説明

ドメインタンパク質を用いた医薬品候補の検索方法

本発明は、特定のタンパク質と相互作用するドメインタンパク質を用いた生理活性物質の検索方法に係り、(1)特定のドメインタンパク質を特定の微生物若しくは動植物細胞に取り込んで生理活性があるかどうかを確認する検索方法、及び(2)任意のドメインタンパク質を多数の微生物若しくは動植物細胞に取り込んで生理活性があるかどうかを確認する検索方法に関する。
本発明のドメインタンパク質は、遺伝子を対象とする医薬品よりも少量の情報をもって新規な抗生剤を開発するのに有効に利用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のタンパク質と相互作用するドメインタンパク質を用いた医薬品候補の検索方法に係り,特にあるドメインタンパク質が微生物体に取り込まれたときに,微生物もしくは動植物細胞の生理活性に変化があるかどうかを確認することにより,そのドメインタンパク質が医薬品候補として活用可能であるかどうかを決定するための検索方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどのタンパク質は、他のタンパク質と相互作用をしたり、順次に作用することにより機能を発揮する。タンパク質間の相互作用は、生体内において酵素活性の調節、信号伝達、遺伝子発現の調節、細菌とウィルス感染の特性決定、免疫反応など種々の生命現象において中心的な役割を果たすため、新たな遺伝子の生命機能を究明したり、新薬候補を開発するに当たってタンパク質間の相互作用を知ることは極めて重要である。かようなタンパク質間の相互作用またはタンパク質の順次的な作用は生物体内においてネットワークを形成しながら生命体の生存のための代謝に与る(図1参照)。図1は、大腸菌E. coli、H. pylori 生体内におけるタンパク質のネットワークをモデリングした図である[1]。タンパク質ネットワークモデリング方法に関しては、大韓民国特許公開10−2003−48974号公報に開示されている。
【0003】
生命体内に存在するタンパク質相互作用のネットワークは細菌などの比較的に単純な生物体の場合であっても極めて複雑な様子を示す。あるネットワーク因子はあまり重要ではないため、これを遮断しても生物体の生存に大した影響を及ぼさないが、タンパク質ネットワークの中心に存在する因子は種々の代謝と関連しているため、これを遮断すれば、生物体の生存に致命的な脅威になることがある[2−4]。例えば、成長ホルモンと成長ホルモン受容体との間における通常のタンパク質相互作用により生体の成長と関連するタンパク質ネットワーク及び種々の代謝過程が正常に作動されれば、生体は正常な成長症を示すが,ネットワークに問題が発生すると低成長症を示すなど種々の問題が引き起こされる。また、例えば,関節炎の場合、TNFタンパク質の過多発現によりTNF受容体とTNFとの間の相互作用を通じて炎症反応と関連するタンパク質ネットワークが活性化する。
【0004】
タンパク質ネットワークは、生物情報学的な研究を通じて予測することができ、この予測結果を実験的に検証して対象生物体の必須タンパク質または必須ネットワーク因子を確認することができる[5−7]。このため、対象タンパク質を遺伝子レベルにおいて突然変移を誘発してタンパク質の機能を麻痺させることによりタンパク質ネットワークを遮断した後に生体の生物学的な変化を追跡する。
【0005】
一方、生物体内にタンパク質を注入してその生長過程を形態学的変化及び細胞分光分析法により観察すると、どのタンパク質が生物体の必須タンパク質であり、どのような機能をするタンパク質であるかを区別することができる[8−10]。
【0006】
2以上のタンパク質が相互作用をするためには、タンパク質分子全体ではなく、ドメインと呼ばれるタンパク質内の特定部位だけが与ることが知られている[11−14]。図2に示すように、タンパク質A及びタンパク質Bが相互作用をするためにa1及びb1というドメインが互いに 結合をするならば、タンパク質Aのドメインa1と結合可能なドメインb1を有する他のタンパク質もタンパク質Aと結合可能になるであろう。図2の(a)は、タンパク質の相互作用のための特定ドメインの結合模式図であり、(b)は、ドメインの相互作用により結合される2つのタンパク質及びドメインタンパク質の結合模式図である。
【0007】
従来より、酵素若しくは抗体の作用部位であるドメインだけを化学的に模写して使用しようとする試みがなされてきているが、ドメインの模写構造がタンパク質と同じ機能をしない場合が多かった[15−17]。
【0008】
参考までに、これに類似する既存の技術としては、新薬の開発に応用されていたRNAi (Ribonucleic acid interference) 技術[18−20]があり、この技術は、特定のRNA分子と相補的に結合可能なRNAオリゴマーを生物体内に投入して対象RNAと結合させ、これにより、対象RNAの機能を麻痺させる方法である。このため、特定のタンパク質を生産することができない。このような特性を用いて、病原菌が必要としたり疾病の原因となるタンパク質を除去して疾病を治療するのに活用される。
【0009】
微生物若しくは動植物細胞のタンパク質ネットワークを把握し、且つ、重要なネットワーク因子を遮断可能な方法が見つかるならば、特定のタンパク質を目標とする新規な抗生剤などの生理活性物質を開発することができると見られる。
【0010】
そこで、本発明者らは、新規な医薬品候補物質の検索方法を開発するために鋭意努力した結果、特定のタンパク質と相互作用するドメインタンパク質が前記特定のタンパク質の作用ネットワークを遮断する場合に,ドメインタンパク質は医薬品候補などの生理活性物質として利用可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、微生物若しくは動植物細胞のタンパク質ネットワークを撹乱・遮断したり、変形させるドメインタンパク質を簡単に検索する方法を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、前記ドメインタンパク質を微生物若しくは動植物細胞に対する新規な生理活性物質として活用可能にする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的を達成するために、本発明は、(1)特定のドメインタンパク質を特定の微生物若しくは動植物細胞に取り込んで生理活性があるかどうかを確認する検索方法、及び(2) 任意のドメインタンパク質を多数の微生物若しくは動植物細胞に取り込んで生理活性があるかどうかを確認する検索方法を提供する。
【0014】
図4に示すように、タンパク質Aと結合可能なドメインタンパク質bが過量である場合、生物体内においてタンパク質A及びドメインタンパク質bの結合が優勢になって,これらのタンパク質間の正常な相互作用が妨げられ、結果的にタンパク質のネットワークが遮断されながら生物体の生理活性が変化可能になるであろうという判断に基づいて完成されたものである。
【0015】
本発明を順番に詳述する。
(発明(1)特定のドメインタンパク質及び特定の細胞を用いた検索方法)
ある特定のドメインタンパク質を特定の微生物若しくは動植物細胞に取り込んで生理活性があるかどうかを確認する検索方法であって、本発明は、(A)特定の微生物若しくは動植物細胞から必須タンパク質を選択するステップと、(B)前記検索された必須タンパク質と相互作用するドメインタンパク質を決定するステップと、(C)前記微生物若しくは動植物細胞体内に前記決定されたドメインタンパク質を取り込むステップと、(D)前記ドメインタンパク質の取り込まれた微生物若しくは動植物細胞の生理活性変化を確認するステップと、を含む生理活性ドメインタンパク質の検索方法に関する。
【0016】
発明(1)は、例えば、特定の病原菌に対する死滅効果を示すドメインタンパク質を検索する方法に関する。先ず、特定の病原菌の生存と増殖に必須であると認められるタンパク質を選定し、それと結合可能であると認められるドメインタンパク質を前記病原菌の体内に取り込むものである。取り込まれたドメインタンパク質が前記必須タンパク質と集中的に結合して必須タンパク質が 関与しているタンパク質ネットワークを遮断・撹乱する場合、外部的に前記病原菌の増殖減少または死滅, 病原菌の形態学的な変化などが引き起こされる。
【0017】
本発明において、前記タンパク質は、ドメインデータベースであるInterProScan(/)を用いて決定することができる。すなわち、所望のタンパク質のアミノ酸配列を入力した後、InterProScanの結果から所望のタンパク質のドメインを決定する。
【0018】
本発明において、前記必須タンパク質は、前記特定の微生物の生長、増殖(分裂)または環境適応に与る酵素分子であることが好ましい。前記必須タンパク質としては、ヘリカーゼ(helicase)、デアセチラーゼ(deacetylase)、プロテアーゼ(protease)及びリガーゼ(ligase)などが挙げられる。
【0019】
本発明の前記(C)ステップにおいて、ドメインタンパク質は、遺伝子組換え法により予め製造された形で取り込み可能である。すなわち、前記ドメインタンパク質を暗号化する塩基配列をしっかり確立された組換えタンパク質発現システムに取り込み、ドメインタンパク質を発現し,分離または精製して使用可能である。この場合、ドメインタンパク質を微生物若しくは動植物細胞の培養液に所定の濃度で添加する方式により取り込むことができる。
【0020】
本発明において確認する生理活性変化は、酵素活性、信号伝達、遺伝子発現、細菌とウィルス感染の特異性、免疫反応など種々の側面からの変化であってもよい。最も顕著な変化として、微生物などの増殖速度の変化や死滅または形態学的な変化である。
【0021】
一方、本発明の(D)ステップにおいて、いかなる生理活性次元における変化が見つからない場合もある。このとき、前記取り込まれたドメインタンパク質の生理活性がないためであるか、それとも、ドメインタンパク質が細胞の内部に適切に取り込まれなかったり、取り込まれても分解されたためであるかを確認する必要がある。このため、前記取り込まれたドメインタンパク質は蛍光標識タンパク質と融合されたものであることが好ましい。このために、前記ドメインタンパク質を暗号化する塩基配列と蛍光標識タンパク質を暗号化する塩基配列をしっかり確立された組換えタンパク質発現システムに取り込み、生産されたドメイン−蛍光標識融合タンパク質を分離または精製して使用する。
【0022】
本発明に利用可能な前記蛍光標識タンパク質としては、ECFP(強化シアン蛍光タンパク質Enhanced Cyan Fluorescent Protein)、EYFP(強化黄色タンパク質Enhanced Yellow Fluorescent Protein)、EGFP(強化緑色タンパク質Enhanced Green Fluorescent Protein)、DsRed(Discosoma sp. 赤色蛍光タンパク質Red Fluorescent Protein)などがある。
【0023】
本発明の前記(C)ステップにおいて、前記ドメインタンパク質は、前記微生物若しくは動植物細胞において発現される発現ベクターシステムに挿入された前記ドメインタンパク質を符号化する核酸配列の形で取り込まれることも可能である。この場合、前記微生物などの細胞内においてドメインタンパク質が発現されながら生理活性の変化有無を確認することが可能になる。
【0024】
一方、本発明の(D)ステップにおいて、いかなる生理活性次元における変化も見つからないこともある。このとき、前記取り込まれたドメインタンパク質に生理活性がないためであるか、それとも、前記ドメインタンパク質が細胞内に適切に取り込まれなかったか,又は適切な細胞間への取り込み後に低下したかを確認する必要がある。
【0025】
このため、前記検索されたドメインタンパク質を蛍光タンパク質と融合することが好ましい。このために使用可能な蛍光標識タンパク質の種類は、以上に例示されている。
【0026】
例えば、特定のタンパク質と相互作用をすると予想されるドメインタンパク質と蛍光標識タンパク質が結合された融合タンパク質を大腸菌に直接的に注入したり、前記融合タンパク質を暗号化する塩基配列が挿入されたベクターシステムを大腸菌に取り込んで発現させ、所定の時間が経過した後に蛍光イメージを測定することができる(実施例及び図4参照)。
【0027】
本発明において、前記生理活性は、病原菌、真菌などに対する抗生剤活性であるか、あるいは、抗ウィルス剤活性、抗ガン剤活性、または他の疾病を抑制する活性である。すなわち、本発明により種々の抗生剤、抗ウィルス剤、抗ガン剤、抗自己免疫疾患剤またはその他の疾患の治療剤などとして活用可能な新規な医薬品を検索することが可能になる。
【0028】
例えば、大腸菌に特定のドメインタンパク質を注入する場合に細胞の生長細胞(細胞寸法の増加)パターンが変化し,そして/又は分裂が遅くなるのに対し、他のドメインタンパク質を注入した場合には大腸菌が全く生存できないことを観察することができる(実施例及び図6参照)。この場合、ドメインタンパク質は大腸菌にとって致命的な毒素として働きうるが、特に、そのタンパク質の人体に対する毒性がない場合であれば、新規で有効な抗生剤として活用できるであろう。
(発明(2)検索されたドメインタンパク質及び様々な細胞を用いた検索方法)
本発明の他の態様は、任意のドメインタンパク質が様々な微生物若しくは動植物細胞で生理活性があるかどうかを確認する検索方法であって、(A)任意のドメインタンパク質を選択するステップと、(B)任意の微生物若しくは動植物細胞体内に前記ドメインタンパク質を取り込むステップと、(C)前記新たにドメインタンパク質の取り込まれた微生物若しくは動植物細胞の生理活性変化を確認するステップと、を含んでなる。
【0029】
発明(1)は、予め特定した 微生物若しくは動植物細胞を定めた後、その生物体に生理活性を示すドメインタンパク質を検出するものである。しかしながら、発明(2)は、予め選択されたドメインタンパク質がこれを微生物若しくは動植物細胞に取り込んで活性を示すかどうかを検索する方法に関するものである。
【0030】
発明(2)において、ドメインタンパク質を予め製造された形で取り込むこと、蛍光標識タンパク質と融合されたものであること、核酸配列の形で取り込まれること、蛍光標識タンパク質遺伝子が追加されることに関する技術的な事項や必要性などは,基本的には発明(1)における説明と同様である。また、前記生理活性の詳細は,例えば抗生剤活性など上で規定したのと同じである。
【発明の効果】
【0031】
以上で説明し且つ立証したように、本発明は、特定のタンパク質と相互作用するドメインタンパク質を用いた生理活性物質の検索方法に関するものであり、既存の遺伝子またはタンパク質を用いた方法と異なり、タンパク質を目標とする新薬候補などの生理活性物質の開発に有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、実施例により本発明を詳述する。下記の実施例は単に本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例に限定されるものではない。下記の実施例においては、対象生物体として大腸菌を選定して実験しているが、本発明の技術的な思想の範囲内において他の微生物や動植物細胞にも同じ概念下で適用可能であることは自明である。また、ドメインタンパク質の取込み方法として組換え法,および形質転換法を採用したが、予め製造されたドメインタンパク質を大腸菌培養液に所定の濃度で添加するような方式によりドメインタンパク質を取り込むことも可能であることはいうまでもない。
【0033】
下記の実施例においては、ドメインタンパク質の跡を容易に追跡するために,ドメインタンパク質は蛍光標識タンパク質と融合される。
<実施例:ドメインタンパク質取込み後の生理活性変化の検出>
特定のドメインタンパク質を微生物細胞に取り込んで微生物の生理活性に影響する可能性があるかどうかを観察した。
(1)特定ドメインタンパク質の選択及びクローニング
特定ドメインタンパク質の選択方法は種々あるが、この実施例においては、interproscanプログラム(http://www.ebi.ac.uk/interpro)を活用している。前記プログラムに選択されたタンパク質のアミノ酸配列を入力すると、ドメイン部分の配列を知ることができる。
【0034】
ドメインタンパク質を得るためにいくつかの大腸菌及びH. pyloriのタンパク質を選択してそのアミノ酸配列を前記プログラムに入力し、それぞれのドメインタンパク質配列を確定した(表1)。
【0035】
【表1】













【0036】
大腸菌またはH.pyloriの総DNAを鋳型とし、表1のそれぞれのプライマー組を用いてPCR技法により前記各ドメインタンパク質に対するDNAを増幅した。
【0037】
一方、蛍光標識タンパク質であるECFP(強化シアン蛍光タンパク質Enhanced Cyan Fluorescent Protein)DNAはClontech Laboratories, Inc.(Palo Alto, CA, USA)からpECFPベクターを入手して使用した。pECFPベクターにTOPOリアクションを適用するためにGateway Vector Conversion Reagent Systemを購入してpECFPベクターにGateway Cassetteを挿入した後、新たなベクターpECFP−rfaを製作して使用した。選択されたドメインタンパク質に相当するDNAをPCRにより増幅した後、増幅されたDNAをゲル電気泳動法により確認してTOPOリアクションを経てEntry vector (pENTR-TOPO, Invitrogen Inc., Carlsbad, CA, USA)にクローニングしてpENTR−ドメインベクターを製作した。それぞれのクローンに対してコロニーPCRによりインサート(ドメインタンパク質のDNA)の有無を調べ、プラスミドをDNAを miniprepにより分離した後、DNA配列を分析し,ドメインタンパク質に対するドメインタンパク質DNAの存在を検証した。確認されたpENTR−ドメインベクターをマスタークローンとして利用し,ドメインタンパク質DNA部分だけをpECFP−rfaベクターに移して最終的にpECFP−ドメイン融合タンパク質ベクターのプラスミドを製作した。製作されたそれぞれのpECFP−ドメイン融合タンパク質ベクターのベクターマップを図3の(a)〜(d)に示す。
【0038】
組換え反応は位置特異的な組換え特性(site-specific recombination)を利用するGateway system(Instruction Manual of pENTR Directional TOPO Cloning Kits, Invitrogen)を使用して行った。
(2)ドメインタンパク質の発現
製作したbcpドメイン−ECFP融合タンパク質のDNAを含有する発現ベクター(pECFP−ドメイン28)を大腸菌に注入して融合タンパク質の発現を誘導した。形質転換法は、Gateway system実験マニュアルに従い、行った。
【0039】
大腸菌内においてbcpドメイン−ECFP融合タンパク質の発現のために細胞株を2ml 2×YT培地において16時間、37℃の条件下で培養した後、培地の0.1mlを取って5ml 2×YT培地に接種し、その後、37℃において3時間培養した。この培養液に0.05mM IPTGを添加して2時間さらに培養することにより融合タンパク質の発現を誘導した。
【0040】
bcpドメイン−ECFP融合タンパク質以外の他のドメインタンパク質も上記と同じ方法により培養して発現を誘導した。
(3)蛍光測定を用いたドメインタンパク質の発現確認
ECFPがドメインタンパク質と融合された形で大腸菌内において発現されれば、蛍光が現れる。したがって、下記の方法により蛍光を測定した。
【0041】
先ず、前記発現ベクターで形質転換された大腸菌を抗生剤(Amp 100μg/ml、Cm 34μg/ml)入りLB培地5mlにおいて一晩中培養(37℃、225rpm振とう)した後、同じLB培地10mlに0.2mlを接種した。同じ条件下で培養して、600nmにおける培養液の吸光度が0.5〜1.0に達すると、0.05mM IPTGを加えて発現を誘導した後、3時間後に大腸菌を得た。
【0042】
得られた大腸菌を数回水洗した後、0.3ml PBSに懸濁した。大腸菌懸濁液10μlを取ってカバーガラスに載せ、その上に40μlの低温ゲル化アガロース(low temperature gelling agarose)溶液(1w/v%濃度)で覆って固定した。
【0043】
共焦点蛍光測定用のモデルであるAxiovert−25CFL(Carl−Zeiss社製、ドイツ)と自体製作した単一分子測定感度を有するレーザー励起共焦点蛍光顕微鏡を用いて蛍光イメージを測定した(図5参照)。
【0044】
図5は、bcpドメインECFP融合タンパク質が発現された大腸菌の蛍光画像と単一大腸菌の特定の部位において観察される蛍光スペクトル写真である。(a)は、bcpのドメインECFP融合タンパク質が発現された大腸菌(#28)の蛍光イメージであり、(b)は、形質転換された細菌細胞(bcpのドメインECFP融合タンパク質が発現された2つの大腸菌;#28−1、#28−2)、ECFPのみ発現させた大腸菌(ECFP)及び未形質転換大腸菌(VS120)の蛍光イメージを分析した後、特定の細胞間部位を選択した蛍光スペクトルを示す。
【0045】
図5(a)に示すように、蛍光イメージが、特定の部位のみが明るく現れるため、bcpドメインECFP融合タンパク質がこれらの個所に集中しているということを類推することができた。図5(b)は、対象細胞内において明るい部位と相対的に暗い部位の蛍光スペクトルを示すが,これらのスペクトルを観察した結果、蛍光が細胞に注入したドメインECFP融合タンパク質によるものであることを確認することができた。他の生体物質により発生したものであるかを確認することができた。すなわち、選別された部位の蛍光スペクトルにおいて、細胞の明るい部位の蛍光スペクトルは#28−2のように現れて,細胞内に意図的に注入したECFPの蛍光スペクトル(グラフ中のECFP)と一致し、相対的に暗い部位の蛍光スペクトルは#28−1のように現れて,新しいタンパク質を何も注入していない形質転換されていない大腸菌(グラフ中のVS120)において現れる蛍光スペクトルとほとんど一致しているという点を確認することができた。
【0046】
このため、ドメインECFP融合タンパク質が大腸菌で無事発現されるが、発現された融合タンパク質は、形質転換された大腸菌細胞の全体に均一に分布するのではなく、細胞はECFPのみを発現するように形質転換され,別の結果を示した。これより、明るい蛍光を有する細胞間部位は、前記特定タンパク質と注入ドメインタンパク質との相互作用を引き起こす部位であることを実験的に類推することができる。
(4)ドメインタンパク質発現による生理活性の変化
上述したドメインタンパク質が発現することにより細菌にどのような生理的な変化が発生するかを確認するために、細菌の成長過程を調べた(図6参照)。
【0047】
その結果、図6(a)〜(d)に示すように、ECFPタンパク質及びドメインECFP融合タンパク質を大腸菌内において発現させ、所定の時間が経過した後に大腸菌の生長形態を細胞蛍光イメージにより分析した。図6(b)〜(d)において、特定のタンパク質と相互作用するドメインタンパク質が注入された大腸菌は、ECFPのみを注入した大腸菌とは成長形態が異なるということが観察された。
【0048】
上述した条件下で、媒体プレート上で培養した大腸菌の観察結果を図7に写真及びグラフで示す。図7の(b)は、成長が遅く増殖が少なかった大腸菌の蛍光イメージであり、(c)は、(b)において観察された大腸菌の蛍光スペクトルグラフである。
【0049】
同図において、pECFPはECFPのみを発現した大腸菌、#18はHP1259−ECFP融合タンパク質が発現された大腸菌、#49はHP0062とECFP融合タンパク質が発現された大腸菌、#53はHP0179とECFP融合タンパク質が発現された大腸菌をそれぞれ示す。グラフ(c)において、18−1及び18−1はそれぞれ#18番の異なるコロニーを意味する。
【0050】
同図から明らかなように、陽性対照区(+)の場合、約100個のコロニーが形成され、陰性対照区(−)の場合、10個以下のコロニーしか形成されない。発現されたタンパク質を有する試料の場合、pECFP区においては1枚のプレート当たりに300〜500個余りのコロニーが形成されているが、#18、#49、#53においては極めて少量のコロニーしか形成されない。すなわち、ドメインタンパク質を注入した大腸菌はECFPのみで形質転換された形質転換されない大腸菌又は細胞と比較して増殖速度が遅いこと,および異なる形態学的特性を観察することができ、細胞分裂が上手になされず、細胞が異常に長い形状を有していることを、蛍光イメージを通じて確認することができた。また、ドメインECFP融合タンパク質が細胞全体に散在せず、特定の細胞間部位に集中して蛍光の高い濃度を示すことが分かり、図6(e)に示すように、ドメインECFP融合タンパク質の蛍光スペクトルが検出されるため、そしてスペクトルは形質転換された大腸菌生来のECFPスペクトルと重なるため,ドメインタンパク質の発現された大腸菌細胞において生長と分裂が低速で起こるということを確認することができた。
【0051】
以上の観察結果を踏まえて、ある重要な特定のタンパク質に結合すると予想される特定のドメインタンパク質が、大腸菌に注入され、特定タンパク質の正常なタンパク質ネットワーク相互作用を遮断すると、成長と分裂などの目標細胞の生理活性に影響する可能性があることを確認した。
【0052】
上述したように、本発明により、生理活性における変化の検出に基づく、経済的に且つ速やかな検索方法が確立された。
【0053】
実施例を挙げて確認した、いつくかの事実によれば、大腸菌に特定のドメインタンパク質を注入する場合、大腸菌の生長と分裂が遅くなることを観察することができ、これに対し、他のドメインタンパク質を注入した場合には大腸菌が全く生存できないことを確認することができた(図5及び6参照)。すなわち、細胞の致死性を示すドメインタンパク質とECFP融合タンパク質形体を備える大腸菌細胞が大腸菌に必須的なタンパク質のネットワーク因子を遮断する特定ドメインタンパク質の発現により,タンパク質相互作用ネットワークに影響すると考えられ,注入されたドメインECFP融合タンパク質が微量だけ発現された大腸菌だけが生存可能であることを確認することができた。よって、このようなドメインタンパク質は大腸菌をはじめとする細菌の生長を調節可能な調節因子として作用可能であるため、当該タンパク質を作用点として有効な抗生剤の開発に適用可能である。
【0054】
この結果は、この方法によりタンパク質を目標とする新規な薬剤候補が開発可能であり、この選択されたドメインタンパク質を用いて既存の抗生剤に耐性がある細菌に有効な抗菌剤活性を備えた新規な抗生剤を製造することができることを示唆する直接的な実験証拠である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、既存の遺伝子またはタンパク質を用いた方法と差別化されてタンパク質を目標とする新薬などの生理活性物質の開発に有効に利用可能である。
【0056】
特に、本発明のドメインタンパク質は、遺伝子を対象とする医薬品よりも少量の情報をもって新規な抗生剤を開発するのに有効に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】バクテリア生体内におけるタンパク質ネットワークをモデリングした図である。
【図2】2種類のタンパク質が相互作用するとき、特定の部位のドメインが与る過程を示す模式図である。
【図3】本発明において製作されたpECFP−ドメイン融合タンパク質プラスミドベクターDNAのベクターマップである。
【図4】正常な2種類のタンパク質の相互作用が妨げられてタンパク質のネットワークが遮断可能になることを示す模式図である。
【図5】及び
【図6】大腸菌内においてドメインタンパク質と蛍光標識タンパク質との融合タンパク質が発現される様子を蛍光イメージ及び蛍光スペクトルにより比較して示すものである。
【図7】媒体プレート上の大腸菌にドメインタンパク質を注入し、細胞を観察して得られた結果を示すイメージ及びスペクトルである。
【0058】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)特定の微生物若しくは動植物細胞から必須タンパク質を選択するステップと、
(B)前記必須タンパク質と相互作用するドメインタンパク質を決定するステップと、
(C)前記微生物若しくは動植物細胞体内に前記ドメインタンパク質を取り込むステップと、
(D)前記ドメインタンパク質の取り込まれた微生物若しくは動植物細胞の生理活性変化を確認するステップと、
を含むことを特徴とする生理活性ドメインタンパク質の検索方法。
【請求項2】
前記必須タンパク質は、前記微生物若しくは動植物細胞の成長パターン、増殖または環境適応における変化に含まれる酵素であることを特徴とする請求項1に記載の生理活性ドメインタンパク質の検索方法。
【請求項3】
前記(C)ステップにおいて、前記ドメインタンパク質は、遺伝子組換え法により予め用意された遺伝子の形で細胞内に取り込まれることを特徴とする請求項1に記載の生理活性ドメインタンパク質の検索方法。
【請求項4】
前記ドメインタンパク質は、蛍光標識タンパク質と融合された融合タンパク質の形であることを特徴とする請求項3に記載の生理活性ドメインタンパク質の検索方法。
【請求項5】
前記(C)ステップにおいて、前記ドメインタンパク質は、前記微生物若しくは動植物細胞において発現されるベクターシステムに挿入された前記ドメインタンパク質をコード化する核酸配列の形で細胞内に取り込まれることを特徴とする請求項1に記載の生理活性ドメインタンパク質の検索方法。
【請求項6】
前記ドメインタンパク質をコード化する遺伝子は、蛍光標識タンパク質をコード化する遺伝子と融合された形であることを特徴とする請求項5に記載の生理活性ドメインタンパク質の検索方法。
【請求項7】
前記生理活性は、抗生剤、抗ウィルス剤、抗自己免疫疾患剤または抗ガン剤活性であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の生理活性ドメインタンパク質の検索方法。
【請求項8】
(A)任意のドメインタンパク質を選択するステップと、
(B)任意の微生物若しくは動植物細胞内に前記ドメインタンパク質を取り込むステップと、
(C)前記ドメインタンパク質の取り込まれた微生物若しくは動植物細胞の生理活性変化を確認するステップと、
を含むことを特徴とする生理活性ドメインタンパク質の検索方法。
【請求項9】
前記(B)ステップにおいて、前記ドメインタンパク質は、遺伝子組換え法により予め用意された遺伝子の形で細胞内に取り込まれることを特徴とする請求項8に記載の生理活性ドメインタンパク質の検索方法。
【請求項10】
前記ドメインタンパク質は、蛍光標識タンパク質と融合された融合タンパク質の形であることを特徴とする請求項9に記載の生理活性ドメインタンパク質の検索方法。
【請求項11】
前記(B)ステップにおいて、前記ドメインタンパク質は、前記微生物若しくは動植物細胞において発現されるベクターシステムに挿入された前記ドメインタンパク質をコード化する核酸配列の形で細胞内に取り込まれることを特徴とする請求項8に記載の生理活性ドメインタンパク質の検索方法。
【請求項12】
前記特定ドメインタンパク質をコード化する遺伝子は、蛍光標識タンパク質をコード化する遺伝子と融合された形であることを特徴とする請求項11に記載の生理活性ドメインタンパク質の検索方法。
【請求項13】
前記生理活性は、抗生剤、抗ウィルス剤、抗自己免疫疾患剤、または抗ガン剤活性であることを特徴とする請求項8から12のいずれか1項に記載の生理活性ドメインタンパク質の検索方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−545296(P2009−545296A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511930(P2009−511930)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【国際出願番号】PCT/KR2006/001928
【国際公開番号】WO2007/136146
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(508179419)コリア リサーチ インスティテュート オブ スタンダーズ アンド サイエンス (10)
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF STANDARDS AND SCIENCE
【Fターム(参考)】