説明

トンネル内換気装置及びそれを用いた地下施設

【課題】トンネル状の地下空間等を利用して低酸素環境のトレーニング施設及び高酸素環境の治療施設とするための低酸素空気叉は高酸素空気の供給、排気を行うトンネル内換気装置およびそれを用いた地下施設を提供する。
【解決手段】トンネル1の入り口からトンネルの最深部まで延設され、所定間隔で複数の送気口が設けられた、新鮮空気を送る送気管10と、トンネルの最深部から入り口まで延設され、所定間隔で複数の吸気口が設けられた、排気を吸引する吸気管20とを備え、前記送気管10及び吸気管20は、入り口から最深部先端に向けて距離が遠くなるに従い一定間隔あたりの開口孔面積が徐々に大きくし、送吸気が地下空間で均質になるように送気口10a、吸気口20aが形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長大なトンネル状の地下空間或いは広大な地下空間に、低酸素のトレーニング施設或いは高酸素の治療施設を設ける際のトンネル内換気装置、及びそれを用いた地下施設に関する。
【背景技術】
【0002】
各種スポーツ訓練において、人体内の酸素運搬能力を高めるため標高の高い高地に滞在してトレーニングが行われている。従来、適切な高地トレーニング環境を求めるためには海外遠征が必要であり、多額の費用と時間を要していた。
【0003】
一方、練習中のけがやコンデションを崩した選手の治療や、病気治療に対しては、高圧或いは常圧で高濃度の酸素治療が施されていた。
【0004】
いずれにしても、選手や治療対象者の住居地域に近い環境で低酸素トレーニング或いは高酸素治療が行える施設及び環境の提供が望まれていた。しかし、マラソンやアイススケートのように長距離走行する競技などのトレーニング施設は大規模な大型施設となることから、その空間の気密性保持や、大空間の構造的課題や空気交換のための空気供給、排気の設備が大規模となる問題があった。
【0005】
大規模な大型施設を効率よく低酸素環境にする技術として特許文献1が開示されている。この発明は、トラック状の大型施設の大空間を移動壁で仕切り、仕切られた1区画毎に低酸素空気を入替え、移動壁を次の区画に移動させて順次大型施設全体を低酸素環境にする低酸素トレーニング施設である。
【0006】
しかし、大型施設及び区画のための移動壁の設備費用が大掛かりとなる問題があった。
【0007】
これに対し、地下トンネルなどの利用されていない長大な地下空間が数多く存在している。しかし、従来の送排気方法では、トンネル内に過度の風速の風が生じるなど、長大なトンネルを密閉して内部を均一な酸素濃度、温度及び湿度に保つことが難しい問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開2004−65376号公報(第2、3頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前述の問題に鑑みてなされたもので、利用されていないトンネル状の地下空間を利用して低酸素環境のトレーニング施設或いは高酸素環境の治療施設とするための低酸素空気又は高酸素空気の供給、排気を行うトンネル内換気装置およびそれを用いた地下施設の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のトンネル内換気装置は、出入口が密閉されたトンネル状の長大な地下空間或いは広大な地下空間を一定の温度、湿度、及び所望の酸素濃度の環境とし、低酸素濃度状態及び/又は低気圧状態のトレーニング施設、或いは高酸素濃度状態及び/又は高気圧状態の治療施設における換気装置であって、
トンネルの入り口からトンネルの最深部まで延設され、所定間隔で複数の送気口が設けられた、新鮮空気を送る送気管と、トンネルの最深部から入り口まで延設され、所定間隔で複数の吸気口が設けられた、排気を吸引する吸気管とを備え、
前記送気管及び吸気管は、入り口から最深部先端に向けて距離が遠くなるに従い一定間隔あたりの開口孔面積が徐々に大きくなるように前記送気口、吸気口が形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、前記送気口・吸気口は、送気管又は吸気管の周壁の下部に設けられた開口孔と、その開口孔を覆うように管内部に突設されて設けられた気流ガイド部から構成され、送気管では送り込まれた管内気流の一部を気流ガイド部で開口孔方向に導きトンネル内に供給し、吸気管ではトンネル内空気を開口孔から吸引して気流ガイド部により出口方向に導き排出させることを特徴とする。
【0012】
また、トンネル内換気装置を用いた地下施設は、長大な地下空間のトレーニング施設又は治療施設であって、地下水又は地下空間近傍に湧出又は周辺に集まる地下水を貯水する湧水槽と、外気を取入れる換気装置(コントラファン)と、換気装置(コントラファン)で取入れられた外気を前記湧水槽の一定温度の地下水を利用して除湿及び温度調節する温湿度調節装置と、取り入れられた外気を所望の酸素濃度にする酸素濃度調節装置と、
所望の酸素濃度に調整された空気を地下空間の入り口からトンネル最深部まで偏ることなく送気する送気管と、トンネル先端深部から入り口まで偏ることなく排気を吸引して排出する吸気管とからなる請求項1記載のトンネル内換気装置と、排気を吸引して外部に排出する換気装置(コントラファン)とから構成し、
前記酸素濃度調節装置は、酸素富化膜等を備え、吸入された外気を低酸素濃度空気と高酸素濃度空気に区分して排出し、排出された低酸素濃度空気をトレーニング施設に供給すると共に、高酸素濃度空気を治療施設に供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のトンネル内換気装置によれは、長大なトンネル状の地下空間或いは広大な地下空間の空気を、偏ることなく排気して、新たな低酸素濃度空気或いは高酸素濃度空気との入れ替えを効率よく行うことができる。また、トレーニング施設或いは治療施設として運用した場合、利用者の呼気による炭酸ガスを含む排気を効率よく排出し、新鮮な所望の低酸素或いは高酸素空気と換気することができる。
【0014】
また、従来利用されていなかった各地の地下トンネルなどの広大な地下空間を利用し、低コストでトレーニング施設或いは治療施設を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のトンネル内換気装置およびトンネル内換気装置を用いた地下施設の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明のトンネル内換気装置の模式図で、(a)は側面図、(b)は平面図、(c)は断面図である。
【0017】
図1は、長大な地下空間であるトンネル1の模式図であり、左側はトンネル1の最深部、右側はトンネル1の入り口方向を示している。
【0018】
この実施例では、トンネル1の内部の天井1aに近い上部に送気管10が左右にそれぞれ1本ずつ配置されている。(図1(c)参照)
【0019】
また、トンネル1の両側面の側壁1bには吸気管20がそれぞれ1本ずつ配置されている。1cは、トンネル1の床面を示す。なお、送気管10の配置はこの実施例に限るものではなく、送気管10と吸気管20を離して設ければ、それぞれの配置は上下左右いずれの部分でも良い。
【0020】
図1において、矢印は送気管10からトンネル1内に供給される送気流(黒矢印)11及び、吸気管20に吸い込まれて排出される吸気流(白矢印)21を示し、トンネル1の出入り口から深部まで偏ることなく新鮮空気が供給され、トンネル1内の排気が吸引排出されていることを示す。
【0021】
この送気流(黒矢印)11は、送気管10に一定間隔で設けられた送気口10a(図2参照)からトンネル1内に供給される。
【0022】
図2は、送気管10の下面を示し、送気管10に設けられた送気口10aの模式図である。
【0023】
図2に示すように、送気管10の送気口10aは、出入り口側から、深部に向けて開口孔面積(孔径)が徐々に大きくなるように形成されている。
【0024】
図においては、送気口10a1、10a2、10a3・・・・10an−1、10anの順に開口孔面積(孔径)が大きく形成されている。
【0025】
出入り口から送られた送気流は、深部に行くにつれて圧力が弱くなるが、送気口の開口孔面積(孔径)が徐々に大きく形成されているため、送気流は入り口から深部までほぼ均一量がトンネル1内に供給される。
【0026】
トンネル出入り口または深部に新鮮空気を送り込んでいた従来のトンネル内の給気では、トンネル1内に大量の空気を数少ない送気口で送り込んだりするため、気流が起きていたが、本発明では、数多くの送気口より弱い風速で送気する。このため、トンネル1内を、ほぼ無風状態のトレーニング施設とすることができる。
【0027】
また、偏り無く新鮮空気を供給することができる。このため、新鮮空気を低酸素濃度とすれば、トンネル内全体を一定条件の低酸素トレーニング環境とすることができる。
【0028】
図1(b)は、トンネル1に配置された送気管、吸気管と、気流を示しており、トンネルの入り口から深部まで偏り無く送気、吸気されている状態を矢印の気流で示している。
【0029】
図1(c)は、トンネル1の断面を示し、トンネル天井1aの左右に送気管10が配置され、下向きに新鮮空気を供給し、トンネル1の側壁1bの左右に吸気管20が配置され、床面1c方向から排気を吸い込んで排出している状態を示す。なお、送気管10、吸気管20の配置及びその送気口10a、吸気口20aの向きは、この例に限ることはなく、トンネル内の換気設計に合わせて任意に設けることができる。
【0030】
図3は、本発明の第2の実施例の送気管の構造を示す図で、(a)は側面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)のB−B断面図、(d)は(a)のC−C断面図である。
【0031】
図3(a)において、10Aは送気管を示し、一定間隔で設けられた送気口10aから10anは、入り口から最深部に向けて距離が長くなるに従い徐々に大きな開口孔面積(孔径)の開口孔15となるように形成されている。
【0032】
図3(b)〜(d)に示すように、送気口10aは、開口孔15を覆ように送気管10A内部に突設された気流ガイド16が設けられている。
【0033】
この実施の形態では、送気管10Aの周壁に、管軸と直角方向に切り込みを入れ、トンネル奥部方向の周壁を管内側に折り込み、開口孔15を形成した構造としている。
【0034】
この実施例では、送気管10Aの周壁そのものを用いて気流ガイド16と、開口孔15を形成することとしたが、図2に示した円形の送気口10a或いは三角、方形などの送気口として、管内に気流ガイドを別途に設けることとしても良い。
【0035】
図4は、吸気管の側面を示し、吸気管に設けられた吸気口の模式図である。
【0036】
図4に示すように、吸気管20の吸気口20aは、出入り口側から深部に向けて開口孔面積(孔径)が徐々に大きくなるように形成されている。
【0037】
図において、吸気口20a1、20a2、20a3・・・・20anの順に孔径面積が大きくなるように形成されている。
【0038】
出入り口側で吸引された吸気流21は、深部の吸気口20anから入り口の吸気口20a1まで、それぞれの孔からほぼ均一に吸い込まれ排出される。
【0039】
吸気により排出されたトンネル1内には、前記送気管10の送気口10aから新鮮空気が供給されて置き換えられる。
【0040】
以上の実施例では、送気管10及び吸気管20に一定間隔で設けた送気口10a、吸気口20aの開口孔面積を変化させる形態を示したが、
送気口10a、吸気口20aの開口孔面積は一定とし、入り口から最深部先端に向けて距離が遠くなるに従い一定間隔あたりの送気口10a、吸気口20aの配置数を変化させ、一定間隔あたりの総開口孔面積が徐々に大きくなるようにする方法、
【0041】
又は、送気管10においては、送気口10aの開口孔面積と一定間隔あたりの配置数は変えず、前記気流ガイド16のサイズを入り口から最深部先端に向けて距離が遠くなるに従い徐々に大きくなるように変化させる方法で、一定間隔あたりの総開口面積が同じでもあっても、送気流の圧力が徐々に低くなっても入り口と深部がほぼ同量の給気となるように排出させ、結果として実施の形態と同様の効果を得ることもできる。
【0042】
次に、本発明のトンネル内換気装置を用いた地下施設について説明する。
【0043】
図5は、本発明のトンネル内換気装置を用いた地下施設の構成を示す模式図である。
【0044】
1は、長大な地下空間トレーニング施設1であって、低圧低酸素または常圧低酸素環境とする。一方、2は、地下空間治療施設であって、高圧、高圧高酸素または常圧高酸素環境とする。
【0045】
地下空間トレーニング施設1は、競技練習用の直線トラックなどが設けられる長大なトンネルが望ましい。一方、地下空間治療施設2は、ベッド、リハビリ機器、治療機器、フィットネス機材等を設ける一定の広さの空間であれば良い。共に入り口は扉1a、2aで出入り可能な密閉構造としておく。また、常圧以外の環境とする場合は、気圧調整部屋を設け、出入し易くすると共に、気圧変化による人体への影響をなくする設備を設ける。
【0046】
これらの地下施設は、地下空間近傍に湧出する地下水を貯水する湧水槽5と、外気を取入れる換気装置(送気用コントラファン)4と、換気装置(送気用コントラファン)4で取入れられた外気を前記湧水槽の一定温度の地下水を利用して外気の湿度、温度調整を行う温湿度調節装置7と、取り入れられた外気8を所望の酸素濃度にする酸素濃度調節装置6と、を備える。
【0047】
取り入れられた外気8を酸素濃度調節装置6により所望の酸素濃度に調整した空気は、地下空間の入り口からトンネル最深部まで延設された送気管10により、トンネル1の先端深部から入り口まで偏ることなく送られる。
【0048】
酸素濃度調節装置6は、酸素富化膜等を備え吸入された外気8を低酸素濃度空気Aと高酸素濃度空気Bに区分して排出し、排出された低酸素濃度空気Aを低気圧状態または常圧のトレーニング施設1に供給すると共に、高酸素濃度空気Bを高気圧状態または常圧の治療施設に供給する。
【0049】
酸素富化膜は、酸素と窒素を分離する膜で、空気を通すと窒素より酸素が多く透過する特徴を利用したものである。この実施の形態では、酸素富化膜を用いた酸素濃度調節装置6を用いたが、トンネル1を密閉状態とするため低圧低酸素として実施しても良い。また酸素濃度調節装置としては、酸素富化膜以外を用いた酸素濃度調節装置を用いてもよい。
【0050】
また、この実施の形態の配置順に限ることなく、コントラファン4及び温湿度調節装置7を酸素濃度調節装置6の前段に設けても良い。
【0051】
地下空間トレーニング施設1で消費された排気は、トンネル1内に設けられた吸気管20に接続された換気装置(吸引用コントラファン)3により吸引されて、トンネル1最深部から、入り口まで一定間隔で設けられた吸気口20aから偏りなく吸引されて外部に排出される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のトンネル内換気装置の模式図で、(a)は側面図、(b)は平面図、(c)は断面図である。
【図2】送気管に設けられた送気口の模式図である。
【図3】本発明の第2の実施例の送気管の構造を示す図で、(a)は側面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)のB−B断面図、(d)は(a)のC−C断面図である。
【図4】吸気管に設けられた吸気口の模式図である。
【図5】本発明のトンネル内換気装置を用いた地下施設の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1 トンネル、地下空間トレーニング施設
1a 天井
1b 側壁
1c 床面
1d 扉
2 地下空間治療施設
2d 扉
3 換気装置(吸引用コントラファン)
4 換気装置(送気用コントラファン)
5 湧水槽
6 酸素濃度調節装置
7 温湿度調節装置
8 外気
10 送気管
10A 送気管
10a 送気口
10a1〜10an 送気口
15 開口孔
16 気流ガイド
20 吸気管
20a 吸気口
20a1〜20an 吸気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出入口が密閉されたトンネル状の長大な地下空間或いは広大な地下空間を一定の温度、湿度、及び所望の酸素濃度の環境とし、低酸素濃度状態及び/又は低気圧状態のトレーニング施設、或いは高酸素濃度状態及び/又は高気圧状態の治療施設における換気装置であって、
トンネルの入り口からトンネルの最深部まで延設され、所定間隔で複数の送気口が設けられた、新鮮空気を送る送気管と、トンネルの最深部から入り口まで延設され、所定間隔で複数の吸気口が設けられた、排気を吸引する吸気管とを備え、
前記送気管及び吸気管は、入り口から最深部先端に向けて距離が遠くなるに従い一定間隔あたりの開口孔面積が徐々に大きくなるように前記送気口、吸気口が形成されていることを特徴とするトンネル内換気装置。
【請求項2】
前記送気口・吸気口は、送気管又は吸気管の周壁に設けられた開口孔と、その開口孔を覆うように管内部に突設されて設けられた気流ガイド部から構成され、送気管では送り込まれた管内気流の一部を気流ガイド部で開口孔方向に導きトンネル内に供給し、吸気管ではトンネル内空気を開口孔から吸引して気流ガイド部により出口方向に導き排出させることを特徴とする請求項1記載のトンネル内換気装置。
【請求項3】
長大な地下空間のトレーニング施設又は治療施設であって、地下水又は地下空間近傍に湧出又は周辺に集まる地下水を貯水する湧水槽と、外気を取入れる換気装置(コントラファン)と、換気装置(コントラファン)で取入れられた外気を前記湧水槽の一定温度の地下水を利用して除湿及び温度調節する温湿度調節装置と、取り入れられた外気を所望の酸素濃度にする酸素濃度調節装置と、
所望の酸素濃度に調整された空気を地下空間の入り口からトンネル最深部まで偏ることなく送気する送気管と、トンネル先端深部から入り口まで偏ることなく排気を吸引して排出する吸気管とからなる請求項1記載のトンネル内換気装置と、排気を吸引して外部に排出する換気装置(コントラファン)とから構成し、
前記酸素濃度調節装置は、酸素富化膜等を備え、吸入された外気を低酸素濃度空気と高酸素濃度空気に区分して排出し、排出された低酸素濃度空気をトレーニング施設に供給すると共に、高酸素濃度空気を治療施設に供給することを特徴とするトンネル内換気装置を用いた地下施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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