説明

ドクター装置

【課題】多くの時間と熟練を必要とすることなく、ドクターブレードの接触角を簡単かつ適正に設定することができるドクター装置を提供すること。
【解決手段】印刷製品の種類毎に異なる版胴を使用した時、その径の変化に応じてドクターブレードの設置位置を調節するように構成されたドクター装置において、ドクターブレードを保持するドクターホルダーと、このドクターホルダーを保持するドクター架台と、このドクター架台を支持する支持軸と、この支持軸を異なる版胴径に対する各々のドクターブレードの接点を結ぶ仮想線と並行に移動できるガイド部材を有する移動用ラックと、この移動用ラックを昇降移動する手段を具備したことを特徴とするドクター装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア印刷機において、版胴の周面に付着したインキを掻き落とすのに使用されるドクター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドクター装置は、一般的にグラビア印刷機等の印刷ユニットにおいて、版胴表面の余分なインキを掻き落とすのに使用されている。この印刷ユニットについて図4を用いて説明する。図4は、従来のドクター装置が取り付けられたグラビア印刷機の印刷ユニットの構成例を示す図である。
図4に示すように、一般的なグラビア印刷においては、グラビアインキ6をインキパン5の中に満たし、円筒状の版胴3aを、その下側の一部がインキ液中に浸漬した状態で回転させる。回転に伴い版胴面に付着して上昇するインキをドクターブレード7で掻き取り、印刷に必要なインキのみがセル中に残るようにした後、版胴と圧胴1の間隙に基材2を通し、両者間の印圧により、セル中に残ったインキを基材に転移させるのがグラビア印刷方法である。
【0003】
従来のドクター装置では、厚さが0.15〜0.30mm程度の鋼材がドクターブレードに用いられており、構造的には帯板状をしたドクターブレードをドクターホルダーに挟み込んで固定し、さらにそのドクターホルダーをドクター架台に固定した状態とし、ドクターブレードを版胴面に押しあてるように構成されている。ドクター架台は回転軸において回転でき、その回転によってドクターブレードを版胴に接触させることが可能になる。
【0004】
グラビア印刷においては、版胴に対するドクターブレードの接触角を正確に設定することが、印刷品質に大きな影響を与える。一般的なドクターブレードの接触角は60°前後が好適であるとされているが接触角を直接測ることは困難であるため、あらかじめ接触角を作業者の感覚で決め、その後テスト印刷を行いながら調節することで、最適な接触角を設定しているのが現状である。
【0005】
しかしながら上記のような従来の方法では、ドクターブレードの接触角は精度良く調節できているとは言えず、版胴の交換毎に接触角の違いが発生するという問題がある。版胴の径が変更されると所定の接触角を保つためにドクターブレードを上下前後に移動、または回動させて調整を行う必要がある。ドクターブレードの接触角の調整は印刷結果の良し悪しに多大な影響を及ぼすので、多くの時間を費やし、さらには熟練を必要とするため、作業者に負担がかかると共に生産性の悪いものでもあった。
【0006】
上記の問題に対して、特許文献1ではドクターブレードの設定の再現性が得られるような位置設定方法が提案されている。しかしながら、この方法では、ドクター架台の高さの自動調整、設置進退方向位置の手動調整が必要になり機構が複雑になるという問題をはらんでいた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−136779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、多くの時間と熟練
を必要とすることなく、ドクターブレードの接触角を簡単かつ適正に設定することができるドクター装置を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の請求項1に記載の発明は、グラビア印刷にて使用するドクター装置であって、印刷製品の種類毎に異なる版胴を使用した時、その径の変化に応じてドクターブレードの設置位置を調節するように構成されたドクター装置において、ドクターブレードを保持するドクターホルダーと、このドクターホルダーを保持するドクター架台と、このドクター架台を支持する支持軸と、この支持軸を異なる版胴径に対する各々のドクターブレードの接点を結ぶ仮想線と並行に移動できる、ガイド部材を有する移動用ラックと、この移動用ラックを昇降移動する手段を具備したことを特徴とするドクター装置である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明であるドクター装置により、異なる径を持つ版胴の交換をする際に、移動用ラックのガイド部材に沿って支持軸を移動させることで、版胴の中心軸と交換前後の版胴表面に対するドクターブレードの各々の接点が直線になるようにドクターブレードを移動することが可能になるため、版胴交換の前後でドクターブレードの接触角を変えることなく簡単に設定を行うことができる。また、移動用ラックの位置と支持軸を中心としたドクターブレードの回転角の2つを調整することで、容易に接触角の変更も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のドクター装置における構成の一例を示す模式図である。
【図2】本発明のドクター装置において、版胴径に応じて支持軸の位置を移動する時の動作を示す模式図である。
【図3】本発明のドクター装置において、ドクターブレードの接触角の変更を行う時の動作を示す模式図である。
【図4】一般的なグラビア印刷機等の印刷ユニットの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本発明のドクター装置における構成の一例を図1に示す。図1において、1は圧胴、2は基材、3aは版胴、4はファニッシャーロール、5はインキパン、6はグラビアインキ、7はドクターブレード、8はドクターホルダー、9はドクター架台、10は移動用ラック、11は支持軸、aは接触角である。
【0013】
ドクターブレード7は、ドクターホルダー8によって挟持されていて、ドクターホルダー8はドクター架台9により保持される。ドクター架台9は支持軸11により支持されており、支持軸11を中心に回転することができる。この回転は予め設定しておいた回転角c(図3参照)まで回転するよう設定することができるよう構成されている。この回転により、ドクター架台9は、ドクターブレード7を版胴3aの表面に接触させる状態と、表面から離す状態をとることができる。
【0014】
上記構成のドクター装置は、移動用ラック10の位置とドクターブレード7の回転角cを調節することで、ドクターブレード7の接触角aを60°程度の基準角度に予め設定することができる。次に移動用ラック10のガイド部材に沿って支持軸11を直線的に移動させることで、ドクターブレード7の先端が版胴3aの周面に接触するまで移動させ、図外の加圧手段によって版胴3aに対して所定の押し付け力で圧接させることにより、版胴面に付着して上昇するインキをドクターブレード7で掻き取ることが可能になる。
【0015】
そして、別の絵柄を有する印刷製品に変更する等に対応して図2で示す大径の版胴3bから、小径の版胴3aに交換する場合には、移動用ラック10により新しい小径の版胴3aに接触する位置まで支持軸11を移動させることで、ドクターブレード7の接触角aを変えることなく設定を行うことが可能になる。
【0016】
また印刷物の色濃度が出ない時などの応急処置としてドクターブレード7の接触角aを変える場合には、移動用ラック10の位置と、支持軸11を中心としたドクターブレードの回転角cの2つを調整する必要がある。接触角aを小さくしたい場合には、まず移動用ラック10のガイド部材に沿って支持軸11を版胴3aから離れる方向へ移動させることで、ドクターブレード7を版胴3aの周面から離す。次に図3の点線で示されるように、移動用ラック10の位置を下げ、ドクターブレードの回転角cを小さくし、移動用ラック10のガイド部材に沿って支持軸11を、版胴3aへ接触する方向へ移動させることで、ドクターブレード7の先端を版胴3aの周面に接触させる。そうすることで、変更前にドクターブレード7の先端が版胴3aの周面に接触していた地点で接触角aの変更が可能になる。この時変更前後で版胴3aに対するドクターブレード7の接点がズレていないことを確認できる設備によって、ドクターブレード7の接点の確認を行う。あらかじめ、接触角aと移動用ラック10の位置及びドクターブレード7の回転角cとの相関関係を計算しておくことで所定の接触角aを決めるにあたり、移動用ラック10の位置とドクターブレード7の回転角cから設定することが可能になる。
【0017】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明のドクター装置は、上記実施の形態に何ら限定されるものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0018】
1…圧胴
2…基材
3a…小径の版胴
3b…大径の版胴
4…ファニッシャーロール
5…インキパン
6…グラビアインキ
7…ドクターブレード
8…ドクターホルダー
9…ドクター架台
10…移動用ラック
11…支持軸
a…接触角
b…版胴の中心軸からの仰角
c…ドクターブレードの回転角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラビア印刷にて使用するドクター装置であって、印刷製品の種類毎に異なる版胴を使用した時、その径の変化に応じてドクターブレードの設置位置を調節するように構成されたドクター装置において、ドクターブレードを保持するドクターホルダーと、このドクターホルダーを保持するドクター架台と、このドクター架台を支持する支持軸と、この支持軸を異なる版胴径に対する各々のドクターブレードの接点を結ぶ仮想線と並行に移動できる、ガイド部材を有する移動用ラックと、この移動用ラックを昇降移動する手段を具備したことを特徴とするドクター装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−183809(P2012−183809A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50329(P2011−50329)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】