説明

ドライビングシミュレータ

【課題】普通車の講習も中大型車の講習も受講者に操作上の違和感を与えることなく行うことができるドライビングシミュレータを提供する。
【解決手段】ドライビングシミュレータに備えられるステアリングユニット2を、姿勢調整機構7を介して機台6に取り付ける。姿勢調整機構7は、その可動部22が、人力により駆動できるように構成されており、可動部22を駆動することによって、ステアリングホイール13の高さ位置及び傾斜角度を、中大型車対応又は普通車対応の高さ位置及び傾斜角度に変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の運転訓練や交通安全教育のために用いられるドライビングシミュレータに係り、特に、シミュレーションの内容に合わせてステアリングユニットの姿勢を変更する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の運転訓練や交通安全教育を受ける者(以下、本明細書では、これらの者を総称して、「受講者」という。)が座る運転席と、運転席の前方に実際の自動車を模擬して配置された各種の運転操作機器(ステアリングユニット、ペダル及びシフトレバー装置等)と、運転席の前方に配置され、運転操作機器の操作状況に応じて変化する道路走行映像及び所要の音響データを表示する表示装置とを備えたドライビングシミュレータが知られている(例えば、特許文献1参照。)。運転席及び運転操作機器には、ドライビングシミュレータの操作感を実車に近いものにするため、実車相当品が用いられる。従って、ステアリングユニットには、受講者の体格に合わせてステアリングホイールの高さ位置を微調整するチルト機構が備えられている場合が多い。
【0003】
また、この種のドライビングシミュレータとしては、ステアリングホイールに操作反力を付与すると共に、手が離されたときに回転操作されたステアリングホイールを自動的にセンター位置に復帰させる機能を有するステアリングユニットを備えたものも知られている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2には、これらの各機能を発揮するための構成として、ボールネジが一体に形成されたステアリングシャフトと、ボールネジ部分を囲むと共にステアリングシャフトを支持するシャーシと、シャーシ内にボールネジ部分を中間に位置してこれと平行に配置される2本の案内棒と、各案内棒の各々にそれぞれの端部が対向するように設けられる2個ずつの圧縮バネと、ボールネジナット部に固着されると共に、対向する圧縮バネの端部間に位置する移動板と、ステアリングシャフトに歯車を介して連結される回転式オイルダンパと、ステアリングシャフトの端部に直接取り付けられた角度検出センサとからなるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−237032号公報
【特許文献2】特開平8−262970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ドライビングシミュレータには、その汎用性を高めるため、普通車の講習を受ける者にも、中大型車の講習を受ける者にも対応できることが求められる。特に、道路交通法で定める停止処分者講習に利用されるドライビングシミュレータについては、平成14年の法改正により、中大型車の講習を行う際、表示装置に中大型車の運転席にて知覚される道路走行映像及び音響を表示することが義務付けられている。
【0006】
しかしながら、普通車と中大型車とでは、単に運転席にて知覚される道路走行映像及び音響が異なるだけでなく、運転席に対するステアリングホイールの取付姿勢(運転席が取り付けられる床面からのステアリングホイールの高さ、及び床面に対するステアリングホイールの傾斜角)が異なるので、表示装置に表示される道路走行映像及び音響と運転席に対するステアリングホイールの取付姿勢とをマッチさせないと、ドライビングシミュレータの操作感を実車に近いものとすることができない。
【0007】
従来のドライビングシミュレータは、通常、普通車を模擬した構成となっており、しかも上述したように、受講者の体格に合わせてステアリングホイールの高さ位置を微調整するだけのチルト機構しか備えられていないので、これを用いて中大型車の講習を行おうとすると、運転席に対するステアリングホイールの取付姿勢が実車とマッチせず、受講者に操作上の違和感を与えることになる。
【0008】
また、引用文献2に開示されているように、従来のドライビングシミュレータは、ステアリングホイールに操作反力及びセンター復帰力を付与する機構が、主にボールネジ及びこれに螺合されるボールネジナット部と、ボールネジナット部に固着された移動板と、各端部が移動板に弾接された圧縮バネとからなり、移動板の表裏に弾接された各圧縮バネの弾性がバランスする点にステアリングホイールを復帰させる構成であるので、各圧縮バネの弾性が経時的に変化したとき、ステアリングホイールのセンター位置にずれが生じ、受講者に操作上の違和感を与えるという問題もある。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、普通車の講習も中大型車の講習も受講者に操作上の違和感を与えることなく行うことができるドライビングシミュレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するため、運転席と、運転席の前方に配置されたステアリングユニット、ペダル及びシフトレバーを含む運転操作機器と、運転席の前方に配置され、運転操作機器の操作状況に応じて変化する道路走行映像及び所要の音響を表示する表示装置とを備えたドライビングシミュレータにおいて、前記ステアリングユニットは、ステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトを回転可能に保持するステアリング保持部と、前記ステアリングシャフトの上端部に固着されたステアリングホイールと、前記ステアリングシャフトの下端側に備えられ、前記ステアリングシャフトを介して前記ステアリングホイールに操作反力とセンター復帰力とを付与する力覚付与部とからなり、機台に固定される固定部と、前記ステアリング保持部に連結され、前記固定部に案内されて移動する可動部と、前記可動部を駆動する駆動部とからなる姿勢調整機構を介して前記機台に取り付けられ、前記駆動部により前記可動部を駆動することで、前記運転席に対する前記ステアリングホイールの姿勢を、普通車対応の姿勢又は中大型車対応の姿勢のいずれかに変更するという構成にした。
【0011】
かかる構成によると、姿勢調整機構の駆動部を駆動することにより、運転席に対するステアリングホイールの姿勢を普通車対応の姿勢又は中大型車対応の姿勢のいずれにも変更できるので、普通車の講習を行う際には運転席に対するステアリングホイールの姿勢を普通車対応の姿勢とし、中大型車の講習を行う際には運転席に対するステアリングホイールの姿勢を中大型車対応の姿勢とすることにより、ステアリングホイールの姿勢が実車と一致しないことによる受講者の違和感を解消することができる。
【0012】
また本発明は、前記課題を解決するため、前記可動部は、前記固定部に開設された案内溝内に、前記可動部に取り付けられた軸体を挿入することにより所定の経路に沿って移動できるようになっており、前記案内溝は、前記運転席に対する前記ステアリングホイールの高さ位置を調整するための直線部分と、前記運転席に対する前記ステアリングホイールの傾斜角度を調整するための曲線部分とを有するという構成にした。
【0013】
中大型車の運転席に対するステアリングホイールの高さ位置は、普通車の運転席に対するステアリングホイールの高さ位置よりも若干低く、しかも中大型車の運転席に対するステアリングホイールの傾斜角度は、普通車の運転席に対するステアリングホイールの傾斜角度よりも著しく水平に近い角度になっている。従って、機台に対するステアリングシャフトの取付角度を変更するだけでは、運転席に対するステアリングホイールの姿勢を、普通車対応又は中大型車対応とすることができない。そこで、姿勢調整機構の固定部に開設された案内溝を、運転席に対するステアリングホイールの高さ位置を調整するための直線部分と、運転席に対するステアリングホイールの傾斜角度を調整するための曲線部分とを有する構成とし、姿勢調整機構の可動部に取り付けられた軸体をこの案内溝内に挿入する構成にすると、運転席に対するステアリングホイールの高さ位置と、運転席に対するステアリングホイールの傾斜角度とをそれぞれ別個に調整できるので、運転席に対するステアリングホイールの姿勢を、正しく普通車対応の姿勢又は中大型車対応の姿勢とすることができる。
【0014】
また本発明は、前記課題を解決するため、前記駆動部は、人力によって回転駆動される回転体と、当該回転体に一端が固定され、他端が前記可動部とピン結合された回転レバーとからなるという構成にした。
【0015】
このように、姿勢調整機構の駆動部に人力によって回転駆動される回転体を備えると、モータ等の電動機器を備える場合に比べて、ドライビングシミュレータの構成を簡略化でき、その低コスト化を図ることができる。
【0016】
また本発明は、前記課題を解決するため、前記力覚付与部は、前記ステアリングシャフトの回転に連動して回転する回転体と、当該回転体に回転自在に取り付けられたローラフォロアと、当該ローラフォロアにより駆動される移動体と、当該移動体を前記ローラフォロアに弾接する圧縮ばねとを含んで構成されており、前記移動体の前記ローラフォロアが当接される面の中央には、前記ステアリングホイールのセンター位置を規制するための窪みを形成するという構成にした。
【0017】
かかる構成によると、ステアリングシャフトの回転に連動して回転体が回転し、回転体に回転自在に取り付けられたローラフォロアにより、移動体が圧縮ばねの弾性力に抗して押圧されるので、ステアリングホイールの回転操作に所要の操作反力を付与することができ、ステアリングホイールの操作感を実車と同等のものとすることができる。また、ステアリングホイールから手を放したときには、圧縮ばねの弾性力によって移動体及びローラフォロアを介して回転体が自動的にセンター位置まで戻されるので、これについても、実車と同等の操作感を得ることができる。さらに、移動体のローラフォロアが当接される面の中央にステアリングホイールのセンター位置を規制するための窪みを形成すると、仮に圧縮ばねの弾性が経時的に変化しても、ローラフォロアが窪み内に入り込むことにより、回転体が強制的にセンター位置まで戻されるので、ステアリングホイールにセンターずれが発生せず、ステアリングホイールのセンターずれによる操作上の違和感を防止することができる。
【0018】
また本発明は、前記課題を解決するため、前記回転体と前記力覚付与部の固定部分とに、前記ステアリングホイールが所定の回転角度だけ回転したときに衝合して、それ以上の前記ステアリングホイールの回転を規制する回転規制部材を備えるという構成にした。
【0019】
実車におけるステアリングホイールの可動範囲は有限であり、センター位置から右方向及び左方向にそれぞれ約1.5回転の範囲内で回転できるようになっている。ドライビングシミュレータにおいては、実際に走行しないので、安全上の問題からステアリングホイールの可動範囲を制限する必要はないが、回転規制部材を備えてステアリングホイールの可動範囲を制限すると、実車と同等の操作が得られるので、ドライビングシミュレータの操作感をより実車に近づけることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のドライビングシミュレータは、姿勢調整機構を介してステアリングユニットを機台に取り付け、姿勢調整機構を駆動することによって運転席に対するステアリングホイールの姿勢を普通車対応の姿勢又は中大型車対応の姿勢のいずれかに変更するので、普通車の講習を行う際には運転席に対するステアリングホイールの姿勢を普通車対応の姿勢とし、中大型車の講習を行う際には運転席に対するステアリングホイールの姿勢を中大型車対応の姿勢とすることにより、ステアリングホイールの姿勢が実車と一致しないことによる受講者のステアリングホイール操作上の違和感を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態に係るドライビングシミュレータの全体構成図である。
【図2】実施形態に係るステアリングユニット及び姿勢調整機構の普通車対応時の状態を示す構成図である。
【図3】実施形態に係るステアリングユニット及び姿勢調整機構の中大型車対応時の状態を示す構成図である。
【図4】実施形態に係る姿勢調整機構を構成する固定部と可動部と駆動部の連結状態を示す構成図である。
【図5】実施形態に係る姿勢調整機構を構成する固定板の正面図である。
【図6】実施形態に係るステアリングユニットの要部平面図である。
【図7】実施形態に係る力覚付与部の動作説明図である。
【図8】実施形態に係る力覚付与部の動作説明図である。
【図9】実施形態に係るシフトレバー装置の正面方向から見た構成図である。
【図10】実施形態に係るシフトレバー装置の背面方向から見た構成図である。
【図11】実施形態に係るシフトレバー装置の側面方向から見た構成図である。
【図12】実施形態に係る第1及び第2の位置規制板の構成図である。
【図13】オートマチック車に対応する際の第1及び第2の位置規制板の組み合わせ状態を示す図である。
【図14】マニュアル車に対応する際の第1及び第2の位置規制板の組み合わせ状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態に係るドライビングシミュレータについて、図を用いて説明する。本例のドライビングシミュレータは、図1に示すように、受講者が座る運転席1と、運転席1の前方に実際の自動車を模擬して配置されたステアリングユニット2、ペダル3及びシフトレバー装置4と、運転席1の前方に配置され、ステアリングユニット2、ペダル3及びシフトレバー装置4の操作状況に応じて変化する道路走行映像及び所要の音響データを表示する表示装置5と、これらの機器を搭載する機台6とから主に構成されている。
【0023】
運転席1及びペダル3は、ドライビングシミュレータの操作感を実車に近いものにするため、実車相当品が用いられる。従って、運転席1には、ステアリングユニット2との間隔を調整するためのスライド機構や、背もたれ1aの傾斜角度を調整するための座席チルト機構が備えられており、受講者は実車と同等の感覚で座席に座ることができる。
【0024】
表示装置5としては、CRT、液晶ディスプレイ及びプラズマディスプレイなど、所要の道路走行映像及び音響データを表示可能な任意の表示装置を備えることができる。
【0025】
ステアリングユニット2は、図2、図3及び図6に示すように、ステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11を回転可能に保持するステアリング保持部12と、ステアリングシャフト11の上端部に固着されたステアリングホイール13(図1参照)と、ステアリングシャフト11の下端側に備えられ、ステアリングシャフト11を介してステアリングホイール13に操作反力とセンター復帰力とを付与する力覚付与部14とからなり、姿勢調整機構7を介して機台6に取り付けられる。
【0026】
ステアリング保持部12は、円筒形に形成されており、その内部に貫通されたステアリングシャフト11を、軸受15を介して回転可能に保持している。ステアリングシャフト11の全長は、ステアリング保持部12の全長よりも長く形成されており、ステアリングシャフト11の上下端部は、ステアリング保持部12の上下端部からそれぞれ上向き及び下向きに突出している。ステアリング保持部12の下端側には、図2、図3及び図6に示すように、下向きコの字形のブラケット16が設けられており、ブラケット16の先端部は、断面コの字形の補強体16aにて連結されている。ステアリングユニット2は、このブラケット16を介して姿勢調整機構7に連結される。ステアリングユニット2と姿勢調整機構7との連結機構については、後に説明する。
【0027】
姿勢調整機構7は、図2〜図5に示すように、機台に固定される固定部21と、前記ブラケット16を介してステアリング保持部12に連結される可動部22と、可動部22を固定部21に沿って駆動する駆動部23とからなる。
【0028】
固定部21は、所定の間隔を隔てて機台6から吊り下げられた2枚のL字形の固定板24をもって構成されており、各固定板24には、可動部22を案内するための2条の案内溝25a,25bと、可動部22を固定するための固定ネジ26が螺合される上部ねじ孔27及び下部ねじ孔28がが開設されている。案内溝25a,25bは、運転席1に対するステアリングホイール13の高さ位置を調整するためのものであり、図5に示すように、案内溝25aは案内溝25bよりも長く、その下端部は案内溝25bの下端部を中心とする円弧状に形成されている。
【0029】
可動部22は、固定部21を構成する2枚の固定板24の内面に沿って摺動する幅広の第1連結部22aと、ステアリング保持部12に設けられたブラケット16に連結される幅狭の第2連結部22bとから構成されており、各固定板24の間に摺動自在に内挿されている。第1連結部22aの左右両側面には、案内溝25の溝幅とほぼ等しい直径を有する通しボルト貫通孔29が開設されており、この通しボルト貫通孔29には、案内溝25を貫通し、一方の固定板24の外面から他方の固定板24の外面まで達する通しボルト30が貫通される。これにより、可動部22は、固定部21の内面に沿って上下方向に移動することができる。なお、案内溝25内に挿入される軸体として通しボルト30を用いる構成に代えて、可動部22に取り付けられた案内ピンを案内溝25に挿入する構成とすることもできる。第1連結部22aの上面には、リブ31が設けられており、このリブ31には、駆動部23を連結するための連結ピン32が設けられる。
【0030】
可動部22とステアリング保持部12は、回転中心軸80を介して回転可能に連結されている。また、可動部22の第2連結部22bには、四角形の長孔33aが開設されると共に、ステアリング保持部12に設けられたブラケット16には、長孔33aの幅と同一直径の連結軸貫通孔33bが開設されており、これらの長孔33aと連結軸貫通孔33bに挿入された締結ボルト34を締結することにより、ステアリング保持部12は、可動部22に対して固定される。可動部22に対するステアリング保持部12の可動回転角度は、長孔33aの長さや形状により、5°〜7°程度に規制されている。従って、締結ボルト34を緩めた状態で、回転中心軸80を中心としてステアリング保持部12を回転することにより、受講者の体格に合わせたステアリングユニット2のチルト操作を行うことができる。
【0031】
駆動部23は、人力にて回転駆動されるウォーム歯車41と、このウォーム歯車41に噛み合わされた従動歯車42と、この従動歯車42に一端が固定され、先端部が可動部22に設けられた連結ピン32に連結される回転レバー43とからなる。ウォーム歯車41には、図示しない手回しクランクの先端部を挿入するための手回しクランク挿入孔41aが開設されており、人力にてウォーム歯車41を回転駆動できるようになっている。また、回転レバー43の先端部には、連結ピン31を摺動自在に挿入するための長孔43aが開設されており、当該長孔43a内に連結ピン32を挿入することにより、可動部22と干渉することなく、可動部22を駆動できるようになっている。
【0032】
即ち、ステアリングユニット2及び姿勢調整機構7が、図2に示す普通車対応の状態にあるときにおいて、ウォーム歯車41を右回転すると、従動歯車42が紙面上で右回転し、回転レバー43の先端部が下降する。これにより、可動部22に下向きの駆動力が加えられ、可動部22はまず案内溝25の直線部分25aに沿って下降する。通しボルト30が案内溝25の曲線部分25bに達した後は、回転レバー43から加えられる駆動力により、可動部22が案内溝25の曲線部分25bに沿って傾斜角度を変え、図3に示す中大型車対応の状態になる。図2と図3との比較から判るように、中大型車対応時の運転席1に対するステアリングホイール13の高さ位置(ステアリングシャフト11の先端部の高さ位置)は、普通車対応時の運転席1に対するステアリングホイールの高さ位置よりも若干低くなる。また、普通車対応時の水平面に対するステアリングホイール13の傾斜角度は、実車と同等の約60°であるのに対して、中大型車対応時の水平面に対するステアリングホイール13の傾斜角度は、実車と同等の約30°になる。ステアリングユニット2及び姿勢調整機構7の姿勢が、中大型車対応の姿勢になった後は、固定板24に開設された下部ねじ孔28に固定ネジ26を螺合し、固定部21に可動部22を固定する。これにより、可動部22の同様が防止され、以後のステアリングホイール13の操作を安定して行うことができる。
【0033】
反対に、図3に示す中大型車対応の状態にあるステアリングユニット2及び姿勢調整機構7を、図2に示す普通車対応の状態にする場合には、下部ねじ孔28から固定ネジ26を取り外し、ウォーム歯車41を左回転する。ウォーム歯車41を左回転すると、従動歯車42が紙面上で左回転し、回転レバー43の先端部が上昇する。これにより、可動部22に上向きの駆動力が加えられ、可動部22はまず案内溝25の曲線部分25bに沿って上昇し、ステアリングユニット2の傾斜角度を普通車対応の傾斜角度とする。通しボルト30が案内溝25の直線部分25aに達した後は、回転レバー43から加えられる駆動力により、可動部22が案内溝25の直線部分25aに沿って上昇し、図2に示す普通車対応の状態になる。ステアリングユニット2及び姿勢調整機構7の姿勢が、普通車対応の姿勢になった後は、固定板24に開設された上部ねじ孔27に固定ネジ26を螺合し、固定部21に可動部22を固定する。これにより、可動部22の同様が防止され、以後のステアリングホイール13の操作を安定して行うことができる。
【0034】
次に、力覚付与部14の構成について説明する。力覚付与部14は、図2、図3及び図6〜図8に示すように、ステアリング保持部12の下端部に設けられ、ステアリングシャフト11の貫通孔が開設された固定部51と、ステアリングシャフト11の下端部に取り付けられた小歯車52と、固定部51に回転可能に保持され、小歯車52と噛み合わされる大歯車(回転体)53と、大歯車53に回転自在に取り付けられたローラフォロア54及びストップローラ55と、ローラフォロア54により駆動される移動体56と、移動体56と一体に形成され、固定部51に取り付けられたブッシュ57によって摺動自在に保持された2本の案内バー58と、移動体56と一体に形成された2本のバネ保持バー59と、バネ保持バー59に装着され、固定部51と移動体56との間に張設されて、移動体56をローラフォロア54に弾接する圧縮ばね60と、固定部51に取り付けられ、大歯車53が所定角度回転されたときにストップローラ55が当接されるストップピン61と、ステアリングシャフト11の回転角度を検出するエンコーダ62を含んで構成される。ストップローラ55とストップピン61は、ステアリングホイール13の可動範囲を有限の範囲に規制する回転規制部材として機能する。
【0035】
小歯車52と大歯車53のギア比(減速比)は、ステアリングホイール13をその可動範囲の最大限(±1.5回転)まで回転したときに、大歯車53の回転角度が150°程度になるように設定される。これにより、図8に示すように、ストップローラ55が当接されるストップピン61の取付スペースを確保することができるので、ドライビングシミュレータのステアリングホイール13の可動範囲を、実車と同等の有限にすることができる。
【0036】
移動体56のローラフォロア54が当接される面の中央には、ローラフォロア54を落とし込むための窪み63が形成され、窪み63の曲率は、ローラフォロア54の曲率よりも大きく形成される。このようにすると、仮に圧縮ばね60の弾性が経時的にある程度変化した場合にも、回転操作された大歯車53がセンター方向に復帰する過程で窪み63内にローラフォロア54が落ち込むので、大歯車53ひいてはステアリングホイール13のセンター復帰を確実にすることができる。
【0037】
ステアリングホイール13をセンター位置から左方向に回転操作すると、図7及び図8に示すように、大歯車53とローラフォロア54とストップローラ55とが一体となって左方向に回転する。ローラフォロア54は、移動体56に当接されているので、ローラフォロア54が左方向に回転すると、それに伴って、移動体56が圧縮ばね60の弾性力に抗して、下向きに移動する。これによって、ステアリングホイール13には、その回転量に応じた操作反力が伝達されるので、受講者は、実車とほぼ同等の操作感を得ることができる。この状態で、ステアリングホイール13から手を離すと、圧縮ばね60の弾性力によって移動体が上向きに移動され、それに伴って、大歯車53とローラフォロア54とストップローラ55とが一体となって右方向に回転するので、ステアリングホイール13はセンター方向に戻される。そして、ローラフォロア54が移動体56の中央部に形成された窪み63内に入ると、窪み63の斜面によってローラフォロア54が移動体56の中央部に引き込まれるので、ステアリングホイール13のセンター復帰を自動的に、かつ高精度に行うことができる。また、ステアリングホイール13を一方向に回転してゆくと、ストップローラ55がストップピン61に当接され、それ以上のステアリングホイール13の回転操作が不可能になる。その角度は、実車と同様に±1.5回転に設定されているので、受講者は実車と同等の操作感を得ることができる。なお、エンコーダ62の出力は、表示装置5に表示される道路走行映像及び音響データの制御に利用される。
【0038】
次に、実施形態に係るドライビングシミュレータに備えられるシフトレバー装置4の構成につき、図9〜図14を用いて説明する。これらの図に示すように、本例のシフトレバー装置4は、箱状のトランスミッションカバー71と、トランスミッションカバー71内に設定されたシフトレバー保持体72と、シフトレバー保持体72に揺動可能に取り付けられたシフトレバー73と、シフトレバー73の可動範囲をマニュアル車に対応する範囲又はオートマチック車に対応する範囲に切り換える第1及び第2の操作位置規制板74,75とから主に構成されている。なお、トランスミッションカバー71の上部には、シフトレバー73の操作を阻害せず、かつトランスミッションカバー71の内部を目視されないようにするためのカバー部材71aが備えられる。このようにすることにより、受講生がトランスミッションカバーの内部を目視できないようにすることができるので、ドライビングシミュレータの美観を良好なものにすることができる。
【0039】
シフトレバー73は、シフトレバー保持体72の長さ方向(図11参照)、及びこれと直交するシフトレバー保持体72の幅方向(図9及び図10参照)に揺動できるように、ユニバーサルジョイント72aを介してシフトレバー保持体72に取り付けられる。このシフトレバー73の下端部は、第1の操作位置規制板74に開設された第1の操作位置規制窓76及び第2の操作位置規制板75に開設された第2の操作位置規制窓77を貫通しており、これら第1及び第2の操作位置規制窓76,77の組合せによって決定されるマニュアル車に対応する可動範囲又はオートマチック車に対応する可動範囲に、動作が規制される。
【0040】
即ち、第1の操作位置規制板74に開設される第1の操作位置規制窓76は、図12(a)に示すように、略正方形の透孔76aと、その一側辺の中央部より垂直に延びる長孔76bとから構成される。これに対して、第2の操作位置規制板75に開設される第2の操作位置規制窓77は、図12(b)に示すように、中央部の長い長孔77aと、その両側の一端寄りに配置された2本の短い長孔77b,77cとからなる。これら第1及び第2の操作位置規制板74,75は、上下に重ね合わせて配置され、第2の操作位置規制板75は、トランスミッションカバー1に固定されているのに対して、第1の操作位置規制板74は、長孔77a,77b,77cの開設方向に移動できるように構成されている。
【0041】
したがって、第1の操作位置規制板74に開設された長孔76bが、第2の操作位置規制板75に開設された中央部の長孔77aと重なり合うように第1の操作位置規制板74を移動すると、図13に示すように、第1の操作位置規制板74に開設された長孔76bと、第2の操作位置規制板75に開設された中央部の長孔77aの組合せからなる、オートマチック車対応のシフトレバー規制溝が形成される。このシフトレバー規制溝の長さ方向には、一端側から、パーキングP、リバースR、ニュートラルN、ドライブD、2nd、1stレンジが一定間隔で割り振られる。各レンジの切り換え時には、シフトレバー73に取り付けられたプランジャ81の可動部がこれと対向に配置された力覚付与板82に開口された窪み82aを乗り越えるときに発生するクリック感触が付与される。
【0042】
これに対して、第1の操作位置規制板74に開設された略正方形の透孔76aが、第2の操作位置規制板75に開設された左右両側の長孔77b,77cと重なり合うように第1の操作位置規制板74を移動すると、図14に示すように、第2の操作位置規制板75に開設された長い長孔77aの一部とその両側に開設された短い長孔77b,77cとの組合せからなる、マニュアル車対応のシフトレバー規制溝が形成される。このシフトレバー規制溝には、その中央部にニュートラルNが割り振られ、各端部にローL、セカンドS、トップT、リバースRがそれぞれ割り振られる。レンジ切り換え時のクリック感触は、前記と同様に、シフトレバー73に取り付けられたプランジャ81と力覚付与板82とによって付与される。
【0043】
第1の操作位置規制板74は、インデックスプランジャ83によって第2の操作位置規制板75と連結されている。従って、インデックスプランジャ83を引けば、第1の操作位置規制板74と第2の操作位置規制板75との連結を解除することができ、各操作位置規制板74,75の連結を解除した後に、第1の操作位置規制板74を手動で移動することにより、オートマチック車対応のシフトレバー規制溝及びマニュアル車対応のシフトレバー規制溝を適宜形成することができる。この第1の操作位置規制板74の設定位置は、マイクロスイッチ84によって検出されており、マイクロスイッチ84の出力は、表示装置5に表示される道路走行映像及び音響データの制御に利用される。
【0044】
また、長孔に沿う方向のシフトレバー73の操作位置は、ポテンショメータ85(図9参照)によって検出され、それと直交する方向のシフトレバー73の操作位置は、マイクロスイッチ86,87(図10参照)によって検出される。ポテンショメータ85の出力、及びマイクロスイッチ86,87の出力は、表示装置5に表示される道路走行映像及び音響データの制御に利用される。なお、図10の符号88は、シフトレバー73を左右方向の中心位置に戻すための圧縮ばねを示している。
【0045】
本例のシフトレバー装置4は、トランスミッションカバー71に固定された第2の操作位置規制板75及びこれに重ね合わされた第1の操作位置規制板74によって、シフトレバー73のシフト切替位置を規制するようにしたので、シフトレバー73を乱暴に取り扱った場合にも、各操作位置規制板74,75に変形やがたつきを生じにくく、耐久性に優れると共に、シフトレバー73の操作感触を良好なものにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、自動車の運転訓練や交通安全教育のために用いられるドライビングシミュレータに利用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 運転席
2 ステアリングユニット
3 ペダル
4 シフトレバー装置
5 表示装置
6 機台
7 姿勢調整機構
11 ステアリングシャフト
12 ステアリング保持部
13 ステアリングホイール
14 力覚付与部
21 固定部
22 可動部
23 駆動部
24 固定板
25a,25b 案内溝
41 ウォーム歯車
42 従動歯車
43 回転レバー
53 大歯車(回転体)
54 ローラフォロア
55 ストップローラ
56 移動体
58 案内バー
59 バネ保持バー
60 圧縮ばね
61 ストップピン
62 エンコーダ
63 窪み


【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席と、運転席の前方に配置されたステアリングユニット、ペダル及びシフトレバーを含む運転操作機器と、運転席の前方に配置され、運転操作機器の操作状況に応じて変化する道路走行映像及び所要の音響を表示する表示装置とを備えたドライビングシミュレータにおいて、
前記ステアリングユニットは、ステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトを回転可能に保持するステアリング保持部と、前記ステアリングシャフトの上端部に固着されたステアリングホイールと、前記ステアリングシャフトの下端側に備えられ、前記ステアリングシャフトを介して前記ステアリングホイールに操作反力とセンター復帰力とを付与する力覚付与部とからなり、
機台に固定される固定部と、前記ステアリング保持部に連結され、前記固定部に案内されて移動する可動部と、前記可動部を駆動する駆動部とからなる姿勢調整機構を介して前記機台に取り付けられ、前記駆動部により前記可動部を駆動することで、前記運転席に対する前記ステアリングホイールの姿勢を、普通車対応の姿勢又は中大型車対応の姿勢のいずれかに変更することを特徴とするドライビングシミュレータ。
【請求項2】
前記可動部は、前記固定部に開設された案内溝内に、前記可動部に取り付けられた軸体を挿入することにより所定の経路に沿って移動できるようになっており、前記案内溝は、前記運転席に対する前記ステアリングホイールの高さ位置を調整するための直線部分と、前記運転席に対する前記ステアリングホイールの傾斜角度を調整するための曲線部分とを有することを特徴とする請求項1に記載のドライビングシミュレータ。
【請求項3】
前記駆動部は、人力によって回転駆動される回転体と、当該回転体に一端が固定され、他端が前記可動部とピン結合された回転レバーとからなることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のドライビングシミュレータ。
【請求項4】
前記力覚付与部は、前記ステアリングシャフトの回転に連動して回転する回転体と、当該回転体に回転自在に取り付けられたローラフォロアと、当該ローラフォロアにより駆動される移動体と、当該移動体を前記ローラフォロアに弾接する圧縮ばねとを含んで構成されており、前記移動体の前記ローラフォロアが当接される面の中央には、前記ステアリングホイールのセンター位置を規制するための窪みを形成することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のドライビングシミュレータ。
【請求項5】
前記回転体と前記力覚付与部の固定部分とに、前記ステアリングホイールが所定の回転角度だけ回転したときに衝合して、それ以上の前記ステアリングホイールの回転を規制する回転規制部材を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のドライビングシミュレータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2011−64900(P2011−64900A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214742(P2009−214742)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000233217)株式会社日立ケーイーシステムズ (25)