説明

トンネル覆工コンクリートの養生方法

【課題】コンクリートの品質を向上させ、ひび割れの発生を防止できるトンネル覆工コンクリートの養生方法を提供すること。
【解決手段】トンネル3の覆工コンクリート5を打設し、養生区間11の覆工コンクリート5の内側に、複数の配管ユニット13をトンネル軸方向に接続して設置する。配管ユニット13は、直線状の2本の配管13aで構成され、2本の配管13aは、トンネル3の両側部に、トンネル軸方向に配置される。次に、脱型した覆工コンクリート5が所定の材齢に達するまで、配管13aに設けられた孔17に設置したノズル35から、所定の噴霧角度で水を噴霧する。その後、覆工コンクリート5の内側から掘削方向最後部の配管ユニット13を取り外し、トンネル掘削方向前方に設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル覆工コンクリートの養生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル覆工コンクリートの養生方法として、(1)覆工コンクリートの脱型後に、ゴムや防水布等の養生バルーンを覆工コンクリートに密着するように設置する空気膜方式があった(例えば、特許文献1参照)。(1)の方法は、覆工コンクリート表面を空気膜で覆うことによる保温効果、空気の流れを遮断することにより覆工コンクリート表面からの水分の蒸発・乾燥を防止して湿潤状態を保つ効果があった。(1)の方法は、これらの効果により、覆工コンクリートの初期強度・長期強度を増大させて、コンクリートの品質の向上、ひび割れの低減を図るものであった。
【0003】
近年は、(2)覆工コンクリート表面に防水シートを利用して密閉した空間を形成し、その空間に噴霧ノズルを配置して水を噴霧する養生方法が多く実施されてきた(例えば、特許文献2参照)。(2)の方法は、密閉空間に湿潤状態を作り出すことにより、コンクリートの初期強度・長期強度を増大させて、コンクリートの品質の向上、ひび割れの低減を図るものであった。
【0004】
さらに、トンネル坑内を機械式で移動して散水する方法や、養生剤を塗布・噴霧する方法、発泡スチロール材でコンクリート表面を保温する方法等があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−299323号公報
【特許文献2】特開2008−223372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、(1)の方法は、主として乾燥の防止を目的としており、積極的に湿度を加えて湿潤養生を行う機能は有していなかった。(1)の方法によれば、覆工コンクリート表面近傍の湿度はある程度保持されると思われるが、養生装置の移動毎に一時的に空気膜の密着を解くため、覆工コンクリート表面近傍の湿度がトンネル坑内と同等となり、覆工コンクリートの乾燥が促進されることがあった。
【0007】
(2)の方法は、積極的に湿度を加えて湿潤養生を行う機能を有していた。しかし、養生装置の移動毎に一時的に湿潤養生を解くため、十分な養生を行うことができなかった。例えば、養生装置が材齢7日後に移動すると、移動スパン分の覆工コンクリートの湿潤状態が急激に解除されるため、ひび割れの発生確率が大きくなる可能性があった。
【0008】
また、(2)の方法は、防水シートと覆工コンクリートとの間の狭い密閉空間を加湿するため、湿度のコントロールが難しく、過剰に加湿しがちだった。そのため、湿度の飽和により発生した水垂れが、覆工コンクリート表面の仕上がりに、荒れや筋状の水の滴る跡等を生じさせていた。
【0009】
さらに、(1)、(2)の方法とも、覆工コンクリートの打設・脱型後に型枠装置が移動する毎に、養生装置自体を移動させて養生区間に再配置する必要があった。そのため、トンネル内に設置された工事用設備などが障害となったり、工事用車両等の走行スペースを侵したりする場合があり、作業性が悪かった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、養生区間のトンネル内全体を加湿の対象とし、湿度のコントロールが容易であること、覆工コンクリートの打設、型枠装置の脱型、移動などのトンネル工事の作業工程に左右されない安定した養生が可能であること、養生装置の移動時の作業性が良いこと、等の条件を実現できる覆工コンクリートの養生方法を提供することである。
【0011】
前述した目的を達成するために、本発明は、所定の区間の覆工コンクリートを打設する工程(a)と、前記覆工コンクリートの内側に、複数の配管からなる配管ユニットを設置する工程(b)と、脱型した前記覆工コンクリートが所定の材齢に達するまで、前記複数の配管に設けられた孔に設置したノズルから、所定の噴霧角度で水をトンネル内空間に噴霧する工程(c)と、前記覆工コンクリートの内側から、前記配管ユニットを取り外す工程(d)と、を具備し、前記工程(d)でトンネル掘削方向後方で取り外した前記配管ユニットを、前記工程(b)でトンネル掘削方向前方に設置して、前記工程(a)から前記工程(d)を繰り返すことを特徴とするトンネル覆工コンクリートの養生方法である。
【0012】
本発明は、覆工コンクリートの内側に、複数の配管からなる配管ユニットを設置し、養生区間のトンネル内全体を対象として加湿を行う。そのため、従来の養生方法と比較して、トンネル内の湿度を容易にコントロールでき、湿度の飽和による水垂れ等の発生が少なくなる。
【0013】
本発明では、所定の養生期間が終了した後、トンネル掘削方向後方の配管ユニットを取り外し、トンネル掘削方向前方に設置する。そのため、覆工コンクリートの打設、型枠装置の脱型、移動などのトンネル工事の作業工程に左右されず、養生期間および養生区間をそれぞれ単独で決定でき、従来の養生方法と比較して、安定した湿潤状態を十分に維持することができる。また、型枠装置が移動するごとに配管ユニットを移動させる必要がないため、従来の養生方法と比較して、配管ユニットの設置時や移動時に、トンネル内に設置された工事用設備等の影響が少なく、作業性が良い。
【0014】
配管ユニットは、例えば、トンネルの両側部にトンネル軸方向に配置された2本の配管で構成される。配管ユニットは、トンネルの両側部にトンネル軸方向に配置された2本の配管と、トンネル軸方向に所定の間隔をおいて配置され、両端部がトンネル軸方向に配置された2本の配管に連結された複数の配管とで構成してもよい。
【0015】
配管ユニットを上述したような構成とすることにより、設置時や移動時の作業性が高まる。また、養生区間のトンネル内全体を効率的に加湿し、より安定した湿潤養生を行うことができる。
【0016】
工程(b)では、養生する区間の長さに応じて、配管ユニットのトンネル軸方向の接続数を調整する。配管ユニットの接続数や長さを適切に調整することにより、設置時や移動時の作業性をより高めることができる。
【0017】
工程(c)では、トンネル内空間の湿度に応じて、トンネル軸方向に区分した区間毎に水の噴霧量を調整する。区間毎の噴霧量を適切に調整することにより、トンネル内部の湿度を確実にコントロールし、より安定した湿潤養生を行うことができる。
【0018】
工程(c)では、噴霧する水の平均粒径を35〜65μmとするのが望ましい。水の平均粒径が35μm以下であると、粒径が細かすぎ、覆工コンクリート表面の湿潤状態を適切に保つことができない。65μm以上であると、トンネル空間全体を加湿の対象とした場合でも、覆工コンクリート表面に結露を生じやすい。水の平均粒径を35〜65μmとすることにより、良好な状態で湿潤養生を行うことができる。
【0019】
少なくとも工程(c)においては、換気装置により、トンネル内空間の風速が所定の範囲にコントロールされることが望ましい。トンネル内空間の風向きや風速を一定に保つことにより、安定した養生を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、コンクリートの品質を向上させ、ひび割れの発生を防止できるトンネル覆工コンクリートの養生方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】トンネル3の内側に配管ユニット13を設置する工程を示す図
【図2】配管ユニット13の概要を示す図
【図3】トンネル3の内側に配管ユニット13を設置した状態を示す図
【図4】配管ユニット13を用いて水を噴霧する工程を示す図
【図5】トンネル3の坑内の湿度の経時変化を示す図
【図6】配管ユニット41の概要を示す図
【図7】トンネル3の内側に配管ユニット41を設置する工程を示す図
【図8】配管ユニット41を用いて水を噴霧する工程を示す図
【図9】トンネル3の貫通後の覆工コンクリート5の養生方法を示す図
【図10】トンネル3の坑内の換気方法を示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて、本発明の第1の実施の形態について詳細に説明する。図1は、トンネル3の内側に配管ユニット13を設置する工程を示す図である。図1に示す工程では、まず、図示しない掘削機を用いて地山1を掘削し、移動式型枠7を用いてトンネル3の覆工コンクリート5を打設する。そして、養生区間11に配管ユニット13を設置する。
【0023】
図2は、配管ユニット13の概要を示す図である。図2の(a)図は、配管ユニット13の斜視図である。図2の(a)図に示すように、配管ユニット13は、2本の直線状の配管13aを平行に配置して構成される。2本の配管13aの設置間隔は、配管ユニット13を設置するトンネル3の形状および大きさに応じて決定される。配管ユニット13の端部16は、他の配管ユニット13と軸方向に接続可能な構造とする。
【0024】
図2の(b)図は、配管13aの軸方向の断面図である。図2の(b)図に示すように、配管13aには、所定の間隔で孔17が設けられる。孔17の設置間隔は、例えば30〜60cm程度とする。孔17には、ノズル35が設置される。配管13aの周方向における孔17の設置位置は、後述するノズル35の設置角度33(図4)に応じた位置とする。
【0025】
配管13aは、鋼管、アルミニューム管、塩ビ管、ビニールホース、ゴムホース等のいずれでもよい。但し、配管ユニット13を支えるための架台間隔を長くとるためには、鋼管が最適である。配管13aの径15は、例えば10mmとする。
【0026】
図1に示す工程では、トンネル3の覆工コンクリート5の内側に、養生区間11の全長にわたって、複数の配管ユニット13を軸方向に接続して設置する。軸方向に接続した複数の配管ユニット13の掘削方向後方の端部には、水タンク19およびポンプ21を接続する。水タンク19は、軽量で錆びないポリプロピレン容器等が好適である。ポンプ21は、高圧連続ポンプ等とする。
【0027】
なお、図1は、移動式型枠7が養生区間11の前方へ移動した後の状態を示す図であるが、移動式型枠7が養生区間11内に設置されている時点で、移動式型枠7の内側・底面に配管ユニット13を設置してもよい。
【0028】
複数の配管ユニット13を接続して設置する際には、養生区間11の長さに応じてトンネル軸方向の接続数を調整する。図1に示すように、配管ユニット13の軸方向の長さは、移動式型枠7を用いて覆工コンクリート5を打設・脱型する際の1スパンの施工長さAと略同等とする。養生区間11の長さが移動式型枠7による施工長さA×nの場合、n個の配管ユニット13をトンネル軸方向に接続して設置する。施工長さAは、例えば、10.5mである。
【0029】
図3は、トンネル3の内側に配管ユニット13を設置した状態を示す図である。図3の(a)図は、配管ユニット13が設置されたトンネル3の斜視図である。図3の(a)図に示すように、配管ユニット13を設置する際には、トンネル3の両側部に、2本の配管13aを1本ずつトンネル軸方向に配置する。上述した水タンク19およびポンプ21は、掘削方向最後部の配管ユニット13の2本の配管13aの端部に、各1台ずつ接続される。
【0030】
図3の(b)図は、配管ユニット13が設置されたトンネル3の周方向の断面図を示す。図3の(b)図に示すように、配管ユニット13の設置には、トンネル3の覆工コンクリート5の両側部の内周面25に固定したL型鋼材23を用いる。L型鋼材23は、トンネル3の工事用の電力供給用架台と併用してもよい。
【0031】
2本の配管13aは、覆工コンクリート5の両側部のL型鋼材23上に、それぞれ配置される。配管13aとトンネル3の底面27との距離29は、例えば、20〜100cmとする。また、配管13aと覆工コンクリート5の内周面25との距離31は、例えば、5〜10cmとする。
【0032】
図4は、配管ユニット13を用いて水を噴霧する工程を示す図である。図4に示す部分は、図3の(b)図に示す範囲Bの拡大図である。図4に示す工程では、配管ユニット13を用いて水をトンネル3内の空間に噴霧し、養生区間11の覆工コンクリート5の養生を行う(図1)。
【0033】
上述したように、図1は、移動式型枠7が養生区間11の前方へ移動した後の状態を示す図であるが、移動式型枠7が養生区間11内に設置されている時点で、移動式型枠7の内側・底面に配管ユニット13を設置してもよい。この場合、移動式型枠7が養生区間11内に設置されている時点で、水の噴霧・養生を開始する。その後、移動式型枠7が移動して図1に示す状態となった後、移動式型枠7の内側・底面に設置した配管ユニット13をL型鋼材23上に盛り替え、水の噴霧・養生を継続する。配管ユニット13の盛り替えは、例えば、配管ユニット13間の接続をホースにすることにより、容易に行うことができる。
【0034】
図4に示す工程では、養生区間11の覆工コンクリート5の養生を行うため、ポンプ21を用いて水タンク19から配管13aへ送水し、ノズル35からトンネル3の坑内中心に向けて微霧37を噴霧する。トンネル3の底面27に対するノズル35の設置角度33は、例えば45度とする。
【0035】
微霧37の平均粒径は、35〜65μmとするのが望ましい。平均粒径が35μm以下であると、粒径が細かすぎ、覆工コンクリート表面の湿潤状態を適切に保つことができない。65μm以上であると、トンネル空間全体を加湿の対象とした場合でも、覆工コンクリート表面に結露を生じやすい。平均粒径を35〜65μmとすることにより、良好な状態で湿潤養生を行うことができる。
【0036】
ノズル35から噴霧する微霧37の噴霧量は、例えば1〜2リットル/時間とする。噴霧期間は、例えば21日間とする。
【0037】
図4に示す工程では、図1に示すように養生区間11をトンネル軸方向に複数の区間11−1、11−2、…、11−mに区分し、区間毎のトンネル内部の湿度に応じて水の噴霧量を調整してもよい。水の噴霧量は、例えば、配管13aの一部の孔17からノズル35を取り外して蓋(図示せず)を設置し、使用するノズル35の数量を変更することにより、調整可能である。
【0038】
図10は、トンネル3の坑内の換気方法を示す図である。図10に示すように、施工中のトンネル3には、機械式の換気装置57が設置される。施工中のトンネル3では、換気装置57の風管59の端部63からトンネル3の内部に新鮮な空気を送り、一般に矢印Fに示す方向に0.3m/s以上の風速が得られるように換気を行う。施工中のトンネル3は、必要量の換気を行う以外は空気の変化が少なく、時系的に湿度および温度が比較的安定した密閉された空間である。トンネル3の内部は、通常、掘削方向前方の掘削面61付近では湿度が高く、掘削方向後方のトンネル3の開口部近傍では湿度が低い。そのため、養生区間11の前方では水の噴霧量を少なく、後方では噴霧量を多くすることが望ましい。
【0039】
図4に示す水タンク19の容量およびポンプ21の能力は、ノズル35の設置数や配管13aの長さ、微霧37の噴霧量や噴霧期間等に基づいて決定される。水タンク19の水は、所定の時間毎に供給してもよいし、トンネル3の坑内に常時設置されている水配管から自動で供給してもよい。
【0040】
図4に示す工程では、所定の養生期間が終了した後、養生区間11に設置した掘削方向最後部の配管ユニット13を覆工コンクリート5の内側から取り外し、掘削方向最前部に設置する。このとき、水タンク19およびポンプ21は一旦取り外し、新たに最後部となった配管ユニット13の端部に再接続する。または、取り外した配管ユニット13の区間を、送水配管と置き換えてもよい。
【0041】
第1の実施の形態では、地山1の掘削と覆工コンクリート5の打設、養生区間11への配管ユニット13の設置、配管ユニット13による水の噴霧、配管ユニット13の取り外しを繰り返すことにより、トンネル3の覆工コンクリート5の構築を進める。養生区間11や噴霧期間の長さは、移動式型枠7の移動に関係なく、施工条件に応じて適切に設定される。
【0042】
このように、第1の実施の形態では、複数の配管ユニット13をトンネル軸方向に接続しつつ覆工コンクリート5の内側に設置し、微霧37を噴霧して覆工コンクリート5の養生を行う。第1の実施の形態では、移動式型枠7の移動に関係なく、配管ユニット13を単独で設置・撤去・移動させることにより、養生区間11や噴霧期間の長さを自由に設定でき、安定した十分な養生を行うことができる。
【0043】
第1の実施の形態の養生方法では、配管ユニット13を用いて、トンネル3の養生区間11の内空全体を有効に利用して加湿する。また、上述したように、施工中のトンネル3では一般に0.3m/s以上の風速が得られるように換気が行われており、風速を0.3〜0.6m/s程度にコントロールすることにより、湿気を含んだ空気が充満しやすくなる。そのため、第1の実施の形態の養生方法では、湿度のコントロールが容易であり、トンネル3の養生区間11の内空全体を略均一に湿潤できる。
【0044】
図5は、覆工コンクリートの表面湿度の経時変化を示す図である。図5は、トンネルの覆工コンクリートの脱型後、図5に示す期間Cに従来の空気膜方式による養生を行い、期間Dに第1の実施の形態で述べた方法による養生を行った場合の、覆工コンクリートの表面湿度の計測結果である。なお、コンクリートのセメント種類は高炉セメントB種、セメント量は320kg/mであり、打ち込み温度は20℃、トンネル坑内温度は17℃、トンネル坑内湿度は60%であった。
【0045】
図5に示すように、期間Dにおける覆工コンクリートの表面湿度は、80%程度に保持された。また、覆工コンクリートの1スパン(図1に示す施工長さA)当りのひび割れ平均長さは1.2mであった。空気膜方式のみにより養生した箇所の1スパン当りのひび割れ平均長さは8.2mであり、無養生の箇所の1スパン当りのひび割れ平均長さは11.6であったことから、第1の実施の形態で述べた方法で養生を行うことにより、ひび割れ発生を極めて減少できることが確認できた。
【0046】
第1の実施の形態によれば、図5に示すように、覆工コンクリートの表面湿度を、急激な変化なく一定に保つことができるため、覆工コンクリート5が緻密になり、初期・長期強度が増大し、従来工法と比較して構造上の安全性が向上する。また、乾燥収縮・温度応力によるひび割れが低減できるため、鉄筋の腐食等が抑制されてコンクリートの耐久性が向上し、剥離・剥落を防止できる。さらに、従来と比較してひび割れ補修の工期が短縮でき、工費削減が可能となる。
【0047】
第1の実施の形態で使用する配管13aやノズル35は、市販のものを用いるため、材料・工具の品質確認が容易である。配管ユニット13は軽量であるため、人手で容易に移動および組立が可能である。
【0048】
トンネル3の内空には、換気設備、照明、給排水設備、電気ケーブルなどの工事用設備が設置されているが、配管ユニット13は設置時に大規模なフレーム等が不要であるため、設置時や移動時に工事用設備が障害物となることがなく、作業性が良い。また、配管ユニット13は、作業車両の通行の妨げにならない。
【0049】
なお、第1の実施の形態では、配管13aの径や孔17の設置間隔、配管13aとトンネル3の底面27との距離29、配管13aと覆工コンクリート5の内周面25との距離31、微霧37の噴霧量や噴霧期間等の数値を例示したが、これらの数値は上述したものに限らない。これらの数値は、事例ごとに適切に設定すればよい。
【0050】
また、配管ユニット13を用いて水を噴霧する際に、配管13aに設置するノズル35の数量を調整することにより、養生区間11をトンネル軸方向に複数に区分した区間毎の水の噴霧量を調整したが、水の噴霧量の調整方法はこの限りでない。配管ユニット13に圧力バルブや流量弁を設け、トンネル軸方向において配管13aの圧力を変化させて噴霧量を調整してもよい。
【0051】
さらに、第1の実施の形態では、覆工コンクリート5の脱型直後から配管ユニット13を用いた養生を行ったが、養生計画はこれに限らない。例えば、覆工コンクリート5を脱型し、従来の方法による養生を行った後、配管ユニット13を用いた養生を行ってもよい。
【0052】
配管13aの設置時には、図3に示すL型鋼材23のかわりにL型アルミニュームを用いてもよい。
【0053】
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態では、第1の実施の形態の配管ユニット13のかわりに配管ユニット41を用いる。
【0054】
図6は、配管ユニット41の概要を示す図である。図6に示すように、配管ユニット41は、平行に配置された2本の直線状の配管41aと、配管41aの軸方向に所定の間隔をおいて配置され、両端部が2本の配管41aにそれぞれ連結された3本のアーチ状の配管41bとで構成される。2本の配管41aの設置間隔、3本の配管41bのアーチの形状は、配管ユニット41を設置するトンネル3の形状および大きさに応じて決定される。3本の配管41bの設置間隔は、例えば3〜5m程度とする。配管ユニット41の端部42は、他の配管ユニット41と軸方向に接続可能な構造とする。
【0055】
図6に示すように、配管41bには、所定の間隔で孔39が設けられる。孔39の設置間隔49は、例えば30〜60cm程度とする。孔39には、ノズル53(図8)が設置される。配管41bの周方向における孔39の設置位置は、後述するノズル53(図8)の設置角度に応じた位置とする。
【0056】
配管41aおよび配管41bは、鋼管、アルミニューム管、塩ビ管、ビニールホース、ゴムホース等のいずれでもよい。但し、配管41aは、配管ユニット41を支えるための架台間隔を長くとるために、鋼管が最適である。配管41bは、覆工面に合わせるため、可撓性のあるゴムホースを使用することが適している。配管41aおよび配管41bの径は、例えば10mmとする。
【0057】
第2の実施の形態における作業工程は、第1の実施の形態とほぼ同様である。図7は、トンネル3の内側に配管ユニット41を設置する工程を示す図である。図の(a)図は、配管ユニット41が設置されたトンネル3の斜視図である。図7の(b)図は、配管ユニット41が設置されたトンネル3の周方向の断面図である。
【0058】
図7に示す工程では、まず、図示しない掘削機を用いて地山を掘削し、移動式型枠を用いてトンネル3の覆工コンクリート5を打設する。そして、養生区間に配管ユニット41を設置する。
【0059】
図7に示す工程では、トンネル3の覆工コンクリート5の内側に、養生区間の全長にわたって、複数の配管ユニット41を軸方向に接続して設置する。軸方向に接続した複数の配管ユニット41の掘削方向後方の端部には、水タンク19およびポンプ21を接続する。水タンク19は、軽量で錆びないポリプロピレン容器等が好適である。ポンプ21は、高圧連続ポンプ等とする。なお、図7に示す工程では、移動式型枠が養生区間の前方に移動した後に、養生区間に配管ユニット41を設置する。
【0060】
複数の配管ユニット41を接続して設置する際には、第1の実施の形態における複数の配管ユニット13の配置時と同様に、養生区間の長さに応じてトンネル軸方向の接続数を調整する。配管ユニット41の軸方向の長さは、移動式型枠を用いて覆工コンクリート5を打設・脱型する際の1スパンの施工長さと略同等とする。
【0061】
図7の(a)図に示すように、配管ユニット41を設置する際には、トンネル3の両側部に、2本の配管41aを1本ずつトンネル軸方向に配置する。このとき、3本の配管41bは、覆工コンクリート5の内側に、トンネル軸方向に所定の間隔をおいて配置される。上述した水タンク19およびポンプ21は、掘削方向最後部の配管ユニット41の2本の配管41aの端部に、各1台ずつ接続される。
【0062】
図7の(b)図に示すように、配管ユニット41の設置には、トンネル3の覆工コンクリート5の両側部の内周面25に固定したL型鋼材23、覆工コンクリート5の内周面25に打ち込まれたコンクリートアンカ45を用いる。L型鋼材23は、トンネル3の工事用の電力供給用架台と併用してもよい。コンクリートアンカ45は、トンネル3の周方向に2m程度の間隔をおいて設置するのが望ましい。コンクリートアンカ45は、例えば、直径8mm、長さ60mm程度のものを用いる。鋼線47は、例えば、径3mm程度のものを用いる。
【0063】
2本の配管41aは、覆工コンクリート5の両側部のL型鋼材23上にそれぞれ配置される。配管41bは、コンクリートアンカ45に接続した鋼線47を用いて保持される。配管41bとトンネル3の上半部の覆工コンクリート5の内周面25との距離51は、例えば、30〜50cmとする。配管41bとトンネル3の両側部の覆工コンクリート5の内周面25との距離31は、例えば、5〜10cmとする。
【0064】
図8は、配管ユニット41を用いて水を噴霧する工程を示す図である。図8に示す工程では、覆工コンクリート5を脱型して移動式型枠が掘削方向前方へ移動した後、配管ユニット41を用いて水をトンネル3内の空間に噴霧し、養生区間の覆工コンクリート5の養生を行う。
【0065】
図8に示す工程では、養生区間の覆工コンクリート5の養生を行うため、ポンプ21を用いて水タンク19から配管41aを介して配管41bへ送水し、配管41bの孔39に設置したノズル53から、トンネル軸方向に平行に微霧54を噴霧する。ノズル53の設置角度は、トンネル軸方向に対して0度および180度とする。微霧54は、トンネル軸方向前方および後方に向けて噴霧される。
【0066】
微霧54の平均粒径は、第1の実施の形態と同様に、35〜65μmとするのが望ましい。平均粒径を35〜65μmとすることにより、良好な状態で湿潤養生を行うことができる。ノズル35から噴霧する微霧54の噴霧量は、例えば1〜2リットル/時間とする。噴霧期間は、例えば21日間とする。
【0067】
図8に示す工程では、第1の実施の形態と同様に、養生区間をトンネル軸方向に複数の区間に区分し、区間毎のトンネル内部の湿度に応じて水の噴霧量を調整してもよい。水の噴霧量は、例えば、配管41bの一部の孔39からノズル53を取り外して蓋(図示せず)を設置し、使用するノズル53の数量を変更することにより、調整可能である。
【0068】
水タンク19の容量およびポンプ21の能力は、ノズル53の設置数や配管41aおよび配管41bの長さ、微霧54の噴霧量や噴霧期間等に基づいて決定される。水タンク19の水は、所定の時間毎に供給してもよいし、トンネル3の坑内に常時設置されている水配管から自動で供給してもよい。
【0069】
図8に示す工程では、所定の養生期間が終了した後、養生区間に設置した掘削方向最後部の配管ユニット41を覆工コンクリート5の内側から取り外し、掘削方向最前部に設置する。このとき、水タンク19およびポンプ21は一旦取り外し、新たに最後部となった配管ユニット41の端部に再接続する。または、取り外した配管ユニット41の区間を送水配管と置き換えてもよい。
【0070】
第2の実施の形態では、地山1の掘削と覆工コンクリート5の打設、養生区間への配管ユニット41の設置、配管ユニット41による水の噴霧、配管ユニット41の取り外しを繰り返すことにより、トンネル3の覆工コンクリート5の構築を進める。養生区間や噴霧期間の長さは、移動式型枠の移動に関係なく、施工条件に応じて適切に設定される。
【0071】
このように、第2の実施の形態では、複数の配管ユニット41をトンネル軸方向に接続しつつ覆工コンクリート5の内側に設置し、微霧43を噴霧して覆工コンクリート5の養生を行う。第2の実施の形態では、移動式型枠の移動に関係なく、配管ユニット41を単独で設置・撤去・移動させることにより、養生区間や噴霧期間の長さを自由に設定でき、安定した十分な養生を行うことができる。
【0072】
第2の実施の形態の養生方法では、配管ユニット41を用いて、トンネル3の養生区間の内空全体を有効に利用して加湿する。また、上述したように、施工中のトンネル3では一般に0.3m/s以上の風速が得られるように換気が行われており、風速を0.3〜0.6m/s程度にコントロールすることにより、湿気を含んだ空気が充満しやすくなる。そのため、第2の実施の形態の養生方法では、湿度のコントロールが容易であり、トンネル3の養生区間の内空全体を略均一に湿潤できる。
【0073】
第2の実施の形態によれば、覆工コンクリート5の表面湿度を、急激な変化なく一定に保つことができるため、覆工コンクリート5が緻密になり、初期・長期強度が増大し、従来工法と比較して構造上の安全性が向上する。また、乾燥収縮・温度応力によるひび割れが低減できるため、鉄筋の腐食等が抑制されてコンクリートの耐久性が向上し、剥離・剥落を防止できる。さらに、従来と比較してひび割れ補修の工期が短縮でき、工費削減が可能となる。
【0074】
第2の実施の形態で使用する配管41a、配管41bやノズル53は、市販のものを用いるため、材料・工具の品質確認が容易である。配管ユニット41は軽量であるため、人手で容易に移動および組立が可能である。
【0075】
トンネル3の内空には、換気設備、照明、給排水設備、電気ケーブルなどの工事用設備が設置されているが、配管ユニット41は設置時に大規模なフレーム等が不要であるため、設置時や移動時に工事用設備が障害物となることがなく、作業性が良い。また、配管ユニット41は、作業車両の通行の妨げにならない。
【0076】
なお、第2の実施の形態の配管ユニット41では、3本の配管41bを配管41aの軸方向に3〜5mおきに配置したが、配管41bの設置本数や設置間隔は、これに限らない。また、配管41bをアーチ状としたが、配管41bの形状はアーチ状に限らず、養生する覆工コンクリート5の内周面25の形状に対応したものとする。
【0077】
第2の実施の形態では、配管41aおよび配管41bの径や孔39の設置間隔、配管41bと覆工コンクリート5の内周面25との距離、微霧54の噴霧量や噴霧期間等の数値を例示したが、これらの数値は上述したものに限らない。これらの数値は、事例ごとに適切に設定すればよい。
【0078】
また、配管ユニット41を用いて水を噴霧する際に、配管41bに設置するノズル53の数量を調整することにより、養生区間をトンネル軸方向に複数に区分した区間毎の水の噴霧量を調整したが、水の噴霧量の調整方法はこの限りでない。配管ユニット41に圧力バルブや流量弁を設けて噴霧量を調整してもよい。
【0079】
さらに、第2の実施の形態では、覆工コンクリート5の脱型直後から配管ユニット41を用いた養生を行ったが、養生計画はこれに限らない。例えば、覆工コンクリート5を脱型し、従来の方法による養生を行った後、配管ユニット41を用いた養生を行ってもよい。
【0080】
配管41aの設置時には、図7に示すL型鋼材23のかわりにL型アルミニュームを用いてもよい。
【0081】
図9は、トンネル3の貫通後の覆工コンクリート5の養生方法を示す図である。第1および第2の実施の形態では、図10に示す換気装置57により坑内の風速が所定の範囲にコントロールされた下でトンネル3を掘削しつつ覆工コンクリート5の養生を行うことにより、微霧により湿気を含んだ空気が充満しやすくなり、さらに覆工コンクリート5の養生が促進できることを述べた。以下に、図9に示すように、覆工コンクリート5に先行して実施する地山1の掘削によりトンネル3が貫通した場合の坑内風速をコントロールする方法について説明する。
【0082】
図9に示すようにトンネル3が貫通した後は、トンネル3内の移動式型枠7の前方に隔壁55を設置する。そして、トンネル3の貫通後にも、トンネル貫通前と同様に、換気装置57の風管59の端部63からトンネル3の内部に新鮮な空気を送り、矢印Gに示す方向に所定の範囲の風速が得られるように換気を行う。また、第1および第2の実施の形態と同様の方法で、配管ユニット13等を用いて覆工コンクリート5の養生を行う。
【0083】
図9に示す養生方法では、隔壁55を設置することにより、トンネル3の貫通後にも、トンネル3の貫通前と同様に、トンネル坑内の風向きや風速を所定の範囲に保つことができる。よって、容易に湿度をコントロールすることができ、トンネル3の養生区間の内空全体を略均一に湿潤できる。
【0084】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0085】
3………トンネル
5………覆工コンクリート
11………養生区間
13、41………配管ユニット
13a、41a、41b………配管
17、39………孔
23………L型鋼材
35、53……ノズル
37、54………微霧
45………コンクリートアンカ
47………鋼線
55………隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の区間の覆工コンクリートを打設する工程(a)と、
前記覆工コンクリートの内側に、複数の配管からなる配管ユニットを設置する工程(b)と、
脱型した前記覆工コンクリートが所定の材齢に達するまで、前記複数の配管に設けられた孔に設置したノズルから、所定の噴霧角度で水をトンネル内空間に噴霧する工程(c)と、
前記覆工コンクリートの内側から、前記配管ユニットを取り外す工程(d)と、
を具備し、
前記工程(d)でトンネル掘削方向後方で取り外した前記配管ユニットを、前記工程(b)でトンネル掘削方向前方に設置して、前記工程(a)から前記工程(d)を繰り返すことを特徴とするトンネル覆工コンクリートの養生方法。
【請求項2】
前記配管ユニットは、トンネルの両側部にトンネル軸方向に配置された2本の配管からなることを特徴とする請求項1記載のトンネル覆工コンクリートの養生方法。
【請求項3】
前記配管ユニットは、トンネル軸方向に所定の間隔をおいて配置され、両端部が前記2本の配管に連結された複数の配管をさらに有することを特徴とする請求項2に記載のトンネル覆工コンクリートの養生方法。
【請求項4】
前記工程(b)で、養生する区間の長さに応じて、前記配管ユニットのトンネル軸方向の接続数を調整することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のトンネル覆工コンクリートの養生方法。
【請求項5】
前記工程(c)で、前記トンネル内空間の湿度に応じて、トンネル軸方向に区分した区間毎に水の噴霧量を調整することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のトンネル覆工コンクリートの養生方法。
【請求項6】
前記工程(c)で、噴霧する水の平均粒径が35〜65μmであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のトンネル覆工コンクリートの養生方法。
【請求項7】
少なくとも前記工程(c)において、換気装置により、前記トンネル内空間の風速が所定の範囲にコントロールされることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のトンネル覆工コンクリートの養生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−208407(P2011−208407A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76492(P2010−76492)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(505356491)株式会社マシノ (10)
【Fターム(参考)】