説明

ドライパウダー吸入エアロゾル用の大径キャリア粒子を含む製剤

ドライパウダー吸入器は、キャリア粒子と作用剤粒子を含有する製剤を含む薬物チャンバー、前記作用剤粒子をユーザーに直接流すマウスピース、及び前記マウスピースに近接した保持部材を備えることができる。前記保持部材は、前記作用剤粒子がユーザーに流れることを可能にしながら、実質的に全てのキャリア粒子がユーザーに流れることを阻むサイズと配置にされる。前記吸入器は、患者の肺系統に作用剤を搬送するためのキャリア粒子を含有する製剤を含むことができる。前記キャリア粒子は、約500μmを超える平均篩径を有することができる。前記キャリア粒子は、ポリスチレン、PTFE、シリコーンガラス、シリカゲル、及びシリカガラスの1種であることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
−関連出願の相互参照−
本出願は、米国仮特許出願第61/084805号、発明の名称「ドライパウダー吸入エアロゾル用の大径キャリア粒子を含む製剤」、2008年7月30日出願に関係し、この出願は、本願においても参照して取り入れられる。
【0002】
本発明は、広くは、ドライパウダー吸入エアロゾル、及び患者に薬物及び/又は治療薬を送達する方法に関する。より詳しくは、本発明は、ドライパウダー吸入エアロゾル用の大径キャリア粒子を含む製剤、及びそれを患者に送達する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、及び嚢胞性線維症のような肺疾病を治療するための吸入治療の利点は、長年にわたって認識されている。気道に薬物を直接投与することは、全身性副作用を最小限にし、最大限の肺疾患特異性を提供し、作用の早期からの持続を与える。
【0004】
ドライパウダー吸入器(DPI)は、患者の気道に治療薬を送達するための主要なデバイスになっている。現在、市販のドライパウダー吸入製品はいずれも、「受動的」ドライパウダー吸入器(DPI)から送達される微細化薬物(凝集又は混合)から成り立っている。これらの吸入器は、粉末を呼吸可能エアロゾルに分散させる患者の吸気努力に依存するという意味で受動的である。
【0005】
受動的ドライパウダー吸入器は、別な種類の吸入器よりも評判が高くて薬学的利点が多いものの、一般に、一貫性に関して比較的低い性能を有する。とりわけ、DPIは、患者がそのデバイスをどのように使用するか、例えば、患者の吸入努力によって、いろいろな用量を放出する。
【0006】
また、DPIの効率は、かなり乏しいことがあり得る。2つの最も広く使用されているDPIの性能を比較したある検討において、そのデバイスから放出される用量の僅か6%〜21%が、呼吸可能と考えられた。臨床的及び製品開発の双方の見地から、DPIデバイスの性能改良が極めて必要とされている。DPI性能を改良する1つの有望なアプローチは、デバイス自身よりも製剤を改良することである。
【0007】
ドライパウダー吸入エアロゾル用の従来の製剤は、一般に、気道に入り込んで肺に堆積するのに十分な小さい粒子サイズの微細化薬物を含んでなる。これらの高度に凝集性で非常に微細な粒子を分散可能にするため、いわゆる「キャリア」粒子が薬物粒子に混合される。これらのキャリア粒子は、現在市販されている殆ど全てのドライパウダー吸入製品に見られる。薬物粒子は、通常、吸入器を通る気流によって大きく影響されるには過度に小さいため、キャリア粒子は、薬物の流動化を促進するのに有用である。即ち、キャリア粒子は、製剤において希釈剤として作用することにより、薬物の均一性を改良する。
【0008】
これらのキャリア粒子は、一般に、約50〜100μmのサイズであり、ドライパウダーエアロゾルの性能を改良するものの、ドライパウダーエアロゾルの性能は、依然として比較的乏しいままである。例えば、典型的なドライパウダーエアロゾル製剤において、薬物の約30%のみが標的箇所に送達されるに過ぎなく、さらに少ない場合も多いと考えられる。薬物サイズに対してキャリア粒子サイズが比較的大きいことから、これらの従来のキャリア粒子からかなりの量の薬物が解放されず、患者の咽喉や口に薬物が堆積し、不都合な副作用を生じることがある。当該分野における定説では、約100μmを超えるキャリア粒子径は、乏しい性能をもたらす。
【0009】
ドライパウダー製剤は、一般に、二成分混合物であり、微細な薬物粒子(<5μm)と大きめの不活性キャリア粒子(典型的に、63〜90μmの直径のラクトース一水和物)からなる。薬物粒子は、別な薬物粒子と凝集力を呈し、キャリア粒子と付着力(主にファン・デル・ワールス力)を呈し、パウダーを効果的に分散して肺堆積効率を高めるためには、これらの粒子間力を克服しなければならない。粒子間力を克服するために用いられるエネルギーは、患者が呼吸器を使用するときに息吹きを高めることによって与えられる。空気力がパウダーを同伴して凝集を解くが、患者の吸入努力の変動(例えば、気道の線維症又は閉塞症によって生じるものなど)が、薬物の分散と堆積に大きく影響するため、吸入器の流量依存性を生じる。現状のDPI吸入器の安全性と効率の特性を最大限にするべく、新規なキャリア粒子を採用する改良されたドライパウダー製剤に対して、明らかにニーズが存在している。
【0010】
医薬品有効成分(API)は、一般に、製剤の5重量%未満を構成し、用量の大部分がラクトースである。キャリアのラクトースの目的は、主として隣接する薬物粒子の間の瞬間的な双極子モーメントから生じるファン・デル・ワールス力である、凝集力による薬物粒子の凝集を防ぐことである。薬物粒子の小さいサイズにより、生じる凝集力は極めて強くて、吸入によって提供される空気力によってはバラバラにならず、乏しい流動性を呈する凝集を生じ、咽喉の裏への堆積に帰結する。二成分混合物を採用すると、今度は、薬物はキャリア粒子に付着し、キャリア粒子の大きめのサイズが、患者が吸入するときに生じる気流により容易に同伴させ、キャリア粒子が衝突するメッシュの方にAPIを搬送する。衝突による力は、キャリアから薬物粒子を分離するのに十分であることが多く、薬物粒子を気流中に分散させ、それらが肺の中に堆積することを可能にする。しかしながら、APIの大部分は、メッシュに効果的に衝突せずに外れたキャリアに付着したままであり、キャリア表面から薬物粒子が分散するには不十分な力が生じる。これらのキャリアから分離しないAPIは、メッシュに全く接触せずに通過したキャリア粒子に付着した薬物とともに、慣性衝突によって咽喉の裏に堆積し、咽喉に重大な副作用を生じさせることが多い。
【0011】
キャリア粒子の相互作用は、多数の研究者によって検討されてきた。薬物キャリアの製剤に関し、キャリア粒子の表面からの薬物の分離は、吸入される気流において生じる牽引力、薬物粒子間の凝集力、及び薬物とキャリアの間の付着力によって決まる。したがって、吸入器内の空気の速度を高めるなどの牽引力の相対的効果を高める何らかの手段は、キャリア粒子の表面からより多くの粒子を分離させ、より高い肺堆積効率をもたらす。カセム(1990年)は、非常に大きい流速を経ても、かなりの量の薬物が依然としてキャリア粒子に付着していることを実証した。
【0012】
図1に示すように、粒子間力と付着力は、粒子を定常状態に維持し、空気力が、粒子を流動して脱凝集するのを助長する。言い換えると、微細な粉末(<5μm)は、微細なエアロゾルを生じるが、粒子の付着が、搬送効率を低下させ、流量依存の肺堆積をもたらす。例えば、ある発表された研究において、コルチコステロイドとブデソニドの肺堆積に関し、60L/分の最大吸気速度(PIF)での測定用量は27.7%であったが、35L/分の吸気速度では僅か14.8%であった。このことは、ブデソニドなどの大きい治療指数を有する薬物については受け入れられるが、タンパク質やペプチドなどの小さい治療指数を有する薬物については受け入れられないことがある。このため、受動的ドライパウダー吸入器(DPI)の分散性を改良する粉末製剤を開発することが有益であると考えられる。
【0013】
図1に関し、ドライパウダー吸入器についての粉末分散のメカニズムが示されている。図1は、流動化と脱凝集を生じる空気力によって克服される粒子間力によって一緒に支持される静止粉末を示す。また、図1は、凝集状態から分散状態に移行する小さな薬物粒子を付着した大きなキャリア粒子を含む、ある粒子レベルの事象を示す。キャリア粒子の密度と大きさの変動が、呼吸可能用量に影響を及ぼすことがある。図2に、付着力(粒子間)と分散力(空気力学的)との関係を、理想的な系について計算してプロットしている。
【0014】
キャリア粒子は、約30年間にわたって使用されており、キャリア粒子の種々の特性に着目した多くの研究が行われ、学術文献として報告されている。いくつかの研究は、ドライパウダー吸入器製剤の性能を改良するため、いろいろなサイズのキャリア粒子の使用を検討している。例えば、イスラムらは(2004年)、キシナホ酸サルメテロールの薬物分散に及ぼすキャリア粒子サイズの影響を報告している。イスラムらによると、混合物中のラクトースキャリアの粒子サイズは、市販の吸入グレードのラクトースの範囲の使用において種々に相違した。ラクトースキャリアの粒子サイズが減少するにつれ、薬物の分散は高まるように観察された。
【0015】
このほか、キャリアサイズの薬物分散に及ぼす効果は、非特許文献1〜5に記載されている。
【0016】
例えば、60L/分の流量における相互作用的なドライパウダー吸入器混合物からのクロモグリク酸ナトリウムの最大の分散は、70〜100μmのサイズのラクトース粒子で観察された(ベルら、1971年)。硫酸サルブタモールと糖キャリアの二成分混合物を用いると、キャリア粒子径の増加とともにFPFが減少した(ストリカナら、1998年)。キャリア径の低下は、硫酸アルブテロール(ガンダートン、1992年;カセムら、1989年)とブデソニド(シュテッケル、ミュラー、1997年)の呼吸域画分を改良した。しかしながら、硫酸テルブタリンの高い呼吸域画分は、微細なラクトースよりも(<53μm)、粗いラクトース(53〜105μm)で得られた(バイロンら、1990年)。したがって、従来のドライパウダー吸入器製剤に関する文献は、約100μmより小さいキャリア粒子径が好ましいと教示しているが、キャリア粒子径は、約50μmを上回るべきであろう。
【0017】
これらの知見は、いくつかの特許文献において認識されている。例えば、特許文献1において、ドライパウダー吸入器に使用される粉末がクレイムされ、その粉末は、活性粒子と、その活性粒子を搬送するためのキャリア粒子を含んでなる。その粉末は、吸入中のキャリア粒子からの活性粒子の解放を促進するために、キャリア粒子の表面上に付加的材料を含む。重要なことは、発明者は、キャリア粒子の粒子径が20μm〜1000μmの直径を有するが、付加的材料の95%が、150μm未満の直径を有する粒子の形態であると限定している。さらに、この特許は、キャリア粒子がαラクトース一水和物のような1つ又は複数の結晶糖を含むと規定している。
【0018】
特許文献2において、キャリアの平均サイズは、好ましくは5〜1000μm、より好ましくは30〜250μm、最も好ましくは50〜100μmの範囲である。キャリアは1.75未満の皺度を有する結晶性の非毒性材料である。好ましいキャリアは、単糖類、二糖類、及び多糖類である。特許文献3において、ドライパウダー吸入器組成物の製剤に有用な医薬品賦形剤は、ローラー乾燥された無水βラクトースの粒子を含み、そのβラクトース粒子は、50〜250μmのサイズと1.9〜2.4の皺度を有する。
【0019】
DPI性能に及ぼす製剤の影響に関して多くの文献があり、殆どの場合、サイズ、表面の皺度、結晶化度、水分含有率、及びその他のパラメータに関してキャリア粒子を改良することに注目している。キャリア粒子は、吸入器性能を調節するのに適切な対象であるが、そのアプローチには、いくつかの問題がある。第1に、キャリアについて変化可能なパラメータが相互に関係し、通常、1つのパラメータの操作が、別なパラメータに対応した変化を生じさせる。例えば、ラクトースのキャリアの表面特性を変更する試みにおいて、粉砕することに対する噴霧乾燥することは、粒子径、表面積、粉末密度などに大きな変化を伴うことが多い。このことは、これまで、性能に影響を及ぼすようにこれらのパラメータを変更可能にして系統的で十分に制御された検討を行うことを阻害してきた。第2に、賦形剤の種類が少なく、特性を変化させ得る幅が狭いため、設計することができる範囲が狭いままであった。さらに、現在のところ、これらの薬物特性又は吸入器特性を調節可能な証拠が少ない。キャリア粒子の設計制御をより十分に理解することは、調節可能性のみならず、現状の製剤の変動を理解する上で重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第6153224号
【特許文献2】米国特許第5376386号
【特許文献3】米国特許第7090870号
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Bell JH, Hartley PS, Cox JSG. 1971. Dry powder aerosols. I. A new powder inhalation device. J Pharm Sci 60(10):1559-1564
【非特許文献2】Ganderton D. 1992. The generation of respirable clouds from coarse powder aggregate. J Biopharm Sci 3(1/2):101-105
【非特許文献3】French DL, Edward DA, Niven RW. 1996. The influence of formulation on emission, deaggregation, and deposition of dry powders for inhalation. J Aerosol Sci 27(5):769-783
【非特許文献4】Kassem NM, Ho KKL, Ganderton D. 1989. The effect of air flow and carrier size on the characteristics of an inspirable cloud. J Pharm Pharmacol 41:14P
【非特許文献5】Steckel H, Muller BW. 1997. In vitro evaluation of dry powder inhalers. II. Influence of carrier particle size and concentration on in vitro deposition, Int J Pharm 154:31-37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
一部の従来のDPIは、キャリア粒子が吸入器から抜け出すことを許容し、場合により、意図することもある。そのため、アメリカ合衆国において、FDAはキャリア粒子材料をラクトースに制限している。キャリアの吸湿性(例えば、防湿剤)やキャリアと薬物の表面相互作用(例えば、キャリアと薬物の酸性又は塩基性)に基づいて、より考慮されて選択される代替のキャリア粒子材料などの最新の製剤技術に対して、ニーズが存在している。即ち、キャリア材料としてのラクトースのFDA規制の許容を可能にし、実質的に全てのキャリア粒子を保有するDPIを提供することが望まれていると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、100μmを大きく上回る大径のキャリア粒子を含むドライパウダー吸入エアロゾル用の治療製剤、及びその患者への送達方法によって、上記の問題の1つ以上を解決するものである。これらのかなり大型のキャリア粒子は、これまでに検討又は発表されてきたものよりも大きいサイズで、改良された性能を有する。このアプローチには、別な利点もまた存在する。例えば、いくつかの態様によると、新規なキャリア粒子はかなり大きなサイズを有するため、DPIデバイスに捕獲されることができて、患者の中に入ることが決して必要でない。このことは、患者への搬送に必ずしも適応せずに、したがって従来のDPIには使用できなかった多くの種々の材料の使用を可能にする。
【0024】
本発明は、種々の態様にしたがうと、キャリア粒子と作用剤粒子を含有する製剤を含む薬物チャンバー、前記作用剤粒子をユーザーに直接流すマウスピース、及び前記マウスピースに近接した保持部材を備えたドライパウダー吸入器に関する。前記保持部材は、前記作用剤粒子がユーザーに流れることを可能にしながら、実質的に全てのキャリア粒子がユーザーに流れることを阻むサイズと配置にされる。
【0025】
いくつかの態様において、前記保持部材が、約250μm未満の篩径を有する作用剤粒子の流れを可能にしながら、約250μmを超える篩径を有するキャリア粒子の流れを阻むように構成される。いくつかの態様において、前記保持部材が、約500μm未満の篩径を有する作用剤粒子の流れを可能にしながら、約500μmを超える篩径を有するキャリア粒子の流れを阻むように構成される。
【0026】
種々の態様において、本吸入器は、ドライパウダー吸入器によって患者の肺系統に作用剤を搬送するためのキャリア粒子を含有する製剤を含む。いくつかの態様において、前記キャリア粒子が、約500μmを超える、約1000μmを超える、又は約5000μmを超える、平均篩径を有する。種々の態様にしたがうと、前記製剤が、前記キャリア粒子に付着した作用剤粒子をさらに含有する。
【0027】
種々の態様において、前記キャリア粒子が、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、テフロン(登録商標))、シリコーンガラス、シリカゲル、及びシリカガラスの1種を含有する。いくつかの局面において、前記キャリア粒子が生物分解性材料を含有する。
【0028】
本発明のいくつかの局面にしたがうと、ドライパウダー吸入器用の製剤は、ドライパウダー吸入器によって患者の肺系統に作用剤を搬送するためのキャリア粒子を含有する。前記キャリア粒子は、ポリスチレン、PTFE、シリコーンガラス、シリカゲル、及びシリカガラスの1種を含有し、約500μmを超える平均篩径を有する。前記製剤は、前記キャリア粒子に付着した作用剤粒子をさらに含有することができる。いくつかの態様において、前記キャリア粒子は、約1000μmを超える平均篩径を有する。前記キャリア粒子は、約5000μmの平均篩径を有することができる。
【0029】
本発明の種々の局面にしたがうと、ドライパウダー吸入器用の製剤は、ドライパウダー吸入器によって患者の肺系統に作用剤を搬送するためのキャリア粒子を含有する。前記キャリア粒子が、約1000μmを超える平均篩径を有することができる。例えば、前記キャリア粒子は、約5000μmの平均篩径を有することができる。本製剤は、前記キャリア粒子に付着した作用剤粒子をさらに含有することができる。前記キャリア粒子は、生物分解性材料又は非生物分解性材料を含有することができる。前記非生物分解性材料は、ポリスチレン、PTFE、シリコーンガラス、又はシリカゲルもしくはガラスを含有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ドライパウダー吸入器における粉末分散メカニズムの概略図である。
【図2】付着と空気力分散の相対的力に及ぼすキャリア粒子径の効果を示すグラフである。
【図3】本発明の種々の態様におけるドライパウダー吸入器の例示的な概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
患者の気道に治療薬を搬送するためのドライパウダー吸入エアロゾルの性能を改良する製剤の例示的態様を説明する。例示のキャリア粒子を、気道に対する治療薬その他の作用剤の改良された搬送について開示する。本開示によるキャリア粒子は、現状の吸入器製剤で使用されるものより大きさのオーダー(指標)が高い。この粒子によって搬送可能な作用剤には、限定されるものではないが、治療薬、診断用薬、予防薬、造影剤、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0032】
用語「作用剤」は、生物環境における進行速度を増加又は低下させることができる意味で生物活性な材料を含むと理解すべきである。本明細書の中で指称される作用剤は、医薬品の1つの材料又は混合物であることができる。
【0033】
種々の材料の大きいキャリア粒子が(>1mm)、DPI性能を改良して場合により調整するために使用可能である。付着力と空気力学的脱離力についての指標の計算は、キャリア粒子が約100μm未満の直径を有するときだけでなく(現状のDPI製剤はこのアプローチによる)、直径が約700μmを超えるときでも(図2)、空気力が付着力を上回ることを示す。これらのキャリア粒子が大きい場合、ドライパウダー吸入器デバイスは、それらを保持するように設計された保持部材を備えることができ(例えば、メッシュを使用)、キャリア材料の毒性についての問題を回避する。
【0034】
次に、図3に関し、典型的なドライパウダー吸入器100が示されている。このドライパウダー吸入器100は、マウスピース110と薬物チャンバー120を備えることができる。マウスピース110と薬物チャンバー120は、連結部材112、及びその連結部材112を受け入れるサイズと配置の相補的開口122によって連結することができる。あるいは、マウスピース110と薬物チャンバー120は、任意の公知の仕方で連結してもよく、又は単一片の構造で一体的に形成することもできる。薬物チャンバー120は、作用剤142を付着したキャリア粒子140を含むカプセル(図示せず)を受け入れる構造の開口124を有することもできる。また、薬物チャンバー120は、カプセルを開口して作用剤とキャリア粒子を分散させる構造と配置のメカニズム(図示せず)を備えることもできる。当業者は、開口のための多種多様な従来のカプセルとメカニズムを十分に理解しているものと考えられ、それらの従来技術もまた本願に参照して取り入れられる。
【0035】
開口132を有する1つ又は複数の保持部材130が、マウスピース110にもしくはその付近に、マウスピース110と薬物チャンバー120の境界に、又はマウスピース110の近くの薬物チャンバー120の端に存在することができる。種々の態様において、1つ又は複数の保持部材130が、メッシュ、スクリーン、オリフィス、チャンネル、又はノズルなどを有することができる。その構造によらず、1つ又は複数の保持部材130は、作用剤粒子142が吸入器100から出ていくことを許容しながら、実質的全てのキャリア粒子140が吸入器100から出ていくこと阻むサイズと配置にされる。
【0036】
本発明の種々の態様によると、キャリア粒子140は、保持部材130の開口132に対して任意の2つの寸法で十分に大きく、キャリア粒子140がマウスピース110を通って吸入器100から出ていくことが阻まれる。例えば、キャリア粒子140は、約500μmを超える篩径を有することができる。ある態様において、平均篩径は、約1000μm(1mm)を超えることができる。ある態様において、平均篩径は、約5000μm(5mm)を超えることができる。
【0037】
大きいサイズにもかかわらず、本発明におけるキャリア粒子140は、薬物を効果的に分散させる吸入器内で脱凝集力を得ることができる。これらの大きいキャリア粒子に関し、吸入器100のマウスピース110の近くに位置する1つ又は複数の保持部材にキャリア粒子が衝突したときに効果的分散が実現し、作用剤粒子に与えられる力は、キャリアと作用剤の間の付着力に打ち勝つのに十分強い。この衝突・分散力は、走行するキャリア粒子が保持部材130と衝突するときに生じる、下記の式によって表わされる運動量の変化によって生じる。
【0038】
【数1】

【0039】
ここで、mはキャリア粒子の質量、tは衝突時間(キャリア粒子が接触状態にある時間の長さ、10μ秒のオーダー)、Vは気流の速度である。
【0040】
気流の速度は、下記の式によって与えられる。
【0041】
【数2】

【0042】
ここで、QはL/分での吸入流量、Aはドライパウダー吸入器の断面積である。
【0043】
注意すべきことは、粒子の質量、及びその結果としての分散力は、キャリア粒子径の3乗に比例することである。これは、キャリア粒子の直径に単なる線形依存性を有する付着力と対照的である。粉末の効果的な同伴と分散を阻む付着力は下記の式によって与えられる。
【0044】
【数3】

【0045】
ここで、Aは、ハーマーカー定数で、一般に10−19Jの域であり、Dは粒子間距離で、通常は4オングストローム(10−10m)として与えられ、dとdは、それぞれ薬物粒子とキャリア粒子の直径である。
【0046】
ここで、粒子の慣性はサイズとともに増加するため、これらの大径粒子は、流動体に効果的に同伴するように、ポリスチレンのような低密度の材料で作成しなければならない。本発明者によるインビトロの分散検討は、ポリエチレンビーズ(直径1.41〜2.36mm)を用いた製剤が、標準的なラクトースキャリア粒子に比較して、高い微粒子画分を示し、より高度な流量非依存性をもたらすことを実証した。この技術は、現状のキャリア系で可能な自由度よりもはるかに大きい自由度で、薬物とキャリアの相互作用を最適化する広範囲なキャリア粒子材料の使用可能性を有する(即ち、界面化学、表面粗さ、粒子密度など)。
【0047】
本発明におけるキャリア粒子は、例えば、数々の新規なキャリア粒子を用いて、エアロゾルとして肺に送達する目的のモデル的な喘息薬の呼吸可能用量と流量依存性の定量化を可能にすることができる。本発明による大径キャリア粒子は、例えば、直径約500μm、場合により約1000μmを超えるキャリア粒子は、改良された放出用量効率、改良された呼吸可能用量効率、及び現在の市販品で入手可能な従来のドライパウダー製剤よりも少ない流量依存性を有すると考えられる。
【0048】
本発明の種々の態様によると、本発明者は、例えば、直径が500μmを超える、場合により1000μmを超える、場合により4000〜5000μm、又は場合により5000μmを超える大径のキャリア粒子のサイズが、従来のサイズのキャリア粒子よりも好ましいことがあり得ることを意外にかつ予想外に見出した。
【0049】
キャリア粒子の形態は、ドライパウダー吸入器システムの性能に大きな影響を有することが実証されている(ツェンら、1998年、1999年、2000年上期、2000年下期)。ドライパウダー吸入器システムにおけるラクトースのキャリア性能のバッチ間変動は、結晶環境における変化に由来するキャリア粒子の形状と形態における相違のせいであるとの主張がなされている(ツェン、マーチン、マリオット、2001年)。
【0050】
本発明の種々の態様によると、500μmを超える、1000μmを超える、又は5000μmを超える大径キャリア粒子は、多くの異なる形状で製造することができる。例えば、球形又は結晶形に代えて、円盤、多角形、ドーナツ形、平板、又は四角などの任意の規則又は不規則形状の薄片又はビーズが、呼吸域画分を高めるために調製可能である。キャリア粒子の形状は、例えば、粉砕、噴霧乾燥、押出し、高分子インプリンティングなどの技術を用いて調節することができる。用語「ビーズ」は、キャリア粒子に関して本明細書の全体を通して用いているが、キャリア粒子は、上記の形状のいずれであってもよいと認識すべきである。
【0051】
種々の態様によると、キャリア粒子の表面平滑性又は皺度は、ドライパウダー吸入器製剤の性能にある影響を及ぼすことがある。糖粒子の使用と改良に拘束されずに、キャリア粒子の材料を変化させることにより、種々のキャリア粒子の平滑度レベルをより容易に達成することができる。いくつかの態様において、キャリア粒子の表面にコーティングを施すことができる。キャリア粒子は、吸入されずに吸入器デバイスを離れないため、キャリア粒子は、現在使用されているデバイスと製剤に取り入れられると潜在的に毒性である材料を含む、様々な材料からなることができる。例えば、キャリア粒子は、ポリスチレンのコーティングを含むことができる。ポリスチレンは、生物分解性ではなく、したがって、患者の気道に入るべきでない。種々の態様によると、デバイス作動と患者吸入の後にデバイスにキャリア粒子を保持させることにより、生物分解性と生物非分解性キャリアの使用、及びキャリア上の生物分解性と生物非分解性コーティングが促進されることができる。デバイス中のこの保持は、例えば、より良好な呼吸域画分を与える500μmを超える、1000μmを超える、又は5000μmを超える大径のキャリア粒子によって可能になる。
【0052】
当業者は薬物粒子の密度がドライパウダー吸入器製剤の性能にとって重要であると認識していると考えられる(エドワードら)。やはり、キャリア粒子の吸入は、非常に大きい粒子にする、例えば、500μmを超える、1000μmを超える、又は5000μmを超える粒子サイズまで高めることによって防止可能である。吸入デバイスによる大径粒子の保持により、キャリア粒子組成物は、多数の様々な材料から選択することができる。例えば、ガラスのビーズは、ラクトースのビーズよりもかなり高い密度を有する。ポリスチレンのビーズは、ラクトースのビーズよりもかなり低い密度を有する。粒子吸入器の設計にとって、粒子薬物にとって、及び/又は特定の肺活量を有する特有の患者にとって最適な粒子密度を有するものを、多数の様々な材料から選択可能である。したがって、本発明の種々の態様によると、キャリア粒子密度の範囲は、現在ドライパウダー吸入器に使用されているラクトース、サッカロース、マンニトール、及び他の不活性材料などの糖の密度に拘束されずに、吸入器性能を最適にするように選択可能である。
【0053】
個々の用量を充填する均一性(即ち、秤り取る用量重量の変動性)が粉末流動性に関連し得るため、ドライパウダー吸入器の製剤にとってキャリア粉末の粉末流は重要である。このことは、例えば、カプセル、ブリスター・ストリップのキャビティなどのような予め包装されたキャビティ用量にとって、及び内部容器から粉末を採取するデバイスにとって重要である。高い流動性は、粉末投薬の高い均一性をもたらすことができ、ドライパウダー吸入器の性能を改良することができる。
【0054】
現在、キャリア粒子は、最も多くは50〜150μmのサイズであるため、乏しい流動性を有する。乏しい流動性は、ドライパウダー吸入器からの用量間でバラツキをもたらす。本発明の種々の態様によると、例えば、500μmを超える、1000μmを超える、又は5000μmを超える大径キャリア粒子は、それらのサイズがはるかに大きいことから、改良された用量均一性をもたらすため、乏しい流動性を克服することができる。
【0055】
従来のキャリア粒子は、主として、ラクトース、サッカロース、グルコース、又はマンニトールから形成されている。現在、種々の糖の適合性を評価する検討がなされている。これまでのところ、ラクトースのみが、USAにおけるドライパウダーのエアロゾル用の認可された唯一のキャリアである。これは、吸入器に収められたキャリア粒子が、一般に、患者が用量をエアロゾル化するときに吸入器デバイスから吐き出されるためである。このため、これらの従来のキャリア粒子は、患者が吸引する空気の流れに同伴し、その粒子が、一般に、口、咽喉、及び気道に堆積する。したがって、従来のキャリア粒子は、例えば、糖のような比較的不活性な材料から形成されなければならない。
【0056】
本発明の種々の態様によると、例えば、500μmを超える又は1000μmを超える大径キャリア粒子は、その大径粒子のサイズは患者の肺に入らないことから、材料選択に束縛されない。また、大径のキャリア粒子ゆえに、吸入デバイス内に大径キャリア粒子を捕獲する本発明による吸入デバイスに、保持メカニズム130を容易に採用することができる。例えば、スクリーン、メッシュ、フィルター、チャンネル、オリフィス、ノズルなどをこうした吸入デバイスに使用し、開口132を、大径キャリア粒子サイズよりも小さいけれど薬物粒子サイズよりも大きいとすることができる。したがって、大径キャリア粒子は、吸入デバイスに保持される。また、例えば、500μmを超える、1000μmを超える、又は5000μmを超える大径キャリア粒子サイズゆえに、キャリア粒子の空気力分別や分離、及びキャリア粒子の磁気捕獲などの別な方法を用いて大径キャリア粒子を捕獲することもできる。
【0057】
本発明の種々の態様によると、大径キャリア粒子は、例えば、500μmを超える又は1000μmを超える大径キャリア粒子ゆえに、生物分解性及び/又は生体適合性材料を含むことができ、吸入デバイスに容易に捕獲され、吸入を想定外にすることができる。また、任意の公知の材料が使用可能である。例えば、種々の態様によると、キャリア粒子は、サッカロース、ポリスチレン、PTFE、シリコーンガラス、シリカゲル、又はガラスを含むことができる。
【0058】
種々の態様によると、本発明による大径キャリア粒子と併用する治療薬のような作用剤は、肺疾患及び/又は全身性疾患の治療のための薬物を含むことができる。全身性疾患の薬物は、血液の流れの中に吸収される必要がある。種々の態様によると、微細化薬物(10μm未満でかつ0.5μm超)及び/又はナノ粒子薬物(500ナノメートル未満)を含むことができる。流動性、配合性、キャリア粒子への付着などの製剤の特徴的な性能を改良するために、薬物に、ロイシン、ステアリン酸マグネシウム、微細糖粒子などの他の賦形剤を配合することができる。本発明による製剤は2種類以上の薬物を含んでもよいと認識すべきである。例えば、いくつかの態様において、β刺激薬とコルチコステロイド薬を、一緒に又は別々に大径キャリア粒子に配合した後、患者による吸入の際に肺にその2種類の薬物を送達する吸入器に配置することができる。
【0059】
本発明による大径キャリア粒子に薬物を配合することは、例えば、V型ミキサー、ターブラーミキサー、又は他のミキサーのような一般的なミキサーによって行うことができる。大径キャリア粒子は、薬物粒子と均一に配合することができる。薬物と大径キャリア粒子との混合は、適切な混合時間を選択することによって最適化することができる。また、大径キャリア粒子の表面特性を選択し、薬物と粒子の配合と均一混合を高めることもできる。
【0060】
配合の均一性は、配合しながら混合物を定期的にサンプリングする実験によって把握することができる。均一性は、混合物中のサンプル間で10〜15%未満の変動係数となるべきである。
【0061】
ドライパウダー製剤の粉末流は、キャリア粒子の粒子径を高めることによって改良することができる。例えば、粉末流特性は、粒子径の減少とともにほぼ指数関数的に悪化することが実証されている(ホウとサン、米国薬学会の年次会合での要約、2007年、サンディエゴ)。粉末処理の際に不十分な流動性を示す粉末にとって、粒子径又はビーズ径の増加は、流動性と生産性を改良するための有効な手段である。所与の製剤について実質的に一定の粉末流を得るためには、顆粒径又は粒子径を入念に調節すべきである。大径粒子からなる粉末の流動性は、スケールアップ動作のときに受けるような外部応力の変動に対して、影響されにくい。
【0062】
本発明の種々の態様によると、粉末流は、例えば、500μmを超える、1000μmを超える、又は5000μmを超える大径キャリア粒子の粒子径、密度、又は粒子形状によって調節することができる。
【0063】
キャリア粒子系の充填は、ブリスター・ストリップ充填、デバイスに挿入するカプセル充填、デバイス容器への充填、及びその他の一般に用いられる公知の方法など、吸入器にドライパウダー吸入器製剤を充填する通常の方法を用いて行うことができる。
【0064】
種々の態様によると、例えば、500μmを超える、1000μmを超える、又は5000μmを超える本発明による大径キャリア粒子は、現在市販されているデバイスに使用可能である(例えば、エアロライザー(商標)、シェリング・プラウ社販売)。スクリーン、メッシュ、フィルター、又は他の分離方法を用いてキャリア粒子を保持する新規デバイスの開発が進行中であり、こうしたデバイスもまた使用可能である。キャリア粒子の放出を許容するデバイスもまた使用可能である。また、デバイス内で最適化構造を用いて脱離を生じさせる力を最大限にするデバイスの使用が望ましいことがある。例えば、吸入努力のかなりの割合で、患者による吸入の際に、一回又は反復してメッシュにキャリア粒子を衝突させることが望ましいことがある。
【0065】
本発明による大径キャリア粒子、例えば、500μmを超える、1000μmを超える、又は5000μmを超える大径キャリア粒子を含むキャリア粒子系の性能は、例えば、配合均一性の検討、放出用量の検討、粉末流特性、エアロゾル分散の検討、肺堆積の予測に関係するカスケード衝突の検討、微粒子画分、微粒子用量、呼吸域画分、放出用量、咽喉堆積、空気動力学的中央粒子径、安定性に及ぼす時間と使用の効果、及び製剤の変動性を介して把握することができる。
【0066】
いくつかの態様によると、例えば、500μmを超える、1000μmを超える、又は5000μmを超える大径キャリア粒子は、鼻腔に治療薬を搬送するために使用することもできる。大径キャリア粒子は、改良された効率、改良された粉末流、改良された均一性、流量非依存性などの上記の1つ又は複数の特長を有することができる。また、本発明では、賦形剤の鼻腔内投与が減少又は排除できるため、鼻粘膜への刺激が回避できる。このことは、粘液産生、くしゃみ反射、及び/又は鼻腔からの粒子クリアランスを最小限にするために望ましい。
【0067】
次に、本発明を以下の限定されない例によってさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0068】
実施例1
本発明のドライパウダー吸入器製剤の肺疾患薬物搬送に対する適用性と有用性を実証するため、標準的なラクトース/ブデソニドのドライパウダー製剤と、ラクトースを配合した大径ポリスチレンキャリア粒子(直径3.38〜4.38mmの範囲)を含む新規な製剤とを比較した。
【0069】
ラクトース配合物中の2%ブデソニドは(直径63〜90μmの範囲)、20mgの微細化ブデソニドを980mgのラクトース一水和物で機械的に希釈することによって調製した。この混合物は、ターブラ(商標)ミキサーで40分間にわたって混合した。ラクトースとブデソニドとの均一混合を確保するため、サンプルを入れたバイアルの4つのランダムな箇所から粉末をサンプル採取して配合均一性をテストした。その結果は、配合物が均一であることを示した。約20mgのラクトースとブデソニドの配合物をゼラチンカプセルに充填し、これをエアロライザー(商標)ドライパウダー吸入器の中に入れ、60L/分の流量で4秒間にわたって次世代カスケード衝突体(NGI(商標))を通過させた。新規なキャリア粒子製剤については、21.6mgの微細化ブデソニドを85.2mgの球状ポリスチレンのビーズ(直径3.38〜4.38mmの範囲)を入れたバイアルに加え、スパチュラを用いて1分間にわたって手作業で混合した。各実験ランについて、4通りのポリスチレンビーズを選択し、エアロライザー(商標)ドライパウダー吸入器の中に入れ、60L/分の流量で4秒間にわたって次世代カスケード衝突体(NGI(商標))を通過させた。標準的ラクトース/ブデソニド製剤とポリスチレンビーズ/ブデソニド製剤の双方の各実験ランをNGIに4回通した。カプセル内又はビーズ上に残存する薬物を回収し、同時に、吸入器、咽喉、分離器の手前、ステージ1(>5μm)、及びステージ2〜7(<5μmの直径に対応、又は60L/分での微粒子)から堆積薬物を回収し、分析した。カプセル内又はビーズ上に残存する薬物と同時に、吸入器、咽喉、分離器前に堆積した薬物、ステージ1(>5μm)、及びステージ2〜7(直径<5μmに対応、又は60L/分での微粒子)の薬物を回収し、分析した。咽喉に堆積した薬物の量、及び各製剤についての微粒子画分を以下にまとめた。
【0070】

【0071】
下記のグラフは、咽喉から回収された放出用量の平均画分、及び微粒子画分と±標準偏差に対応する誤差バーを示す。容易に理解できるように、咽喉堆積と微粒子画分は、標準的なラクトース/ブデソニドの製剤と新規なポリスチレン/ブデソニドの製剤の間で、互いにほぼ逆の関係にあり、標準的なドライパウダー製剤と比較したとき、大径ポリスチレン粒子の優位性を実証している。
【0072】

【0073】
即ち、新規なキャリア粒子を用いて得られる高い微粒子画分は別として(18.6%のラクトース製剤に対して63.8%のポリスチレン製剤)、咽喉に堆積する薬物量が大きく減少し(57.1%のラクトース製剤に対して14.7%のポリスチレン製剤)、それによって、起こり得る不都合な副作用を最小限にする。
【0074】
実施例2
肺疾患の患者に見られるような、健康な人に比較して吸入流量が低下した条件下で使用される新規なキャリア粒子からなるドライパウダー製剤の有用性を判断するため、標準的なラクトース/ブデソニドのドライパウダー製剤に比較して、新規なドライパウダー製剤のインビボ肺堆積検討を30L/分で行った(実施例1においては60L/分)。実施例1に記載の2%ブデソニド配合物の20mgを、ゼラチンカプセルに充填し、エアロライザー(商標)ドライパウダー吸入器の中に入れ、4秒間にわたって30L/分の流量で次世代カスケード衝突体(NGI(商標))を通過させた。実施例1に記載の配合物を含む4通りのポリスチレンビーズを、各々のドライパウダー製剤に使用し、エアロライザー(商標)ドライパウダー吸入器の中に入れ、4秒間にわたって30L/分の流量で次世代カスケード衝突体(NGI(商標))を通過させた。標準的なラクトース/ブデソニドの製剤とポリスチレンビーズ/ブデソニドの製剤の双方を、それぞれNGIに3回通した。カプセル内又はビーズ上に残存する薬物を回収し、同時に、吸入器、咽喉、分離器の手前、ステージ1、ステージ2、及びステージ3〜7(<5μmの直径に対応、又は30L/分での微粒子)から堆積薬物を回収し、分析した。咽喉に堆積した薬物の量、及び各製剤についての微粒子画分を以下にまとめた。
【0075】

【0076】
下記のグラフは、咽喉から回収された放出用量の平均画分、及び微粒子画分と±標準偏差に対応する誤差バーを示す。実施例1と同様に、新規な大径ポリスチレンキャリア粒子は、少ない咽喉堆積(53.2%のラクトース製剤に対して5.2%のポリスチレン製剤)と高い微粒子画分(8.32%のラクトース製剤に対して45.2%のポリスチレン製剤)の双方に関して、ラクトース製剤よりもかなり優れる。
【0077】

【0078】
さらに、30L/分でのラクトース製剤の平均微粒子画分は、60L/分における平均微粒子画分の44.7%と半分以下であるが(18.6%に対して8.32%)、30L/分でポリスチレン製剤により得られる平均微画分は、60L/分での微粒子画分の71%であり(63.8%に対して45.2%)、新規な大径キャリア粒子の微粒子画分は、吸入流量の変動に対してより追従性があることを実証している。
【0079】
実施例3
新規なポリスチレンキャリア粒子の大きさの範囲を変えた効果を把握するため、3通りの異なる大きさの範囲のポリエチレンビーズ(4.38〜5.38mm(大)、3.38〜4.38mm(中)、及び1.44〜2.36mm(小))を用いて、インビトロ薬物堆積の検討を行った。実施例1に記載したようにして、上記の大きさの範囲の各々について、ポリエチレンビーズ/ブデソニドの配合物を調製した。配合物を含むポリエチレンビーズを採取し、エアロライザー(商標)ドライパウダー吸入器の中に入れ、4秒間にわたって60L/分の流量で次世代カスケード衝突体(NGI(商標))を通過させた。各々のポリエチレンビーズ/ブデソニドのサイズ製剤を、NGIに3回通した。ビーズ上に残存する薬物を回収し、同時に、吸入器、咽喉、分離器の手前、ステージ1、及びステージ2〜7(<5μmの直径に対応、又は60L/分での微粒子)から堆積薬物を回収し、分析した。咽喉に堆積した薬物の量、及び各製剤についての微粒子画分を以下にまとめた。
【0080】

【0081】
3通りの実験ランの平均を下記のグラフに示しており(誤差バーは±標準偏差に対応)、大(4.38〜5.38mm)、中(3.38〜4.38mm)、及び小(1.44〜2.36mm)のポリエチレンビーズの間で、微粒子画分(それぞれ、64.1%、65.7%、及び61.2%)と咽喉堆積(それぞれ、13.5%、14.1%、及び13.6%)の双方に関して有意な差異がないことを示している。しかしながら、標準的なラクトース/ブデソニドの配合物に比較すると、検討した3通りの大きさの範囲の全てについて、咽喉に堆積した割合はかなり少なく、一方で微粒子画分はかなり多かった。
【0082】

【0083】
実施例4
5通りの異なる大きさの範囲のポリスチレン(平均密度=0.0242g/cm)を微細化ブデソニド(スペクトラム・ケミカルズ社)と配合し、キャリア粒子として検討した。ビーズとブデソニドの大きさの範囲と質量を下記に示す。
【0084】

【0085】
薬物とビーズは、ターブラ・オービタルミキサーを用いて、10分間にわたってアルミニウムのバイアル中で混合した。使用するまで、製剤を乾燥器中で保存した。
【0086】
シリカゲル(密度=1.83g/cm)のキャリア粒子/微細化ブデソニドの製剤を、600〜841μm、841〜1168μm、及び1168〜1411μmの3通りの異なる大きさの範囲のシリカゲルを用いて調製した。各々の大きさの範囲の製剤に使用したビーズとブデソニドの質量を下記の表に示す。
【0087】

【0088】
薬物とビーズは、ターブラ・オービタルミキサーを用いて、10分間にわたってアルミニウムのバイアル中で混合した。使用するまで、製剤を乾燥器中で保存した。
【0089】
1つの大きさの範囲(841〜1168μm)のガラスビーズ(質量=1.631グラム、密度=2.48g/cm)を、ターブラ・オービタルミキサーを用いて、10分間にわたってアルミニウムのバイアル中で33.9mgの微細化ブデソニドと混合した。使用するまで、製剤を乾燥器中で保存した。
【0090】
3通りの大きさの範囲のサッカロースビーズ(密度=1.54g/cm)をブデソニドと混合し、キャリア粒子として試験した。各々の製剤において使用したビーズと薬物の大きさの範囲と質量を下記に示す。
【0091】

【0092】
薬物とビーズは、ターブラ・オービタルミキサーを用いて、10分間にわたってアルミニウムのバイアル中で混合した。使用するまで、製剤を乾燥器中で保存した。
【0093】
下記のグラフは、ポリスチレン、ガラス、シリカゲル、及びサッカロースの製剤についての微粒子画分と咽喉堆積を示す。
【0094】

【0095】
実施例5
−ビーズのキャリア粒子−
4.35〜5.35μmの幾何学的直径を有する低密度(<0.300g/cm)のポリエチレンビーズからなるキャリア粒子を、医薬品有効成分としての微細化ブデソニド(d90<5μm)とともにガラスバイアル(25mLの容積容量)の中に入れた。1mgのブデソニド粉末に加えて1つのポリエチレンビーズをバイアルの中に入れた。1つのポリスチレンキャリア粒子に担持される薬物の量は360〜480mgであり、2重量%の薬物/ラクトースキャリアの製剤の標準的な20mg用量において担持される400mgに匹敵する。1つのブデソニド被覆ポリスチレンビーズを、エアロライザー・ドライパウダー吸入器のカプセルチャンバーの中に入れ、次世代カスケード衝突体に接続した。インビトロの薬物分散の検討を、60L/分の体積流量で4秒間にわたって行った。ポリスチレンのキャリア上に残存する、又は吸入器、咽喉、分離器の手前、及びカスケード衝突体のステージ1〜8の上に堆積するブデソニドを回収し、定量した。
【0096】
ポリスチレンのキャリア粒子についての呼吸域画分(肺深部に堆積する全用量の割合)は45%〜50%の範囲であった。標準的なラクトースのキャリア粒子における呼吸域画分は、一般に25%未満である。このため、本発明による大径ポリスチレンキャリア粒子は、例えば、患者の気道に十分な量の作用剤を搬送するためにキャリア粒子上に堆積させなければならない薬物又は治療薬のような作用剤の量を減らすことにより、コストを削減することができる。さらに、本発明による大径ポリスチレンキャリア粒子は、患者の咽喉や口に堆積する作用剤を少なくすることができ、このため、患者の起こり得る副作用を低減することができる。
【0097】
実施例6
−フレークのキャリア粒子−
以下の方法によってキャリア粒子を調製した。長さ1〜3mm、幅1〜3mm、厚さ100μmで、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)からなるフレーク状キャリア粒子を、HPMCツーピースカプセルを寸断することによって得た。得られたカプセル断片の大体の形状は、上記の寸法の範囲にある不規則な四角形であったが、より詳しくは、不均一な辺(長さと数の両方)と角度を有する多角形であると考えられた。32.4mgのHPMCキャリア粒子(元のツーピースカプセルのワンピースの全体的断片、カプセルサイズ1)をガラスのバイアル(25mLの容積容量)の中に入れた。これに、医薬品有効成分として、2mgの微細化ブデソニド粉末(一次粒子径=d90<5μm、d90は粒子の90%体積直径)を添加した。1回だけの試験において、HPMC粒子に担持した薬物の量を1.235mgとした。ラクトースのキャリア粒子(<90μmの直径)を用いる標準的なドライパウダー製剤は、一般に、400μg(0.400mg)の薬物を保持する。ブデソニド被覆HPMC断片を、エアロライザー・ドライパウダー吸入器のカプセルチャンバーの中に入れ、次世代カスケード衝突体に接続した。インビトロの薬物分散の検討を、60L/分の体積流量で4秒間にわたって行った。HPMCキャリア上に残存する、又は吸入器、咽喉、分離器の手前、及びカスケード衝突体のステージ1〜8の上に堆積するブデソニドを回収し、定量した。
【0098】
微粒子画分(吸入器から放出される用量の肺深部に堆積する割合)は78%であり、これに対し、標準的なラクトースのキャリア粒子では30%未満である。この実施例は、キャリア粒子の形状が球形ビーズに限定されないことを例証する。この作用メカニズムは、ドライパウダー製剤の薬物キャリアとして使用される広範囲な材料、大きさ、及び形態を可能にする、吸入の際にドライパウダー吸入器デバイス内に保持されるキャリア粒子を表わしている。
【0099】
本明細書と特許請求の範囲において、用語の単数形は、特に1つのものに限定しない限り、複数のものを包含することに留意すべきである。即ち、例えば、「粒子」は2種類以上の粒子を含んでもよい。本願における用語「含む」及びその文法的派生語は、非限定的であることを意図し、代替可能な同様なもの又は列挙したものに付加可能なものを排除するものではない。
【0100】
当業者には、本発明の範囲から逸脱することなく、本願に開示された製剤、キャリア粒子、吸入器、方法に種々の変更や変形がなされ得ることが明らかと考えられる。当業者には、本発明の別な態様が、本願に記載の説明や実施例を吟味することから明らかと考えられる。こうした本願に記載の説明や実施例は例示に過ぎないと考えるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア粒子と作用剤粒子を含有する製剤を含む薬物チャンバー、
前記作用剤粒子をユーザーに直接流すマウスピース、及び
前記マウスピースに近接した保持部材であって、前記作用剤粒子がユーザーに流れることを可能にしながら、実質的に全てのキャリア粒子がユーザーに流れることを阻むサイズと配置にされた保持部材、
を含んでなるドライパウダー吸入器。
【請求項2】
前記保持部材が、約250μm未満の篩径を有する作用剤粒子の流れを可能にしながら、約250μmを超える篩径を有するキャリア粒子の流れを阻む、請求項1に記載の吸入器。
【請求項3】
前記保持部材が、約500μm未満の篩径を有する作用剤粒子の流れを可能にしながら、約500μmを超える篩径を有するキャリア粒子の流れを阻む、請求項1に記載の吸入器。
【請求項4】
ドライパウダー吸入器によって患者の肺系統に作用剤を搬送するためのキャリア粒子を含有する製剤をさらに含み、前記キャリア粒子が、約500μmを超える平均篩径を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸入器。
【請求項5】
ドライパウダー吸入器によって患者の肺系統に作用剤を搬送するためのキャリア粒子を含有する製剤をさらに含み、前記キャリア粒子が、約1000μmを超える平均篩径を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸入器。
【請求項6】
ドライパウダー吸入器によって患者の肺系統に作用剤を搬送するためのキャリア粒子を含有する製剤をさらに含み、前記キャリア粒子が、約5000μmを超える平均篩径を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸入器。
【請求項7】
前記製剤が、前記キャリア粒子に付着した作用剤粒子をさらに含有する、請求項4〜6のいずれか1項に記載の吸入器。
【請求項8】
前記キャリア粒子が、ポリスチレン、PTFE、シリコーンガラス、シリカゲル、及びシリカガラスの1種を含有する、請求項4〜6のいずれか1項に記載の吸入器。
【請求項9】
前記キャリア粒子が生物分解性材料を含有する、請求項4〜6のいずれか1項に記載の吸入器。
【請求項10】
前記キャリア粒子がサッカロースを含有する、請求項9に記載の吸入器。
【請求項11】
ドライパウダー吸入器によって患者の肺系統に作用剤を搬送するためのキャリア粒子を含有し、
前記キャリア粒子は、ポリスチレン、PTFE、シリコーンガラス、シリカゲル、及びシリカガラスの1種を含有し、
前記キャリア粒子が、約500μmを超える平均篩径を有する、
ドライパウダー吸入器用の製剤。
【請求項12】
前記キャリア粒子に付着した作用剤粒子をさらに含有する、請求項11に記載の製剤。
【請求項13】
前記キャリア粒子が約1000μmを超える平均篩径を有する、請求項11に記載の製剤。
【請求項14】
前記キャリア粒子が約5000μmを超える平均篩径を有する、請求項11に記載の製剤。
【請求項15】
ドライパウダー吸入器によって患者の肺系統に作用剤を搬送するためのキャリア粒子を含有し、
前記キャリア粒子が、約1000μmを超える平均篩径を有する、
ドライパウダー吸入器用の製剤。
【請求項16】
前記キャリア粒子に付着した作用剤粒子をさらに含有する、請求項15に記載の製剤。
【請求項17】
前記キャリア粒子が約5000μmを超える平均篩径を有する、請求項15に記載の製剤。
【請求項18】
前記キャリア粒子が生物分解性材料を含有する、請求項15に記載の製剤。
【請求項19】
前記キャリア粒子が非生物分解性材料を含有する、請求項15に記載の製剤。
【請求項20】
前記キャリア粒子が、ポリスチレン、PTFE、シリコーンガラス、シリカゲル、及びシリカガラスの1種を含有する、請求項19に記載の製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−529746(P2011−529746A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521330(P2011−521330)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/052277
【国際公開番号】WO2010/014827
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(508266650)
【Fターム(参考)】