説明

トンネル前方地盤内の地下水探査方法

【課題】 トンネル坑内から前方50〜100m程度の比較的長距離に及ぶ範囲で短時間且つ低コストで地下水を探査することが可能なトンネル前方地盤内の地下水探査方法を提供する。
【解決手段】 本発明の地下水探査方法では、地上16からトンネル切羽11の前方地盤17内に向けてほぼ鉛直のボーリング孔18を形成し、ボーリング孔内の複数箇所に電極18aを設置するか、または地表面からトンネル切羽前方の地盤内に向けてほぼ鉛直に予め形成されている既存のボーリング孔内の複数箇所に電極を設置し、トンネル坑内において、切羽付近又は切羽から離間した所定長後方でトンネル軸にほぼ直交する上下方向にボーリング孔14,15を形成し、各ボーリング孔内の複数箇所に電極14a,15aを設置し、電極18aと電極14a,15aとの間で比抵抗値を求めてトンネルの前方地盤の地下水状況を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル掘削方向における地盤内の地下水を探査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルを構築する際に、地下断層や地下水状況の情報を得るため、比抵抗法等の電気探査が実施されている。例えば、特許文献1には、地表面に複数の地表電極を配置し、トンネル坑内に複数の坑内電極を配置し、一方の遠電極と坑内電極の1つを通電し、他方の遠電極と各地表電極間の電位差を測定した後、一方の遠電極と他の坑内電極を順次通電し、その都度、他方の遠電極と各地表電極間の電位差を測定し、比抵抗の分布状況から地盤性状を推定する探査方法が記載されている。
この従来方法は、地表面とトンネル坑内とで挟まれた範囲を探査するものであり、この探査以降に掘削する予定の地盤、すなわち、トンネル切羽前方の地盤については探査範囲外となってしまい、したがって、地下深部の地下水状況について必要とされる情報が得られないという欠点がある。
【0003】
他の従来技術としては、地上から複数の鉛直ボーリング孔を形成し、それぞれの鉛直ボーリング孔内に等間隔で測定点を設定し、任意の鉛直ボーリング孔の測定点から電流を流したり、又は弾性波を発信し、他のボーリング孔内の各測定点で電位を測定したり、又は弾性波を受信し、比抵抗分布や弾性波速度分布から地盤性状を推定する探査方法がある。この従来方法では、少なくとも二本の鉛直ボーリング孔を地表面からトンネル基面まで設ける必要があり、そのため膨大なコストが掛かるという問題がある。
【0004】
また他の従来技術としては、トンネルの切羽前方の地質性状を予測する方法が特許文献2に記載されている。これは、トンネル前方地盤に向けて斜めに一対のボーリング孔を穿設し、各ボーリング孔内に等間隔に電極を設置すると共に、切羽面にも等間隔に電極を設置し、各電極で電位を測定して比抵抗を求め、これら比抵抗値から二次元比抵抗断面分布図を作成するものである。
しかしながら、トンネル前方地盤に地下水流が存在する場合、ボーリング孔からトンネル内に多量の地下水が流入し、この水処理に多大な労力を要してしまうため、トンネルの斜め前方地盤にボーリング孔を形成することは、あまり合理的ではない。また比較的遠距離である50〜100m程度前方の探査は短時間で行うことができず、さらに、最も情報が必要であるトンネル基面での比抵抗値と地下水の関係が不明であるという欠点もある。
【特許文献1】特開平10−260264号公報
【特許文献2】特開2001−166061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のような現状を鑑みて本発明の課題は、トンネル坑内から前方50〜100m程度の比較的長距離に及ぶ範囲で短時間且つ低コストで地下水を探査することが可能なトンネル前方地盤内の地下水探査方法を提供することである。
【0006】
また本発明の別の課題は、トンネル基面での地下水と比抵抗値の関係が明らかであり、高い測定精度が可能なトンネル前方地盤内の地下水探査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、地上においては、トンネル切羽前方の地盤内に向けて地表面からほぼ鉛直のボーリング孔を形成し、当該ボーリング孔内の複数箇所に電極を設置するか、または地表面からトンネル切羽前方の地盤内に向けてほぼ鉛直に予め形成されている既存のボーリング孔内の複数箇所に電極を設置し、トンネル坑内においては、切羽付近又は切羽から離間した所定長後方でトンネル軸にほぼ直交する上下方向にボーリング孔を形成し、各ボーリング孔内の複数箇所に電極を設置し、地表面から形成されたボーリング孔内の電極と、トンネル坑内から形成されたボーリング孔内の電極との間で比抵抗値を求めてトンネル掘削方向の前方地盤における地下水状況を予測することを特徴とするトンネル前方地盤内の地下水探査方法が提供される。
【0008】
ここで、前記予め形成されている既存のボーリング孔としては、例えば、トンネル掘削を実際に開始する以前に、地表面からトンネル予定線に向けて形成された調査ボーリング孔であって、未だ埋め戻されていない調査ボーリング孔を挙げることができる。
【0009】
本発明において、トンネル坑内でボーリング孔を形成する位置は、例えば、トンネル坑内で湧水が比較的多い場合には、切羽から離間したほぼ10m程度後方地点が好ましく、この地点における天端及びインバートからトンネル軸にほぼ直交する上下方向に比較的短いボーリング孔を形成する。このほぼ10m程度後方地点とする根拠は、切羽の湧水処理作業スペース、もしくは安全を確保できる位置として1D(D:トンネルの幅)程度離れた位置が望ましいからである。
一方、トンネル坑内で湧水が比較的少ない場合には、トンネル坑内でボーリング孔を形成する位置は切羽付近、すなわち、切羽とほぼ同地点又は切羽からほぼ2m以内の後方の地点が好ましく、この地点において同様に天端及びインバートからトンネル軸にほぼ直交する上下方向に比較的短いボーリング孔を形成する。
ここで、トンネル坑内から上下方向に形成するボーリング孔は、少なくとも20m〜30m程度の長さに形成すれば良い。この長さの根拠は、一般的にトンネル施工に使用するドリルジャンボ機の削孔能力として、20〜30m程度のボーリング孔であれば、1本を1〜2時間程度で効率良く孔曲がりせずに削孔できるからである。
【0010】
また地表面からほぼ鉛直に形成するボーリング孔と、トンネル切羽との相対的な位置は、例えば、トンネル坑内の湧水が比較的多い場合には、トンネル切羽から40〜90m程度離間した位置とするのが好ましい。
一方、トンネル坑内の湧水が比較的少ない場合には、トンネル切羽から50〜100m程度離間した位置とするのが好ましい。
以上のようなトンネル切羽からの離間位置にする根拠は、一般的に比抵抗トモグラフィの探査距離の限界として地山条件が良ければ100m程度、悪ければ50m程度であり、トンネル坑内の測線が切羽後方10mを考慮しているからである。
【0011】
本発明のトンネル前方地盤内の地下水探査方法では、前記上下方向のボーリング孔を切羽付近に設けた場合には、これら上下方向のボーリング孔に加えて、切羽からトンネル掘削方向の地盤に向けて水平方向にボーリング孔を形成し、当該水平方向のボーリング孔内の複数箇所に電極を設置して探査精度を向上させても良い。
ここで、水平方向のボーリング孔は、トンネル切羽から30m程度の長さに形成すれば良い。この長さの根拠は、一般的にトンネル施工に使用するドリルジャンボ機の削孔能力として、20〜30m程度のボーリング孔であれば、1本を1〜2時間程度で効率良く孔曲がりせずに削孔できるからである。
以上のように水平方向のボーリング孔内に設置した各電極で比抵抗値を求め、この比抵抗値と、水平方向にボーリング孔を形成したときの湧水状況とを比較し、これにより、切羽前方の得られた比抵抗値から、切羽前方の湧水量を予測することにより、極めて精度の高い地下水探査が可能になる。
【0012】
また本発明のトンネル前方地盤内の地下水探査方法では、前記上下方向のボーリング孔を切羽から離間した所定長後方に設けた場合には、これら上下方向のボーリング孔に加えて、上下方向のボーリング孔が設けられた付近から切羽までのトンネル坑壁面に複数箇所に電極を設置しても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明のトンネル前方地盤内の地下水探査方法では、予め形成されている調査ボーリング孔を1本使用するか、又は、地上からトンネル切羽前方の地盤に向けてほぼ鉛直のボーリング孔を新たに1本形成すれば、トンネル坑内では、坑壁からは上下方向に短いボーリング孔を形成するだけで、ボーリング孔間の比抵抗値の測定が可能となり、地下水状況を精度良く、比較的安いコストで探査することができる。
また本発明では、トンネル切羽から50〜100m程度前方地盤の地下水探査を比較的短時間で終了させることができるため、トンネル施工の遅延を防止することができる。
さらに、本発明によれば、トンネル切羽から前方地盤に水平方向に形成した水平ボーリング孔又はトンネル坑壁面の地下水状況と比抵抗値との関係から探査を検証することにより、非常に精度のよい地下水探査が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1乃至図3は、本発明にかかるトンネル前方地盤内の地下水探査方法の一実施形態を示している。
【0015】
本発明をトンネル坑内の湧水が比較的多い地盤に適用する場合、図1に示したように、トンネル切羽11からほぼ10m程度後方の地点で天端12及びインバート13からトンネル軸にほぼ直交する上下方向に20〜30m程度の比較的短いボーリング孔14,15(以下、短尺ボーリング孔14,15という)を形成する。この短尺ボーリング孔14,15は、多くのトンネル施工において採用されているドリルジャンボなどの削岩機により形成可能である。
一方、地上16からは、トンネル切羽前方の地盤17に向けてほぼ鉛直のボーリング孔18を形成する。この鉛直ボーリング孔18は、本発明を実施するに際して新たに形成するか、またはトンネルの掘削開始以前にトンネル予定線に向けて予め形成された調査ボーリング孔を使用することが可能である。鉛直ボーリング孔18は、トンネル切羽11からほぼ40〜90m程度離間した位置に設けることが好ましい。
【0016】
以上のように形成した短尺ボーリング孔14,15及び鉛直ボーリング孔18に、ほぼ2m間隔でそれぞれ電極14a,15a,18aを配置する。短尺ボーリング孔14,15内の電極14a,15aのうち選択した一つの電極と、鉛直ボーリング孔18内の電極18aのうち選択した一つの電極との間で通電し、一方の電極に接続された測定機(図示せず)により比抵抗を測定する。短尺ボーリング孔14,15内及び鉛直ボーリング孔18内の全ての電極において、このような一対一の電極の全ての組み合わせで比抵抗を順次測定する。
【0017】
次に、トンネル切羽11から短尺ボーリング孔14,15までの区間の坑壁面19におけるトンネル基面に近い高さに、ほぼ2m間隔で電極19aを配置する。
坑壁面19に設置した電極19aに関しても、鉛直ボーリング孔18の電極18aとの間で、一対一の電極の全ての組み合わせで比抵抗を順次測定する。また電極19aを設置した坑壁面19からの湧水量と、坑壁面19の比抵抗値とを比較し、湧水量と比抵抗値との関係が得られることにより、探査範囲の地下水胚胎状態を定量的に評価する。
【0018】
最後に、既にパッケージソフトとして販売されている解析ソフトウェアを使用し、比抵抗値から、例えば、図3に示したようなトモグラフィにより出力する。これは、図1において点線で囲った計測範囲20、すなわち、上下方向の短尺ボーリング孔14,15と、鉛直ボーリング孔18と、上端の電極どうしを接続する線と、下端の電極どうしを接続する線とで囲まれたほぼ垂直な平面における比抵抗の修正値の分布である。比抵抗は、岩盤中に含まれている水分量により変化するものであり、比抵抗が高い場合には、堅硬な岩盤もしくは風化層等のように間隙率が大きいが含水率の低い部分であり、また比抵抗が低い場合には、岩盤は堅硬だが粘土層や石墨等の導電性鉱物を挟在する部分、著しく低比抵抗の水を含む部分、もしくは断層・破砕帯等のように間隙率が大きくて且つ地下水で飽和されている部分、粘土帯である。
【0019】
次に、図2は、本発明をトンネル坑内の湧水が比較的少ない地盤に適用した探査状況の断面図である。この場合、図2に示したように、トンネル切羽11とほぼ同地点又は切羽から数センチ程度後方の地点で天端12及びインバート13からトンネル軸にほぼ直交する上下方向に10〜30m程度の比較的短い短尺ボーリング孔24,25を削岩機等により形成する。また短尺ボーリング孔24,25に加えて、切羽11からトンネル切羽前方地盤17に向けて水平方向に20〜30m程度の比較的短い水平ボーリング孔26を形成する。
一方、地上16からは、トンネル切羽前方地盤17に向けてほぼ鉛直のボーリング孔18を形成する。この鉛直ボーリング孔18は、新たに形成するか、または既設の調査ボーリング孔を使用し、鉛直ボーリング孔18とトンネル切羽11との離間距離はほぼ50〜100m程度とすることが好ましい。
【0020】
次に、図1の態様と同様に、短尺ボーリング孔24,25及び鉛直ボーリング孔18にほぼ2m間隔でそれぞれ電極24a,25a,18aを配置し、短尺ボーリング孔24,25内の電極24a,25aと、鉛直ボーリング孔18内の電極18aとから、一対一の全ての組み合わせで通電し、一方の電極に接続された測定機(図示せず)により比抵抗を順次測定する。また水平ボーリング孔26にもほぼ2m間隔でそれぞれ電極26aを配置し、これらの電極26aに関しても、鉛直ボーリング孔18の電極18aとの間で、一対一の全ての組み合わせで比抵抗を順次測定する。また水平ボーリング孔26を形成するときに、ボーリング孔の深さが2mずつ増加する毎に湧水量を、水平ボーリング孔26の比抵抗値と比較することで、湧水量と比抵抗値との関係が得られることにより、探査範囲の地下水胚胎状況を定量的に評価する。
最後に、これらの比抵抗値からトモグラフィ(図示せず)により結果を出力する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】トンネル坑内における湧水が多い場合の探査状況を示す断面図である。
【図2】トンネル坑内における湧水が少ない場合の探査状況を示す断面図である。
【図3】図1の断面図に解析結果のトモグラフィを重ねて示した図である。
【符号の説明】
【0022】
11 トンネルの切羽
12 天端
13 インバート
14 短尺ボーリング孔
14a 短尺ボーリング孔14内に設置された電極
15 短尺ボーリング孔
15a短尺ボーリング孔15内に設置された電極
16 地上
17 トンネル切羽前方の地盤
18 鉛直ボーリング孔
19 トンネルの坑壁面
19a 坑壁面19に設置された電極
24 短尺ボーリング孔
24a 短尺ボーリング孔24に設置された電極
25 短尺ボーリング孔
25a 短尺ボーリング孔25に設置された電極
26 水平ボーリング孔
26a 水平ボーリング孔26に設置された電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上においては、トンネル切羽前方の地盤内に向けて地表面からほぼ鉛直のボーリング孔を形成し、当該ボーリング孔内の複数箇所に電極を設置するか、または地表面からトンネル切羽前方の地盤内に向けてほぼ鉛直に予め形成されている既存のボーリング孔内の複数箇所に電極を設置し、
トンネル坑内においては、切羽付近又は切羽から離間した所定長後方でトンネル軸にほぼ直交する上下方向にボーリング孔を形成し、各ボーリング孔内の複数箇所に電極を設置し、
地表面から形成されたボーリング孔内の電極と、トンネル坑内から形成されたボーリング孔内の電極との間で比抵抗値を求めてトンネル掘削方向の前方地盤における地下水状況を予測することを特徴とするトンネル前方地盤内の地下水探査方法。
【請求項2】
前記上下方向のボーリング孔を切羽付近に設けた場合には、これらに加えて、切羽からトンネル掘削方向の地盤に向けて水平方向にボーリング孔を形成し、当該水平方向のボーリング孔内の複数箇所に電極を設置することを特徴とする前記請求項1に記載のトンネル前方地盤内の地下水探査方法。
【請求項3】
前記上下方向のボーリング孔を切羽から離間した所定長後方に設けた場合には、これらに加えて、上下方向のボーリング孔が設けられた付近から切羽までのトンネル坑壁面に複数箇所に電極を設置することを特徴とする前記請求項1に記載のトンネル前方地盤内の地下水探査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−122010(P2009−122010A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297644(P2007−297644)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)