネル内における重量物の搬送装置の側断面図である。
【図9】図8のIX−IX線断面図である。
【図10】図8のX−X線断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 シールド掘進機
1x 放置部分
1y 回収部分
16 ジャッキ(シールドジャッキ)
16b 伸縮ロッド
22a トンネル内面としての主桁
27 架台
28 レール
29 橇部材
37 把持部
40 制御部
W 物品(重量物)
C トンネル中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内の物品にトンネル軸方向に伸縮する複数のジャッキを直接又は間接的に連結すると共に、これら各ジャッキの伸縮ロッドにトンネル内面に係脱する把持部を装着し、該把持部をトンネル内面に係合させてこれを手掛かりとして上記伸縮ロッドを作動させることで、上記物品をトンネル軸方向に移動するようにしたトンネル内における物品の搬送方法であって、
次の手掛かりとして、いずれかのジャッキの把持部をトンネル内面に係合するために、いずれかのジャッキの伸縮ロッドを作動するとき、残りのジャッキの内の少なくとも一本のジャッキの把持部をトンネル内面に係合することで、上記物品の位置を保持するようにしたことを特徴とするトンネル内における物品の搬送方法。
【請求項2】
上記把持部を、上記伸縮ロッドからトンネル径方向に移動させて、トンネル内面に係脱させるようにした請求項1記載のトンネル内における物品の搬送方法。
【請求項3】
上記ジャッキを、トンネル周方向に間隔を隔てて複数配置し、次の手掛かりとしていずれかのジャッキの伸縮ロッドを作動するとき、残りのジャッキの内の二本以上のジャッキの把持部をトンネル内面に係合するようにした請求項1又は2記載のトンネル内における物品の搬送方法。
【請求項4】
上記ジャッキを、トンネル輪切り断面においてトンネル中心に対して対向するように複数配置し、次の手掛かりとしていずれかのジャッキの伸縮ロッドを作動するとき、残りのジャッキの内の対向配置された二本以上のジャッキの把持部をトンネル内面に係合するようにした請求項1〜3いずれかに記載のトンネル内における物品の搬送方法。
【請求項5】
トンネル底部にトンネル軸方向に沿ってレールを敷設し、該レールに橇部材を介して架台を載せ、該架台上に上記物品を載せ、上記ジャッキの作動によって上記レール上を上記橇部材が滑るようにした請求項1〜4いずれかに記載のトンネル内における物品の搬送方法。
【請求項6】
上記トンネルを構築するシールド掘進機を、到達部に残す放置部分と該放置部分から切り離し可能な回収部分とから構成し、上記シールド掘進機が上記到達部に至った後に上記放置部分から上記回収部分を切り離し、この回収部分を上記物品とした請求項1〜5いずれかに記載のトンネル内における物品の搬送方法。
【請求項7】
トンネル内の物品に直接又は間接的に連結されトンネル軸方向に伸縮する複数のジャッキと、これら各ジャッキの伸縮ロッドに設けられトンネル内面に係脱する把持部とを備え、該把持部をトンネル内面に係合させてこれを手掛かりとして上記伸縮ロッドを作動させることで、上記物品をトンネル軸方向に移動するようにしたトンネル内における物品の搬送装置であって、
上記ジャッキは、次の手掛かりとして、いずれかのジャッキの把持部をトンネル内面に係合するために、いずれかのジャッキの伸縮ロッドを作動するとき、残りのジャッキの内の少なくとも一本のジャッキの把持部がトンネル内面に係合することで、上記物品の位置を保持するための制御部を備えたことを特徴とするトンネル内における物品の搬送装置。
【請求項8】
上記把持部が、上記伸縮ロッドに、トンネル径方向に移動自在に設けられた請求項7記載のトンネル内における物品の搬送装置。
【請求項9】
上記ジャッキが、トンネル輪切り断面においてトンネル中心に対して対向するように複数配置された請求項7又は8に記載のトンネル内における物品の搬送装置。
【請求項10】
トンネル底部にトンネル軸方向に沿って敷設されたレールと、該レールに橇部材を介して載置された架台とを備え、該架台上に上記物品を載せた請求項7〜9いずれかに記載のトンネル内における物品の搬送装置。
【請求項11】
上記トンネルを構築するシールド掘進機を、到達部に残す放置部分と該放置部分から切り離し可能な回収部分とから構成し、上記物品が、上記回収部分である請求項7〜10いずれかに記載のトンネル内における物品の搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−92413(P2007−92413A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284051(P2005−284051)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】