トンネル覆工工法及びトンネル覆工構造
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、金属覆工体を使用したトンネル覆工工法及びトンネル覆工構造に関する。
【0002】
【従来の技術】プレキャストコンクリートのセグメントを使用した従来の一般的な工法に代わって、覆工構造が鉄筋コンクリート構造となる場所打ちライニング工法(ECL工法、Extruded Concrete Lining Method )が近年実用化されている。図9から図12に従来のECL工法の一例の手順を示す。
【0003】このECL工法は、掘削したトンネル内面50と内型枠51との間に鉄筋篭52を設置してコンクリート53を打設し、鉄筋コンクリート造の覆工構造とする。シールド掘進機54には推進ジャッキ55の他に、コンクリートを加圧するコンクリートプレスジャッキ56を備え、推進反力を内型枠51とコンクリートプレス反力とに取ってシールド掘進機54を掘進させる。コンクリートプレスジャッキ56は揺動可能として、これで鉄筋篭52を揺動し、シールド掘進機54が推進している間、コンクリートの流動性を確保する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ECL工法は、覆工構造が地山と密着した鉄筋コンクリート構造となるため、地山の緩みを抑えて地盤沈下を少なくできるという利点があるが、反面次のような問題点があった。
A.トンネルの掘削から覆工までの一連の作業を切羽の狭い空間で一度に行うため、切羽作業(鉄筋の組立、内型枠の移動・組立・脱型)が競合する関係となり、施工性を阻害する結果になり易い。その理由としては、次のようなことが挙げられる。
(1) 鉄筋の組立時間が長い。
(2) 軸方向の鉄筋は連結する必要があるため、最前端の内型枠から切羽側にラップ長分の鉄筋を突出させておく必要がある。
(3) 内型枠の脱型及び移動装置が必要である。
(4) コンクリートの運搬打設装置が必要。
【0005】B.切羽で打設された覆工は、そのままトンネル本体に共用されることになるため、次のようなことを避けて施工精度を確保するための注意が必要である。
(5) 蛇行による覆工厚の減少の発生。
(6) 鉄筋覆工内でのコンクリートの流動性の低下。
(7) 内型枠脱型時の覆工コンクリート表面のクラックの発生。
(8) コンクリート連続打設による覆工コンクリートの伸縮クラックの発生。
【0006】C.その他の欠点として次のようなことが挙げられる。
(9) コンクリートを軸方向に加圧するため、硬化中の覆工コンクリートが動いてしまう。
(10)最前端の内型枠から切羽側にラップ長分の鉄筋を突出させた状態でコンクリートを加圧するため、流動性の良いコンクリートが機内に漏れ易い。
(11)曲線施工時にコンクリートがシールド掘進機の切羽側へ回り易い。
(12)打設時において流動性及び充填性が良く、打設後は早く固まる性質のコンクリートを選ぶ必要がある。
(13)コンクリートには、打設作業時間中の長時間の間、スランプ低下の少ない配合が求められる。
【0007】本発明の目的は、従来のECL工法の上記のような問題点に鑑み、コンクリート打設するための型枠を不要として、それに関連する諸作業を省略するとともに、鉄筋の組立・設置も不要で、切羽での競合作業を低減して施工作業性を飛躍的に改善できるに加え、覆工厚を薄くできるとか、使用するコンクリートを自由に選べる等々の種々の効果を期待できる、トンネル覆工工法及びトンネル覆工構造を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明のトンネル覆工工法では、金属枠2の内外のフランジ部4・5の外周に継手部6・7を形成し、金属枠2の内側枠面を鉄板等の金属プレート3で閉じ外側枠面を開放した金属覆工体1を使用する。この金属覆工体1相互の継手部6・7をシールド掘進機20内で係合させることにより相互の金属枠2・2間に間隙空間16を形成し、金属覆工体1の外面が開放したコンクリート充填部24に、金属プレート3に設けられたコンクリート打設口8からコンクリートを打設するとともに、該コンクリート充填部24から金属枠2のウエブ9・10に設けられたコンクリート注出口14を通じて間隙空間16にもコンクリートを打設し、更にシールド掘進機20を掘進させてコンクリート充填部から地山にコンクリートを密着させる。
【0009】本発明のトンネル覆工構造は、金属枠2の内側枠面を鉄板等の金属プレート3で閉じ外側枠面を開放した金属覆工体1を使用したトンネル覆工構造であって、金属枠2の内外のフランジ部4・5の外周に継手部6・7を形成したこと、金属プレート3にコンクリート打設口8を設けるとともに、金属枠2のウエブ9・10にコンクリート注出口14を設けたこと、金属覆工体1・2相互の継手部6・7を係合させることにより相互の金属枠2・2間に間隙空間16を形成したこと、金属覆工体1の外面が開放したコンクリート充填部24に、コンクリート打設口8からコンクリートを打設するとともに、該コンクリート充填部24からコンクリート注出口14を通じて間隙空間16にもコンクリートを打設したこと、コンクリート充填部24から地山にコンクリートを密着させたことを特徴とする。
【0010】
【作用】本発明では、金属覆工体が従来のセグメントに相当し、しかもコンクリート打設のための型枠を兼ねた形態となる。この金属覆工体の金属枠で囲まれたコンクリート充填部にコンクリートを圧入しつつ、該金属覆工体で推進反力を取ってシールド掘進機を掘進させると、シールド掘進機のスキンプレートが金属覆工体の外側開放面を除々に開放していくため、コンクリートはコンクリート充填部から地山に密着し、地山との密着性が極めて良好かつ密実な、しかも金属覆工体をそのまま埋め殺しした、強度の高い一種の鉄骨鉄筋コンクリート造の覆工構造となる。金属覆工体相互において、それらの金属枠の内外のフランジ部に形成した継手部を係合させ、更に金属枠間の間隙空間にもコンクリート充填部からコンクリートを打設するので、金属覆工体相互の接合にボルトが不要になるとともに、その接合部も他の部分と同様に強度の高い鉄骨鉄筋コンクリート造になる。
【0011】以下、本発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明による1つの金属覆工体(トンネル覆工体)1の一例を示す。この覆工体1は、全体として矩形でしかも施工するトンネル断面に応じてトンネル周方向に全体が湾曲した金属枠2を本体として、その枠内に鉄板等の湾曲した金属プレート3を一体に又は溶接等により固着しており、金属枠2の内側枠面(湾曲内面)は金属プレート3で閉じられ、外側枠面(湾曲外面)は全面が開放している。
【0012】金属枠2は、図2に示すようにH形又はI形の鋼材で作られ、その内外のフランジ部4・5の外周部に互いに対称の段部である継手部6・7を形成している。また、金属プレート3の中央にはパイプによるコンクリート打設口8を設けている。更に、金属枠1のトンネル軸方向で対向するウエブ9・10間に複数本の鉄筋11を配筋し、その一方のウエブ9とトンネル周方向で対向するウエブ12・13のうちの一方には、それぞれ複数個のコンクリート注出口14を設けている。なお、鉄筋11は省略しても構わない。
【0013】金属覆工体1相互は、後述するようにトンネル軸方向及びトンネル周方向に接合して組み立てるが、その組立に当たっては図2に示すように、トンネル軸方向の隣接する金属覆工体1相互、及びトンネル周方向の隣接する金属覆工体1相互の継手部6・7を係合させる。この場合、継手部6と7との間にシール材15を介在させる。
【0014】金属枠2の各部の断面がH形又はI形である場合には、トンネル軸方向の隣接する金属覆工体1相互の間に間隙空間16が形成され、同様にトンネル周方向の隣接する金属覆工体1相互の間にも間隙空間が形成される。この間隙空間16には、後述するようにコンクリート注出口14を通じてコンクリートが充填される。
【0015】なお、図3に示すように継手部6・7を凹凸の嵌合形態とすれば、金属覆工体1相互の接合がより確実なものとなる。
【0016】次に、図1及び図2に示した金属覆工体1を使用して施工する本発明のトンネル覆工工法について、図4〜図11を参照して説明する。図4において、本発明の工法で使用するシールド掘進機20は、従来のセグメントを使用した通常のシールド工法用のものをそのまま使用できる。ただし、本発明では、金属覆工体1相互の接合にボルト・ナットを必要としないため、セグメントの自動組立装置を導入することが容易である。
【0017】金属覆工体1は、従来と同様のエレクタ21にて把持してシールド掘進機20のスキンプレート22に添って位置決めし、図5に示すように既設の金属覆工体1と図2に示したように接合してシールド掘進機20の内側から必要に応じて専用の自走式支保装置23に支保しておく。金属覆工体1をこのように設置すると、その開放している外側枠面がスキンプレート22で閉じられ、図6に示すように各金属覆工体1について金属枠2で囲まれたコンクリート充填部24が形成される。なお、金属覆工体1相互は、その継手部6・7によって相互のトンネル内外方向の動きを規制して接合されるため、ボルト・ナットによる締結は必ずしも必要ではないが、場合によってはその締結を行うことも考えられる。
【0018】そこで、このコンクリート充填部24内にコンクリート打設口8を通じてコンクリート24を打設する。そして、コンクリート充填部24内にコンクリート25が充填され、更にコンクリート注出口14を通じて間隙空間16にもコンクリートが充填されたところで、図7に示すようにコンクリート打設口8からのコンクリートの圧入を続けながら、金属覆工体1に推進ジャッキ26の反力を取ってシールド掘進機20を推進させる。この場合、その推進反力は金属覆工体1のみから取るため、コンクリートが動くようなことはない。
【0019】シールド掘進機20が推進すると、そのスキンプレート22がコンクリート充填部24を除々に開放(金属覆工体1の閉じられていた外側枠面が開放)していくため、コンクリート25はコンクリート充填部24から更にトンネル周辺の地山へ圧入される。そして、コンクリート打設口8からの加圧を、スキンプレート22の後端が当該金属覆工体1から外れた後も所要時期まで継続することにより、コンクリートを密実にできる。コンクリート打設を終えた既設の金属覆工体1も、コンクリートが所定の硬化度に達するまで支保装置23で支保しておく。
【0020】このようにして施工されたトンネル覆工構造は、金属枠2と鉄筋11とを埋設した一種の鉄骨鉄筋コンクリート造となり、しかもその内面は、シール材15で間隙を止水されて連続する金属プレート3によって全面を被覆された形態となる。
【0021】なお、金属覆工体1の形状は矩形に限られるものではなく、トンネル曲線部用の金属覆工体の場合には、トンネル軸線方向の幅員がトンネル周方向の一方側と他方側とで異なる台形にするとか、全体として大きなドーム形にするとか、種々の形状にすることができる。また、コンクリート打設口8の位置及び数も適宜である。
【0022】
【発明の効果】本発明の効果を以下に列挙する。
(1)鋼材等による金属枠の内側枠面を鉄板等の金属プレートで閉じ外側枠面を開放した金属覆工体を、一種の埋め殺しする型枠としてコンクリートを打設するため、従来のECL工法のような内型枠の脱型・移動作業及び鉄筋の組立作業がなく、施工サイクルの大幅な短縮ができる。
(2)切羽での競合作業を低減して施工作業性を飛躍的に改善できる。
(3)金属覆工体の組立にボルト・ナットによる締結を必ずしも必要としないので、通常のシールド工法用のシールド掘進機をそのまま、又はそれからボルト・ナット締結装置やボルト・ナット供給装置等を除いて使用できるので、シールド掘進機を特別に製作する必要がなく、経済的である。
【0023】(4) 金属覆工体の断面性能が優れているに加え、トンネル覆工構造は、金属枠と鉄筋とを埋設した一種の鉄骨鉄筋コンクリート造となるため、従来の鉄筋コンクリート造に比べて覆工厚を薄くでき、特に大深度・大口径の場合は効果が大きい。
(5) 地山との密着性の高いかつ密実でしかも止水性の高い高品質の覆工構造にできる。
【0024】(6) 覆工厚を薄くできることから、シールド掘進機の外径も従来のECL工法でのシールド掘進機よりも小さくでき、掘削土量の低減、及び機械コストの低減を図ることができる。
(7) 金属覆工体単位でコンクリートを現場打ちするため、コンクリートとして連続性のものを使用しなくともよいとか、コンクリートの硬化時間を充分に確保できるとか、作業性を重視したコンクリートを選べるなどの利点がある。
【0025】(8)従来のECL工法では、シールド掘進機の推進時にコンクリートを軸方向に加圧してコンクリートからも推進反力を取っていたため、硬化中のコンクリートが動いてしまう欠点があったが、本発明によればコンクリートは、金属覆工体の金属プレートに設けられたコンクリート打設口から圧入して、推進反力は金属覆工体のみから取るため、このような欠点はない。
(9)コンクリートの特性と金属覆工体の特性の両方を有効に利用し、その相乗効果を期待できるとともに、剛性を自由に選べる。
(10)金属覆工体の形状を自由に選べること、及び金属覆工体単位でコンクリートを現場打ちすることから、曲線施工も容易である。
(11)金属覆工体相互において、それらの金属枠の内外のフランジ部に形成した継手部を係合させ、更に金属枠間の間隙空間にもコンクリート充填部からコンクリートを打設するので、金属覆工体相互の接合にボルトが不要になるとともに、その接合部も、他の部分と同様に強度の高い鉄骨鉄筋コンクリート造にすることができる。
(12)金属覆工体の金属プレートに設けられたコンクリート打設口からコンクリートを圧入すると、金属枠で囲まれたコンクリート充填部にコンクリートを打設できるとともに、更に該コンクリート充填部から金属枠間の間隙空間にもコンクリートを打設できるので、コンクリート打設を効率的に行える。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で使用するトンネル覆工体の一例の斜視図である。
【図2】トンネル覆工体相互の接合部分の拡大断面図である。
【図3】同上の他の例の断面図である。
【図4】通常のシールド掘進機を使用して施工する本発明の工法の一例の概要図である。
【図5】本発明の工法の施工手順を示す拡大断面図である。
【図6】図5の次の作業を示す断面図である。
【図7】図6の次の作業を示す断面図である。
【図8】従来のECL工法の施工手順を示す断面図である。
【図9】図8の次の作業を示す断面図である。
【図10】図9の次の作業を示す断面図である。
【図11】図10の次の作業を示す断面図である。
【符号の説明】
1 金属覆工体
2 金属枠
3 金属プレート
6 継手部
7 継手部
8 コンクリート打設口
14 コンクリート注出口
16 間隙空間
20 シールド掘進機
22 スキンプレート
24 コンクリート充填部
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、金属覆工体を使用したトンネル覆工工法及びトンネル覆工構造に関する。
【0002】
【従来の技術】プレキャストコンクリートのセグメントを使用した従来の一般的な工法に代わって、覆工構造が鉄筋コンクリート構造となる場所打ちライニング工法(ECL工法、Extruded Concrete Lining Method )が近年実用化されている。図9から図12に従来のECL工法の一例の手順を示す。
【0003】このECL工法は、掘削したトンネル内面50と内型枠51との間に鉄筋篭52を設置してコンクリート53を打設し、鉄筋コンクリート造の覆工構造とする。シールド掘進機54には推進ジャッキ55の他に、コンクリートを加圧するコンクリートプレスジャッキ56を備え、推進反力を内型枠51とコンクリートプレス反力とに取ってシールド掘進機54を掘進させる。コンクリートプレスジャッキ56は揺動可能として、これで鉄筋篭52を揺動し、シールド掘進機54が推進している間、コンクリートの流動性を確保する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ECL工法は、覆工構造が地山と密着した鉄筋コンクリート構造となるため、地山の緩みを抑えて地盤沈下を少なくできるという利点があるが、反面次のような問題点があった。
A.トンネルの掘削から覆工までの一連の作業を切羽の狭い空間で一度に行うため、切羽作業(鉄筋の組立、内型枠の移動・組立・脱型)が競合する関係となり、施工性を阻害する結果になり易い。その理由としては、次のようなことが挙げられる。
(1) 鉄筋の組立時間が長い。
(2) 軸方向の鉄筋は連結する必要があるため、最前端の内型枠から切羽側にラップ長分の鉄筋を突出させておく必要がある。
(3) 内型枠の脱型及び移動装置が必要である。
(4) コンクリートの運搬打設装置が必要。
【0005】B.切羽で打設された覆工は、そのままトンネル本体に共用されることになるため、次のようなことを避けて施工精度を確保するための注意が必要である。
(5) 蛇行による覆工厚の減少の発生。
(6) 鉄筋覆工内でのコンクリートの流動性の低下。
(7) 内型枠脱型時の覆工コンクリート表面のクラックの発生。
(8) コンクリート連続打設による覆工コンクリートの伸縮クラックの発生。
【0006】C.その他の欠点として次のようなことが挙げられる。
(9) コンクリートを軸方向に加圧するため、硬化中の覆工コンクリートが動いてしまう。
(10)最前端の内型枠から切羽側にラップ長分の鉄筋を突出させた状態でコンクリートを加圧するため、流動性の良いコンクリートが機内に漏れ易い。
(11)曲線施工時にコンクリートがシールド掘進機の切羽側へ回り易い。
(12)打設時において流動性及び充填性が良く、打設後は早く固まる性質のコンクリートを選ぶ必要がある。
(13)コンクリートには、打設作業時間中の長時間の間、スランプ低下の少ない配合が求められる。
【0007】本発明の目的は、従来のECL工法の上記のような問題点に鑑み、コンクリート打設するための型枠を不要として、それに関連する諸作業を省略するとともに、鉄筋の組立・設置も不要で、切羽での競合作業を低減して施工作業性を飛躍的に改善できるに加え、覆工厚を薄くできるとか、使用するコンクリートを自由に選べる等々の種々の効果を期待できる、トンネル覆工工法及びトンネル覆工構造を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明のトンネル覆工工法では、金属枠2の内外のフランジ部4・5の外周に継手部6・7を形成し、金属枠2の内側枠面を鉄板等の金属プレート3で閉じ外側枠面を開放した金属覆工体1を使用する。この金属覆工体1相互の継手部6・7をシールド掘進機20内で係合させることにより相互の金属枠2・2間に間隙空間16を形成し、金属覆工体1の外面が開放したコンクリート充填部24に、金属プレート3に設けられたコンクリート打設口8からコンクリートを打設するとともに、該コンクリート充填部24から金属枠2のウエブ9・10に設けられたコンクリート注出口14を通じて間隙空間16にもコンクリートを打設し、更にシールド掘進機20を掘進させてコンクリート充填部から地山にコンクリートを密着させる。
【0009】本発明のトンネル覆工構造は、金属枠2の内側枠面を鉄板等の金属プレート3で閉じ外側枠面を開放した金属覆工体1を使用したトンネル覆工構造であって、金属枠2の内外のフランジ部4・5の外周に継手部6・7を形成したこと、金属プレート3にコンクリート打設口8を設けるとともに、金属枠2のウエブ9・10にコンクリート注出口14を設けたこと、金属覆工体1・2相互の継手部6・7を係合させることにより相互の金属枠2・2間に間隙空間16を形成したこと、金属覆工体1の外面が開放したコンクリート充填部24に、コンクリート打設口8からコンクリートを打設するとともに、該コンクリート充填部24からコンクリート注出口14を通じて間隙空間16にもコンクリートを打設したこと、コンクリート充填部24から地山にコンクリートを密着させたことを特徴とする。
【0010】
【作用】本発明では、金属覆工体が従来のセグメントに相当し、しかもコンクリート打設のための型枠を兼ねた形態となる。この金属覆工体の金属枠で囲まれたコンクリート充填部にコンクリートを圧入しつつ、該金属覆工体で推進反力を取ってシールド掘進機を掘進させると、シールド掘進機のスキンプレートが金属覆工体の外側開放面を除々に開放していくため、コンクリートはコンクリート充填部から地山に密着し、地山との密着性が極めて良好かつ密実な、しかも金属覆工体をそのまま埋め殺しした、強度の高い一種の鉄骨鉄筋コンクリート造の覆工構造となる。金属覆工体相互において、それらの金属枠の内外のフランジ部に形成した継手部を係合させ、更に金属枠間の間隙空間にもコンクリート充填部からコンクリートを打設するので、金属覆工体相互の接合にボルトが不要になるとともに、その接合部も他の部分と同様に強度の高い鉄骨鉄筋コンクリート造になる。
【0011】以下、本発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明による1つの金属覆工体(トンネル覆工体)1の一例を示す。この覆工体1は、全体として矩形でしかも施工するトンネル断面に応じてトンネル周方向に全体が湾曲した金属枠2を本体として、その枠内に鉄板等の湾曲した金属プレート3を一体に又は溶接等により固着しており、金属枠2の内側枠面(湾曲内面)は金属プレート3で閉じられ、外側枠面(湾曲外面)は全面が開放している。
【0012】金属枠2は、図2に示すようにH形又はI形の鋼材で作られ、その内外のフランジ部4・5の外周部に互いに対称の段部である継手部6・7を形成している。また、金属プレート3の中央にはパイプによるコンクリート打設口8を設けている。更に、金属枠1のトンネル軸方向で対向するウエブ9・10間に複数本の鉄筋11を配筋し、その一方のウエブ9とトンネル周方向で対向するウエブ12・13のうちの一方には、それぞれ複数個のコンクリート注出口14を設けている。なお、鉄筋11は省略しても構わない。
【0013】金属覆工体1相互は、後述するようにトンネル軸方向及びトンネル周方向に接合して組み立てるが、その組立に当たっては図2に示すように、トンネル軸方向の隣接する金属覆工体1相互、及びトンネル周方向の隣接する金属覆工体1相互の継手部6・7を係合させる。この場合、継手部6と7との間にシール材15を介在させる。
【0014】金属枠2の各部の断面がH形又はI形である場合には、トンネル軸方向の隣接する金属覆工体1相互の間に間隙空間16が形成され、同様にトンネル周方向の隣接する金属覆工体1相互の間にも間隙空間が形成される。この間隙空間16には、後述するようにコンクリート注出口14を通じてコンクリートが充填される。
【0015】なお、図3に示すように継手部6・7を凹凸の嵌合形態とすれば、金属覆工体1相互の接合がより確実なものとなる。
【0016】次に、図1及び図2に示した金属覆工体1を使用して施工する本発明のトンネル覆工工法について、図4〜図11を参照して説明する。図4において、本発明の工法で使用するシールド掘進機20は、従来のセグメントを使用した通常のシールド工法用のものをそのまま使用できる。ただし、本発明では、金属覆工体1相互の接合にボルト・ナットを必要としないため、セグメントの自動組立装置を導入することが容易である。
【0017】金属覆工体1は、従来と同様のエレクタ21にて把持してシールド掘進機20のスキンプレート22に添って位置決めし、図5に示すように既設の金属覆工体1と図2に示したように接合してシールド掘進機20の内側から必要に応じて専用の自走式支保装置23に支保しておく。金属覆工体1をこのように設置すると、その開放している外側枠面がスキンプレート22で閉じられ、図6に示すように各金属覆工体1について金属枠2で囲まれたコンクリート充填部24が形成される。なお、金属覆工体1相互は、その継手部6・7によって相互のトンネル内外方向の動きを規制して接合されるため、ボルト・ナットによる締結は必ずしも必要ではないが、場合によってはその締結を行うことも考えられる。
【0018】そこで、このコンクリート充填部24内にコンクリート打設口8を通じてコンクリート24を打設する。そして、コンクリート充填部24内にコンクリート25が充填され、更にコンクリート注出口14を通じて間隙空間16にもコンクリートが充填されたところで、図7に示すようにコンクリート打設口8からのコンクリートの圧入を続けながら、金属覆工体1に推進ジャッキ26の反力を取ってシールド掘進機20を推進させる。この場合、その推進反力は金属覆工体1のみから取るため、コンクリートが動くようなことはない。
【0019】シールド掘進機20が推進すると、そのスキンプレート22がコンクリート充填部24を除々に開放(金属覆工体1の閉じられていた外側枠面が開放)していくため、コンクリート25はコンクリート充填部24から更にトンネル周辺の地山へ圧入される。そして、コンクリート打設口8からの加圧を、スキンプレート22の後端が当該金属覆工体1から外れた後も所要時期まで継続することにより、コンクリートを密実にできる。コンクリート打設を終えた既設の金属覆工体1も、コンクリートが所定の硬化度に達するまで支保装置23で支保しておく。
【0020】このようにして施工されたトンネル覆工構造は、金属枠2と鉄筋11とを埋設した一種の鉄骨鉄筋コンクリート造となり、しかもその内面は、シール材15で間隙を止水されて連続する金属プレート3によって全面を被覆された形態となる。
【0021】なお、金属覆工体1の形状は矩形に限られるものではなく、トンネル曲線部用の金属覆工体の場合には、トンネル軸線方向の幅員がトンネル周方向の一方側と他方側とで異なる台形にするとか、全体として大きなドーム形にするとか、種々の形状にすることができる。また、コンクリート打設口8の位置及び数も適宜である。
【0022】
【発明の効果】本発明の効果を以下に列挙する。
(1)鋼材等による金属枠の内側枠面を鉄板等の金属プレートで閉じ外側枠面を開放した金属覆工体を、一種の埋め殺しする型枠としてコンクリートを打設するため、従来のECL工法のような内型枠の脱型・移動作業及び鉄筋の組立作業がなく、施工サイクルの大幅な短縮ができる。
(2)切羽での競合作業を低減して施工作業性を飛躍的に改善できる。
(3)金属覆工体の組立にボルト・ナットによる締結を必ずしも必要としないので、通常のシールド工法用のシールド掘進機をそのまま、又はそれからボルト・ナット締結装置やボルト・ナット供給装置等を除いて使用できるので、シールド掘進機を特別に製作する必要がなく、経済的である。
【0023】(4) 金属覆工体の断面性能が優れているに加え、トンネル覆工構造は、金属枠と鉄筋とを埋設した一種の鉄骨鉄筋コンクリート造となるため、従来の鉄筋コンクリート造に比べて覆工厚を薄くでき、特に大深度・大口径の場合は効果が大きい。
(5) 地山との密着性の高いかつ密実でしかも止水性の高い高品質の覆工構造にできる。
【0024】(6) 覆工厚を薄くできることから、シールド掘進機の外径も従来のECL工法でのシールド掘進機よりも小さくでき、掘削土量の低減、及び機械コストの低減を図ることができる。
(7) 金属覆工体単位でコンクリートを現場打ちするため、コンクリートとして連続性のものを使用しなくともよいとか、コンクリートの硬化時間を充分に確保できるとか、作業性を重視したコンクリートを選べるなどの利点がある。
【0025】(8)従来のECL工法では、シールド掘進機の推進時にコンクリートを軸方向に加圧してコンクリートからも推進反力を取っていたため、硬化中のコンクリートが動いてしまう欠点があったが、本発明によればコンクリートは、金属覆工体の金属プレートに設けられたコンクリート打設口から圧入して、推進反力は金属覆工体のみから取るため、このような欠点はない。
(9)コンクリートの特性と金属覆工体の特性の両方を有効に利用し、その相乗効果を期待できるとともに、剛性を自由に選べる。
(10)金属覆工体の形状を自由に選べること、及び金属覆工体単位でコンクリートを現場打ちすることから、曲線施工も容易である。
(11)金属覆工体相互において、それらの金属枠の内外のフランジ部に形成した継手部を係合させ、更に金属枠間の間隙空間にもコンクリート充填部からコンクリートを打設するので、金属覆工体相互の接合にボルトが不要になるとともに、その接合部も、他の部分と同様に強度の高い鉄骨鉄筋コンクリート造にすることができる。
(12)金属覆工体の金属プレートに設けられたコンクリート打設口からコンクリートを圧入すると、金属枠で囲まれたコンクリート充填部にコンクリートを打設できるとともに、更に該コンクリート充填部から金属枠間の間隙空間にもコンクリートを打設できるので、コンクリート打設を効率的に行える。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で使用するトンネル覆工体の一例の斜視図である。
【図2】トンネル覆工体相互の接合部分の拡大断面図である。
【図3】同上の他の例の断面図である。
【図4】通常のシールド掘進機を使用して施工する本発明の工法の一例の概要図である。
【図5】本発明の工法の施工手順を示す拡大断面図である。
【図6】図5の次の作業を示す断面図である。
【図7】図6の次の作業を示す断面図である。
【図8】従来のECL工法の施工手順を示す断面図である。
【図9】図8の次の作業を示す断面図である。
【図10】図9の次の作業を示す断面図である。
【図11】図10の次の作業を示す断面図である。
【符号の説明】
1 金属覆工体
2 金属枠
3 金属プレート
6 継手部
7 継手部
8 コンクリート打設口
14 コンクリート注出口
16 間隙空間
20 シールド掘進機
22 スキンプレート
24 コンクリート充填部
【特許請求の範囲】
【請求項1】金属枠の内外のフランジ部の外周に継手部を形成し、金属枠の内側枠面を鉄板等の金属プレートで閉じ外側枠面を開放した金属覆工体を使用し、該金属覆工体相互の継手部をシールド掘進機内で係合させることにより相互の金属枠間に間隙空間を形成し、金属覆工体の外面が開放したコンクリート充填部に、前記金属プレートに設けられたコンクリート打設口からコンクリートを打設するとともに、該コンクリート充填部から前記金属枠のウエブに設けられたコンクリート注出口を通じて前記間隙空間にもコンクリートを打設し、更にシールド掘進機を掘進させてコンクリート充填部から地山にコンクリートを密着させることを特徴とするトンネル覆工工法。
【請求項2】金属枠の内側枠面を鉄板等の金属プレートで閉じ外側枠面を開放した金属覆工体を使用したトンネル覆工構造において、前記金属枠の内外のフランジ部の外周に継手部を形成したこと、前記金属プレートにコンクリート打設口を設けるとともに、前記金属枠のウエブにコンクリート注出口を設けたこと、金属覆工体相互の前記継手部を係合させることにより相互の金属枠間に間隙空間を形成したこと、前記金属覆工体の外面が開放したコンクリート充填部に、前記コンクリート打設口からコンクリートを打設するとともに、該コンクリート充填部から前記コンクリート注出口を通じて前記間隙空間にもコンクリートを打設したこと、前記コンクリート充填部から地山にコンクリートを密着させたことを特徴とするトンネル覆工構造。
【請求項1】金属枠の内外のフランジ部の外周に継手部を形成し、金属枠の内側枠面を鉄板等の金属プレートで閉じ外側枠面を開放した金属覆工体を使用し、該金属覆工体相互の継手部をシールド掘進機内で係合させることにより相互の金属枠間に間隙空間を形成し、金属覆工体の外面が開放したコンクリート充填部に、前記金属プレートに設けられたコンクリート打設口からコンクリートを打設するとともに、該コンクリート充填部から前記金属枠のウエブに設けられたコンクリート注出口を通じて前記間隙空間にもコンクリートを打設し、更にシールド掘進機を掘進させてコンクリート充填部から地山にコンクリートを密着させることを特徴とするトンネル覆工工法。
【請求項2】金属枠の内側枠面を鉄板等の金属プレートで閉じ外側枠面を開放した金属覆工体を使用したトンネル覆工構造において、前記金属枠の内外のフランジ部の外周に継手部を形成したこと、前記金属プレートにコンクリート打設口を設けるとともに、前記金属枠のウエブにコンクリート注出口を設けたこと、金属覆工体相互の前記継手部を係合させることにより相互の金属枠間に間隙空間を形成したこと、前記金属覆工体の外面が開放したコンクリート充填部に、前記コンクリート打設口からコンクリートを打設するとともに、該コンクリート充填部から前記コンクリート注出口を通じて前記間隙空間にもコンクリートを打設したこと、前記コンクリート充填部から地山にコンクリートを密着させたことを特徴とするトンネル覆工構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【特許番号】第2612522号
【登録日】平成9年(1997)2月27日
【発行日】平成9年(1997)5月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−349432
【出願日】平成3年(1991)12月9日
【公開番号】特開平5−156896
【公開日】平成5年(1993)6月22日
【出願人】(000188629)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000140982)株式会社間組 (11)
【参考文献】
【文献】特開 平1−125500(JP,A)
【文献】特開 平1−187291(JP,A)
【登録日】平成9年(1997)2月27日
【発行日】平成9年(1997)5月21日
【国際特許分類】
【出願日】平成3年(1991)12月9日
【公開番号】特開平5−156896
【公開日】平成5年(1993)6月22日
【出願人】(000188629)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000140982)株式会社間組 (11)
【参考文献】
【文献】特開 平1−125500(JP,A)
【文献】特開 平1−187291(JP,A)
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