説明

ドップラー式超音波流量測定装置に用いる気泡注入装置

【課題】経験やデータベースによらず、超音波ドップラー式流量計の精度を向上させる気泡注入装置を提供する。
【解決手段】流量計140と、管路200から流体を取り出して再び戻す分岐路300と、分岐路の流体を搬送するポンプ210と、分岐路中の流体の流量または圧力の調整バルブ160と、分岐路上の内径が拡大する膨張部230と、膨張部230に気体を供給するコンプレッサー220と、供給部220から供給する気体の流量または圧力の調整バルブ150と、流量計140が測定した気泡状態から、バルブ160またはバルブ150を制御する気泡制御部180とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管路中の流体内部の気泡の状態が最適化される気泡注入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体の流量を測定するために、超音波の反射を利用した流量測定装置が広く利用されている。超音波による流量測定は、ドップラー法や相互相関法、伝搬時間差法、伝搬時間逆数差法、シング・アラウンド法等さまざまな方法を用いたものがある。
【0003】
特に管路内の流れを測定する場合、超音波による流量測定は、超音波が物質を透過して伝播する性質を利用して、管路の外側から管路内の流量を測定することができる。超音波は、導管が不透明であっても、また流体自体が不透明であっても導管内の速度分布や流量を測定することができる。したがって、懸濁液や、水銀またはナトリウム等の液体金属等の様々な不透明流体の流速測定にも適応できるという利点を有している。
【0004】
ドップラー式超音波流量測定装置は、トランスデューサ(超音波入力部)から流体内に入力される超音波パルス波が、測定線上の流体中の微細な気泡やごみ等に反射し、その反射波から流体速度分布の経時変化を得ることが可能となる。
【0005】
しかし、管路内の超音波流量測定において、反射体として自然に流入される気泡やごみを期待しても、これらは非定常なものであり、得られるデータも不安定なデータとしかならない場合がある。また、ごみ等の物質はかえって超音波が乱反射する要因ともなる。そこで人為的に何らかの反射体を注入する方法が考えられるが、微細な物質を注入した場合、流体の使用目的によっては、微細な物質を後に取り除く必要が生じてしまう。したがって、定常的に流量測定を行うためには、管路内測定領域付近に適切な量の微細化した気泡を人為的に均一に注入するとよい。
【0006】
気泡の注入方法としては、例えば特許文献1あるいは特許文献2では、ポンプを使って流体に気体を直接的に注入する方法や、超音波反射器により被測定流体中にキャビテーションによる気泡を発生させる方法が開示されている。
【0007】
また、例えば特許文献3では、ベンチュリ管長さを可変させることで気泡量を調整し、さらにベンチュリ管を利用することで気泡を微細化し、流れ場に注入している。このときの注入される気泡の状態は、主にベンチュリ管構造や液体流量と圧力、空気流量と圧力をパラメータとし、ドップラー式超音波流量測定装置によって計測される流速分布から良否の状態を判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−62007号公報
【特許文献2】特開平6−294670号公報
【特許文献3】特開2004−354185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
注入した気泡の状態の良否判定は、良否判定のためのパラメータ設定値が経験則から得られたものが多く、またそのデータ量が少ないため、良好な気泡の状態の流れ場の再現性に乏しく、現場での微調整が必要なケースも少なくない。
【0010】
また、最終的な流れ場中の気泡の状態の良否判定は、流速分布の状態などから専門技術者が経験的に判定することが多く、客観性と再現性が乏しい。
【0011】
上述のような問題がしばしば起こりえる原因は、上記のパラメータ設定値に対して、注入する気泡の状態(例えば気泡径、数密度、分布状態など)に影響を与えるパラメータが非常に多いためである。
【0012】
流れ場に注入する気泡の状態において考慮すべきパラメータの例としては、管路の主配管の直径、流量、水温、圧力、流れの乱れ具合、気泡を注入するベンチュリ管の液体通過路の形状、気体通過路の形状、ベンチュリ管を通過する液体流量および圧力、気体流量および圧力、主配管における気泡注入箇所や個数、気泡流入箇所と流量計測点との距離、主配管の配置状態(水平や鉛直)等多岐にわたる。このため、全てのパラメータを考慮したパラメータ設定値のデータベースを構築するにも多大な労力とコストが必要となり、さらには制御系が複雑となり、流量計測システムも大規模となってしまう。
【0013】
このため、容易かつ適切に管路の流量を測定するには、最低限のパラメータを考慮することにより、流体中の気泡の状態を把握することができればよい。しかし、例えば特許文献3では、管路内の流体中の気泡の状態は、ドップラー式超音波流量測定装置から得られる流速分布のみで推定しているにすぎず、例えば、管路内の流体中に気泡を均一に発生させる均一分散機能部に不具合が生じた場合に、誤った気泡状態を最適な気泡状態と誤認したまま流量を計測してしまう危険性がある。
【0014】
そこで本発明は、管路の流れ場の流速分布の測定に加えて、流体中の気泡の状態を把握し、その結果をフィードバックし自動的に管路内部の流体中の気泡状態を調整することで、経験やデータベースによらず、超音波ドップラー式流量計による流量測定の精度を向上させることが可能な気泡注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明にかかる気泡注入装置の代表的な構成は、超音波を用いて管路内部を流れる流体の流速を測定する流速測定部と、管路から流体を取り出して再び前記管路に戻す分岐路と、分岐路に流れる流体を搬送するポンプと、分岐路を流れる流体の流量または圧力を調整する液体調整部と、分岐路上に配置され内径が拡大する膨張部と、膨張部に気体を供給する気体供給部と、気体供給部から供給する気体の流量または圧力を調整する気体調整部と、流速測定部が測定した気泡状態に基づいて、前記液体調整部または前記気体調整部を制御する気泡制御部とを備えたことを特徴とする。
【0016】
上記構成によれば、2つの調整部を制御することで、液体と気体の流量が調整される。特に、空気の流量を増加させれば泡の量が増加し、流体の流量を増加させれば泡が微細化する。そして流速測定部が測定した気泡状態に基づいて流体と気体の流量または圧力を調節することにより、管路中の気泡の状態を最適化することができ、超音波ドップラー式流量計の測定精度が向上する。
【0017】
分岐路上に並列に接続された複数の膨張部を備え、複数の膨張部に対する流体の流量配分を調整する流体分配部と、複数の膨張部にそれぞれ気体を供給する複数の気体供給部とを備え、気体調整部は、前記複数の気体供給部から供給する気体の流量を個別に調整すればよい。
【0018】
上記構成によれば、膨張部の膨張の度合いが小さいと流量は多いが微細化しにくく、膨張の度合いが大きいと流量は少ないが微細化しやすい。そのため複数の膨張部を設けて流量配分を調整することにより、出力する気泡の調整の自由度をさらに向上させることができる。
【0019】
気泡制御部は、流速測定部が測定した気泡状態から、信号強度の偏差の変動が大きければ泡が少ないと判断し、気体調整部を制御して気体の流量または圧力を上昇させるとよい。これにより、管路中の気泡の量を最適化することができ、超音波ドップラー式流量計の測定精度が向上する。
【0020】
気泡制御部は、流速測定部が測定した気泡状態から、信号強度が弱くかつ信号強度の偏差の変動が小さいときには泡が小さいと判断し、液体調整部を制御して液体の流量または圧力を低下させるとよい。これにより、管路中の気泡の大きさを適正な大きさに調整することができ、超音波ドップラー式流量計の測定精度が向上する。
【0021】
気泡制御部は、流速測定部が測定した気泡状態から、信号強度が強くかつ信号強度の偏差の変動が小さい位置を管壁と判断し、さらに管壁の位置が変動する場合には管壁にそって泡だまりが発生していると判断して、液体調整部を制御して流体の流量または圧力を上昇させるとよい。
【0022】
上記構成によれば、液体調整部を制御して流体の流量または圧力を上昇させることで、管壁に発生した泡だまりを除去し、その後管内流体中の気泡状態を制御することで、安定した計測環境を整え、その結果、超音波ドップラー式流量計の測定精度が向上する。
【0023】
管路を、中央部と、中央部より流速測定部に近い側を近傍部と、中央部より流速測定部から遠い側を遠距離部と分けたとき、気泡制御部は、流速測定部が測定した気泡状態から、近傍部における信号強度が強い場合には泡が多いと判断し、気体調整部を制御して気体の流量または圧力を低下させるとよい。これにより、管路内の流体中の気泡の量を減少させ、気泡量を適正化でき、その結果、超音波ドップラー式流量計の測定精度が向上する。また、このとき、遠距離部付近の管壁からの信号強度がないことを、泡が多いと判断してもよい。
【0024】
気泡制御部は、流速測定部が測定した気泡状態を管路の幅方向に細分化し、各微小幅の偏差と中央値を求め、隣接する微小幅における偏差の差が少なく、中央値が不連続である場合に、泡が少ないと判断し、気体調整部を制御して気体の流量または圧力を上昇させるとよい。これにより、管路内の流体中の気泡の量を増加させることで、気泡量を適正化でき、超音波ドップラー式流量計の測定精度を向上させることが可能となる。
【0025】
気泡制御部は、流速測定部が測定した気泡状態を管路の幅方向に細分化し、各微小幅の偏差と中央値を求め、隣接する微小幅における偏差の差が大きく、中央値が不連続である場合に、外部ノイズを受けていると判断するとよい。
【0026】
上記構成によれば、流体中の気泡による影響ではないことが明らかとなるので、オペレータに不必要な操作を行わないよう、注意を喚起することが可能となる。
【0027】
管路を、中央部と、中央部より超音波ドップラー式流量計に近い側を近傍部、遠い側を遠距離部に分けたとき、気泡制御部は、中央部、近傍部および遠距離部のそれぞれの超音波エコー信号を取得して管路内部の流体中の気泡の分布を測定し、管路内の流体中の気泡の分布に偏りがあるときには、気体調整部を制御して気体の流量または圧力を上昇させるとよい。
【0028】
上記構成によれば、管路内の流体中に微細化した気泡を追加することで、管路内の流体中の気泡の分布の偏りが解消される。これにより、超音波ドップラー式流量計の測定精度を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、管路の流れ場の流速分布の測定に加えて、流体中の気泡状態を把握し、その結果をフィードバックし自動的に管路内部の流体中の気泡状態を調整することで、経験やデータベースによらず、超音波ドップラー式流量計による流量測定の精度を向上させることが可能な気泡注入装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態にかかる気泡注入装置を説明するための全体図である。
【図2】膨張部での気泡の状態を示す図である。
【図3】測定端末を説明する図である。
【図4】気泡注入装置を用いた気泡制御方法の流れのうち、気泡の状態を時間方向に判断する場合を説明したフローチャートである。
【図5】気泡注入装置を用いた気泡制御方法の流れのうち、管路を幅方向に3分割し、気泡の状態を判断する場合を説明したフローチャートである。
【図6】気泡注入装置を用いた気泡制御方法の流れのうち、管路幅方向に細分化し、気泡の状態を判断する場合を説明したフローチャートである。
【図7】気泡注入装置を用いた気泡制御方法の流れのうち、管路幅方向に細分化し、気泡の状態を判断する場合を説明したフローチャートである。
【図8】得られた反射エコーを示す図である。
【図9】管路の測定領域を3分割にして計測する際の分割状態を説明する図である。
【図10】管路の測定領域を管路の幅方向に細分化し、各微小幅の偏差と中央値を示し、各微小幅の偏差が小さい場合の図である。
【図11】管路の測定領域を管路の幅方向に細分化し、各微小幅の偏差と中央値を示し、各微小幅の偏差が大きい場合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0032】
図1は、本発明の本実施形態にかかる気泡注入装置100を説明するための全体図である。気泡注入装置100は、超音波を用いて管路200内部を流れる流体の流速を測定する超音波ドップラー式流量計(流速測定部)140と、管路200から流体を取り出して気泡を注入してから再び前記管路に戻す分岐路300とを備えている。
【0033】
分岐路300には、分岐路300に流れる流体を搬送するポンプ210と、分岐路300を流れる流体の流量または圧力を調整する液体調整バルブ160(液体調整部)と、分岐路300上に配置され内径が拡大する膨張部230と、分岐路300の流量を計測する流量計166と、分岐路300の水圧を監視する液体圧力監視用圧力計164とが設置される。なお図1において、黒矢印は、分岐路300中の流体の流れを、白抜き矢印は、気体経路320の気体の流れを示す。
【0034】
ポンプ210は分岐路300へ管路200の流体を取り出し、流入させる。このときの分岐路300の流量は、流量計166にて測定され、適宜、液体調整バルブ160aにて調整される。なお、この流量の調整は、ポンプ210の動力の制御で行ってもよい。
【0035】
図の煩雑さを避けるため図示していないが、流量計166で計測される流量も、測定端末120にて監視される。また、流量計166は、電磁流速計等のどの流量計を用いても良い。さらに液体調整バルブ160aよりポンプ210側には、バイパス310に流体を導くための液体調整バルブ160d(通常は閉の状態)が設けられている。
【0036】
また、分岐路300全体の水圧は液体圧力監視用圧力計164aで監視される。その後流体はさらに分岐され、膨張部230で気体経路320から気体を注入される。
【0037】
膨張部230には、気体を供給するコンプレッサー220(気体供給部)と、コンプレッサー220(気体供給部)から膨張部230まで気体を運搬する気体経路320と、コンプレッサー220(気体供給部)から供給する気体の流量または圧力を調整する気体調整バルブ150(気体調整部)と、が接続されている。
【0038】
図2は、膨張部230での気泡の状態を示す図である。膨張部230は、ベンチュリ管やフローノズルが好適に用いられる。流体の流れは、図2中の黒矢印に示すとおりである。流れの手前側230aから流れてきた流体は、一度圧縮部230cで圧縮され、細径部で気体経路320から気体を注入される。その後230bへ向かいながら膨張する。この流体の膨張時に気泡が適正なサイズへと成長する。
【0039】
膨張部230の膨張の度合いが小さいと流量は多いが微細化しにくく、膨張の度合いが大きいと流量は少ないが微細化しやすい。そのためこの分岐を設ける、すなわち、複数の膨張部230を設けて流量配分を調整することにより、出力する気泡の調整の自由度をさらに向上させることができる。
【0040】
図1に示したように膨張部230の前後に液体圧力監視用圧力計164bおよび164cを配置して流体の圧力を監視している。これは、流量が増えると膨張部230で負圧が高まり、所望の気泡状態を生成できなくなるおそれがあるためである。このため、図示していないが、さらに分岐を増加させた場合(3以上の膨張部を設けた場合)には、各膨張部230の前後で圧力を監視する必要が生じる。その逆に、気泡の調整の頻度が少なく分岐を設ける必要がない場合には、個別の液体圧力監視用圧力計164bを廃し、全体の圧力を監視する液体圧力監視用圧力計164aで兼ねることができる。
【0041】
なお、図の煩雑さを避けるため図示していないが、液体圧力監視用圧力計164(164a、164b、164c)で計測される圧力も、測定端末120にて監視される。
【0042】
膨張部230で気泡量を調整された流体は、再度合流し、分岐路300を通じて、管路200へ戻る。
【0043】
管路200に気泡が存在しなくともよい場合、すなわち流量計測を行わない場合には、液体調整バルブ160aと液体調整バルブ160cを閉め、液体調整バルブ160dを開放することで、管路200からポンプ210によって取り出された流体は、全てバイパス310を通り、管路200へと戻る。
【0044】
気体経路320上には、コンプレッサー220と、気体圧力監視用圧力計152と、気体調整バルブ150が設置される。コンプレッサー220により出力された気体は、気体経路320を通じて、気泡制御部で制御された量だけ膨張部230へ注入される。また、気体は、膨張部230の数だけ分岐される。このときの気体は、管路を流れる被測定流体が例えば水の場合、反射音響インピーダンスが大きく異なる空気やヘリウムのような気体が好適である。
【0045】
本実施形態ではコンプレッサー220は1台のみ図示しているが、出力する気泡の調整の自由度をさらに高める目的で、分岐路300に設けられた膨張部230と同数だけ設置してもよい。
【0046】
制御系統として、超音波ドップラー式流量計140が測定した気泡状態に基づいて、液体調整バルブ160と気体調整バルブ150を制御する気泡制御部180と、さらに、気泡制御部180を備えた測定端末120を備えている。
【0047】
図3は、測定端末120を説明する図である。図3に示すように、測定端末120は、端末制御部121と、操作部122と、表示部123と、記憶部124と、液体調整バルブ160を制御する流量計制御部141と、気体調整バルブ150を制御する気泡制御部180とを含んで構成される。超音波ドップラー式流量計140は、超音波送信部143と超音波受信部145を含んで構成される。
【0048】
端末制御部121は、中央処理装置(CPU)を含む半導体集積回路により測定端末120を管理および制御する。記憶部124は、ROM、RAM、EEPROM、不揮発性RAM、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等で構成され、端末制御部121で処理されるプログラムを記憶する。表示部123は、液晶ディスプレイ、EL(Electro Luminescence)、PDP(Plasma Display Panel)等で構成され、記憶部124に記憶されたアプリケーションのGUI(Graphical User Interface)を表示することができる。操作部122は、キーボード、十字キー、ジョイスティック等の複数のキー(スイッチ)およびマウスから構成され、ユーザの操作入力を受け付ける。
【0049】
超音波送信部143は、圧電素子等で構成され、管路200の外側から内部に向かって図1に示した超音波パルス波148を入力する。また超音波受信部145は、気泡によって反射された反射エコーを受信する。
【0050】
流量計制御部141は、パルサー142、レシーバ144、A/D変換部146を含んで構成されている。
【0051】
パルサー142は、ケーブルを介して超音波送信部143に超音波入力信号(電圧)を送信する。超音波入力信号には超音波送信部143が入力する超音波パルス波148の周波数情報および間隔情報を含んでいる。
【0052】
レシーバ144は、超音波受信部145によってアナログ信号に変換された反射エコーの信号を増幅する。
【0053】
A/D変換部146は、レシーバ144によって増幅されたアナログ信号としての反射エコーをデジタル信号に変換し、記憶部124にストレージ(記録)すると共に、気泡制御部180へ当該流速情報を引き渡す。このときのデジタル信号には、管路200の流速情報と、管路200内の流体中の気泡状態が含まれている。
【0054】
気泡制御部180は、流量計制御部141から受け取ったデジタル信号に含まれる気泡状態を判断し、所定の条件にしたがって、液体調整バルブ160と気体調整バルブ150を制御する。
【0055】
上述の流量計制御部141と気泡制御部180は、具体的には端末制御部121で実行されるプログラムによって実現することができる。
【0056】
[気泡制御方法]
続いて、上述した気泡注入装置100を用いた気泡制御方法について説明する。図4は気泡注入装置100を用いた気泡制御方法の流れのうち、気泡の状態を時間方向に判断する場合を説明したフローチャートである。図5は気泡注入装置100を用いた気泡制御方法の流れのうち、管路200を幅方向に3分割し、気泡の状態を判断する場合を説明したフローチャートである。図6および図7は気泡注入装置100を用いた気泡制御方法の流れのうち、管路200の幅方向に細分化し、気泡の状態を判断する場合を説明したフローチャートである。図8は得られた反射エコーを示す図である。図9は管路200の測定領域を3分割にして計測する際の分割状態を説明する図である。
【0057】
気泡注入装置100は、気泡を注入する前に、あらかじめ超音波ドップラー式流量計140で管路200に超音波パルス波148を入射し、その反射エコーを測定端末120にて測定する。この反射エコーを測定端末120に備えられた記憶部124で保存し、気泡注入後の参照データとする。
【0058】
その後、管路200に従来の知見を基に、気泡注入パラメータを設定し、管路200の流体中に気泡を注入していく。
【0059】
ここから、図4から図7に示したフローチャートに従って、気体調整バルブ150と液体調整バルブ160を制御する。以降の判断は気泡制御部180にて行われる。このとき、図4から図7に示した3つのフローチャートのいずれか1つを行えば、管路200中の気泡の状態は改善されるが、複数を組み合わせることにより管路200中の気泡の状態はより改善される。
【0060】
まず、図4のフローチャートに従って、管路200の時間方向の気泡状態を判断する。初期の気体を注入したのちに超音波ドップラー式流量計140の超音波送信部143から超音波パルス波148を入射し(S500)、その反射エコーを得る(S501)。
【0061】
その反射エコーの信号の信号強度の偏差の変動を判断する(S502)。信号強度の偏差の変動が大きければ(S502のYes)気泡が少ないと判断し(S503)、気体調整バルブ150を制御して気体の流量または圧力を上昇させる(S504)。これにより、管路200中の気泡の量が増加する。
【0062】
信号強度の偏差の変動が小さければ(S502のNo)、次に反射エコーの信号強度の大きさを判断する(S505)。信号強度は、例えば図8に示すように、信号が0に近い範囲を信号強度が弱いと判断し、信号が大きく変動している部分を信号強度が強いと判断する。また、常に信号強度が強い部分は、管壁からの反射エコーである。
【0063】
信号強度が弱い場合には(S505のYes)、気泡が小さいと判断し(S506)、液体調整バルブ160を制御して液体の流量または圧力を低下させる(S507)。これにより、管路200中の気泡の大きさが大きくなる。
【0064】
信号強度が強い場合には(S505のNo)、特に強い場所を探して管壁の位置検知を行う(S508)。さらにこのとき、その管壁が変動(移動)しているかを判断する(S509)。管壁が移動している場合には(S509のYes)、管壁に沿って泡だまりが発生している、すなわち気泡が大きいと判断し(S510)、液体調整バルブ160を制御して液体の流量または圧力を上昇させる(S511)。これにより管壁に発生した泡だまりを除去し、その後管路200内の流体中の気泡状態を制御することで、安定した計測環境が整う。
【0065】
次に図5および図9を用いて、管路200の測定領域を幅方向に(概念的に)3分割し、反射エコーの強度分布に基づいて制御する場合について説明する。ここでは、図9に示すように、管路200を、中央部430と、中央部430より超音波ドップラー式流量計140に近い側を近傍部450と、中央部430より超音波ドップラー式流量計140から遠い側を遠距離部410と分けるものとする。まず図4に示したフローチャートと同様に、初期の気体を注入したのちに超音波ドップラー式流量計140の超音波送信部143から超音波パルス波148を入射し(S500)、その反射エコーを得る(S501)。そして反射エコーを戻り時間の遅れに基づいて3分割する(S520)。そして、近傍部450と遠距離部410の反射エコーの強度を比較する(S521)。そして近傍部450の方が強いと判断したとき(S521のYES)、気泡が多くて遠距離部410まで超音波が十分に到達していないものと判断し(S522)、気体調整バルブ150を制御して気体の流量または圧力を低下させる(S523)。これにより、管路内の流体中の気泡の量を減少させ、気泡量を適正化できる。なお、遠距離部410付近の管壁からの信号強度がないことを検知して、泡が多いと判断してもよい。
【0066】
さらになお、近傍部450の信号強度が強いために気泡の量を減少させた結果、強度が全体的に落ちてしまった(管壁の反射が顕著になった)場合には、近傍部450に気泡が偏っていたと判断することができる。また、近傍部450よりも遠距離部410のほうが信号強度が強い場合には、遠距離部410に気泡が偏っていると判断することができる。このような場合には、気泡を微細化することにより、管路内の分布を均一化させることができる。
【0067】
次に図6、図7および図10、図11を用いて、管路200の測定領域を幅方向に細分化し、微小幅の偏差の様子に基づいて制御する場合について説明する。図10は管路200の測定領域を管路200の幅方向に細分化し、各微小幅の偏差と中央値を示し、各微小幅の偏差が小さい場合の流速分布を示した図である。図11は、管路200の測定領域を管路200の幅方向に細分化し、各微小幅の偏差と中央値を示し、各微小幅の偏差が大きい場合の流速分布を示した図である。
【0068】
まず図4に示したフローチャートと同様に、初期の気体を注入したのちに超音波ドップラー式流量計140の超音波送信部143から超音波パルス波148を入射し(S500)、その反射エコーを得る(S501)。そして反射エコーを戻り時間の遅れに基づいて細分化し、管路200の流速分布を作成する(S530)。細分化された各微小幅につき流速変動の偏差と中央値を求め、中央値が不連続であるかを判断することで、平均流速が連続しているか判断する(S531)。そして幅方向に隣接する微小幅における偏差の差を比較する(S532a)。
【0069】
まず、図6を用いて、平均流速分布が連続している場合(S531のYes)について説明する。流速分布が連続し(S531のYes)、流速分布の偏差が大きい場合には(S532aのYes)、エコー強度を算出し(S533a)、そのエコー強度の強弱を判断する(S534a)、エコー強度が弱い場合には(S534aのYes)、気泡が少ないと判断し(S535)、気体調整バルブ150を制御して気体の流量または圧力を上昇させる(S536)。これにより、管路内の流体中の気泡の量を増加させる。エコー強度が強い場合には(S534aのNo)、管路200の流れは激しい変動を伴う(S537)が、管路内の流体中の気泡の量は適正であると判断する(S538)。但し、管路200の流れは激しい変動を伴っているため、その旨を測定端末120の表示部123に表示し、オペレータに注意を促す。
【0070】
流速分布が連続し(S531のYes)、流速分布の偏差が小さい場合には(S532aのNo)、図10に示すように安定した分布となる。このとき、エコー強度を算出し(S533b)、偏差の分布を管路200の幅方向に3分割して比較する。そして手前側のエコー強度が強く、奥側のエコー強度が弱く、壁からのエコー強度が弱いか判断する(S540)。手前側のエコー強度が強く、奥側のエコー強度が弱く、壁からのエコー強度が弱い場合(S540のYes)、気泡が多いと判断し(S541)、気体調整バルブ150を制御して気体の流量または圧力を低下させる(S542)。これにより、管路内の流体中の気泡の量を減少させ、気泡量を適正化できる。また、手前側のエコー強度が強く、奥側のエコー強度が弱く、壁からのエコー強度が弱い以外の場合(S540のNo)、管路内の流体中の気泡の量は適正であると判断する(S544)。但し、管路200の流れは激しい変動を伴っているため、その旨を測定端末120の表示部123に表示し、オペレータに注意を促す。
【0071】
次に、図7を用いて、平均流速分布が連続していない場合(S531のNo)について説明する。流速分布が不連続で(S531のNo)、流速分布の偏差が大きい場合には(S532bのYes)、図11に示すように乱れの大きい分布となる。このとき、エコー強度を算出し(S533c)、そのエコー強度の強弱を判断する(S534b)。エコー強度が弱い場合には(S534bのYes)、気泡が少ないと判断し(S548)、気体調整バルブ150を制御して気体の流量または圧力を上昇させる(S549)。これにより、管路内の流体中の気泡の量を増加させる。
【0072】
さらにエコー強度が強い場合には(S534bのNo)、ノイズSN比が悪いと判断し(S550)、ノイズ対策を講じる必要がある。その旨を測定端末120の表示部123に表示し、オペレータに注意を促す(S551)。
【0073】
流速分布が不連続で(S531のNo)、流速分布の偏差が小さい場合には(S532bのNo)、エコー強度を算出し(S533d)、そのエコー強度の強弱を判断する(S534c)、エコー強度が弱い場合には(S534cのYes)、気泡が少ないと判断し(S554)、気体調整バルブ150を制御して気体の流量または圧力を上昇させる(S555)。これにより、管路内の流体中の気泡の量を増加させる。
【0074】
エコー強度が強い場合には(S534cのNo)、さらに平均流速分布の不連続な位置と、エコー強度の変動の小さな強いエコー部分の位置とが一致するか判断する(S556)。平均流速分布の不連続な位置と、エコー強度の変動の小さな強いエコー部分の位置とが一致する場合(S556のYes)、壁面等からの多重エコーが要因と判断する(S557)。この場合、多重エコーを除去する対策を講じる必要があり、その旨を測定端末120の表示部123に表示し、オペレータに注意を促す(S558)。
【0075】
平均流速分布の不連続な位置と、エコー強度の変動の小さな強いエコー部分の位置とが一致しない場合(S556のNo)、その原因はノイズであるか、測定機器の不具合であると判断する(S559)。これにより、流体中の気泡による影響ではないことが明らかとなるので、ノイズ対策を講じるか、機器の健全性の点検を行う必要がある。したがって、その旨を測定端末120の表示部123に表示し、オペレータに注意を促す(S560)。
【0076】
ただし、管路200内の気泡の状態が良好となっても、流れの乱れによって、気泡の状態はすぐに変化してしまう。このため、図4から図7に示した上述の判断を、適当な時間間隔で継続して行い、随時気泡の状態を良好に保つように、気泡注入装置100を動作させる。
【0077】
上記説明した如く、本実施形態にかかる気泡注入装置100によれば、管路200の流れ場の流速分布の測定に加えて、流体中の気泡状態を把握し、その結果をフィードバックし自動的に管路200内部の流体中の気泡状態を調整することで、経験やデータベースによらず、超音波ドップラー式流量計140の測定精度を向上させることができる。
【0078】
なお、本明細書の気泡注入装置100における各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。特に、図4、図5、図6および図7に示した3つのフローチャートは、独立して処理すればよく、いずれか1つの処理のみであっても本発明の利益を得ることができる。
【0079】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、管路中の流体内部の気泡の状態が最適化される気泡注入装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
100 …気泡注入装置
120 …測定端末
121 …端末制御部
122 …操作部
123 …表示部
124 …記憶部
140 …超音波ドップラー式流量計
141 …流量計制御部
142 …パルサー
143 …超音波送信部
144 …レシーバ
145 …超音波受信部
146 …A/D変換部
148 …超音波パルス波
150 …気体調整バルブ
152 …気体圧力監視用圧力計
160 …液体調整バルブ
164 …液体圧力監視用圧力計
166 …流量計
180 …気泡制御部
200 …管路
210 …ポンプ
220 …コンプレッサー
230 …膨張部
300 …分岐路
310 …バイパス
320 …気体経路
410 …遠距離部
430 …中央部
450 …近傍部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を用いて管路内部を流れる流体の流速を測定する流速測定部と、
前記管路から流体を取り出して再び前記管路に戻す分岐路と、
前記分岐路に流れる流体を搬送するポンプと、
前記分岐路を流れる流体の流量または圧力を調整する液体調整部と、
前記分岐路上に配置され内径が拡大する膨張部と、
前記膨張部に気体を供給する気体供給部と、
前記気体供給部から供給する気体の流量または圧力を調整する気体調整部と、
前記流速測定部が測定した気泡状態に基づいて、前記液体調整部または前記気体調整部を制御する気泡制御部とを備えたことを特徴とする気泡注入装置。
【請求項2】
前記分岐路上に並列に接続された複数の膨張部を備え、
前記複数の膨張部に対する流体の流量配分を調整する流体分配部と、
前記複数の膨張部にそれぞれ気体を供給する複数の気体供給部とを備え、
前記気体調整部は、前記複数の気体供給部から供給する気体の流量を個別に調整することを特徴とする請求項1に記載の気泡注入装置。
【請求項3】
前記気泡制御部は、
前記流速測定部が測定した気泡状態から、信号強度の偏差の変動が大きければ泡が少ないと判断し、
前記気体調整部を制御して気体の流量または圧力を上昇させることを特徴とする請求項1に記載の気泡注入装置。
【請求項4】
前記気泡制御部は、
前記流速測定部が測定した気泡状態から、信号強度が弱くかつ信号強度の偏差の変動が小さいときには泡が小さいと判断し、
前記液体調整部を制御して液体の流量または圧力を低下させることを特徴とする請求項1に記載の気泡注入装置。
【請求項5】
前記気泡制御部は、
前記流速測定部が測定した気泡状態から、信号強度が強くかつ信号強度の偏差の変動が小さい位置を管壁と判断し、さらに管壁の位置が変動する場合には管壁にそって泡だまりが発生していると判断して、
前記液体調整部を制御して流体の流量または圧力を上昇させることを特徴とする請求項1に記載の気泡注入装置。
【請求項6】
前記管路を、中央部と、該中央部より前記流速測定部に近い側を近傍部と、該中央部より前記流速測定部から遠い側を遠距離部と分けたとき、
前記気泡制御部は、
前記流速測定部が測定した気泡状態から、前記近傍部における信号強度が強い場合には泡が多いと判断し、
前記気体調整部を制御して気体の流量または圧力を低下させることを特徴とする請求項1に記載の気泡注入装置。
【請求項7】
前記気泡制御部は、
前記流速測定部が測定した気泡状態を管路の幅方向に細分化し、各微小幅の偏差と中央値を求め、
隣接する微小幅における偏差の差が少なく、中央値が不連続である場合に、泡が少ないと判断し、
前記気体調整部を制御して気体の流量または圧力を上昇させることを特徴とする請求項1に記載の気泡注入装置。
【請求項8】
前記気泡制御部は、
前記流速測定部が測定した気泡状態を管路の幅方向に細分化し、各微小幅の偏差と中央値を求め、
隣接する微小幅における偏差の差が大きく、中央値が不連続である場合に、外部ノイズを受けていると判断することを特徴とする請求項1に記載の気泡注入装置。
【請求項9】
前記管路を、中央部と、該中央部より前記超音波ドップラー式流量計に近い側を近傍部、遠い側を遠距離部に分けたとき、
前記気泡制御部は、前記中央部、前記近傍部および前記遠距離部のそれぞれの超音波エコー信号を取得して管路内部の流体中の気泡の分布を測定し、
前記管路内の流体中の気泡の分布に偏りがあるときには、前記気体調整部を制御して気体の流量または圧力を上昇させることを特徴とする請求項1に記載の気泡注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−223839(P2010−223839A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72960(P2009−72960)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.EEPROM
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】