説明

トンネル等の筒状空間の覆工構築方法

【課題】高所作業を可及的に軽減して、安全性と作業性との向上が図り得、均一な施工品質が得られるトンネル等の筒状空間の覆工構築方法を提供する。
【解決手段】筒状空間の内周面に沿って円形のガイドレール4を設置した後、周方向に複数に分割形成したライニング分割片5aの1片を、該筒状空間の底部にて該ガイドレール4に移動可能に取り付ける。該ガイドレール4に取り付けた分割片5aは、該ガイドレール4に沿わせて所定位置まで旋回移動させて仮止め固定し、該旋回移動させた分割片5aに接続する新たな分割片5aを再び該筒状空間の底部にて、該ガイドレール4に取り付け、前記仮止め固定してある分割片5aに接合する。 該接合後に、旋回移動と新たな分割片5aの取り付け、及びそれらの接合とを順次繰り返して円筒形のライニング部材5に形成し、爾後、該円筒形ライニング部材5と該筒状空間の内周面との隙間に充填材12を打設して一体化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル等の筒状空間の覆工構築方法に関し、特に高所作業を可及的に軽減して、筒状空間の内周面全体を覆工できるようにした構築方法の技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
トンネルなどの筒状空間で覆工工事を行うには、従来では次の施工方法があった。
1.原位置の底部、側部、天井部で作業足場と支保工などを利用して覆工構造を順次構築する。
2.底部の覆工構造を構築した後に、筒状空間の中央部に覆工構築のための機械を設置し、それに取付けられたアームを利用して覆工構造の小ブロックを側部、天井部に順次定着させて組立構築する方法。
3.下記特許文献1に示すように、構築場所前後の開放空間でクレーンなどを利用して覆工全体を構築し、それを横移動させて定位置に固定する方法。
【特許文献1】特開2001−323795号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、1.の施工方法においては、構築作業が底面・壁面・天井面と変化するため、施工品質や作業時の安全確保などにおいて課題を生じていた。
また、2.の施工方法では、上向き作業であるため器物落下等の虞があった。
更に3.の方法では、構築場所の前後に覆工構築のための余裕空間が必要であり、これがない場合には現実的でなかった。
【0004】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、トンネル等の筒状空間の底部でライニング材を順次接合しつつ、トンネル壁面に沿って周回方向に移動させることで、トンネル全体の覆工を行えるようにし、これによって高所作業を可及的に軽減して、安全性と作業性とを向上させつつ均一な施工品質が得られるようにしたトンネル等の筒状空間の覆工構築方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため本発明は、地中に掘削されたトンネル等の筒状空間の内周面に形成する覆工の構築方法であって、該筒状空間の内周面に沿って円形のガイドレールを設置した後、周方向に複数に分割形成したライニング分割片の1片を、該筒状空間の底部にて該ガイドレールに移動可能に取り付け、該ガイドレールに取り付けたライニング分割片を該ガイドレールに沿わせて旋回移動させて所定位置に仮止め固定し、該旋回移動させたライニング分割片に接続する新たなライニング分割片を該筒状空間の底部にて、該ガイドレールに沿って旋回移動可能に取り付けて、先行して仮止め固定してあるライニング分割片に接合し、 該旋回移動と新たなライニング分割片の取り付け、その接合を順次繰り返して円筒形のライニング部材に形成し、爾後、該円筒形ライニング部材と該筒状空間の内壁との隙間に充填材を打設して一体化させる、ことを特徴とするものである。
【0006】
請求項2の発明では、前記ライニング分割片はその裏面に設けられたガイドローラが前記ガイドレールに転動可能に係合されて係止されるとともに、該ライニング分割片は該ライニング分割片を牽引して旋回移動させる牽引手段によって旋回移動されることを特徴とする。ここで、牽引手段としては例えばワイヤーウインチや上記ガイドレール上を走行する牽引駆動台車等を採用し得る。
【0007】
請求項3の発明では、前記ライニング分割片は、該ライニング分割片に設けられた固定係止手段によって所定の旋回位置でガイドレールに固定仮止されることを特徴とする。ここで、固定係止手段としては、例えばブレーキシューなどでガイドレール4を挟持させて直接制動をかけることで所定位置に固定係止するブレーキ機構、あるいはライニング分割片とガイドレールとに跨って係合する係脱自在なピン等を採用し得る。
【発明の効果】
【0008】
したがって、本発明の覆工構築方法によれば、トンネル等の筒状空間の底部にて、ガイドレール上にライニング分割片を取り付け、当該ライニング分割片を周方向に旋回移動させつつ、順次当該底部に新たなライニング分割片を接地してこれら分割片同士を相互に一体的に接合させていくことで、筒状のライニング部材の全体を形成することができ、もって高所作業を可及的に軽減して、簡易にしかも高品質を確保して覆工を完成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の好適な実施の形態につき添付図面を参照して説明する。図1は本発明の施工手順を示し、図2は図1(a)のA−A線における側断面図である。
【0010】
図2に示すように、当該実施の形態では、地中に掘削された筒状空間であるトンネルに本発明の覆工構築方法を適用する場合を示しており、特に、この実施の形態では、トンネルにおいて若干の勾配を有している斜坑部分1の中間位置に形成された鼓状膨出部1aをその覆工の施工箇所とした例で説明する。
【0011】
即ち、本発明の筒状空間の覆工構築方法にあっては、先ず、覆工の形成に先立ち、上記膨出箇所1aの両端部に、その内周面に沿ってライニング部材5の分割片5aの端部を移動可能に支持して案内するための端部ガイドレール3が固定されるとともに、膨出箇所1aの中央部側にもその周面に沿って同じく分割片5aの中央部を移動可能に支持して案内する一対の中央部ガイドレール4が固定され、これらガイドレール3,4は分割片5aの落下止めと周回ガイドとを兼用している。
【0012】
ライニング部材5は、所定厚みの複数枚の鋼板などからなる分割片5aが相互に接合されて筒体状に構成されるものであり、その各分割片5aの長手方向は前記鼓状断面に応じた弧状に形成され、また、幅方向は斜坑部分1の内周を4分割した4半円断面に形成されている。そして、各ライニング分割片5aの裏面中央部側及び両端部には、前記端部ガイドレール3及び中央部ガイドレール4にそれぞれ係合して、これらのガイドレール3,4に沿って転動するガイドローラ6が配置されている。
【0013】
図3,4は中央部ガイドレール4とガイドローラ6aとの係合構造、及び端部ガイドレール3とガイドローラ6bとの係合構造の詳細を示している。
まず、図3に示すように、中央部ガイドレール4はT字形断面をなし、そのフランジ部上面にはガイドローラ6aが転動可能に配置されている。このガイドローラ6aは、前記ライニング分割片5aの底面に突設された一対のブラケット7に回転可能に軸受されている。更にブラケット7の下部には、ガイドレール4のフランジ部下面に沿って転動可能な一対の落下防止用ローラ8が回転可能に軸受され、これにより、前記ライニング部材5が垂直ないし天井部側に移動した際の落下防止を行っている。
一方、図4に示すように、端部ガイドレール3は断面コ字形をなし、この内部に前記分割片5aの端部に設けたブラケット9に軸受されてガイドローラ6が回転可能に配置されている。
【0014】
次に、以上の構成における施工手順を図1を用いて説明する。まず図1(a)は、第1のライニング分割片5aを膨出箇所1aの底部に設置した状態を示す。斜坑部分1内の中心位置にはワイヤーの巻取り用ウインチ10が配置され、周縁の複数箇所にはガイドプーリ10aが仮設されており、ライニング分割片5aの一側端部にワイヤーWの一端を結合し、他端を各ガイドプーリ10aを介して、ウインチ10に結合することで、可級的にライニング部材5をその接線方向に向けて牽引できるようにしている。
【0015】
以上の設置及びワイヤーWに対する結合作業を行った後、(b)に示すように、ウインチ10を駆動してライニング分割片5aを時計方向に牽引することで、ガイドレール4に沿わせて原位置より90°旋回移動させる。なお、移動に応じて不要となったガイドプーリ10aは順次取外すことによって、次のガイドプーリ10aを牽引ガイドとしてほぼ接線方向に沿った移動が可能である。
【0016】
この状態で仮固定を行う。仮固定手段としてはウインチ10に制動をかけておくか、あるいは図示しないが分割片5aに例えばブレーキシューなどでガイドレール4を挟持させて直接制動をかけるブレーキ機構からなる固定係止手段、もしくはライニング分割片5aとガイドレール4とに跨って係合する係脱自在なピン等でなる固定係止手段を設けて、当該ライニング分割片5aを所定の旋回位置にて固定係止するようにして達成できる。
【0017】
この状態で、(c)に示すように、第2のライニング分割片5aを坑底部に設置し、先行して取り付けた第1のライニング分割片5aとの接合部に沿って溶接11、あるいはボルト等により接合して一体化させる。
【0018】
接合作業完了後は、制動を解除するとともに、ウインチ10を再駆動して更に時計方向に90°旋回移動させる。これによって、(d)に示すように、第1のライニング分割片5aの移動先は斜坑部分1の天井部下面にまたがった状態となる。
【0019】
この状態で再度制動をかけ、(e)に示すように、第3のライニング分割片5aを坑底に設置し、第2のライニング分割片5aとの接合部に沿って溶接11を行う。
【0020】
その後(f)に示すように、更に90°時計方向に回動させることで坑底部を除き、斜坑部分1の膨出部1aは全てライニング部材5の分割片5aが位置して覆われることになる。
【0021】
この状態で制動をかけ、第4のライニング部材5を坑底部に設置し、その両端縁に沿って溶接11を行うことにより、(g)に示すように、4枚のライニング分割片5aを順次相互に一体的に繋いで、鼓状膨出部1aの内周面全体を筒状に隙間なく覆ったライニング部材5を形成することができる。
【0022】
爾後、ウインチ10、ガイドプーリ10aを撤去した状態で、裏込め用の充填材12をライニング部材5の裏面と地山との隙間に注入充填することで、(h)に示すように覆工が完成することになる。この充填作業により、前記端部ガイドレール3及び中央部ガイドレール4は充填材12によって埋め殺されるものとなる。
【0023】
従って、以上に説明したように、各ライニング分割片5aの接合作業は坑底部近傍の一箇所または二箇所で行うため、その作業を確実にしかも簡易に行うことができ、覆工の品質を高く安定化させることができる。
【0024】
なお、以上の実施形態では、各ライニング分割片5aは坑の断面を周方向に4半分割し、合計4つのライニング分割片5aで覆工全体を構築するものであるが、更に細分割することもできるし、坑の軸方向に分割しても勿論かまわない。また、ライニング分割片5aとしては、鋼板だけでなく、分割されたコンクリートブロックを用いて、コンクリート製のライニング部材からなる覆工を構築してもよいことは勿論である。さらに、牽引手段としては上述のワイヤーウインチに代えて、上記ガイドレール3,4上を走行可能に設けられた牽引駆動台車等を採用することも可能である。
【0025】
また、本発明の覆工構築方法は、上述した斜坑部分の鼓状膨出部を施工する場合のみに限定されるものではなく、水平な坑は勿論のこと、中心軸が一致する筒状部分のライニング部材であれば、その軸方向に沿って横断面積が如何様に変化するも場合であっても、適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)〜(h)は本発明工法の施工手順を示す正断面図である。
【図2】(a)のA−A線における側断面図である。
【図3】図2のB部拡大図である。
【図4】図2のC部拡大図である。
【符号の説明】
【0027】
1 斜坑
1a 膨出部(覆工施工箇所)
3 端部ガイドレール
4 中央部ガイドレール
5 ライニング部材
5a ライニング分割片
6a,6b ガイドローラ
8 落下防止用ローラ
10 巻取用ウインチ(牽引手段)
11 溶接(接合手段)
12 裏込め用充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に掘削されたトンネル等の筒状空間の内周面に形成する覆工の構築方法であって、
該筒状空間の内周面に沿って円形のガイドレールを設置した後、
周方向に複数に分割形成したライニング分割片の1片を、該筒状空間の底部にて該ガイドレールに移動可能に取り付け、
該ガイドレールに取り付けたライニング分割片を、該ガイドレールに沿わせて旋回移動させて所定位置に仮止め固定し、
該旋回移動させたライニング分割片に接続する新たなライニング分割片を該筒状空間の底部にて、該ガイドレールに沿って旋回移動可能に取り付けて、先行して仮止め固定してあるライニング分割片に接合し、
該旋回移動と新たなライニング分割片の取り付け、その接合を順次繰り返して円筒形のライニング部材に形成し、
爾後、該円筒形ライニング部材と該筒状空間の内壁との隙間に充填材を打設して一体化させる、
ことを特徴とするトンネル等の筒状空間の覆工構築方法。
【請求項2】
前記ライニング分割片はその裏面に設けられたガイドローラが前記ガイドレールに転動可能に係合されて係止されるとともに、該ライニング分割片は該ライニング分割片を牽引して旋回移動させる牽引手段によって旋回移動されることを特徴とする請求項1に記載のトンネル等の筒状空間の覆工構築方法。
【請求項3】
前記ライニング分割片は、該ライニング分割片に設けられた固定係止手段によって所定の旋回位置でガイドレールに固定仮止されることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のトンネル等の筒状空間の覆工構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−37411(P2006−37411A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216306(P2004−216306)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】