説明

トンネル掘削機における掘削機本体の回収方法および装置

【課題】 掘削壁面にトンネル覆工体を形成しながらトンネル掘削機によって所定長のトンネルを掘削したのち、該トンネル覆工体を損傷させることなく掘削機本体を発進側に向かって円滑且つ確実に回収することができる回収装置を提供する。
【解決手段】 トンネル覆工体30の内底面に沿って周方向に湾曲している受台1と、この受台1の下面四方部に装着しているリング状のエアバッグ2Aとからなり、掘削機本体10の回収時に該掘削機本体10をこの受台1の上面に載置し、エアバッグ2A内に圧縮空気を供給して該エアバッグ2Aを膨脹させることにより受台1を浮上させると共に、エアバッグ2Aの内周壁面で囲まれた空間部2C内にも圧縮空気を供給して該空間部2Cを圧力室とし、この圧力室内から圧縮空気の一部を外部に噴流させてエアバッグ2Aとトンネル覆工体30との間に空気膜を形成しながら受台1を後方に牽引して回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトンネル掘削機によって地中にトンネルを掘削しながら該掘削壁面にトンネル覆工体を施工したのち、このトンネル覆工体内を通じてトンネル掘削機における掘削機本体を回収する方法とこの方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に推進工法やシールド工法によってトンネルを掘削する場合、発進立坑側からトンネル掘削機を到達立坑に向かって掘進させると共に、一定長のトンネルを掘削する毎に該トンネル掘削機に後続させて一定長の埋設管を順次、継ぎ足したり、或いは、掘削壁面にセグメントを組み立てることによってトンネル覆工体を形成したのち、到達立坑に達したトンネル掘削機は、通常、該到達立坑内から地上に回収しているが、到達側に既存の人孔が設けられている等の事情によって到達立坑が設けられていない場合や、或いは、到達立坑を通じて回収することができない場合には、掘削終了後にトンネル掘削機を解体してトンネル覆工体内を通じて発進立坑側に撤去、回収しなければならない。
【0003】
このため、特許文献1に記載されているように、地中にトンネルを掘削しながら該トンネル内に管体を順次、埋設することよってトンネル覆工体を形成していくトンネル掘削機において、上記トンネル覆工体の外径と略同一外径を有する円筒形状の外殻と、この外殻内に配設された掘削機本体とからなり、この掘削機本体は上記トンネル覆工体よりも小径に形成され且つ上記外殻内に後方に向かって引き出し可能に連結、支持されている内殻を備えていると共に、この内殻の前部に一体に設けている隔壁に外径がトンネル覆工体の内径よりも縮小可能なカッタヘッドを回転自在に支持させてあり、さらに、このカッタヘッドの駆動手段と、カッタヘッドによって掘削された掘削土砂の排出手段とを備えたトンネル掘削機が開発された。
【0004】
そして、トンネル掘削壁面にトンネル覆工体を施工、形成しながらトンネル掘削機によって所定長さまでトンネルを掘削すると、上記掘削土砂排出手段をトンネル覆工体内を通じて回収、撤去すると共に該カッタヘッドをトンネル覆工体の内径よりも小径になるまで縮径させ且つ外殻に対する内殻の連結を解き、さらに、該内殻の後端部下周面にガイドローラを装着したのち、外殻を掘削壁面に残置させた状態で掘削機本体を後方に牽引することにより、上記ガイドローラと予め内殻の前端部下周面に装着しておいたガイドローラとをトンネル覆工体の内底面上で転動させながら掘削機本体を発進立坑側に向かって回収している。
【特許文献1】特開2004−346688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなトンネル掘削機における掘削機本体の回収方法によれば、掘削機本体をその内殻の前後端部の下周面に装着した前後ガイドローラによって支持させ、これらのガイドローラをトンネル覆工体の内底面上で転動させながら回収するものであるから、掘削機本体の大きな荷重が前後ガイドローラを介してこれらのガイドローラが転動する築造されたトンネル覆工体の内底面に集中的に作用し、該トンネル覆工体に亀裂や損傷が発生してその供用に不具合を生じる虞れがある。
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、築造されたトンネル覆工体に亀裂や損傷を生じさせることなく、掘削機本体の回収が確実に行えるトンネル掘削機における掘削機本体の回収方法とこの方法を実施するための装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明のトンネル掘削機における掘削機本体の回収方法は、請求項1に記載したように、発進側からトンネル掘削機を発進させて該トンネル掘削機により地中にトンネルを掘削しながらその掘削壁面にトンネル覆工体を施工し、所定長のトンネル掘削後、トンネル覆工体内を通じてトンネル掘削機におけるカッタ板と該カッタ板の駆動手段とを備えた掘削機本体を発進側に回収する方法であって、トンネル覆工体の内底面に沿って周方向に円弧状に湾曲している受台の下面に浮揚手段を装着してなる回収装置を掘削機本体の後方のトンネル覆工体の内底面上に配設してその受台上に掘削機本体を載置し、浮揚手段により受台をトンネル覆工体の内底面から浮上させながら、該受台を発進側に牽引して掘削機本体を回収することを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、上記方法を実施するための装置であって、発進側からトンネル掘削機を発進させて該トンネル掘削機により地中にトンネルを掘削しながらその掘削壁面にトンネル覆工体を施工し、所定長のトンネル掘削後、トンネル覆工体内を通じてトンネル掘削機におけるカッタ板と該カッタ板の駆動手段とを備えた掘削機本体を発進側に回収するための装置において、トンネル覆工体の内底面に沿って周方向に円弧状に湾曲し且つ上面を掘削機本体の載置面に形成している受台と、この受台の下面に装着された浮揚手段とから構成していることを特徴とする。
【0009】
このように構成したトンネル掘削機における掘削機本体の回収装置において、上記浮揚手段は請求項3に記載したように、弾性的に膨脹、収縮自在なリング状のバッグと、該バッグ内とこのバッグで囲まれた空間部とに圧力流体供給源から圧力流体を供給する管路とからなり、このバッグを受台の下面四方部に装着していることを特徴とする。
【0010】
さらに、請求項4に係る発明は、トンネル覆工体の内底面に気密性を有するシートを敷設していることを特徴とし、請求項5に係る発明は、上記受台の下面の前後部における両側に隣接するバッグ間に、これらのバッグを収縮させた際にシート上に接して受台をトンネル長さ方向に移動させる車輪を回転自在に装着していることを特徴とする。
【0011】
また、請求項6に係る発明は、受台上に載置した掘削機本体の外周面にローリング防止手段を設けていることを特徴とする。このローリング防止手段としては、請求項7に記載したように、掘削機本体の外周面両側部に装着されて、スプリング力によりトンネル覆工体に圧接した状態でトンネル長さ方向に転動するローラを採用している。
【発明の効果】
【0012】
請求項1及び請求項2に係る発明によれば、掘削機本体の回収装置はトンネル覆工体の内底面に沿って周方向に円弧状に湾曲している受台の下面に流体圧による浮揚手段を装着してなるものであるから、構造が簡単で安価に製作することができるのは勿論、トンネル掘削機によって所定長のトンネル掘削後に、発進側からトンネル覆工体内を通じてトンネル掘削機の後方におけるトンネル覆工体の内底面上にまで簡単に搬入することができて掘削機本体の回収準備を円滑に行うことができると共に、浮揚手段に圧力流体を供給することにより、受台上に載置した掘削機本体を受台と一体に持ち上げて容易に回収可能な状態にすることができる。
【0013】
さらに、掘削機本体の回収は、該掘削機本体を載置した受台を流体圧浮揚手段によって浮上させた状態にして発進側に向かって牽引することにより行われるので、掘削機本体が大重量であるにもかかわらず、極めて小さな牽引力でもって円滑且つ能率よく発進側に向かって牽引移動させながら回収することができると共に、トンネル覆工体の内底面は掘削機本体を載置した受台の移動による摺接力や集中荷重を殆ど受けることがないので、トンネル覆工体に亀裂や損傷を生じさせることもなく掘削機本体の回収作業を行うことができる。その上、受台上に載置した掘削機本体のローリングを防止しながら回収するので、掘削機本体を常に安定した姿勢を保持させながら確実に回収することができる。
【0014】
また、請求項3に係る発明によれば、上記流体圧による浮揚手段を、弾性的に膨脹、収縮自在なリング状のバッグと、該バッグ内とバッグで囲まれた空間部とに圧力流体供給源から圧力流体を供給する管路とからなり、このバッグを受台の下面四方部に装着しているので、受台上に載置した掘削機本体の重心に偏りが生じていても、その偏荷重に応じて、四方のバッグ内への圧力流体の供給量を調整することにより、受台の下面全面がトンネル覆工体の内底面から一定の高さとなるように簡単且つ正確に持ち上げることができて掘削機本体の安定的な支持が可能になると共に、各バッグにおけるリング状の内周面で囲まれた空間部に圧力流体を供給するので、この空間部内に充満した流体圧によって掘削機本体を載置した受台を浮上させることができると共に圧力流体の一部が空間部から流出して該バッグの下面とトンネル覆工体の内底面間に流体の膜を形成して、トンネル覆工体の内周面から受ける摩擦抵抗を遮断した状態で受台をこの流体膜上で円滑に滑動させながら、発進側に向かって容易に回収することができる。
【0015】
その上、請求項4に係る発明によれば、トンネル覆工体の内底面に気密性を有するシートを敷設しておくので、リング状のバッグ内の空間部を受台の下面と該シートとによって外部に圧力流体を漏出させる虞れのない気密性に優れた空間部に形成することができ、従って、該空間部に供給する圧力流体を効率よく受台を浮上させる力として作用させ、シート上に沿って掘削機本体を載置した受台を確実に発進側に向かって移動させることができる。
【0016】
さらに、請求項5に係る発明によれば、上記受台の下面の前後部における両側に隣接するバッグ間に、これらのバッグを収縮させた際にシート上に接して受台をトンネル長さ方向に移動させる車輪を回転自在に装着しているので、トンネル掘削機によって所定長のトンネルを掘削したのち、該掘削機本体を発進側に回収する際に、この車輪をトンネル覆工体の内底面上を転動させながら発進側からトンネル掘削機の後方位置まで受台を簡単に搬入することができると共に、回収中にバッグが不測に収縮した際には、この車輪を介して受台側の荷重をトンネル覆工体上に敷設したシート上に支持させることができるから、受台伸した面とシート間とでバッグが挟着される虞れはなく、従って、バッグの損傷を確実に防止することができる。
【0017】
また、請求項6に係る発明によれば、受台上に載置した掘削機本体の外周面にローリング防止手段を設けているので、掘削機本体と共にこの掘削機本体を載置した受台がトンネル覆工体の周方向に妄動するのをこのローリング防止手段によって防止することができ、従って、受台上で掘削機本体を安定した状態で支持しながら発進側に向かって正確に移動させることができる。
【0018】
このようなローリング防止手段としては、請求項7に係る発明によれば、掘削機本体の外周面両側部に装着されたローラからなり、このローラをスプリング力によってトンネル覆工体に圧接させながらトンネル長さ方向に転動させるように構成しているので、ローリング方向に対してはローラがトンネル覆工体に係止してローリングの発生を確実に防止することができると共に、トンネル長さ方向に対しては該ローラがトンネル覆工体上を転動しながら受台上の掘削機本体を円滑に発進側に向かって移動、回収することができる。
【0019】
さらに、掘削機本体の回収は上述したように、掘削機本体を載置した受台を浮揚手段によって浮上状態で行われ、その際に、掘削機本体が左右方向に妄動してローラに衝撃的な圧力や振動力が作用する場合があるが、このような衝撃力や振動力をスプリングの弾発力で確実に吸収することができ、トンネル覆工体がローラによって損傷するのを防止しながら掘削機本体を回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に本発明の具体的な実施の形態を図面について説明すると、図1はトンネル掘削機における回収すべき掘削機本体10を回収装置Aに載置した状態の側面図、図2はその簡略正面図であって、掘削機本体10の回収装置Aは図3〜図5に示すように、トンネル掘削壁面に施工されたトンネル覆工体30の内底面に沿って周方向に円弧状に湾曲し且つ上面を掘削機本体10の載置面に形成している一定幅と長さを有する平面矩形状の受台1と、この受台1の下面における四方部に装着された浮揚手段2とから構成されてあり、さらに、両側に隣接する浮揚手段2、2間における受台1の下面四方部にトンネル長さ方向に転動する車輪3を回転自在に軸支している。
【0021】
上記受台1の構造をさらに詳しく説明すると、上面を掘削機本体10の後述する内殻11の外周面と同じ湾曲度でもって両側端から中央に向かって凹円弧状に湾曲して掘削機本体10の前後下周面を支持する支持面1a、1bに形成し、下面をトンネル覆工体30の内底面に平行に沿って円弧状に湾曲している一定長さを有する2本の支持フレーム1A、1Bを前後に掘削機本体10が載置可能な間隔を存して平行に配設すると共に、これらの前後支持フレーム1A、1Bの両側部間にそれぞれ数本(図においては3本)のI形鋼よりなる連結フレーム1Cを平行に配設してこれらの連結フレーム1Cの前後両端面を前後支持フレーム1A、1Bの対向面に溶接等によって一体に固着して、少なくとも両側に並設した連結フレーム1C、1Cにおける一本の連結フレーム1Cの上面を掘削機本体10の下周部両側面を支持する支持面1cに形成している。
【0022】
さらに、これらの両側連結フレーム1C、1Cの内側に上面を掘削機本体10の支持面1dに形成している下向きコ字状の内側フレーム1D、1Dを互いに平行に配設してその前後端面を両側連結フレーム1C、1Cと同様に上記前後支持フレーム1A、1Bの対向面に溶接等によって一体に固着してあり、また、これらの前側支持フレーム1Aの前面と後側支持フレーム1Bの後面とに、中央部に牽引用孔1eを有する複数個の突片1Eを固着している。
【0023】
一方、このように構成した受台1の下面における四方部に装着した上記流体圧浮揚手段2は、弾性的に膨脹、収縮自在なゴム製のリング状バッグ2Aと、該バッグ2Aに連結、連通して圧力流体供給源(図示せず)からの圧力流体をバッグ2A内に供給するパイプからなる管路2Bと、この管路2Bをから分岐して上記バッグ2Aで囲まれている空間部2Cに圧力流体を供給する分岐管路2B' とから構成されている。なお、圧力流体としては高圧の圧縮空気以外に液体を使用することができるが、この実施の形態おいては高圧の圧縮空気を使用し、上記バッグをエアバッグ2Aとして説明する。
【0024】
これらのリング状エアバッグ2Aは、受台1の下面における四方部に固着した金属板からなる取付板2Dの下面にその上周部を全周に亘ってそれぞれ一体に固着してあり、エアバッグ2Aの下周部が後述するトンネル覆工体30の内底面に敷設された敷鉄板或いはビニルシート等の合成樹脂製シートよりなる気密性を有するシート4上に密接した際に、上記取付板2Dとこのシート4との対向面とエアバッグ2Aとで囲まれた上記空間部2Cを圧縮空気の充填による圧力室となるように構成している。
【0025】
受台1の下面四方部に配設している車輪3は、上記内側フレーム1D、1Dの前後部に回転自在に軸支されてあり、エアバッグ2Aが膨脹して受台1を持ち上げた際には、これらの車輪3もトンネル覆工体30の内底面又はこの内底面に敷設している上記シート4から上方に持ち上げられ、エアバッグ2Aが収縮した際、又は、収縮している状態においてはトンネル覆工体30の内底面又はこの内底面に敷設している上記シート4上に接して転動するように配設されている。そして、車輪3がトンネル覆工体30の内底面又は上記シート4上に乗った状態においては、受台1の下面とトンネル覆工体30の内底面又はシート4との間に上記エアバッグ2Aを収縮状態で収納可能な隙間が形成されるように構成している。
【0026】
一方、発進側の立坑からトンネルを掘進するトンネル掘削機は、図6に示すように、外径がトンネル掘削径と略同径に形成された円筒形状の鋼管からなる外殻20と、この外殻20の前端部内周面にその外周端面を溶接等により一体に固着していると共に中央部に、トンネル掘削壁面に施工されたトンネル覆工体30の内径よりも小径の円形孔21を設けている円環板形状の支持壁22と、この支持壁22の上記円形孔21に後方に向かって引き出し可能に支持され且つカッタヘッド13を備えている掘削機本体10と、上記外殻20の長さ方向の中間部に周方向に一定間隔毎に配設された複数本の方向修正用の中折れジャッキ23と、掘削土砂排出手段であるスクリューコンベア24とを備えた構造を有している。
【0027】
上記外殻20は、外径が全長に亘ってトンネル覆工体30の外径に等しい径に形成された一定長さの外筒部20a と、この外筒部20a の内周面に内径がトンネル覆工体30の内径に等しい内筒部20b との前端部間と後端部間とを円環形状の前後連結板20c 、20d によって一体連結してなる二重筒構造を有していると共に、前半部と後半部とに分割されていてその分割対向部を中折れ部25に形成し、後半部の前端に対して前半部を上記中折れジャッキ23の作動により所定方向に屈折させるように構成している。
【0028】
また、上記掘削機本体10は、トンネル覆工体30の内径よりも小径に形成されている短筒形状の内殻11の前端部外周面をシール材12を介して上記支持壁22の円形孔21内に後方に向かって引き出し可能に挿嵌していると共に、この内殻11の前部内に、外周端面を該内殻11の内周面に一体に固着している隔壁14を設けてあり、この隔壁14の中心部に上記カッタヘッド13の回転軸15を回転自在に支持している。さらに、内殻11の下周部外底面における前側両側部に上記外殻20の内筒部20b の内周面下周部、即ち、外殻20の内底面上を転動可能な回収用車輪16を装着してあり、これらの回収用車輪16と内殻11の後端両側部に取り外し可能に連結している推進力伝達部材5とによって内殻11をその中心を上記円形孔21の中心に合致させた状態でトンネル覆工体30の内底面上に支持させていると共に、掘削機本体10の内殻11の外周面における両側部に図2、図7に示すように、ローリング防止手段6を設けている。
【0029】
このローリング防止手段6は、内殻11の外周面両側部にその基端を固着させている短筒体6aと、この短筒体6aの開口端部に進退自在に挿嵌しているローラ受部6bと、短筒体6aから外方に突出しているローラ受部6bの先端部にトンネル長さ方向に転動可能に軸支されたローラ6cと、短筒体6a内に圧縮状態で圧入されて上記ローラ受部6bを常時外方に向かって押圧してローラ6cをトンネル覆工体30の内周面両側部に弾接させるコイルスプリング6dとからなり、掘削機本体10の回収時にローラ6cの回転方向に対して直交する方向に生じるローリングをローラ6cとトンネル覆工体30との摩擦係止力によって防止するように構成している。なお、ローラ6cとしては少なくともその外周部を摩擦係止力の大きいゴムより形成しておくことが好ましい。また、上記コイルスプリング6dに代えてジャッキを採用してもよい。
【0030】
上記推力伝達部材5は、垂直板部5aとこの垂直板部5aの下端に一体に設けている水平板部5bとからなる断面L字状に形成されていて、垂直板部5aの前面を上記掘削機本体10の内殻11の後端面に内方に向かって突設している垂直連結片11a の後面に面接合させて複数個のボルト7aにより着脱可能に連結、固定していると共に、上記水平板部5bはトンネル掘削機の上記外殻20における内筒部20b の後部内周面両側部に固着している水平連結片26上に接合、受止させてボルト7bにより着脱可能に連結、固定している。なお、水平連結片26を設けることなく、水平板部5bを直接、内筒部20b の後部内周面両側部にボルトによって連結、固定しておいてもよい。
【0031】
掘削機本体10における上記隔壁12の中心部に回転自在に支持されているカッタヘッド13は、トンネル掘削時にはその外径を外殻20の外径に略等しくし、掘削機本体10の回収時にはその外径をトンネル覆工体30の内径よりも小径の上記円形孔21を通過可能に縮径するように構成されている。具体的には、このカッタヘッド13は回転軸15の前端から外径方向に向かって上記円形孔21を通過可能な長さを有する複数本の中空スポーク13a を放射状に突設していると共に各中空スポーク13a 内に外側スポーク部材13b を収納してあり、この外側スポーク部材13b を中空スポーク13a 内に装着しているジャッキ17の伸縮動作によって中空スポーク13a の開口端から出没させてこれらの中空スポーク13a と外側スポーク部材13b とからなるスポークの長さ、即ち、カッタヘッド13の外径を、外殻20の外径に略等しい長さから上記円形孔21よりも小径となる長さにまで拡縮させるように構成している。これらの中空スポーク13a の外側スポーク部材13b との前面に長さ方向に所定間隔毎に複数本の掘削ビット13c を前方に向かって突設している。
【0032】
なお、外径が拡縮自在なカッタヘッド13としては、このようなスポークタイプのカッタヘッドに限らず、外径が上記円形孔21を通過可能な径に形成されている面板形状のカッタ板の外周端面に、円環形状に組立可能な外周側カッタ板部を着脱自在に連結したカッタ板であってもよい。
【0033】
また、カッタヘッド13における上記各中空スポーク13a の外周部後面には、後方に向かってアーム部材18を突設していると共に、これらのアーム部材18の後端を円環枠材19によって一体に連結して該円環枠材19を内殻11の前端部内周面に回転自在に支持させてあり、さらに、この円環状枠材19の後端面に内歯車19a を固着している一方、隔壁14の後面外周部に駆動モータ8装着してこの駆動モータ8の回転軸に固着している小歯車9を上記内歯車19a に噛合させ、駆動モータ8によってカッタヘッド13を回転させるように構成している。
【0034】
さらに、上記カッタヘッド13の後面と隔壁14の前面間の空間部を、カッタヘッド13によって掘削された土砂を取り込んで一旦滞留させておく土砂室27に形成していると共に隔壁14の下部からこの土砂室27内に土砂排出手段である上記スクリューコンベア24の前端開口部を臨ませてあり、土砂室27からこのスクリューコンベア24によって掘削土砂を後方に排出するように構成している。
【0035】
このように構成したトンネル掘削機は、発進側の立坑(図示せず)内に設置されて該発進立坑から所定方向にトンネルを掘削していく。トンネルの掘進は、カッタヘッド13を拡径させてその外径を外殻20の外径に略等しくすると共に、このトンネル掘削機の外殻20の後端にヒューム管からなる一定長の管体Pを接続させ、カッタヘッド13を回転させると共に管体Pの後端面を発進立坑の後端部内に配設している推進ジャッキ等の推進手段(図示せず)によって押し進めることにより行われる。
【0036】
そして、トンネル掘削機が地中内に一定長、掘進すると、管体Pの後端に次の管体Pの前端を接続させてこの管体Pの後端を上記推進手段によって押し進め、以下、一定長のトンネルが掘削される毎に発進立坑側において管体Pを順次、継ぎ足しながら押し進めてトンネル覆工体30を形成していく。
【0037】
推進手段による推進力は、直列状に接続した管体からなるトンネル覆工体30を介して外殻20に伝達され、さらに、該外殻20から上記推進力伝達部材5を介して掘削機本体10に伝達されてカッタヘッド13を切羽に押しつけながら掘進する一方、推進反力は、カッタヘッド13を支持している掘削機本体10から上記推進力伝達部材5、外殻20を介してトンネル覆工体30の前端面に受止される。
【0038】
次いで、トンネル掘削機によって所定長のトンネルを掘削してその掘削壁面に上記管体P列によるトンネル覆工体30を施工したのち、このシールド掘削機の掘削機本体10を発進立坑側に撤去、回収する方法について説明する。まず、スクリューコンベア24を解体してトンネル覆工体30内を通じて発進立坑側に回収したのち、推進力伝達部材5を取り外してトンネル掘削機の外殻20に対する掘削機本体10の内殻11の連結を解き、該掘削機本体10を後方に移動可能にすると共に掘削機本体10の内殻11の後端部下周面両側部に、前側の回収用車輪16、16と対向させて図1に仮想線で示すように、後側回収用車輪16a 、16a を装着する。また、カッタヘッド13における外側スポーク部材13b を中空スポーク13a 内に収納することによって該カッタヘッド13の外径を支持壁22の円形孔21よりも小径にしておく。
【0039】
一方、発進立坑側から掘削機本体10の回収装置Aを搬入する。この際、回収装置Aの受台1の下面四方部に装着している浮揚手段2のエアバッグ2Aを収縮させておき、車輪3をトンネル覆工体30の内底面上で転動させながら該トンネル覆工体30内をトンネル掘削機の後方にまで走行させて搬入する。この回収装置Aの搬入作業は、受台1の前側支持フレーム1Aの前面に突設している突片1Eの牽引用孔1eにロープ等を連繋して前方に向かって牽引してもよく、受台1の後側支持フレーム1Bを作業員等が押して搬入してもよい。こうして、回収装置Aをトンネル覆工体30の前端部内まで搬入して掘削機本体10の後方近傍部に待機させる。
【0040】
この際、トンネル覆工体30の内底面に、敷鉄板又は合成樹脂シートからなる気密性を有するシート4を敷設しておき、このシート4上で回収装置Aを待機させておく。なお、シート4は、予め、トンネル覆工体30の全長に亘って敷設しておいてもよく、又、掘削機本体10をこの回収装置Aの受台1上に載置して後方に回収する際に、この受台1の後退移動に先行するようにしてトンネル覆工体30の内底面に敷設してもよい。なお、トンネル覆工体30は気密性を有する場合には、このシート4を必ずしも敷設しておく必要はない。
【0041】
こうして、回収装置Aを掘削機本体10の後方に待機させたのち、引き続いてこの掘削機本体10の回収作業を行う。まず、該掘削機本体10を適宜な引張手段(図示せず)によって後方に引っ張ると、掘削機本体10の内殻11の下周面に装着している回収用車輪16、16a が外殻20の内底面上を転動して掘削機本体10の内殻11が外殻20側の支持壁22に設けている円形孔21から後方に離脱すると共にこの内殻11の隔壁14に支持されているカッタヘッド13が内殻11の後退に従って上記円形孔21を通過する。
【0042】
そして、掘削機本体10の内殻11の後端が回収装置Aの前端近傍部にまで後退した時に一旦掘削機本体10の牽引を停止し、内殻11の下周面に対する後側回収用車輪16a の軸受部の連結を解いてこの軸受部上を内殻11の下周面を摺動させながら該掘削機本体10を僅かに後退させ、その内殻11の後端部下周面を受台1の前端部上に移載させる。次いで、上記後側回収用車輪16a を内殻11の下周面側から撤去し、掘削機本体10の内殻11をさらに受台1の後端部側に向かって移動させ、前側の回収用車輪16が受台1の前端面近くに達した時に一旦停止させてこの回収用車輪16を取り外す。しかるのち、掘削機本体10を後方に移動させてその内殻11の下周面全体を受台1上に載置させる(図1参照)。
【0043】
この状態にして圧縮空気供給源から管路2B、2B' を通じて受台1の下面四方部に装着しているエアバッグ2A内とエアバッグ2Aのリング状内周面で囲まれた空間部2Cとに圧縮空気を供給、圧入すると、エアバッグ2Aが気密性を有するシート4の上面にその下周面を圧着、支持させながら掘削機本体10を載置している受台1の荷重に抗して膨脹して該受台1を上昇させる一方、空間部2C内に供給された圧縮空気が該空間部2C内に充満してこの空間部2C内が圧力室となり、エアバッグ2Aとともに受台1を浮上させる作用を行うと共に一部の圧縮空気が該圧力室内からその空気圧によってエアバッグ2Aの下周面とシート4の上面との間に隙間を形成しながら該隙間を通じて外部に噴流してエアバッグ2Aの下周面とシート4との間に空気の膜を形成する。
【0044】
この空気膜の形成によってシート4に対するエアバッグ2Aの摺接が解かれ、この状態で掘削機本体10を載置している受台1を後方に牽引すると、該受台1を浮上させているエアバッグ2Aはこの空気膜上を滑動して受台1を極めて小さな牽引力でもって円滑に後方に移動させることができ、発進側への掘削機本体10の回収作業が能率よく行うことができる。
【0045】
掘削機本体10の回収時において、上記受台1の牽引はこの受台1の後側支持フレーム1Bに突設している突片1Eの牽引用孔1eにロープを連繋して後方側から牽引することにより行われる。そして、受台1を後方に牽引移動させると、この受台1上に載置された掘削機本体10の内殻11の両側面に回転自在に支持されているローラ6c、6cが図2に示すようにトンネル覆工体30の内周面両側部に接して回転しながら掘削機本体10と一体的にトンネル長さ方向に移動する。この際、受台1が左右に振動しても、ローラ6cがコイルスプリング6dの弾発力によってトンネル覆工体30の内周面に弾性的に圧接しているので、その振動をコイルスプリング6dの弾性伸縮力によって吸収させることができ、さらに、受台1上の掘削機本体10がローリングしようとしても、そのローリング方向はローラ6cの回転方向に直交する方向であるから、トンネル覆工体30に圧接しているローラ6cの外周面がトンネル覆工体30の内周面に係止してローリングの発生を確実に防止することができる。
【0046】
なお、以上の実施の形態においては、トンネル覆工体30はトンネル掘削機の掘進に従って管体Pを順次、継ぎ足しながら発進立坑側から推進させることによって形成しているが、外殻20内にセグメント組立用エレクタと複数本の推進ジャッキを設けているトンネル掘削機を使用し、一定長のトンネルを掘削する毎にその掘削壁面に上記エレクタによってセグメントを組み立てることによってトンネル覆工体30を形成してもよい。また、浮揚手段2であるエアバッグ2Aとして密封されたバッグを使用し、この内部とバッグの内周壁面で囲まれた空間部2Cとに圧縮空気を供給するように構成したが、エアバッグとして空間部に面している内周壁面に多数の空気孔を設けておき、エアバッグ内にのみ圧縮空気を供給して該エアバッグを膨脹させると共に空気孔から空間部2C内に圧縮空気を圧入させてエアバッグ内の空間部内とを一体の圧力に保持しながらその一部を空間部から外部に流出させるように構成しておいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】掘削機本体の回収開始時の状態を示す簡略縦断側面図。
【図2】掘削機本体を載置した受台の簡略正面図。
【図3】回収装置の縦断正面図。
【図4】その側面図。
【図5】その平面図。
【図6】トンネル掘削機の縦断側面図。
【図7】ローリング防止手段の縦断正面図。
【符号の説明】
【0048】
A 回収装置
1 受台
2 浮揚手段
2A エアバッグ
3 車輪
4 シート
6 ローリング防止手段
6c ローラ
6d コイルスプリング
10 掘削機本体
11 内殻
13 カッタヘッド
20 外殻
30 トンネル覆工体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発進側からトンネル掘削機を発進させて該トンネル掘削機により地中にトンネルを掘削しながらその掘削壁面にトンネル覆工体を施工し、所定長のトンネル掘削後、トンネル覆工体内を通じてトンネル掘削機におけるカッタ板と該カッタ板の駆動手段とを備えた掘削機本体を発進側に回収する方法であって、トンネル覆工体の内底面に沿って周方向に円弧状に湾曲している受台の下面に浮揚手段を装着してなる回収装置を掘削機本体の後方のトンネル覆工体の内底面上に配設してその受台上に掘削機本体を載置し、浮揚手段により受台をトンネル覆工体の内底面から浮上させ、該受台を発進側に牽引して掘削機本体を回収することを特徴とするトンネル掘削機における掘削機本体の回収方法。
【請求項2】
発進側からトンネル掘削機を発進させて該トンネル掘削機により地中にトンネルを掘削しながらその掘削壁面にトンネル覆工体を施工し、所定長のトンネル掘削後、トンネル覆工体内を通じてトンネル掘削機におけるカッタ板と該カッタ板の駆動手段とを備えた掘削機本体を発進側に回収する装置であって、トンネル覆工体の内底面に沿って周方向に円弧状に湾曲し且つ上面を掘削機本体の載置面に形成している受台と、この受台の下面に装着された浮揚手段とからなることを特徴とするトンネル掘削機における掘削機本体の回収装置。
【請求項3】
浮揚手段は弾性的に膨脹、収縮自在なリング状のバッグと、該バッグ内とバッグで囲まれた空間部とに圧力流体供給源から圧力流体を供給する管路とからなり、このバッグを受台の下面四方部に装着していることを特徴とする請求項2に記載のトンネル掘削機における掘削機本体の回収装置。
【請求項4】
トンネル覆工体の内底面に気密性を有するシートを敷設していることを特徴とする請求項2に記載の上にトンネル掘削機における掘削機本体の回収装置。
【請求項5】
受台の下面の前後部における両側に隣接するバッグ間に、これらのバッグを収縮させた際にシート上に接して受台をトンネル長さ方向に移動させる車輪を回転自在に装着していることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のトンネル掘削機における掘削機本体の回収装置。
【請求項6】
受台上に載置した掘削機本体の外周面にローリング防止手段を設けていることを特徴とする請求項2に記載のトンネル掘削機における掘削機本体の回収装置。
【請求項7】
ローリング防止手段は、掘削機本体の外周面両側部に装着されて、スプリング力によりトンネル覆工体に圧接した状態でトンネル長さ方向に転動するローラからなることを特徴とする請求項6に記載のトンネル掘削機における掘削機本体の回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−146465(P2007−146465A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341491(P2005−341491)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】